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【新しい酪農スタイルの実現(省力化)】
農事組合法人蛭田牧場の蛭田さんは、原発
事故によりいわき市に一時避難していました
が、平成28年度に乳牛の飼養実証を経て、
平成29年1月に避難解除となった区域(楢
葉町)から初めて原乳出荷を再開しました。
震災前は120頭の乳牛を飼育し、原乳約2ト
ン/日を本宮市内の東北協同乳業(株)に出
荷していました。
現在(平成30年12月)の飼育頭数は85
頭まで増えており、うち搾乳牛は53頭で、
出荷量は約1.4トン/日に達しています。平成30年3月末よりロボット搾乳機(以下、「搾
乳機」という。)を導入し省力化を図ると共に、同年4月より男性1名を雇用し、牧草面
積を震災前と同じ12haまで回復させています。
これまでの一斉搾乳では人間も牛も搾乳を中心とした行動や時間の制約を受け、多くの
時間を要していましたが、搾乳機の導入により、従来に比べ労力の軽減化が図られていま
す。なお、搾乳機は、牛の乳器の形状や配列により全ての牛に使用可能ではないため、今
後は搾乳機が装着しやすい牛群に改良する必要があるとのことでした。
また、蛭田さんは、牧草の放射性物質の影響を懸念しており、イノシシに掘り起こされ
土の付いた牧草が混入しないように細心の注意を払い収穫しています。イノシシの対策と
しては、電気柵を設置し、漏電防止のため下草を刈払機で除草していますが、多くの労力
を要しています。今後は、効率的な牧草生産のために、平らな農地(休耕地含む)を借り
て団地化を図っていきたいと考えています。
被災12市町村の避難指示区域では、長期
間の避難指示により畜産を営むことができ
ませんでしたが、牧草地や飼養施設の除染
作業、家畜の飼養試験、その家畜から生産された生産物の安全確認等を経て、8市町村で畜
産経営が再開しています。その中には、新たな設備を導入して労力の軽減・作業の効率化を
図った例や県外から被災地に新たに参入し、経営規模の拡大を図る法人等もみられ、着実に
畜産の復興が進んでいます。
震災復興室だより(第28号)
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震災復興室だより(第28号)
ときめきファーム株式会社は、平成29年10月に川俣町山木屋地区の3農場(田代、山
木屋、木合)において、新たに養鶏事業を行う立地条件に合う場所であったことや福島震
災復興支援の一役になればとの理由で、ブロイラー飼養を開始しました。同地区の良好な
気候としっかりした平飼いの鶏舎管理により、鶏が病気になりにくく育成率が高く経過し、
現在約8万羽が飼養されています。
同社は養鶏から鶏肉処理、加工に至るまでの一貫したチキン生産事業を展開しています。
平成30年8月15日、川俣町山木屋の復興拠点商業施設「とんやの郷」で開催された「と
んやの郷山木屋夏まつり」の地元イベントでは、美味
しい骨付きスモークレッグを販売する等、地域との繋
がりを深めています。
同社生産部の池松さんは「平成31年春には、山木屋
地区にさらに2農場(三道平、向出山)を開場し、規
模を拡大することにより地域の雇用を増 や す こ
とにも繋げたい。また、福島のブランドとして安全
・安心な鶏を生産していきたい。」と話していました。
【川俣町山木屋地区で養鶏の規模拡大】
【佐久間牧場の再スタート(葛尾村の酪農復活へ)】
葛尾村の株式会社佐久間牧場は、東日本大震災に伴う
原子力発電所事故から7年半となる平成30年9月13日、
北海道から乳牛(妊娠牛)8頭を導入し念願の酪農経営
を再スタートしました。現在は48頭と飼養頭数を増やし、
同牧場の取締役佐久間哲次さんは「家業である酪農を再
開することが第一目標。新たな気持ちで一からやり直す。」
と日夜奮闘されています。
震災以前、同牧場は乳牛約130頭を飼養していました
が、原発事故による全村避難に伴い家族も避難をする中、
やむなく子牛は預託、親牛は食肉用に出荷し、酪農が休
止となりました。平成28年6月に帰還困難区域を除き避
難指示が解除され、平成30年4月に自宅を新築し営農を再開する日を模索してきました。
平成31年1月の牛乳出荷を目指し、現在は原乳のモニタリング調査(放射線物質検査)
を受けており、今後は牛舎等を増築し、飼養頭数を約370頭まで拡大する計画です。
村民の帰村率もまだ低く、畜産復興が期待される中、佐久間さんは「自分たちの若い世
代が先頭に立ち、畜産により村の復興を後押ししたい。まずは、しっかりと安全・安心な
牛乳を出荷したい。」と再起を強く決意しています。
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飯舘村の佐藤一郎さんの農場において、ICT(情報
通信技術)機器や経営状況を管理する繁殖牛管理シス
テムを活用した福島県の実証事業が行われています。
福島県は、先端技術を駆使した大規模経営のモデルの
構築・普及拡大を目指しています。
繁殖牛管理システムは、①産前・産後の牛の状況を
確認する「遠隔カメラ」、②出産を予知する「モーシ
ョンカメラ」、③雌牛の発情を感知する「行動量セン
サー」、④子牛の健康状態を把握する「サーモカメラ」(未設置)等の情報が「タブレット
端末」に送られ、牛の状態を確認したり、人工授精の効率化を図ることができます。また、
餌やコスト管理のデータも記録できるシステムとなっています。
佐藤一郎さんは、原発事故後に避難先の相馬市で営
農を続けていましたが、平成30年5月から飯舘村の牛
舎で営農を再開し、現在は52頭の繁殖牛を飼養して
います。佐藤さんからは「このシステムは、牛舎の環
境に関する様々な数値が記録されるので、牛の管理が
従来に比べて容易になり、畜産経営の負担軽減になる
ため、後継者育成に繋がる。」との話がありました。
【先端技術を駆使し和牛繁殖農家の負担軽減】
【黒毛和牛の繁殖経営を開始】
株式会社和農は、平成29年11月に代表取締役高橋将志さんほか3名で設立し、田村市
都路町に敷地面積約1.2haの牛舎等を現在新設中です。初期投資や経費削減の観点から、
(自前で建築基準等勉強しながら)基礎工事から使いやすさを考慮し、親牛約100頭が入
る牛舎1棟、子牛約100頭が入る牛舎が1棟、ほかに哺育舎と倉庫兼たい肥舎を建設して
います。平成30年10月から飼養を開始し、現在預託も含め約40頭程度飼養しています。
素牛は、黒毛和牛の受精卵を移植して黒毛和牛の生
産を行うため、県内外からF1の子牛5頭を導入しま
した。飼料については、自給牧草とWCSを主に、
購入飼料の輸入乾牧草や配合飼料を給餌しています。
今後は、「親牛約150頭の飼養と一貫経営を目指し、
牛が好んで食べるWCSの作付面積を20haまで増や
して経費の削減を図り、将来的には妊娠牛の放牧に
も取り組んでいきたい。」との話がありました。
震災復興室だより(第28号)
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震災復興室だより(第28号)
12月3日、Jヴィレッジ(福島県楢葉町)において、一般財団法人福島イノベーショ
ン・コースト構想推進機構及び福島県の主催により「スマート農業技術体験フェア」
が開催され、300名を超える農業者や農業関係者が参加しました。屋内エリアでは、
セミナーや展示等が行なわれ、屋外エリアでは、トラクタや田植機、ドローン等の展
示や実演、試乗等が行なわれました。
セミナーでは、先進的な農業を先駆けて実践して
いくため、県内外の取組事例に関して3名から講演
がありました。①農林水産省大臣官房政策課技術政
策室大熊課長補佐から農業分野の労働力不足の解消
や生産性の向上の取り組みのほか、先端技術を活用
した「スマート農業」について。②南相馬市小高区
で農業の復興を目指している株式会社紅梅夢ファーこうばいゆめ
ム代表取締役佐藤良一さんから「7つの営農組織に
よる法人設立とスマート農業の実践」と題して、水
稲や大豆、タマネギ等を作付け(約50ha)、年々作付けを拡大していることや作業効
率の向上を図るため「ロボットトラクタ」を導入するなど、スマート農業を積極的に
取り入れていること等について。③株式会社ジェイエイフーズみやざき業務部長川口
正剛さんからは「IoTを活用した加工業務用「インテグレーションモデル産地」づくり
に向けて」と題して「露地野菜の産地づくり」と「冷凍野菜・カット野菜事業」を柱
とした新たなビジネスモデルの構築と「生産工程管理」を進め、機械化一貫体系によ
る産地づくりについて。
屋外エリアの先端技術体験ゾーンでは、最先端
の農業技術開発を行っている各出展企業による①
ロボットトラクタや直進アシスト田植機の実演・
試乗体験、②汎用コンバインの展示・説明、③無
人地上車両や農業用ドローンの展示・操作体験、
④液剤散布用モーターボートや水田除草ロボット
の技術紹介や遠隔操作体験、⑤マッスルスーツの
装着体験、⑥アイガモロボットの操作体験等が行
われました。
【農業の成長産業化を推進!】
※「福島イノベーション・コースト構想」とは、東日本大震災及び原子力災害によって失われ
た浜通り地域等の新たな産業基盤の構築、新たなまちづくりを進めるための構想です。
※「スマート農業」とは、ロボット技術や情報通信技術を活用し超省力・高品質生産を実現する
新たな農業のことです。