第 1 章 振動現象とは 第 1 章 振動現象とは 畔上 秀幸 名古屋大学 情報科学研究科 複雑系科学専攻 November 14, 2019 1 / 24
第 1 章 振動現象とは
はじめに
(背景) 物体の振動に限らず,景気の変動など振動する現象はいたるところに存在する.
(目標) 力学モデルを用いて振動現象が発生するための最小限の構成要素について理解したい.
振動現象とは,平均値(基準値)よりも大きい状態と小さい状態とを交互に繰り返す現象である.
2 / 24
第 1 章 振動現象とは
車体の有限要素モデル
8 次固有振動モード (53Hz) 10 次固有振動モード (64Hz)
図 1.1: 車体の固有振動モード(モデル提供:三菱自動車工業株式会社)
3 / 24
第 1 章 振動現象とは
60
70
80
90
100
110
120
1980 1990 2000 2010
Leading index
Coincident index
Lagging index
図 1.2: 景気動向指数 (内閣府)
このような振動が起こる要因は,復元力と慣性力が共に存在することであるといえる.そのことを,次章でみてみよう.
4 / 24
第 1 章 振動現象とは
微分方程式を描画で解く
§1.1 微分方程式を描画で解く
振動現象の要因を 1自由度力学モデルの運動方程式を使って考えてみよう.運動方程式は微分方程式である.微分方程式とは,そもそもどのようなものな
のかを,微分方程式の解を解析的に調べる前に,図で理解してみよう.
k c
m
x
図 1.1: 1自由度力学モデル
5 / 24
第 1 章 振動現象とは
微分方程式を描画で解く
ばね-ダッシュポット系
§1.1.1 ばね-ダッシュポット系
k ∈ R をばね定数,c ∈ R をダッシュポットの減衰定数, x : (0,∞) → R を変位とする.
問題 1.1.1 (ばね-ダッシュポット系の運動方程式)
k, c, x0 ∈ R に対して,
cx+ kx = 0, x(0) = x0
を満たす x : (0,∞) → R を求めよ.
時間 t に対して,x = dx/dt とかく.
6 / 24
第 1 章 振動現象とは
微分方程式を描画で解く
ばね-ダッシュポット系
簡単のために,c = k = 1 とする.
x(t) = −x(t), x(0) = x0
のとき,微分方程式は,図 1.2 のような接線の場となり,初期条件を満たす特殊解は軌跡 (trajectory) 与える.
x
x0
t
図 1.2: ばね-ダッシュポット系の運動方程式
7 / 24
第 1 章 振動現象とは
微分方程式を描画で解く
ばね-ダッシュポット系
この接線の場を x− x 平面で見ると直線になる.x = y として,x− y 平面を位相平面 (phase plane) という.軌跡の時間方向を正とした矢印は,dt > 0,y > 0 のとき,dx < 0 となるよう決定される.
t
x0
x
y
x
y
x0
図 1.3: ばね-ダッシュポット系運動方程式の位相平面表示
ばね-ダッシュポット系では,慣性力がないために振動が発生しない.
8 / 24
第 1 章 振動現象とは
微分方程式を描画で解く
ばね-ダッシュポット系
(補足) 減衰力の種類
1 粘性減衰 : 速度に比例した減衰力が発生する.
2 速度二乗減衰 : 速度の 2乗に比例した減衰力が発生する.
3 摩擦減衰 : 速度の方向と反対方向に Coulomb 摩擦力が発生する.
4 構造減衰 : 周波数(速度)に依存せず,振幅に比例した減衰力が発生する.
9 / 24
第 1 章 振動現象とは
微分方程式を描画で解く
ダッシュポット-質点系
§1.1.2 ダッシュポット-質点系
c ∈ R をダッシュポットの減衰定数,m ∈ R を質量, x : (0,∞) → R を変位とする.
問題 1.1.2 (ダッシュポット-質点系の運動方程式)
c,m, x0, y0 ∈ R に対して,
mx+ cx = 0, x(0) = x0, x(0) = y0
を満たす x : (0,∞) → R を求めよ.
10 / 24
第 1 章 振動現象とは
微分方程式を描画で解く
ダッシュポット-質点系
簡単のために,m = c = 1 とする.x = y とかけば
y(t) = −y(t), y(0) = y0
x(t) = y(t), x(0) = x0
のとき,微分方程式の解は,図 1.4 のような軌跡となる.
t
x
y0
t
x
x0
図 1.4: ダッシュポット-質点系の運動方程式
ダッシュポット-質点系では,復元力がないために振動が発生しない.
11 / 24
第 1 章 振動現象とは
微分方程式を描画で解く
ばね-ダッシュポット-質点系
§1.1.3 ばね-ダッシュポット-質点系
問題 1.1.3 (ばね-ダッシュポット-質点系)
m, c, k, x0, y0 ∈ R に対して,
mx+ cx+ kx = 0, x(0) = x0, x(0) = y0
を満たす x : R → R を求めよ.
問題 1.1.3 の微分方程式は,定数 ω1 =√k/m, ζ = c/
(2√k/m
), x0, y0 ∈ R
を用いれば,
x+ 2ζω1x+ ω21x = 0, x(0) = x0, x(0) = y0
となる.この式を標準形という.
12 / 24
第 1 章 振動現象とは
微分方程式を描画で解く
ばね-ダッシュポット-質点系
さらに,標準形は{x = y
y = −2ζω1y − ω21x
, x(0) = x0, y(0) = y0
とかける.位相平面上の点 (x, y) に対して,軌跡の勾配は
∇y =dy/dt
dx/dt=
y
x=
−2ζω1y − ω21x
y= −2ζω1 − ω2
1
x
y
となる.∇y が定数となる点の集合を等傾斜線という.
13 / 24
第 1 章 振動現象とは
微分方程式を描画で解く
ばね-ダッシュポット-質点系
1 ω1 = 1, ζ = 0 のとき,
∇y = −x
y
となる.このとき
∇y = 0 ⇔ x = 0
∇y → ∞ ⇔ y = 0
∇y = 1 ⇔ x = −y
∇y = −1 ⇔ x = y
となる.
x
y
t
x
図 1.5: ばね-質点系: ω1 = 1, ζ = 0
⇒ ばね-質点系では,振動が発生する.
14 / 24
第 1 章 振動現象とは
微分方程式を描画で解く
ばね-ダッシュポット-質点系
2 ω1 = 1, ζ = 1/4 のとき,
∇y = −1
2− x
y
となる.このとき
∇y = 0 ⇔ y = −2x
∇y → ∞ ⇔ y = 0
∇y = 1 ⇔ y = −2
3x
∇y = −1 ⇔ y = 2x
となる.
x
y
図 1.6: ばね-ダッシュポット-質点系:ω1 = 1, ζ = 1/4
15 / 24
第 1 章 振動現象とは
微分方程式を描画で解く
ばね-ダッシュポット-質点系
3 ω1 = 1, ζ = 1 のとき,
∇y = −2− x
y
となる.このとき
∇y = 0 ⇔ y = −1
2x
∇y → ∞ ⇔ y = 0
∇y = 1 ⇔ y = −1
3x
∇y = −1 ⇔ y = −x
∇y = −2 ⇔ x = 0
である.
x
y
図 1.7: ばね-ダッシュポット-質点系:ω1 = 1, ζ = 1
軌跡の勾配と等傾斜線の勾配が一致する線が現れる.軌跡はこの線に近づくが,この線を横切ることはできない.⇒ 過減衰系では,振動が発生しない.
16 / 24
第 1 章 振動現象とは
微分方程式を描画で解く
ばね-ダッシュポット-質点系
4 ω1 = 1, ζ = 2 のとき,
∇y = −4− x
y
となる.このとき
∇y = 0 ⇔ y = −1
4x
∇y → ∞ ⇔ y = 0
∇y = 1 ⇔ y = −1
5x
∇y = −1 ⇔ y = −1
3x
∇y = −4 ⇔ x = 0
∇y = −5 ⇔ y = x
となる.
x
y
図 1.8: ばね-ダッシュポット-質点系:ω1 = 1, ζ = 2
17 / 24
第 1 章 振動現象とは
微分方程式を描画で解く
ばね-ダッシュポット-質点系
軌跡の勾配と等傾斜線の勾配が一致する線では,
∇y = −4− x
y= −4− 1
∇y⇔ (∇y)
2+ 4∇y + 1 = 0
∴ ∇y = −2±√3 = −0.27 · · · , −3.73 · · ·
が成り立つ.
18 / 24
第 1 章 振動現象とは
微分方程式を描画で解く
ばね-ダッシュポット-質点系
5 ω1 = 1, ζ = −1/4 のとき,
∇y =1
2− x
y
となる.このとき
∇y = 0 ⇔ y = 2x
∇y → ∞ ⇔ y = 0
∇y = 1 ⇔ y = −2x
∇y = −1 ⇔ y =2
3x
∇y =1
2⇔ x = 0
となる.
x
y
図 1.9: ばね-ダッシュポット-質点系:ω1 = 1, ζ = −1/4
⇒ 負の減衰系では,振動が拡大する.
19 / 24
第 1 章 振動現象とは
微分方程式を描画で解く
ばね-ダッシュポット-質点系
6 ω1 = 1, ζ = −2 のとき,
∇y = 4− x
y
となる.このとき
∇y = 0 ⇔ y =1
4x
∇y → ∞ ⇔ y = 0
∇y = 1 ⇔ y =1
3x
∇y = 4 ⇔ x = 0
∇y = 5 ⇔ y = −x
となる.
x
y
図 1.10: ばね-ダッシュポット-質点系:ω1 = 1, ζ = −2
原点は不安定な結節点となる.⇒ 負の過減衰系では発散する.
20 / 24
第 1 章 振動現象とは
微分方程式を描画で解く
ばね-ダッシュポット-質点系
7 x− x = 0 のとき,{x = y
y = x∇y =
x
y
となる.このとき
∇y = 0 ⇔ x = 0
∇y → ∞ ⇔ y = 0
∇y = 1 ⇔ y = x
∇y = −1 ⇔ y = −x
となる.
x
y
図 1.11: ばね-ダッシュポット-質点系:ω1 = 1, ζ = −2
原点は鞍状点となる.⇒ 負のばね系では,双曲線的に運動する.
21 / 24
第 1 章 振動現象とは
微分方程式を描画で解く
Van der Pol 方程式
§1.1.4 Van der Pol の運動方程式
運動方程式が非線形であっても,復元力と慣性力が存在すれば振動が発生する.Van der Pol 方程式の例をみてみる.
問題 1.1.4 (Van der Pol 方程式)
µ ∈ R, µ > 0, x0, y0 ∈ R に対して,
x− µ(1− x2
)x+ x = 0, x(0) = x0, x(0) = y0
を満たす x : (0,∞) → R を求めよ.
Van der Pol 方程式は{x = y
y = −x+ µ(1− x2
)y
, x(0) = x0, y(0) = y0
とかける.
22 / 24
第 1 章 振動現象とは
微分方程式を描画で解く
Van der Pol 方程式
位相平面上の軌跡の勾配について,
∇y =−x+ µ
(1− x2
)y
y
= µ(1− x2
)− x
y
が成り立つ.µ = 1 のとき,
∇y = 0 ⇔ y =x
1− x2
∇y → ∞ ⇔ y = 0
∇y = 1 ⇔ y = − 1
x
∇y = −1 ⇔ y =x
2− x2
となる.
x
y
図 1.12: Van der Pol 方程式: µ = 1
Van der Pol 方程式の解はリミットサイクルを形成する.
23 / 24
第 1 章 振動現象とは
まとめ
§1.2 まとめ
振動の要因は,復元力と慣性力が共に存在することであることを,1自由度系の運動方程式と Van der Pol 方程式の解を図を用いて求めながらみてきた.同時に,微分方程式の解を図を用いて求めたみた.
1 1階の線形常微分方程式に対して,微分方程式は,接線の場を与え,初期条件を満たす特殊解は軌跡となることをみた.
2 2階の線形常微分方程式は,位相平面において接線の場を与え,軌跡は振動,減衰,発散の解を示した.
3 Van der Pol 方程式は,非線形微分方程式であったが,位相平面において接線の場を与え,軌跡はリミットサイクルの存在を示した.
24 / 24