3 341 (2018) : 1
ディジタル信号処理
第 3回
離散時間信号のフーリエ解析
電 341 ディジタル信号処理 (2018) 琉球大学工学部電気電子工学科 担当:半塲 1
フーリエ解析とは
• フーリエ級数やフーリエ変換に基づく解析学をフーリエ解析という (岩波数学入門事典).
(教科書の定義は正確ではない. 「フーリエ解析
は信号の周波数解析に応用される」が正しい. )
• フーリエ級数, フーリエ変換の双方に, バリエーションがある
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• 独立変数の数 (1個, 2個以上), もとの信号の独立変数が連続的か離散的か, 関数展開や変換にどのような関数を使うか, etc...
• 独立変数が連続的で 1個であり展開や変換に正弦波を用いるのが, 電気数学 IIIで学ぶフーリエ級数 (対象は周期関数)とフーリエ変換 (対象は非周期関数).
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• ディジタル信号処理におけるフーリエ級数やフーリエ変換では, もとの信号の独立変数が離散的ことが普通. これが今回の講義の主題であるが・・・
• それに先立って,電気数学 IIIで学んだフーリエ級数について復習しておく.
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フーリエ級数
• フーリエ級数の発想の基礎になるのは,Weier-
strassの多項式近似定理:
「有界閉区間で定義された連続関数は多項式によって一様近似できる」
上記定理については例えばRudin, Principles of Mathematical Analysis, 3/e, McGraw-Hil, 1976
参照. 近似多項式の構成法は数値解析の分野に属する. 定理の証明は述べない. Weierstrassの多項式近似定理はもっと一般化でき (Stone-Weierstrassの定理, 上述書), 定義域は一般のコンパクト集合でよく, 多項式も他の関数系に変更できるが, この講義の議論で必要なのは複素平面の単位円板で定義された連続関数の多項式による近似.
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• 実軸で定義された周期が 2πの連続関数 f0を考える. f0(0) = f0(2π)と仮定する.
• f(ejθ) = f0(θ)によって, 複素単位円上の関数f を定義する (0 ≤ θ < 2π). ejθ = zとおく(f(ejθ) = f(z))と, 単位円はコンパクトだから, Stone-Weierstrassの定理が適用できて・・・
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• fは p(z) = a0zN +a1z
N=1+ · · ·+aN−1z+aNによって定められる多項式 pによって (単位円上で)近似でき, 高次の多項式をうまく取れば誤差をいくらでも減らせる.
• z = ejθ を代入すると, p(ejθ) = a0ejNθ +
a1ej(N−1)θ+ · · ·+aN−1e
jθ+aN という形になる. これはすでに複素フーリエ級数とおおむね同じ形.
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• ejθ = cos θ + j sin θを代入すると,
p(ejθ) =
N∑
m=0
Am cos(mθ) +
N∑
m=1
Bm sin(mθ)
という形になる.係数 Am0≤m≤N と Bm1≤m≤N の値は上式から代入および式変形によって計算されたもの
結論: 連続な周期関数が三角関数の多項式(フーリエ多項式)で近似できるのは当然.
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• 実は, 三角関数系は (Weierstrassの多項式近似定理が一般化された) Stone-Weierstrassの定理の条件を満たすことが直接確認できるので, 多項式を経由することなく, 連続な周期関数が三角関数の多項式 (フーリエ多項式)で近似できることが示せる.
• まだAmとBmの決定法を述べていなかったので, これについて議論する.
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変数を tに変えて, 各時刻 tで, f(t) ≃∑N
m=0 Am cos(mt) +∑N
m=1 Bm sin(mt) となるような近似を考える. 三角関数系の直交性を使うと,
•∫ 2π
0f(t)dt =
∫ c
02πA0 = 2πA0, よって
A0 = (1/2π)∫ 2π
0f(t)dt;
•∫ 2π
0f(t) cosmt =
∫ 2π
0Am cos2(mt)dt = πAm, よって
Am = (1/π)∫ 2π
0f(t) cos(mt)dt
•∫ 2π
0f(t) sinmt =
∫ 2π
0Am sin2(mt)dt = πBm, よって
Bm = (1/π)∫ 2π
0f(t) sin(mt)dt.
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まとめると, 周期 2πの関数に対し・・・
f(t) ≃
∞∑
m=0
Am cos(mt) +
N∑
m=1
Bm sin(mt)
A0 =1
2π
∫ 2π
0
f(t)dt
Am =1
π
∫ 2π
0
f(t) cos(mt)dt (1 ≤ m < ∞)
Bm =1
π
∫ 2π
0
f(t) sin(mt)dt (1 ≤ m < ∞)
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周期がT のときには, 2πをT に変えて・・・
f(t) ≃
∞∑
m=0
Am cos
(2πm
Tt
)
+
N∑
m=1
Bm sin
(2πm
Tt
)
A0 =1
T
∫ T
0
f(t)dt
Am =2
T
∫ T
0
f(t) cos
(2πm
Tt
)
dt (1 ≤ m < ∞)
Bm =2
T
∫ T
0
f(t) sin
(2πm
Tt
)
dt (1 ≤ m < ∞)
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始めから複素指数関数 ej2πm
Ttを使うと・・・
f(t) ≃∑
m∈Z
Cmej 2πm
Tt
Cm =1
T
∫ T
0
f(t)e−2πm
Ttdt, m ∈ Z
これは複素フーリエ級数,複素形 (の)フーリエ級数などと呼ばれる. Eulerの公式を使って三角関数との対応を取るので,
m ∈ Zとしなければならない. 教科書 p. 27 表 3.1は Ω0が未定義のため意味不明になっているが, Ω0 = 2π/T とすれば教科書と同じ形になる.
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近似の式 f(t) ≃ · · · で≃を等号にできるか?
• ≃の右側が有限和のとき: 一般には等号にできない.
• ≃の右側が無限和のとき: Stone-Weierstrassの定理により, 関数 f が連続であれば, 等号にできる.
• フーリエ級数は区分的に連続と呼ばれる性質を持つ関数に対して定義できるが,不連続点では無限和を取っても≃を等号にできるとは限らない.
フーリエ級数の詳しい性質については電気数学 IIIの守備範囲なのでこの講義ではこれ以上述べない.
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フーリエ変換
• 数学的な正当性を無視してフーリエ級数に機械的に極限演算を適用すると, 次の形が得られる.
F (ν) =
∫ ∞
−∞
f(t)e−j2πνtdt
f(t)?=
∫ ∞
−∞
F (w)ej2πνtdν
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• 関数 f に g(ν) =
∫ ∞
−∞
f(t)e−j2πνtdtによって
定まる関数をgを対応させる変換を, fのフーリエ変換と呼び, F [f ]であらわす (g = F [f ]).
• 関数 gに h(t) =
∫ ∞
−∞
g(ν)ej2πνtdνによって定
まる関数を hを対応させる変換を, f のフーリエ逆変換と呼び, F−1[g]であらわす (h =
F [f ]).
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• 条件が良い関数 f を Fourier変換してから逆変換すると, もとに戻る (F−1[F [f ]] = f). たとえば, fとF [f ]がともに連続かつ絶対可積分である場合.
• 「どういう条件のもとで」「どういった意味で」もとに戻るかに関する議論は複雑.
• 以上で述べたフーリエ変換の式は教科書と少し違うが, Ω = 2πνとして書き直すと・・・
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g(Ω) (= g(Ω/(2π))) =
∫ ∞
−∞
f(t)e−jΩtdt
h(t) =1
2π
∫ ∞
−∞
g(Ω)ejΩtdΩ
これが教科書に述べられている形.
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• 直前の式の gに gを代入すると
h(t) =1
2π
∫ ∞
−∞
g(Ω/(2π))ejΩtdΩ となるが, ここでΩ =
2πνと変数変換すると,
h(t) =
∫ ∞
−∞
g(ν)ej2πνtdν となり, 最初に述べた式が出
て来る.
• フーリエ変換および逆変換において 2πをどこに付けるかについては,様々なバリエーションがあり (教科書によって記述が違う), 混乱しやすいので注意.
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教科書に出て来る「フーリエ変換」
• フーリエ級数 (Fourier Series, FS)
• フーリエ変換 (Fourier Transofrm, FT)
• 離散時間フーリエ変換 (Discrete-Time Fourier Trans-
form, DTFT)
• 離散時間フーリエ級数 (Discrete-Time Fourier Series,
DTFS)
• 離散フーリエ変換 (Discrete Fourier Transform, DFT)
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• フーリエ級数は教科書では取り扱われていない (既に復習した).
• フーリエ変換は 4章で簡単に取り扱われる.
• 離散フーリエ変換は 5章で取り扱われる (式の形は離散時間フーリエ級数と同じ)
• 今回の講義では,離散時間フーリエ級数と離散時間フーリエ変換を取り扱う.
• この講義ではほとんど取り扱わないが, 信号処理では上述の「フーリエ変換」以外にも色々な変換が出て来るので注意.
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離散時間フーリエ級数
• 離散時間フーリエ級数は周期的な離散時間信号に対して定義される.
• xを周期N の離散時間信号とする (以下では「周期」を「基本周期」の意味で使う).
• Ω = 2π/N と定義する.
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• xに対応する離散時間フーリエ係数を次のようにして定義する:
X [m] =N−1∑
k=0
x[k]e−jΩmk (0 ≤ m < N).
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• xは (X [0], . . . , X [n−1])から次のようにして求められる (証明はかなり後):
x[n] =1
N
N−1∑
m=0
X [m]ejΩmn (0 ≤ n < N).
• 上式右辺の級数を離散時間フーリエ級数と呼ぶ.
電 341 ディジタル信号処理 (2018) 琉球大学工学部電気電子工学科 担当:半塲 24
• 以下の対になった式を離散時間フーリエ級数対と呼ぶことがある (教科書 p.29).
X [m] =
N−1∑
k=0
x[k]e−jΩmk (0 ≤ m < N)
x[n] =1
N
N−1∑
m=0
X [m]ejΩmn (0 ≤ n < N)
電 341 ディジタル信号処理 (2018) 琉球大学工学部電気電子工学科 担当:半塲 25
• 教科書では xから (X [0], . . . , X [n− 1])が導かれることが示されているが, (X [0], . . . , X [n − 1])は xから定義されているので, 教科書の説明は論理的におかしい.
• 上記で定義されているのは, 有限長の信号(x[0], . . . , x[N − 1]) ⇐⇒ (X [0], . . . , X [N − 1])
の対応関係であって, xの周期性は用いられていない(後で述べる遅延や畳み込みに関する性質を導くときには xの周期性が利用される). したがって, 本節の離散時間フーリエ級数と第 5章で述べられる離散フーリエ変換 (教科書表 3.1, 5行目)は本質的に同じ物なのであるが, 教科書では区別している.
電 341 ディジタル信号処理 (2018) 琉球大学工学部電気電子工学科 担当:半塲 26
• X [m] は 0 ≤ m < N に対して定義されていたが, 同じ式を使って, m ∈ Z に対し, X [m] =∑N−1
k=0 x[k]e−jΩmk によって X [m]を定義することができる. このように拡張された信号を X と書く. Ω =
2π/N であるから, p ∈ Z に対し, X [m + pN ] =∑N−1
k=0 x[k]e−jΩ(m+pN)k =∑N−1
k=0 x[k]e−jΩmke−j 2πN
pkN
︸ ︷︷ ︸
=1
=
∑N−1k=0 x[k]e−jΩmk = X [m]となり, X は周期N を持つ.
換言すると, Xは (X [0], . . . , X [N − 1])が反復されている信号である.
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• 説明の便宜上一時的にxF = (x[0], . . . , x[N − 1]), XF = (X [0], . . . , X [N − 1])
とおくと, 離散時間フーリエ級数とは, 無限列(. . . , xF , xF , xF , . . .)と無限列 (. . . , XF , XF , XF , . . .) の対応関係を与えるものであって, xF とXF が一対一に対応し, 残りの部分は周期性から自動的に決まる, というふうに解釈することができる.
• xからXを求める手順を信号の解析 (Analysis), Xから xを求める手順を信号の合成 (Synthesis)と呼ぶことがある.
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• x[n] = 1N
∑N−1m=0 X [m]ejΩmnとなること (これはまだ示
されていない)を示すためには, N = 1の場合 (一定値の信号)と, N > 1の場合で, 別の証明が必要であるが,
教科書ではN = 1の場合は議論されていない. 以下では両方の場合の証明を述べる (N = 1の場合はほぼ自明). N > 1の場合の証明は一見長く見えるが, 本質的には等比級数の公式を使っているだけである.
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N 6= 1の場合0 ≤ n < N なる nに対し,
z[n] =1
N
N−1∑
m=0
X [m]ejΩmn (0 ≤ n < N)
と定義する. どの nに対しても z[n] = x[n]であることを言えばよい.
先の式にX [m]の定義を代入すると,
z[n] =1
N
N−1∑
m=0
N−1∑
k=0
x[k]e−jΩmkejΩmn =1
N
N−1∑
m=0
N−1∑
k=0
x[k]ejΩm(n−k)
となる.
電 341 ディジタル信号処理 (2018) 琉球大学工学部電気電子工学科 担当:半塲 30
上述の和を, k = nの場合と k 6= nの場合に分けると,
z[n] =1
N
(N−1∑
m=0
x[n] +
N−1∑
m=0
∑
k 6=n
x[k]ejΩm(n−k)
)
となる. 上式において, 第 1項の和の内部がmに依存しないことと,
第 2項では有限和ゆえ和の順序交換が可能であることから,
z[n] =1
N
(
Nx[n] +∑
k 6=n
N−1∑
m=0
x[k]ejΩm(n−k)
)
= x[n] +1
N
(∑
k 6=n
x[k]N−1∑
m=0
ejΩm(n−k)
)
となる.
電 341 ディジタル信号処理 (2018) 琉球大学工学部電気電子工学科 担当:半塲 31
さて, 0 ≤ n, k < N であるから, |n− k| < N であり, Ω = 2π/N であることを思い出すと, ejΩ(n−k) = ej2π
n−k
N 6= 1である. したがて, 上記第 2項の二重和の内部の項は, Ω = 2π/N を代入して,
N−1∑
m=0
ej2πN
m(n−k) =N−1∑
m=0
(
ej2πN
(n−k))m
=1− (ej
2πN (n− k))N
1− ej2π(n−k)
N
となるが (等比級数の公式), (ej2πN (n−k))N = ej2π(n−k) = 1だから, こ
の項は零, よって z[n] = x[n]であることが示された.
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N = 1の場合N = 1ということは, 一定値の信号だから, 信号 xは値 x[0]が無限に続いた信号である. 定義により, 離散フーリエ係数として定まるのはX [0]のみであり, X [m]の定義X [m] =
∑N−1k=0 x[k]e−jΩmkにm = 0と
N = 1を代入すると, X [0] = x[0]となる. N > 1の場合と同様に z[n]
を定義すると, z[n] = 1N
∑N−1m=0 X [m]ejΩmn, 0 ≤ n < N であるが, 再
びN = 1を代入しX [0] = x[0]を用いると, z[0] = x[0]となる.
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• 教科書では, 信号 xを時間領域の信号, 信号X を周波数領域の信号と呼んでいる (p. 30
表 3.2上段). 小文字が時間領域, 対応する大文字が周波数領域という解釈である (このような文字の使い分けをしない教科書もあるので注意).
電 341 ディジタル信号処理 (2018) 琉球大学工学部電気電子工学科 担当:半塲 34
離散時間フーリエ級数の別の定義:
• xに対応する離散時間フーリエ係数の定義:
X [m] =1
N
N−1∑
k=0
x[k]e−jΩmk (0 ≤ m < N).
• xのXからの合成:
x[n] =N−1∑
m=0
X [m]ejΩmn (0 ≤ n < N).
• 1/N をどちらに付けるかについて自由度があり, 教科書によって記述が異なる.
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• 教科書では無限長周期信号の離散時間フーリエ級数と有限長信号の離散フーリエ変換 (第 5章)を区別しているが, これらは定義域の解釈が異なる以外には同じものである. そこで, 以下ではしばらく, 第 5章の記号を援用して, xとX が対応しているとき, X = FDFT[x],
x = F−1DFT[X ]と書く.
• この記号を使うと, 以上で述べた事実は, 簡潔に,
F−1DFT[FDFT[x]] = xと書ける.
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• さて, 上記において, 作用素の順番を入れ換えた,
FDFT[F−1DFT[X ]] = X という等式は成り立つだろうか?
これが言えるのであれば, FDFTとF−1DFTは互いに逆作
用素になっているといえる.
• 以上で述べた計算は e−jΩnkを ejΩnkに変更してもそのまま成立するから, 1/N が FDFT と F−1
DFTのどちらに掛かるかという違いにさえ注意すれば, 以上と同様の計算によってFDFT[F
−1DFT[X ]] = Xが示せることもわか
る. したがって, FDFTと F−1DFTは互いに逆作用素であ
る. ここから, FDFTと F−1DFTはどちらも全単射である
こともわかる.
電 341 ディジタル信号処理 (2018) 琉球大学工学部電気電子工学科 担当:半塲 37
FDFT[·]と F−1DFT[·]はともに全単射で, 互いに逆作
用素になっているから, FDFT F−1DFT = I, F−1
DFT
FDFT = I (I は恒等作用素, は作用素の合成)となることを今後わざわざ示す必要はない. X =
FDFT[x]であれば自動的に x = F−1DFT[X ]がいえる
し, x = F−1DFT[X ]であれば自動的にX = FDFT[X ]
がいえる.
電 341 ディジタル信号処理 (2018) 琉球大学工学部電気電子工学科 担当:半塲 38
離散時間フーリエ級数の性質 教科書 pp. 29–31
• 以下の議論では, しばらく x, x1, x2はすべて周期N の周期的信号であると仮定する.
• x, x1, x2に対応する離散フーリエ係数か作る信号をX , X1, X2と書く. 以下では, X , X1,
X2は, 先に述べた手順によって, 周期Nを持つ無限長の信号になっているものと仮定する.
電 341 ディジタル信号処理 (2018) 琉球大学工学部電気電子工学科 担当:半塲 39
線形性 (教科書 表 3.1 1 行目)
• 信号 a1x1 + a2x2の離散フーリエ係数は∑N−1
k=0 (a1x1[k] + a2x2[k])e−jΩmkだから,
FDFT[a1x1 + a2x2] = a1X1 + a2X2である.
• F−1DFT[·]を両辺に適用すると,
a1x1 + a2x2 = F−1DFT[a1X1 + a2X2].
電 341 ディジタル信号処理 (2018) 琉球大学工学部電気電子工学科 担当:半塲 40
教科書, 表 3.2の 2行目以降を導出するために, 準備的な事実を導いておく. x
が周期 N を持つものとし, Ω = 2π/N とおく. c, k ∈ Z に対し, X [c, k] =∑c+N−1
m=c x[m]e−jΩmk と定義する. X [c, k] =∑N−1
m=0 x[m]e−jΩmk = X [k]となることを証明する. まず, ある p ∈ Zに対し, c = pN + c1, 0 ≤ c1 < Nと書ける. そして, m1 = m− pN とおくと, m = m1 + pN で,
X [c, k] =∑c1+N−1
m1=c1x[m1 + pN ]e−jΩ(m1+pN)k であるが, x[m1 + pN ] = x[m1],
e−jΩ(m1+pN)k = e−jΩm1ke−jΩpNk = e−jΩm1k (Ω = 2π/N を思い出すこと) より, X [c, k] =
∑c1+N−1m1=c1
x[m1]e−jΩm1k である. c1 = 0 なら, これは既に求
めたい形になっているので c1 6= 0 の場合を考える. この場合, X [c, k] =∑N−1
m1=c1x[m1]e
−jΩm1k +∑c1+N−1
m1=N x[m1]e−jΩm1k であるが, m2 = m1 − N とおく
と, 第 2項は∑c1−1
m2=0 x[m2 + N ]e−jΩ(m2+N)k =∑c1−1
m2=0 x[m2]e−jΩm2k と書き直せ
る (再び xの周期性と Ω = 2π/N であることを使う). m2 をm1 と書き直して第 1項とまとめれば, X [c, k] =
∑N−1m1=c1
x[m1]e−jΩm1k +
∑c1−1m1=0 x[m1]e
−jΩm1k =∑N−1
m1=0 x[m1]e−jΩm1kとなり, m1をmと書き直せば, 所望の等式が得られる.
電 341 ディジタル信号処理 (2018) 琉球大学工学部電気電子工学科 担当:半塲 41
以上でわかったことは, c ∈ Zをどう取っても
X [k] =c+N−1∑
m=c
x[m]e−jΩmk
となること,すなわち離散フーリエ級数を求めるときには, N 個の連続した時刻における xの値を使うのであれば,どの時刻を用いてもよいということである.
電 341 ディジタル信号処理 (2018) 琉球大学工学部電気電子工学科 担当:半塲 42
時間領域のmシフト (教科書 表 3.2 2 行目)
τmを時間軸に関してmシフトする作用素とし,
Z = FDFT[τmx]とすると,
Z[n] =
N−1∑
k=0
(τmx[k])e−jΩnk =
N−1∑
k=0
(x[k −m])e−jΩnk
=
N−1∑
k=0
(x[k −m])e−jΩn(k−m)e−jΩnm = e−jΩnmX [n]
電 341 ディジタル信号処理 (2018) 琉球大学工学部電気電子工学科 担当:半塲 43
周波数領域のmシフト (教科書 表 3.2 3 行目)
τmを周波数軸に関してmシフトする作用素とし,
z = F−1DFT[τmX ]とすると,
z[n] =N−1∑
k=0
(τmX [k])ejΩnk =N−1∑
k=0
(X [k −m])ejΩnk
=
N−1∑
k=0
(X [k −m])ejΩn(k−m)ejΩnm = ejΩnmx[n]
電 341 ディジタル信号処理 (2018) 琉球大学工学部電気電子工学科 担当:半塲 44
周期的畳み込み (教科書 表 3.2 4,5 行目)
• x2♯x2 (時間領域の周期的畳み込み)とX1♯X2
(周波数領域の周期的畳み込み)を次のように定義する.
(x1♯x2)[n] =N−1∑
m=0
x1[m]x2[n−m],
(X1♯X2)[n] =
N−1∑
m=0
X1[m]X2[n−m]
電 341 ディジタル信号処理 (2018) 琉球大学工学部電気電子工学科 担当:半塲 45
• 畳み込みと周期的畳み込みの違いは, 後者は周期的波形を対象としていることと, 有限和であること.
• 次の事実が示される:
FDFT[x1♯x2] = X1X2, F−1DFT
[1NX1♯X2
]= x1x2
• 表 3.2の第 4行は合っているが,第 5行は誤り
• 計算は和の順番を入れ換えるだけ, 有限和なので畳み込みのような注意は不要.
電 341 ディジタル信号処理 (2018) 琉球大学工学部電気電子工学科 担当:半塲 46
(FDFT[x1♯x2]) [n] =
N−1∑
k=0
(x1♯x2)[k]e−jΩnk
=N−1∑
k=0
N−1∑
m=0
x1[m]x2[k −m]e−jΩnk
=
N−1∑
k=0
N−1∑
m=0
x1[m]e−jΩnmx2[k −m]e−jΩn(k−m)
=
N−1∑
m=0
N−1∑
k=0
x1[m]e−jΩnmx2[k −m]e−jΩn(k−m)
= X1[n]X2[n]
電 341 ディジタル信号処理 (2018) 琉球大学工学部電気電子工学科 担当:半塲 47
(
F−1DFT
[1
NX1♯X2
])
[n] =1
N
N−1∑
k=0
(1
NX1♯X2)[k]e
jΩnk
=1
N2
N−1∑
k=0
N−1∑
m=0
X1[m]X2[k −m]ejΩnk
=1
N2
N−1∑
k=0
N−1∑
m=0
X1[m]ejΩnmX2[k −m]ejΩn(k−m)
=1
N
N−1∑
m=0
X1[m]ejΩnm 1
N
N−1∑
k=0
X2[k −m]ejΩn(k−m)
= x1[n]x2[n]
電 341 ディジタル信号処理 (2018) 琉球大学工学部電気電子工学科 担当:半塲 48
共役, 実数性 (教科書 表 3.2 6–8 行目)
• 以下, 複素数値を取る周期N の信号を考える.
• 教科書の記号x[n]が何を表しているか不明であるが, この講義では, xの全時刻における値をその複素共役に変えた信号を xと書き, 複素数 x[n]の複素共役を x[n]と書く. xの時刻 nにおける値を通常通り x[n]と書く.
• 信号 xは, 各時刻 nで x[n] = x[n]を満たすように作られている, というのが, 先に述べた内容である.
• 表の6行目と7行目は次のようなことを言いたいらしい.
電 341 ディジタル信号処理 (2018) 琉球大学工学部電気電子工学科 担当:半塲 49
X [−n] = X [−n] =
N−1∑
m=0
x[m]e−jΩm(−n) =
N−1∑
m=0
x[m]e−jΩmn
=N−1∑
m=0
x[n]e−jΩmn = (FDFT[x]) [n]
x[−n] = x[−n] =1
N
N−1∑
m=0
X [m]ejΩm(−n =1
N
N−1∑
m=0
X [m]ejΩmn
=1
N
N−1∑
m=0
X [m]ejΩmn =(F−1
DFT[X ])[n]
電 341 ディジタル信号処理 (2018) 琉球大学工学部電気電子工学科 担当:半塲 50
xが実数であれば・・・
X [−n] = X [−n] =
N−1∑
m=0
x[m]e−jΩm(−n)
=N−1∑
m=0
x[m]e−jΩmn = X [n].
表 3.2 の 8行目はこれを言っている.
電 341 ディジタル信号処理 (2018) 琉球大学工学部電気電子工学科 担当:半塲 51
離散時間フーリエ変換
• 本節では離散時間フーリエ変換 (Discrete-
time Fourier Transform, DTFT)について述べたいのであるが・・・
• 実はこれは (複素)フーリエ級数の見方を変えただけのものなので, 複素形のフーリエ級数について復習する.
電 341 ディジタル信号処理 (2018) 琉球大学工学部電気電子工学科 担当:半塲 52
複素形のフーリエ級数 (周期T )
f(t) ≃∑
m∈Z
Cmej 2πm
Tt
Cm =1
T
∫ T
0
f(t)e−2πm
Ttdt, m ∈ Z
T = 2πを代入する (以下ではこの場合しか使わない). また,
和を取る変数mを nに変える.
電 341 ディジタル信号処理 (2018) 琉球大学工学部電気電子工学科 担当:半塲 53
複素形のフーリエ級数 (周期 2π)
f(t) ≃∑
n∈Z
Cnejnt
Cm =1
2π
∫ 2π
0
f(t)e−ntdt, n ∈ Z
複素形のフーリエ級数で, ejntを e−jntに変えても, フーリエ級数の係数の計算で (ejnt)n∈Zが出る部分の計算は変わらないから, 次のような複素形のフーリエ級数の変形版を作ることができる.
電 341 ディジタル信号処理 (2018) 琉球大学工学部電気電子工学科 担当:半塲 54
複素形のフーリエ級数 (周期 2π), 変形版
f(t) ≃∑
n∈Z
Cne−jnt
Cn =1
2π
∫ 2π
0
f(t)entdt, n ∈ Z
記号を次のように変更する:
旧 t f Cn
新 ω X x[n]
書き換えの結果は次ページ.
電 341 ディジタル信号処理 (2018) 琉球大学工学部電気電子工学科 担当:半塲 55
X(ω) ≃∑
n∈Z
x[n]e−jnω
x[n] =1
2π
∫ 2π
0
X(ω)enωdω, n ∈ Z
• フーリエ級数では関数X(もとの記号では関数 f)から信号 x(もとの記号では係数Cn)が定義された.
• これらの役割を反転して, 信号 xから関数Xを定義するのが離散時間フーリエ変換で本質的にフーリエ級数と同じもの.
• これが定義できるためには, 信号 xに条件を付けなければならない.
電 341 ディジタル信号処理 (2018) 琉球大学工学部電気電子工学科 担当:半塲 56
• 信号xがx ∈ l1を満たすものとする (x ∈ l1は∑∞
n=−∞ |x[n]| < ∞であること意味である.
• xの離散時間フーリエ変換とは, 次式によって定義される区間 [0, 2π)で定義された関数である (等号に注意; 教科書でX(ejω)となっていることとの相異の理由は後述).
X(ω) =∑
n∈Z
x[n]e−jnω
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• t < 0あるいは t ≥ 2πに対して先の定義を機械的に適用すると, 関数 f は実軸全体で定義された周期 2πの周期関数に拡張される.
• x[n] (n ∈ Z) はX から次式によって復元される. 導出はフーリエ級数と同一.
x[n] =1
2π
∫ 2π
0
X(ω)enωdω.
電 341 ディジタル信号処理 (2018) 琉球大学工学部電気電子工学科 担当:半塲 58
• 以下の対になった式を, 離散時間フーリエ変換対という.
X(ω) =∑
n∈Z
x[n]e−jnω
x[n] =1
2π
∫ 2π
0
X(ω)enωdω, n ∈ Z
第一の式を解析, 第二の式を合成と呼ぶことがある.
電 341 ディジタル信号処理 (2018) 琉球大学工学部電気電子工学科 担当:半塲 59
• Log z を対数関数の主値とし, Y (z) = (X Log )(z)
と定義すれば, Y (ejω) = X(Log (ejω)) = X(ω)となるから, X(ω) を Y (ejω) と書き換えれば, Y (ejω) =∑
n∈Z x[n]e−jnω,
x[n] = 12π
∫ 2π
0Y (ejω)enωdω (n ∈ Z) とできる. 教科書
はこの形になっており,ディジタル信号処理ハンドブックでも同じ形が採用されている.
• 時間の都合で, 離散時間フーリエ変換の性質の解説は次回に回す.
電 341 ディジタル信号処理 (2018) 琉球大学工学部電気電子工学科 担当:半塲 60
• 離散時間フーリエ級数において,「時間領域」の信号 x
を l1に属するものと仮定した場合, xの離散時間フーリエ変換は連続関数になるが, l1を離散時間フーリエ変換することで得られる関数の集合は周期 2πの連続関数全体の部分集合になる. 一方, l2に属する信号は離散時間フーリエ変換できるが (l1 ⊂ l2である), それを離散時間フーリエ変換したものは必ずしも連続関数にはならない. 詳細については文献を参照せよ.
電 341 ディジタル信号処理 (2018) 琉球大学工学部電気電子工学科 担当:半塲 61
参考文献 (教科書以外)
樋口, 川又, MATLAB対応ディジタル信号処理, 昭晃堂, 2000.
電子情報通信学会編, ディジタル信号処理ハンドブック, オーム社, 1993.
新井, 新・フーリエ解析学と関数解析学, 培風館, 2010.
A. V. Oppenheim and R. W. Schafter, Discrete-Time Signal Processing, Inter-
national Ed., Pearson, 2010.
M. Mandal and A. Asif, Continuous and Discrete Time Signals and Systems,
Cambridge University Press, 2007.
K. B. Howell, Principles of Fourier Analysis, 2/e, CRC Press, 2017.
これらの資料はこの講義で今後も参考にするが,毎回の資料で一々書くことは省略する. 参考書は今後も必要に応じて追加してゆく.
電 341 ディジタル信号処理 (2018) 琉球大学工学部電気電子工学科 担当:半塲 62