三重大学のスタートアップセミナーにおける情報リテラシー教育
長澤 多代
三重大学附属図書館 研究開発室
1
2014年度 第100回 全国図書館大会東京大会 明治大学第23分科会 利用教育 2014.11.1.
発表の概要
1. 「図書館利用教育ガイドライン」
2. 授業デザインとは
3. スタートアップセミナーの授業デザイン
4. スタートアップセミナーの成果と課題
2
3
レベル1
印象づけ(図書館の存在・役割・機能)
ポスター,パンフレット, ちらし,オリエンテーション
レベル2
サービス案内(設備の配置,サービスの種類)
図書館の見学ツアー,館内のサイン,学内の広報誌
レベル3
情報探索法指導(情報資源の検索,情報の評価)
科目関連指導(授業,ゼミ),独立科目,チュートリアル,講習会,カウンターでの指導,パスファインダー,独習用ツール,ワークブック,テキストブック
レベル4
情報整理法指導(要約・引用,記録・発想法)
レベル5
情報表現法指導(レポート,口頭発表,著作権)
定義:自立した情報利用者の育成を目的として大学コミュニティの全構成員を対象に体系的・組織的に行われる情報教育のこと。
1. 図書館利用教育ガイドラインの枠組み
(日本図書館協会・図書館利用教育委員会,2003)
2.1 授業デザインとは
学生の現状,大学が定めた目標などを加味しながら,学生が目標に達成する道筋を教員がつくりあげること
目標:適切な目標を設定する*
方法:どのようにして,何を用いて学生を目標まで押し上げるのかを決定する段階的な教育内容
教授内容を適切に反映する教授方法+学習方法
評価:授業の達成目標にあげた内容に則して評価する4
目標を規定するニーズ・カリキュラム・ポリシーとディプロマ・ポリシー,社会が要請する要求・学習者の学習観や学習経験,心理状態などの必要性
2.2 授業デザインモデル
5
森朋子「初年次セミナー導入時の授業デザイン」『初年次教育の現状と未来』世界思想社,p.162.
3.1 スタートアップセミナーの概要
授業科目名 「4つの力」スタートアップセミナー
対象部局工学部建築学科(2009年度は,人文学部法律経済学科)
対象学年 1年次前期 (約40名)
科目の概要共通教育・必修 2単位週1回・90分×16回
教科書 なし
TA 1~2名
教室 環境・情報科学館 PBL演習室
チーム編成 4名/チーム×116
4つの力
三重大学の教育目標
7
感じる力感性,共感,倫理観,モチベーション,主体的学習力,心身の健康に対する意識
考える力専門知識・技術,論理的思考力,課題探求力,問題解決力,批判的思考力
コミュニケーション力
情報受発信力,討論・対話力,指導力・協調性,社会人としての態度,実践外国語力
生きる力感じる力、考える力、コミュニケーション力を総合した力
3.2 スタートアップセミナーの設計
・情報リテラシーの向上を目指す。
・情報探索法に加えて,情報整理法,情報表現法を育成する。
・情報活用プロセスを枠組みとする。
・教える好機に情報探索法を指導する。
・教員と図書館員が連携して授業をデザインする。 8
授業の目的• 主体的学習者としての自己認識、さまざまなコミュニティ
の構成員としての自己認識をもつ。• 感じる力,考える力,コミュニケーション力,それらの統合
力としての生きる力(4つの力)の意義を理解し,実践する。• グループ活動を通して4つの力の素養を習得する。
3.3 スタートアップセミナー
授業デザインの枠組み:情報活用プロセス
①テーマを設定する。
②情報探索の道筋を設定する。
③情報を探索する。
④情報を取捨選択・統合する。
⑤情報を用いて表現する。
⑥成果物とプロセスを評価する。
9
参照: Kuhlthauの情報探索プロセス・モデルEisenbergらのBig6スキルズ・モデルカナダ・アルバータ州の探究モデル堀川らの情報利用プロセス6段階モデル
10
3.4 授業計画:情報利用プロセスを組み入れる第1回 大学で学ぶとは
第2回 ノートづくりの方法
第3回 テーマを設定する方法① ①テーマの設定②道筋の設定第4回 テーマを設定する方法②
第5回 情報を探索する方法①:図書館を用いた情報探索 ③情報の探索
第6回 レポートの骨組みを作成する方法 ④情報の選択
第7回 情報を評価・整理する方法 ④情報の選択
第8回 情報を探索する方法②:ヒトやモノから情報を得る ③情報探索
第9回 自分の立ち位置を知る:大学教育の仕組み ④情報の統合
第10回 中間発表
第11回 レポートを作成する方法 ⑤情報の表現
第12回 発表をする方法
第13回 チームで発表する①/主体的な聴き手になる
第14回 チームで発表する②/主体的な聴き手になる
第15回 学習活動を評価する方法①:成果(物) ⑥評価
第16回 学習活動を評価する方法②:プロセス
10
11
3.4 授業計画:教える好機に情報探索法を指導する第1回 大学で学ぶとは
第2回 ノートづくりの方法
第3回 テーマを設定する方法① ①テーマの設定②探索計画第4回 テーマを設定する方法②
第5回 情報を探索する方法①:図書館を用いた情報探索 ③情報の探索
第6回 レポートの骨組みを作成する方法 ④情報の評価
第7回 情報を評価・整理する方法 ④情報の評価
第8回 情報を探索する方法②:ヒトやモノから情報を得る ③情報探索
第9回 自分の立ち位置を知る:大学教育の仕組み ④情報の評価
第10回 中間発表
第11回 発表をする方法 ⑤情報の発表
第12回 レポートを作成する方法
第13回 チームで発表する①/主体的な聴き手になる
第14回 チームで発表する②/主体的な聴き手になる
第15回 学習活動を評価する方法① ⑥評価
第16回 学習活動を評価する方法②
11
図書館ガイダンス1次資料と2次資料,サービス,図書館員の役割,データベース:OPAC,Japan
Knowledge,CiNii Articles
教える好機teachable moment
12
3.4 授業計画:説明する情報源第1回 大学で学ぶとは
第2回 ノートづくりの方法
第3回 テーマを設定する方法① ①テーマの設定②探索計画第4回 テーマを設定する方法②
第5回 情報を探索する方法①:図書館を用いた情報探索 ③情報の探索
第6回 レポートの骨組みを作成する方法 ④情報の評価
第7回 情報を評価・整理する方法 ④情報の評価
第8回 情報を探索する方法②:ヒトやモノから情報を得る ③情報探索
第9回 自分の立ち位置を知る:大学教育の仕組み ④情報の評価
第10回 中間発表
第11回 レポートを作成する方法 ⑤情報の発表
第12回 発表をする方法
第13回 チームで発表する①/主体的な聴き手になる
第14回 チームで発表する②/主体的な聴き手になる
第15回 学習活動を評価する方法① ⑥評価
第16回 学習活動を評価する方法②
基本的なデータベース:百科事典(Japan Knowledge)CiNii Articles
情報の取捨選択書誌事項の書き方
統計データの読み方歴史資料
観察,聞き取り調査文化施設,博物資料
引用の仕方著作権,剽窃
教える好機teachable moment
図書館ガイダンス1次資料と2次資料,サービス,図書館員の役割,データベース:OPAC,Japan
Knowledge,CiNii Articles
3.5 情報リテラシー(information literacy)*
情報リテラシーを身につけた学生は,
基準1. 必要な情報の性質と範囲を見定める
基準2. 必要な情報に効果的効率的にアクセスする
基準3. 情報と情報源を批判的に評価し,選択した情報を自らの知識基盤と価値観に組み入れる
基準4. 個人として,あるいは,グループのメンバーとして,特定の目的を達成するために情報を効果的に利用する
基準5. 情報の利用とアクセスを取り巻く多くの経済的,法的,社会的な問題を理解し,倫理と法律に反しないように情報を利用する
13Information Literacy Competency Standards for Higher Education, Association of College and Research Libraries, ALA, 2000.
「情報が必要なときに,それを認識し,必要な情報を効果的に見つけ出し,評価し,利用する」ことができるように,個々人が身につけるべき一連の能力
3.6 スタートアップセミナーの方法と評価
方法
講義,演習(個人,ペア,チーム),チームによる口頭発表とレポート,教室外の学習
評価
個人課題:24点(2点×12回)学習ポートフォリオ:30点(2点×15回)チームによる発表(中間発表10点,最終発表10点)チームによるレポート:20点学習活動の総括評価:6点
14
3.7 科目(学科)関連指導の設計・運用の要点
15
各授業科目に“カスタマイズ”してデザインする。
課題探求型の課題(レポートや口頭発表)を与える授業科目で実施する方が学習効果が高い。
一般的なテーマではなく,授業科目が与える課題のテーマに関する情報資源や探索法で実施する。
「教える好機(teachable moment=課題のテーマを設定した直後)」に実施日を設定する。
同じ教員を繰り返し担当し(MYライブラリアン),対象となる授業科目の学習内容に詳しくなる。
科目関連指導で学修した内容,図書館や図書館員の教育的役割について,教員が授業のなかで繰り返し学生に伝える。
4.1 評価
• データベースの検索結果と図書館の書架にある資料との関係を十分に理解していない学生が多かった
→図書館ガイダンスの内容を,データベースの検索結果と書架の資料の結びつけを強調するものに変更
• 最終発表の直前にまとめて作業をする学生が多い
→2013年度から中間発表を実施
• 2012年度より,PBLを導入した工学部建築学科の専門科目との連携(科目間連携の仕組みづくり)
16
教員が,デザインした授業を振り返り,学生の学習成果を根拠としながら,教育内容,教授方法,学習方法,目標の設定は適切だったのかなどを問い直す
4.2 到達点と課題到達点
• 情報活用プロセスを組み入れて,学生の情報リテラシーを向上させることができている。
• 学習ポートフォリオによる振り返りから,学生が情報リテラシーを向上させていること,これを他の授業科目等で応用していることが明らかになった。
• スタートアップセミナーと専門科目との科目間連携の仕組みをつくっている。
17
今後の課題• ルーブリック評価を組み入れる。• 専門科目との更なる連携を図り,学士課程教育における
体系的な情報リテラシー教育を実現する。• 建築学科の他の授業科目や卒業論文において,学習成
果の追跡調査を実施する。
主な参考文献①
■ ACRL. Information Literacy Competency Standards for Higher Education, ACRL, ALA, 2000.
http://www.ala.org/acrl/sites/ala.org.acrl/files/content/standards/highered_japanese.pdf (日本語版)(参照 2014-10-16)
■Alberta. Focus on Inquiry: A Teacher’s Guide to Implementing Inquiry‐based Learning, 2004, http://www.lrc.learning.gov.ab.ca. ■Eisenberg, Michael B. and Laura I. Robinson. The BIG6 Collection. Linworth Books, 2005, 310p. ■堀川照代『学習指導と学校図書館』樹村房,2002,172p.(司書教諭テキストシリーズ,03)
■三輪眞木子『情報検索のスキル:未知の問題をどう解くか』中央公論社,2003,214p.(中公新書,1714) 18
主な参考文献②
■森朋子「初年次セミナー導入時の授業デザイン」『初年次教育の現状と未来』世界思想社,2013,p.159-173.
■長澤多代「大学教育における教員と図書館員の連携を促すカスタマイズ型の学習支援:アーラム・カレッジのケース・スタディをもとに」『日本図書館情報学会誌』No.192, 2012.12,p.185-201.
■日本図書館協会・利用教育委員会『図書館利用教育ハンドブック:大学図書館版』日本図書館協会,2003,209p.
19
長澤 多代 (NAGASAWA Tayo)
〒514-8507 三重県津市栗真町屋町1577
三重大学 附属図書館 研究開発室
TEL (059)231-9892
E-mail [email protected]
URL http://www.lib.mie-u.ac.jp/r_and_d/info/nagasawa.htm