「ウイルス社会学」 ウイルスの社会システムを撹乱せよ! 東北大学大学院農学研究科 植物病理学分野 助教 宮下脩平
「ウイルス社会学」
ウイルスの社会システムを撹乱せよ!
東北大学大学院農学研究科
植物病理学分野 助教
宮下脩平
みなさんの専門は?
• 医学(臨床)
• 医学(基礎)
• ウイルス学
• 薬学
• 農学、獣医学
• その他 自然科学
• その他
• dsDNA
• ssDNA
• dsRNA
• ss(+)RNA
• ss(-)RNA
• retro
• para retro
• いろいろ
農学のミッションと植物病理学
• 食糧の安定生産
• 健康への寄与
• 環境の保全
8億人分
実生産割合 66%
病害 12%
虫害
12%
雑草害 10%
ウイルス対策・感染植物を引っこ抜く・媒介生物を駆除・抵抗性品種の利用
→変異により打破
農学のミッションと植物病理学
• 食糧の安定生産
• 健康への寄与
• 環境の保全
1a
2a
3a CP
GFP
→変異により脱落
ウイルスベクターによる遺伝子発現
農学のミッションと植物病理学
• 食糧の安定生産
• 健康への寄与
• 環境の保全
昨年度講師 岡山大鈴木先生ウェブサイトより Wikipediaより
植物ウイルスについて、少しご紹介
• 世界で初めて見つかったウイルスは
タバコモザイクウイルス (Ivanovsky, 1892)
植物ウイルスについて、少しご紹介
• 農業上重要なウイルスの多くは
(+)鎖RNAウイルスか(-)鎖RNAウイルス
Alphavirus superfamily・cucumber mosaic virus・soil-borne wheat mosaic virus
Picornavirus superfamily・wheat yellow mosaic virus・potato virus Y
Buniyavirales・tomato spotted wilt virus
植物ウイルスの生活環
篩管
1) 侵入
2) 細胞内で増える(100万コピー)
3) 増えては隣へ、を繰り返す
4) 篩管を通って植物体全体に感染
5) 新しい植物体へ
レセプター等不要プラズモデスマータ(原形質連絡)を通る
ウイルスの社会?
• RNAウイルスの変異率はヒトの40~4000倍
→多様なゲノム配列の「個体」が細胞内に共存
多様な個体が共存
利害関係の発生
ルールの策定
集団の発展
利害関係
• 最たるもの:ウイルス遺伝子産物の共有利用
例外的なものを除き、遺伝子産物は共有利用される
フリーライダー問題
できそこないが他のゲノムの産物を利用して生き残り、フリーライダー化
ウイルスは何らかの方法でフリーライダーを排除しているはず
• 変異体は一回の細胞感染で5%程度生じる
• 変異体の大半は、できそこない
適応的なゲノム の産物に適応的でないゲノム がタダ乗り(フリーライダー)
どうやってフリーライダーを排除しているのか?
→ ゲームで考えてみましょう!
どうすれば、適応的なウイルス が適応的でないウイルス と一緒にならないようにできるか?
1皿目 2皿目 3皿目 4皿目
玉を見ないで好きな数とりだす(4回)
適応的でないもの適応的なもの同じ数ずつ混ぜてある
4皿のうち1皿でもいいので、適応的なもの だけを取り出せたら成功(プレゼントあります)
=新しい細胞に感染するウイルスを決める
たねあかし
• 取り出す数が少ないほど、適応的なもの
だけを取り出しやすくなる
→新しい細胞に感染するとき、少ない数の
ウイルスだけが感染すると、適応的でないものと
適応的なものをわけることができる
1コずつ
2コずつ
3コずつ
成功! 成功!
成功!
MT HEL POL MP
RT p19
UGA readthrough
UGAreadthrough
RNA1
RNA2CUG initiation
5’ Cap
5’ Cap
TLS
TLS
3’
3’
SP6
promoter
cDNAコンストラクト配列の置換
1 kb
p19
p19
CP
YFP
CFP
pJS2.NLSYFP.p19
pJS2.NLSCFP.p19
SpeINheI
感染ゲノム数の推定:ムギ類萎縮ウイルス
MT HEL POL MP
UGA readthrough
5’ Cap
TLS3’
p19
p19
YFP
CFP
TLS3’
TLS3’
5’ Cap
5’ Cap2種類のRNA2とRNA1を混合して接種
RNA1
RNA2.NLSYFP.p19
RNA2.NLSCFP.p19
Chenopodium quinoa
18
蛍光の分離の進行
72 hpi (7~9 細胞間移行後)、感染域の最前線では殆ど完全に蛍光が分離
22 hpi
19
蛍光の分離の進行
72 hpi (7~9 細胞間移行後)、感染域の最前線では殆ど完全に蛍光が分離
22 hpi
平均5~6ゲノムだけが細胞で感染を成立させる
MOI(multiplicity of infetion) は5~6
の比率 r次の感染確率
S(r
)
S(r)= 1
S(r)= 0.9
S(r)=0.1少数の感染による
確率的なばらつき
r = 0.8
r = 0.4
r = 0.2
→集団全体でのフリーライダーの
比率の変化をシミュレーション
S ANe
1
1 e30(0.3
A
Ne)
フリーライダー排除の「ルール」としての小さいMOI
フリーライダーの比率
0.6
0.1
0.2
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
細胞間移行回数
05
10
20
50, 100
感染ゲノム数:
フリーライダー排除の「ルール」としての小さいMOI
細胞間移行後のMOI:
植物RNAウイルスムギ類萎縮ウイルス: 5~6 (Miyashita and Kishino, 2010)トマトモザイクウイルス: ~4 (Miyashita et al., 2015)
動物DNAウイルス単純ヘルペスウイルス: 1.4 (Taylor et al., 2012)
pseudorabies virus: 1.6 (Taylor et al., 2012)
動物レトロウイルスヒト免疫不全ウイルス: ~4 (del Portillo et al., 2011)
フリーライダー排除の「ルール」としての小さいMOI
1個だけ感染すれば良いのでは?
消滅
存続
存続
1個だけ感染
感染ゲノム数は確率的にばらつくMiyashita et al. PLOS Biol. (2015)
トマトモザイクウイルスのプロトプラスト(単離した細胞)接種で平均4くらいの感染を再現
5,000
複製分解
確率的
2 2
76
細胞の感染ゲノム数
0
0.05
0.1
0.15
0.2
0.25
0.3
0.35
0.4
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
比率
感染ゲノム数
感染ゲノム数平均=1
感染ゲノム数0=感染に失敗する確率37%
0
0.05
0.1
0.15
0.2
0.25
0.3
0.35
0.4
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
平均=3
5%
0
0.05
0.1
0.15
0.2
0.25
0.3
0.35
0.4
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
平均=5
<1%
感染ゲノム数が確率的にばらつくので・・・
ポワソン分布。
0
0.2
0.4
0.6
0.8
1
1.2
0 2 4 6 8 10
感染成功率
感染率適応
適応と感染率確保の両方を満たす平均5前後が適切なのではないか?
感染ゲノム数平均 (MOI)
0
0.2
0.4
0.6
0.8
1
1.2
0 2 4 6 8 10
感染成功率
感染率適応
MOI≃5のルールをウイルス社会は形成してきた?
感染ゲノム数平均 (MOI)
MOIの進化シミュレーション
ウイルス社会は絶妙なバランスの上に成立
人為的な操作の影響が出やすい=「ウイルスの社会を撹乱する」制御方法の標的
協力・裏切り・ルール形成
ゲノム内の葛藤
フリーライダーの発生
社会制度の進化
「ウイルス社会学」の提案
ウイルス社会撹乱作戦、展開中
vRNAE
R
p
d
1
・ゲノムの細胞間移行量 (E)・複製複合体形成箇所の数 (R)・ゲノムの複製複合体形成確率 (p)・ゲノムの分解確率の逆数 (1/d)の積=MOI
Miyashita et al., 2015
宿主の翻訳効率
宿主因子の量
宿主のRNA分解効率
決断を迫られるウイルスたち
• 「将軍様、そろそろまたミサイルですか?」
• 「大統領、例の壁って本当に作りますか?」
• 「あなた、私と仕事どっちが大事なの?」
• 「僕より君の仕事が大事ってこと?」
謝辞
• 東京大学 岸野洋久教授・白子幸男教授
• 農研機構 石川雅之博士・石橋和大博士
• 東北大学 高橋英樹教授・安藤杉尋准教授
鈴木万智・Sietske van Bentum・本多宗一郎