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プログラミングとロボット製作を通した地域小中学校との

連携のためのモノづくり力の育成

実施担当者 福島工業高等専門学校

機械システム工学科

准教授 小出 瑞康

1 はじめに

全国の高等専門学校,工業高等専門学校を対象として,アイデア対決・全国高等専門学校ロボットコンテスト(1)(以降,高専ロボコン)が 1988 年から続けられている。ロボコンは,競技テ

ーマを与えられ,学生自身が解決策を考える,必要な知識・技術を自主的に学習する,新たに習得した知識・技術をロボット製作に適用する,成果をコンテストにおいて示す,という PBL 活動と位

置づけることができる。

ロボットには多くのセンサー,モーターが使われており,これらをマイコンに組み込むプログラムによって制御する。高専ロボコンでも自動ロボットが必須となりプログラム開発の重要性が高い。

一方で,近年の IOT,AI,5G 等の情報技術の加速している。様々な分野でこれらの技術が活用

されるようになると考えられているため,これらに対応できる人材の育成が必要とされている。そのため,2020 年度から小学校ではプログラミング教育が必修化される。しかしながら小学校での準

備は十分とは言えない状況である(2)。地域小学校から本校に対してプログラミングの出前授業の依

頼がある。プログラミングとともにモノづくりの楽しさを知ってもらうため,ハードウェアを用いたプログラミング授業を実施したいと考えている。

これらのことから,本校のロボット技術研究会の学生を対象にロボット製作,プログラミングの

能力を育成する。最終的にロボットの競技会に出場させることで学生の技術向上を図る。これらの

指導を受けた学生に小学校への出前授業・公開講座の企画してもらい実施する。また,本校が福島

県内の中学生向けに開催している福島県中学生ロボット競技会(3)で,学生が製作した自動ロボット

のデモンストレーションを行う。プログラミングとロボット製作を通した地域小中学校との連携強化の基礎とすることを目的として活動を行ってきたので報告する。

2 高専ロボコンでの 1~3年生の教育について

高専ロボコンは,与えられた競技課題を達成するためのロボットを作成し,そのアイデアと技術

力を競うコンテストである。近年,機械,電気回路の技術に加えて,センシング技術,ソフトウェ

アの開発の比重が大きくなり,難易度が上がっている。使用するマイコンも高性能なものが容易に

手に入るようになったこともあり,高度なプログラミング能力が要求されるようになった。最近では,AI による画像処理に取り組んだ高専もある。

1年生の段階ではほとんどこれらの知識,技術を持たないため育成が重要になる。とは言え,ロ

ボット製作の技術は,機械設計,加工技術,電気回路設計,センシング,組み込みプログラミング,

アルゴリズム等多岐にわたるため,指導教員だけで行うことは現実的でない。そこで,高学年(4

~5年生)による低学年の教育体制を構築することに取り組んだ。低学年(主に1~2年生)を3

グループに分け,3DCAD による機械設計,機械加工,電気回路設計,マイコンを用いたプログ

ラミングを行った。これらは高専ロボコンを経験した4・5年生が講座を企画・実施し,講師

としてロボット製作のための実践的な指導を行った。特に,小中学生を対象とした公開講座実

施に必要なプログラミングについては,マイコンを用いたプログラミングを行うための開発環

境を構築し,シリアル通信等の入出力を含む基礎的なプログラミングの学習を行った。次に簡

単な電気回路の製作を行い,各種センサーやモーターなどを使用するためのプログラミングを

行った。

これらの教育活動に使用された教育・技術資料は Web サービスを用いてオンライン上に記

事としてまとめている。

3 中学生向けmicro:bitを用いたライントレースカー製作講座

3-1 内容と実施方法

高専ロボコンの一通りの教育で得た知識を基礎に,中学生を対象とした公開講座を企画した。

地元地域の中学生にプログラミングだけでなくものづくりにも興味を持ってもらうため,micro:bit,

LED,簡単なセンサー等のハードウェアを使ったライントレースカーのプログラミングを行う公開

講座を実施した。

ロボット自体は学生が車体,電気回路を設計し,レーザー加工機等を用いて部品を作成したもの

で,参加者が組み立てられるようになっている(図1)。組み立て,プログラミング解説のための

資料・スライド(図2)も学生たちが作成し,当日の解説,補助も学生が担当した。

講座は2日間実施した。1日目に作成するライントレースカーについて説明した後,ロボットの

組み立て,micro:bit を用いた簡単なプログラミングを行った。2日目には「分岐」を用いたプログ

図3 公開講座の様子

図1 公開講座用ライントレースカー 図2 公開講座説明用スライド

ラミングとライントレースカーの本格的なプログラミングを行い,用意したコースでタイムトライ

アルを実施した。micro:bit を用いたプログラミングは,LED 表示,ラインセンサーの読み取り,モ

ーターの回転制御を段階的に指導し,ライントレースプログラムを作成した。本校学生がプログラ

ミングの補助を行い,最終的に参加者全員がコースを一周させることができた。講座の様子を図3

に示す。

3-2 講座のアンケート結果

本講座の終了時にアンケートを実施した。主要なものを図4~6 に示す。満足度は,「どちらと

も言えない」という参加者が1名いるが概ね満足してもらった。難易度は「ややむずかしい」,「む

ずかしい」が8割となった。学生が作成した講座の資料やスライドについて,ライントレースカー

の組み立てはわかりやすかったようである。プログラミングについては,もともと難しいテーマで

もあるため,ややわかりにくかったようである。

micro:bit を使って,自分自身でプログラミングを始めてみたい生徒に,何が困るかを質問した(図

6,複数回答)。特に,「お金がかかりそう」,「教えてくれる人がいない」が高い傾向にある。

micro:bit のみであれば 2 千円弱であるが,ライントレースカーを作る,センサーを用いるなどを行

う場合にはコストが高くなる。また,保護者だけでなく,小中学校の教員でもこれらについて指導

できる人がまわりにあまりいないことがうかがえる。

図4 講座の満足度と難易度

(a) 満足度

(b) 難易度

図5 スライドと資料のわかりやすさ

(a) ライントレースカーの組み立て

(b) プログラミング

micro:bit等の入手が難しそうプログラムを作る環境がない

お金がかかりそうプログラムを学ぶ資料の入手…

教えてくれる人がいない何をやったら良いかわからない

図6 micro:bit のような機器を使ってプログラミングを行うときの問題点

3

2

7

4

9

3

4 交流ロボコン(4)

高専ロボコンに取り組む1~2年生を対象に,学生による運営で交流ロボコンが行われている。

今年のルールは自陣の畑に種(ペットボトル)を植えるものである。畑の中には畝(うね)があり

畝の中に種を植えると得点は高くなる。また,自動ロボットでないと入れない領域が有り,様々な

工夫が必要な競技である。

大会に出場するため,これまでに身に着けた知識と技術を使ってロボットを作製した(図7)。

残念ながら新型コロナウイルスの影響のため大会は中止となってしまったが,作製したロボットは

次年度に様々な場でデモンストレーションを行うことを予定している。

5 まとめ

プログラミングとロボット製作を通した地域小中学校との連携強化の基礎とすることを目的と

して活動を行ってきた。本校のロボット技術研究会の学生を対象にロボット製作,プログラミング

の能力を育成し,これらの指導を受けた学生により小学校への公開講座の企画・運営を行った。交

流ロボコンへの出場を目指してロボットの作製を行い,学生の技術向上を図った。

夏季休業期間中に中学校の教員向けライントレースロボット講座も企画したが,参加申し込みは

数人で,それも実施当日までに全員キャンセルとなってしまった。様々な理由により中学校教員に

参加してもらうことは困難なようである。これにより,予定していた本校主催の中学生ロボコンで

の自動ロボットの導入計画も延期することに

なった。図6に示したプログラミングを行う

ときの問題点として,「教えてくれる人がい

ない」ことが指摘されていたが,小中学生が

モノづくり,プログラミングを自由にできる

環境の構築は難しい。

1年間の活動を通して課題が明らかになっ

てきた。今年度の活動を基礎に継続的に活動

し,図8に示すようなモノづくり,プログラ

ミング学習の環境を地域に提供できるような

仕組みの構築に取り組んでいく。

参考文献

(1) 高専ロボコン公式サイト,http://www.official-robocon.com/kosen/

(2) 市町村教育委員会における小学校プログラミング教育に関する取組状況等調査,文部科学省,

https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/detail/mext_00218.html

(3) 福島県中学生ロボット競技会,http://robotjr.fukushima-nct.ac.jp/

(4) 交流ロボコン 2020,https://foliage.sakura.ne.jp/kourobo/wp/?page_id=642

図7 交流ロボコンのためのロボットの作製

図8 地域におけるモノづくりとプログラミング教育

プログラムの構築

小学校

プログラミング授業

小中学校向け

公開講座・出前授業

中学生ロボコン

高専ロボコン

交流ロボコン

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