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本論文は第 17 回計測自動制御学会システムインテグレーション部門講演会(2016 12 15 –17 日, 札幌コンベンションセンター)の講演論文集 pp. 1349–1353 に収録され出版されました. c 2016 SICE ウェアラブル触覚ディスプレイのための柔軟二次元通信シート上の 分布アクチュエータへの無配線多重給電 ○野田 聡人(東京大学),田島 優輝(東京大学),篠田 裕之(東京大学) Multiplex Wireless Power Transfer to Actuators Distributed on Flexible 2-D Communication Sheet for Wearable Tactile Display Akihito NODA (The University of Tokyo), Yuki TAJIMA (The University of Tokyo) and Hiroyuki SHINODA (The University of Tokyo) Abstract : This paper proposes a powering scheme for tiny wearable devices without individual wires. Devices with a special connector consisting of a tack and a clutch are stuck through a special conductive fabric sheet and are powered via the sheet. Physical mounting of the devices and electrical connection are integrated into the single action, just sticking the connector. A three-channel multiplex powering system is presented as a proof of concept. 1. はじめに 多数のアクチュエータを身体表面に分布させるウェラブ ル触覚ディスプレイを実現する上で,各アクチュエータへ の個別の配線は実装上の課題となる.本稿では無配線で 各アクチュエータに個別に給電する手法を提案する.Fig. 1 に示すように,柔軟なウェアラブル二次元通信シートに タック(鋲)型コネクタを突き刺すことでアクチュエータ の機械的な固定と電気的な接続を実現する.本手法による メリットとしては,デバイスを布地に固定するという一つ のアクションで電気的な接続まで完了すること,個別の配 線のルーティングを考慮する必要がなく自由なデバイスの 配置が実現可能であることが挙げられる. マイクロ波帯での二次元通信(two-dimensional com- munication, 2DC)あるいは二次元導波路電力伝送(2-D waveguide power transfer, 2DWPT[1] は,シート状の 導波路表面に近接した受電デバイスに対し空中に放射しな い導波モードによってワイヤレス電力伝送を実現する技術 である.導波シートと受電デバイスとは電気的には絶縁さ れた状態で,近接結合によって「置くだけ」で給電可能な インタフェースを大面積で実現可能であるという特徴を有 する.一方,シートサイズに対して波長が短く,シート内 に生じる定在波のため受電デバイスの位置に依存して給電 能力にムラが生じること [2],マイクロ波での伝送のため 直流-高周波(DC-RF)変換および RF-DC 変換のそれぞ れでの損失のため,トータルの電力伝送効率が高々50%とどまることが実用上の課題である [3]本研究では,近接結合ではなく,シートにコネクタを突 き刺して電気的に導通させて直流での給電を行う手法を提 案する.直流による給電は,DC-RF 間の変換効率と定在 Fig. 1: Concept of “wireless” power supply scheme us- ing wearable 2DC sheet and tack connectors. 波の問題を回避可能であるという点でメリットが大きい. 一方,少なくとも 2 点の電気的な導通のための接触が必要 となる制約が避けられない.本提案では突刺し型のコネク タによって接触導通を実現するが,ピンバッジ,タイタッ ク,ブローチなど,装飾品を衣服に突刺して固定する方法 は広く受け入れられていることから,実用性を大きく損な う制約ではないと考える. 本稿では,2DC シートとタックコネクタを用いた接触導 通による直流給電の構成法と,複数のデバイスへの給電を 個別にオン・オフ可能な給電および受電回路の構成法を示 す.第 2 章で関連研究を概観し本研究のねらいを説明する. 3 章でウェアラブル 2DC シートとタックコネクタの構 造の要件を説明する.第 4 章で多重給電のための回路構成 についての説明とシミュレーション結果の例を示す.第 5 章でデモシステムの実現例を紹介し,第 6 章で本稿のまと めと今後の展望を述べる.
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Multiplex Wireless Power Transfer to Actuators …...本論文は第17 回計測自動制御学会システムインテグレーション部門講演会(2016 年12 月15 日{17...

Jan 04, 2020

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Page 1: Multiplex Wireless Power Transfer to Actuators …...本論文は第17 回計測自動制御学会システムインテグレーション部門講演会(2016 年12 月15 日{17 日,札幌コンベンションセンター)の講演論文集pp.

本論文は第 17回計測自動制御学会システムインテグレーション部門講演会(2016年 12月 15日–17日,

札幌コンベンションセンター)の講演論文集 pp. 1349–1353に収録され出版されました. c⃝ 2016 SICE

ウェアラブル触覚ディスプレイのための柔軟二次元通信シート上の分布アクチュエータへの無配線多重給電

野田 聡人(東京大学),田島 優輝(東京大学),篠田 裕之(東京大学)

Multiplex Wireless Power Transfer to ActuatorsDistributed on Flexible 2-D Communication Sheet

for Wearable Tactile DisplayAkihito NODA (The University of Tokyo), Yuki TAJIMA (The University of Tokyo) and

Hiroyuki SHINODA (The University of Tokyo)

Abstract : This paper proposes a powering scheme for tiny wearable devices without individual wires. Devices with a specialconnector consisting of a tack and a clutch are stuck through a special conductive fabric sheet and are powered via the sheet.Physical mounting of the devices and electrical connection are integrated into the single action, just sticking the connector. Athree-channel multiplex powering system is presented as a proof of concept.

1. はじめに

多数のアクチュエータを身体表面に分布させるウェラブ

ル触覚ディスプレイを実現する上で,各アクチュエータへ

の個別の配線は実装上の課題となる.本稿では無配線で

各アクチュエータに個別に給電する手法を提案する.Fig.

1に示すように,柔軟なウェアラブル二次元通信シートに

タック(鋲)型コネクタを突き刺すことでアクチュエータ

の機械的な固定と電気的な接続を実現する.本手法による

メリットとしては,デバイスを布地に固定するという一つ

のアクションで電気的な接続まで完了すること,個別の配

線のルーティングを考慮する必要がなく自由なデバイスの

配置が実現可能であることが挙げられる.

マイクロ波帯での二次元通信(two-dimensional com-

munication, 2DC)あるいは二次元導波路電力伝送(2-D

waveguide power transfer, 2DWPT)[1]は,シート状の

導波路表面に近接した受電デバイスに対し空中に放射しな

い導波モードによってワイヤレス電力伝送を実現する技術

である.導波シートと受電デバイスとは電気的には絶縁さ

れた状態で,近接結合によって「置くだけ」で給電可能な

インタフェースを大面積で実現可能であるという特徴を有

する.一方,シートサイズに対して波長が短く,シート内

に生じる定在波のため受電デバイスの位置に依存して給電

能力にムラが生じること [2],マイクロ波での伝送のため

直流-高周波(DC-RF)変換および RF-DC変換のそれぞ

れでの損失のため,トータルの電力伝送効率が高々50%に

とどまることが実用上の課題である [3].

本研究では,近接結合ではなく,シートにコネクタを突

き刺して電気的に導通させて直流での給電を行う手法を提

案する.直流による給電は,DC-RF間の変換効率と定在

Fig. 1: Concept of “wireless” power supply scheme us-

ing wearable 2DC sheet and tack connectors.

波の問題を回避可能であるという点でメリットが大きい.

一方,少なくとも 2点の電気的な導通のための接触が必要

となる制約が避けられない.本提案では突刺し型のコネク

タによって接触導通を実現するが,ピンバッジ,タイタッ

ク,ブローチなど,装飾品を衣服に突刺して固定する方法

は広く受け入れられていることから,実用性を大きく損な

う制約ではないと考える.

本稿では,2DCシートとタックコネクタを用いた接触導

通による直流給電の構成法と,複数のデバイスへの給電を

個別にオン・オフ可能な給電および受電回路の構成法を示

す.第 2章で関連研究を概観し本研究のねらいを説明する.

第 3章でウェアラブル 2DCシートとタックコネクタの構

造の要件を説明する.第 4章で多重給電のための回路構成

についての説明とシミュレーション結果の例を示す.第 5

章でデモシステムの実現例を紹介し,第 6章で本稿のまと

めと今後の展望を述べる.

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本論文は第 17回計測自動制御学会システムインテグレーション部門講演会(2016年 12月 15日–17日,

札幌コンベンションセンター)の講演論文集 pp. 1349–1353に収録され出版されました. c⃝ 2016 SICE

2. 関連研究

専用の通信・給電媒体に対して突刺すことで電気的に

導通させ,信号・電力の送受信を可能とする技術として

は Pushpin Computing [4],Pin&Play [5]が提案されて

いる.突刺しは伴わず,導体パッチ表面への接触による導

通を用いるものとしては Networked Surface [6]の報告例

がある.これらはウェアラブルシステムでの利用を想定し

たものではなく,机の表面や壁・床等の構造物表面での利

用を想定したものである.

本研究ではウェアラブルシステムへの応用を前提とし,

布状の給電媒体にアクチュエータを含むデバイスを取り付

けることを目的としているため,突刺した後に反対側から

留め具(クラッチ)で固定する.裏側からクラッチで固定

するという方法は,Pushpin ComputingおよびPin&Play

のように壁や床などを対象とする場合には実用的でないが,

前章で述べた通り衣服への装飾品の取り付け方法としては

広く受け入れられている方法でありウェアラブル用途では

実用性が高いと言える.これにより各面での接触不良を生

じにくくより安定した導通が得られると期待できる.

ウェアラブルシステムへの応用を目的とし,導電糸に

よって縫い付けることを前提としたマイクロコントローラ

として Lilypad Arduino [7]およびその周辺デバイスが市

販されている.これはケーブルを導電糸に置き換えるもの

であり,衣服の上に形成する電気回路の規模に合わせて導

電糸を刺繍することになる.基材となる衣服の生地の材料

を選ばず,小さな回路では局所的に導電糸を刺繍するだけ

で済む反面,信号線の数だけ独立に導電糸でパスを形成す

る必要がある.通常衣服を構成する布パーツは 1枚でなく

複数が縫い合わされているから,複数パーツにまたがる信

号線を形成する場合にはパーツ間で信号線が連続となるよ

うに製造する必要がある.このため,固定のパターンで導

電糸を刺繍した生地をロールで製造したものを型紙に合わ

せて切り抜いて縫製する方法は困難になると考えられる.

本稿で提案する手法では,生地の表面と裏面が互いに絶

縁された導電面となっていることだけが要求され,上記の

ようにパーツ間での位置合わせ等に特別な配慮は必要とし

ない.これにより最終的な量産コストの低減の観点からの

優位性が期待できる.

3. 接触導通によるウェアラブル2DC

提案手法では Fig. 2に示すように,導電性の布を用い

た柔軟な二次元通信シートを用いる.表面のメッシュ状導

体層,中間の絶縁体層,背面のグラウンド導電層という構

成は,従来から提案されている二次元通信シート [8]と同

一である.本手法に特有のシートの要件は導電面がむき出

(a)

(b)

Fig. 2: (a) A wearable 2DC sheet and receiver devices.

(b) Cross sectional view of a wearable 2DC sheet and

a tack connector. Although the top mesh conductor is

represented with separate dots (and a dotted line con-

necting them) in this figure, it is electrically continuous

material.

しになっていることである.従来提案されている近接結合

による二次元通信では直接電気的に導通しない条件を前提

としていたため,導電層の表面に導電層を保護するための

薄い絶縁体層を設けることがあったが,本手法においては

表面が絶縁されたシートは利用できない.

このシートに,Fig. 2に示すようにメッシュ面からタッ

ク型コネクタの針を突き刺し,グラウンド面から針をク

ラッチ(留め具)で受ける.針とクラッチはともに金属製

で,クラッチを取り付けた状態においてこれらは導通して

いる.クラッチはシートと接触する部分が平坦になってお

り,シートのグラウンド面と導通する.針を両面銅張基板

の表面(図の上側の面)に半田により固定・導通させるこ

とで,表面の銅パターンをグラウンドとして回路を実装で

きる.基板裏面はコネクタをシートに突刺した状態でメッ

シュ面と接触・導通する.したがってシートのグラウンド

面とメッシュ面の電位がそれぞれ基板の表面と裏面に伝達

される.

これらの間で短絡を生じさせないためには,基板の裏面

において針が貫通する部分の周囲の銅パターンをくり抜く

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札幌コンベンションセンター)の講演論文集 pp. 1349–1353に収録され出版されました. c⃝ 2016 SICE

こと,および針をシートに突刺す際には表面のメッシュ導

体に接触しないように(メッシュの「穴」の位置に)突刺

すことが必要となる.針とメッシュ導体との短絡を防ぐた

めには,針の根元を絶縁コーティングしておき,先端付近

のクラッチとの接触部のみ導体をむき出しにしておく方法

も有効である.

このような接触導通による給電において,給電効率を決

定する主な要因は導電布の抵抗値およびコネクタとの接触

抵抗である.これらを合わせた抵抗の予備的な簡易評価を

行い,第 5章で示すデモシステムで使用するシートにおい

ては,メッシュ導体面で約 1.7 Ω,グラウンド面で約 1.1 Ω

という結果を得ている.これは幅 80 mm,長さ 250 mm

の導電布の長手方向に 200 mm程度の間隔で二つのコネ

クタを突刺し,それらの間で抵抗値を測定した.導電布

の抵抗は導電布の材料となる導電糸の種類,布の寸法と織

り方・編み方,織りの方向に対する電流パスの方向などの

要因に依存し,最適化のためには今後詳細な評価を必要と

する.

両面を合わせた抵抗値を 2.8 Ωとすると,例えば USB

2.0ポートの給電能力である 5 V,500 mAを負荷に供給

する場合,約 78%の電力効率となる.

4. 多重給電

本提案では,複数の受信機に対し個別に給電をオン・オ

フ可能な多重給電のために,DC電源に加えて受信機の制

御用の高周波(RF)信号を同一のシートで伝送する.複数

の周波数の信号を用意し,周波数の数だけ独立した(ただ

し電圧はすべて共通の)給電チャンネルを持つシステムと

して動作する.DCの電力と複数の RF信号の全てが,適

切なフィルタを介して同一の通信シートに接続されて伝送

される.受信機はあらかじめ決められた一つの周波数成分

だけを受信するようにフィルタを搭載しており,給電回路

から送信する RF信号の on-off keyingによって受電のオ

ン・オフを切り替える.

この多重給電の回路構成例をFig. 3に示す.多重給電の

最小構成として二つの受信機が同一シートに接続されてい

る状態を示している.DC電圧を 2DCシートに常時供給し

た状態であるが,各受信機 1,2において負荷をそのDCラ

インに接続するか切断するか(受電をオンにするかオフに

するか)を個別に制御するための角周波数 ω1,ω2 の高周

波(RF)信号を重畳している.DC電源にRF信号が直接

印加されることがないよう,直列に RFチョーク(RFC)

を挿入している.また ω1,ω2 の各 RF電圧源には LC直

列共振回路(ω1 = 1/√LT1CT1,ω2 = 1/

√LT2CT2)を

挿入し,他の周波数の電圧が直接印加されないようになっ

ている.

Fig. 3: Schematics of a multiplex power transfer system

on a single 2DC sheet.

(a) (b)

Fig. 4: (a) RF equivalent circuit of a receiver filter. (b)

Norton’s equivalent expression of (a).

RF 信号としては,2DC シートの寸法に対して波長が

充分長く,システム全体を集中定数回路として取り扱える

周波数帯を使用する.例えばシートの長さを 50 cmと仮

定し,その 10倍の 5 mを波長の最小値とすると,シート

内の波長短縮効果を無視すれば最大周波数は 60 MHzと

なる.

一つの受信機のフィルタ部(ダイオードのアノード端子

に接続される点まで)のRF等価回路を Fig. 4に示す.共

振角周波数 ω0 = 1/√LC におけるこのフィルタ回路の出

力電圧(ダイオードのアノード端子への入力電圧)は以下

となる.

Vout =Rres

Z0 +R+RresVin (1)

ただしダイオードのアノード端子より後段の回路の入力イ

ンピーダンスは充分高いものと仮定している.Rres は共振

周波数における LC並列共振回路のインピーダンス(抵抗)

であって,理想的には無限大だが実際には使用するキャパ

シタおよびインダクタの損失成分のため有限の値となる.

Z0は信号源の出力インピーダンス(Fig. 3の LC直列フィ

ルタの共振時の抵抗と 2DCシートの抵抗を含む),Vin は

信号源の開放電圧である.各素子の定数を決定する上で,

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-30

-25

-20

-15

-10

-5

0

10 100

Vo

lta

ge

ga

in V

ou

t/V

in (

dB

)

Frequency (MHz)

Ch1

Ch2

Ch3

Fig. 5: Simulated voltage gain of the designed LC filters.

(1)で表される Vout が FETのゲート閾値電圧以上となる

ことが要件の一つとなる.

Fig. 4(a)の回路はNortonの定理により同図 (b)のよう

に表現できる.これより,この LC並列共振回路のQ値は

次式で表される.

Q =ωC

(Z0 +R)−1 +R−1res

=1

ωL(Z0 +R)−1 +R−1res

(2)

このQ値は,隣接するチャンネルの周波数において電圧ゲ

インが充分減衰するように設計する.

以下に 3 チャンネルの場合の設計例を示す.共振周波

数 f1 = ω1/2π = 25 MHz, f2 = ω2/2π = 40 MHz,

f3 = ω3/2π = 54 MHz として設計した LC フィルタの

それぞれの電圧ゲイン((1)の Vout/Vin)の周波数特性を

Fig. 5に示す.インダクタは等価回路モデルとしてメー

カーの提供する SPICE モデル [9] を用い,LTspice [10]

による回路シミュレーションにより求めた.キャパシタは

信号周波数に対し充分高い自己共振周波数を持つため,理

想キャパシタとして近似してシミュレーションを行った.

シミュレーションに用いたパラメータを Table 1に示す.

Rres は明示的に与えていないがインダクタの SPICEモデ

ルにより決定される.いずれのフィルタも,他のチャンネ

Table. 1: Circuit parameters in SPICE simulation.

Symbol Value

Z0 0 Ω

R1 4.7 kΩ

R2 5.6 kΩ

R3 6.5 kΩ

L1, L2, L3 3.3 µH

C1 12 pF

C2 5 pF

C3 2 pF

Fig. 6: Demonstration system.

Fig. 7: Fabricated receiver devices.

ルの周波数においてゲインがピーク値に対し 10 dB以上減

衰するように設計されている.

5. 実装例

提案する手法を用いて複数の負荷への多重給電を実装

した例を Fig. 6に示す.視覚的な分かりやすさのために

LEDを負荷とした例を示しているが,振動モータ等の触

覚提示アクチュエータを駆動するのに充分な給電能力を有

しており,実際に振動モータを負荷としたデバイスも製作

している.

製作したデバイス単体の外観を Fig. 7に示す.受信回

路とアクチュエータの実装面積を含めて直径 20 mmの円

形のプリント基板となっている.デバイスの小型化に関し

て最適化されてはおらず,使用部品の変更や部品の高密度

実装によりさらに小型化が可能である.

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6. まとめと展望

ウェアラブル触覚ディスプレイとしてアクチュエータを

高密度に個別配線なく実装可能とする手法を提案した.現

在入手可能な導電率の高い布素材を用いることで,シート

全体で数W程度までの電力を 80%程度の効率で伝送可能

であり,触覚ディスプレイとして振動アクチュエータ等を

駆動するのに充分な給電性能を有している.また給電をオ

ン・オフする複数の独立したチャンネルを実現する方法を

示し,実際にシステムを試作して有効性を確認した.

給電の多重数の向上に関しては今後の発展の余地が大き

く残されている.本稿で示した方式では,使用可能な周波

数帯域の中で独立したチャンネルの数を増加させるには,

フィルタの Q値を高める必要がある.Q値を高くしすぎ

ると素子定数のばらつきや回路の寄生インピーダンスによ

るフィルタの共振周波数のずれが無視できなくなる.また

本方式で実現可能な多重化の数はフィルタのQの値より小

さい程度であり,LCフィルタで実現可能な Q値が数十程

度として,高々10チャンネル程度までと推測される.

今後,周波数領域での多重化のみによらない,通信を併

用してより多数のチャンネルを有する多重給電システムに

発展させていく.基礎技術としての発展とともに,高密度

にアクチュエータを配置したウェアラブル触覚ディスプレ

イの実用的な実装手法として本提案手法を活用したアプリ

ケーションの発展が期待される.

謝辞

本研究の一部は JST ACCEL 身体性メディアプロジェ

クトおよび総務省 SCOPE(受付番号 155103003)の委託

によって行われた.通信シートの材料の一部は帝人株式会

社の提供による.

参考文献

[1] A. Noda, and H. Shinoda, “Selective wireless powertransmission through high-Q flat waveguide-ringresonator on 2-D waveguide sheet,” IEEE Transac-tions on Microwave Theory and Techniques, vol.59,no.8, pp.2158–2167, August 2011.

[2] 野田聡人,篠田裕之,“二次元導波路電力伝送における位相可変かつ終端条件可変なマルチポート給電システム,” 電子情報通信学会論文誌C,vol.J99-C,no.4,pp.84–96,April 2016.

[3] A. Noda, and H. Shinoda, “Waveguide-ring res-onator coupler with class-F rectifier for 2-D waveg-uide power transmission,” Proc. 2012 IEEE MTT-S International Microwave Workshop Series on In-novative Wireless Power Transmission, pp.259–262,Kyoto, Japan, May 2012.

[4] J. Lifton, D. Seetharam, M. Broxton, andJ. Paradiso, “Pushpin computing system overview:A platform for distributed, embedded, ubiqui-tous sensor networks,” Proceedings of First In-ternational Conference on Pervasive Computing,pp.139–151, 2002.

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[7] L. Buechley, and M. Eisenberg, “The LilyPadArduino: Toward Wearable Engineering for Ev-eryone,” IEEE Pervasive Computing, vol.7, no.2,pp.12-15, April 2008.

[8] H. Shinoda, Y. Makino, N. Yamahira, and H. Itai,“Surface sensor network using inductive signaltransmission layer,” Proceedings of Fourth Interna-tional Conference on Networked Sensing Systems,pp.201–206, Braunschweig, Germany, June 2007.

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[10] Linear Technology, “LTspice,” http://www.linear-tech.co.jp/designtools/software/#LTspice.