数学的思考力ゲーム制作を通した低学年生の開発力向上の事例
Creating Opportunities for Inexperienced Students to Improve Their Game Development Skills Through
“Mathematical Thinking” Game Production
予稿集 p106 ~ 109
岸本 好弘 三上 浩司東京工科大学メディア学部
© Yoshihiro KISHIMOTO 2015 年 3 月 8 日 ( 日 ) 14:40 ~ 15:00 ( 1 番目)
日本デジタルゲーム学会 2014 年度年次大会
お尋ね
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皆さんが教えられている大学 1 年生を、学外のプロジェクトに参加させることは、教育的効果があると思いますか?
お尋ね
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皆さんが教えられている大学 1 年生を、学外のプロジェクトに参加させることは、教育的効果があると思いますか?
その結果、 1 年生はうまくやりとげられると思いますか?
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本研究のタイトル
数学的思考力ゲーム制作を通した低学年生の開発力向上の事例
1.1 背景
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・ゲーム制作教育 専門技術の習得とチーム制作経験の両方が必要
・東京工科大学のカリキュラム 従来は 3 年生夏の「東京ゲームショウ」出展が 最初の学外発表の場
・ゲーム制作環境の進む整備 より早い時期に専門家やプレイヤーの評価に接 する機会を与えることが可能になった
1.2 問題と提案
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・ゲーム制作での 1 年生の役割 スキルや経験が不足しているため、 学外発表を行うゲーム制作では上級生の補佐的役割
・ 1 年生が主体的に対外発表をする場の場供 適切な範囲のテーマと十分なサポート ⇒ 「 Global Math コンテスト」参加 2014 年 1 ~ 3 月に作業 誰もが経験した「学習」がテーマで、目的が明確 プログラムやグラフィックの難易度が高くない
1.3 研究内容
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・数学的思考力をテーマとした「学習シリアスゲー ム」制作 2014 年 1 ~ 3 月「 Global Math コンテスト」 教育専門家およびプロのゲーム開発者の審査 1 ~ 4 年生までの希望者が参加・評価 1 年生群と上級生 (2 年生以上)群の 2 群に分け 比較 コンテストという成果物の外部評価 事後の質問紙調査
2.先行研究や関連事例
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2.1 東京工科大学メディア学部のゲーム教育
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・東京工科大学メディア学部 2004 年度より本格的なゲーム教育に開始 1 年生は基礎技術の習得 2 ~ 3 年生は実践的なゲーム制作、学外発表を目標 4 年生はゲームに関連するテーマの卒業研究
・学外発表の場 東京ゲームショウには 2007 年より出展 2 年生以上
・ 1 年生にも新たな発表の場 初年度の学習成果を試す 挑戦しやすい難易度のチーム制作の機会 1 年生が主体的にチーム制作に取り組める場 ⇒従来よりも早期の学外発表が学生に与える効果を確認する
2.2 Global Math プロジェクト 2012,2013
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「 Global Math 」 ・株式会社ベネッセホールディングスがインターネッ ト上に提供している数学ゲーム専用プラットフォーム ・単純計算や方程式の暗記などではなく「きまりを見 つける」「解く順番を考える」といった数学的思考 を促すゲームを扱う ・本学は 2012 年度のプロトタイプ用サンプルゲーム 制作プロジェクトに唯一の大学として参加 ・昨年度は広く新作ゲームを募集するコンテストへの 応募という形での参加
3.ゲーム制作プロジェクトの過程
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3.ゲーム制作プロジェクトの過程
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3.1 プロジェクト制作の過程
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・ 1 ~ 4 年生まで学生 25人が参加希望
・ 2014 年 1 月中旬「ペラ企画コンテスト」 全員参加、 20 の企画案から 5 作品に絞る 1 月下旬 チーム編成 再度プレゼンテーション,参加者の希望をもとに 5 チームを 編成 2 月上旬 企画発表会 2 月中旬 α版発表会 2 月下旬 β版発表会 マイルストーンを設定して進捗管理 チーム相互の意見交換 教員らからの助言 3 月上旬 コンテストへの応募 ⇒ 5 チーム全てがゲームを完成させ応募した
3.2 ゲームタイトルと制作メンバー
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・5チームの学年別の人数
チーム1と2は実質1年生のみのチーム チーム3は混合チーム チーム4と5は上級生のチーム
専門職種のスキル、チーム制作の経験も豊富な上級生チームの方が ゲーム開発能力は高い. ⇒そうしたゲーム開発能力レベルの高さと,プロジェクトへの取り組 み意欲やコンテストの結果は相関するのかどうかを検証する.
1 年生 2 年 3 年 4 年 制作タイトル
チーム 1 4 0 0 (1) BLOCK ARTTIST
チーム 2 2 0 0 (1) コロピタ
チーム 3 3 1 3 1 レーストラック
チーム 4 0 1 2 1 Think The Route
チーム 5 0 1 5 (1) Paint Paint
4.評価
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4.1 成果物の評価
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・コンテスト結果 参加 27校の中から チーム 1 の『 BLOCK ARTTIST』が「開発優秀 賞」(優勝) チーム 5 の『 Paint Paint』が「審査委員賞」 (準優 勝)・ Global Math公式サイトで公開 チーム 1 の『 BLOCK ARTTIST』と チーム 2 の『コロピタ』は, 追加で API 実装作業を行い, 2014 年 7 月に Global Math公式サイトで公開
4.1 成果物の評価
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チーム 1 の『 BLOCK ARTTIST』 チーム 2 の『コロピタ』
4.1 成果物の評価
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3つの群 1 年生中心のチーム 1 と 2 を A 群 混合チーム 3 を B 群 上級生のみのチーム 4 と 5 を C 群「受賞数」「サイトアップ数」の 2項目で評価⇒A 群の目標達成率が最も高いという結果となった.
・適切な目標設定とサポート・能動的に参加できる環境⇒1 年生でも,経験に勝る上級生と並び,または上回る成果を上げ得ることが確認された.
受賞数 数サイトアップ 目標達成率
A 群
1/2 2/2 3/4 (75%)
B 群
0/1 0/1 0/2 ( 0%)
C 群
1/2 0/2 1/4 (25%)
4.2 質問紙調査
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質問紙調査に回答した参加学生 22人 A 群( 1 年生 9名) B 群( 2 年生 2名, 3 年生 8名, 4 年生 3名) の 2 群に分け,結果集計
回答を「そう思う」 5点,「ややそう思う」 4点, 「どちらでもない」 3点,「あまりそう思わな い」 2点,「思わない」 1点と数値化
4.2 質問紙調査
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・ A 群の平均点が大きく上回った項目 32項目のうちA 群の平均点が B 群の平均点を大きく上回った項 目
●「積極的に制作に参加できた」 A 群 4.8,B 群 3.2,1.6 上回り ⇒上級生以上のやる気
●「参加する前よりゲーム制作スキルが高まった」 A 群 4.4,B 群 3.5,0.9 上回り ⇒初めてのチーム制作経験が自信
「事前にプロジェクトに期待したこと ゲーム制作の経験を積 める」「チームでの活動は活発だった」は 0.7,上回り 「ペラ企画について 他の参加者との意見交換は参考になった」「事 後 ゲームをもっと制作したくなった」は,0.6 上回り
4.2 質問紙調査
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質問紙調査結果の総括
●1 年生>上級生 「ゲーム制作の経験を積めること」を期待 「チームでの活動は活発」 「積極的に制作に参加」 「ペラ企画での他の参加者との意見交換は参考になった」 「ゲームをもっと制作したくなった」⇒モチベーションの 高まり●1 年生<上級生 「全く接点のなかった人との交流」 「役立つゲームを作れた」⇒実力がわかった
⇒ 1 年生が高い教育効果を得たことが確認
5.考察
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今回のプロジェクトが 1 年生に効果的な経験となった要因について考察する.
5.1. 時期,期間
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・ 1 年生の春休みは,基礎技術の習得が一段落し, 身についた技術力を試したい時期・他の授業に妨げられることなく集中して作業に臨 める期間・企画から応募まで 2ヶ月弱という短期間であった ことで,中だるみ無く作業を継続できた.・制作テーマが「 8つの数学的思考力の学習」に絞 られているため,企画難易度が低く,制作中のブ レが少なかった.・ 2D のブラウザゲームなので,求められる技術レベル も比較的低いものだった.・チームの構成も 2 ~ 8名と,まとまり易い人数だった.
5.2. 支援体制
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・ 2ヶ月弱の開発期間に, 2週間毎にマイルストーン を設定,進捗管理が初めての 1 年生には大きなガ イド・サポート役の経験ある先輩プログラマー
5.3. 考察
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プロジェクトを通して、 1 年生には、・ゲーム制作の全工程を経験・周りからの賞賛やフィードバック・現時点の自分のレベルを確認⇒1 年生の意欲の高まりにつながった
上級生には、・複数のチーム制作経験がすでにある・限定的なテーマや CG ・プログラムに高い技術 力が求められない⇒ 上級生には物足りないもの
6.まとめ
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本研究 学習シリアスゲームの制作を通して, 基礎技術の習得を終えたばかりの1年生にも 「チーム制作の経験」と「成果物に対する外部評価」を得る機 会を提供
質問紙調査の結果, 成功体験も戸惑いも含めた今回の経験が将来へ向けての意欲に 繋がったことが確認
スキル的には未熟な1年生 入学以来学んできた基礎技術に加え, ①適切な時期,②適切な難易度(テーマ,スキル,チーム管理),③適切な支 援(専門スキル,助言,進捗管理),④参加意識の高さという要因を満たせば, 学外プロジェクトへの挑戦を成功体験
今後もより広く学外に目を向け,新たなプロジェクトに学生らを挑戦
文 献
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・三上浩司,渡辺大地,中村陽介,近藤邦雄( 2013 )東京工科大 学におけるゲーム開発関連卒業研究 2012-ゲーム開発教育と開 発技術研究の両立を目指して-,特集記事,日本デジタルゲー ム学会論文誌, 7(1), 33-38・ Global Math http://www.globalmath.info/globalmath_pfweb/・岸本好弘,高橋遼,三上浩司,星千枝 (2014)世界中のプレイ ヤーに遊んでもらえる数学ゲーム「 Global Math 」プロジェクト への取り組み事例,日本デジタルゲーム学会 2014 年夏季研究大 会予稿集 (p)97-98
ご清聴ありがとうございました
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岸本 好弘 [email protected]
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