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1 ウイルス侵入を阻止する抗デング ウイルス剤の開発 静岡県立大学大学院 薬学研究科 准教授 一八
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ウイルス侵入を阻止する抗デング ウイルス剤の開発 …1 ウイルス侵入を阻止する抗デング ウイルス剤の開発 静岡県立大学大学院 薬学研究科

Jun 11, 2020

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Page 1: ウイルス侵入を阻止する抗デング ウイルス剤の開発 …1 ウイルス侵入を阻止する抗デング ウイルス剤の開発 静岡県立大学大学院 薬学研究科

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ウイルス侵入を阻止する抗デングウイルス剤の開発

静岡県立大学大学院 薬学研究科

准教授 左 一八

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研究内容

体の中の糖(鎖)やその関連分子の働きを解き明かす

細胞表面にある糖鎖分子が作られる仕組みを解き明かす

ウイルス受容体の糖鎖構造を解き明かす→新規抗ウイルス薬を作る

ウイルスが持つタンパク質の働きを解き明かす

薬学研究科生化学分野左 一八 博士(医学)准教授hidari@u‐shziuaoka‐ken.ac.jp

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研究背景(1)

原因ウイルス: デングウイルス(血清型;1,2,3,4型)

感染経路: ヒト→蚊→ヒト(ヒト-ヒト感染はない)

臨床症状: 潜伏期間は3-7日間デング熱(発熱、発疹、頭痛、筋肉痛など)、デング熱は予後良好出血熱(口、目、鼻などから大量出血)

感染症法: 四類感染症に指定

流行状況: 東南アジア、インド、中南米、カリブ海諸国、アフリカ、豪、中国、台湾世界でデング熱約1億人/年、出血熱約25~50万人/年出血熱の致死率 3-6%

治療・予後: 対症療法、治療薬、ワクチンなし、蚊の制御、感染地域への渡航注意

デング熱・出血熱とは

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研究背景(2)

Singapore Government: Health Promotion Boardから転載

デングウイルス流行地域(赤色)

J. Biosci. 33, 429–441 (2008)から引用

患者数×

105

0

2

4

6

8

10

12

1955-59

1960-69

1970-79

1980-89

1990-99

2000-07

0

10

20

30

40

50

60

70

デング熱・出血熱患者・発生国報告数

発生国数

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研究背景(3)

ヒトスジシマカ(日本に常在)Aedes albopictus

ネッタイシマカ(熱帯・亜熱帯に常在)Aedes aegypti

電子顕微鏡観察したデングウイルス粒子

デングウイルスを媒介する蚊とデングウイルス

地球温暖化・都市化に伴い、その流行域を亜熱帯から温帯へと拡大しているデングウイルスは、媒介可能な蚊が常在する日本で流行する可能性がある。

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研究背景(4)

シマカ類(ネッタイシマカ)(ヒトスジシマカ)

咬刺

デング熱患者(ウイルスが血液中に存在)

咬刺

健常人

感染蚊(ウイルスが体内で増殖)

複数回感染

重篤なデング出血熱発症(致死率が高い、治療薬がない)

キャリア(無症状)

初回感染咬刺

デング熱とデング出血熱の発症

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フラビウイルス(デングウイルスを含む)感染阻害剤

標的タンパク質(酵素)

NS3 セリンプロテアーゼ

NS5 RNA依存性 RNAポリメラーゼ

Boceprevir

Telaprevir

Aprotinin

Small Mw compounds

Substrate (peptide) mimetics

2’C-deaza-adenosine

NITD008

対象ウイルス阻害剤名

HCV

HCV

HCV

DENV

DENV

WNV

DENV

DENV

DENV

HCV

WNV

研究背景(5)

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対象ウイルス

DENV

WNV

(DENV/WNV/JEV)

宿主側因子を標的としたフラビウイルス感染阻害剤

宿主標的因子

Furin

免疫応答

セリンプロテアーゼ阻害剤

プロテアーゼ阻害剤

Dasatinib

Deoxynojirimycin etc

Mevalonate diphosphatedecarboxylase inhibitor

TNF-α, IL-8, MMP-9, PAFR

阻害剤名

シグナルペプチダーゼ

α-グルコシダーゼ

プロテインキナーゼ c-Src

コレステロール生合成

研究背景(6)

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グリコサミノグリカン

Heparin

化合物名 由来 分子量 阻害効果天然/合成

Suramin

HeparinHSCSDSHA

高度硫酸化グリコサミノグリカン

ブタ小腸

ブタ小腸ブタ小腸ウシ気管ブタ表皮Streptococci

天然

半合成(一部修飾)

合成

16,000

16,00014,80015,00030,000

100,000

1,429

細胞レベル

細胞レベル

細胞レベル

利点:(1) 高阻害活性(2) 水溶性(3) 天然由来物質(低免疫原性)(4) 調製方法が確立

欠点:(1) 資源限定(2) 高分子量(3) 低安定性(4) 副作用(5) バッチによる差

ウイルス受容体関連感染阻害剤

研究背景(7)

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新技術の基となる研究成果・技術

新技術の概要:

・デング熱・出血熱に対する有効で安全性の高い抗デングウイルス薬、感染予防薬剤の開発が急務である。

・天然生理活性多糖物質群の探索研究から、ウイルスの細胞内侵入を阻害する物質を発見した。

・感染阻害作用を示す多糖の構造比較から、阻害活性を示す共通の最小構造を同定し、その構造を基に抗ウイルス活性を示す低分子糖誘導体を化学合成した。

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感染阻害活性の評価(フォーカスアッセイ)

ウイルス + 試験化合物

BHK-21 細胞

ウイルス受容体抗ウイルス抗体

標識二次抗体

一定時間培養後、ウイルス抗原を特異抗体を用いて免疫染色

染色例

感染

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Chondroitin sulfate (CSE)

GlcA GalNAc

O O

O

HNAc

O

OH

OR1 n

O

R2OCH2OSO3HCOOH

H

Heparin/Heparan sulfate (HS)

HexA GlcN

O O O

O

HNR2

O

OH

OR1 n

OR3

X1

X2

CH2OR4

Fucoidan

Sulfated fucose(R, H : SO3H

- = 2 : 3)

OH3CROO

OHOH3CRO

OO

OHO OH

HO

COOH

n

GlcA

天然生理活性多糖物質群の探索研究から、発見されたウイルスの細胞内侵入を阻害する物質

RO

OCOOH

OR ORGlcA 誘導体感染阻害に必須の

推定最少構造

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O

OH

OH

COO-

OCH3HO

O

OSO3-

OH

COO-

OCH3HO

O

OH

OSO3-

COO-

OCH3HO

1: MeαGlcA 2: MeαGlcA(2S) 3: MeαGlcA(3S)

O

OH

OH

COO-

OCH3

HO

O

OH

COO-

OCH3

HOOSO3

-

O

OH

COO-

OCH3

HO OSO3-

4: MeβGlcA 5: MeβGlcA(2S) 6: MeβGlcA(3S)

O

OH

OSO3-

CH2OH

OCH3HO

O

OH

OSO3-

OSO3-

OCH3HOO

OH

CH2OHOCH3HO

OSO3-

7: MeαGlc(3S) 11: MeβGal(3S) 12: MeβGal(3,6S)

O

OH

OSO3-

CH2OSO3-

OCH3HO

O

OH

OSO3-

CH2OSO3-

OCH3HO

9: MeαGlc(3,6S)

8: MeαGlc(2,6S)

10: MeαGlc(2,3,6S)

O

OSO3-

CH2OSO3-

OCH3HOOSO3

-

感染阻害作用、細胞毒性を評価した化合物(化学合成)

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ウイルス感染時に新規抗デングウイルス剤を加えた

ウイルス感染時に何も加えなかった

新規抗デングウイルス剤の効果

ウイルスが感染・増殖している細胞(青色に染色されている部分)

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Methyl-α-3-O-sulfated glucuronic acid

O

OH

OSO3-

COOH

OCH3HO

デングウイルス感染阻害効果:EC50 = 0.12 mM

細胞障害性:CC50 > 1.0 mM

新規抗デングウイルス阻害剤(糖誘導体)

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従来技術とその問題点・デングウイルスワクチンは開発進行中弱毒生ワクチン、不活性化ワクチン、サブユニットワクチン、組換えワクチン、DNAワクチンなど。

有効性、副反応(デング出血熱発症)等の問題があり、実用化されるに至っていない。

・従来の抗デングウイルス剤:ウイルス由来NS3(プロテアーゼ)阻害剤ウイルス由来NS5(RNA-依存性 RNA ポリメラーゼ)阻害剤

酵素反応自体の低い種特異性、高い副作用が予想される等の問題が指摘されており、実際、これまでに臨床応用された薬剤はない。

・また、ウイルス由来酵素を直接標的とする作用機序から、薬剤耐性ウイルスの出現が推測される。

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新技術の特徴・従来技術との比較(1)

新技術の主な特徴:

・従来の薬剤とは作用機序が異なり、ウイルスの細胞内侵入を阻止できる。

・化合物の安定性、水溶性が高く、容易に合成できる。

・生体内に存在する糖由来の誘導体であり、免疫原性が極めて低く、安全性が高い。

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新技術の特徴・従来技術との比較(2)

・従来、HTSによりウイルスプロテアーゼやポリメラーゼに対する阻害剤が主として開発されてきたが、臨床応用された薬剤はない。

・作用機序が異なる本化合物は従来の薬剤に比べて、高い水溶性、安定性を有し、免疫原性を持たず、糖の官能基修飾のみで化学合成可能なことなどの技術的な優位性を有する。

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想定される用途

・合成した化合物をデングウイルス感染症治療薬として開発することが最もメリットが大きいと考えられる。

・上記以外に、血液・生体試料からのデングウイルス除去にも応用が可能である。

・また、脳炎などを起こす他のフラビウイルス感染症治療薬に応用も可能である。

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想定される業界

・利用者・対象製薬企業等

・市場規模5億円の市場規模

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実用化に向けた課題

• 現在、培養細胞レベルでウイルス感染阻害作用を示す化合物を合成済み。しかし、動物レベルでの効果について未解決である。

• 今後、ウイルス感染阻害効果の向上を目指して実験データを取得し、感染モデル動物に適用していく場合の条件設定を行っていく。

• 実用化に向けて、化合物の安全性に関しても検討する必要もある。

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企業への期待

• 未解決のウイルス感染阻害効果の向上については、新たな糖誘導体合成を行い、試験していくことで克服できると考えている。

• 糖誘導体合成の技術を持つ、企業との共同研究を希望。

• また、抗デングウイルス薬を開発中の企業、熱帯病ウイルス分野への展開を考えている企業には、本技術の導入が有効と思われる。

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本技術に関する知的財産権

発明の名称 :抗デングウイルス剤

出願番号 :特願2010-248271

出願人 :静岡県公立大学法人、:学校法人常翔学園

発明者 :鈴木 隆、左 一八、池田 潔

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お問い合わせ先

静岡県立大学

産学連携室 室長 村上 能久

TEL 054-264-5124

FAX 054-264-5099

e-mail [email protected]