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02 窒化シリコン膜を 層間絶縁膜に適用した 3層積層有機撮像デバイスの作製 瀬尾北斗  堺 俊克  大竹 浩 Color Image Sensor using Three Stacked Organic Photoconductive Films with Silicon Nitrides as Interlayer Insulators Hokuto SEO, Toshikatsu SAKAI and Hiroshi OHTAKE 要 約 小型で高画質なカラーカメラの実現を目指して,光の三 原色に対応した3種類の有機光電変換膜と光透過性の 高い信号読み出し回路とを交互に積層した構造を持つ, 新たな単板式カラー撮像デバイス「有機撮像デバイス」 を提案し,その研究開発を進めている。今回,膜厚2μm の窒化シリコン膜を層間絶縁膜として適用することで,光 の三原色に対応した3種類の有機光電変換膜と信号読 み出し回路を5.8μmの範囲に近接して配置した3層積層 構造の有機撮像デバイスを作製した。 ABSTRACT We are developing a color image sensor with three stacked organic photoconductive films (OPFs) sensitive to only one primary color component (red (R), green (G), or blue (B)); each OPF has a signal readout circuit. In this study, we fabricated a structure with three stacked OPFs sensitive to the R, G, or B component with a thickness of 5.8μm by using 2-μm- thick silicon nitrides as interlayer insulators. 29 NHK技研 R&D/No.153/2015.9
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窒化シリコン膜を 層間絶縁膜に適用した 3層積層有 …Hokuto SEO, Toshikatsu SAKAI and Hiroshi OHTAKE 要 約...

Jul 17, 2020

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02

窒化シリコン膜を層間絶縁膜に適用した3層積層有機撮像デバイスの作製瀬尾北斗  堺 俊克  大竹 浩

Color Image Sensor using Three Stacked Organic Photoconductive Films with Silicon Nitrides as Interlayer Insulators

Hokuto SEO, Toshikatsu SAKAI and Hiroshi OHTAKE

要 約

小型で高画質なカラーカメラの実現を目指して,光の三

原色に対応した3種類の有機光電変換膜と光透過性の

高い信号読み出し回路とを交互に積層した構造を持つ,

新たな単板式カラー撮像デバイス「有機撮像デバイス」

を提案し,その研究開発を進めている。今回,膜厚2μm

の窒化シリコン膜を層間絶縁膜として適用することで,光

の三原色に対応した3種類の有機光電変換膜と信号読

み出し回路を5.8μmの範囲に近接して配置した3層積層

構造の有機撮像デバイスを作製した。

ABSTRACT

We are developing a color image sensor with three

stacked organic photoconductive films (OPFs)

sensitive to only one primary color component (red

(R), green (G), or blue (B)); each OPF has a signal

readout circuit. In this study, we fabricated a structure

with three stacked OPFs sensitive to the R, G, or B

component with a thickness of 5.8μm by using 2-μm-

thick silicon nitrides as interlayer insulators.

29NHK技研 R&D/No.153/2015.9

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1.まえがき

当所では,小型で高画質なカラーカメラの実現を目指して,光の三原色のうち青色(B),緑色(G),赤色(R)のそれぞれだけに感度を持つ有機光電変換膜(以下,有機膜と呼ぶ)と光透過性の高い信号読み出し回路とを交互に積層した構造を持つ,新たな単板式カラー撮像デバイス「有機撮像デバイス」を提案し,その研究開発を進めている1)~6)。1図に有機撮像デバイスの構造を示す。有機撮像デバイスは,レンズで集光した光に対して,B用,G用,R用の3種類の有機膜で色分離と光電変換を行い,信号読み出し回路で走査することにより,各色の画像信号として外部へ出力する。1画素当たり3色の信号が得られるため,カラーフィルターを適用した従来の単板式カラー撮像方式に比べて,解像度およびS/N比

(Signal to Noise Ratio)の向上が期待できる。これまでに,画素サイズ100μm,画素数128×96の検証用デバイスを試作し,有機膜と信号読み出し回路を交互に積層した構造でカラー撮像が可能であることを実証した3)。

一方,有機撮像デバイスの微細化,多画素化を進める上で,3種類の有機膜すべてに焦点が合うように,有機膜を近接配置しなくてはならないことが課題となっている。現在,その解決に向けて,薄い層間絶縁膜を介して有機膜および信号読み出し回路を順次形成する「直接積層技術」の開発に取り組んでいる4)5)。

2014年には,インジウム-ガリウム-亜鉛酸化物(IGZO:Indium Garium Zinc Oxide)を半導体層に採用した薄膜トランジスター(TFT:Thin Film Transistor)回路を信号読み出し回路として適用し,TFT回路/R用有機膜の組み合わせとTFT回路/G用有機膜の組み合わせとを10μm厚のエポキシ樹脂を介して積層した2層構造の撮像デバイスを試作し,R光とG光から構成される被写体

の撮像に成功した5)。しかしながら,内部応力*1が原因で,薄膜間の密着性の弱い界面,特にTFT回路と有機膜の界面で剥離が生じやすく,TFT回路/B用有機膜の組み合わせを加えた3層構造の作製には至らなかった。

そこで今回,内部応力の削減を目指して層間絶縁膜材料の見直しを行い,3層積層構造の作製に取り組んだ。本稿では,まず,層間絶縁膜の候補となる材料の内部応力を測定した結果について述べる。次に,従来の半分のサイズである画素サイズ50μmのTFT回路の試作結果について述べた後,3層積層構造を作製し,3種類の有機膜を5.8μmの範囲に近接して配置することに成功したことを報告する。

2.層間絶縁膜の内部応力の測定

直接積層による有機撮像デバイスの作製では,層間絶縁膜は耐熱性の低い有機膜上に形成する必要がある。さらに膜厚と内部応力,膜質を,成膜条件により制御できることが望ましい。そこで150℃以下の温度で成膜可能な絶縁膜のうち,プラズマ化学気相成長法(PECVD:Plasma Enhanced Chemical Vapor Deposition)*2 により成膜した酸化シリコン(SiO2:Silicon Dioxide)膜,窒化シリコン(Si3N4:Silicon Nitride)膜,プラズマアシスト原子層堆積法(PEALD:Plasma Enhanced Atomic Layer Deposition)*3 により成膜した酸化アルミニウム(Al2O3:Aluminum Oxide)膜,Al2O3膜と酸化チタニウム(TiO2:Titanium Oxide)膜の多重積層

*1熱や外力により薄膜内部に蓄積された,薄膜を縮める力,あるいは引っ張る力。

*2真空中で原料ガスをプラズマにより活性化し,酸素ガスあるいは窒素ガスと化学反応させた上で,基板上に堆積させる薄膜作製手法。

*3真空中にて原料ガスを基板上に吸着させた上で,プラズマ化した酸素ガスにより原料ガスを酸化することで薄膜を作製する手法。

入射光B G R

B信号出力

G信号出力

R信号出力

基板

信号読み出し回路(TFT回路)

青色(B)用有機膜緑色(G)用有機膜赤色(R)用有機膜

1図 有機撮像デバイスの構造

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報告 02

膜,スパッター法*4 により成膜したSiO2膜を候補として,それらの内部応力を測定した6)。膜厚100nm当たりの内部応力の測定結果を1表に示す。

PECVDにより成膜したSiO2膜,Si3N4膜の内部応力はそれぞれ206MPa*5,2.8MPaで,応力の種類はそれぞれ圧縮応力,引張応力であった。また,PEALDにより成膜したAl2O3膜,Al2O3/TiO2多重積層膜の内部応力はそれぞれ860MPa,420MPaで,応力の種類はいずれも引張応力であった。スパッター法により成膜したSiO2膜の内部応力は570MPaで,その種類は圧縮応力であった。

一般的に,圧縮応力は薄膜の剥離を引き起こし,引張応力は割

かつ

裂れつ

の原因となる。有機撮像デバイスの直接積層過程で問題となったのは,TFT回路と有機膜との界面における有機膜の剥離であるため,圧縮応力を持つSiO2

膜は層間絶縁膜として望ましくない。そこで,引張応力を持つSi3N4膜,Al2O3膜,Al2O3/ TiO2多重積層膜のうち,応力の小さなSi3N4膜を層間絶縁膜として採用することとした。

3.画素サイズ50μmのTFT回路の作製

次に画素サイズ50μmのTFT回路の作製について述べる。TFT回路についても層間絶縁膜同様に150℃以下の温度で作製する必要があり,低温でも高い膜質を得ることが可能なPEALD成膜のAl2O3膜をゲート絶縁膜と

して用いた。また,成膜中のプラズマダメージ*6を低減可能な対向ターゲット式スパッター法(FTS : Facing Target Sputter)*7により成膜したIGZO膜をチャネル層として使用した。さらに,TFT回路を作製した後のアニール処理*8は,低圧のオゾンガス雰囲気中で行った。

試作したTFT回路の1画素の断面構造を2図に,TFT回路の光学顕微鏡写真を3図に示す。試作したTFTは一般的な逆スタガー型*9の構造を持ち,チャネル長/チャネル幅はそれぞれ6μm /36μmである。1画素は画素電極とTFTで構成され,1画素の大きさは50μmである(3図)。

このTFT回路の作製方法は次の通りである。無アル

材料 成膜方法 成膜温度(℃) 内部応力 (MPa) 応力の種類

SiO2 PECVD※1 150 206 圧縮応力

Si3N4 PECVD 150 2.8 引張応力

Al2O3 PEALD※2 150 860 引張応力

Al2O3/TiO2多重積層膜 PEALD 150 420 引張応力

SiO2 スパッター 150 570 圧縮応力

※1PlasmaEnhancedChemicalVaporDeposition:プラズマ化学気相成長法※2PlasmaEnhancedAtomicLayerDeposition:プラズマアシスト原子層堆積法

1表 内部応力の測定結果

保護層:SiO2 100nm出力信号線(ソース):IZO 70nm

画素電極(ドレイン):IZO 70nm

エッチストップ層:SiO2 100nm

ゲート絶縁膜:Al2O3 50nm

ガラス基板

チャネル:IGZO 45nmゲート電極:Cr 50nm

2図 試作した TFT 回路の1画素の断面構造図

3図 試作した TFT 回路の光学顕微鏡写真

*4真空中にてAr等の希ガスをプラズマ化し,原料ターゲットに衝突させることにより,原料を飛散させ,基板上に堆積させることで薄膜を作製する手法。

*5 Pa(パスカル)は圧力または応力の単位。1パスカルは,1平方メートル(m2)の面積につき1ニュートン(N)の力が作用する圧力または応力。

*6プラズマ中の高エネルギー粒子にさらされることによる薄膜の損傷。

*7ターゲットを対向配置し,プラズマを閉じ込めることにより,基板がプラズマにさらされないように工夫したスパッターの方式。

*8熱を加える処理。

*9トランジスターにおいて,ゲート電極とソース/ドレイン電極が半導体層を挟んで反対側にあり,かつ,基板側からゲート電極,半導体層,ソース/ドレイン電極の順番で形成されている構造。

A B

50μm

TFT 画素電極

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カリガラス*10基板上にCr(クロム)パターンを形成しゲート電極とした後,ゲート絶縁膜としてAl2O3膜をPEALD にて110℃の温度で成膜し,さらにIGZO膜を室温でFTS にて形成した後,ウェットエッチング*11をしてチャネル層とした。その後,PECVD により150℃にてSiO2膜を成膜した後,ソース/ドレインコンタクトホールをドライエッチング*12により形成した。さらにインジウム-亜鉛酸化物(IZO : Indium-Zinc-Oxide)を室温でFTS にて成膜し,ウェットエッチングをして,ソース/ドレイン電極とした。保護層としては,SiO2膜をPECVDにて形成し,ドライエッチングにより電極へのコンタクトホールを形成した後,150℃オゾン雰囲気中で60分間アニールを行った。

試作したTFTの電流-電圧特性を4図に示す。4図(a)はアニール前後のドレイン電流(IDS)-ゲート電圧(VGS)特性であり,VGS を−5Vから5Vまで往復掃引して測定した。150℃の温度において,オゾン雰囲気中でアニールをすることにより,TFTのオン電流および相互コンダクタンスが増加した。さらに,アニール前には往復掃引した際にヒステリシスを示しており,ドレイン電流が

10pAのときにその幅が0.8Vであったのに対し,アニール後はその幅が0.1V以下に改善されており,TFTの安定性が向上したことが分かる。

4図(b)はドレイン電圧(VDS)を0.1V,2.6V,5.1Vと変化させたときのIDS-VGS特性である。VDSが5.1Vの場合,オン電流は56μA,オフ電流は0.1pAであり,オン電流/オフ電流比として108以上が得られた。また,しきい値電圧(Vth)*13および電界効果移動度(μFE)*14はそれぞれ−0.21V,5.8 cm2V-1s-1であった。

4図(c)は,VGSを−4Vから4Vまで2Vごとに変化させて測定したIDS- VDS特性である。VDSがVGSよりも小さい領域ではIDSは良い線形性を示し,画素サイズ50μmに対応したTFTも,従来と同等の特性を示すことが確認できた4)5)7)。

アニール前 60分アニール後

(a) アニール前後の  ドレイン電流(IDS)-ゲート電圧(VGS)特性

(b) ドレイン電流(IDS)-ゲート電圧(VGS)特性 (c) ドレイン電流(IDS)-ドレイン電圧(VDS)特性

IDS(A)

VGS(V)

10‒1410‒1310‒1210‒1110‒1010‒910‒810‒710‒610‒510‒410‒3

‒5‒5 00 55I DS(A)

VGS(V)

10‒1410‒1310‒1210‒1110‒1010‒910‒810‒710‒610‒510‒410‒3

‒5‒5 00 55

I DS(A)

VDS(V)

0

3×10‒05

2×10‒05

1×10‒05

00 11 22 33 44 55

VDS=5.1V VDS=2.6V,5.1V

VDS=0.1V

VGS=4V

VGS=2V

VGS=‒4V,‒2V,0V

(a)バッファー層(平坦化材)なし (b)バッファー層(平坦化材)あり

3層目B光用TFT回路/有機膜3層目B光用TFT回路/有機膜

2層目G光用TFT回路/有機膜2層目G光用TFT回路/有機膜

1層目R光用TFT回路/有機膜1層目R光用TFT回路/有機膜

A BTFT(ソース電極周辺) 画素電極

Si3N4(2μm)Si3N4(2μm)

Si3N4(2μm)Si3N4(2μm)

3層目B光用TFT回路/有機膜3層目B光用TFT回路/有機膜

2層目G光用TFT回路/有機膜2層目G光用TFT回路/有機膜

1層目R光用TFT回路/有機膜1層目R光用TFT回路/有機膜

A BTFT(ソース電極周辺) 画素電極

Si3N4(2μm)Si3N4(2μm)バッファー層(0.4μm)バッファー層(0.4μm)

Si3N4(2μm)Si3N4(2μm)バッファー層(0.4μm)バッファー層(0.4μm)

4図 試作した TFT の電圧 - 電流特性

5図 積層構造断面の電子顕微鏡写真

*10アルカリ成分を含まないガラス。*11レジストパターンのない箇所を酸などの薬液によって溶かす薄膜の加工

方法。*12真空中でフッ化炭素などのガスをプラズマ化し,薄膜材料と化学反応さ

せることで,レジストパターンのない箇所を溶かす薄膜の加工方法。*13電流が流れる状態と流れない状態の境界の電圧。*14トランジスターの半導体層を流れる電荷の移動のしやすさを表す量。単

位はcm2V-1s-1。トランジスターの性能を示す指標の1つ。

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報告 02

4.直接積層による3層積層構造の作製

作製したTFT回路上にR光に感度を有する亜鉛フタロシアニンを含む有機膜を蒸着し,1層目R光用TFT回路/有機膜の組み合わせを形成した後,層間絶縁膜として2μm厚のSi3N4をPECVDにて成膜した。その上にTFT回路を作製し,G光に感度を有するキナクリドンを含む有機膜を蒸着して,2層目G光用TFT回路/有機膜の組み合わせを形成した後,層間絶縁膜として2μm厚のSi3N4を成膜した。その上に再びTFT回路を作製し,B光に感度を有するクマリンを含む有機膜を蒸着して,3層目のB光用TFT回路/有機膜の組み合わせを形成し,3層積層構造を作製した。

作製した3層積層構造の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を5図(a)に示す。5図(a)は,3図中のA-B部分の断面写真であり,R用,G用,B用の3種類の有機膜が5μmの範囲に近接配置されている。また,層間絶縁膜をエポキシ樹脂からSi3N4膜へ変更することで内部応力が減少し,特に密着性の弱いTFT回路と有機膜の界面においても空

くう

隙げき

(すきま)は観測されず,積層構造作製中の膜剥離の課題を解決できた。

5図(a)のTFTについて,各層のTFT特性を測定した結果,1層目TFTではVGSの印加電圧によってIDSを制御でき,TFTのオン/オフが確認できたのに対し,2層目,3層目いずれのTFTも,VGSによるIDSの制御ができず,IDSが100fA以下の値を示したことから,TFTのソース電極あるいはドレイン電極の断線が疑われた。5図(a)の断面SEM写真でも分かるように,1層目TFTの表面の凹凸が影響し,2層目TFTの表面の凹凸が大きくなっている。3層目TFTの表面の凹凸はさらに大きくなっていることから,この凹凸が原因で,ソース電極あるいはドレイン電極に断線が生じたと考えた。そこで,層間絶縁膜を形成する前に,厚さ0.4μmのバッファー層(平坦化材)を塗布形成することとした。

平坦化材を導入して作製した3層積層構造の断面SEM写真を5図(b)に示す。3種類の有機膜は,5.8μmの範囲に近接配置されている。また,平坦化材を導入することで,下層TFTの凹凸が平坦化されていることが確認できた。さらに,2層目TFT,3層目TFTそれぞれのIDS-VGS特性を,VDSを5.1Vに設定して測定したところ,いずれのTFTもトランジスター特性を示すことが確認できた。その測定結果を6図に示す。2層目TFTのオン電流/オフ電流比は109以上で,VthおよびμFEはそれぞれ−1.6V,6.8 cm2V-1s-1であった。一方,3層目TFTのオン電流/オフ電流比は107以上で,Vthおよ

びμFEはそれぞれ−1.4V,4.9 cm2V-1s-1であった。なお,3層目TFTの特性においては,VGSが−7Vから−2Vの間でIDSの増加が見られた。これは,アニール処理の不足が原因と考えられる。

5.あとがき

Si3N4膜を層間絶縁膜として用いることで,TFT回路と有機膜で構成する組み合わせを3層積層した構造の有機撮像デバイスの作製に成功した。また,平坦化材を導入することで,上層のTFT回路の断線を防止できることを確認した。この3層積層構造では,3種類の有機膜は5.8μmの範囲に近接配置されており,有機撮像デバイスを画素サイズ3μmへと微細化した場合*15でも,すべての有機膜に焦点を合わせることができる。今後は,TFT回路の微細化,高集積化など,有機撮像デバイスの多画素化を進めていく。

本稿は,IEEE SENSORS 2014誌に掲載された以下の報告を元に

加筆・修正したものである。

H. Seo, T.Sakai, H.Ohtake and M.Furuta:“Color Image Sensor

using Stacked Organic Photoconductive Films,”IEEE SENSORS

2014,pp.1672-1675(2014)

*153μmサイズの画素を8Kスーパーハイビジョンの画素数7,680×4,320だけ並べた場合,光学サイズ(撮像デバイスの大きさを示す指標)は約1インチとなる。

3層目TFT

I DS(A)

VGS(V)

10‒14

10‒13

10‒12

10‒11

10‒10

10‒9

10‒8

10‒7

10‒6

10‒5

10‒4

10‒3

‒10‒10 ‒5‒5 00 55

VDS=5.1V

2層目TFT

6図 3層積層構造における2層目 TFT, 3層目 TFT の IDS-VGS 特性

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1) S. Aihara, H. Seo, M. Namba, T. Watabe, H. Ohtake, M. Kubota, N. Egami, T. Hiramatsu, T. Matsuda, M. Furuta, H. Nitta and T. Hirao:“Stacked Image Sensor with Green- and Red-Sensitive Organic Photoconductive Films Applying Zinc-Oxide Thin Film Transistors to a Signal Readout Circuit,”IEEE Trans. Electron Devices,Vol.56,No.11,pp.2570-2576(2009)

2) 瀬尾,相原,難波,渡部,大竹,久保田,江上,平松,松田,古田,新田,平尾:“有機光導電膜とZnO-TFT回路の積層構造を用いた有機撮像デバイスの原理実証実験,”映情学誌,Vol.64,No.3,pp.365-371(2010)

3) H. Seo, S. Aihara, T. Watabe, H. Ohtake, T. Sakai, M. Kubota, N. Egami, T. Hiramatsu, T. Matsuda, M. Furuta, H. Nitta and T. Hirao:“A 128×96 Pixel Stack-Type Color Image Sensor:Stack of Individual Blue-, Green-, and Red-Sensitive Organic Photoconductive Films Integrated with a ZnO Thin Film Transistor Readout Circuit,”Jpn. J. Appl. Phys.,Vol.50,No.2,pp.024103.1-024103.6(2011)

4) T. Sakai, H. Seo, S. Aihara, M. Kubota and M. Furuta:“Continuous Fabrication Technology for Improving Resolution in R, G, B-stacked Organic Image Sensor,”IS&T/SPIE Electronic Imaging International Society for Optics and Photonics,pp.86590G-1 – 86590G-8(2013)

5) T. Sakai, H. Seo, S. Aihara, H. Ohtake, M. Kubota and M. Furuta:“Color Image Sensor using Stacked Organic Photoconductive Films with Transparent Readout Circuits Separated by Thin Interlayer Insulator,”IS&T/SPIE Electronic Imaging International Society for Optics and Photonics, pp.90220J-1–90220J-7(2014)

6) T.Sakai, H.Seo and H.Ohtake:“Characteristics of Low-temperature Fabricated Interlayer Insulators for Stacked Image Sensor using Organic Photoconductive Films,”10th International Conference on Electroluminescence and Organic Optoelectronics (ICEL-10),P-1,406,p.77(2014)

7) 薄膜材料研究会編 : 薄膜トランジスタ,コロナ社(2008)

参考文献

瀬せ

尾お

北ほく

斗と

2002年入局。松山放送局を経て,2004年から放送技術研究所において,有機光電変換材料を適用した撮像デバイスの研究に従事。現在,松山放送局技術部に所属。博士(工学)。

堺さかい

俊とし

克かつ

2003年入局。同年より放送技術研究所において,超高精細ディスプレーおよび有機撮像デバイスの研究に従事。現在,放送技術研究所新機能デバイス研究部に所属。

大おお

竹たけ

浩ひろし

1982年入局。同年から放送技術研究所において,超高速度CCDおよび次世代放送用撮像デバイスの研究に従事。現在,放送技術研究所新機能デバイス研究部上級研究員。

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