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1.化石の宝庫「雨滝山」と石棺のふるさと「火山」 津田の松原は典型的な海岸砂州で、「日本の渚百選」に選ばれています。また、その西には、雨滝山(あめたきや ま:標高253m),南には火山(ひやま:標高245m)が並んでいます。 雨滝山は中新世の讃岐層群初期に堆積した化石の宝庫です。雨滝山山腹には、さぬき市立雨滝自然科学館があり、 同地点で発見された世界最古のなまずの化石が展示されています。 津田湾を囲む丘陵には多くの古墳が築造されています。火山で採取された凝灰岩(火山石)は、古墳時代に石棺に 加工され、その一部は畿内へも運ばれました 1) 。また、火山から産出する白色の凝灰岩は、中世には石造物に加工さ れました。火山産凝灰岩製の石造物は、地元香川の他、四国、中国、関西方面に分布しています 2) 2.地形と地質 雨滝山・火山付近は、標高約 80mまで 領家花崗岩に属する志度花崗岩でできて います 3) 。花崗岩は、地表部では風化し てほとんどマサとなっています。 火山では、讃岐層群の白色をした流紋 岩質凝灰岩層が、花崗岩を不整合に覆っ ています。雨滝山では、凝灰岩層の最下 部の雨滝山化石層は、淡水性の植物化石 を多産する泥岩からできています 4) 雨滝山と火山の山頂には讃岐層群の安 山岩および玄武岩が分布しています 4) 雨滝山の安山岩は貫入岩体で、鈍い赤色 をしたザクロ石が含まれています。ザク ロ石の結晶は風化に強いので、風化した 安山岩から容易に取り出すことができま す。 参考文献: 1)松田朝由:津田湾古墳群調査途中経過,平成 21 年度さぬき市文化財講演会資料,2010. 2)香川県埋蔵文化財センター:いにしえの讃岐,香川県埋蔵文化財センター情報誌 No.61,2009. 3)森合重仁編:香川県地学のガイド,コロナ社,1979. 4)雨滝自然科学館ホームページ: http://www.sanuki.ed.jp/ookawa1-j/pcc/h22mytown/ametaki/index.html 5)Watanabe, K., T. Uyeno and S. Mori Fossil record of a silurid catfish from the Middle Miocene Sanuki Group of Ohkawa, Kagawa Prefecture, Japan. Ichthyol. Res., 45 (4): 341-345, 1998. 6)さぬき市ホームページ:http://www.city.sanuki.kagawa.jp/education/culture/index.html 讃岐ジオサイト(5) 火山 雨滝山 火山 図1 雨滝山・火山地質図 (基図は国土地理院数値地図 25000「徳島」を使用, 地質図は森合重仁編「香川県地学のガイド」 3) を簡略化) 津田の松原 図3 雨滝山・火山案内図(基図は国土地理院数値地図 25000「徳島」を使用) 雨滝山 火山 図2 雨滝山・火山地質断面図(A-A’断面) 含ザクロ石安山岩 [作成] 香川大学工学部安全システム建設工学科 長谷川研究室 (長谷川修一,鶴田聖子) 香川県高松市林町 2217-20 TEL:087-864-2155,URL:http://www.eng.kagawa-u.ac.jp/~hasegawa/ * この地図は国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図 25000(地図画像)を複製したものである。(承認番号 平 24 四複、第 60 号) 許可なく複製を禁ずる。
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讃岐ジオサイト(5) 雨滝山と火山 - Kagawa Uhasegawa/geositePDF/5.pdf3.雨滝山のジオサイト ⑥赤山古墳 推定全長44mの前方後円墳で、墳頂部には火山石(流紋

Aug 21, 2020

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Page 1: 讃岐ジオサイト(5) 雨滝山と火山 - Kagawa Uhasegawa/geositePDF/5.pdf3.雨滝山のジオサイト ⑥赤山古墳 推定全長44mの前方後円墳で、墳頂部には火山石(流紋

1.化石の宝庫「雨滝山」と石棺のふるさと「火山」 津田の松原は典型的な海岸砂州で、「日本の渚百選」に選ばれています。また、その西には、雨滝山(あめたきや

ま:標高 253m),南には火山(ひやま:標高 245m)が並んでいます。

雨滝山は中新世の讃岐層群初期に堆積した化石の宝庫です。雨滝山山腹には、さぬき市立雨滝自然科学館があり、

同地点で発見された世界最古のなまずの化石が展示されています。

津田湾を囲む丘陵には多くの古墳が築造されています。火山で採取された凝灰岩(火山石)は、古墳時代に石棺に

加工され、その一部は畿内へも運ばれました 1)。また、火山から産出する白色の凝灰岩は、中世には石造物に加工さ

れました。火山産凝灰岩製の石造物は、地元香川の他、四国、中国、関西方面に分布しています 2)。

2.地形と地質

雨滝山・火山付近は、標高約 80mまで

領家花崗岩に属する志度花崗岩でできて

います 3)。花崗岩は、地表部では風化し

てほとんどマサとなっています。

火山では、讃岐層群の白色をした流紋

岩質凝灰岩層が、花崗岩を不整合に覆っ

ています。雨滝山では、凝灰岩層の最下

部の雨滝山化石層は、淡水性の植物化石

を多産する泥岩からできています 4)。

雨滝山と火山の山頂には讃岐層群の安

山岩および玄武岩が分布しています 4)。

雨滝山の安山岩は貫入岩体で、鈍い赤色

をしたザクロ石が含まれています。ザク

ロ石の結晶は風化に強いので、風化した

安山岩から容易に取り出すことができま

す。

参考文献:

1)松田朝由:津田湾古墳群調査途中経過,平成 21 年度さぬき市文化財講演会資料,2010.

2)香川県埋蔵文化財センター:いにしえの讃岐,香川県埋蔵文化財センター情報誌 No.61,2009.

3)森合重仁編:香川県地学のガイド,コロナ社,1979.

4)雨滝自然科学館ホームページ: http://www.sanuki.ed.jp/ookawa1-j/pcc/h22mytown/ametaki/index.html

5)Watanabe, K., T. Uyeno and S. Mori Fossil record of a silurid catfish from the Middle Miocene Sanuki Group of Ohkawa, Kagawa Prefecture,

Japan. Ichthyol. Res., 45 (4): 341-345, 1998.

6)さぬき市ホームページ:http://www.city.sanuki.kagawa.jp/education/culture/index.html

讃岐ジオサイト(5) 雨滝山と火山雨滝山

火山

図1 雨滝山・火山地質図 (基図は国土地理院数値地図 25000「徳島」を使用,

地質図は森合重仁編「香川県地学のガイド」3)を簡略化)

津田の松原

図3 雨滝山・火山案内図(基図は国土地理院数値地図 25000「徳島」を使用)

雨滝山

火山

図2 雨滝山・火山地質断面図(A-A’断面)

含ザクロ石安山岩

[作成] 香川大学工学部安全システム建設工学科 長谷川研究室 (長谷川修一,鶴田聖子)

香川県高松市林町 2217-20 TEL:087-864-2155,URL:http://www.eng.kagawa-u.ac.jp/~hasegawa/

* この地図は国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図 25000(地図画像)を複製したものである。(承認番号 平 24 四複、第 60 号)

許可なく複製を禁ずる。

Page 2: 讃岐ジオサイト(5) 雨滝山と火山 - Kagawa Uhasegawa/geositePDF/5.pdf3.雨滝山のジオサイト ⑥赤山古墳 推定全長44mの前方後円墳で、墳頂部には火山石(流紋

3.雨滝山のジオサイト

⑥赤山古墳

推定全長 44mの前方後円墳で、墳頂部には火山石(流紋

岩質溶結凝灰岩)でできた石棺があります。石棺の形状と法

量から、快天山古墳(丸亀市綾歌町の前方後円墳)との類似

性が強く、火山産石工集団と鷲の山産石工集団との密接な関

係も想定されています 1)。赤山古墳は私有地にあるため、見

学の場合は許可が必要です。

⑧鵜の部(うのべ)山古墳

津田湾を囲む丘陵には多くの古墳が築造さ

れています。鵜の部山古墳は、津田湾の古墳群

で最初に築造された古墳時代初期 1)全長37mの

前方後円墳で、石を積み上げた積石塚(つみい

しづか)です。積み石には、立地場所周辺の海

岸の石を利用した長径 15cm 程度の花崗岩,安山

岩,流紋岩などの円礫が使用されています。墳頂

部にあるほこらは、暗灰色の豊島石に似た火山

礫凝灰岩製です。

⑦津田の松原

津田の松原は、瀬戸内海の白砂青松を代表す

る砂浜で、「日本の渚百選」にも選ばれていま

す。津田の松原は典型的な海岸砂州で、背後の

低地と比較して微高地になっており、防風林と

して植えられた松原が約1km 続いています。

津田の松原の海岸砂州は、津田川によって運

ばれた砂が、沿岸流によって移動堆積したもの

です。砂は、主に石英,長石からなり、花崗岩

が風化したマサに由来しています。

⑨うのべ展望ふれあい広場と弁天島

うのべ展望ふれあい広場からは、弁天島,津田

の松原,雨滝山,火山を遠景することができま

す。弁天島は、津田湾東部にある小さな陸けい

島で、砂州によって半島と結ばれています。

⑤西教寺奥の院(さいきょうじおくのいん)

火山(ひやま)南西山腹の標高 160m付近にある西教寺奥

の院では、穴薬師の堂内にある流紋岩質凝灰岩の転石に磨

崖仏が刻まれています。お堂の西側にある白色凝灰岩の磨

崖仏は、風化によって表面が剥落し、はっきりとしない部

分もありますが、鎌倉時代初頭の如来像と推定されていま

す 5)。この凝灰岩も背後の山からの転石と考えられます。こ

の磨崖仏の上方にも凝灰岩を切り出した石切場があり、採

石後の壁面には梵字と役小角像が彫刻されています。この

白色をした流紋岩質凝灰岩は白粉石(しらこいし)と呼ば

れ、中世の石造物に利用されていました。

表1 火山石の物性値 (乾燥状態)

4.火山のジオサイト 5.津田湾岸のジオサイト

凝灰岩の磨崖仏

採石跡の役小角像

②大露頭

雨滝山自然科学館の正面には雨滝山化石層に含ザクロ石安山岩が

貫入している大露頭があります。西側の斜面はほぼ鉛直で、貫入面に

沿って水が侵入し褐色に変質しています。また東側の貫入面は東傾斜

で、雨滝山化石層が含ザクロ石安山岩の貫入によって取り囲まれ、地

層の傾斜が急になっています。

雨滝山自然科学館近くの地層観察については雨滝自然科学館にお

問い合わせ下さい。 貫入面

雨滝山化石層

貫入面 貫入面

含ザクロ石安山岩

含ザクロ石安山岩

③安山岩の玉ねぎ状風化

雨滝山は含ザクロ石安山岩が貫入してで

きた火山岩頸です。雨滝山中腹の車道沿い

には玉ねぎ風化を受けた安山岩露頭があり

ます。安山岩には、直径 5mm 程度の鈍い赤

色をしたザクロ石(鉄分に富むアルマンデ

ィン(鉄ばんザクロ石))の結晶が含まれて

います。香川県下でもザクロ石は、安山岩

中に数多く含まれていますが、雨滝山のザ

クロ石は量が多く、かつては研磨剤(紙や

すり)の原料として採掘されていました。

玉ねぎ状風化をした含ザクロ石安山岩

①雨滝自然科学館(Tel:0879-43-0155)

雨滝自然科学館では、香川県の地史

をパネルと化石などにより時代を追

って分かりやすく説明されています4)。

雨滝山と火山の間にある柴谷峠の

西側の雨滝山山麓には、カエデ,ブ

ナなどの植物化石を産出する雨滝山

化石層があります。雨滝山化石層を

構成する湖成層の泥岩から、1985 年

に森繁氏(雨滝自然科学館館長)が

世界最古のナマズ科魚類化石を発見

しました 5)。その複製が、雨滝自然科

学館に展示されています。

雨滝山化石層の泥岩は、岩石がバラ

バラに分解するスレ-キングを起こ

しやすいので、保護のため立入が禁止

されています。

④雨滝山山頂

標高 253mの雨滝山山頂にある雨滝城跡は、天然の要害地形を取り入

れて普請された典型的連郭式山城で、さぬき市の史跡文化財に指定され

ています 5)。本丸跡を中心に、東方二段、西方五段、北方五段、三方尾

根状に削平地が形成されています。山頂には含ザクロ石安山岩のラント

ウが 1つ残っています。また、山頂東尾根には安山岩の巨石が祀られて

います。