直腸癌の手術に関する説明および同意書 川崎病院 外科 主治医
直腸癌の手術に関する説明および同意書
川崎病院 外科
主治医
今回、大腸カメラにて組織学検査を行いましたところ、直腸癌(直腸 S状部
or 上部直腸 or 下部直腸)の診断に至りました。
術前の大腸カメラ、注腸、CT検査の結果、腫瘍は(早期 or 進行)癌の可能
性が高いと思われます。
悪性腫瘍(癌)の特性上、転移(癌が他の臓器にとんだ状態)の有無が今後
の生命予後、治療を行っていく上で重要な因子となります。
転移に関して、大きく分けると以下の3つの形式があります。
1.遠隔転移 血液を通って、癌細胞が肝臓や肺等の遠くの臓器に転移
2.リンパ節転移 リンパの流れにのって、癌がリンパ節に転移
3.腹膜播種 癌が腸の壁を突き破って、癌細胞がお腹の中に散った状態
上記の転移、特にリンパ節転移、腹膜播種は手術中や病理結果にて判明する
場合が多いですが、
あなたの場合、CT他の精査の結果、
( 遠隔転移あり or 遠隔転移なし or 遠隔転移の可能性あり )
( リンパ節転移の可能性高い or リンパ節転移の可能性低い )
( 腹膜播種の可能性高い or 腹膜播種の可能性低い )
と術前診断されました。
直腸癌の治療
直腸癌を無治療で放置すると、必ず転移が広がり命を落とすこととなります。
また一旦、癌で腸がつまる腸閉塞などを発症してしまうと治療が困難となるた
め、早めの治療が必要となります。直腸癌の治療として大きく分けると、内視
鏡治療、手術、抗癌剤治療、放射線治療があげられます。
1.内視鏡治療
粘膜内や軽度の粘膜下層にとどまる早期癌の場合、内科にて内視鏡にて
癌の切除が行われます。
2.手術
内視鏡にて切除できない癌に対して、手術が行われます。
直腸癌の治療は外科的切除が基本となります。
3.抗癌剤治療
抗癌剤のみでは、癌が完全に治ることは極めて困難です。
抗癌剤治療は、手術後の再発予防を目的とした補助化学療法、根治目的
が不可能な進行癌または再発癌に対する生存期間の延長等を目的に使用
されます。
4.放射線療法
抗癌剤と同様、放射線療法のみでは癌が完全に治ることは極めて困難で
す。直腸癌の場合、放射線療法は進行度によって手術前に腫瘍を小さく
するために使用したり、痛みをとるための緩和目的等にて使用されます。
直腸癌の手術
直腸癌の切除は、下の図のように直腸を切除するとともに、リンパ節郭清
と呼ばれるリンパ節の切除を同時に行います。
直腸癌のできた場所によって、以下の2通りの術式に分かれます。
1.前方切除術
直腸を切除後に腸を器械で縫い合わせ、元のように肛門から便が出せる
ようにする手術。直腸S状部、直腸上部の癌の場合に行います。
2.腹会陰式直腸切断術(マイルス手術)
直腸下部の癌を切除する際は、排便を行うときに不可欠な内外括約筋を切
除することが必要となります。括約筋切除後は自力にて排便が不可能とな
るため、人工肛門を作成します。
手術予定(術式)
(ただし、癌の状態により手術中に術式が変更となる場合があります。)
1.前方切除術
2.腹会陰式直腸切断術(マイルス手術)
人工肛門(S状結腸) パウチ装着時
直腸癌の手術方法(開腹、腹腔鏡手術)
従来、直腸癌の手術はすべて開腹(お腹を大きく開ける)にて行われていま
したが、1990年代より腹腔鏡手術が行われるようになりました。腹腔鏡と
いうカメラを腹部の中に入れ、その画像を見ながら小さな孔から器具を入れて
手術を行います。
腹腔鏡の利点として、傷が小さい、癒着が少ない、術後の痛痛が少なく回復
が早い等があげられます。
腹腔鏡手術は、開腹手術と同程度の手術ができて初めて成り立ちます。元来、
腹腔鏡手術は早期の直腸癌に行われていました。現在、進行癌にまで適応は広
がりつつありますが、施設によってどの程度の癌まで腹腔鏡手術を行うかは、
統一した見解は得られていないのが現状です。
開腹手術の創の一例 腹腔鏡手術の創の一例
また癌の進行度上では腹腔鏡手術が可能と思われても、心臓、肺等の全身状態
に問題があるとき、手術既往があって強い癒着が予想されるとき、高度の肥満
があるとき等には開腹手術を最初から選択する場合があります。
腹腔鏡にて手術を開始しても、癒着や出血の状態によって、手術中に開腹に
移る場合もあります。
あなたの手術は(開腹 or 腹腔鏡)にて行う予定です。
直腸癌術後の合併症
直腸は狭い骨盤の中にあり、排尿や性機能に関連する神経、膀胱、子宮、腟、
前立腺などの泌尿器や生殖器に囲まれるように存在するため、直腸癌の手術は
他の大腸癌(結腸癌)に比べると、複雑で難しく、術後に特有の合併症が発症
する場合があります。以下に直腸癌の手術合併症を列挙いたします。
直腸手術一般の合併症
1.出血
直腸周囲には、大きな血管が取り囲んでおり、術中に大出血が生じた場
合、危険に陥ることがあります。また手術終了前に念入りに止血は確認
しますが、それでも手術後に再出血する場合があります。輸血が必要と
なることや再手術が必要となる場合もあります。
2.神経障害
直腸の周囲には、排尿及び性機能に関連する神経が取り囲んでいます。
腫瘍切除の際にそれらの神経麻痺を発症する場合があります。具体的に
は、排尿神経の麻痺を起こせば、尿が出にくくなり、場合によって自分
で尿道に管を入れて尿を出さなければいけなくなることがあります。
性機能の神経麻痺を起こせば、射精、勃起などが不可能となる場合があ
ります。
3.創感染
直腸には細菌が多い便が通るため、直腸の手術では創部の感染が他の手
術に比べ、やや高率に発症します。創の洗浄等にて自然に治癒しますが、
創感染によって入院期間が延長する場合があります。
4.腸閉塞
合併症というよりは、後遺症にあたります。手術操作を行うことにより、
腸と腹壁あるいは腸同士に癒着が起こります。強い癒着の場合、腸が完
全に閉塞し、排便、排ガスが出ない、嘔吐等の症状がでます。腸閉塞は
術後早期に起こる場合もあれば、数十年後に発症する場合もあります。
腸閉塞の状態により手術に至る場合があります。
前方切除術における特有の合併症
縫合不全
直腸癌の手術では腸同士を縫合しますが、全身の状態によって腸のつきが悪く、
この縫合部から腸液や便が漏れ出すのが縫合不全です。絶食にて治る場合もあ
りますが、炎症の強い場合は手術にて一次的に人工肛門を造設する場合もあり
ます。
腹会陰式直腸切断術における特有の合併症
1.人工肛門の合併症
非常に稀ではありますが、人工肛門の血液のめぐりが悪い場合、再手術
にて人工肛門を作り直す場合があります。
2.臀部創感染
肛門は手術にて完全に閉じてしまいますが、同創部は非常に感染しやす
く、一度感染すると難治性で、治癒するまでに1~2ヶ月かかります。
一般的な開腹手術の合併症
1.肺炎
手術後は全身麻酔の影響や腹部の痛みにて痰の排出が困難になることよ
り、肺炎に至る場合があります。喫煙者ではリスクが高くなります。高
齢者や重症患者では、重篤になる場合もあるので注意が必要です。
2.心筋梗塞、脳梗塞
心筋梗塞、脳梗塞は手術をしなくても起こりうる病気です。全身麻酔や手
術侵襲により誘発されることもあり、程度も様々です。術後に発症した場
合は専門家と治療を開始します。
3.静脈血栓からの肺梗塞
術後下肢の血流が滞り、足の静脈内に血栓ができることがあります。この
血栓がはがれて、肺の血管に引っかかると肺梗塞となります。肥満患者に
発症しやすいとされています。重症になると生命に関わることがあります。
当院では予防の弾性ストッキング、足のポンピングを使用しています。
その他、患者様特有の合併症もあります。
以上、直腸癌術後の合併症を列挙いたしました。ただ癌の手術である以上、
上記以外に予想しえない合併症が発症する場合もあります。
合併症に対しては、全力で対処いたします。
直腸癌の術後
1.術後翌日より、なるべく早く体を動かしていただくことが、肺梗塞、腸閉
塞等の予防につながります。
2.直腸癌術後、経過が順調であるなら、手術翌日に水分開始、術後3日目に
お粥が開始となります。(状態によって、遅れる場合もあります)
3.経過が順調なら2週間程度でかなり状態は回復いたします。状態が良けれ
ば、退院日についてのお話しも可能となります。
ただし合併症等を発症すれば、入院が数ヶ月に及ぶ場合もあります。
4.手術にて摘出した癌の進行度を顕微鏡にて専門医が調べます。
術後1~2週間程度にて結果が判明いたします。
癌の進行度によっては抗癌剤の追加が必要となる場合があります。
最後に
癌の治療は手術にて終了したわけではありません。目でみえる範囲は手術
で取りきれますが、手術時にすでに1~2個の細胞レベルで癌細胞が散って
いた場合、数ヶ月~年単位にて癌細胞は大きくなり、再発に至ります。
医学的には5年間再発がなければ、癌は根治したと判断されますので、
最低5年間は外来にて再発の検査が必要となります。
医療法人川崎病院長殿
私は、上記診療行為について、担当医師から充分な説明を受け、承諾しま
したので診療行為を受けることに同意します。また上記実施に必要な処置を
受けることも併せて同意します。
年 月 日
患者氏名(又は親権者)
同意者 続柄