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1 三菱 UFJ 銀行 国際業務部 November 22, 2018 ・本資料は情報提供を唯一の目的としたものであり、金融商品の売買や投資などの勧誘を目的としたものではありません。 本資料の中に銀行取引や同取引に関連する記載がある場合、弊行がそれらの取引を応諾したこと、またそれらの取引の実 行を推奨することを意味するものではなく、それらの取引の妥当性や、適法性等について保証するものでもありません。 ・本資料の記述は弊行内で作成したものを含め弊行の統一された考えを表明したものではありません。 ・本資料は信頼できると思われる情報に基づいて作成されていますが、その正確性、信頼性、完全性を保証するものではあ りません。最終判断はご自身で行っていただきますようお願いいたします。本資料に基づく投資決定、経営上の判断、そ の他全ての行為によって如何なる損害を受けた場合にも、弊行ならびに原資料提供者は一切の責任を負いません。実際の 適用につきましては、別途、公認会計士、税理士、弁護士にご確認いただきますようお願いいたします。 ・本資料の知的財産権は全て原資料提供者または株式会社三菱 UFJ 銀行に帰属します。本資料の本文の一部または全部につ いて、第三者への開示および、複製、販売、その他如何なる方法においても、第三者への提供を禁じます。 ・本資料の内容は予告なく変更される場合があります。 MUFG BK Global Business Insight EMEA & Americas FIRRMA パイロットプログラムの施行による CFIUS への 義務的届出制度の創設 長島・大野・常松法律事務所 弁護士・NY オフィス共同代表 大久保 涼 弁護士・アソシエイト 逵本 麻佑子 .「28127」で済まない-ドイツから見たブレグジット フリージャーナリスト 美濃口 坦 .ブラジルにおける「営業」とは?(続編) 株式会社クォンタム 代表取締役 輿石 信男 .いまさら聞けない異文化交渉スキル(7譲歩するときの基準と「言葉の壁」を乗り越える方法 Global Link Consultants Ltd. (U.K.) 経営責任者 安高 純一 … 2 … 6 … 12 … 15
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MUFG BK Global Business Insight EMEA & Americas2018-11-26 · MUFG BK Global Business Insight EMEA & Americas 2 Ⅰ.FIRRMA パイロットプログラムの施行によるCFIUSへの

Mar 13, 2019

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1

三菱 UFJ 銀行 国際業務部

November 22, 2018

・本資料は情報提供を唯一の目的としたものであり、金融商品の売買や投資などの勧誘を目的としたものではありません。

本資料の中に銀行取引や同取引に関連する記載がある場合、弊行がそれらの取引を応諾したこと、またそれらの取引の実

行を推奨することを意味するものではなく、それらの取引の妥当性や、適法性等について保証するものでもありません。

・本資料の記述は弊行内で作成したものを含め弊行の統一された考えを表明したものではありません。

・本資料は信頼できると思われる情報に基づいて作成されていますが、その正確性、信頼性、完全性を保証するものではあ

りません。最終判断はご自身で行っていただきますようお願いいたします。本資料に基づく投資決定、経営上の判断、そ

の他全ての行為によって如何なる損害を受けた場合にも、弊行ならびに原資料提供者は一切の責任を負いません。実際の

適用につきましては、別途、公認会計士、税理士、弁護士にご確認いただきますようお願いいたします。

・本資料の知的財産権は全て原資料提供者または株式会社三菱 UFJ 銀行に帰属します。本資料の本文の一部または全部につ

いて、第三者への開示および、複製、販売、その他如何なる方法においても、第三者への提供を禁じます。

・本資料の内容は予告なく変更される場合があります。

MUFG BK Global Business Insight

EMEA & Americas

Ⅰ.FIRRMA パイロットプログラムの施行による CFIUS への

義務的届出制度の創設

長島・大野・常松法律事務所 弁護士・NY オフィス共同代表 大久保 涼

弁護士・アソシエイト 逵本 麻佑子

Ⅱ.「28-1=27」で済まない-ドイツから見たブレグジット

フリージャーナリスト 美濃口 坦

Ⅲ.ブラジルにおける「営業」とは?(続編)

株式会社クォンタム 代表取締役 輿石 信男

Ⅳ.いまさら聞けない異文化交渉スキル(7)

譲歩するときの基準と「言葉の壁」を乗り越える方法

Global Link Consultants Ltd. (U.K.) 経営責任者 安高 純一

… 2

… 6

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… 15

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MUFG BK Global Business Insight EMEA & Americas

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Ⅰ.FIRRMA パイロットプログラムの施行による CFIUS への

義務的届出制度の創設

はじめに

2018 年 10 月 10 日、対米外国投資委員会(the Committee on Foreign Investment in the United States、

「CFIUS」)の議長を務める米国財務省は、 the Foreign Investment Risk Review Modernization Act

(「FIRRMA」)の施行にかかるパイロットプログラム(「本パイロットプログラム」)を発表しました。

FIRRMA の概要については、先月発行の NO&T U.S. Law Update No.39 において紹介させていただきまし

たが、本パイロットプログラムは、FIRRMA で新たに CFIUS の審査対象となった「重要な技術(critical

technology)」を保有する米国企業に対する米国外投資家(「外国投資家」)によるマイノリティ投資(支配

権を取得しない投資)についての詳細を定めるとともに、FIRRMA においては、外国政府の関係する取引

のみが明示的に義務的届出の対象とされておりましたが、本パイロットプログラムにおいては、FIRRMA

により与えられていた権限を用いて、CFIUS がより広範に重要な技術を保有する米国企業に対する投資に

ついて届出を強制する内容となっており、対米投資に大きな影響を与え得るものといえます。そこで、本

ニュースレターでは、本パイロットプログラムの内容について解説します。

パイロットプログラムの対象となる対米投資

本パイロットプログラムの対象となるのは、「パイロットプログラム米国企業(Pilot Program U.S.

Business)」に対する投資です。「パイロットプログラム米国企業」とは、①(i)「パイロットプログラム産

業(Pilot Program Industries)」における当該企業の活動に関して使用される、又は、(ii)パイロットプロ

グラム産業における使用のために当該企業によって設計された、「重要な技術」を②生産、設計、試験、製

造、加工又は開発する米国企業、とされています。そして、上記の「パイロットプログラム産業」として

は、北米工業分類システム(North American Industry Classification System)の分類に従い、航空機製造

業、電子計算機製造業、原子力発電並びに半導体及び関連機器製造業などを含む、27 の産業が特定されて

います。上記②のとおり、重要な技術の生産等を行う米国企業に対する投資が対象となりますので、パイ

ロットプログラム産業に属するものの単に重要な技術を使用しているのみの米国企業に対する投資は対象

となりません。

また、「重要な技術」の定義については、FIRRMA におけるものと同様の定義がされており、(米国の国

際武器取引規則の対象となる)米国軍需品リストに掲載されている軍需品及びサービス、(米国輸出規制の

対象となる)規制品目リストに掲載されている軍用にも民生用にも使用可能な一定の物品、一定の核施設

並びに設備及び物質、一定の化学物質及び毒物、並びに、FIRRMA と同時に成立した、米国の輸出管理規

制を強化する the Export Control Reform Act of 2018 で規制対象とされている「新規の基礎的な技術

(emerging and foundational technologies)」を意味するものとされています。この「新規の基礎的な技術」

に何が該当することになるのかは、今後、米国商務省等複数の省庁による検討を経て決定される予定であ

り、この内容によっては、パイロットプログラム米国企業の対象が更に拡大する可能性がある点に留意す

る必要があります。

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パイロットプログラム米国企業に対する投資のうち、支配権を取得する取引はすべて、また支配権を取

得しない投資1についても、以下のいずれかに該当する場合には本パイロットプログラムの対象となります2。

これらの投資は、新たに CFIUS の審査対象となり、CFIUS への事前届出が義務付けられることになります3。

① 外国投資家に対してパイロットプログラム米国企業が保有する重要な非公開技術情報4に対するアクセ

スを与える、

② 外国投資家に対してパイロットプログラム米国企業の取締役会又は同等の統治機関の(i)メンバーシ

ップ若しくは(ii)監督権、又は(iii)そのような機関におけるポジションの指名権を与える、又は

③ 外国投資家に対して、単なる議決権の行使を超えて、重要な技術の使用、開発、取得若しくは譲渡

(release)に関するパイロットプログラム米国企業の実質的な意思決定への関与を認める場合。例え

ば、外国投資家が、米国企業の持つ重要な技術の第三者へのライセンスについて承認権を持つような

場合が例示されています。

本パイロットプログラムの適用外となる取引

FIRRMA において、一定のファンドによる米国企業に対する投資については CFIUS の審査対象外とされ

ていました。本パイロットプログラムにおいても同様に、外国投資家が投資しているファンドによるパイ

ロットプログラム米国企業に対する投資については、外国投資家がファンドのアドバイザリーボードや委

員会のメンバーとなる場合であっても、①ファンドが外国投資家ではないゼネラルパートナー、マネージ

ングパートナー又は同等の者によってのみ運営されており、②外国投資家又はアドバイザリーボード等が、

ファンドの投資決定やポートフォリオ企業に対するファンドマネージャーの決定を承認、否決又は支配す

る権限を持たず、③外国投資家がファンドマネージャーの選解任やその報酬を一方的に決定することがで

きず、かつ④外国投資家が重要な非公開技術情報へのアクセスを持たない場合は、本パイロットプログラ

ムの対象にならないものとされています。例えば、外国投資家がファンドのアドバイザリーボードのメン

バーとなっており、ゼネラルパートナーの報酬の決定及び解任について投票権を有しているというだけで

は、これらの事項を一方的に決定する権限は有していないため、当該ファンドによる投資は本パイロット

プログラムの対象とはならないとされています。

また、既に外国投資家が直接に 50%超の議決権を有しているか、取締役会又はそれと同等の機関のメン

バーの過半数の指名権を有しているパイロットプログラム米国企業への追加投資については、本パイロッ

トプログラムの対象から除外されています。

******************************************************* 1 なお、「支配」の意味は広範に解釈されており、10%以下の議決権を取得するかつ受動的な投資のみが明示的に支配権の取

得に該当しないとされています(NO&T U.S. Law Update No.39 参照)。 2 FIRRMA においては、これらに該当しない取引は「受動的な投資(passive investment)」として規制対象から除外されて

いました。 3 本パイロットプログラムの施行後、パイロットプログラム米国企業に対する支配権を取得しない投資について上記要件に

基づく事前届出を行い、CFIUS からのクリアランスを得た後に、当該企業に対して追加投資を行いかつ上記に列挙した権利

のうちいずれかを追加的に取得する場合、改めて CFIUS への事前届出が必要となります。 4 「重要な非公開技術情報(material nonpublic technical information)」とは、公知のものではない、重要な

技術を設計、加工、開発、試験、生産又は製造するために必要な情報を意味し、プロセス、技巧又は方法を含むとされてい

ます。

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義務的届出の方法

CFIUS への事前届出が義務付けられる場合、対象取引のクロージングの少なくとも 45 日前までに5、

FIRRMA によって新設された制度である、簡易届出(declaration)を行うか、CFIUS への正式届出を行う

必要があります。簡易届出を行った場合、届出の受領から 30 日以内に、CFIUS は、クリアランスを出すか、

正式届出を行うよう要請するか、又は取引の一方的な審査を開始するかの決定を行います。届出義務に違

反して届出を行わなかった場合、取引価格を上限とする制裁金が課されるものとされています。なお、複

雑かつ国家安全保障上の懸念があり得る取引の場合には、CFIUS が 30 日の期間内にクリアランスを出すこ

とは実務上難しいものと思われ、結局正式届出が必要になる可能性が高いことから、このような場合は当

初から簡易届出ではなく正式届出を行うことが考えられます。

簡易届出に記載すべき内容としては、以下の情報を含む 18 の大項目が列挙されています。FIRRMA にお

いて、簡易届出は一般的に 5 ページを超えない程度のものである旨規定されていましたが、要求されてい

る情報の項目が多岐にわたることからすると、これよりも長いものとなることが想定されます。

① 取引当事者、取引の対象、取引ストラクチャーの説明(取引価格、取引の資金調達源に関する情報を

含む)

② 外国投資家の資本構造及び事業活動の説明

③ 取引が本パイロットプログラムの対象となるパイロットプログラム米国企業への投資に該当すること

の説明

④ パイロットプログラム米国企業が生産等する重要な技術に関する説明

⑤ パイロットプログラム米国企業が締結している(又はしていた)米国政府との契約の有無

また、30 日間の CFIUS の審査期間中、CFIUS から追加の情報提出要請があった場合は、原則として 2

営業日以内に回答する必要があり、期限までに回答できなかった場合、CFIUS は簡易届出を拒絶できると

されています。

なお、本パイロットプログラムの対象となる取引について簡易届出ではなく正式届出を行う場合も、従

前任意届出の際に要求されていた情報に加えて、取引が本パイロットプログラムの対象となるパイロット

プログラム米国企業への投資に該当することの説明やパイロットプログラム米国企業が生産等する重要な

技術に関する説明等を記載する必要があります。

******************************************************* 5 2018 年 11 月 10 日から 2018 年 12 月 25 日の間にクロージングを迎える取引については、後述する本パイロットプログラム

の施行日である 2018 年 11 月 10 日又はその後速やかに届出を行うものとされています。

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施行時期

本パイロットプログラムは 2018 年 11 月 10 日より施行され、2020 年 3 月 5 日までに CFIUS が制定する

こととされている、FIRRMA のすべての規定の施行にかかる最終規則が制定されるまで有効なものとされ

ています6。ただし、①2018 年 11 月 10 日までにクロージングを迎える取引及び②2018 年 10 月 11 日までに

拘束力のある書面による契約又は取引の重要な条件を定める他の書面を締結した取引等については、本パ

イロットプログラムの適用が除外されています。したがって、2018 年 10 月 11 日までに契約を締結した取

引については、本パイロットプログラムの適用を受けることなくどのタイミングでもクロージングを行う

ことが可能ですが、2018 年 10 月 11 日よりも後に契約を締結し 2018 年 11 月 10 日よりも後にクロージング

を迎える取引については、本パイロットプログラムの適用対象となり得ます。

おわりに

上述のとおり、本パイロットプログラムはこれまで任意の届出とされていた CFIUS への事前届出を、か

なり広範な取引について義務的届出とするものです。施行までの期間が限られており、既に検討が開始さ

れている対米投資について本パイロットプログラムの影響がないかを見直すことが肝要となります。また、

簡易届出をする場合でも提供を要する情報が広範囲にわたっており、届出の準備に相当の期間を要するも

のと思われ、取引実行のスケジュールに大きな影響を与えることが想定されます。最後に、上述のとおり、

本パイロットプログラムは今後 CFIUS の制定する最終規則の制定まで有効なものであり、最終規則の内容

によって更に変更が加えられる可能性があることから、最終規則制定に関する CFIUS の今後の動向にも注

意が必要となります。

記事提供:長島・大野・常松法律事務所 弁護士・NY オフィス共同代表 大久保 涼

弁護士・アソシエイト 逵本 麻佑子

(2018 年 10 月 19 日作成)

******************************************************* 6 本パイロットプログラムについて、米国財務省は 2018 年 11 月 10 日までパブリックコメントを受け付けていますが、当該

コメントは最終規則の制定の際に考慮される予定で、パブリックコメントによっても本パイロットプログラムの内容は変

更されないものとされています。

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Ⅱ.「28-1=27」で済まない-ドイツから見たブレグジット

概要

ドイツでブレグジット(英国の欧州連合(EU)離脱)というと、経済的ダメージを受けるのは英国の方

だと思っている人が多い。そうであるのは、残る加盟国は 27 カ国もあり、相手は 1 カ国だと思っているか

らである。また、英国の離脱は EU の在り方を根本的に変えてしまう。これに対処するのは容易ではない。

もうかなり前だが「ドイツ国民はブレグジット(英国の欧州連合

(EU)離脱)は自分たちと関係がないと思っている」と嘆くフィナ

ンシャル・タイムズの記事を目にしたことがある。もしかしたら EU

で上の立場にいる人たちにも似た事情があるかもしれない。

ポーランド元首相で現在、欧州理事会議長のドナルド・トゥスク

氏は、2018 年 9 月にザルツブルクで開かれた EU 首脳会議でメイ英

首相にケーキを勧めた。そしてこの写真 1 に「残念ですが、サクラ

ンボはありませんよ」というコメントをつけてインスタグラムに投

稿。英国は EU の利点を保持し、都合の悪いところは拒むと非難さ

れている。このような「いいとこ取り」は、子どもがケーキで一番

おいしいサクランボだけをつまみ食いするのに似ていて、メイ首相

は欧州理事会議長からインスタグラムで茶化されたことになる。

このような冗談も普通なら面白いかもしれないが、英国メディアは EU 首脳会議で自国の首相が四面楚

歌(そか)の状態になり、さらにこのようにからかわれたことに対し感情的に反発する。同時に保守党内

のブレグジット強硬派に対する彼女の立場が弱くなり、離脱協定が締結されないままの「ノーディール」

になる可能性が高まったといわれる。

現在ドイツでは、長年暮らす英国人の中でドイツ国籍を取得する人が急増中である。また英国には 300

万人に及ぶ EU 加盟国市民が在住し、彼らこそブレグジットに至った「重要問題」であった。そのうちポ

ーランド人は 3 分の 1 近くを占め、ブレグジットがどうなるかは、彼らにとっても気が気でないと想像さ

れる。でも、インスタグラム愛好者の元ポーランド首相には自国民の運命が気にならないようだ。これも

彼がブリュッセルの EU 本部にいて「雲の上の人」になってしまったからで、EU 加盟国市民の中に EU 嫌

いが少なくないのも、このような事情と無関係ではない。

一度に EU 加盟 20 カ国が脱退したら?

ブレグジットが重大な出来事であることをドイツ国民に理解してもらうために登場するのは下のグラフ

である。これは EU 加盟国の国内総生産(GDP)が EU 内で占める割合を示す。数字は 2015 年のもので、

英国はドイツに次ぐ 2番目の経済大国で 18%を占める。ドイツからポーランドまでの上位 8カ国を除いて、

下位 20 カ国の GDP を合計するとほぼ 18%になる。

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【図表 1】2

ということは、経済的に見ると、ブレグジットは 28 カ国の加盟国で構成される EU から 20 カ国が一斉

に脱退することに相当する。でも多くの人々は 28 カ国のうち 1 カ国だけがいなくなると考えることにして

いて、EU と英国の関係も「27 対 1」と思うようだ。ザルツブルクで開催された EU 首脳会議以来、メイ首

相の提案が EU 首脳陣から相手にされず、ドイツのメディアも政治家も「ノーディール」の離脱を心配す

るようになった。どのように EU から離脱するにしても、EU より英国の経済的ダメージの方が大きいとい

うのが通説で、いろいろなスタディーを目にすると、少なくとも短期的にはそうなると思われる。

だから「対岸の火事」扱いにして、本来内輪もめが多い EU 加盟国がブレグジットに関しては英国に対

し団結して強硬であるのは、英国のまねをする国が出てこないようにお仕置きを十分にしておこうと思っ

ているからだといわれる。また同時に、川を越えて飛んでくる火の粉の数が 27 分の 1 になると高をくくっ

ていることもある。以下にドイツの事情を挙げて、それが錯覚であることを説明する。

【図表 2】3

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図表 2 は 2017 年のドイツの輸出先である。9%の米国がドイツにとって「一番の顧客」で、フランスの 8%

がそれに続く。英国はオランダと並んで 7%で、ドイツのメルケル首相が重要視して毎年のように経済界の

要人を引き連れて訪れる中国も 7%であることを考えると、英国はドイツにとって本当に重要なパートナー

であることが分かる。次に金額でいうと、これは 2016 年の数字であるが、商品の輸出額は年間約 860 億ユ

ーロに及ぶ。これにサービスの輸出を加算すると 1,160 億ユーロで、ドイツの GDP の 3.7%に相当する。

次に、図表 3 に示した英国の輸出先から分かるように、12%の米国が英国にとって「一番の顧客」であ

り、次はドイツの 9%、フランスは 6%にすぎない。

【図表 3】4

【図表 4】5

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図表 4 の英国の輸入先を見てもドイツからの輸入が一番多いので、英国とドイツの交易が重要であるこ

とが分かる。英国とドイツの貿易収支はドイツの出超であるが、だからといって英国は文句を言うことも

なくドイツの高いクルマを買ってくれるありがたい国である。自動車や機械工業の分野では、部品の相互

供給も盛んだ。ここで数字こそ挙げないが、英国の場合は南欧周辺国より、ドイツだけでなく北欧の国々

との交易の方がはるかに活発だ。

ということは、EU 離脱協定が成立しないで「ノーディール」という形で英国が EU を離脱したら、ドイ

ツを筆頭にこれらの北欧の国々は対英貿易の少ない南欧の周辺国より厄介な状態に陥る。それだけではな

く、5%とか 10%などといわれる世界貿易機関(WTO)ルールに従って関税を支払うことにもなる。これ

は該当する EU 加盟国の企業にとって負担の増大である。ということは「対岸の火事」から飛んでくる火

の粉は、どこの国にも均等の 27 分の 1 ということにはならない。

こうして増大した関税収入は、どこへ流れていくのだろうか。これは昔から決まっていて、EU 加盟国が

徴収コストとして 4 分の 1 を自国の収入としてキープし、残りの 4 分の 3 は EU 本部に上納する。これは

加盟国の国民総所得に基づいた支払金額と比べたら少ないが、それでも EU の重要な財源である。このよ

うに考えると、欧州理事会議長のサクランボの冗談も素直に受け取ることができないかもしれない。

これからの EU

このような経済的コストを考慮すると、英国の「ノーディール」離脱はドイツにとってもなるべく避け

るべきことになる。だから英国もドイツに仲介的役割を期待していた。ところが今までのところ、ブレグ

ジット交渉はフランスをはじめ南欧の周辺国やブリュッセルの欧州委員会のペースで進行し、ドイツはそ

れに流されるだけである。

そうであるのは、メルケル首相が抱える問題と無関係ではない。彼女は難民問題のために国内で批判さ

れているが、これをかわすために、EU 全体での解決という体裁を取りたい。これには南欧の周辺国の協力

が必要であるが、こうして借りができると、彼女は自国や北欧の国々の立場を主張しにくくなるからであ

る。

しかし「ノーディール」離脱になるかどうかは、比較的に短期的な問題である。英国が EU を離脱する

結果、EU 全体の在り方が変わり、厄介な状態に陥ることを長期的観点から心配する人がいる。EU 加盟国

の間にも経済や政治について異なった考え方がある。それは、ドイツ、英国、オランダ、オーストリア、

フィンランド、バルト三国、デンマーク、スウェーデンなど市場経済を重視する国々の立場と、反対に経

済的競争力が弱いために保護主義に傾くフランス、イタリア、スペインなどの地中海沿岸諸国の立場であ

る。

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前者のグループに属する英国は EU 官僚機構に対する熱烈な批判国であり、大英帝国であったこともあ

って世界に開かれた国である。欧州統合が「内輪の親睦会」にとどまらずに現在の EU になったのも、ま

たドイツが世界で通用する工業国家に発展できたのも、1973 年に英国が当時の欧州経済共同体(EEC)に

加盟したからだとドイツではよくいわれる。もともと英国の加盟は 1960 年代にドイツがフランスのシャル

ル・ド・ゴール大統領(当時)の不興を買うことを恐れずに願望し、1963 年と 1967 年の英国の加盟申請も

フランスの反対で実現しなかった。

後者のグループの地中海沿岸諸国は経済が元気でなく、国家介入主義的傾向が強く、欧州がこれらの国

ばかりなら、ブリュッセルの官僚機構がもっと肥大化していたといわれる。ということは、欧州統合は市

場経済派と国家介入派の間の妥協の上に乗っかってゆっくりと進行してきたことになる。このような妥協

主義こそ欧州統合の重要な特徴だ。

EU 理事会は EU の最も重要な決定機関であるが、ここでの評決の仕方も、多数決で少数派の見解を拒否

するのでなく、妥協が実現する仕組みになっている。リスボン条約によってこの性格は弱まったといわれ

るが、それでも二重多数決方式である。そのため加盟国は前もって割り当てられた数の票を持っており、

議案が可決するためには、その支持国側が 55%以上の票数を確保しているだけでなく、支持国全ての人口

が EU 全体の 65%以上を占めていなければいけない。

リスボン条約の時点では妥協主義がコンセンサスで、市場経済派加盟国は人口数では 39%を、国家介入

派諸国は 38%を占めていて、拮抗(きっこう)するようになっていた。その結果、一方が多数決で他方の

反対を押し切ることはなかった。ところが、英国の EU 離脱によって前者が 30%に減ってしまうのに対し

て、後者は 42%に増大する。つまり、これからは、地中海沿岸諸国の方はいくらでも意思を通すことがで

き、妥協しなくてもよいことになる。ということは、ブレグジットは英国が EU から離脱して加盟国が 27

カ国になるだけの話ではない。

例えば、加盟国はこれまで独自に国債を発行したり、社会保障システムを運営したりしてきた。ところ

が、この加盟国の自己責任方式もブレグジットの結果、多数決で変更し、EU 全体の共同債を発行したり、

共同の失業保険を導入したりすることが可能になる。このような事情から、ブリュッセルの EU 関係者や

フランスのマクロン大統領がチャンス到来と思い、EU やユーロ圏の改革に色めき立った。

確実に言えるのは、欧州統合がこれまでとは全く別のものになるということである。というのは、欧州

統合が妥協主義の基盤で進んできたのは、加盟国が主権国家であったからである。主権国家は「一国一城

の主」のようなところがあり、下手に干渉して主権侵害と思われ脱退される危険性があったために慎重に

なり、また妥協主義になった。

国家は自身の権限が制約されることを望まない。制約を受け入れるとしたら、それを国民に納得させる

ために、見返りとしての利点が大きくなければいけなかった。だからブレグジット交渉が長引き、妥協に

も時間がかかった。ということは、ブレグジットの結果、EU はこのような妥協主義から多数決で加盟国に

何かを強制する方式に転換することになる。

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次に、これまでのブレグジット交渉を眺めると、EU は「27 対 1」で相手を圧倒し、歩み寄ろうとする姿

勢はほとんど見られない。こうであるのは、既に述べたように、英国のまねをする国が出てこないように

「お仕置き」をしているからであるが、多数決方式で締め付けを強める EU の未来を先取りしているから

でもある。同時にこれも加盟国に対する教育効果を高めることにもなる。

これに関連して興味深いのは、欧州議会によって 2018 年 9 月に 28 加盟国で 2 万 7000 人を対象に実施さ

れた世論調査 6である。それによると「自国が EU 加盟により得をしている」と回答する人が EU 全体で 68%

もいたことである。これは 1983 年の調査開始以来最も高い数字であるだけでなく、同年 4 月の調査より 4%

も上昇した。ブレクジット交渉での EU の強硬な態度は報われたのかもしれない。

しかし締め付けが強くなった欧州同盟は、今後どのように展開していくのだろうか。上記の調査で「EU

は間違った方向に進んでいる」と回答した人は全体で半数もいた。例えば、フランス 59%、ドイツ 52%、

スロベニア 52%、オーストリア 45%といった具合で「正しい方向に進んでいる」と回答した人は全加盟国

で 28%しかいなかった。ということは、以前の妥協主義のブレーキが効かなくなり、EU が「間違った方

向」にどんどん進んでいく可能性もあるということになる。

記事提供:フリージャーナリスト 美濃口 坦

(2018 年 10 月 24 日作成)

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Ⅲ.ブラジルにおける「営業」とは?(続編)

概要

前回に引き続き、トップダウン方式による営業の必要性とともに、新たな営業先とのネットワークづく

りというブラジル進出で実績を上げるための重要項目について説明する。

前回、ブラジルにおける営業について、国土が広く自社だけで営業するのが難しいこと、組織がボトム

アップではないのでトップダウン方式で営業をしなければブレイクスルーしにくいこと、そして治安の問

題もあり飛び込み営業的な活動が難しいことを述べた(「ブラジルにおける「営業」とは?」

(https://www.bk.mufg.jp/report/insemeaa/BW20181026.pdf 参照)。アミーゴ(友だち)の国では、急

がば回れで、実は一見遠回りにみえて効率的な営業活動は、営業先上層部に知己(アミーゴ)をつくるこ

とであるという説明をした。

要するにブラジルでは、トップダウン営業が必要ということである。ではいきなりブラジルに駐在をす

ることになり、ほとんど知り合いもなく、言葉もできないでどうやって、どこから手を付けるのかという

ことになる。

もちろん、ある程度は前任者からの引き継ぎにより、営業先上層部との関係がゼロではないはずだが、

売り上げを大きく伸ばしたい場合には、それだけでは足りないので新しい営業先とのネットワークづくり

が必須になる。その方法は、駐在者の年齢や単身で行くのか家族で行くのか、さらには業界や業種によっ

ても違ってくるので一概にはいえないが、それぞれの状況に合わせた動き方というものがある。今回はこ

の新しいネットワークづくりについて一つの業界における例を見てみよう。

地域性をつかむ

前述したように、ブラジルの国土は広く、地域によって人種構成や所得レベル、嗜好(しこう)も違う。

まず、担当者自らがそれを把握する必要がある。ブラジルでのマーケティングの基本は「自らの足」と「自

らの目」で現状を知ることで、大事なことである。サンパウロやリオデジャネイロ(以下、リオ)のオフ

ィス街でインターネットやマーケティング会社からのデータを見ているだけでは、ブラジルのことは分か

らない。

例えば、ブラジルにはドラッグストアがたくさんある。サンパウロの街を歩くと、至る所にドラッグス

トアがあり、大きなチェーン店も多く、いずれかと取引ができれば、相当な数の販売が見込めるというこ

とが分かる。そしてサンパウロにこれだけ店舗があるならば、当然全国展開をしているだろうと思って営

業しても、残念ながらサンパウロだけであることがほとんどである。リオに行くとリオにだけあるチェー

ン店がある。

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ある時、ドラッグストア向け商材のコンサルティングを頼まれ、全国のドラッグストアを行脚したこと

がある。そこで分かったのは、やはり各地でチェーン店の在り方が全く違うということだ。ある州では、

州内に店舗を 200 店以上持つ同業界最大手は日系人オーナーと知ってびっくりした。また他の州は、ほぼ 1

社が店舗と独自の通販システムを持っていて、市場の 8 割ぐらいを占め、年商 500 億円を超えるような会

社もあった。

行く先々で新たな発見があり、やはり「足」は重要であることを再認識した。せっかくのブラジル駐在

なので、旅行も兼ねて自らの足で少なくとも、東西南北の主要都市を訪問することをお勧めしたい。自分

の足と目で地域特性を把握した上で、代理人(店)を決める必要もある。

各地に独自のネットワークを作る

さらに、地域によって販売している商材がやはり違う。人気のあるメーカーも違ったり、各メーカーの

営業の力の入れ方も異なる。店舗の品ぞろえや規模、ロケーションなども各地で特色がある。そのような

地域性は、自ら訪問して自らの目で見なければ分からないものだ。

さらに売り場に行って直接販売スタッフと話をすれば貴重な 1 次情報が入手できるので、各店舗でズケ

ズケと何でも聞いてみよう。ブラジルの店員は親切で、自分たちは日本のメーカーで今後商品をブラジル

で販売したいので話を聞かせてほしいと正直に頼むと、知っていることは何でも教えてくれるケースが驚

くほど多い。気になる店は 2~3 回顔を出せば、ブラジルの場合はアミーゴ感覚で話ができるようになる。

特に若い人の方が、警戒感が少ない場合が多いので、入り込みやすい。購買担当にもそこからつないでも

らい、将来的には経営層までたどり着くことも可能だ。

この売り場での販売スタッフとの人間関係は重要である。この先、自社の代理人がちゃんと機能してい

るかどうかをチェックするときの貴重な情報源となってくる。

首都圏におけるトップダウン営業

企業の本社が集まるサンパウロやリオにおいては、やはりブラジル支社の経営層が、そのポジションで

なければできないトップダウン営業を行う必要がある。その一つとして、さまざまな団体に加入して、そ

の集まりの中で知己を増やして行くことが重要だ。例えば、商工会議所は、ブラジルにおいては米国商工

会議所やドイツ商工会議所などが圧倒的にパワーを持っており、政府を動かす力がある。法律改正などの

情報も早く入る。

業界団体があれば、やはり加入して情報交換ができれば有益である。そこで、隣接分野で競合しない、

ターゲットが同じ会社のトップに知り合えれば、そこから紹介をもらい、ターゲットのトップに入って行

ける可能性が生まれてくる。

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また、ブラジルの各州には工業連盟がある。サンパウロにはサンパウロ州工業連盟(FIESP)、リオには

リオデジャネイロ州工業連盟(FIRJAN)、それらを束ねているのがブラジル全国工業連盟(CNI)である。

それぞれが、セミナーやパーティーなど、さまざまなプログラムを実施しているので積極的に参加をすれ

ばネットワークが広がる。日本の経団連のカウンターパートは CNI といえるが「工業連盟」なので製造業

が中心となっている。

実は、これら以外に、あまり表に出ないがサービス業も含めたブラジルトップ企業の集まりや日系人で

あらゆる分野の一線で活躍した人たちの団体など、探せばいくつかある。そこに入っていければ人脈は格

段に広がるだろう。特に日系人の団体は日本語が通じるので大変助かる。

一番早いのはアミーゴからアミーゴへの営業

日本ではあまり一般的ではないかもしれないが、海外ではよくある手法で、ブラジルではさらに効果的

なのは、営業先の経営層のアミーゴであるコンサルタントと契約をして営業を依頼することであろう。ま

たは、元々その企業の経営層だった人が辞めて、コンサルタントになり自分の元部下たちにつなぐ仕事を

しているケースも多い。ある日本の大手自動車部品会社は、営業先のメーカーごとに強いコンサルタント

を雇って営業をし、成果を挙げていた。

もちろん、アミーゴだからといって何でも話が決まるわけではないが、トップダウンが大事なブラジル

で最初にトップ層にプレゼンテーションの機会が得られるのは非常に大きい。日本企業は、あまりコンサ

ルタントを雇う習慣がなく、いわゆる「目に見えないソフト」にお金を払わない傾向があるが、特に経験

もない、人脈もない海外では立ち上がるまでの何年かの間は極めて有効な方法である。

業績を上げるためには、ブラジルではブラジルに合った営業ができるかどうかである。

記事提供:株式会社クォンタム

代表取締役 輿石 信男

(2018 年 10 月 1 日作成)

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Ⅳ.いまさら聞けない異文化交渉スキル(7)

譲歩するときの基準と「言葉の壁」を乗り越える方法

概要

今回は、国際交渉において「譲歩するときの基準」と「言葉の壁」を取り上げます。交渉とは相手との

共同作業であり、時には譲歩することも必要ですが、幾つかのこつがあります。また国際交渉には(1)言

語の壁、(2)伝達方法の壁、(3)文化の壁という「三つの壁」がありますが、本稿では「言葉の壁」を

乗り越えるために心に留めておきたいことについて説明します。

譲歩するときの基準

交渉とは、相手との共同作業です。従って、かたくなに自分の主張を一方的に繰り広げても進展はあり

ません。取引は一歩一歩進めます。双方が良い取引だったと思い、前に進むために、時には譲歩すること

も求められます。ただし譲歩するときは一つずつ、しぶしぶ行うくらいの方が安全です。また交渉相手を

働かせ、勝ち取らせる形で譲歩することが肝要です。さらに、急がず交渉相手にこちらはすでに底に来た

と思わせることが大事です。

交渉には時間がかかります。繰り返しになりますが、初期段階で譲歩を求められたときは“Yes”と即答す

ることを避けてください(「いまさら聞けない異文化交渉スキル(6)価格交渉、グループ交渉時の戦略」

(https://www.bk.mufg.jp/report/insemeaa/BW20181026.pdf)を参照)。また譲歩するときは、その中

身の価値を把握し、可能な限りその見返りを想定して大局から判断して決めるようにしてください。

価格交渉時には当然、自然と価格に目がいきます。しかし、それだけでは自分を縛り付けてしまう可能

性があるため、これを改める必要があります。そのためには、各項目に関連する取引内容を全て考慮する

ことが重要です。そして、可能な限り自分たちには安価である一方、相手には高価であるように譲歩する

形がベストといえます。

さらに譲歩するときにやってはいけないことは“Let's split it in the middle.”(双方の希望する価格の中値

で決めましょう)と提案することです。そうではなく“It is difficult to accept your request but if you accept

xxx we might be able to meet your request.”(あなたの希望を受け入れることは極めて厳しいのが実態です。

しかし、これこれをしていただければそれを…)というように返答します。その際に「いまさら聞けない

異 文 化 交 渉 ス キ ル ( 5 ) 主 導 権 を 握 る た め の 質 問 と マ ジ ッ ク ワ ー ド 「 If 」 」

(https://www.bk.mufg.jp/report/insemeaa/BW20181012.pdf)で説明した「If」(もし)を使います(注:

ウィンウィンは 2 等分ではありません)。

交渉時、相手から「これが、われわれが譲歩できる最低ラインです」と言われたときの対応としては、

まず簡単に降参せず、何としても成し遂げるよう努力します。交渉の行き詰まりを解決するためには、交

渉相手の面目をつぶさないような提案を検討する必要があります。忘れないでください。交渉できないこ

とはほとんどありません。

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変更項目の探し方

今行っている交渉で譲歩できる項目があるかどうか、下記の七つの質問をして検討します。

1)初期の提案段階で変更可能な項目を含めることが可能か。

2)通常はどのように譲歩するか。

3)その譲歩内容は、相手にとってどのような価値があるのか。また、その中身は定量化できるのか。

4)譲歩した見返りに何が欲しいか。

5)他にどのような取引が考えられるか。

6)自分たちにとって低コストで、かつ相手にとって価値があるものは何か。

7)譲歩の見返りとして、相手にとって低コストで、かつ自分たちにとって価値があるものは何か。

業務効率に影響する異なる文化

業務を推進するための交渉方法は各人の持つ文化に影響を受けていますが、ここで筆者の体験を一つ紹

介します。この会社は現在は存在しないので、紹介しても問題ないと考えます。また同様のエピソードは、

ビジネスの教科書にも多数掲載されています。筆者は 2002 年から 3 年強の短期間ですが、日本のダイムラ

ー・クライスラー・ジャパンに勤務していました。この会社は当時、自動車生産台数で世界第 5 位、約 45

万人の従業員を抱えていました。ダイムラー・ベンツとクライスラーが正式に合併した 1998 年には、経済

界では「世紀の合併(結婚)」とうたわれました。

この合併は当然、相乗効果を期待して行われたわけですが、内情はいろいろ課題を抱えていました。筆

者は日本の人事責任者でしたが、当時は全世界で人事制度などに関する取り決めが山積していました。そ

のため法人間の社内交渉が頻繁に行われ、筆者はグローバル人事会議へ参加するために、ドイツのシュツ

ットガルトにあるダイムラーの本社や米国のデトロイトにあるクライスラーの本社に通いました。

そのときのことを今でも思い出しますが、社内交渉時に最も衝突があったのはドイツ人と米国人でした。

そこにはもちろん覇権争いもありましたが、交渉関連では(1)物事の説得方法、(2)物事の決定のプロ

セス、さらに(3)決まった案件の推進方法に至るまで、やり方は「月とスッポン」、英語で言うと“different

as chalk and cheese”でした。実はこの三つに関して言えば、日本人はドイツ人とかなり似ています。しか

し、会議では日本人は私 1 人のため、常に板挟み(pig in the middle)になり、両サイドから「相手はどう

しようもない頑固者だよね」と同調を求められ、困りました。

国際交渉時の三つの壁

次に、異文化交渉の際に日本人が直面することの多い「三つの壁」について説明します。それは(1)言

語(英語)の壁(Language Barrier)、(2)伝達方法の壁(Communicative Barrier)、(3)文化の壁(Cultural

Barrier)です。これは決して日本人だけの課題ではありませんが、単一民族国家で島国という環境が背景

にある日本人が特に直面しやすい課題といえます。なお、当然のことながら、それぞれの壁は実際には明

確に分離されず、互いに影響し合っています。

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(1)言語(英語)の壁

国際交渉を行うとき、日本人にとって幾つかの課題がありますが、その一つが語学力です。確かに、交

渉を外国語で行うのは簡単ではありません。今や世界のビジネス言語は英語が主流ですが、その英語も国

や地域によってかなり異なります。香港(中国)やムンバイ(インド)、グラスゴー(スコットランド)、

ダラス(米国テキサス州)などの英語は、米国の NBC や英国の BBC で放送される英語とは懸け離れて聞

こえます。また、英国から欧州大陸に渡ってよく聞くのが、英国人の英語よりドイツ人の英語の方が聞き

取りやすいということです。しかしこれは慣れの問題であるため、あまり心配することはありません。

次に交渉時の英語のレベルはどうでしょうか。日本人は、良い意味で生真面目で、完璧主義者が多いと

いわれるためか、英語での交渉はどうも不安だという人が少なくありません。そこで、英語でのコミュニ

ケーションに関して説明します。

■言葉の三つの決まり

コミュニケーションの復習から始めます。まず、言葉に関する三つの決まりを覚えてください。

1)言葉は心です。筆者はたまたま英国に長く住んでいるため、多数の日本人駐在員の帰国に立ち会いまし

た。その経験からはっきり言えることは、現地人に愛され、惜しまれて帰国する人は、英語の点数や学

歴は全く関係がないということです。言葉を学ぶ最大の理由はコミュニケーションの促進であり、コミ

ュニケーションを促進させる最大のエネルギーは心です。相手の心を一生懸命つかもうとしてコミュニ

ケーションを図る人は、語学も対話も上達します。

2)言葉は文化です。語学を上達させたいと思ったとき、言語だけ勉強しても限界があります。言葉の背景

には必ず文化があります。その文化に関心を持たず、あるいはそれを無視してコミュニケーション能力

の向上を期待するのは無理な話です。

3)言葉はマナーです。言葉を介さないコミュニケーションは、時には言葉以上に効果があります。例えば、

一般的に日本人はあまり得意ではありませんが、相手と仲良くしたいと思ったら、言葉を発するよりも

相手に適宜スマイルを送った方が、数段効果があります。ジェスチャーやマナーも大変重要なコミュニ

ケーション手段であることを心に留めておいてください。

(1)言語(英語)の壁については、次回(本連載の第 8 回)でも引き続き説明します。また(2)伝達

方法の壁については同じく第 8 回、(3)文化の壁については第 9 回で説明します。

記事提供:Global Link Consultants Ltd. (U.K.)

経営責任者 安高 純一

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~本レポートに関するアンケートも実施中~

(回答時間:10 秒。回答期限:2018年 12月 6日)

https://s.bk.mufg.jp/cgi-bin/5/5.pl?uri=uBk9eN

(編集・発行) 三菱 UFJ 銀行 国際業務部

(照会先)松山 昭浩 松山 佳奈枝

(e-mail): [email protected]

本レポートのバックナンバーは、以下の URL からご覧いただけます。 http://www.bk.mufg.jp/houjin/kokusai_gaitame/report/index.html