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2011.3 金属資源レポート 71 米国エネルギー省クリティカル物質戦略の 需給予測 金属企画調査部 1. 短中期のキーとなる物質の需要予測 キーとなる物質の将来的需要には、クリーンエネル ギー及びそれ以外のエネルギー分野を含めており、予 測ステップは以下のとおりである。 (a)クリーンエネルギー技術以外の分野(携帯通信 機器、研磨剤、薄型テレビなど)でキーとなる物 質の需要を予測 (b)クリーンエネルギー技術4分野(永久磁石、先 進電池、太陽電池薄膜、蛍光体)でのキーとなる 物質需要を予測。予測には、以下の3要因を考慮: クリーンエネルギー技術の普及レベル、市場占有 率、物質集約度 (c)クリーンエネルギー技術で使用される各キー物 質の 2010 年〜 2025 年の需要予測に関して、将来 的需給不均衡のリスクを評価するために、以下の とおり4つのシナリオを想定(表1参照) 2010 年 12 月 15 日、 米 国 エ ネ ル ギ ー 省(DOE:Department of Energy) は ク リ テ ィ カ ル 物 質 戦 略(Critical Materials Strategy)に関するレポートを公表した(2011 年1月 27 日掲載カレント・トピックス参照)。今回は本レ ポートの中から特に第 7 章のレアアースを中心とするクリティカル物質の需給予測を紹介する。 はじめに 本レポートの第7章では、クリーンエネルギー技術の普及によって、レアアース及び他のキーとなる物質の需給バ ランスの不均衡が起こる可能性について調査を実施し、リスク評価のため、キーとなる物質の需要レベルと供給レベ ルを比較している。本章の構成は以下のとおりである。1、2では、それぞれ需要、供給の予測方法について仮定を 行い、その仮定を元に3から6において 4 つの技術分野で使用される各物質に関する短・中期の需給動向を予測して いる。更に7では市場へ影響を与える要因について分析を行い、8では結論を示している。 1. 短中期のキーとなる物質の需要予測 2. 短中期のキーとなる物質の供給予測 3. 磁石技術におけるレアアースの需給動向 4. 電池技術におけるレアアース等の需給動向 5. 太陽電池薄膜発電システムにおけるレアメタルの需給動向 6. 高効率照明システムのための蛍光体におけるレアアースの需給動向 7. レアアース及び他のキーとなる物質の価格と利用可能性に影響を与える市場力学 8. 結論 871表1. キーとなる物質に関する需要予測 需要シナリオ 市場浸透度 クリーンエネルギー部品の 物質集約度 一般的クリーンエネルギー 技術の世界的普及レベル クリーンエネルギー技術製 品の市場占有率 シナリオ A シナリオ B シナリオ C シナリオ D
20

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Oct 17, 2020

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海外レポート

米国エネルギー省クリティカル物質戦略の需給予測

2011.3 金属資源レポート 71

米国エネルギー省クリティカル物質戦略の需給予測

金属企画調査部

1. 短中期のキーとなる物質の需要予測キーとなる物質の将来的需要には、クリーンエネル

ギー及びそれ以外のエネルギー分野を含めており、予

測ステップは以下のとおりである。

(a)クリーンエネルギー技術以外の分野(携帯通信

機器、研磨剤、薄型テレビなど)でキーとなる物

質の需要を予測

(b)クリーンエネルギー技術4分野(永久磁石、先

進電池、太陽電池薄膜、蛍光体)でのキーとなる

物質需要を予測。予測には、以下の3要因を考慮:

クリーンエネルギー技術の普及レベル、市場占有

率、物質集約度

(c)クリーンエネルギー技術で使用される各キー物

質の 2010 年〜 2025 年の需要予測に関して、将来

的需給不均衡のリスクを評価するために、以下の

とおり4つのシナリオを想定(表1参照)

2010 年 12 月 15 日、米国エネルギー省(DOE:Department of Energy)はクリティカル物質戦略(Critical

Materials Strategy)に関するレポートを公表した(2011 年1月 27 日掲載カレント・トピックス参照)。今回は本レ

ポートの中から特に第 7 章のレアアースを中心とするクリティカル物質の需給予測を紹介する。

はじめに本レポートの第7章では、クリーンエネルギー技術の普及によって、レアアース及び他のキーとなる物質の需給バ

ランスの不均衡が起こる可能性について調査を実施し、リスク評価のため、キーとなる物質の需要レベルと供給レベ

ルを比較している。本章の構成は以下のとおりである。1、2では、それぞれ需要、供給の予測方法について仮定を

行い、その仮定を元に3から6において 4 つの技術分野で使用される各物質に関する短・中期の需給動向を予測して

いる。更に7では市場へ影響を与える要因について分析を行い、8では結論を示している。

1. 短中期のキーとなる物質の需要予測2. 短中期のキーとなる物質の供給予測3. 磁石技術におけるレアアースの需給動向4. 電池技術におけるレアアース等の需給動向5. 太陽電池薄膜発電システムにおけるレアメタルの需給動向6. 高効率照明システムのための蛍光体におけるレアアースの需給動向7. レアアース及び他のキーとなる物質の価格と利用可能性に影響を与える市場力学8. 結論

(871)

表1. キーとなる物質に関する需要予測

需要シナリオ市場浸透度

クリーンエネルギー部品の物質集約度一般的クリーンエネルギー

技術の世界的普及レベルクリーンエネルギー技術製

品の市場占有率

シナリオA 低 低 低

シナリオ B 低 低 高

シナリオC 高 高 低

シナリオD 高 高 高

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米国エネルギー省クリティカル物質戦略の需給予測

2011.3 金属資源レポート72(872)

2010 年〜 2025 年の期間におけるクリーンエネルギ

ーの技術普及レベルとその技術に用いる特定の部品の

市場占有率を予測することは極めて難しい。しかし、

ここでは、クリーンエネルギー技術の世界的普及レベ

ル、クリーンエネルギー技術製品の市場占有率、クリ

ーンエネルギー部品の物質集約度を組み合わせて仮定

を行っている。クリーンエネルギー技術普及レベルと

市場占有率を組み合わせて市場浸透度とし、市場浸透

度と物質集約度が低い場合と高い場合について予測し、

クリーンエネルギー以外の需要に追加することで、表

1のとおり4つのシナリオを作成した。シナリオ A と

B は、各技術の市場浸透度が低い場合で、物質集約度

に関して高低の予測をしている。同様にシナリオ C と

D は、市場浸透度が高い場合で、物質集約度に関して

高低の予測をしている。

*�物質集約度:何かの製品を作るための直接材、間接材すべてを合わせた物質の投入割合

2. 短中期のキーとなる物質の供給予測レアアースの潜在的な生産量増加について以下のと

おり予測している。

−短期のレアアース供給について

2015 年以前に操業を開始する新規7鉱山からの潜

在的な生産量をまとめたものが表2である。

豪州の Mt.Weld 鉱山は 2011 年より、米国カリフ

ォルニア州の Mountain Pass 鉱山は 2012 年後半に

操業開始予定である。

更に、中期的な有望開発先である 14 プロジェクトを

併せた 21 プロジェクトを図1に示す。

表2. 現状及び予想される将来のレアアース供給量(t/年)

元素ごとのレアアース供給量:生産鉱山と量(t/y)

推 定生産量

(2010年)

2015年までの追加生産量予測 2015年までの追 加生産量合 計

2015年推 定生産量

MountainPass

(USA)

Mt.Weld(Australia)

Nolans�Bore

(Australia)

Nechalaco(Canada)

Dong�Pao(Vietnam)

Hoidas�Lake

(Canada)

Dubbo�Zirconia

(Australia)

ランタン 33,887 6,640 3,840 2,000 845 1,620 594 585 16,124 50,011

セリウム 49,935 9,820 6,855 4,820 2,070 2,520 1,368 1,101 28,554 78,489

プラセオジム 6,292 860 810 590 240 200 174 120 2,994 9,286

ネオジム 21,307 2,400 2,790 2,150 935 535 657 423 9,890 31,197

サマリウム 2,666 160 360 240 175 45 87 75 1,142 3,808

ユウロピウム 592 20 90 40 20 18 3 191 783

ガドリニウム 2,257 40 150 100 145 39 63 537 2,794

テルビウム 252 15 10 90 3 9 127 379

ジスプロシウム 1,377 30 30 35 12 60 167 1,544

イットリウム 8,750 20 60 370 35 39 474 998 9,748

合計 127,315 19,960 15,000 9,980 4,925 4,955 2,991 2,913 60,724 188,039

(Source:�Industrial�Minerals�via�Watts(2010))

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2011.3 金属資源レポート 73(873)

−他のキーとなる物質の供給量

クリーンエネルギーの開発にキーとなる元素は、

インジウム、ガリウム、テルル、コバルト、リチ

ウムである。表3は、各元素について、現在の生

産量と 2015 年までの潜在的な追加供給量を示した

ものである。

図1. 中国以外のレアアース・プロジェクト

(Sources:Kingsnorth,�Roskill(2010)and�USGS(2010))

表3. キーとなる元素の現在及び将来の供給量

キーとなる元素の供給量評価:現在及び追加生産量(t)と調達元

推定生産量(2010年)

2010年〜2015年の間の潜在的増加量 推定供給量(2015年)増加量 調達元

インジウム 1,345 267主に増加した亜鉛生産(副産物)からの回収及びリサイクル

1,612

ガリウム 207 118増加したアルミナとボーキサイト生産(副産物)からの回収

325

テルル 500 720 銅アノードスライムからの回収(副産物) 1,220

コバルト 75,900 197,830 鉱山 273,730

リチウム(炭酸塩換算)

134,600 115,400 鉱山 250,000

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2011.3 金属資源レポート74

3. 磁石技術におけるレアアースの需給動向3-1. 需給シナリオとその仮定

永久磁石には、ネオジム、ジスプロシウムなどのレ

アアースが含まれているが、磁石技術でキーとなる物

質の予測シナリオが以下のとおりである。

2010 年時点では、ネオジム鉄ホウ素(NdFeB)磁

石がハイブリッド自動車(HEVs)市場の高効率駆動

モーターの市場を独占しているが、予測では、同傾

向が継続し、ネオジム鉄ホウ素磁石は全プラグイン・

ハイブリッド電気自動車(PHEVs)と電気自動車

(EVs)にも使用されると見られている。

レアアース永久磁石を使用した風力発電の市場シェ

アは現在は小さいものの、今後大幅な拡大を見せる

ものと予想される。

陸上及び洋上(offshore)風力発電及び車両について、

IEA の報告書を元に、ベースラインのシナリオと高普

及レベルのシナリオを作成した。市場占有率及び物質

集約度に関する予測の詳細は以下に記載している。

仮定のベース:IEA の World Energy Outlook(2009

年):風力発電

・低市場普及レベルの場合:“2009 Reference Case”

の項参照

・高市場普及レベルの場合:“450 Scenario”の項参

照(2030 年までに大気中の温室効果ガス濃度を二

酸化炭素換算で 450ppm に安定化)

仮 定 の ベ ー ス:IEA の Energy Technology

Perspectives(2010 年):電気自動車

・低市場普及レベルの場合:“2010 Baseline Case”

の項参照

・高市場普及レベルの場合:“Blue Map Scenario”

の項参照(世界的エネルギー関連 CO2 排出量を

2050 年には半減するための低コストの技術開発シ

ナリオ)

各元素について、元素自体ではなく流通する原料形

態(例:酸化ネオジム)を用いているほか、2010 年

以降操業を開始する2つの鉱山の情報も含んでいる。

3-1-1. 市場占有率に関する仮定(付属文書 Bより)ネオジム鉄ホウ素永久磁石モーターを用いた風力発

電と電気自動車の市場占有率に関する仮定は以下のと

おりである。

風力発電:

・低市場占有率の仮定:陸上及び洋上風力発電の各々

10%で、ネオジム鉄ホウ素永久磁石モーターを用

いる。

・高市場占有率の仮定:陸上風力発電の 25%と洋上

風力発電の 75%でネオジム鉄ホウ素永久磁石モー

ターが用いられる。

 上記仮定の根拠:現在の市場占有率に関して公表

されているデータはないが、業界の専門家との議論

では、現在、一部の風力発電でレアアース永久磁石

を使用しているとのことである。従って、低市場占

有率の仮定は、現在の市場占有率傾向が継続するこ

とを元にしている。高市場占有率の仮定では、大規

模風力発電機(2−3MW の幅)でネオジム鉄ホウ

素永久磁石モーターが優先して用いられ、特に洋上

における新規風力発電プロジェクトにおいて、大規

模風力発電が採用されるという傾向を元にしている。

電気自動車:全電気自動車(HEVs、PHEVs、EVs)は、

ネオジム鉄ホウ素永久磁石モーターを使用する。

 上記仮定の根拠:重量当たりの出力比率が優れて

いるため、ネオジム鉄ホウ素永久磁石モーターは現

在ハイブリッド自動車(HEVs)の車種や Chevy

Volt プラグイン・ハイブリッド電気自動車(PHEV)、

日産 Leaf 電気自動車(EV)に使用されている。レ

アアースを使用しない新型モーターの開発が進んで

いるものの、これらの永久磁石モーターは、電気自

動車市場を長期に渡って独占するものと予想されて

いる。したがって、ネオジム鉄ホウ素永久磁石が

100%の市場占有率となるという仮定は、物質の必要

性に関して最も確実性の高い予測となる。

3-1-2. 物質集約度に関する仮定(付属文書 Bより)ネオジム鉄ホウ素(NdFeB)永久磁石モーターと発

電機に関する物質集約度は下記のとおり、計算される。

風力発電:

 ネオジムとジスプロシウムの物質集約度は、風力

発電1MW 出力当たりのネオジム鉄ホウ素永久磁石

物質の重量から計算を行った。報告書 1 を元にして、

高物質集約度の場合は、全磁石重量を 600kg/MW、

低物質集約度の場合の仮定は全磁石重量を 400kg/

MW と仮定している。ネオジムとジスプロシウムの

含有量は、ネオジム鉄ホウ素磁石の組成を仮定し、

それぞれ 31%と 5.5%と仮定した。

電気自動車:

 ネオジムとジスプロシウムの物質集約度は、車両

1 台当たりのネオジム鉄ホウ素永久磁石の重量から

割り出し、高物質集約度の場合は、報告書 2 に基づ

き1車両当たり2kg、低物質集約度の場合には、報

告書 3 に基づき車両 1 台当たり1kg と仮定した。

 永久磁石の高・低物質含有量の違いに関しては、

短期から中期にかけての技術改良の可能性と各生産

会社の仕様の違いによるものである。物質含有量の

仮定によると、コストを削減し、腐食耐性を向上さ

せるために、ネオジムの代替として 25%までプラセ

オジムを用いることが出来ると言われているが、今

回の仮定ではその場合を含んでいない。また実際、

その代替レベルについては不確定要素でもある。

1 Arnold Magnetic Technologies. 2010.“Response to Department of Energy Request for Information.”June 7.2 General Electric Corporation. 2010.“Response to U.S. Department of Energy Request for Information.”June 7.3 Lifton, J. 2009.“The Rare Earth Crisis of 2009.”The Jack Lifton Report. October 15. In Oakdene Hollins 2010.

(874)

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2011.3 金属資源レポート 75

3-1-3. 磁石技術でのキーとなる物質についての仮定上記の仮定を元に市場浸透度と物質集約度について

計算を行ったものが以下のとおりである。

3-2. ネオジムの需給予測

上記図2は、風力発電と電気自動車技術に関する酸

化ネオジムの 2010 年〜 2025 年の需給予測である。図

2によると、短期的には、酸化ネオジムの基本的な供

給量は十分となっている。

また、高市場浸透度シナリオ(C と D)で酸化ネオ

ジムの需要が高まっているのは、クリーンエネルギー

需要の拡大による。シナリオ C では、風力発電と電気

自動車の世界需要は、2025 年のネオジムの全需要の大

部分(40%)を占めると予想されており、車両用ネオ

ジム需要は、風力発電用需要の約5倍となっているほ

か、シナリオ D のみ、2015 年時点で需要が供給を上回

っている。クリーンエネルギー分野以外の需要のみで

2025 年以前に 2015 年推定供給量を上回るとされてお

り、市場浸透度が需要増加の最大の要因となっている。

今後は、磁石と電池におけるネオジムの使用量削減ま

たは代替物質の開発に関する研究開発が必要とされて

いる。

(875)

表4. 磁石技術でのキーとなる物質についての仮定

技術 仮定 低市場浸透度 高市場浸透度

2025年の普及レベル

風力 陸上風力発電 発電能力増加(GW) 23.6  48.6

風力 洋上(offshore)風力発電 発電能力増加(GW) 4.9  17.0

車両 ハイブリッド電気自動車(HEVs)の販売台数(100万台) 4.2  19.1

車両 プラグイン・ハイブリッド車(PHEVs)の販売台数(100万台) 0.002 13.2

車両 全電気自動車(AEVs)の販売台数(100万台) 0.001 4.6

市場占有率

風力 RE磁石を使用した陸上風力発電 10% 25%

風力 RE磁石を使用した洋上(offshore)風力発電 10% 75%

車両 RE磁石モーターを用いたHEVs,�PHEVs,�AEVs 100% 100%

技術 仮定 低集約度 高集約度

物質集約度

風力 MWごとの平均磁石重量(kg) 400   600 

車両 車両ごとの平均磁石重量(kg) 1.0  2.0

風力と車両 磁石中のネオジム重量比 31% 31%

風力と車両 磁石中のジスプロシウム重量比 5.5% 5.5%

図2. 酸化ネオジムの需給予測

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2011.3 金属資源レポート76

3-3. ジスプロシウムの需給予測

上記図3は、風力発電と電気自動車技術に関する酸

化ジスプロシウムの 2010 年〜 2025 年の需給予測であ

る。図3において、新鉱山開発による 2015 年までの供

給量は 2010 年比 12%と相対的に少なく、短期的に酸

化ジスプロシウムは基本的に供給不足になると見られ

ている。そして、4つのシナリオすべてにおいて、中

期の初めには世界需要は 2015 年世界推定供給を上回っ

ている。

さらに、シナリオ C によると、2025 年時点で、電気

自動車は風力発電の 4 倍のジスプロシウムの需要があ

るほか、世界のクリーンエネルギーによるジスプロシ

ウムの需要は、2010 年の 16%から 2025 年には 62%と

急激に増加する。中期の需給不均衡に関して、クリー

ンエネルギー技術の磁石の熱耐性(ジスプロシウムの

主要な機能)についての代替アプローチ及び、ネオジ

ム鉄ホウ素磁石の代替物についての研究開発が重要と

なっている。セラミック高温超伝導は、風力発電のネ

オジム鉄ホウ素永久磁石に対して競争力のある代替物

となる可能性があり、ネオジムとジスプロシウムの需

要を削減することが可能である。

更に、クリーンエネルギー以外の需要のみにおいて

も、中期予測の中頃には需要と供給の不一致が発生す

る。

4. 電池技術におけるレアアース等の需給動向4-1. 需給シナリオとその仮定

電気自動車には、ニッケル水素(NiMH)電池とリ

チウムイオン(Li-ion)電池が使われている。これら電

池は、様々なキーとなる物質を組み込む可能性がある

(例:ランタン、セリウム、ネオジム、プラセオジム、

コバルト、リチウム)。本分析において、今後、全ハイ

ブリッド自動車には、ニッケル水素電池を使用し、プ

ラグイン・ハイブリッド車と電気自動車にはリチウム

イオン電池を使用すると仮定している。バッテリー技

術に用いるキーとなる物質に関する仮定は以下のとお

りである。

市場占有率及び物質集約度に関する予測の詳細は以

下に記載している。

仮 定 の ベ ー ス:IEA の Energy Technology

Perspective(2010 年)

・低市場浸透度の場合:“2010 Baseline Case”の項

参照

・高市場浸透度の場合:“Blue Map Scenario”の項

参照(世界的エネルギー関連 CO2 排出量を 2050

年には半減するための低コストの技術開発シナリ

オ;低負荷の車両販売量想定)

各元素について、一部元素自体ではなく流通する原

料(例:炭酸リチウム)を用いているほか、2010 年

以降、操業を開始する2つの鉱山の情報も含んでい

る。

4-1-1. 市場占有率に関する仮定(付属文書 Bより)全ハイブリッド電気自動車(HEVs)はニッケル水素

電池を使用すると仮定するほか、全プラグイン・ハイ

ブリッド電気自動車(PHEVs)と電気自動車には、リ

チウムイオン電池を使うと仮定する。

4-1-2. 物質集約度に関する仮定(付属文書 Bより)ニッケル水素電池

・正極出力:全出力で 1.3kWh 及び 1.2V/cell を仮定

する 4。

・負極出力:計算方法としては、負極出力=(正極

出力)* n/p:n/p のレートは、負極出力/正極

出力の比率で、高物質集約度の場合には 1.8、低物

質集約殿場合には 1.2 と仮定する 5。

・負極合金の重量:300Ah/kg の合金を基準として

計算し、高物質集約度の場合、負極合金の合金重

(876)

図3. 酸化ジスプロシウムの需給予測

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2011.3 金属資源レポート 77

量は 6.5kg、低物質集約度の場合、負極合金の合金

重量 4.3kg と仮定する 6。

・負極合金の組成:電池合金には AB5 型を採用した

ミッシュメタルを使用していると仮定している。

ミッシュメタルの 1 モル当たりの全質量は 70.6g

であり、これをベースに表 5 の各元素について低

高集約度を計算する 7。

4 DOE Energy Efficiency and Renewable Energy.2009.“2010 Toyota Prius-6063 Hybrid BOT Battery Tests Results”5 DOE Energy Efficiency and Renewable Energy. 2010. “Expert judgment by vehicle battery specialist”6 同上。7 Reddy, Thomas R. ed. 2011. Linden’s Handbook of Batteries. New York: McGraw Hill.8 Gains, L. and P. Nelson. 2009. “Lithium-Ion Batteries: Possible Material Demand Issues.” Argonne National Laboratory.

リチウムイオン電池

電気自動車及びプラグイン・ハイブリッド電気自動

車用のリチウムイオン電池の物質集約度に関しては、

報告書 8 に基づき仮定を行っている。同報告書では、

車両用リチウムイオン電池について、1回充電当たり

の走行距離を4、20、40、100 マイルと仮定し、4つ

の場合各々の組成における車両用リチウム含有量を想

定している。ここでは、同報告書のリチウム含有量と

電池正極材料についての結果を元に、各電池の組成に

おけるコバルトの含有量と車両の範囲を予測している。

プラグイン・ハイブリッド電気自動車と電気自動車

の電池サイズの範囲も同様に同報告書をベースにして

いる。40 マイルの範囲で電気走行が可能なプラグイン・

ハイブリッド電気自動車(PHEV-40)と 100 マイルの

範囲で電気走行が可能な電気自動車(EV-100)を仮定。

高低の物質含有量を決定するために、4つの異なる電

池組成からリチウムとコバルトの高低の値を選択した。

電池組成と物質含有量の値は表6のとおりである。

(877)

表5. ニッケル水素電池の物質集約度計算

元素AB5型中のモル濃度

AB5型中の質量割合

電池当たり重量(kg)高

電池当たり重量(kg)低

ランタン 5.7% 11.2% 0.73 0.49

セリウム 8.0% 15.9% 1.03 0.69

プラセオジム 0.8% 1.6% 0.10 0.07

ネオジム 2.3% 4.7% 0.31 0.20

ニッケル 59.2% 49.2% 3.20 2.13

コバルト 12.2% 10.2% 0.66 0.44

マンガン 6.8% 5.3% 0.34 0.23

アルミニウム 5.2% 2.0% 0.13 0.09

合計 6.5 4.33

表6. リチウムイオン電池の物質含有量計算

応用 物質 高/低物質含有量(kg)

電池組成 正極 負極

PHEV-40

リチウム低 1.35 LMO-G LiMn2O4 グラファイト

高 5.07 LMO-TiO LiMn2O4 Li4Ti5O12

コバルト低 0   LMO(両方) LiMn2O4

グラファイトかLi4Ti5O12かのいずれか

高 3.77 NCA-G LiNi0.8Co0.15Al0.05O2 グラファイト

EV-100

リチウム低 3.38 LMO-G LiMn2O4 グラファイト

高 12.68 LMO-TiO LiMn2O4 Li4Ti5O12

コバルト低 0   LMO(両方) LiMn2O4

グラファイトかLi4Ti5O12かのいずれか

高 9.41 NCA-G LiNi0.8Co0.15Al0.05O2 グラファイト

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米国エネルギー省クリティカル物質戦略の需給予測

2011.3 金属資源レポート78

4-1-3. 電池技術でのキーとなる物質についての仮定上記の仮定を元に市場浸透度と物質集約度について

計算を行ったものが以下のとおりである。

4-2. コバルトの需給予測

上記図4電池技術に関するコバルトの需給予測であ

る。図4では、車両の普及率がかなり低いためシナリ

オ A と B は重複している。図4について、短中期的に

コバルトの基本的供給は十分あり、2015 年の推定供給

量は、コンゴの鉱山からの供給がなくとも、需要に十

分見合うものとなっている。これは、シナリオ D で、

クリーンエネルギーの需要が劇的に増加しても同様で

ある。また、シナリオ D 以外では、クリーンエネルギ

ー以外の技術によるコバルトへの世界需要は大部分を

占めている。

(878)

表7. 電池技術でのキーとなる物質についての仮定

図4. コバルトの需給予測

技術 仮定低市場浸透度

高市場浸透度

2025年の普及レベル

車両 ハイブリッド電気自動車(HEVs)の販売台数(100万台) 4.2  19.1 

車両 プラグイン・ハイブリッド車(PHEVs)の販売台数(100万台) 0.002 13.2 

車両 全電気自動車(AEVs)の販売台数(100万台) 0.001 4.6 

市場占有率

車両 リチウムイオン電池使用PHEV-40s�の割合 100% 100%

車両 リチウムイオン電池使用AEV-100s�の割合 100% 100%

車両 NiMH電池使用HEVの割合 100% 100%

技術 仮定 低集約度 高集約度

物質集約度

車両 NiMH電池中のランタン平均重量(kg) 0.49  0.73

車両 NiMH電池中のセリウム平均重量(kg) 0.69  1.03

車両 NiMH電池中のネオジム平均重量(kg) 0.20  0.31

車両 NiMH電池中のコバルト平均重量(kg) 0.44  0.66

車両 PHEV-40sリチウムイオン電池中のコバルト平均重量(kg) 0.00  3.77

車両 EV-100リチウムイオン電池中のコバルト平均重量(kg) 0.00  9.41

車両 PHEV-40sリチウムイオン電池中のリチウム平均重量(kg) 1.35  5.07

車両 EV-100リチウムイオン電池中のリチウム平均重量(kg) 3.38  12.68

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2011.3 金属資源レポート 79

4-3. リチウムの需給予測

上記図5は、電池技術に関する炭酸リチウムの 2010

年〜 2025 年の需給予測である。図5において、短期的

に炭酸リチウムの基本的供給量は十分となっている。

また、シナリオ C では、2010 年のほぼゼロから 2025

年には 49%と劇的にクリーンエネルギー需要が増加す

る。これは、急速な電気自動車の普及によるものであり、

シナリオ C では、2025 年に 1,300 万台のプラグイン・

ハイブリッド車と 460 万台の電気自動車が販売される

と予想されている。

世界需要は 2025 年以前に 2015 年の推定供給量を上

回るとされているが、利用可能な資源量が豊富にある

ため、既存の生産者は 2015 年以降も世界的需要に見合

うような供給を続けることが可能である。この際、具

体的には、シナリオ C において、2025 年時点で炭酸リ

チウムの世界需要に見合う供給を行うためには、2015

年以降毎年 100,000 tの追加的な供給源が必要とされ

ているほか、シナリオ D の高物質集約度の場合、クリ

ーンエネルギーの市場浸透度が高いケースでは、需要

に見合うため、2015 年推定供給量の3倍が必要となる。

4-4. ランタンの需給予測

上記図6は、電池技術に関する酸化ランタンの 2010

年〜 2025 年の需給予測である。図6において、短期的

に酸化ランタンの基本的な供給量は十分であるほか、

すべてのシナリオにおいて、2015 年推定供給量は中期

の中頃まで需要を満たすものとなっている。ただ、中

期において大規模な追加生産がない場合には、クリー

ンエネルギー需要の拡大によって、需給の不均衡が悪

化する。

2015 年以降、継続して供給量が増加しない場合には、

クリーンエネルギー以外の需要のみで中期末には供給

量を上回る見込みである。クリーンエネルギーの需要

シナリオは照明蛍光体に用いるランタンの需要も含ん

(879)

図5. 炭酸リチウムの需給予測

図6. 酸化ランタンの需給予測

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2011.3 金属資源レポート80

でいるが、どのシナリオにおいてもその需要は毎年

1,000 t以内である一方、シナリオ C において、電気自

動車用バッテリーのためのランタンの世界需要は、

2010 年の2%から 2025 年の 19%に増加する。更に、

シナリオ C において、酸化ランタンの世界需要を満た

すためには、2015 年の推定供給量を超えて、年間

14,000 tの供給が必要となる見込みである。需給の不

均衡を緩和するためには、バッテリー技術の代替開発

が推奨される。

4-5. セリウムの需給予測

上記図7は、電池技術に関する酸化セリウムの 2010

年〜 2025 年の需給予測である。図7において、酸化セ

リウムの基本的な供給量は、照明の蛍光体及び車両用

ニッケル水素電池で使用されるセリウムの需要に十分

見合うものとなっているほか、2015 年までに操業開始

を予定している鉱山からの供給量を含めると、中期の

中頃までは需要を満たしている。技術普及レベルが高

いシナリオ(C と D)に対応するためには、少なくと

も年間 10,000 tの追加供給が必要となる。

シナリオ C では、ニッケル水素電池で使用するセリ

ウムの需要は、2025 年時点で、照明に使用する蛍光体

用の需要の 10 倍となっているほか、クリーンエネルギ

ー以外の需要は、84%と大部分を占めている。しかし、

酸化セリウムは、レアアース鉱体中に高含有率で賦存

するため、需給不均衡は起こらないと予想される。

5. 太陽電池薄膜発電システムにおけるレアメタルの需給動向

5-1. 需給シナリオとその仮定太陽電池(PV)薄膜発電システムにおいては、キー

となる物質(例:インジウム、ガリウム、テルル)を

使用する。ここで考慮に入れる薄膜技術は、テルル化

カ ド ミ ウ ム(CdTe) 及 び CIGS(Copper Indium

Gallium Selenide)である。PV 技術に用いるキーとな

る物質についての仮定は以下のとおりである。

市場占有率及び物質集約度に関する予測の詳細は以

下に記載している。

仮定のベース:IEA の World Energy Outlook(2009 年)

・低市場浸透度の場合:“2009 Reference Case”の

項参照

・高市場浸透度の場合:“450 Scenario”の項参照(2030

年までに大気中の温室効果ガス濃度を二酸化炭素

換算で 450ppmCO2 相当に安定化)

5-1-1. 市場占有率に関する仮定(付属文書 Bより)テルル化カドミウム(CdTe)及び CIGS(Copper

Indium Gallium Selenide)を使用した太陽電池の市場

占有率は、同じ仮定を前提としている。両技術について、

低・高市場占有率の仮定は、追加される全太陽光発電

容量のうち、それぞれ、10%と 50%と仮定している。

上記仮定の根拠:本仮定は、現在、薄膜シリコン太

陽電池が独占する全太陽光発電市場の占有率を薄膜太

陽電池の両技術が拡大するという可能性を反映したも

のである。両技術が実現可能であり、現在いずれかが

より有利な条件を持っている訳でもないが、両技術が

同時に同レベルの市場占有率(テルル化カドミウム

(CdTe)及び CIGS とも 50%)となる可能性は少ない。

5-1-2. 物質集約度に関する仮定(付属文書 Bより)テルル化カドミウム(CdTe)におけるテルルの集約度

・高物質集約度の仮定:薄膜立方センチメートル

(cc)当たり 3.1 gのテルル、2.1 ミクロンの吸収材

層と 10%のセル効率と仮定した。これによって、

テルル 0.145 g /W またはテルル 145 t /GW の物

質集約度が割り出される。

・低物質集約度の仮定:薄膜立方センチメートル

(cc)当たり 3.1 gのテルル、1 ミクロンの吸収材

(880)

図7. 酸化セリウムの需給予測

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2011.3 金属資源レポート 81

層と 14.4%のセル効率と仮定した。これによって、

テルル 43t/GW の物質集約度が割り出される。

CIGS におけるガリウムの集約度

・高物質集約度の仮定:質量の6%をガリウムと仮

定し、更に 2.5 ミクロンの吸収材層には 0.4 g /

cm3 のガリウムが存在し、10%のセル効率と仮定

した。これにより、20t/GW の物質集約度が割り

出される。

・低物質集約度の仮定:質量の 8%をガリウムと仮定、

更に 1.0 ミクロンの吸収材層には 0.5 g /cm3 のガ

リウムが存在し、14%のセル効率と仮定。これに

より、4t/GW の物質集約度が割り出される。

CIGS におけるインジウムの集約度

・高物質集約度の仮定:質量の 27%をインジウムと

仮定、更に 2.5 ミクロンの吸収材層には 2.0 g /

cm3 のインジウムが存在し、10%のセル効率と仮

定した。これにより、110 t /GW の物質集約度が

割り出される。

・低物質集約度の仮定:質量の 30%をインジウムと

仮定、更に 1.0 ミクロンの吸収材層には 2.2 g /

cm3 のインジウムが存在し、14%のセル効率と仮

定した。これにより、16.5 t /GW の物質集約度が

割り出される。

5-1-3. PV技術でのキーとなる物質についての仮定上記の仮定を元に市場浸透度と物質集約度について

計算を行ったものが以下のとおりである。

5-2. テルルの需給予測

上記図8は、PV 技術に関するテルルの 2010 年〜

2025 年の需給予測である。図8に関し、短期的には銅

アノードスライムからの回収が増加することにより、

テルルの供給量が劇的に増加するため、テルルの基本

的供給量は十分になると見込まれる。2015 年の推定供

給が可能な場合には、シナリオ A から C において、

2020 年を過ぎるまで需要に見合う十分な量の供給があ

ると見込まれる。物質集約度の低減により、大幅な需

要削減が見込まれる。テルル化カドミウムの PV が

GW 当たり 43t の低物質集約度に近づけば、中期にお

いても、最小限の供給増加のみで PV の市場浸透度が

高い場合にも対応可能である。

シナリオ C において、クリーンエネルギー以外の需

要は徐々に縮小するものの、2025 年の世界需要でも大

半を占めている。また、米国クリーンエネルギーにお

けるテルルの需要は、2025 年時点で、世界需要の約

1/6 である。また、シナリオ D におけるテルルの世界

需要を満たすためには、2025 年の供給量を 2015 年推

定供給量の2倍にしなければならない。

(881)

表8. PV技術でのキーとなる物質についての仮定

図8. テルルの需給予測

技術 仮定 低市場浸透度 高市場浸透度

2025年の普及レベル PV 追加 PV全容量(GW) 10.8 29.9

市場占有率PV 追加 PV容量内のCIGS割合 10% 50%

PV 追加 PV容量内のCdTe割合 10% 50%

技術 仮定 低集約度 高集約度

物質集約度

PV CIGS�GW毎の平均インジウム含有量(t) 16.5 110 

PV CIGS�GW毎の平均ガリウム含有量(t) 4  20 

PV CdTe�GW毎の平均テルル含有量(t) 43  145 

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2011.3 金属資源レポート82

5-3. インジウムの需給予測

上記図9は、PV 技術に関するインジウムの 2010 年

〜 2025 年の需給予測である。図9によると、2015 年

までのインジウムの基本的供給量はわずかに不足して

おり、特に物質集約度が高い場合にその傾向が著しい。

市場調整がない場合、2025 年のクリーンエネルギー分

野以外の需要を満たすためだけでも、2015 年推定供給

量の 25%以上供給量を増やす必要がある。

クリーンエネルギー以外の需要は、シナリオ A から

C において大半を占めているほか、シナリオ C では、

これにクリーンエネルギー需要が 2025 年では 11%追

加されている。

CIGS 太陽電池におけるインジウムの物質集約度を削

減することによって、インジウムへの需要は大幅に削

減する。2015 年以降、インジウムの不足と価格急騰を

避けるためには、クリーンエネルギー以外の分野での

需要削減が重要となる。

5-4. ガリウムの需給予測

上記図 10 は、PV 技術に関するガリウムの 2010 年〜

2025 年の需給予測である。図 10 によると、ガリウム

の基本的な供給量は十分にあり、2015 年の推定供給量

はシナリオ D 以外のすべてにおいて、2020 年以降の需

要を満たすのに十分である。クリーンエネルギー需要

は、2010 年の5%から 2025 年に 16%増加する一方、

クリーンエネルギー以外の需要は引き続きシナリオ A

から C の大部分を占めている。

シナリオ C では、米国のクリーンエネルギー需要は、

世界のクリーンエネルギー需要の 1/6 を占めるように

なると見込まれている。また、物質集約度の改善がな

いまま CIGC 太陽電池の普及率が高まれば、ガリウム

の世界的需要を満たすために、2015 年から 2025 年の

間に供給量を約 85%拡大する必要がある。

(882)

図9. インジウムの需給予測

図10. ガリウムの需給予測

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2011.3 金属資源レポート 83

6. 高効率照明システムのための蛍光体におけるレアアースの需給動向

6-1. 需給シナリオとその仮定蛍光体には、複数のレアアース元素(ユウロピウム、

テルビウム、ガドリニウム、セリウム、ランタン、イ

ットリウムを含む)が用いられ、特に高効率蛍光灯照

明用の需要は、レアアース蛍光体の世界的需要の 85%

を占めている(しかし、各レアアース元素において全

体に占める蛍光体の需要は少ない)。高効率の直管型蛍

光灯(LFLs)と電球型蛍光灯(CFLs)の使用増加に

伴い、蛍光体の需要は増加する。高効率照明システム

に用いるキーとなる物質についての仮定は以下のとお

りである。

市場占有率及び物質集約度に関する予測の詳細は以

下に記載している。

仮 定 の ベ ー ス:IEA の Phase Out Incandescent

Lamps(2010 年)(世界的なシナリオが公表されて

いなかったため)

・低市場浸透度の場合:2.2%

・高市場浸透度の場合:3.5%

各元素について、一部元素自体ではなく流通する原

料(例:酸化ユウロピウム)を用いているほか、

2010 年以降、操業を開始する 2 つの鉱山の情報も含

んでいる。

6-1-1. 市場占有率と物質集約度に関する仮定(付属文書 Bより)高効率蛍光灯の普及に関して入手可能なデータが不

足しているため、蛍光体の需要予測は他とは異なる方

法で作成された。また、2010 年の蛍光体推定需要から

予想される低・高成長率を元に、蛍光体に使用される

平均的レアアースの重量比率を組み合わせた。

Lynas 社が提示している蛍光体の全需要は、7,900 t

REO である。照明業界の多くの専門家によると、蛍光

体需要の 85%は照明用となっており、2010 年の照明用

蛍光体の需要は、6,715 t REO となっている。各レア

アース元素の照明用蛍光体需要は、Lynas 社が提供し

ている蛍光体需要の内訳を計算した結果は以下表のと

おりである。

各元素に関する照明用蛍光体の推定年間需要は、

2010 年の需要を元に、低成長率は 2.2%、高成長率は

3.5%として計算した。成長予測は、IEA の電球型蛍光

灯(CFLs)成長率をベースに予測されている。

6-1-2. 照明技術でのキーとなる物質についての仮定上記の仮定を元に市場浸透度と物質集約度について

計算を行ったものが以下のとおりである。

(883)

元素蛍光体全需要

(出典:Lynas社)2010年需要(t�REO)

ランタン 8.5% 571

セリウム 11.0% 739

ユウロピウム 4.9% 329

テルビウム 4.6% 309

イットリウム 69.2% 4,647

表9. 照明技術でのキーとなる物質についての仮定

技術 仮定 低市場浸透度 高市場浸透度

2025年の普及状況

照明 照明のためのレアアース蛍光体(t)9,307

(年間増加率2.2%に基づく)

11,250(年間増加率3.5%に基づく)

市場占有率 普及に関する仮定に含む

技術 仮定 低集約度 高集約度

物質集約度

照明 照明蛍光体中のランタン重量比 8.50% 8.50%

照明 照明蛍光体中のセリウム重量比 11.00% 11.00%

照明 照明蛍光体中のユウロピウム重量比 4.90% 4.90%

照明 照明蛍光体中のテルビウム重量比 4.60% 4.60%

照明 照明蛍光体中のイットリウム重量比 69.20% 69.20%

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2011.3 金属資源レポート84

表9には、蛍光体について物質集約度に関し、1つ

の値のみ入手可能だったため、シナリオ B と D しか提

示していない。米国と世界のクリーンエネルギー需要

のシェアは、シナリオ D に基づいている。

6-2. ユウロピウムの需給予測

上記図 11 は、照明技術に関する酸化ユウロピウムの

2010 年〜 2025 年の需給予測である。図 11 によると、

短期的に酸化ユウロピウムの基本的な供給量は十分に

あるほか、中期的にも十分な供給量があると見られる。

主要なキーとなる物質とは異なり、蛍光体において酸

化ユウロピウムのクリーンエネルギー需要は大半を占

め、短期、中期とも世界需要の約 2/3 を占めている。

Mt.Weldでの生産によって世界的供給量は15%拡大し、

2015 年には追加生産量の大部分を占めている。

シナリオ D のみ、中期において 2015 年推定供給量

を需要が上回る見込みである。

また、LED 及び有機 EL(OLED)を代替として用

いることで 2020 年から 2025 年に酸化ユウロピウムの

需要を低減させることが可能だと見られているが、本

シナリオでは、その利用は限られていると想定してい

る。

6-3. テルビウムの需給予測

上記図 12 は、照明技術に関する酸化テルビウムの

2010 年〜 2025 年の需給予測である。2011 年操業開始

予定の Mt.Weld と 2012 年操業開始予定の Mountain

Pass の両鉱山から生産されるテルビウムの量は限られ

ており、2015 年までの供給量の増加は主に豪州の

Nolans Bore 鉱山から来ている。

図 12 によると、短期的な酸化テルビウムの基本的な

供給量は十分あるが、2015 年以降、追加供給がない場

合、中期の初めには不足する可能性がある。低・高の

シナリオ両方において、中期中頃、2015 年推定供給量

を需要が上回るとされている。シナリオ D における

2025 年の需要を満たすためには、2015 年推定供給量に

(884)

図11. 酸化ユウロピウムの需給予測

図12. 酸化テルビウムの需給予測

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2011.3 金属資源レポート 85

追加で毎年 140 tの供給が必要である。

LED 及び有機 EL(OLED)を代替として用いるこ

とで 2020 年から 2025 年に酸化テルビウムの需要を低

減させることが可能だと見られているが、本シナリオ

では、その利用は限られていると想定している。

6-4. イットリウム需給予測

上記図 13 は、照明技術に関する酸化イットリウムの

2010 年〜 2025 年の需給予測である。図 13 によると、

既に 2010 年の世界需要は現在の生産量を上回ってお

り、短中期的にイットリウムの基本的供給量は不足す

ると予測される。2015 年までには生産量が 11%増加す

ると見られているが、同レベルでは、短中期的需要を

満たすことは不可能となっている。また、短中期にお

いて、蛍光体のクリーンエネルギー需要は、世界需要

の約 50%を占める。

更に低成長シナリオの需要を満たす場合でも、2015

年のレベルから 2025 年までに 40%以上生産を増加す

る必要がある。高温超電導体の需要が、永久磁石から

市場占有率を奪うようなことがあれば、イットリウム

の需要はさらに急激に増加する。

7. レアアース及び他のキーとなる物質の価格と利用可能性に影響を与える市場力学

市場力学(マーケット・ダイナミックス)は、需要、

供給、価格の相互関係を表したものであるが、クリー

ンエネルギー技術の商業化に欠かせないレアアース及

び他のキー物質に影響を与える市場力学は、複雑であ

り、過去の経済モデルや簡単な経済分析のみによって

捉えることが出来ない。しかし、以下にクリーンエネ

ルギー技術分野の市場力学に影響を与える要因を具体

的に示す。

7-1. 価格シグナルの弱さレアアース及び他のキーとなる物質は、一般的に現

金取引市場では取引されず、二者間の長期的契約によ

り取引される。これら二者間の交渉価格は数多くの要

因により影響を受けるため、一般的な価格情報を提示

することは困難であるとともに、意思決定に利用出来

るような信頼できる価格情報も欠如している。さらに

このような価格シグナルの弱さ、つまり信頼出来る価

格情報の欠如によって、供給増加または需要削減のた

めの行動を取ることも困難になっている。

7-2. 需要側の要因レアアース及び他のキーとなる物質に関して、市場

力学に影響する需要側の要因は、代替物質が限定され

ていること、物質集約度の削減への課題、政策の不確

実性など複数存在している。ただ、レアアース及び他

の物質の製品当たりの使用量は少なく、そのため、そ

のコストはクリーンエネルギー技術全体のごくわずか

の割合となっている。したがって、それら物質の価格

に大幅な変化があったとしても、生産者のコスト及び

消費者価格にはわずかな影響があるのみである。

その他には、多くの技術において同等の性質を持つ

代替品の提供は限られていることが挙げられる。積極

的な研究開発により将来新たな代替品が開発される可

能性もあるが、各企業がその研究開発への投資判断を

行う際には、使用する物質の高価格が継続するという

確実性が必要となるため課題が残る。また、物質集約

度を下げるための投資には、同様に経済的な課題が伴

う。つまり、高価格が継続するという確実性が、研究

開発への投資を行う際の拠り所となっている。

また、政府による政策は、クリーンエネルギー技術

とレアアース及びキー物質を含む部品の需要に影響を

与える要因となっている。政府の支援により、クリー

ンエネルギー技術に関する財務または市場の障壁を取

り除くことが出来るが、これにより、将来需要につい

ての不確実性が生まれることも確かである。

(885)

図13. 酸化イットリウムの需給予測

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2011.3 金属資源レポート86

7-3. 供給側の要因レアアース及び他のキーとなる物質に関して、市場

力学に影響する供給側の要因は、複数の物質の同時生

産、精鉱市場の支配力、大規模資金の必要性、鉱山開

発の生産までのリードタイムの長さなど複数存在する。

最大の要因には、主要鉱物と副産物を同時に生産する

同時生産(Coproduction)があり、本レポートで議論

されているすべての物質は他の物質と同時に生産され

ているか、副産物として生産されている(下表参照)。

多くの鉱山が、第一次生産物から大部分の収入を得て

おり、少量の金属に関しては考慮に入れていないほか、

基本的に第一次生産物の価格と需要をベースに操業を

行うかどうかの決定を行っている。

現在、中国は世界のレアアースの 95%以上を供給し

ているが、このように、レアアースの供給者が限定さ

れることにより、その供給者の行動は直接市場に影響

する。例えば、中国による輸出制限などの影響により、

2010 年の夏の終わりから秋の始めにかけて、多くのレ

アアース価格は 300 − 700%上昇した。一方、供給を

増やそうとしても、レアアースとその他のキーとなる

物質の供給能力は限定されている。多くの場合数十億

$にも渡る資本コストと、通常 10 年にも渡る長期のリ

ードタイムによる制限があるため、直ちに供給量を増

やすことは難しい。更に、鉱物価格の不安定要因も、

新規鉱山開発への投資への意思決定に影響を与える。

レアアース及び他のキー物質の市場力学は複雑であ

り、価格は不透明である。予測は難しいが、将来的に

は供給不足や大きな価格変動が見られる可能性がある。

ただ、その複雑性により、本調査ではキーとなる物質

の価格予想は行っていない。

8. 結論本分析では、永久磁石、先進電池、薄膜半導体を用

いた太陽光発電システム、レアアース蛍光体に焦点を

絞って分析を行った。全体的に短期的(2010 年〜 2015

年)よりも中期的(2015 年〜 2025 年)に供給不足が

拡大すると予測されているほか、中期的にはコバルト

(電池技術に使用)とユウロピウム(高効率照明用の蛍

光体に使用、シナリオ D 以外の場合)以外、分析対象

のすべての物質で供給不足が発生する見込みとなって

いる。

このようにクリーンエネルギー技術 4 分野での商業

化、普及推進対策によって、需給不均衡に直面するリ

スクが増し、さらに需給不均衡によって価格不安定と

サプライチェーンの途絶につながる可能性もある。同

リスクの性質と重大性のレベルは、各物質によって異

なっている。

米国エネルギー省はリスクを低減・緩和する方法を

提示しており、本レポートの第9章で、8つの分野に

おけるプログラム(①研究開発、②情報収集、③国内

生産の許可、④国内の生産、加工に対する財政支援、

⑤備蓄、⑥リサイクル、⑦教育、⑧外交)について議

論するとともに、評価している。

(2011.2.10)

(886)

物質 第一次採掘鉱種

レアアース 鉄

ガリウム ニッケル、銅

インジウム アルミニウム、亜鉛

テルル 銅

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海外レポート

米国エネルギー省クリティカル物質戦略の需給予測

2011.3 金属資源レポート 87(887)

<参考>需給予測まとめ 本文中の各キーとなる物質の需給予測についてまとめたものが下記のとおりである。

付表 . 需給予測まとめ(その1)

技術使用キー物質

クリーンエネルギー技術に関する仮定

需給シナリオ(A-D) 解説 課題

磁石技術(風力、電気自動車)

ネオジム 現在のハイブリッド自動車(HEVs)に独占的に使用されているネオジム鉄ホウ素(NdFeB)磁石を、全プラグイン・ハイブリッド 電 気 自 動 車(PHEVs)と電気自動車に使用

レアアース永久磁石を使用した風力発電の市場シェアは、今後大幅な拡大

■需給バランス短期(2010-15):十分(Dのみ不足)、中期(2015-25):供給不足

・使用量削減・代替物質の開発

短期的には、酸化ネオジムの基本的な供給量は十分高市場浸透度シナリオ(Cと D)では、酸化ネオジムの需要が高まっているのは、クリーンエネルギーの需要の拡大による。シナリオ Cでは、風力発電と電気自動車の世界需要は、2025年のネオジムの全需要の大部分(40%)を占めると予想されており、車両用ネオジム需要は、風力発電用需要の約5倍となっている。シナリオDのみ、2015年時点で需要が供給を上回っている。

ジスプロシウム

■需給バランス短期(2010-15):供給不足、中期(2015-25):供給不足

・代替アプローチ及び代替物質の開発(例:セラミック高温超伝導)短期的に酸化ジスプロシウムは基本的に

供給不足新鉱山開発による供給量は相対的に少なく、2015年まで12%の追加となっている。全4シナリオにおいて、中期の初めには世界需要は2015年世界推定供給を上回っている。中期の需給不均衡に関して、クリーンエネルギー以外の需要のみにおいても、中期の中頃には需要と供給の不均等が発生する。シナリオCによると、2025年時点で電気自動車は風力発電の4倍のジスプロシウムの需要があるほか、世界のクリーンエネルギーによるジスプロシウムの需要は、2010年の16%から2025年には62%と急激に増加する。

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海外レポート

米国エネルギー省クリティカル物質戦略の需給予測

2011.3 金属資源レポート88(888)

技術使用キー物質

クリーンエネルギー技術に関する仮定

需給シナリオ(A-D) 解説 課題

電池技術(電気自動車)

コバルト 今後、全ハイブリッド自動車には、ニッケル水素電池を使用し、プラグイン・ハイブリッド車と電気自動車にはリチウムイオン電池を使用する。

シナリオ Cでは、2025年に1,300万台のプラグイン・ハイブリッド車と460万台の電気自動車が販売されると予想

■需給バランス短期(2010-15):十分、中期(2015-25):十分

短中期的にコバルトの基本的供給は十分あり、2015年の推定供給量は、コンゴの鉱山からの供給がなくとも、需要に十分見合うものとなっている。これは、シナリオ Dで、クリーンエネルギーの需要が劇的に増加しても同様である。シナリオ D以外では、クリーンエネルギー以外の技術によるコバルトへの世界需要は大部分を占めている。

リチウム ■需給バランス短期(2010-15):十分、中期(2015-25):供給不足(C、D)

短期的に炭酸リチウムの基本的供給量は十分である。世界需要は2025年以前に2015年の推定供給量を上回るとされているが、利用可能な資源量が豊富にあるため、既存の生産者は、2015年以降も世界的需要に見合うような供給を続けることが可能である。シナリオCでは、2010年のほぼゼロから2025年には49%と劇的にクリーンエネルギー需要が増加。これは、急速な電気自動車の普及によるものである。2025年時点で炭酸リチウムの世界需要に見合う供給を行うためには、2015年以降毎年100,000tの追加的供給が必要シナリオ Dの高物質集約度の場合、クリーンエネルギー市場浸透度が高いケースでは需要を満たすため、2015年推定供給量の3倍が必要

ランタン ■需給バランス短期(2010-15):十分、中期(2015-25):供給不足

・バッテリー技術の代替開発が推奨される。

短期的に酸化ランタンの基本的な供給量は十分である。全シナリオにおいて、2015年推定供給量は中期の中頃まで需要を満たすものとなっている。ただ、中期において大規模な追加生産がない場合には、クリーンエネルギー需要の拡大によって、需給の不均衡が悪化する。ちなみに照明蛍光体にもランタンを用いるがその需要は比較的少ない。シナリオ Cにおいて、電気自動車用バッテリーのための世界需要は、2010年の2%から2025年の19%に増加する。世界需要を満たすためには、2015年の推定供給量を超えて、年間14,000tの供給が必要となる見込み

付表 . 需給予測まとめ(その2)

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海外レポート

米国エネルギー省クリティカル物質戦略の需給予測

2011.3 金属資源レポート 89(889)

技術使用キー物質

クリーンエネルギー技術に関する仮定

需給シナリオ(A-D) 解説 課題

太陽電池薄膜発電システム

セリウム 考慮に入れる薄膜技術は、テルル化カドミウム(CdTe)及びCIGS(Copper�Ind ium� Gal l ium�Selenide)

■需給バランス短期(2010-15):十分、中期(2015-25):供給不足(C、D)*

酸化セリウムの基本的な供給量は、短期的に十分であり、2015年までに操業開始を予定している鉱山からの供給量を含めると、中期の中頃までは需要を満たしている。シナリオ Cでは、ニッケル水素電池で使用するセリウムの需要は、2025年時点で、照明の蛍光体用需要の10倍となっているほか、クリーンエネルギー以外の需要は、大部分を占め、2025年時点で84%となっている。技術普及レベルが高いシナリオ(Cと D)に対応するためには、少なくとも年間10,000tの追加的供給が必要となる。

*ただし、酸化セリウムは、レアアース鉱体中に高含有率で賦存するため、需給不均衡は起こらないとの予想。

テルル ■需給バランス短期(2010-15):十分、中期(2015-25):供給不足(C、D)

物質集約度の低減。テルル化カドミウムの PVが GW当たり43tの低物質集約度に近づけば、中期においても、最小限の供給増加のみで PVの市場浸透度が高い場合にも対応可能

短期的には銅アノードスライムからの回収が増加することにより、テルルの供給量が劇的に増加するため、テルルの基本的供給量は十分になる見込み2015年の追加供給を含めると、シナリオA〜 Cにおいて、2020年を過ぎるまで需要に見合う十分な量の供給があるとの見込みシナリオ Cにおいて、クリーンエネルギー以外の需要は徐々に縮小するものの、2025年の世界需要でも大半を占めている。また、米国クリーンエネルギーにおけるテルルの需要は、2025年時点で、世界需要の約1/6である。シナリオDにおけるテルルの世界需要を満たすためには、2025年の供給量を2015年推定供給量の2倍にしなければならない。

インジウム ■需給バランス短期(2010-15):若干供給不足(Cと特にD)、中期(2015-25):供給不足

CIGS太陽電池におけるインジウムの物質集約度を削減することによって、需要は大幅に削減。・2015年以降、供給不足と価格急騰を避けるためには、クリーンエネルギー以外の分野での需要削減が重要

2015年までのインジウムの基本的供給量はわずかに不足しており、特に物質集約度が高い場合にその傾向が著しい。市場調整がない場合、2025年のクリーンエネルギー分野以外の需要を満たすためだけでも、2015年推定供給量の25%以上供給量を増やす必要がある。クリーンエネルギー以外の需要は、シナリオAからCにおいて大半を占めている。

付表 . 需給予測まとめ(その3)

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海外レポート

米国エネルギー省クリティカル物質戦略の需給予測

2011.3 金属資源レポート90(890)

技術使用キー物質

クリーンエネルギー技術に関する仮定

需給シナリオ(A-D) 解説 課題

太陽電池薄膜発電システム

ガリウム ■需給バランス短期(2010-15):十分(Dのみ不足)、中期(2015-25):供給不足

・物質集約度の改善がないままCIGC太陽電池の普及率が高まれば、ガリウムの世界的需要を満 た す た め に、2015年から2025年の間に供給量を約85%拡大する必要がある。

ガリウムの基本的な供給量は十分にあり、2015年の推定供給量はシナリオD以外のすべてにおいて、2020年以降の需要を満たすのに十分である。クリーンエネルギー需要は、2010年の5%から2025年に16%増加する一方、クリーンエネルギー以外の需要は引き続きシナリオA〜 Cの大部分を占めている。シナリオ Cでは、米国のクリーンエネルギー需要は、世界のクリーンエネルギー需要の1/6を占めるようになると見込まれている。

高効率照明システムのための蛍光体

ユウロピウム ・蛍光体には、複数のレアアース元素が用いられ、特に高効率蛍光灯照明用の需要は、レアアース蛍光体の世界的需要の85%を占めている(しかし、各レアアース元素において全体量に占める蛍光体の使用量は少ない)。高効率の直管型蛍光灯(LFLs)と電球型蛍光灯(CFLs)の使用増加に伴い、蛍光体の需要は増加する。・<ユウロピウム>LED及 び 有 機 EL(OLED)を代替として 用 い る こ と で2020年から2025年に酸化ユウロピウムの需要を低減させることが可能だと見られているが、本シナリオでは、その利用は限られていると想定している。

■需給バランス短期(2010-15):十分、中期(2015-25):十分(Dのみ不足)

短期的に酸化ユウロピウムの基本的な供給量は十分にあるほか、中期的にも十分な供給量があると見られる。蛍光体における酸化ユウロピウムのクリーンエネルギー需要は大半を占め、短期、中期とも世界需要の約2/3を占めている。Mt.Weldでの生産によって世界的供給量は15%拡大し、2015年には追加生産量の大部分を占めている。シナリオDのみ、中期において2015年推定供給量を需要が上回る見込みである。

テルビウム ■需給バランス短期(2010-15):十分、中期(2015-25):供給不足

短期的な酸化テルビウムの基本的な供給量は十分あるが、2015年以降、追加供給なしでは、中期の初めには不足する可能性がある。低・高増加率のシナリオ両方において、中期中頃、2015年推定供給量を需要が上回るとされている。2011年操業開始予定のMt.Weldと2012年操業開始予定のMountain�Passの両鉱山から生産されるテルビウムの量は限られており、2015年までの供給量の増加は主に豪州のNolans�Bore鉱山から来ている。シナリオDにおける2025年の需要を満たすためには、2015年推定供給量に追加で毎年140tの供給が必要である。LED及び有機 EL(OLED)を代替として用いることで2020年から2025年に酸化テルビウムの需要を低減させることが可能だと見られているが、本シナリオでは、その利用は限られていると想定している。

イットリウム ■需給バランス短期(2010-15):供給不足(C、D)、中期(2015-25):供給不足(C、D)

既に2010年の世界需要は現在の生産量を上回っており、短中期的にイットリウムの基本的供給量は不足すると予測される。2015年までには生産量が11%増加すると見られているが、同レベルでは、短中期的需要を満たすことは不可能である。短中期において、蛍光体のクリーンエネルギー需要は、世界需要の約50%を占める。低成長シナリオの需要を満たすためには、2015年のレベルから2025年までに40%以上生産を増加する必要がある。高温超電導体の需要が、永久電池から市場占有率を奪うようなことがあれば、イットリウムの需要はさらに急激に増加する。

付表 . 需給予測まとめ(その4)