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池野範男 NORIO IKENO 所属大学 広島大学→日本体育大学 (2017~) 代表的理論 市民社会科(社会形成科) 1990’s後半~2000’s
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池野範男 NORIO IKENO - Hiroshima University...池野範男 NORIO IKENO 所属大学 広島大学→日本体育大学 (2017~) 代表的理論 市民社会科(社会形成科)

Oct 24, 2020

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  • 池野範男NORIOIKENO

    所属大学

    広島大学→日本体育大学(2017~)

    代表的理論

    市民社会科(社会形成科)

    1990’s後半~2000’s

  • 1.どういう時代的文脈で、どういう問題状況下で?

    •思想上のパラダイム転換:モダニズムからポストモダニズムへ

    •社会の変化:近代教育が想定していた同一民族の均一集団という前提の崩壊

    不均一化:異なった人々が集団に入る

    私事化:社会からの個人の逃避

    グローバル化:国や社会という単位を超えて流動化

    →均一な教育対象では解決しない、知識提供だけでは解決しない、

    教えておけば学ぶという教授原則が通用しない

    •子どもたちが社会科を学ぶ意義を見つけられない

    →子どもたち一人一人が現代社会を作り出していることを発見、確認、追構成、実施・実行

  • ※森分孝治との比較(時代状況のちがい)

    問題意識:戦後社会科の実態は、戦前と変わらず思想注入?

    共同体主義による社会化

    •森分孝治:他者に流されない自主的自立的な個の形成=対抗社会化

    →因習や権力からの、知(科学的概念)による自己解放

    =モダニズムの枠組みによる解決

    •池野範男:自律した個人が他者と協同して社会を形成

    =ポストモダニズムの枠組みによる解決

    1960~80’s 共同体からの個の自立が課題

    1990’s後半~2000’s 共同体の崩壊、社会形成が問題に

  • 2.どういう理論を提起したのか?

    市民社会科(社会形成科)

    •子どもたちが学ぶ意義を見つけられるように授業を組織

    ‘在るものとしての社会’から‘作り出すものとしての社会’へ

    → 子どもを、社会を作り出す市民に

    社会そのものを教育の中で作り出す

    (社会的行為ができるように準備態勢を作る)

    ※ただし、学校教育における内容の学習として社会の学習が行われるため、参画、参加、行動、形成そのものは要求できず、それらに関する内容を吟味・考察すること(学校で可能な学習)に限られる。

  • 2.どういう理論を提起したのか?

    •従来は社会科でありながら、社会を目標・内容・方法において十分に組みつくすことがなかった

    →社会そのものが社会科の目的・内容・方法

    •批判主義:現前の状況を括弧に入れ、現前のものを疑い、人々が行ったこと、現在行われていること、その成果である制度やしくみ、役割や組織、思想や理念、これらの合理性と正当性を問いただす。

    →現前のありあわせの説明や考えを受け入れたり変えたりすることで、共通で共有することのできる世界を作り上げる

    •学習原理としての討議の構造 =市民社会の原理

  • ※社会の構成原理

    •開かれていること(オープン性)

    •誰もが参加できること(参加可能性)

    •出入可能であること(退出自由性)

    •吟味検討できること(検証・反証可能性)

    •議論のフォーラム(議論可能性)

    この原則総体を学習領域・方法にし、それにより子どもたちが共同して作り出す社会的世界の構成を目標にする →市民社会科

    一人一人の構成員が自律して自立的自主的に判断し、他の構成員と協同して作り出す市民社会の原理

  • ※トゥールミン図式を用いた討議の構造

    データ(D)、主張(C)、根拠・論拠(W)、裏付け・理由付け(B)

    •なぜそうなのか?(第1次正当化):D-W-C

    •なぜそれがよいのか?(第2次正当化):( D-W-C )―B

    •当然のものを疑いの対象に変え、妥当性・正当性を検討し、合意できるものを見出す。議論の内容と方法において常識的レベルを超え子どもの考え得る可能性を最大限に広げることで、社会形成の可能性を広げる

    D:他国に攻撃された

    C:武力行使はすべきでな

    W:報復の連鎖を生み多くの犠牲を生む可能

    性がある

    B:人命を尊重すべきだから

  • 3.どういう実践を提案したのか?

    社会的行為を進める準備態勢を作るためにできること

    ①社会状況把握:先行する社会秩序を知る

    ②先行する社会秩序の認知とフレーム分析:その枠組みの構成原理、社会秩序のフレームワーク

    ③可能な社会秩序の想定とその構造の探求:現実の社会秩序に対する別の可能性を追求しその構造を明らかに

    ④立場の選択と可能な行為の究明:どのような考えの下、どのような行為を選択し得るのか?

    ⑤結果の予測と新たな社会秩序の選択

    ※見えない社会を見える化 →社会は構築的で作り直せることを子どもに知らせる→新しい社会秩序の選択によって参画意識育成

    子どもの知りうる限界を広げる

  • 3.どういう実践を提案したのか?

    単元の目標

    •「武力行使は許される」「武力行使は許されない」など、生徒が元々持っている常識的な信念に対して、疑問を投げかけて、問うことができる。

    •「武力行使」におけるフレームワーク(武力行使に関する3つの信念の枠組み)を認識させ、このフレームワークを活用することが、国際社会で起こる紛争の分析に大きく役立つことを理解する。

    •それぞれの信念が対立する具体的な事例(米のアフガンへの武力行使)を分析させることで、これらの信念を支持する根拠となる事実や、正当化する論理を明らかにし、トゥールミン図式を活用して整理する。

    •トゥールミン図式を活用して、自分の信念を明確にし、これを反省できるようにすることで、自分の信念を再構成し、その信念にも続いて行動できるようにする。

  • 導入(1/5)

    <問題提起と信念の明示化>•米同時多発テロへの対応として行われたアフガニスタンへの武力行使についての問答

    • MQ:他国から武力攻撃を受けた場合の武力行使は許されるべきか否か、なぜあなたはそう考えるのか?

    • MA:自分の主張を明確にする。

    ①国家安全保障に基づいた武力行使は許される

    ②国家単独ではなく、国際安全保障に基づいた武力行使であれば許される。

    ③武力行使は許されない。

    •各主張が歴史上の事例で支持されるのか?アフガンへの武力行使は許されるのか?検討してみよう。

    単元・カリキュラム全体を通して市民育成、社会形成を図る

    ①社会状況把握

    ②先行する社会秩序の認知とフレーム分析

  • 武力行使のフレームワーク

  • 展開Ⅰ(2/5)

    信念①を支持する歴史事実の提示と仮説の定式化

    なぜ国家安全保障に基づいた武力行使は許されるのか?→事例は?真珠湾攻撃に対する日本への武力行使を事例を適用仮説1:真珠湾攻撃によって米は国家安全保障に基づいて武力行使が許さ

    れた。仮説2:米のアフガンへの武力行使は真珠湾と同様に国家安全保障に基づ

    いて許される。

    仮説1の吟味・検討

    真珠湾攻撃後の米の武力行使はどのようなものだったか?真珠湾攻撃に対するアメリカの日本への武力行使は許されたか?

    仮説2の吟味・検討

    米のアフガンへの武力行使はどのようなものだったか?米のアフガンへの武力行使は国家安全保障のための個別的自衛権の発動といえるか?

    信念①の検討(トゥールミン図式)

    真珠湾攻撃に対する日本への武力行使が許された理由と根拠は?米がアフガンの武力行使を許されたとする理由と根拠は?2つの事例から引き出される結論は?:国家には他国の一方的攻撃に対して、国家安全保障のために個別的自衛権を発動する権利がある。

    ③可能な社会秩序の想定とその構造の探求

  • 展開Ⅱ(3/5)信念②を支持する歴史事実の提示と仮説の定式化

    なぜ国際安全保障に基づいた武力行使は許されるのか?→事例は?湾岸戦争における多国籍軍のイラクへの武力行使を事例を適用仮説1:イラクのクエート侵攻に対する湾岸戦争は、国際安全保障に基づ

    いて武力行使が許された。仮説2:米のアフガンへの武力行使は湾岸戦争と同様に国際安全保障に基

    づいて許される。

    仮説1の吟味・検討

    湾岸戦争はどのようなものだったか?なぜ多国籍軍の武力行使がイラクに対して行われることは許されたか?

    仮説2の吟味・検討

    米のアフガンへの武力行使はどのようなものだったか?米を中心とした国連のアフガン侵攻はなぜ許されるか?同盟国軍が武力行使した理由は?米のアフガンへの武力行使は集団的自衛権の発動といえるか?

    信念②の検討(トゥールミン図式)

    米を中心の多国籍軍のイラクへの武力行使が許された理由と根拠は?米を中心の国連の武力行使を許されたとする理由と根拠は?2つの事例から引き出される結論は?:一方的攻撃に対し国家で対応すると報復の連鎖になるので、より上位の機関にゆだね国際的ルールに基づいて集団的自衛権を発動する権利がある。

    ③可能な社会秩序の想定とその構造の探求

  • 展開Ⅲ(4/5)

    信念③を支持する歴史事実の提示と仮説の定式化

    なぜ武力行使は許されないのか?武力を用いずに紛争解決する方策は?解決した事例としてのキューバ危機仮説1:米ソにはキューバ危機において話し合いによる解決の可能性が

    あったので武力行使を相互にしなかった。仮説2:米のアフガンへの武力行使は話し合いの可能性があったので許さ

    れない。

    仮説1の吟味・検討

    キューバ危機とはどのようなものだったか?なぜ武力行使しなかったのか?キューバ危機において米ソ首脳はその解決策をなぜ話し合いに求めたのか?

    仮説2の吟味・検討

    米のアフガンへの武力行使は紛争解決手段として適切だったか?武力以外に解決方法はなかったのか?

    信念③の検討(トゥールミン図式)

    キューバ危機において武力行使しなかった理由と根拠は?米がアフガンへの武力行使において、武力を用いない方法があったのでは?2つの事例から引き出される結論は?:人間の安全保障、報復の連鎖の断絶のため、武力行使は許されるべきではない。

    ③可能な社会秩序の想定とその構造の探求

  • 終結(5/5)

    <信念の再検討と再構築>•信念①~③を正当化する理由を比較し、それぞれの立場が何を大切にしているか考える。

    • MQ:他国から武力攻撃を受けた場合の武力行使は許されるべきか否か、なぜあなたはそう考えるのか?

    信念①~③がどのような正当化の理由と価値的根拠をトゥールミン図式でまとめる。

    どの立場が妥当か、それぞれの立場で討議を行い、意思決定。

    •もし、北朝鮮(アメリカ)が日本に攻めてきたら、日本はどうすべきか?

    トゥールミン図式が他の事例にも転移可能であることを知り、「武力行使」を考察する際に活用できるフレームワークを獲得。

    ④立場の選択と可能な行為の究明

    ⑤結果の予測と新たな社会秩序の選択

  • 授業構成原理• 教育内容選択原理

    ①選択するテーマが学習者において教育的意義が意識できる

    ②テーマが社会的意義を有する

    ③テーマ研究により子どもの考える可能性が拡大しうる

    • 教材選択原理

    ①教材はテーマと適切な関連を持っている

    ②教材はテーマ研究の結果作り出せるフレームワークと適合した関連を持っている

    ③教材は子どもたちや社会と適切な関連を持っている

    • 学習原理

    ①学習の基礎単位として「討議」の構造に組織する

    ②討議の構造により主張の論証構造を明示し、その妥当性と正当性を批判することができるように組織する

    ③クラス内で討議の学習の結果、合意可能なものを見出すように組織する

    学習指導要領から逸脱しすぎ、現実の学校において受け入れ可能なものを開発する必要

    論争的問題

  • 4.どういう問題意識に裏打ち?理論を通じどのような現状打破を、どういう論点を提起したのか?

    • 従来の社会科:社会科の目標・内容・方法という構成要素が独立して1つの体系を構成する →社会認識(わかる)か市民的資質(関わる)かの二元論

    • 市民社会科:社会をわかることと関わることが相互に関係し、ある視点や立場に立ったとき社会の特定部分や問題が見えてくる。社会に関わることで社会がわかり、社会をわかることに納得するためには学習者の積極的アプローチが必要。

    1.デカルト・カント的社会科教科論目標:社会認識VS市民的資質内容:事 実VS価 値方法:概念探究VS意思決定

    原理:科学の原則境界:人工的、機械的で、鮮明

    2.ソシュール的社会科教科論目標:社会認識+市民的資質=社会形成内容:事 実+価 値 =社会的世界方法:概念探究+意思決定 =社会的探究

    原理:社会の原則境界:任意的、流動的で、不鮮明

  • 4.どういう問題意識に裏打ち?理論を通じどのような現状打破を、どういう論点を提起したのか?

    •モダニズムの社会科(‘在るものとしての社会’を教える )からポストモダニズムの社会科(‘作り上げるものとしての社会’を形成する)へ

    •社会科教育(市民社会科)から、社会科の枠を超えたシティズンシップ教育へ:目標が「市民になる」や「市民に育てる」から「公共空間を形成する人を作り出す」へ

    社会科の枠組みの問い直し?

  • 5.理論が持つ今日的意義・示唆とは?

    •近代教育におけるシティズンシップ教育:教室で1つの言語、1つの歴史を教え、自らの国・国民・文化という共有した空間を提供し、国家・国民、ナショナルなアイデンティティ形成(言語や歴史教育による間接的なシティズンシップ教育)

    共有空間へと入ろうとしない子どもたち、共有空間とは別の空間を形成する、異なる民族、文化や宗教を持った子どもたち(市民=国民でない人をも包摂するシティズンシップ教育の必要性)

    •直接的に構成員教育を行うシティズンシップ教育:教室に公共空間を形成し、共有空間を感じ取るように導き、受け入れ可能な民主主義的ルールという原理に従って、教室空間を公共的なものに変化させる

  • 参考文献

    •池野範男(2006)「市民社会科歴史の授業構成」『社会科研究』64,pp.51-60.

    •池野範男(2008)「社会科の可能性と限界―批判主義の立場から―」『社会科教育研究』104,pp.6-16.

    •池野範男(2014)「グローバル時代のシティズンシップ教育-問題点と可能性:民主主義と公共の論理-」『教育学研究』81(2),pp.2-13.

    •池野範男(1999)「批判主義の社会科」『社会科研究』50,pp.61-70.