C.T.ホーングレンほか、渡邊俊輔監訳
『マネジメント・アカウンティング』 ~ Introduction to Management Accounting
明治大学経営学部 鈴木研一ゼミナール 担当 山口一郎
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目次
第 1 章 管理会計と企業組織 第 2 章 コストビヘイビアとCV関係の基礎 第 3 章 コストビヘイビアの測定 第 4 章 コスト管理システムとABC 第 5 章 関連情報と意思決定:販売の意思決定 第 6 章 関連情報と意思決定:生産の意思決定 第 7 章 総合予算 第 8 章 変動予算と差異分析 第 9 章 マネジメントコントロールシステムと責任会計 第 10 章 分権的組織のマネジメントコントロール 第 11 章 資本予算
第 8 章 変動予算と差異分析
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内容
予算差異分析 戦略計画を基にした初年度の定量的な活動計画である予算を、
実績(実際の結果)と比較し、その差異を分析すること 手順
予算と実績を比較する 差異額の算定 原因分析
責任分析 目的
業績の評価 組織で働く人々を動機付ける
改善策の検討 フィードバック
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はじめに
McDonald’s の例 300 億 を超える収益、㌦ 21,000 を超える店舗を擁する巨大
企業 1997 年だけで、全世界へ 2,400 を超える新規出店
どうやって、ハンバーガーの味を均一にしているのか?
どうやって、コストと品質を維持しているのか?
予算を編成し、実績と比較し、フィードバックを行う 予算差異分析を利用
1時間ごとの売上高予算 全世界共通のレシピ
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例示~ハンバーガーの材料費
ハンバーガーの材料費のコントロール ハンバーガー 1 個当り消費量
小型ロールパン 1 個 ハンバーガーパテ 1 個 ピクルススライス 1 切れ 乾燥玉ねぎ小さじ 1/8 マスタード小さじ 1/4 ケチャップ 1/2 オンス
ハンバーガーの販売量が判明すれば、実際の消費量を計算し、「消費されるべき量」と比較することによって、各材料費の差異を分析できる(→原因分析、責任分析へ)
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マネジメントプロセスと会計 (図表 1-2 )
計 画 計 画
実 行 実 行
評 価(フィードバック) 評 価(フィードバック)
計画と実行に対する訂正・修正
コントロール
予 算
業績報告書
活動の記録・測定・分類
※業績報告書は予算と比較される
<マネジメントプロセス> <会計システム>
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解説
マネジメントプロセス 計画とコントロールのサイクルにおける一連の活動のことで
あり、組織運営には欠かせないもの
予算 活動計画の定量的な表現であり、(必要があれば)計画
を調整し、経営計画を実行させるための主要な仕組み
業績報告書 実績と予算との比較を意味する包括的な用語
計画と結果を比較し、計画からの逸脱である差異を示すことによって、フィードバックを提供する
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差異の扱い(1)~例外管理
業績報告書は、例外事項(実際額が予算額と大きく異なる項目)の調査を促す
それによって、業務が計画通りに実行されるようになるか、または計画自体が修正される
これを例外管理という
例外管理においては、計画から逸脱した部分に注目し、滞りなく実行されていると思われる部分は無視する
そうすることによってマネージャーは、計画通りに進んでいる業務には、関わらなくて済むようになる
※第 1 章「マネジメントプロセス」より再掲
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差異の扱い(2)~十分な裁量と柔軟性
計画からの逸脱が、マネージャーの予期せぬ機会であった場合には、それを追求することができるように、計画は十分な裁量と柔軟性を備えていなければならない
事態が進展したため、予定外の行動をとる必要が生じた場合には、マネージャーは適切な行動をとれるようでなければならない
つまりコントロールは、自由を妨げるものであってはならない
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例示~予算差異分析
Dominion Company の例 製品Sを製造・販売するメーカー
全社単一部門 製造する製品はSのみで、販売価格は@ 31㌦ コストドライバーは生産・販売量のみ
予算操業度(予算販売量)は 9,000台 在庫、仕掛品は無視
すべての予算数値は、予算販売量に基づく
総合予算を編成し、実績に基づく差異分析を行う
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製造業における総合予算編成の流れ
売上高予算
製造高予算
直接労務費予算
直接材料費予算
製造間接費予算
売上原価予算
販売費予算 一般管理費予算
見積損益計算書
資本支出予算
資本支出予算現金予算現金予算見積
貸借対照表
見積貸借対照表
見積キャッシュフロー計算書
見積キャッシュフロー計算書
業務予算
財務予算
出所:鈴木研一先生( 2002 年) http://oh-o.meiji/ac.jp
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総合予算の編成
Dominon Company 総合予算 19x8 6年 月 (単位:㌦)
販売量 9,000
売上高 279,000変動費 変動製造原価 189,000 変動販売費 5,400 変動一般管理費 1,800 計 196,200 貢献利益 82,800固定費 固定製造原価 37,000 固定販売費・一般管理費 33,000 計 70,000 営業利益 12,800
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業績報告書の作成 (図表 8-1 )
Dominon Company業績報告書 19x8 6 30年 月 日 (単位:㌦)
実績 総合予算 差異
販売量 7,000 9,000 -2,000
売上高 217,000 279,000 -62,000 不利差異変動費 変動製造原価 151,270 189,000 -37,730 有利差異 変動販売費 5,000 5,400 -400 有利差異 変動一般管理費 2,000 1,800 200 不利差異 計 158,270 196,200 -37,930 有利差異 貢献利益 58,730 82,800 -24,070 不利差異固定費 固定製造原価 37,300 37,000 300 不利差異 固定販売費・一般管理費 33,000 33,000 0 - 計 70,300 70,000 300 不利差異 営業利益 - 11,570 12,800 -24,370 不利差異
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業績報告書の作成(再掲) (図表 8-1 )
Dominon Company業績報告書 19x8 6 30年 月 日 (単位:㌦)
実績 総合予算 差異
販売量 7,000 9,000 -2,000
売上高 217,000 279,000 -62,000 不利差異変動費 変動製造原価 151,270 189,000 -37,730 有利差異 変動販売費 5,000 5,400 -400 有利差異 変動一般管理費 2,000 1,800 200 不利差異 計 158,270 196,200 -37,930 有利差異 貢献利益 58,730 82,800 -24,070 不利差異固定費 固定製造原価 37,300 37,000 300 不利差異 固定販売費・一般管理費 33,000 33,000 0 - 計 70,300 70,000 300 不利差異 営業利益 - 11,570 12,800 -24,370 不利差異
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予算差異分析の実施
差異額の算定 営業利益
予算: 12,800 、実績:△㌦ 11,570㌦ 24,730 の㌦ 不利差異
原因分析 販売量が予算の 9,000台に対して、 7,000台にとどまり、その結果売上高に 62,000 の不利差異が発生㌦したこと
費用関係 固定費は、ほぼ予定通り 変動費は、大幅なマイナス
37,930 の㌦ 有利差異 ????
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予算差異分析の実施(つづき)
業績評価と改善策の検討 あなたは経営者
予算では 12,800 の利益が上がるはずだったのに、実㌦際には 11,570 の営業損失が発生した理由は何だろう㌦か?
売上高が予測を下回ったことが原因であることは明らか
しかしながら、変動費に大幅な有利差異が生じていることは、誤解を招きやすい!
販売量が予測を下回ったことを考慮しても、コスト管理は妥当なものであったと、本当に言えるのだろうか?
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総合予算による差異分析の限界
実績と総合予算の比較では、この問への有効な答えは示されない
総合予算差異は、例外管理にとって、あまり有用でないといえる
ではどうすればよいのか?
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変動予算による差異分析 変動予算
販売量(&その他のコストドライバー)の変化を調整できる予算
つまり販売量が、計画の 9,000台ではなく、 7,000台であったとしても、変動予算を利用すれば、マネージャーは新しいコストドライバー水準に基づく予算を得ることができる
これに対して総合予算は固定予算とも呼ばれる
差異分析の基準としてより有用なのは、総合予算と変動予算のどちらであろうか?
変動予算である 特に変動費は、コストドライバーを調整しなければ、その比
較に意味はなくなる
変動費は、 7,000台という販売量に基づいて、予算と実績を比較するべきなのである
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前提事項 (図表 8-3 改)
7,000 ~ 9,000台は正常操業圏内 この範囲において、固定費の総額は 70,000 で一定㌦ 同様に、単位あたりの変動費も 21.8 で一定㌦
コストドライバーは、生産販売量のみ
コスト
販売個数/月 7 ,000 9 ,000
7 0,000
正常操業圏
変動費
固定費
@21.8㌦
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変動予算の調整 (図表 8-2 )
Dominon Company変動予算 19x8 6年 月 (単位:㌦)
販売量 単位あたり 7,000 8,000 9,000
売上高 31 217,000 248,000 279000変動費 変動製造原価 21 147,000 168,000 189,000 変動販売費 0.6 4,200 4,800 5,400 変動一般管理費 0.2 1,400 1,600 1,800 計 21.8 152,600 174,400 196,200 貢献利益 9.2 64,400 73,600 82,800固定費 固定製造原価 37,000 37,000 37,000 固定販売費・一般管理費 33,000 33,000 33,000 計 70,000 70,000 70,000 営業利益 - 5,600 3,600 12,800
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業績報告書の作成 (図表 8-5 ・ 6 編集)
Dominon Company業績報告書
実績 変動予算差異 変動予算 販売活動差異 総合予算
販売量 7,000 0 7,000 -2,000不利差異 9,000
売上高 217,000 0 217,000 -62,000不利差異 279,000変動費 変動製造原価 151,270 4,270不利差異 147,000 -42,000有利差異 189,000 変動販売費 5,000 800不利差異 4,200 -1,200有利差異 5,400 変動一般管理費 2,000 600不利差異 1,400 -400有利差異 1,800 計 158,270 5,670不利差異 152,600 -43,600有利差異 196,200貢献利益 58,730 -5,670不利差異 64,400 -18,400不利差異 82,800固定費 固定製造原価 37,300 300不利差異 37,000 0 37,000 固定販管費 33,000 0 33,000 0 33,000 計 70,300 300不利差異 70,000 0 70,000営業利益 - 11,570 -5,970不利差異 - 5,600 -18,400不利差異 12,800
(1) (2)=(1)-(3) (3) (4)=(3)-(5) (5)
19x8 年 6月 30日 (単位: )㌦
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業績報告書の作成(再掲) (図表 8-5 ・6 編集)
Dominon Company業績報告書
実績 変動予算差異 変動予算 販売活動差異 総合予算
販売量 7,000 0 7,000 -2,000不利差異 9,000
売上高 217,000 0 217,000 -62,000不利差異 279,000変動費 変動製造原価 151,270 4,270不利差異 147,000 -42,000有利差異 189,000 変動販売費 5,000 800不利差異 4,200 -1,200有利差異 5,400 変動一般管理費 2,000 600不利差異 1,400 -400有利差異 1,800 計 158,270 5,670不利差異 152,600 -43,600有利差異 196,200貢献利益 58,730 -5,670不利差異 64,400 -18,400不利差異 82,800固定費 固定製造原価 37,300 300不利差異 37,000 0 37,000 固定販管費 33,000 0 33,000 0 33,000 計 70,300 300不利差異 70,000 0 70,000営業利益 - 11,570 -5,970不利差異 - 5,600 -18,400不利差異 12,800
(1) (2)=(1)-(3) (3) (4)=(3)-(5) (5)
19x8 年 6月 30日 (単位: )㌦
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変動予算による差異分析の2つの視点
2つの視点 変動予算差異‥△ 5,970 :不利差異㌦
実績と変動予算との差異 販売単価の差異、変動費・固定費の差異を原因とする
活動量差異(販売活動差異)‥△ 18,400 :不利差異㌦ 変動予算と総合予算との差異
活動量(販売量)の差異を原因とする
ここでは、変動予算のコストドライバーを生産販売量のみとしているため、活動量差異を特に販売活動差異とする
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変動予算による差異分析
差異分析(1) 変動予算差異
変動予算額と実績との差額 実際操業度における「業務の能率」を評価する
営業利益の変動予算差異総額 =- 11,570-(- 5,600 )=- 5,970㌦‥不利差異
変動予算差異総額は、販売価格、変動費、固定費から生じる 実際販売価格と予算販売価格に差はなかった(らしい) 固定費はとくに大きな差異はない 変動製造原価に比較的大きな差異が認められる
製造担当マネージャーに改善命令? 変動販売費・一般管理費の不利差異合計 1,400 にも注㌦
意が必要である
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変動予算による差異分析(つづき)
差異分析(2) 活動量差異(販売活動差異)
変動予算額と総合予算額との差額 販売活動差異は「マネージャーが計画売上高をどれだ
け達成したか」を評価する 販売活動は計画よりも 2,000台落ち込んだ
営業利益の販売活動差異 =- 5,600- 12,800=- 18,400 ‥不利差異㌦
販売価格は一定、単位あたりの変動費も一定であるので、単位あたりの貢献利益 9.2 にマイナス㌦2,000台をかけた数値となる
販売活動差異は誰の責任か? 販売担当マネージャーに改善命令?
ただし、製品の陳腐化やマーケティング不足、顧客需要や市場環境、さらには経済状況の変化も考慮に入れること
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変動予算の本質
総合予算の差異総額(△ 24,370 )が、変動予算差異(△㌦ 5,970 )と販売活動差異(△㌦ 18,400 )の合計に等しいことに㌦注目する
つまり、当初の総合予算と実績との差異は、変動予算差異と販売活動差異の2つの要素からなるといえる
総合予算差異=変動予算差異+販売活動差異
変動予算は、総合予算と実績との差異を説明するものであるといえる
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まとめ~総合予算と変動予算の比較
総合予算(固定予算)の特徴 当初に計画された操業度に基づく収益と原価に基づく
固定的、静的に維持され、当初の業績評価基準として役立つ
変動予算の特徴 業績評価のために、実際の操業度に基づいて作成される
多くの企業では、直近の財務業績の役立てるために、常に予算を「変動」させている
例えば、 Ritz-Carlton では、実際操業度に基づく変動予算と実績とを評価することによって、自社の全ホテルの月次財務業績を評価している
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留意事項
差異を責任追及に用いる際の注意点 業務マネージャーによる不正行為やシステム自体の破壊行為
システムが業務マネージャーに与える影響について、様々な角度から十分配慮することが大切である
有利差異は良く、不利差異が悪いと単純に考えないこと あらゆる差異は、実際の業務が計画した通りに行かなかった
ことのシグナルであると解釈しなければならない
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留意事項(つづき)
また、企業のそれぞれの活動には強い相互依存性があり、有利差異、不利差異にもトレードオフが存在することがある
たとえば‥ 低賃金労働者による有利差異 →サービス低下による顧客満足の低下 →将来の販売活動における不利差異の危険性 高品質な材料による不利差異 →品質向上 →検査・補修活動における有利差異を生み出す可能性
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参考~変動予算差異の詳細
変動予算差異の詳細 販売単価、変動費、固定費の予算差異により発生する
直接材料費、直接労務費、変動製造間接費の変動予算差異については、各自、原価計算テキスト「標準原価計算」を参照
標準直接原価計算 直接材料費と直接労務費
価格差異 消費量差異
変動製造間接費 変動製造間接費能率差異 変動製造間接費支出予算
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例示
直接労務費の差異を価格差異と消費量差異に分解せよ 標準
1時間あたり賃率 16㌦ 製品1個あたり作業時間 0.5 時間
実際 7,000 個生産 3,500 時間 1時間あたり賃率 16.4㌦ 総作業時間 3,750 時間
変動予算(標準原価)56,000㌦
数量差異2,400㌦
(不利差異)
価格差異 1,500 (不利差異)㌦実際価格
標準価格
標準消費量
実際消費量
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発展~活動基準変動予算
活動基準変動予算 コストドライバーが複数の変動予算
前述の例では、コストドライバーは生産・販売量の1つのみであった
各活動と関連するコストドライバーによる見積原価に基づく予算
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活動基準変動予算の例 (図表 8-4 )
Dominon Company活動基準変動予算 19x8 6年 月 (単位:㌦)
販売量 7,000 8,000 9,000
売上高 31 217,000 248,000 279,000
活動 加工活動 コストドライバー水準 14,000 16,000 18,000 (機械稼働時間)
変動費 10.5 147,000 168,000 189,000 固定費 13,000 13,000 13,000 13,000 計 160,000 181,000 202,000
段取活動 コストドライバー水準 21 24 27 (段取回数)
変動費 500 10,500 12,000 13,500 固定費 12,000 12,000 12,000 12,000 計 22,500 24,000 25,500
マーケティング活動 コストドライバー水準 350 400 450 (注文回数)
変動費 12 4,200 4,800 5,400 固定費 15,000 15,000 15,000 15,000 計 19,200 19,800 20,400
管理活動 コストドライバー水準 7,000 8,000 9,000 (生産・販売数量)
変動費 0.2 1,400 1,600 1,800 固定費 18,000 18,000 18,000 18,000 計 19,400 19,600 19,800
合計 221,100 244,400 267,700
営業利益 - 4,100 3,600 11,300
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Review
予算差異分析 戦略計画を基にした初年度の定量的な活動計画である予算を、
実績(実際の結果)と比較し、その差異を分析すること 手順
予算と実績を比較する 差異額の算定 原因分析
責任分析 目的
業績の評価 組織で働く人々を動機付ける
改善策の検討 フィードバック
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参考・引用文献
Horngren,C.T., G.L.Sundem, and W.O.Stratton, Introduction To Management Accounting, Eleven Edition, Prentice Hall, 1999 (渡邊俊輔監訳『マネジメント・アカウンティング』TAC出版、 2000 年)
鈴木研一先生( 2002 年) http://oh-o.meiji.ac.jp