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(Intelligent Manufacturing System)の国際共同研究プログラムとして、(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)や経済産業省の支援を受けて進められた。プロジェクトコード VHT(Virtual heat treatment tool for monitoring and optimizing HT process)、課題名「熱処理プロセスのモニタリングと最適化のための仮想熱処理ツールの構築」である。参加機関は、国内では自動車会社や建機メーカーなど 4 企業と 3 大学の計 7 機関、海外では、フランス企業やドイツ IWT など世界的研究所を含む 6機関を中心とするEU(European Union)グループとカナダや韓国の機関を加えた 14 機関に上る。主な課題は、熱処理ノウハウに関するナレッジ(knowledge)データベース(KBS; Knowledge Based System)構築、材料特性値のデータベースの構築、これらの有限要素シミュレーションへの適用(新規開発を含む)、ナレッジデータベースと有限要素シミュレー
ション結果に基づいた意思決定支援システム(DSS; Decision Support System)の構築と適用、そして、この意思支援システムの生産現場への応用である。残念ながら各地域(EU や各国)の足並みが揃わず、構想通りの成果が得られたとは言い難い。しかし、このプロジェクトは、熱処理シミュレーション自体の学術研究やソフト開発に留まらず、それを生産現場で発生する課題解決のツールとして実用化を目指したことが意義深い。 主な成果としては、まず井上、巨らが中心となって新たな熱処理シミュレーションソフト“COSMAP
(COmputer Simulat ion of MAnufacturing Process)”16)が開発された。これは先の“HEARTS”をベースとしているが、解析機能の充実に主眼を置き、浸炭に加え浸炭窒化及び局部加熱の機能が追加されている。更に、マルチソルバ機能や、プリポストとして FEMAP や GiD のサポートも可能となっている。これにより、既存の熱処理シミュレーションソフトより高速で柔軟性に富むシミュレーションが可能となった。このソフトは、現在、NPO法人
「変態・熱・力学研究協会(MTM)」17)を通じて、㈲アイデアマップ(IDEAMAP)から頒布されている。また、市販ソフトを含めた複数のシミュレーションソフトのベンチマークを実施し、鋼材や冷却剤データの信頼性検証や新たな収集・蓄積がなされた。 さらに、実際の自動車用ファイナルギヤ、アウトプットギヤおよびピニオンリダクションギヤを取り上げ、浸炭焼入れ歪みを支配している主要因を絞り込みその寄与度を明確にする手法を提案している。熱処理製造現場で収集した処理条件(部品形状、装入ロット、ジグへのセッティング位置、雰囲気条件、焼入れ温度、油槽温度など)と熱処理品質(歪みなど)の 1 対 1 対応の多量のデータの中から、意味のある相関関係を抽出(データマイニング)するため、相関がツリー状に出力される決定木法 J. R. Quinlan18)
素が鉄合金窒化物として析出する前に一時的に Fe-Me-N 配列としてトラップされるという窒素トラップモデル34)に基づいた計算が報告35)されている。平岡ら36)は、S40C をベース鋼とした鋼のガス窒化による拡散層の窒素濃度分布について Si, Cr, Mo, V および W 添加すなわち合金窒化物析出を考慮して計算し、構造用鋼や工具鋼まで広く実用鋼に応用できるとしている。 Christiansen や Somers ら37)は、オーステナイト系ステンレス鋼(AISI304, 316)のガス窒化について、拡張オーステナイトの成長における窒素濃度分布を数値シミュレートしている。 硬さ分布の計算機シミュレーションについては、井上ら38)が、C, Si および Cr 量の異なる中炭素フェライト・パーライト鋼のガス軟窒化による硬さ向上が、窒素濃度に比例すると仮定して、窒素濃度分布から硬さ分布を計算している。窒化元素を含有する実用窒化鋼での硬さ分布シミュレーションでは、合金窒化物の析出による析出強化や分散強化を考慮する必要があるが、楠見ら39)は、Ti 添加鋼のガス窒化において TiN の析出を計算し、硬さ上昇が析出物の体積率 f と平均粒径 d の関数で表現されるという Ansell-Lenel の析出強化理論40)を使って、∆σy=
式(G, G* は夫々a -Fe, TiN の剛性率、b はバーガースベクトル)から硬さ上昇を計算している。 残留応力のシミュレーションに関する報告は少ないが、最近井上ら41)~ 44)は、ガス窒化によるa -Fe
Cr, Mo, V, Al に比べ C 量によってより大きく影響されることなどを報告している。 以上紹介した窒化シミュレーションは、生産技術では、表面硬さを含め最適な硬さ分布と窒化組織を最短時間で効率的に確保できる材料設計、ならびにその窒化条件の最適化のためのツールとして活用できることに最大の意義がある。すでに、一部メーカーからは、化合物層厚さや窒化深さなどを予測できる窒化プロセスパラメータ決定支援ソフト46)が提供されている。
なる熱処理は、これまでの浸炭焼入れや高周波焼入れだけでなく、窒化や軟窒化も加えられている。また、生産現場における課題解決への関心の高まりから、流体解析や気液混相流解析に関する実験や調査も新たに盛り込まれている。ワーキンググループ(WG)形式で活動を進めており、主な課題を表 1 に示す。WG Ⅰは、熱処理シミュレーションで最も重要な入力値の一つである、冷却特性、特に熱伝達率の高精度測定に関するものである。中心式銀プローブを用いた冷却能測定法に関する JIS B 法(K2242-B)の ISO 規格化に向けた検討準備を進めているが、すでに、ASTM 規格化(D7646;アルミニウム合金の溶体化後の急冷用冷媒の冷却能測定法)が実現しており、さらに従来の標準液 DOP(フタル酸ジ 2-エチルヘキシル)に加え鉱油系標準液を採用する改正を行った。現在、この鉱油系標準液を使ったラウンドロビンテストを実施中である。WG Ⅱでは、関心の高い非対称形状部材で発生する曲がり変形について、浸炭油焼入れした場合を取り上げ、残留応力予測の高精度化を含めたメカニズムの解明に取り組んでいる。実際のシミュレーションでは、浸炭層のメッシュ分割法が課題の一つに挙げられ、材料物性値や計算条件などを含めて最適化を検討している。また、円板状試験片の高周波焼入れにおける変形と残留応力について、シミュレーションと実験検証が精力的に進められており、正確な熱伝達率や材料物性値を取得することが重要課題となっている。さらに、自動車用の浸炭焼入れ部材の量産現場における歪み対策への応用を目指し、自動車会社はじめ、部品メーカー、炉メーカーや油剤メーカーが連携・協力し合い、ハイポイドリングギヤや CVT プーリーなど実部品を対象とした活動を加速している。団体焼入れ時の部品間や部品位置の冷却ばらつきの実測とシミュレーションへの反映が大きな課題であるが、解析の簡素化に関するノウハウも積み上がりつつあり、成果が期待
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されている。WG Ⅲでは、窒化シミュレーションを取り上げ、これまであまり詳細な研究報告のない窒化時の変形や残留応力についての文献調査を進める一方、Cr 鋼や Cr-Mo 鋼など JIS 規格鋼の窒化による表面化合物層や拡散層硬さ分布のシミュレーションが試みられている。検証用の窒化実験も実施し、データの収集と化合物層形成過程の解明48),49)が進められている。
5.2 ドイツIWT変形工学プロジェクト 一方、ドイツでは、DFG(ドイツ研究振興協会)からファンドを受け、 IWT(材料熱処理研究所)6)、ブレーメン大学が中心となり焼入歪みの低減を目標とした CAE のプロジェクト;The Collaborative Research Center SFB570 “Distortion Engineering” 50)が2001年から 2011年までの 10年間に渡り進められた。これは、製造工程、すなわち自動車変速機部品を例にすれば鋳造、圧延、機械加工、熱処理および研削における各プロセスをつながったものとして “プロセスチェイン(Process chain)” という概念を導入し、歪み発生に影響する重要因子ならびに連続する各プロセスの優先度を決めて制御し、これまでの個別プロセスではなく全体としてプロセスを最
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