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例えば、本年度数学概説受講者という集合 S を考えれば、皆さん一人一人はこの集合の構成員だから、大変申し訳ないけれども、 この集合 S の「要素」あるいは「元」あるいは「点」と呼ばれることになる。集合論の創始者カントールは、集合を次のように定義している。
集合とは、我々の直感や思考の定まったよく区別できる対象たちを一つの全体にまとめたもののことである。
上の例 S:「本年度数学概説受講者」の場合、その構成要素である皆さんは一人一人明確に区別できるので、それを一まとめにしたものが集合 Sである、ということであろう。これでは良く分らないかもしれないので、以下、この定義の内容を整理してみよう。思考の対象を文字 x や y で表し、それらの一定の集まりを S で表すことにしよう。次の二つの要件が満たされるとき、S は集合であるとする。
(I) 思考の対象となる任意の x は S に所属するか所属しないかどちらか一方が必ず成り立つ。すなわち、
集合 A に対して x が A の要素であるとき、x は A に属するまたは A はx を含むといい、x ∈ A または A 3 xで表す。
x は A に属する : x ∈ A または A 3 xで表す
x が A に属さないことは、x /∈ Aまたは A 63 x で表す。集合を表示する方法には、二通りある。1つは、集合の元を書き並べる方法(列挙法)であり、例えば、
{1, 2, 3, 4, 6, 8, 12, 24}
のように表す。もう1つは、命題関数 P (x) を用いる方法(内包的定義)で、P (x) が真であるような要素 x の全体からなる集合を
{x | P (x)} あるいは {x : P (x)}
と表す。この方式に従えば、先にあげた集合は
{1, 2, 3, 4, 6, 8, 12, 24} = {x | x は 24 の約数 }
と表示できる。
集合の表示方法
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(列挙法) A = {a, b, c, · · · }(内包的方法) A = {x ∈ U | P (x)(が真である)}
ここで (P (x) : xを変数とする命題)
集合 S に対して、「x ∈ S」を「命題 P (x) が真であること」とすれば、この集合は S = {x | P (x)}と表示できるので、集合に関する事柄は論理に関する事柄に置き換えて議論できる。ただし、命題関数の項変数の対象領域(定義域)は、ある一定の集合であるとして、これを普遍集合あるいは宇宙と呼ぶ。 普遍集合 U を強調したいときは、次のように表示する。
{x | x ∈ U, P (x)} あるいは {x ∈ U | P (x)}
例 2.1 二つの集合 A = {x | P (x)} と B = {x | Q(x)} に対して、命題「A の元はすべて B に属する」を P (x) と Q(x) からなる論理式で表せ。
答え:x が A の元であるとは命題 P (x) が真であることであり、x が B に属するとは Q(x) が真であることである。一方、 P (x)が偽のとき(x が A の元ではないとき)、上の主張は Q(x) が真であるか偽であるかについて何も語っていない。従って、上の主張は ¬P (x) ∨ Q(x) が真であることと同じである。すなわち、 x
は A の元でないか、あるいは、 B の元である。¬P (x) ∨ Q(x)と P (x) ⇒ Q(x) は同値であるから、結局、上の主張を論理式で表せば
∀x (P (x) ⇒ Q(x))
である。これは図(ベン図と呼ばれる)を用いて説明すれば納得しやすいであろう。
集合の包含関係の定義: この例 2.1 のように、集合の包含関係を定義する。すなわち、二つの集合 A = {x ∈ U | P (x)}と B = {x ∈ U | Q(x)} に対して、
A ⊂ B ≡∀x ∈ U (P (x) ⇒ Q(x))
≡∀x ∈ U (¬P (x) ∨ Q(x)) ≡ ∀x ∈ U(x 6∈ A ∨ x ∈ B)
≡∀x ∈ U(x ∈ A ⇒ x ∈ B):包含
と定義して、A は B の部分集合であるという。前もって普遍集合が何であるか周知の場合は、普遍集合 U を省略して
A ⊂ B ≡ ∀x (x ∈ A ⇒ x ∈ B)
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によって包含関係を定義する。この包含関係は、「Aは B に含まれる」、あるいは、「B は A を含む」という呼び方もされる。このとき B ⊃ A と表してもよい。集合の間の包含関係(A ⊂ B)と 要素の所属関係(x ∈ B)を混同してはいけない。前者は集合と集合の間の関係であり、後者は集合の要素と集合の 間の関係である。
(2) 実数 b に対して、平面上の直線 Lb を Lb = {(x, y) | y = bx− b2} で定義する。
∪b∈R
Lb と∩b∈R
Lb はどのような図形であるか決定せよ。
(3) 正数 r ≥ 0 に対して、平面上の点 (r, 0) を中心とし半径 r の円を Sr で表す。
∪r≥0
Sr と∩r≥0
Sr はどのような図形であるか決定せよ。
例 2.4 各集合 Aα(α ∈ Λ)がすべて普遍集合 X の部分集合であるとき、集合族 A = {Aα | α ∈ Λ} に対して、つぎのド・モルガンの法則が 成り立つことを示せ。ただし、Λ 6= ∅ であるとする。
(1)
(∪α∈Λ
Aα
)c
=∩
α∈Λ
Acα, (2)
(∩α∈Λ
Aα
)c
=∪
α∈Λ
Acα
証明:(1) は次のように証明される。
x ∈
(∪α∈Λ
Aα
)c
⇔ ¬
(x ∈
∪α∈Λ
Aα
)⇔ ¬(∃β ∈ Λ (x ∈ Aβ)) ⇔ ∀β ∈ Λ (x ∈ Ac
β)
⇔ x ∈∩
α∈Λ
Acα
(2) は (1) を用いて次のように証明される。(∩α∈Λ
Aα
)c
=
(∩α∈Λ
(Acα)c
)c
=
((∪α∈Λ
Acα
)c)c
=∪
α∈Λ
Acα
問題 2.12 集合族A = {Aα | α ∈ Λ} と集合 B に対して、次の等式を証明せよ。
(1)(∪
α∈Λ Aα
)∪ B =
∪α∈Λ(Aα ∪ B) (ただし、Λ 6= ∅ とする)
(2)(∩
α∈Λ Aα
)∩ B =
∩α∈Λ(Aα ∩ B)
(3)(∩
α∈Λ Aα
)∪ B =
∩α∈Λ(Aα ∪ B) (ただし、Λ 6= ∅ とする)
(4)(∪
α∈Λ Aα
)∩ B =
∪α∈Λ(Aα ∩ B)
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3年次の授業において、皆さんは位相空間や測度論を学ぶことになるが、そのときに出てくるのが、ある特定の規則を満たす集合族である。X を全体集合(普遍集合)とし、X の部分集合を要素とする集合族 T ⊂ 2X が
(T1) X, ∅ ∈ T, (T2) A,B ∈ T ⇒ A ∩ B ∈ T,
(T3) ∀Λ(∀λ ∈ Λ(Aλ ∈ T)) ⇒ ∪λ∈ΛAλ ∈ T
を満たすとき、(X, T) のことを位相空間とよぶ。一方、X の部分集合を要素とする別の集合族 M ⊂ 2X が
(M1) ∅ ∈ M, (M2) A ∈ M ⇒ Ac ∈ M,
(M3) (∀n ∈ N(An ∈ M)) ⇒ ∪n∈RAn ∈ M
を満たすとき、(X, M) のことを可測空間とよぶ。このように、集合族という考え方は、現代数学において重要な役割を担っているのである。お楽しみに。
2.5 直積集合集合 A と B に対して、Aの元と B の元の順序対(順序を考慮したペア)の集まり
A × B := {(t, s) | t ∈ A, s ∈ B}
を A と B の直積集合という。ここで、t ∈ Aと s ∈ B の順序は大事である。従って、 A×B と B ×A は同じとは限らない。さて、A×B が集合であるからには、その任意の元 (t, s) と (t′, s′)(t, t′ ∈ A, s, s′ ∈ B)は明確に区別されていなければならない。これらの元について、
(t, s) = (t′, s′) ⇔ (t = t′) ∧ (s = s′)
と定義する。この定義に従えば、A 6= B のときは A × B 6= B × A である。特に、A = B の ときは、A × A = A2 と表す。例えば、A = R のときA × A = A2 = R2 は平面上の点全体と同一視される。A = ∅ または B = ∅のときは、A × B = ∅ と 定義する。
Quiz 8. 3つの集合 A,B, C の直積 A × B × C の定義について考えてみよ。2つの集合の直積の定義を用いて、(A × B) × C
や A × (B × C) とする場合と比較せよ。
定理 2.4. 有限集合 A と B に対して、集合の大きさに関する以下の等式が成り立つ。
|A × B| = |A| × |B|
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問題 2.13 定理 2.4. を証明せよ。
s ∈ B に対して集合 As ⊂ A×B を As := {(t, s) ∈ A×B | t ∈ A} によって定義すると、 直積集合 A × B の定義から、
3.1 写像集合 X と Y は空でない(空集合ではないという意味)とする。 X の各要素 x に対して、要素 x ごとに Y のただ一つの要素 y を対応させる規則f を X から Y への写像といい、このことを
f : X → Y または Xf→ Y
で表す。x に対応する Y の元はただ一つ定まるが、この Y の元は x ごとに変わりうる。そこで、X の要素 x に対応する Y の要素を f(x) で表し、これを写像 f による x の像という。f(a) = b のとき、a ∈ X を f による b ∈ Y
の原像という。
f(x) = y のとき x は y の原像、y は x の像
また、X を写像 f の定義域といい、Y を f の値域という。値域という呼び方は,ある特定の写像 f の像3 f(X) ⊂ Y と混同するおそれがある。例えば、「ある関数 f の値域を求めよ」と問う問題では、その関数の像 f(X) を求めよという意味である。このような混同を避けるために終集合という呼び方もあるので、この呼び方が適切であるとも言える。
3集合の写像による像については、§3.2 で述べる。
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注意:一般に、写像 f : X → Y という場合、X の任意の要素に対してその f による像がただ一つ定まらなければならないが、a, a′ ∈ X に対して、a 6= a′ であっても f(a) = f(a′) は可能である。混乱しないように。また、Y
のすべての要素が、 f による X のある要素の像である必要もない。これらは、後に §3.3 で解説するように、 写像の性質に属する事柄である。
Quiz 1. 集合 X = {1, 2, 3} と Y = {5, 6, 7} の間の次のような対応規則 f1, f2, f3, f4 の内、写像であるものと、写像でないものを区別せよ。
f1 : 1 7→ 7, 2 7→ 6, 3 7→ 7
f2 : 2 7→ 7, 1 7→ 5, 3 7→ 5
f3 : 1 7→ 5, 3 7→ 5, 2 7→ 5, 1 7→ 7
f4 : 3 7→ 6, 2 7→ 5, 1 7→ 7
写像の相等性: 写像 f : X → Y と g : X → Y がX の任意の要素 xに対して f(x) = g(x)を満たすとき、写像 f と g は等しいといい、f = gと表す。このように、写像の間の明確な区別が可能になったので、写像を元とする集合を考えることができる。 二つの写像 f, g : X → Y の相等性の定義を論理式で表すと、次のようになる。
f = g ≡ ∀x ∈ X (f(x) = g(x))
3.2 部分集合の像と逆像 写像 f : X → Y に対して、X の部分集合 Aの f による像 f(A)を
f(A) = {f(x) ∈ Y | x ∈ A}
によって定義する。また、写像 f : X → Y に対して、Y の部分集合 B に対して定まるX の部分集合
f−1(B) = {x ∈ X | f(x) ∈ B}
を f による B の逆像と呼び、記号 f−1(B) で表される。
注意:ここで注意すべきことは、a ∈ X に対して f(a) ∈ Y は Y
の 要素 であるが、f による集合 A ⊂ X の像 f(A) ⊂ Y は Y
の部分集合を表していることである。同様に、b ∈ Y の原像 a
(f(a) = b)は X の要素であるが、B ⊂ Y の 逆像 f−1(B) はX の部分集合である。
写像の例を幾つか挙げておこう。
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• f : N → R が f(n) = n2 − n によって定まっている。このように、写像の定義域が 自然数全体の集合で値域が実数である場合、実数列と呼ばれることもある。もし値域が有理数であれば、有理数列と呼ばれる。Quiz 2. この写像 f について、A = {1, 3, 4, 9}, および
B = {x ∈ R | − 3 ≤ x < 7} とするとき、f(A) と f−1(B) を求めよ。
Quiz 3. この写像 χA : X → R について、実数 a の値に応じて集合f−1({a}) ⊂ X を求めよ。
空集合の像と逆像: 写像 f : X → Y に対して、
f(∅) = ∅, f−1(∅) = ∅
であると約束する。
問題 3.1 写像 f : X → Y に対して、次のことを証明せよ。
(i) (像の定義) 集合 A ⊂ X に対して
y ∈ f(A) ⇔ ∃x ∈ A (y = f(x))
(ii) 命題 x ∈ A ⇒ f(x) ∈ f(A) は真命題であるが、その逆命題 f(x) ∈f(A) ⇒ x ∈ A は必ずしも真ではない。このことを示す例を挙げよ。
(iii) (逆像の定義) 集合 B ⊂ Y に対して
x ∈ f−1(B) ⇔ f(x) ∈ B
例 3.1 写像 f : R → R が f(x) = x2 − x で与えられている。
A = {x ∈ R | − 1 5 x 5 1}, B = {y ∈ R | 0 ≤ y ≤ 2}
とする。このとき、f−1(B) = {x ∈ R | − 1 ≤ x ≤ 0} ∪ {x ∈ R | 1 ≤ x ≤ 2}
および f(A) ={
y ∈ R | − 14
5 y 5 2}である。
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Quiz 4. この例 3.1 において、集合 A ∩ f−1(B) を求めよ。
定理 3.1. A,B をX の部分集合とする。このとき、写像 f : X → Y に対して、次の性質が成り立つ。
(1) A ⊂ B ⇒ f(A) ⊂ f(B)(2) f(A ∪ B) = f(A) ∪ f(B)(3) f(A ∩ B) ⊂ f(A) ∩ f(B)(4) f−1(f(A)) ⊃ A
証明:証明はすべて定義の言い換えを行ってできる。(1) A ⊂ B とする。任意の y ∈ f(A) について、像の定義より、∃x ∈ A y = f(x) である。x ∈ A ⊂ B と部分集合の定義よりx ∈ B だから、y = f(x)と併せて、再び像の定義より、 y ∈ f(B)である。従って、f(A) ⊂ f(B) である。
(2) y ∈ Y に対して、次が成り立つ。
y ∈ f(A ∪ B)
⇔ ∃x ∈ A ∪ B (y = f(x)) (像の定義)
⇔ (∃x ∈ A (y = f(x)) ∨ (∃x ∈ B (y = f(x)) (和集合の定義)
⇔ (y ∈ f(A)) ∨ (y ∈ f(B)) (像の定義)
⇔ y ∈ f(A) ∪ f(B) (和集合の定義)
(3) y ∈ Y に対して、次が成り立つ。
y ∈ f(A ∩ B)
⇔ ∃x ∈ A ∩ B (y = f(x)) (像の定義)
⇒ (∃x ∈ A (y = f(x)) ∧ (∃x ∈ B (y = f(x)) (共通集合の定義)
⇔ (y ∈ f(A)) ∧ (y ∈ f(B)) (像の定義)
⇔ y ∈ f(A) ∩ f(B) (共通集合の定義)
(4) x ∈ X に対して、次が成り立つ。
x ∈ A
⇒ f(x) ∈ f(A) (像の定義)
⇔ x ∈ f−1(f(A)) (逆像の定義)
問題 3.2 定理 3.1 の (3) と (4) においては一般に等号が成り立たない。
(i) 写像 f : R → R を f(x) = x2 とするとき、(3) の等号が成り立たないような集合 A と B の例を挙げよ。
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(ii) (i) と同じ写像 f について、(4) の等号が成り立たないような集合 A の例を挙げよ。
(iii) (i) と同じ写像 f に対して、(3) において等号が成立するような集合 A
と B(A 6= B)の例を挙げよ。
(iv) 定理 3.1 (4) において、等号が成立するような 写像 g : R → R と集合A ⊂ R の例を挙げよ。
(1) f(x) = −3x + 2 によって定義される写像 f : R → R は、単射であることを示せ。
(2) g(x) = x3 − x によって定義される写像 f : R → R は、単射でないことを示せ。
Quiz 5. 写像 f : X → Y が単射ならば、定理 3.1 (3) (4) において等号が成立することを示せ。
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全射: 任意の y ∈ Y に対して f(x) = y を満たす x ∈ X が存在するとき、f は全射であるという。即ち、 ∀y ∈ Y (∃x ∈ X (f(x) = y)) が真のとき f
は全射と呼ばれる。また、f が全射かつ単射であるとき、f は全単射であるという。
問題 3.4
(1) g(x) = x3 − x によって定義される写像 g : R → R は、全射であることを示せ。
(2) h(x) = x2 + x によって定義される写像 g : R → Rは、全射でないことを示せ。
(3) f(x) = −3x + 2 によって定義される写像 f : R → R は、全単射であることを示せ。
Quiz 6. 写像 f : X → Y が全射のとき、定理 3.2 (4) において f(f−1(C)) = C が成り立つことを示せ。
典型的な写像の例を挙げよう。
• ∀x ∈ X (f(x) = x) によって定義される写像 f : X → X を X 上の恒等写像と呼び、 1X という記号で表す。
• A ⊂ B ⊂ X のとき、∀x ∈ A (f(x) = x によって定義される写像を A
から B への包含写像(inclusion map)と呼び、 iA という記号で表す。
• 包含写像は単射(の典型的例)であり、恒等写像は全単射(の典型的例)である。
例 3.2 写像 f : X → Y と部分集合 A ⊂ X に対して、つぎのことを証明せよ。
(1) f が全射ならば、f(Ac) ⊃ (f(A))c が成り立つ。(2) f が単射ならば、f(Ac) ⊂ (f(A))c が成り立つ。
証明: (1)まず、y ∈ (f(A))c ⇔ y ∈ Y −f(A) ⇔ (y ∈ Y )∧(y /∈f(A)) である。 一方、f の全射性より、∃x ∈ X y = f(x) であるが、f(x) /∈ f(A) より x ∈ X − A = Ac である。すなわち、y ∈ f(Ac) となり、(f(A))c ⊂ f(Ac) である。
(2) y ∈ f(Ac) ならば、像の定義より、∃x ∈ Ac y = f(x)である。f の単射性より、任意の x′ 6= x に対して y 6= f(x′) であるから、特に、任意の x′ ∈ A に対して y 6= f(x′) であり、y /∈ f(A) となる。従って、y ∈ (f(A))c であるから、f(Ac) ⊂ (f(A))c である。
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問題 3.5 写像 f : X → Y と部分集合 B ⊂ Y に対して、
f−1(Bc) = (f−1(B))c
を証明せよ。
集合 X と Y の直積集合 X × Y から X または Y への写像を
prX : X × Y 3 (x, y) 7→ x ∈ X, prY : X × Y 3 (x, y) 7→ y ∈ Y
(c) f が全単射であることは、(a)と (b)の結果より明らかである。g = h を示すために、∀b ∈ Y に 対して、g(b) = h(b) が成り立つことを示す。f は全単射だから b = f(a) を満たす a ∈ X が存在して、そのような a ∈ X はただ一つである。一方、任意の y ∈ Y
に対して f(h(y)) = y が成り立つから、このことを y = b に適用して、f(h(b)) = b である。従って、h(b) = a = g(f(a)) = g(b)となり、h = g である。
定理 3.5. 写像 f : X → Y, g : Y → Z について、次のことが成り立つ。
(i) g ◦ f が全射ならば g は全射である。
(ii) g ◦ f が単射ならば f は単射である。
(iii) f と g が全単射ならば g ◦ f は全単射である。
証明: (i) 任意の z ∈ Z に対して、g ◦ f は全射だから、 ∃x ∈ X
z = (g ◦ f)(x) = g(f(x)) である。従って、z = g(y)(y = f(x) ∈Y)となって、 g は全射である。
(ii) x 6= x′(x, x′ ∈ X)とする。g ◦f は単射だから、(g ◦f)(x) 6=(g ◦f)(x′)、すなわち y = f(x), y′ = f(x′)とすれば g(y) 6= g(y′)である。写像の定義より y 6= y′ であり、 f(x) 6= f(x′) となって、f は単射である。
(iii) 練習問題とする。
問題 3.9
(1) 定理 3.5 (iii) を証明せよ。
(2) 単射性の定義「f(x) = f(x′) ⇒ x = x′」を用いて定理 3.5 (ii) の証明を実行せよ。
逆写像: 写像 f : X → Y が全単射ならば、任意の y ∈ Y に対して x ∈ X
が存在して y = f(x) である(f の全射性)。一方、このような x ∈ X は各 y
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についてただ一つである(f の単射性)。したがって、 任意の y ∈ Y に対して、ただ一つの x ∈ X(y = f(x))が対応するので、写像 g : Y → X が定義される。定義より、この写像 g も全単射であり、g ◦ f = 1X と f ◦ g = 1Y
を満たす。このような写像 g : Y → X を f の逆写像と呼び、記号 f−1 で表す。
注意: f : X → Y が全単射のとき f の逆写像を表す記号 f−1
と Y の部分集合の逆像を表す記号が同じになっているが、この二つを決して混同してはいけない。逆写像は、Y の要素に X の要素を対応させる写像であるが、逆像は f によって Y のある部分集合に移される X の要素の集まり(集合)を表す記号である。
定理 3.6. 写像 f : X → Y, g : Y → Z を全単射とするとき、次のことが成り立つ。
(i) (f−1)−1 = f、 (ii) (g ◦ f)−1 = f−1 ◦ g−1
問題 3.10 定理 3.6 を証明せよ。
離散力学系:X を集合とする。任意の n ∈ Z に対して写像 φn : X → X が定義されていて、 次の条件を満たすとする。
4 関係集合の定義において、その集合の元が明確に区別されていることが必要であった。この区別を明確化したものが、相等という概念であった。この相等という考え方は、 x と y は等しい(同じ元である)とか、x と y は等しくない(別の元である)などのように、二つの元の間の関係である。このように、集合の二つの元の関係を2項関係と呼ぶ。その意味で、「同じである」ということも2項関係であり、これを相等関係とも呼ぶ。相等関係が集合の元を明確に区別するためには、次のような性質が要請される。
(反射律) x = x
(対称律) x = y ⇒ y = x
(推移律) (x = y) ∧ (y = z) ⇒ x = z
4.1 2項関係実数 x と y の間に y = 2x という関係式が成り立つとき、これを x-y 平面上の直線で表すことがある。すなわち、{(x, y) ∈ R2 | y = 2x} という R×Rの 部分集合を考えて、(a, b) がこの集合の要素であるとき、a と b の間にはb = 2a という関係が あるとするのである。このことを一般化して、次のような定義をする。
2項関係: 集合 X と Y の元の間の関係とは、直積集合 X × Y の部分集合 R の ことである。(a, b) ∈ R のとき、a ∈ X と b ∈ Y は関係 R を満たすといい、記号では aRb とも表す。特に X = Y の場合、関係 R を X 上の2項関係と呼ぶ。
上で述べた1次関数の例を一般化して、次のような例をえる。
例 4.1 集合 X から集合 Y への写像 f : X → Y に対して、直積集合の部分集合
G(f) := {(x, f(x)) | x ∈ X} ⊂ X × Y
を写像 f のグラフと呼ぶ。この G(f) は X の元と Y の元の間の関係を定義する。
写像 f : X → Y から、X の要素と Y の要素の間の関係が、f のグラフG(f) によって定まる。 逆に、X と Y の間の関係 R から写像 f : X → Y
が定まるだろうか。答えは「必ずしも定まらない」である。写像の定義を思い起こせば、次のことがいえる。
部分集合 R ⊂ X × Y が 「任意の a ∈ X に対して、(a, b) ∈ R
を満たす b ∈ Y がただ一つ存在する」という性質を持つならば、R をグラフとする関数 f : X → Y がただ一つ存在する。
41
問題 4.1 上に述べたことを証明せよ。
このように、関係は写像概念の一般化であるともいえる。
4.2 同値関係2項関係のうち、もっとも重要な一つとして、同値関係がある。
同値関係: 集合 X の元 x と y との間の関係 R が次の性質をもつとき、この R を同値関係といい、~で表す。
(反射律) (1) x ∼ x :(x, x) ∈ R
(対称律) (2) x ∼ y ⇒ y ∼ x :(x, y) ∈ R ⇒ (y, x) ∈ R
(推移律) (3) (x ∼ y) ∧ (y ∼ z) ⇒ x ∼ z : (x, y), (y, z) ∈ R ⇒ (x, z) ∈ R
例 4.2 集合 X において、その要素の間の相等関係は同値関係である。
例 4.3 Z 上の関係 R = {(m,n) ∈ Z × Z | m − n は 5 の倍数である }は同値関係である。
Quiz 1. 例 4.3 の主張を証明せよ。
例 4.4 R 上の関係 R = {(x, y) ∈ R2 | x − y ∈ Z} は同値関係である。
Quiz 2. 例 4.4 の主張を証明せよ。
同値類: 集合 X 上に同値関係 ∼ が定められているとする。X の要素 a と同値な X の要素全体の集合
{x ∈ X | x ∼ a}
を a の同値類 と呼び、記号 C(a) で表すことにする。また、 b ∈ C(a) を同値類 C(a) の代表元という。特に、 a は C(a) の代表元である。
Quiz 3. 例 4.3 と例 4.4 における同値関係において、同値類と代表元を求めよ。
集合 X 上に同値関係 ∼ が定義されているとき、任意の元 a ∈ X の同値類 C(a) は、 X の部分集合である。同値類すべてを集めてできる X の部分集合族
問題 4.2 例 4.4 の同値関係において、商集合(代表元の集合として)ある一つの区間 ⊂ R が取れる。この区間を求めよ。
問題 4.3 R 上の関係 R{(x, y) ∈ R2 | x− y ∈ Q} は同値関係であることを示せ。この同値関係に対する商集合 R/ ∼ はどのような集合か?
定理 4.1. 集合 X 上に同値関係 ∼ が定義されているとき、以下のことが成り立つ。
(i) a ∈ C(a)
(ii) C(a) ∩ C(b) 6= ∅ ⇔ C(a) = C(b)
(iii) X =∪
x∈X
C(x)
問題 4.4 定理 4.1 を証明せよ。
注意 この定理から、集合 X に同値関係 ∼ が与えられたとき、二つの同値類は共通元を全く持たないか、一致するかのどちらかである.さらにこのとき、集合 X は同値類によって分割(分類)される。これを X の同値関係 ∼ による類別という。逆に、集合 X の分割(分類)
X =∪
α∈Λ
Cα; [∀α, β ∈ Λ(α 6= β)Cα ∩ Cβ = ∅]
があれば、X 上の同値関係 ∼ が次のように定義される。
x ∼ y ⇔ ∃α ∈ Λ[(x ∈ Cα) ∧ (y ∈ Cα)]
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集合の濃度: §3.4 において、集合の間の対等関係を定義した。集合 A と集合 B は、全単射写像 f : A → B が存在するとき、対等であるといった。有限集合の場合、これは A の要素の個数と B の要素の個数が等しい(|A| = |B|)ことと同じである。f : A → B が全単射ならば、逆写像 f−1 : B → A が存在して f−1 も全単射である。従って、 A と B が対等ならば B と A も対等である。集合 A と集合 B の対等関係を記号 A ∼ B で表すことにすれば、定理 3.5 (iii) 等を用いて、次のことが確認できる。
(i) A ∼ A (1A : A → A: 全単射)
(ii) A ∼ B ⇒ B ∼ A (f : A → B 全単射 ⇒ f−1 : B → A 全単射)
(iii) (A ∼ B) ∧ (B ∼ C) ⇒ A ∼ C (定理 3.5 (iii))
従って、集合の間の対等という関係は同値関係である。 この同値関係において、集合 A の同値類を A の濃度あるいは基数(cardinal number)と呼び、記号 |A| を用いて表すことにする。A が有限集合の場合には、|A| は集合 A の要素の個数であった。従って、集合 A の濃度とは集合の個数の概念を一般化して無限集合にまで拡げたものである。
Quiz 5. 有限集合 A の個数が n ∈ N であるとは、集合
{k ∈ N | 1 ≤ k ≤ n}
から集合 A への全単射写像が存在することと同値である。このことについて再考せよ。
4.3 順序関係集合 X に於ける関係 R で、次の性質を満たすものを X 上の順序関係という。この関係を記号 ≤ で表すことにする。
(i) (反射律)x ≤ x
(ii) (半対称律)(x ≤ y) ∧ (y ≤ x) ⇒ x = y
(iii) (推移律)(x ≤ y) ∧ (y ≤ z) ⇒ x ≤ z
例 4.5 R 上の通常の大小関係 x ≤ y は順序関係である。一方、通常の狭い意味の大小関係 x < y は順序関係ではない(反射律を満たさない)。
例 4.6 集合 X の羃集合 2X における関係 ≤ を、A, B ∈ 2X に対して
A ≤ B ⇔ A ⊂ B
によって定義する。この関係は 2X 上の順序関係である。
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Quiz 6. 例 4.6 の主張を証明せよ。
順序関係 ≤ が定義されている集合 X を半順序集合と呼び、このことを強調するために、記号 (X,≤) で表す。半順序集合 X が
∀x, y ∈ X (x ≤ y ∨ y ≤ x)
を満たすとき、(X,≤) は全順序集合と呼ばれる。x ≤ y または y ≤ x が成り立つとき、x と y は比較可能であるという。全順序集合においては、その任意の二つの要素は比較可能である。一方、一般の半順序集合(全順序集合ではない)においては、比較可能でない要素のペアが少なくとも一組存在することになる。例 4.6 は半順序集合であるが一般に全順序集合ではない例であり、例 4.5 は全順序集合の例である。