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1.対称要素と対称操作 分子或は結晶には、ある場所である操作を行うと元の形と区別がつかなくなることがある。 このとき、ある操作を「対称操作」といい、その場所には「対称要素」あるという。
補助記号 v: 主軸(一般に z軸)を含む対称面を持つ h: 主軸(一般に z軸)に直交する対称面を持つ d: 二面体面
右図のような物体(NH3 etc)について考えてみる 中心にある C3の対称操作を施すと、 S1⇒S2、S2⇒S3、S3⇒S1に移動 これを行列とベクトルで表現すると
対称操作は行列で表現される
このような対称操作の集まりは群を形成する
演習 1. H2O分子に存在する対称操作を挙げよ 2. CH4分子に存在する対称操作を挙げよ
対称要素 記号 対称操作
回転軸 Cn その軸の周りの 2π/n回転
対称面 σ その平面に対する鏡映(反射)
対称心 i その点に関する反転
回映軸 Sn その軸の周りの 2π/n回転、つづいてそれに直交する平面での鏡映
S1S2
S3
σv‘’σv
σv‘
C3
C
⎟⎟⎟
⎠
⎞
⎜⎜⎜
⎝
⎛=
⎟⎟⎟
⎠
⎞
⎜⎜⎜
⎝
⎛
⎟⎟⎟
⎠
⎞
⎜⎜⎜
⎝
⎛
1
3
2
3
2
1
001100010
SSS
SSS
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2.群(Group)の定義 定義 1.要素:群を構成するもので、恒等操作を含めた対称操作 2.集合:群は要素の集合で、有限群と無限群に区別される 3.操作の組み合わせ:1回にただ 2つの操作の掛け算をする 4.一義性:操作の掛け算は必ず 1つの操作を与える 5.閉じている:要素の積に結果は必ずその群の要素の中に発見される 6.結合則:A(BC)=(AB)C 7.単位要素:EA=AE=Aとなる Eがその群の中にある 8.逆要素:AA-1=A-1A=Eとなる A-1がその群の中にある ここで、
部分群:群の中に別群がある場合 群の位数:要素の数
例 NH3分子(前述の例と同じ) 点群:C3v 対称操作: E、C3、C3
2、σv、σv’、σv’’ 位数:6
C3、C32の組、σv、σv’、σv’’の組のような類似の群を類という
類の一般論 群の要素の中の任意の要素を Xとする。 Xによる要素 Aの相似変換を施すと、 X-1AX=B となる Bが必ずある。Aと Bは共役であるという。 1.全ての要素は自分自身に共役である 2.Aは Bに共役であるならば、Bは Aに共役である 3.Aが Cと共役、Bが Cと共役なら、Aと Bも共役である
1つの群の中で互いに共役な要素の集合を類という
演習 1. ゼロと正負全部の整数からなる集合を考える。操作の掛け算を「足し算」とすると、この集合は群を形成するか
2. 1の問いで、操作の掛け算を「掛け算」とするとどうなるか 3. σvと σv’が互いに共役であることを示せ
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3.点群 どのような対称操作によっても移動しない共通の点を有するものに存在する対称操作の集合
を点群という
点群を表す記号:Shönfliesの記号 Cn群、Dn群、Cnv群、Cnh群、 Dnh群、Dnd群、Sn群、 多面体群(T、Th、Td、O、Oh)など
演習 1. H2O、CH4、PF5(三方両錐)の点群は何か 2. 次の点群のそれぞれに、下記に示した対称操作を加える(或は削除)ことによってどんな点群が得られるか
出発点、 D∞h C∞v Td Oh Cs Ci C1 S2n Dnh Dnd Dn Cnh Cnv Cn
直線分子 D∞h C∞v
高度な対称 Td Oh
その他 Cs Ci C1 S2n Dnh Dnd Dn Cnh Cnv Cn
有り D∞h
無し C∞v
C∞vに直交する C2 Cnの存在
無し Cs Ci C1
有り Dnh Dnd Dn, Cnh Cnv Cn S2n
σの存在
有り Cs
無し Ci C1
有り Ci
無し C1
S2n+ Cn
以外に対称要素有り Dnh Dnd Dn Cnh Cnv Cn
しかない S2n
有り Dnh Dnd Dn
無し Cnh Cnv Cn
主軸に直交する C2軸
σh有り Dnh
σd有り Dnd
残り Dn
σh有り Cnh
σv有り Cnv
残り Cn
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C3vの全ての対称操作を書き表す表
Γ:群に可能な表現という。 一般的には Γ:を使うが、点群についてはMullikenの記号(後述)を使う
それぞれの対称操作は下記のような行列となる
行列の対角要素の和を指標(character)という C3vの指標表は
C3v E C3 C32 σv σv’ σv’’
Γ 3 0 0 1 1 1
演習 1. H2O、CH4、PF5(三方両錐)の点群の可約表現の指標表を作れ
可約表現と既約表現 右図のように行列要素がブロック対角化されていない行列
を可約表現という ブロック対角化された個右々の行列を既約表現という 簡約:可約表現を既約表現にすること
簡約化の方法(難しい方法): A:可約行列、X:Aと同じ次元の行列、B:Aの対角化行列、E:Aと同じ次元の単位行列とすると、 X-1AX=B ユニタリー変換、ただし、X-1X=E 行列 Bは簡約されたブロック対角化行列となる。 Xと X-1を見つけるのが難しい
この方法を C3vの簡約化してみる(途中がややこしいので、結果だけを示す)
群の表現 対称操作
Γ E C3 C32 σv σv’ σv’’
⎟⎟⎟
⎠
⎞
⎜⎜⎜
⎝
⎛=
⎟⎟⎟
⎠
⎞
⎜⎜⎜
⎝
⎛=
⎟⎟⎟
⎠
⎞
⎜⎜⎜
⎝
⎛=
⎟⎟⎟
⎠
⎞
⎜⎜⎜
⎝
⎛=
⎟⎟⎟
⎠
⎞
⎜⎜⎜
⎝
⎛=
⎟⎟⎟
⎠
⎞
⎜⎜⎜
⎝
⎛=
001010100
010100001
100001010
001100010
010001100
100010001
'''233 vvvCCE σσσ
1x1
1x1
2x2
= 4x4
0
0
E 3C 23C vσ 'vσ ''vσ
1Γ ( )1 ( )1 ( )1 ( )1 ( )1 ( )1
2Γ ( )1 ( )1 ( )1 ( )1− ( )1− ( )1−
3Γ ⎟⎟⎠
⎞⎜⎜⎝
⎛1001
⎟⎟⎟⎟
⎠
⎞
⎜⎜⎜⎜
⎝
⎛
−
−−
21
23
23
21
⎟⎟⎟⎟
⎠
⎞
⎜⎜⎜⎜
⎝
⎛
−−
−
21
23
23
21
⎟⎟⎠
⎞⎜⎜⎝
⎛−1001
⎟⎟⎟⎟
⎠
⎞
⎜⎜⎜⎜
⎝
⎛
−
−−
21
23
23
21
⎟⎟⎟⎟
⎠
⎞
⎜⎜⎜⎜
⎝
⎛−
21
23
23
21
ただし、X として
⎟⎟⎟⎟⎟⎟⎟
⎠
⎞
⎜⎜⎜⎜⎜⎜⎜
⎝
⎛
−−+−
+−−−
=
31
31
31
31)1
31(
21)1
31(
21
31)1
31(
21)1
31(
21
X
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簡約化された表現の指標表を作ると
C3v E C3 C32 σv σv’ σv’’
Γ1 1 1 1 1 1 1 Γ2 1 1 1 -1 -1 -1 Γ3 2 -1 -1 0 0 0
Γ 3 0 0 1 1 1
指標の足し算と引き算より、 Γ=Γ1+Γ3
であることがわかる
既約表現の性質 既約表現を、Γ1、Γ2、・・・Γnとすると、 1.表現行列の次元を l、点群の位数を hとすると、
hllll n
n
ii =+++=∑
=
222
21
1
2K
2. [ ] hRh
kki =∑
=1
2)(χ
3. )(0)()(1
jiRRh
kkjki ≠=∑
=
χχ
4.ある表現の中で同じ類に属する表現行列の指標は等しい
5.点群に可能な既約表現の数は、その類の数に等しい
これらの性質を C3vについて確かめてみる
演習 1. H2O、CH4、PF5(三方両錐)の点群の既約表現について、1~5の既約表現の性質を確かめよ
C3v E C3 C32 σv σv’σv’’
Γ1 1 1 1 1 1 1
Γ2 1 1 1 -1 -1 -1
Γ3 2 -1 -1 0 0 0
1番目の性質 Γ1とΓ2の次元は1、Γ3の次元は2である
ので 12+12+22=6
2番目の性質 22+(-1)2+(-1)2+02+02+02=6 3番目の性質
1x1+1x1+1x1+ 1x(-1)+1x(-1)+1x(-1)=0
5番目の性質 C3とC3
2、並びにσv、σv’及びσv’’はそれぞれ同じ類である
類の数=既約表現の数=3
4番目の性質
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既約表現の記号 Mullikenの記号
1. 一次元既約表現は、A or Bで表す 主軸の回転に対して対称の場合 A(指標が1) 主軸の回転に対して反対称の場合 B(指標がー1) 主軸に垂直な C2軸(D対称)や主軸に平行な σ面をもつとき、 対称=下付数字 1 反対称=下付数字 2
2. 二次元既約表現は、Eで表す 三次元既約表現は、Tで表す 下付数字は数学的に決めるが複雑なので、任意と考がえてよい
3. 肩付き符号(’)、(’’)は、主軸に垂直な σh面に対して表し、 対称=(’) 反対称=(’’)
4. 反転(i)に対して、 対称=下付(g) 反対称=下付(u)
表としてまとめると、
指数表のMullikenの記号 記号 次元 A、B 1 E 2 T(F) 3 記号
Cn C2‘又は σv i 対称 σv(σd)
反対称 A 1 ’ g B 2 ’’ u
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指標表による可約表現の簡約化 可約表現を nnΓaΓaΓaΓ L++= 1111 とする
)()(11
RRgh
a k
h
kiki χχ∑
=
=
h:群の位数(指標表の対称要素の合計数) gk:対称操作(Rk)の類の次数(指標表の対称操作の前にある数) χi(Rk):指標表の対称操作(Rk)の指標 χ(R):可約表現の対称操作(R)の指標
C3vについて既約表現の係数を求める まず、既約表現と可約表現の指標表を類毎にまとめ直すと、
上記の関係式を使うと、 A1 a1={1x1x3 + 2x1x0 + 3x1x1}/6 =1 A2 a2={1x1x3 + 2x1x0 + 3x(-1)x1}/6=0 E a3={1x2x3 + 2x(-1)x0 + 3x0x1}/6 =1
∴Γ=A1+E このようにすると、 「対称操作行列の具体的な中身を知る必要はない」
ということができ、可約表現を簡約化できる 指標表の見方
右の領域-基底となる関数
基底:群のある表現(Γ1、A1など)を満足する関数やベクトル
x、y、z:座標、
R:添え字で示した軸周りの回転
演習 1. H2O、CH4、PF5(三方両錐)の点群の可約表現を上記の方法で簡約せよ 2. ベンゼン、フェロセンの点群の可約表現を上記の方法で簡約せよ
既約表現
C3v, E 2C3 3σv
A1 1 1 1
A2 1 1 -1
E 2 -1 0
可約表現
C3v, E 2C3 3σv
Γ 3 0 1
C3v E 2C3 3σv
A1 1 1 1 z x2+y2, z2
A2 1 1 -1 Rz
E 2 -1 0 (x,y),(Rx,Ry) (x2-y2,xy) (xz,yz)
zyx pzpypx ⇒⇒⇒ ,,222
22222 2,zyx
dyxzdyx ⇒−−⇒++
yzxzxy dyzdxzdxy ⇒⇒⇒ ,,
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直積 Γiと Γjを群の既約表現とすると、直積とは ΓiΓj(或は ΓixΓj)で表される。 ここで、可約表現の類 kの指標 χk’については
の関係がある。 既約表現の直積はその既約表現の線形結合で表現できる。
C3vの例
C3v E 2C3 3σv A1 1 1 1 A2 1 1 -1 E 2 -1 0
A1A2 1 1 -1 A2 A1E 2 -1 0 E A2E 2 -1 0 E
A1A2E 2 -1 0 E E E 4 1 0 A1+A2+E
量子力学における直積の重要性
この積分がゼロでないのは、非積分関数がその分子の属する群の全ての操作のもとで不
変でなければならない。このとき、この関数はその群の全対称表現の基底をなすという。
定理 直積表現 ΓiΓjは、既約表現 Γiが既約表現 Γjに等しいときのみ、全対称表現を含んでいる。
非ゼロ行列要素の同定 エネルギー積分、 は ψiと ψjが、その分子の点群の同じ既約表現に属する
ときのみゼロでない。Hが対称表現であるから。
演習 1. C4v点群において、A1A2、B1E、A1EB2、EEの直積の指標を書き、それを簡約せよ 2. D6h点群において、A1gB1g、A1uA1u、E1gB2gA2uE1uの直積の指標を書き、それを簡約せよ
jkikk χχχ ='
ll
lii n ΓΓΓ ∑=
τφφ dba∫
τψψ dH ji∫
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4.群論と分子軌道法 LCAO-分子軌道法の一般論 n個の原子軌道φiからなるMOを nnccc φφφψ +++= L1111 で近似する。
Schröinger方程式、∫∫=∴=
τψψ
τψψψψ
d
dEE
*,
HH
クーロン積分: τφφ dH iiii ∫= H 、共鳴積分: τφφ dH jiij ∫= H 、重なり積分:
τφφ dS jiij ∫= と定義して、
係数 ciについての変分法((∂E/∂ci)=0)、を適用すると
次の永年方程式が得られる。
0
2211
2222222121
1112121111
=
−−−
−−−−−−
nnnnnnnn
nn
nn
ESHESHESH
ESHESHESHESHESHESH
K
KKKK
K
K
演習 1. Schröinger方程式から変分法を経て永年方程式が得られるまでの過程を示せ
Hückel近似
i 番目と j 番目の原子が隣り合っていないとき 0== ∫ τφφ dH jiij H 、重なり積分は
ijjiij dS δτφφ == ∫
0
21
22221
11211
=
−
−−
EHHH
HEHHHHEH
nnnn
n
n
K
KKKK
K
K
この永年方程式を適当な変換をして、ブロック対角化をして Eを求める。
群論の教えるところでは、 「共鳴積分と重なり積分がゼロにならないのはψiとψjが同じ表現に属しているとき」 このとき永年方程式のブロック対角化に群論を適用できる
演習 1. ベンゼンのπ電子系に Hückel近似を適用した場合に得られる永年方程式を示せ
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NH3分子のMOの作り方 NH3分子:C3v対称 用いる原子軌道 N原子:2s、2px、2py、2pz H原子:1s
前述したように、NH3分子の可約表現は、Γ= A1+Eに簡約できる 右図のように各原子の座標軸をとる
Nの原子軌道について 2sNは全対称(どの対称操作によっても不変)であるから⇒A1 2pz
Nも全対称⇒A1 2px
Nと 2pyNは組になっているから⇒E
Hの原子軌道について これまでの例から、Γ(sH1、sH2、sH3)=A1+E 3つの H原子のどの組み合わせが A1と Eになるかを考える 3つの Hの 1s軌道を 3つのベクトルと考える A1(全対称関数)⇒c1(sH1+sH2+sH3) Eは xy軸方向のベクトルと同じ表現であるから、 E x軸方向対称関⇒c2(sH2/2+sH3/2–sH1) y軸方向対称関⇒c3(sH3-sH2)
係数 ciは規格化よりもとめられる。
分子軌道の形
規格化された対称関数
このようなMOを対称性適応線形結合(symmetry-adapted linear conbination, SLAC)という
演習 1. 上記の係数、c1、c2、c3を求める過程を示せ。
水素原子 窒素原子
A1表現 ψz=(1/3)1/2(sH1+sH2+sH3) 2sN、2pzN
E表現 ψx=(1/6)1/2(sH2+sH3-2sH1)
ψy=(1/2)1/2(sH3–sH2)
2pxN
2pyN
C3v E 2C3 3σv
A1 1 1 1 z x2+y2, z2
A2 1 1 -1 Rz
E 2 -1 0 (x,y),(Rx,Ry) (x2-y2,xy) (xz,yz)
N
H1
H2 H3z
z
z
z
x
x
x x y
y
y y
y
x
σv
σv’’ σv’
H1
H3
N
H2
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この SLACを用いて永年方程式を作る
永年方程式
A1 E
s pz ψz px ψx py ψy
s αs-E 0 β1 0 0 0 0
pz 0 αp-E β2 0 0 0 0
ψz β1 β2 αH-E 0 0 0
px 0 0 0 αp-E β3 0 0
ψx 0 0 0 β3 αH-E 0 0
py 0 0 0 0 0 αp-E β3
ψy 0 0 0 0 0 β3 αH-E
ただし、α=Hii、β=Hij
分子軌道関数
A1表現 Ψ1=c1(2sN)+c2(2pzN)+c3(1/3)1/2(sH1+sH2+sH3)
E表現 Ψ2=c2(2pxN)+c5(1/6)1/2(sH2+sH3-2sH1)
Ψ3=c6(2pyN)+c7(1/2)1/2(sH3–sH2)
これらより、定性的な分子軌道のエネルギー準位図を作ると、
演習 1. 上記の方法を用いて、PF5(三方両錐)の分子軌道関数とエネルギー準位図をもとめよ
A1:2s
E:ψx,ψy
AO of N MO AO of H
A1:ψz
A1:2pz E:2px,2py
A1:σz* E:σx*,σy*
A1:σz
E:σx,σy
A1:σs
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5.群論による配位子群軌道の形成 1. 錯体が属する点群を決める。ここでは、正八面体型の錯体ML6を考える 2. 関与する配位子の軌道を選ぶ。ここでは、中心金属と σ 結合を形成する軌道を選ぶ。すなわち、各配位子 Lの中心金属Mに向いている軌道(ϕ1、ϕ2、ϕ3、ϕ4、ϕ5、ϕ6)
を選び、各 L上の座標は、M方向を zに選ぶ。 3. 各対称要素の可約表現の指標を求める。 4. 可約表現にどの既約表現が何個含まれるかを計算する。 5. 4で求めた既約表現に属する分子軌道の基底をつくる。 6. 5で求めた基底をもとにその LCAOで分子軌道をつくる。 7. 永年方程式を解いて分子軌道を求める。
原子座標の取り方 金属ー配位子結合に関与する個々の原子軌道金属原子:s,p,d 軌道配位子 金属原子と結合する配位子 Lの軌道(ϕ1、ϕ2、ϕ3、ϕ4、ϕ5、ϕ6)は x, y, z 軸上から金属原子の方向に、直接 σ軌道のみを向けて相互作用する場合を考える(σドナー型)
正八面体場(Oh)の指標表
Oh E 8C3 6C2 6C4 3C2 i 6S4 8S6 3σ 6σ
A1g 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 222 zyx ++
A2g 1 1 -1 -1 1 1 -1 1 1 -1
Eg 2 -1 0 0 2 2 0 -1 2 0 ),2( 22222 yxyxz −−−
T1g 3 0 -1 1 -1 3 1 0 -1 -1 ),,( zyx RRR
T2g 3 0 1 -1 -1 3 -1 0 -1 1 ),,( yzxzxy
A1u 1 1 1 1 1 -1 -1 -1 -1 -1
A2u 1 1 -1 -1 1 -1 1 -1 -1 1
Eu 2 -1 0 0 2 -2 0 1 -2 0
T1u 3 0 -1 1 -1 -3 -1 0 1 1 ),,( zyx
T2u 3 0 1 -1 -1 -3 1 0 1 -1
M φ2
φ6
φ3
φ1
φ4
φ5
x y
z
z y
x
x z
y
x
z y z x
yz x
y
z
x
y
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Ohにおける配位子 σ結合の可約表現 配位子の px、py、pz軌道を図のベクトルと考える 配位子の s軌道は点と考える
上記の結果から可約表現は
既約表現のそれぞれの係数を求める
これより、
Γ(σ)=A1g+Eg+T1u
Ohにおける中心金属の可約表現 指標表の右側の記号
222 zyx ++ ⇔ s 2222 yxz −− ⇔ 2z
d 22 yx − ⇔ 22 yx
d−
xy ⇔ xyd
xz ⇔ xzd
yz ⇔ yzd
x ⇔ xp y ⇔ yp z ⇔ zp より、既約表現に対応する原子軌道は、 軌道の既約表現
gA1 ⇔ s gE ⇔ 2z
d , 22 yxd
−
gT2 ⇔ xyd , xzd , yzd
uT1 ⇔ xp , yp , zp
以上の結果をもとにしてMOをつくる
Oh E 8C3 6C2 6C4 3C2 i 6S4 8S6 3σh 6σd
Γ 6 0 0 2 2 0 0 0 4 2
etcCCE ,
100000010000000001001000000100000010
,
000100000001100000001000010000000010
,
100000010000001000000100000010000001
43
⎟⎟⎟⎟⎟⎟⎟⎟
⎠
⎞
⎜⎜⎜⎜⎜⎜⎜⎜
⎝
⎛
=
⎟⎟⎟⎟⎟⎟⎟⎟
⎠
⎞
⎜⎜⎜⎜⎜⎜⎜⎜
⎝
⎛
=
⎟⎟⎟⎟⎟⎟⎟⎟
⎠
⎞
⎜⎜⎜⎜⎜⎜⎜⎜
⎝
⎛
=
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八面体錯体ML6(Oh)のMO関数
配位子:s、p軌道 σ結合 Γ(sσ)=A1g+Eg+T1u Γ(pσ)=A1g+Eg+T1u π結合 Γ(pπ)=T1g+T2g+T1u+T2u SLAC
演習 SLACを求める過程を具体的に示せ
永年方程式 (金属の T2gは非結合軌道を作るので含まれていない)
s ΨA1g dz2 ΨEg(1) dx2-y2 ΨEg(2) px ΨT1u(1) py ΨT1u(2) pz ΨT1u(3)
s α1-E β12 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0
ΨA1g β12 α2-E 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0
dz2 0 0 α3-E β34 β35 β36 0 0 0 0 0 0
ΨEg(1) 0 0 β34 α4-E β45 β46 0 0 0 0 0 0
dx2-y2 0 0 β35 β45 α5-E β56 0 0 0 0 0 0
ΨEg(2) 0 0 β36 β46 β56 α6-E 0 0 0 0 0 0
px 0 0 0 0 0 0 α7-E β78 β79 β710 β711 β712
ΨT1u(1) 0 0 0 0 0 0 β78 α8-E β89 β810 β811 β812
py 0 0 0 0 0 0 β79 β89 α9-E β910 β911 β912
ΨT1u(2) 0 0 0 0 0 0 β710 β810 β910 α10-E β1011 β1012
pz 0 0 0 0 0 0 β711 β811 β911 β1011 α11-E β1112
ΨT1u(2) 0 0 0 0 0 0 β712 β812 β912 β1012 β1112 α12-E
{ } gi
zi
iA Asporsg 1654321 )(
61
1⇔=+++++= φφφφφφφψ
gyx
zE E
d
dg ⎪⎭
⎪⎬⎫
⎪⎩
⎪⎨⎧
⇔
⎪⎪⎭
⎪⎪⎬
⎫
⎪⎪⎩
⎪⎪⎨
⎧
−+−
−−−−+=
− 22
2
metal)(
21
)22(121
4321
432165
φφφφ
φφφφφφψ
u
z
y
x
T T
p
pp
u 1
65
42
31
metal
)(2
1
)(2
1
)(2
1
1
⎪⎭
⎪⎬
⎫
⎪⎩
⎪⎨
⎧
⇔
⎪⎪⎪
⎭
⎪⎪⎪
⎬
⎫
⎪⎪⎪
⎩
⎪⎪⎪
⎨
⎧
−
−
−
=
φφ
φφ
φφ
ψ
g
yz
xz
xy
xyyx
xyyx
yxxy
T Tdd
d
pppp
pppp
pppp
g 2
4321
6452
6351
metal
)(21
)(21
)(21
2
⎪⎭
⎪⎬
⎫
⎪⎩
⎪⎨
⎧
⇔
⎪⎪⎪
⎭
⎪⎪⎪
⎬
⎫
⎪⎪⎪
⎩
⎪⎪⎪
⎨
⎧
+++
+++
+++
=ψ
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群論と結晶場
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12個の原子軌道から、singletの MOが 2つ、doubletの MOが 2つ、tripletの MOが 2つできる。それぞれに結合性軌道と反結合性軌道がある。
模式的にMOを描くと、右図になる
金属の T2gは結合する相手がいないので、 MO中では非結合成軌道となる
Ohにおける配位子π結合の可約表現 座標の取り方は右図 σ結合の場合と同様にして、
可約表現
簡約化
Oh E 8C3 6C2 6C4 3C2 i 6S4 8S6 3σh 6σd
Γ 12 0 0 0 -4 0 0 0 0 0
2x2
4x4
6x6
= 12x12
3d:Eg 3d:T2g
4s:A1g
4p:T1u
Eg A1g T1u
T1u
T1u
Eg
Eg
A1g
A1g
T2g
ML6の σMO
AO of Metal MO AO of Ligand
Oh E 8C3 6C2 6C4 3C2 i 6S4 8S6 3σh 6σd
Γ(π) 12 0 0 0 -4 0 0 0 0 0
T1g 3 0 -1 1 -1 3 1 0 -1 -1
T2g 3 0 1 -1 -1 3 -1 0 -1 1
T1u 3 0 -1 1 -1 -3 -1 0 1 1
T2u 3 0 1 -1 -1 -3 1 0 1 -1
T1g+T2g+T1u+T2u 12 0 0 0 -4 0 0 0 0 0
M φ2
φ6
φ3
φ1
φ4
φ5
x y
z
z y
x
x z
y
x
z y z x
y z x
y
z
x
y
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群論と結晶場
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既約表現は、Γ(π)=T1g+T2g+T1u+T2uとなる 金属の原子軌道について t2g (dxy, dyz,dxz) ⇔ T2g t1u(px, py, pz) ⇔ T1u t1g と t2uに相当する軌道はない
π結合のMOのエネルギーレベル図(σ結合は描かれていない)
π 結合性が重要な働きを発揮するのは、d 軌道の t2gと結合する配位子の T2gのエネルギー準位
の位置によるΔ0の影響である(下図) T1uは p軌道と結合するので重要ではない
配位子が πドナーの場合 配位子が πアクセプターの場合 H2O、OH- etc CO、CN- etc
3d:T2g
T1g
ML6のπMO
AO of Metal MO AO of Ligand
4p:T1g
T2u T1u T2g T1g T2u
T1u
T1u
T2g
3d:t2g t2g
AO of Metal MO AO of Ligand
Eg
T2g
T2g
3d:eg
3d:t2g
t2g
AO of Metal MO AO of Ligand
Eg
T2g
T2g
3d:eg
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群論と結晶場
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Tdにおける可約表現 既約表現と座標の取り方
σ結合について、配位子の可約表現
この指標表
簡約化
従って、σ結合の表現は Γ(σ)=A1+T2
同様にして、π結合については、 Γ(π)=E+T1+T2
中心金属の軌道の表現は A1: s E: dz2、dx2-y2 T2: px、py、pz T2: dxy、dxz、dyz
Td E 8C3 3C2 6S4 6σd
Γ(σ) 4 1 0 0 2
x
y
z
z x y
x
x
x
y
y
y
z
z
z
M
L3
L2
L1
L4
Td E 8C3 3C2 6S4 6σd h=24
A1 1 1 1 1 1 x2+y2, z2
A2 1 1 1 -1 -1
E 2 -1 2 0 0 (2z2-x2-y2,x2-y2)
T1 3 0 -1 1 -1 (Rx, Ry, Rz)
T2 3 0 -1 -1 1 (x,y,z) (xy,xz,yz)
etcCCE ,
0001001001001000
,
0010100001000001
,
1000010000100001
23
⎟⎟⎟⎟⎟
⎠
⎞
⎜⎜⎜⎜⎜
⎝
⎛
=
⎟⎟⎟⎟⎟
⎠
⎞
⎜⎜⎜⎜⎜
⎝
⎛
=
⎟⎟⎟⎟⎟
⎠
⎞
⎜⎜⎜⎜⎜
⎝
⎛
=
Td E 8C3 6C2 6S4 6σd
Γ(σ) 4 1 0 0 2
A1 1 1 1 1 1
T2 3 0 -1 -1 1
A1+ T2 4 1 0 0 2
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群論と結晶場
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四面体錯体ML4(Td)のMO 配位子:s、p軌道 σ結合 Γ(sσ)=A1+T2 、Γ(pσ)=A1+T2 π結合 Γ(pπ)=E+T1+T2 SLAC
{ } 14321 metal)(21
1Aspors i
zi
iA ⇔=+++= φφφφφψ
Ed
d
pppp
pppp
yx
z
yyyy
xxxx
E⎪⎭
⎪⎬⎫
⎪⎩
⎪⎨⎧
⇔
⎪⎪⎭
⎪⎪⎬
⎫
⎪⎪⎩
⎪⎪⎨
⎧
+−−
+−−=
− 22
2
metal)(
21
)(21
4321
4321
ψ
2
4321
4321
4321
metal
)(21
)(21
)(21
)(2T
p
pp
z
y
x
T⎪⎭
⎪⎬
⎫
⎪⎩
⎪⎨
⎧
⇔
⎪⎪⎪
⎭
⎪⎪⎪
⎬
⎫
⎪⎪⎪
⎩
⎪⎪⎪
⎨
⎧
+−−
+−+
−+−
=
φφφφ
φφφφ
φφφφ
ψσ
g
yz
xz
xy
xxxx
yyyy
xxxx
yyyy
xxxx
T Tdd
d
pppp
pppp
pppp
pppp
pppp
2
4321
4321
4321
4321
4321
metal
)(21
)(43
)(41
)(43
)(41
)(2
⎪⎭
⎪⎬
⎫
⎪⎩
⎪⎨
⎧
⇔
⎪⎪⎪⎪⎪⎪
⎭
⎪⎪⎪⎪⎪⎪
⎬
⎫
⎪⎪⎪⎪⎪⎪
⎩
⎪⎪⎪⎪⎪⎪
⎨
⎧
+++
−+−+
−+−
++−−+
−−+
=π
ψ
定性的なMOのエネルギー準位図
3d:E 3d:T2
4s:A1
4p:T2
A1 T2
T2
T2
T2
A1
A1g
T2g
ML4の σMO
AO of Metal MO AO of Ligand
T2
T2
3d:T2
T1
ML4のπMO
AO of Metal MO AO of Ligand
4p:T2
T2 T1
T2
T2
T2
3d:E
E
4s:A1
E
E
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群論と結晶場
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6.群論によるスペクトルの取り扱い スペクトルの種類とエネルギー領域 電子遷移:1~10eV 紫外可視 振動遷移:10-2~10-1eV 赤外 回転遷移:10-5~10-4eV マイクロ波
電子スペクトルの選択則
遷移確率 Q ∫∝ τψψ dQ r'
r:遷移演算子(双極子モーメント演算子(x、y、z軸方向ベクトル)、奇関数(反対称)) これらの固有関数と演算子を基底とする既約表現を Γ(Ψ)、Γ(r)、Γ(Ψ‘)とすると、Q がゼロでないためには直積 Γ(Ψ)Γ(r)Γ(Ψ‘)は全対称にならなければならない。
パリティ遷移則(Laporte選択則とも言う)-Γ(Ψ)と Γ(Ψ‘)のどちらかが偶(g)であれば、一方は奇(u)である必要がある。
八面体場では dn配置から生じる全ての状態は g性を持つから、基本的には d-d遷移は禁制となる。しかし実際にはこの禁制は僅かに破られて d-d 遷移は観測されている。四面体場では d-d遷移は許容である。
振動電子結合(vibronic coupling)-電子遷移が振動遷移とカップリングして許容遷移を与える
τψψψψτψψ ddQ veveee )()''(' ∫∫ ≅∝ rr
Γ(Ψe)( Γ(Ψe’)も同様)は全対称であるので、 Γ(Ψe’)Γ(r)=Γ(Ψv)であれば Qはゼロにならない。 スピン選択則
21 )()''('(
)()'''()()''('
τψψψψτψψ
τψψψψψψτψψψψτψψ
dd
dddQ
vevess
svesveeveveee
∫∫∫∫∫
=
≅≅∝
r
rrr
スピン関数は規格直交系をなすから
ijsjsi d δτψψ =∫ 1'
遷移する 2つの状態間のスピン状態が等しいとき遷移は許容となる
振動電子結合(vibronic coupling) 八面体場では右図のような振動モードが可能
T1u T2u
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群論と結晶場
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例 [Co(NH3)6]2+ 基底状態 Ψe-
1A1g (S=0) 2つの励起状態-1T1g、
1T2g (ともに S=0) r(x,y,z)-T1u
八面体の AB6の分子基準振動: A1g 、Eg 、2T1u 、T2g 、T2u
●第 1励起状態(T1g)について 直積 Γ(Ψ‘)Γ(r)Γ(Ψ)= T1g T1u A1g= T1g T1u=A1u+Eu+T1u+T2u
T1u+T2uは両方に共通して存在している。純粋な1A1g→1T1gは禁制であるが、T1uあるいは T2u
振動の同時励起がある全ての遷移は許容される。
●第 2励起状態(T2g)について 直積 Γ(Ψ‘)Γ(r)Γ(Ψ)= T2g T1u A1g= T2g T1u=2A2u+Eu+T1u+T2u
T1uあるいは T2u振動の同時励起があれば、1A1g→1T2g遷移も起こりうる。
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群論と結晶場
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7.群論と結晶場理論 電子と原子の角運動量についての復習
結晶場理論 -多電子原子の電子状態- 軌道角運動量とスピン角運動量が相互作用
LSカップリング、λL・S 合成角運動量、J=L+S スペクトル項の記号
ただし、
フントの規則(基底状態) 1. 電子スピンはパウリの排他律に従いつつ、合成スピン Sが最大になるように占める。 2. パウリの排他律を満たした状態で、合成軌道角運動量 Lも最大になるように占める。 3. 全角運動量 Jは、電子数が電子殻の半分以下の場合は | L - S | となり、電子数が半分以上の場合には L + S となる。
軌道角運動量 スピン角運動量
角運動量ベクトル l s 角運動量ベクトルの絶対値 h)1(2 += lll h)1(2 += sss 角運動量ベクトルの z 成分 hmlz = hsz ms = 量子数 ),2,1,0( ⋅⋅⋅=l )2/1(=s z 成分の量子数 ),( llm ⋅⋅⋅−= )2/1( ±=sm
軌道角運動量 スピン角運動量 全角運動量 電子 原子 電子 原子 原子 角運動量 ベクトル
il ∑= ilL is ∑= isS SLJ +=
角運動量ベク
トルの z成分 zil ∑= ziz lL zis ∑= zizS s zzz SLJ +=
角運動量 量子数
il 2121 , llllL −⋅⋅⋅+=
is 2121 , ssssS −⋅⋅⋅+= SLSLJ −⋅⋅⋅+= ,
z成分の 量子数
im ∑= iL mM zim ∑= ziS mM SLJ MMM +=
磁気量子数 ii ll ⋅⋅⋅− , LL ⋅⋅⋅− , 2/1± SS ⋅⋅⋅− , JJM ⋅⋅⋅−= ,
JS L12 +
L= 0 1 2 3 4 5 6
S P D F G H I
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群論と結晶場
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d2の場合について 縮退している軌道に対しては Pauliの排他律と Fund規則がきいてくるので、
L=4(l1=2と l2=2)では S=0だけ ⇒ 1G L=3(l1=2と l2=1)では S=1だけ ⇒ 3F L=2(l1=1と l2=1)では S=0だけ ⇒ 1D L=1(l1=1と l2=0)では S=1だけ ⇒ 3P L=0(l1=0と l2=0)では S=0だけ ⇒ 1S 基底状態は 3F
自由イオンにおける d軌道の電子項
演習 上記の方法で d3において現れる全ての項を導け(上記のように 8通りある)
群論による d軌道の表現 結晶場における原子軌道の属する既約表現(一電子の場合)を求める
Oh点群内の 3d軌道の表現 水素原子型の多電子原子固有関数 )()(cos)(),()(),,( φθφθφθ mlmnllmnlnlm PrRYrRr Φ==Ψ
3d軌道は次の形をとる
この軌道の O点群(Oh点群の部分群)の中での挙動を見る O点群は回転操作のみであるから、その回転軸を z軸として調べる(変化するのは φだけ) z軸の ωの回転操作を Rωとすると、 )()( ωφφω +Φ=Φ mmR
5つの d軌道については m(2,1,0,-1,-2)であるから、
上式中の行列は 5つの d軌道を基底とする表現となっている この行列の指標は
ωωωωωχ iiii eeeee 202)( −− ++++= これを一般論に拡張すると
電子配置 電子項
d1,d9 2D
d2,d8 3F,3P,1G,1D,1S
d3,d7 4F,4P,2H,2G,2F,2Dx2,2P
d4,d6 5D,3H,3G,3Fx2,3D,3Px2,1I,1Gx2,1F,1Dx2, 1Sx2
d 6S,4G,4F,4D,4P,2I,2H,2Gx2,2Fx2,2Dx3, 2P,2S
⎟⎟⎟⎟⎟⎟
⎠
⎞
⎜⎜⎜⎜⎜⎜
⎝
⎛
=
⎟⎟⎟⎟⎟⎟
⎠
⎞
⎜⎜⎜⎜⎜⎜
⎝
⎛
⎟⎟⎟⎟⎟⎟
⎠
⎞
⎜⎜⎜⎜⎜⎜
⎝
⎛
+−
+−
+
+
−
−
−
−
)(2
)(
0
)(
)(2
2
0
2
2
0
2
00000000000000000000
ϖφ
ϖφ
ϖφ
ϖφ
φ
φ
φ
φ
ω
ω
ω
ω
i
i
i
i
i
i
i
i
i
i
i
i
ee
eee
eeeee
ee
ee
e
πθφθφθ
φ
2)(cos)(),()(),,( 23232
im
mlmnlmePrRYrRr ==Ψ
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群論と結晶場
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これら軌道の O点群の全ての回転操作の指標 χ(C2)=1 (ω=π) χ(C4)=-1 (ω=π/2) χ(C3)=-1 (ω=2π/3)
回転操作の可約表現は指標表を用いて、
これらの結果より、d軌道の既約表現は、 Γ(d軌道)=E+T2 Oh点群では Oのそれに gつけて、
Γ(d軌道,Oh)=Eg+T2g
同様にして他の軌道の可約表現の指標と軌道の既約表現を求めると、
演習
上記の方法で f軌道の Oにおける既約表現を求めよ(答えは A2+T1+T2)
Ohと Tdについてまとめると、
⎟⎠⎞
⎜⎝⎛
⎥⎦⎤
⎢⎣⎡ +
==
+++=
∑=
−
−−
2sin
)21(sin
)(
)(
2
0
)1(
ω
ω
ωχ
ωω
ωωω
lee
eee
jl
j
iil
illiil K
O E 6C4 3C2 8C3 6C2 A1 1 1 1 1 1 x2+y2+z2 A2 1 -1 1 1 -1 E 2 0 2 -1 0 (2z2-x2-y2,x2-y2) T1 3 1 -1 0 -1 (x,y,z) T2 3 -1 -1 0 1 (xy,xz,yz)
O C2 C3 C4 C5 C6
s 1 1 1 1 1 p -1 0 1 2cos36∘ 2 d 1 -1 -1 0 1 f -1 1 -1 -2cos36∘ -1g 1 0 1 -1 -2h -1 -1 1 1 -1i 1 1 -1 2cos36∘ 1
O E 6C4 3C2 8C3 6C2
Γ(d) 5 -1 1 -1 1
O E C3 C2 C4 既約表現 s 1 1 1 1 A1 p 3 0 -1 1 T1 d 5 -1 1 -1 E+T2 f 7 1 -1 -1 A2+T1+T2 g 9 0 1 1 A1+E+T1+T2 h 11 -1 -1 1 E+2T1+T2 i 13 1 1 -1 A1+A2+E+T1+2T2
Oh Td s A1g A1 p T1u T2 d Eg+T2g E+T2 f A2u+T1u+T2u A2+T1+T2 g A1g+Eg+T1g+T2g A1+E+T1+T2 h Eu+2T1u+T2u E+2T+T2 i A1g+A2g+Eg+T1g+2T2g A1+A2+E+T1+2T2
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群論と結晶場
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多電子系の結晶場における原子軌道の属する既約表現 d2自由イオンの電子項の分裂について考えてみる 多電子系では電子は LSカップリングしている 個々の電子の mを合計した合計磁気量子数 Mを用いて
φ
πiM
M e21
=Φ
を使う。 スピン多重度:スピン関数は座標に依存しないから対称操作によって変換されない。スピ
ン多重度は対称場に入れても不変である。
一電子系と同様にすると、d 2では、
その他のdn系についてはスピン多重度だけが異なる。
八面体場におけるエネルギー準位図の組立て d2の場合について
(1)自由イオンの項(エネルギーの低い順) 3F 1D 3P 1G 1S
それぞれの項の Ohにおける分裂 D項-T2g、Eg P項-T1g S項-A1g F項-T1g、T2g、A2g G項-T1g、T2g、Eg、A1g
この場合、軌道は分裂していないので、 スピン多重度は変わらない (2)強い場(極限)の配置(エネルギーの低い順) t2g
2 t2geg eg2
ここで直積を用いる(右図)と t2g
2= t2gxt2g=A1g+Eg+T1g+T2g t2geg= t2gxeg=T1g+T2g eg
2=eg2xeg
2=A1g+A2g+Eg
(Ohの代わりに Oでも良い。全て g関数だから)
Oh Td 1S 1A1g 1A1 1G 1A1g+1Eg+1T1g+1T2g 1A1+1E+1T1+1T2 3P 3T1g 3T1 1D 1Eg+1T2g 1E+1T2 3F 3A2g+3T1g+3T2g 3A2+3T1+3T2
O E 6C4 3C2 8C3 6C2 A1 1 1 1 1 1 A2 1 -1 1 1 -1 E 2 0 2 -1 0 T1 3 1 -1 0 -1 T2 3 -1 -1 0 1
T2 T2 9 1 1 0 1 A1+E+T1+T2
E T2 6 0 -2 0 0 T1+T2 E E 4 0 4 1 0 A1+A2+E
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群論と結晶場
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軌道は既に分裂しているので、 スピン多重度はまだわからない
多重度ついては!)!(
!nnm
mCnm −= を用いる
t2g2の場合、 軌道縮重度=3、スピン縮重度=2であるから、6C 2=15通り。 これが分裂した A1g、Eg、T1g、T2gの合計した縮重度も 15通りある。 aA1g+bEg+cT1g+dT2g
とすると、 1xa+2xb+3xc+3xd=15
ここで、a、b、c、dは 1か 3のいずれか(Pauli則)であるので、 a b c d
I 1 1 1 3 II 1 1 3 1 III 3 3 1 1
詳しい議論はしないが、この場合は IIとなる。 ∴1A1g+1Eg+3T1g+1T2g 他の場合も同様にして考えることができる。
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群論と結晶場
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二重群 角運動量量子数 l(或は L)に対する基底をなす表現の指標は、
これは整数の量子数に対して成立する しかし一部の希土類イオン(Jが良い量子数)のような半整数の Jをとる場合には適用できない 例えば、lを Jに置き換えて、J=J’+1/2(ただし、J’は任意の整数)を代入すると、
新しい対称操作 R、「2πだけの回転が対称操作であるが高等操作ではない」、を導入する そうすると、純回転群 Cn
mに RCnm(Cn
mRでも良い、直積表現)が新たに加わる 詳しい議論はしないが、例えば D4点群では、
D4点群 E C4 C43 C2 2C2’ 2C2’’
⇓ D4
’点群 E R C4 C4
3R C4
3
C4R C2
C2R 2C2’
2C2’R 2C2’’
2C2’’R D4
’点群を二重群という l’Hospital’s則により、 Eの指標、χ(0)=2J+1 Rの指標、χ(2π)=2J+1 Jが整数のとき χ(2π)=-(2J+1) Jが半整数のとき m2π/nの回転の場合 Cn
mR指標、χ(m2π/n+2π)=χ((n-m)2π/n)
D4’点群の指標表
O’点群の指標表
⎟⎠⎞
⎜⎝⎛
⎥⎦⎤
⎢⎣⎡ +
=
2sin
)21(sin
)(ω
ωωχ
l
[ ] )(
22sin
)2)(2/1'(sin)2( ωχπω
πωπωχ −==⎟⎠⎞
⎜⎝⎛ +
++=+ K
J
O’ E R 4C3
4C32R
4C32
4C3R 3C2
3C2R 3C4
3C43R
3C43
3C4R6C2’
6C2’R
Γ1 A1’ 1 1 1 1 1 1 1 1Γ2 A2’ 1 1 1 1 1 -1 -1 -1 Γ3 E’ 2 2 -1 -1 2 0 0 0 Γ4 T1’ 3 3 0 0 -1 1 1 -1 Γ5 T2’ 3 3 0 0 -1 -1 -1 1 Γ6 E2’ 2 -2 1 -1 0 2 2− 0 Γ7 E3’ 2 -2 1 -1 0 2− 2 0 Γ8 G’ 4 -4 -1 1 0 0 0 0
O’ E R C4
C43R
C43
C4R C2
C2R 2C2’
2C2’R2C2’’
2C2’’R
Γ1 A1’ 1 1 1 1 1 1 1Γ2 A2’ 1 1 1 1 1 -1 -1 Γ3 B1’ 1 1 -1 -1 1 1 -1 Γ4 B2’ 1 1 -1 -1 1 -1 1 Γ5 E1’ 2 2 0 0 -2 0 0 Γ6 E2’ 2 -2 2 2− 0 0 0 Γ7 E3’ 2 -2 2− 2 0 0 0
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群論と結晶場
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例 O点群下での J=5/2項の可約表現 J=5/2 E χ(0)=6 R χ(2π)=-6 C3
2R C3R χ(4π/3)=0 C2R χ(π)=0 C4
3R χ(π/2)=-(2)1/2 C4
1R χ(3π/2)=(2)1/2 C2’R χ(π)=0
上記の指標表より、 Γ(J=5/2)=Γ7+Γ8=E3’+G’
O点群下での全ての J項の可約表現
J=0 A1 (Γ1) J=1/2 E2’ (Γ6)
J=1 T1 (Γ4) J=3/2 G’ (Γ8)
J=2 E+T2 (Γ3+Γ5) J=5/2 E3’+G’ (Γ7+Γ8)
J=3 A2+T1+T2 (Γ2+Γ4+Γ5) J=7/2 E2’+E3’+G’ (Γ6+Γ7+Γ8)
J=4 A1+E+T1+T2 (Γ1+Γ3+Γ4+Γ5) J=9/2 E2’+2G’ (Γ6+2Γ8)
J=5 E+2T1+T2 (Γ3+2Γ4+Γ5) J=11/2 E2’+E3’+2G’ (Γ6+Γ7+2Γ8)
J=6 A1+A2+E+T1+2T2 (Γ1+Γ2+Γ3+Γ4+2Γ5) J=13/2 E2’+2E3’+2G’ (Γ6+2Γ7+2Γ8)
J=7 A2+E+2T1+2T2 (Γ2+Γ3+2Γ4+2Γ5) J=15/2 E2’+E3’+3G’ (Γ6+Γ7+3Γ8)
J=8 A1+2E+2T1+2T2 (Γ1+2Γ3+2Γ4+2Γ5)
演習 Γ(J=7/2)の既約表現を求めよ
O’ E R 4C3
4C32R
4C32
4C3R 3C2
3C2R3C4
3C43R
3C43
3C4R6C2’
6C2’R
Γ1 A1’ 1 1 1 1 1 1 1 1 Γ2 A2’ 1 1 1 1 1 -1 -1 -1 Γ3 E’ 2 2 -1 -1 2 0 0 0 Γ4 T1’ 3 3 0 0 -1 1 1 -1 Γ5 T2’ 3 3 0 0 -1 -1 -1 1 Γ6 E2’ 2 -2 1 -1 0 2 2− 0 Γ7 E3’ 2 -2 1 -1 0 2− 2 0 Γ8 G’ 4 -4 -1 1 0 0 0 0
D5/2 6 -6 0 0 0 2− 2 0
( ) 0
3sin
2sin)3
2( =⎟⎠⎞
⎜⎝⎛
=πππχ
( )
⎟⎠⎞
⎜⎝⎛
=⎟⎠⎞
⎜⎝⎛
⎟⎠⎞
⎜⎝⎛ +
=
2sin
3sin
21sin
)21
25(sin
)(ωω
ω
ωωχ
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群論と結晶場
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エネルギー相間図 自由イオンの項と強い配位子場の項とを結びつけた図 規則: ・ 同じ状態同士を結ぶ ・ 対称性の同じ状態は交差しない
(non-crossing rule)
この規則を用いてエネルギー相間図を作る
演習 上記の方法で八面体場における d3のエネルギー相間図を求めよ
参考書 1.分子の対称性と群論、中崎昌雄著、東京化学同人、1973 2.群論の化学への応用、F.A.Cotton著、中原勝儼訳、丸善、1980 3.配位子場理論とその応用、上村洸、菅野曉、田辺行人著、裳華房、1990
t2
3F
e2
1S
3P
1D t2e
1G
Free ion Weak filed Strong field Limited
3T1
3T2
3A2
1T2
1E
3T1
1A1
1T2
1T1
1E
1A1
3T1
1T2
1E
1A1
3T2
3T1
1T2
1T1
3A2
1E
1A1
八面体場での d 2のエネルギー相間図 g は省略してある。