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目 次
第 1章 複素数 2
1.1 複素数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 2
1.1.1 ガウス平面 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 2
1.1.2 べき級数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5
1.1.3 べき級数の確認 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6
1.1.4 オイラーの公式と三角関数の公式 . . . . . . . . . . . . 7
1.1.5 ベキ乗根の求め方 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8
1.2 初歩の複素関数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8
1.3 1次分数変換 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9
第 2章 複素関数 12
2.1 連続性 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 12
2.2 べき級数,テイラー展開 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 12
2.2.1 指数関数,三角関数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 13
2.2.2 対数関数,べき関数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 14
2.3 微分 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 17
2.4 等角写像 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 19
2.5 正則関数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 20
第 3章 積分 21
3.1 線積分 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 21
3.1.1 コーシーの積分定理 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 22
3.1.2 コーシーの積分公式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 24
3.1.3 テイラー展開 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 25
3.2 ローラン展開 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 28
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第1章 複素数
1.1 複素数1.1.1 ガウス平面複素数平面 Cの元は a = a+ ib (a, b ∈ R)と表されます.a = Re z(実部),
b = Im z(虚部)で表します.|z| =√a2 + b2は zの絶対値とよび,zの原点か
らの距離を表します.極座標表示は
z = reiθ
で表す.r = |z| であり,θ を偏角と呼び,θ = arg z で表します. θ を0 ≤ θ ≤ 2πに制限すると後の議論が窮屈になることがあるので,一般的には制限しませんが,必要に応じて制限する場合には主値とよびます.このことの証明は 2.2.1項で行ないます.
eiθ = cos θ + i sin θ (オイラーの公式)
を満たすことから,2つの間の関係は
• a = r cos θ,b = r sin θ
• r =√a2 + b2
• tan θ = ba または θ = arctan b
a
で与えられます.
• |z − a| = rは a中心,半径 rの円を表す.この場合,z = a+ reiθ と表すとよい.
•∣∣∣ z−az−b
∣∣∣ = c はアポロニウスの円になります.
次のことは容易に確かめられます.
• |z1 · z2| = |z1| · |z2|
• |z1 + z2| ≤ |z1|+ |z2|
• arg(z1 · z2) = arg z1 + arg z2
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1.1. 複素数 3
もう 1つ重要なものに複素共役 zがあります.
• z = a+ ibと表せば,z = a− ib
• z = reiθ と表せば,z = re−iθ
になり,実軸について反転することになります.
• ¯z = z
• z1 + z2 = z1 + z2
• z1 · z2 = z1 · z2
•(z1z2
)=z1z2
などは容易に確かめられます.次の式は不思議な式かもしれませんが,オイラーの公式を認めれば容易に
導けます.
• e2πi = 1
• eπi = −1
• より一般に,enπi =
+1 nが偶数
−1 nが奇数
• eiπ/2 = i
問題 1 次の図の α+ β を計算してください.
O
AB
C
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4 第 1章 複素数
解. A =√10 eiα = 3 + i, B =
√5 eiβ = 2 + iよって
√50 ei(α+β) = (3 + i)(2 + i) = 5 + 5i = 5
√2 eiπ/4
より,α+ β = π4
複素数を用いないならば,∠OCA = 90 ((√5)2 + (
√5)2 = (
√10)2),
∠OAB = β, ∠BAC = αであることから導かれる.
問題 2 (垂直 2等分線) αと βから等距離の点全体は α+β2 を通る垂直 2等分
線であることを示してください.
解. |z − α| = |z − β|より
(α− β)z + (α− β)z = αα− ββ
である.ゆえに
(α−β)(z−α+ β
2)+(α−β)(z − α+ β
2) = αα−ββ−(α−β)α+ β
2−(α−β) α+ β
2
整理すると
(α− β)(z − α+ β
2) + (α− β)(z − α+ β
2) = 0
すなわち(α− β)(z − α+ β
2) = ik
は虚数となる.したがって
(α− β)(α− β)(z − α+ β
2) = ik(α− β)
より(z − α+ β
2) = ik′(α− β)
つまり,z − α+β2 は α− β と直角である.
問題 3 (アポロニウスの円)
|z − α| = k|z − β| (k = 1)
をみたす点は円になることを示してください.
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1.1. 複素数 5
解.
zz − αz − αz + αα = k2(zz − βz − βz +¯β)
より(k2 − 1)zz − (k2β − α)z − (k2β − α)z + k2ββ − αα = 0
一方,γ 中心,半径 rの円は
|z − γ|2 = zz − γz − γz + γγ = r2
であるからγ =
k2β − α
k2 − 1, r2 =
αα− k2ββ
k2 − 1+ γγ
1.1.2 べき級数複素数の数列 anが aに収束するとは
∀ε > 0 ∃n0 s.t. n ≥ n0 ⇒ |an − a| < ε
を満たすことであり,複素数の級数∑∞n=0 an が sに収束するとは
∀ε > 0 ∃n0 s.t. n ≥ n0 ⇒ |s−n∑k=0
ak| < ε
を満たすことです.実数のときと同様に,sが不明なことも多いので,この形で収束を確かめることは難しいことが多いのです.anがコーシー列とは
∀ε > 0 ∃n0 s.t. m,n ≥ n0 ⇒ |an − am| < ε
を満たすことです.実数では anがコーシー列ならば収束する (完備性)ことが仮定されています (実数の公理).まず,複素数全体Cが完備なことを示しましょう.an = bn+ icnと表しま
しょう.
|an − am| = |(bn − bm) + i(cn − cm)| =√(bn − bm)2 + (cn − cm)2
ですから,|an − am| < εならば,|bn − bm| < εかつ |cn − cm| < εです.したがって,m,n ≥ n0 ならば,|bn − bm| < εかつ |cn − cm| < εを満たしま
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6 第 1章 複素数
すから,bnおよび cnはコーシー列になり,実数の完備性よりそれぞれlimn→∞ bn = b,limn→∞ cn = cと極限が存在します.a = b+ icとおくと,
|an − a| ≤ |bn − b|+ |cn − c|
より an は aに収束することがわかり,完備性が示されました.これで,複素数の級数が収束することも
∀ε > 0 ∃n0 s.t. m,n ≥ n0 (m > n) ⇒ |m∑k=n
ak| < ε
を示せば良いことがわかりました.最も重要なのは,べき級数 an = azn の場合です.
m∑k=n
ak = am∑k=n
zk = azn1− zm−n+1
1− z
ですから,|z| < 1ならば収束し,|z| > 1ならば発散することがわかります.証明はちょっと難しいのですが,z = 1でなくても,|z| = 1の場合にも収束しないことがわかります.実際,z = eiθ と表せるので,zn = einθ となり,単位円の上をぐるぐる回ることになります.このことから, θ
π が有理数なら,単位円の上を周期的に回りますから,収束しないことがわかります.無理数の場合でも
N∑n=0
einθ =1− ei(N+1)θ
1− eiθ
より収束しないことが証明できるのです.
1.1.3 べき級数の確認この項の内容は実数の場合と同じである.まず,べき級数 s =
∑∞n=0 an を考えましょう.
定義 1 • sが絶対収束するとは∑∞n=0 |an|が収束することである.
• sが条件収束するとは絶対収束はしないが,∑∞n=0 an は収束すること
である.
この定義は次の定理がないと意味不明になる.
定理 1 絶対収束する級数は収束する.
証明. 絶対収束するのであるから,部分級数∑Nn=0 |an|はコーシー列に
なる.したがって
∀ε > 0 ∃N0 s.t. n,m ≥ N0 (n > m) ⇒n∑
k=n+1
|ak| < ε
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1.1. 複素数 7
をみたす.これより,部分級数∑Nn=0 an もコーシー列になる.なぜなら,
n,m ≥ N0 なら ∣∣∣∣∣m∑
k=n+1
ak
∣∣∣∣∣ ≤m∑
k=n+1
|ak| < ε
だからです.これで部分級数∑Nn=0 an も収束することが示せました.
本命の関数項級数 f(z) =∑∞n=0 anz
n を考えましょう.
定義 2 • f(z)が |z| < rで一様収束するとは,
∀ε > 0 ∃N0 s.t. n ≥ N0 ⇒ |f(z0)−N∑n=0
anzn0 | < ε
がすべての |z| < rで成り立つことである.
• f(z)が |z| < rで広義一様収束するとは,任意の δ > 0について,|z| <r − δで f が一様収束することである.
定理 2 関数項級数 f(z) =∑∞n=0 anz
nについて,ある r > 0(収束半径)が存在して,f(z)は |z| < rで絶対収束かつ広義一様する
rは一般的には1
r= lim sup
n→∞|an|1/n
もし以下の極限が存在するならば1
r= limn→∞
∣∣∣∣an+1
an
∣∣∣∣で得られます.証明はラフに言えば,|an| < C
(r|z|)n
(C は定数)を満たしていることを示すのです.つまり,|z| < rならば公比の絶対値が 1より小さい等比級数で押さえられることを示すのです.これが示せれば,後は「絶対収束する級数は収束する」を用いて証明は完結です.
1.1.4 オイラーの公式と三角関数の公式高校で習った三角関数の公式は複素数のオイラーの公式を用いれば指数法
則に過ぎないことがわかります.例えば,和積の公式
cos(α+ β) = cosα cosβ − sinα sinβ, sin(α+ β) = cosα sinβ + sinα cosβ
ならば
ei(α+β) = cos(α+ β) + i sin(α+ β)
eiα · eiβ = (cosα+ i sinα)(cosβ + i sinβ)
= (cosα cosβ − sinα sinβ) + i(cosα sinβ + cosα sinβ)
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8 第 1章 複素数
であることと,指数法則
ei(α+β) = eiα · eiβ
を考慮して,実部と虚部を比較すれば証明できます.倍角の公式や三倍角の公式などすべて同様に示すことができます.
1.1.5 ベキ乗根の求め方√−1を用いて,虚数 iが定義されました.では
√iはどうなるんでしょう.
実はたいしたことは起きません.i = eiπ/2 ですから,√i =
(eiπ/2
)1/2= eiπ/4 = cos
π
4+ i sin
π
4=
1 + i√2
です.実際 (1 + i√
2
)2
=1 + 2i− 1
2= i
です.もう少し,考えましょう.偏角は 2π を越えても考えますから i =
eiπ/2+2nπi (n = 0,±1,±2, . . .)とおくと,nが偶数の場合と奇数の場合の
√i = eiπ/4+nπi = ±1 + i√
2
と 2つ出てくるのです.実数の場合と異なり,複素数では平方根は 2価関数とみなすことにします.これがわかれば,何乗根でもすぐに出ます.例えば,−1の 3乗根を求めましょう.
3√−1 =
(e(2n+1)πi
)1/3= e(2n/3+1/3)πi = eπi/3, eπi, e5πi/3 =
√3 + i
2,−1,
√3− i
2
と 120度ずつ 3つ現れます.このように n乗根は n個の解が 2πn 間隔で円の
上に並びます.
1.2 初歩の複素関数もっとも簡単な関数 w = f(z)として
• f(z) = z
• f(z) = z + a
• f(z) = bz
• f(z) = 1z
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1.3. 1次分数変換 9
があげられます.これらを見ていきましょう.まず,f(z) = zは恒等写像,つまり何もしない変換です.変換全体を群と考えると単位元になります.f(z) = z + aは平行移動です.a ∈ Cであることに注意しましょう.複素
数平面上で,z を aだけ平行移動することを表します.a = Re a + i Im aと表すと,zを実数方向に Re a,虚数方向に Im aだけ動かすことになります.f(z) = bzは zを b倍することになりますが,b ∈ Cであることに注意しま
しょう.b = reiθ
と表すと,b倍する操作は f1(z) = rzと f2(z) = eiθzの 2つに分けられます.ここで rと θは実数です.
f(z) = f1(f2(z)) = f2(f1(z))
f1(z) = rzは zを r倍する作用を表します.複素数平面全体をすべての方向に r倍することになります.f2(z) = eiθzは zを原点を中心に θ回すことを表します.このとき,|f2(z)| = |eiθ| |z| = |z|,すなわち,長さは変わりません.この 2つの操作は交換できる (可換)ことに注意しましょう.f(z) = z + aとg(z) = bzは交換できません.
f(g(z)) = f(bz) = bz + a, g(f(z)) = g(z + a) = b(z + a)
最後の f(z) = 1z はちょっと複雑です.∞も Cの元とみなす,より正確には,,
Cに無限遠点∞を加えることで 1点コンパクト化をした C = C∪∞を考えると,f は Cの上の関数として,f(∞) = 0,f(0) = ∞とおくことで拡張でき,f : C → Cの 1対 1かつ上への写像となっています.さらに,よく考えると,単位円内 z ∈ C : |z| < 1を単位円外 z ∈ C : |z| > 1への 1対 1かつ上への写像,同様に単位円外 z ∈ C : |z| > 1を単位円内 z ∈ C : |z| < 1 への 1対 1かつ上への写像になっています.もちろん,単位円 z ∈ C : |z| = 1は自分自身への 1対 1かつ上への写像になっています.このことは z = reiθ
とおくとf(z) =
1
re−iθ
であることからチェックできます.偏角がマイナスになっていることから,この写像は単位円で内と外を反転してから,実軸について反転する写像になっています.
1.3 1次分数変換1次分数変換または単に 1次変換ないしはメ-ビウス変換とは
f(z) =az + b
cz + d
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10 第 1章 複素数
と表される変換です.もちろん,a, b, c, d ∈ Cです.この変換は前項の 4つの関数の合成で得られることは容易にチェックできるでしょう.1次分数変換全体は合成について群になります.
f1(z) =a1z + b1c1z + d1
, f2(z) =a2z + b2c2z + d2
について,f1 および f2 に対応して
A1 =
(a1 b1
c1 d1
), A2 =
(a2 b2
c2 d2
)
とおくと,f1(f2(z)) は行列A1A2に対応することがわかります.このことからも,1次分数変換全体が合成について群になることが証明できます.1次分数変換は Cから Cヘの写像と捕らえるよりも,Cから Cヘの写像と
捕らえるのが自然です.そう考えると 1対 1かつ上への写像となります.つまり,
f(z) =az + b
cz + d
ならばf(∞) =
a
c, f
(−dc
)= ∞
と考えればよいのです.
命題 1 1次分数変換は平行移動,回転,反転の 3つの変換の合成で作られる.
証明.
w =az + b
cz + d
ならば,w =
(cz + d)a/c− ad/c+ b
cz + d=a
c+
bc− ad
c2z + cd
であるから
f1(z) = c2z + d, f2(z) =1
z, f3(z) = (bc− ad)z, f4(z) = z +
a
c
とすればf(z) = f4(f3(f2(f1(z))))
で表せる.
命題 2 1次分数変換は円円対応である.すなわち,円を円に写像する,ただし直線は半径無限大の円,もしくは Cで無限遠点∞を通る円とみなす.
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1.3. 1次分数変換 11
証明. 平行移動と定数倍は円を円に移すことは当たり前である.反転について考えよう.円は |z − c| = rであるから,|z − c|2 = (z − c)(z − c)を用いると
zz − cz − cz = r2 − |c|2
と表される.直線も含めるために実数 aを加えて整理すると
azz + λz + λz + b = 0
が円になる.ここで,bは実数で,r2 = |c|2 − b = |λ|2 − b > 0をみたさなければならない.さらに a = 0のとき,直線を表すことは
λz + λz + b = Re(λz) + b = Re(λ)x− Im(λ)y + b
でをチェックできる.ここで w = 1
z とおくと
a
ww+λ
w+λ
w+ b = 0
すなわちbww + λw + λw + a = 0
と円の式になる.b = 0,すなわち原点を通る円は直線に移されることもわかる.
命題 3 1次分数変換は 3点の像 w1 = f(z1), w2 = f(z2), w3 = f(z3)を定めると一意的に定まる.
証明.w − w1
w − w2
w3 − w2
w3 − w1=z − z1z − z2
z3 − z2z3 − z1
が求める 1次分数変換である.
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12
第2章 複素関数
2.1 連続性複素関数w = f(z)が z = aで連続であるとは,実数のときと形式的にまっ
たく同様で
∀ε > 0 ∃δ > 0 s.t. |z − a| < δ ⇒ |f(z)− f(a)| < ε
です.実数との違いは |z− a| < δおよび |f(z)− f(a)| < εが実数では区間であるのに対し,それぞれ a中心,半径 δおよび f(a)中心,半径 εの円になることです.この差は思ったより大きいことに気づくでしょう.
2.2 べき級数,テイラー展開複素数の関数項級数
f(z) =
∞∑n=0
anzn
より一般的には c中心の
f(z) =∞∑n=0
an(z − c)n
を考えましょう.記号が煩雑になるだけなので c = 0の場合だけ議論します.実関数のテイラー展開 (原点中心のときはマクローリン展開ともよぶ)を
考えます.f ∈ CN ならば
f(z) =
N−1∑n=0
f (n)(0)
n!zn +RN
と表せて,RN はいろいろな表現がありますが,よく用いるのは,ある 0 <
θ < 1が存在して
RN =f (N)(θz)
N !zN
と表せます.何回でも微分できる (f ∈ C∞)ならば,任意の長さの表現が得られますが,
limN→∞
RN = 0 (2.1)
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2.2. べき級数,テイラー展開 13
をみたす zについては
f(z) =
∞∑n=0
f (n)(0)
n!zn (2.2)
と表現できます.このとき,r (r = ∞の場合もある)が存在して,|z| < rならば (2.1)が成り立ち,したがって (2.2)が成り立ちます.さらに |z| > rでは (2.2)の右辺は発散します.この rが収束半径です.複素数でも公比の絶対値が 1より小さい等比級数は収束しますから,(2.2)
の右辺は z が |z| < r を満たせば収束することがわかります.これを用いると,実関数を複素関数に拡張する方法が導かれます.f が多項式,例えば実関数 f(x) = x2 などは単にそのまま,実数 xのとこ
ろに複素数 z を入れて f(z) = z2 を実関数の拡張とする,なんてことは言われなくたって当たり前です.関数が無限の関数項級数で表される場合にも,この方法を使いましょう.
2.2.1 指数関数,三角関数指数関数 f(x) = ex のマクローリン展開は
f(x) =∞∑n=0
xn
n!
で,その収束半径は∞です.ということは,複素関数
ez =∞∑n=0
zn
n!
とすればよいことになります.純虚数 z = iθの場合には
eiθ = 1 + iθ − θ2
2!− i
θ3
3!+θ4
4!+ i
θ5
5!− · · ·
となります.三角関数は (cosx)′ = − sinx,(sinx)′ = cosxですから,テイラー展開は
cosx = 1− x2
2!+x4
4!− · · ·
sinx = x− x3
3!+x5
5!− · · ·
で,ともに収束半径は∞です.絶対収束する級数は和の順序の交換ができますから,オイラーの公式
eiθ = cos θ + i sin θ
が導かれました.指数関数だけでなく,三角関数もテイラー展開を用いて複素平面全体に拡
張できます.実数の範囲では | cosx|, | sinx| ≤ 1ですが,複素関数で考えると三角関数は有界になりません.
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14 第 2章 複素関数
問題 4 sin z = 2を解きなさい.
解. sin z = eiz−e−iz
2i であるから,X = eiz とおくと
X − 1
X= 4i すなわち X2 − 4iX − 1 = 0
ゆえにX = 2i+
√−3 = (2±
√3)i
ゆえに
z = −i log(2±√3)i = −i log(2±
√3) +
π
2+ 2nπ (n = 0,±1,±2, . . .)
2.2.2 対数関数,べき関数f(x) =
√xはマクローリン展開 (原点でのテイラー展開)は (
√x)′ = 1
2√x
ですからできません.c = 1でテイラー展開をすると
√x = 1 +
x− 1
2− (x− 1)3
8+
(x− 1)4
16− · · ·
=∞∑n=0
12Cn
(x− 1)n
n!
でその収束半径は 1,つまり,|x| < 1で上の右辺は収束します.ここで,12Cn
は拡張された二項係数で
12Cn =
12 (
12 − 1) · · · ( 12 − n+ 1)
n!
です.これを用いれば,複素平面内の中心 1,半径 1の円内に√xは拡張で
きます.√xは x = 0だけが特異点ですから,ちょっと視点を変えて c = 2で
テイラー展開してみましょう.
√x =
√2 + (x− 2) =
√2 ·√1 +
x− 2
2
=√2
∞∑n=0
1/2Cn
(x− 2
2
)nとなり,収束半径は 2になります.したがって,複素平面内の中心 2,半径2の円内に
√xは拡張できます.ここで問題です.中心 1,半径 1の円内で 2
つの拡張は一致するのでしょうか.すぐには証明できませんが,一致の定理というのがあって,複素関数は可算個の点で価が一致すれば関数自体が一致
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2.2. べき級数,テイラー展開 15
することが示せます (一致の定理).さらに,一般に c = kでテイラー展開をすれば,複素平面内の中心 k,半径 kの円内に
√xは拡張できますから,こ
れを続ければ,複素平面第 1象限と第 4象限に√xは拡張できることがわか
ります.もっと続けましょうか.一致の定理を用いれば,i中心のテイラー展開で
∞∑n=0
an(z − i)n
が中心 1,半径 1 の円内との共通部分で√x と一致するものが見つかれば,
もっと√xは拡張できることになります.実際,収束半径 1のべき級数が得
られます.
問題 5 関数 f(z)の z = 1でのテイラー展開が
f(z) =
∞∑n=0
an(z − 1)n
と表せたとする.このとき,z = iでのテイラー展開∑∞n=0 bn(z− i)nの係数
を求めなさい.
解.
f(z) =∞∑n=0
an(z − 1)n
=∞∑n=0
an((z − i) + (i− 1)
)=
∞∑n=0
an
n∑k=0
nCk(z − i)k(i− 1)n−k
=
∞∑k=0
(z − i)k∞∑k=n
nCkan(i− 1)n−k
より
bk =∞∑k=n
nCkan(i− 1)n−k
先と同様に中心を c = kiにとれば,収束半径は kになります.このことから,
√z は第 1象限,第 2象限,第 4象限へと拡張されました.そこで,c = −1
などでのべき級数と考えれば,同様に,第 2象限,第 3象限へと拡張できます.もう 1回,c = −iなどでのテイラー展開を考えれば,さらに第 3象限から 1
周した第 4象限へと拡張できます.ここで,びっくりすることに c = 1で拡張した
√zと 1周して拡張した
√zは第 4象限では一致しないのです.このこと
は複素関数としては√zは 2価関数であることを思い出してください.c = 1
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16 第 2章 複素関数
での√xでは,
√1 = 1ですし,
√eiθ = eiθ/2 (−π
2 < θ < π2 )ですが,1周す
ると,共通部分の 32π < θ < 2πでは例えば,−π
3 と表すと,√e−π/6i =
√3−i2
ですが, 53πと表すと,
√e5π/6i = −
√3+i2 となってしまいます.つまり,
√z
の値 2つが現れているのです.そこで,これを続けて,再び,c = 1でのテイラー展開,c = i でのテイラー展開,c = −1 でのテイラー展開,最後にc = −iでのテイラー展開を行なえば,もとの
√z に戻ります.
√z を普通の
関数 (1価関数)にするには,原点を共有する複素平面を 2枚考えて,1枚目をぐるっと 1周回ると 2枚目に入って,さらに 1周回ると元の平面に戻るという面を考えればよいことになります.この平面をリーマン面とよびます.3
次元の空間では面がぶつかって実現できませんが,頭の中で想像してみてください.同様に n
√zならば n枚の平面を考えて,n周すると元へ戻ればよい
ことになります.つまり, n√zは n価関数ですが,1つの解w0をみつけると,
残りは wk = w0e2kπ/n (0 ≤ k ≤ n− 1)であることがわかるでしょう.
対数関数 log xもマクローリン展開 (原点でのテイラー展開)は (log x)′ = 1x
ですからできません.c = 1でテイラー展開をすると
log x = (x− 1)− (x− 1)2
2+
(x− 1)3
3− · · ·
でその収束半径は 1,つまり,|x| < 1で上の右辺は収束します.これを用いれば,複素平面内の中心 1,半径 1の円内に対数関数は拡張できます.対数関数も x = 0だけが特異点ですから,
√xと同様に c = kでテイラー展開し
てみましょう.
log x = log(k + (x− k)) = log(1 +x− k
k) + log k
= log k +
(x− k
k
)− 1
2
(x− k
k
)2
+1
3
(x− k
k)
)3
− · · ·
こうすれば,k中心,半径 kの円内に対数関数は拡張できました.こうして,第 1象限と第 4象限に対数関数が拡張できました.前と同じように,ぐるっと 1周すれば z = 0を除くと全平面に拡張できることになりますが,
√zと同
様に第 4象限の値は異なるはずです.ということで,もう 1周してもまた新しい価が出てきます.何周しても新しい値が出てきます.つまり,対数関数は可算個の値をとります.どんな値を取るかを見てみましょう.対数関数は指数関数の逆関数ですから,elog z = zをみたさなければなりません.z = reiθ
と表すと,log(xy) = log x+ log yですから
elog z = elog(reiθ) = elog r+iθ = reiθ
となります.確かに右辺は zに等しいのですが,偏角は 2π異なっていてもよいのです.つまり,θの主値を θ0 (0 < θ0 < 2π)で表すと
log z = r + iθ = r + i(θ0 + 2nπ), (n = 0,±1,±2, . . .)
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2.3. 微分 17
となります.このことは e2nπi = 1であることから確認できます.つまり 1周すると 2πiだけ増えるのです.つまり
• log i = (2n+ 12 )πi (n = 0,±1,±2, . . .)
• log(−1) = (2n+ 1)πi (n = 0,±1,±2, . . .)
などとなります.リーマン面はバネのようにぐるぐると際限なくまわる七夕飾りのようなものになります一般のべき乗 ab を考えてみましょう.a, b ∈ Cの場合にも ab = eb log a で
すから,aの対数を用いましょう.不自然ですが,a = reiθ,b = c+ diと表すと
ab = e(c+di)(log r+iθ) = e(c log r−dθ)+i(d log r+cθ)
偏角 θは可算個の表現がありますから,d = 0かつ cが整数かつ θ0 = 0の場合を除くと無限多価関数になります.言い換えれば rnの場合は一価です.例えば i = eπi/2ですから,c = 0, d = 1, r = 1, θ = (2n+ 1
2 )π (n = 0,±1,±2, . . .)
よりii = e(2n−1/2)π, (n = 0,±1,±2, . . .)
と可算個ありますが,実数になります.
2.3 微分複素関数 f(z)の微分は形式上は実数の場合と変わりません.
f ′(z) = limh→0
f(z + h)− f(z)
h
問題 6 f(z) = zn について,f ′(z)を求めなさい.
しかし,その振る舞いはかなり違います.その理由は h ∈ Cであることです.つまり,h = h1 + ih2 (h1, h2 ∈ R)と表せるので,上の式は
limh1,h2→0
f(z + h1 + ih2)− f(z)
h
と 2つの変数の極限であるので,収束するのはかなり困難であることがわかります.h = reiθ と書くとよりわかりやすく,h → 0は r → 0ですから,θについて一様収束する
supθ
∣∣∣∣f(z + reiθ)− f(z)
reiθ− f ′(z)
∣∣∣∣ことになります.
問題 7 |z|, arg z, Re z, Im z がすべての z ∈ Cについて微分可能でないことを示しなさい.
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18 第 2章 複素関数
実数から収束する場合 (h2 = 0)と虚数から収束する場合 (h1 = 0)を考えましょう.f が微分できるためにはこの 2つの極限が一致しなければなりません.z = x+ iyと表して,f(z) = f(x, y)と実 2変数関数と見ましょう
limh1→0
f(z + h1)− f(z)
h1= lim
h→0
f(x+ h, y)− f(x, y)
h=
∂
∂xf(x, y)
limh2→0
f(z + ih2)− f(z)
ih2= lim
h→0
f(x, y + h)− f(x, y)
ih= −i ∂
∂yf(x, y)
これにより,微分可能ならば,
∂
∂xf(x, y) = −i ∂
∂yf(x, y)
さらに,f(x, y) = u(x, y) + iv(x, y)と 2つの 2変数実関数で表して,実部,虚部を比較すると
∂
∂xu(x, y) =
∂
∂yv(x, y)
∂
∂yu(x, y) = − ∂
∂xv(x, y)
をみたさなければなりません.この式をコーシー ·リーマンの式とよびます.u, vが C2 級ならば,上の式をさらに微分すると
∂2
∂x2u(x, y) =
∂
∂x
∂
∂yv(x, y) =
∂
∂y
∂
∂xv(x, y) = − ∂2
∂y2u(x, y)
すなわち,ラプラシアン∆ = ∂2
∂x2 + ∂2
∂y2 を用いると
∆u = 0 同様に ∆v = 0
をみたし,uと vは調和関数であることが示せました.uが決まれば,定数項を除いて vが決まりますから,uと vは互いに共役な調和関数とよばれます.まとめると,微分可能な関数は実部と虚部が互いに共役な調和関数になっていなければなりません.
問題 8 zは微分可能でないことを上のことから導きなさい.
コーシー ·リーマンの式をみたしても微分可能とは言えませんが,さらに 2
変数関数としての微分可能性 (全微分可能)
f(x+ h1, y + h2) = f(x, y) +∂
∂xf(x, y)h1 +
∂
∂yf(x, y)h2 +R
と表すとき,剰余項が
limh1,h2→0
R√h21 + h22
= 0
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2.4. 等角写像 19
をみたすとき,微分可能になります.少し詳しく述べるならば,全微分可能性から ∀ε > 0について, ∃δ > 0 s.t. |h1 + h2| = r < ∃δならば∣∣∣∣Rr
∣∣∣∣ < ε
をみたし,コーシー ·リーマンの式を用いると
∂
∂xf(x, y)
h1h1 + ih2
+∂
∂yf(x, y)
h2h1 + ih2
=∂
∂xf(x, y)
h1h1 + ih2
+ i∂
∂xf(x, y)
h2h1 + ih2
=∂
∂xf(x, y)
より,√h21 + h22 < δならば∣∣∣∣f(x+ h1, y + h2)− f(x, y)
h1 + ih2− ∂
∂xf(x, y)
∣∣∣∣ = ∣∣∣∣ R
h1 + ih2
∣∣∣∣ =∣∣∣∣∣ R√
h21 + h22
∣∣∣∣∣ < ε
ですからf ′(z) =
∂
∂xf(x, y) = −i ∂
∂yf(x, y)
が示せました.
2.4 等角写像φ : R → Cが,Reφおよび Imφが C1級実関数であるとき,φを滑らかな
曲線とよびましょう.
定理 3 交点 z0を持つ 2つの滑らかな曲線C1, C2を考え,f ′(z0) = 0とする.C1, C2 上に z1, z2 をとる.z1, z2 → z0 のとき,
∠f(z1)f(z0)f(z2)∠z1z0z2
→ 1,|f(z2)− f(z0)|/|f(z1)− f(z0)|
|z2 − z0|/|z1 − z0|→ 1
つまり,z1z0z2とf(z1)f(z0)f(z2)は相似三角形になります.これを等角写像とよびます.
証明. 微分可能性より
f(z1)− f(z0)
z1 − z0= f ′(z0) + ε1,
f(z2)− f(z0)
z2 − z0= f ′(z0) + ε2
とおくと,ε1, ε2 → 0をみたす.したがって,f ′(z0) = 0より
(f(z2)− f(z0))/(f(z1)− f(z0))
(z2 − z0)/(z1 − z0)=f ′(z0) + ε2f ′(z0) + ε1
→ 1
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20 第 2章 複素関数
したがって,∠z1z0z2 = arg
z2 − z0z1 − z0
などに注意すれば証明を終る.
問題 9 f(z) = z2 は z = 0では等角写像でないことを示しなさい.
解. 原点では f は角度を 2倍にする. 逆に,f(z)が偏微分可能で,等角写像ならば f は微分可能であることが
f(z)− f(z0)
z − z0
を考えると,偏微分可能であることから,実軸に沿っての極限の存在がわかり,さらに z → z0 の近づき方によらず一定の値をとることから微分可能性がわかる.
2.5 正則関数f が複素平面の領域Ωで微分可能なとき,f はΩで正則 (解析的,analytic)
という.とくに,Cで正則な関数は整関数とよばれる.ここで,領域とは弧状連結な開集合のことです.
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21
第3章 積分
3.1 線積分Cの滑らかな曲線 z : [a, b] → C を考える.このとき∫
C
f(z) dz =
∫ b
a
f(z(t))dz(t)
dtdt
により,定義します.同じ曲線 Cの別のパラメータ ζ : [c, d] → Cを考えるとある φ : [a, b] → [c, d]で ζ(φ(t)) = z(t)を満たすものを考える.τ = φ(t) で変数変換すると∫ d
c
f(ζ(τ))dζ(τ)
dτdτ =
∫ b
a
f(z(t))dζ(φ(t))
dτdτ =
∫ b
a
f(z(t))dz(t)
dtdt
と定義が well–definedであることが示せました.∫C
f(z)|dz| =∫ b
a
f(z(t))
∣∣∣∣dz(t)dt
∣∣∣∣ dtで定義します.
問題 10∫C|dz|は曲線 C の長さになることを確かめなさい.
問題 11 Cを a中心,半径 rの円を左回りに 1周する曲線とする.このとき,∫C
1
z − adz = 2πi
を確かめなさい.
解. z = a+ reiθ (0 ≤ θ < 2π)とおく.∫C
1
z − adz =
∫ 2π
0
1
reiθireiθ dθ = 2πi
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22 第 3章 積分
問題 12 |f(z)| < M ならば ∣∣∣∣∫C
f(z) dz
∣∣∣∣ ≤ML
を示しなさい.ただし,Lは C の長さである.
解. α =∫Cf(z) dzとおく.∣∣∣∣∫
C
f(z) dz
∣∣∣∣ = e− argα
∫C
f(z) dz =
∫C
e− argαf(z) dz
=
∫C
Re e− argαf(z) dz ≤∫C
∣∣e− argαf(z)∣∣ |dz|
≤ M
∫C
|dz| =ML
f(z) = u(x, y) + iv(x, y)と表すと,複素線積分は実線積分で表すことがで
きます.∫C
f(z) dz =
∫ b
a
f(z(t))dz(t)
dtdt
=
∫ b
a
(u(x(t), y(t)) + iv(x(t), y(t))
)d(x(t) + iy(t))
dtdt
=
∫ b
a
(u(x(t), y(t)) + iv(x(t), y(t))
)(dxdt
+ idy
dt
)dt
=
∫C
u dx− v dy + i
∫C
u dy + v dx
3.1.1 コーシーの積分定理領域Dで F が f の原始関数であるとは,任意の z ∈ Dで F ′(z) = f(z)を
みたすことです.複素平面上の点 z0, z1とそれを結ぶ滑らかな曲線 CがDに含まれるとき,f がDで原始関数 F を持つなら,
∫Cf(z) dz = F (z1)−F (z0)
をみたす.すなわち,積分は始点と終点だけで定まります.変数変換をすると∫C
f(z) dz =
∫ z1
z0
f(z(t))dz(t)
dtdt =
∫ z1
z0
dF (z(t))
dtdt = F (z1)− F (z0)
により証明されます.
補題 1 領域 D 内の z0, z1, z2, z3 を頂点とする長方形 R を考える.ここで,z0z1, z2z3は実軸に,z1z2, z3z0は虚軸に平行とする.f がDで微分可能であれば, ∫
Γ(R)
f(z) dz = 0
ただし,Γ(R)はこの長方形を左回りに 1周する曲線である.
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3.1. 線積分 23
証明. Rを 4分割した長方形をR1, R2, R3, R4とすると,共通部分の積分は消えることから ∫
Γ(R)
f(z) dz =4∑i=1
∫Γ(Ri)
f(z) dz
この 4つの積分のうち最大値をとる長方形を R1 とすると∫Γ(R1)
f(z) dz ≥ 1
4
∫Γ(R)
f(z) dz
R1 をさらに 4分割するなど,これを繰り返して R2, R3, . . .を作ると∫Γ(Rn)
f(z) dz ≥ 1
4n
∫Γ(R)
f(z) dz
を得る.区間縮小法より,∃z∗は∩∞n=1R
nの点とする.f が微分可能であることから,任意の ε > 0について.∃n s.t. z ∈ Rn ならば
|f(z)− f(z∗)− f ′(z∗)(z − z∗)| < ε|z − z∗|
が成り立つ.∣∣∣∣∣∫Γ(Rn)
f(z) dz −∫Γ(Rn)
f(z0) dz −∫Γ(Rn)
(z − z∗) dz
∣∣∣∣∣ < ε
∫Γ(Rn)
|z−z∗| |dz|
ここで,定数は原始関数を持つから∫Γ(Rn)
f(z0) dz = 0,同様に z − z∗も原始関数を持つから,
∫Γ(Rn)
(z − z∗) dz = 0.∫Γ(Rn)
|z − z∗| |dz| ≤ 2
2n× 1
2n
以上より ∣∣∣∣∣∫Γ(Rn)
f(z) dz
∣∣∣∣∣ < ε2
4n
が成り立つ.これより ∫Γ(R)
f(z) dz = 0
が示された.
定理 4 Dを領域で,その内部に長方形を含んでいるものとし,f(z)はDで正則とする.このとき,D内を通る単純閉曲線 C について,∫
C
f(z) dz = 0
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24 第 3章 積分
証明. 回転を考えればよいので,長方形は実軸と虚軸に平行な辺を持つものとして良い.z0 をその左下の点とする.z を長方形内の点とすると,z0と zを対角に持つ長方形を考える.補題 1より,長方形に沿って,z0から z
にいたる道は右回りも左回りも同じ値になる.この値を
F (z) =
∫ z
z0
f(ζ) dζ
と表す.F は偏微分可能で,全微分可能かつコーシー ·リーマンの式を満たすので,正則であり,F ′(z) = f(z)を満たすので,コーシーの積分定理の証明を終る.
3.1.2 コーシーの積分公式定理 5 (コーシーの積分公式) Dを領域で,その内部に長方形を含んでいるものとし,f(z)はDで正則とする.このとき,D内を通る単純閉曲線 C とその内部の点 a ∈ Cについて∫
C
f(z)
z − adz = 2πif(a)
証明. C に含まれる aを中心とする半径 rの円 Γを考える.∫Γ
f(a)
z − adz = 2πif(a)
である.これより∫Γ
f(z)
z − adz =
∫Γ
f(z)− f(a)
z − adz + 2πif(a)
一方,F (z) = f(z)−f(a)z−a は F (0) = f ′(a)とおけば,F は aで連続で z = aで
正則である.aを囲む長方形 Rを考えよう.C を通り 1周してから,Rへ寄り道をして,Rを逆回りして C へ戻る道を考えると,この曲線は aを内部に含まないので,その積分は 0になる.したがって∫
Γ
F (z) dz =
∫R
F (z) dz
をみたす.右辺の積分の絶対値は「Rの周囲の長さ× Rでの F の最大値」より小さい.Rを小さくすると,F は連続であるので f ′(a)に収束し,周囲の長さは 0に収束するので,この積分は 0であることが示せた.また,C から寄り道をして Γを逆回りする積分と Γを回る積分の和を考え
れば ∫C
f(z)
z − adz =
∫Γ
f(z)
z − adz
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3.1. 線積分 25
であるから証明を終る.
定理 6 (リューヴィルの定理) 有界な整関数は定数関数しかない.
証明. |f(z)| < M とする.∀a ∈ Cについて,C を 0, aを囲む半径 Rの円とする.
f(a)− f(0) =1
2πi
∫C
f(z)
z − adz − 1
2πi
∫C
f(z)
zdz
=a
2πi
∫C
f(z)
z(z − a)dz
これより
|f(a)− f(0)| ≤ |a|2π
∫C
∣∣∣∣ 1
z(z − a)
∣∣∣∣ |dz|=
|a|2πR
∫C
1
|z − a||dz|
≤ |a|2πR(R− |a|)
× 2πR =|a|
R− |a|
右辺は R → ∞で 0に収束する.ゆえに f(a) = f(0),すなわち f は定数である.
定理 7 (最大値原理) 領域Dで f が正則なとき,|f(z)|の最大値をDの内部でとることはない.
証明. a ∈ Dで真の最大値をとるとする.aを囲むD内の円 C をとる.
|f(a)| =∣∣∣∣ 1
2πi
∫C
f(z)
z − adz
∣∣∣∣ < |f(a)|2π
∣∣∣∣∫C
1
z − adz
∣∣∣∣ = |f(a)|
は矛盾である.
3.1.3 テイラー展開C を滑らかな単純閉曲線,z を C 内の点とします.C 上で連続な φにつ
いてfn(z) =
∫C
φ(ζ)
(ζ − z)n+1dζ
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26 第 3章 積分
とおきます.ここで φが正則なら f0(z) =1
2πiφ(z)をみたします.φの連続性は線積分の存在を保証します.fn(z)は連続です.帰納法を用いましょう.C 内に z0 を考えます.zも z0
に十分近ければ C 内に入ります.
f0(z)− f0(z0) = (z − z0)
∫C
φ(ζ)
(ζ − z)(ζ − z0)dζ
δ > 0を,z0中心,半径 δの円をとったとき,この円が C 内に収まるようにとります.|z − z0| < δ
2 にとれば,|ζ − z| > δ2 をみたしますから
|f0(z)− f0(z0)| ≤ |z − z0|2
δ22πδ||φ||∞ = |z − z0|
2||φ||∞δ
ですから,f0 は連続であることが示せました.
f0(z)− f0(z0)
z − z0=
∫C
φ(ζ)
(ζ − z)(ζ − z0)dζ
の右辺は φ(ζ)ζ−z0 = ψ(ζ)とすれば,C 上で連続なので,上の結論より,ψ(ζ)
ζ−z =φ(ζ)
(ζ−z0)(ζ−z) の積分は z について,z0 で連続ですから,z → z0 の極限が存在すること,すなわち,f0 が微分可能かつ
f ′0(z0) =
∫C
φ(ζ)
(ζ − z0)2dζ = f1(z0) (3.1)
が成り立つことが示せました.一般に
fn(z)− fn(z0) =
∫C
(ζ − z0)φ(ζ)
(ζ − z)n+1(ζ − z0)dζ −
∫C
φ(ζ)
(ζ − z0)n+1dζ
= (z − z0)
∫C
φ(ζ)
(ζ − z)n+1(ζ − z0)dζ
+
[∫C
φ(ζ)
(ζ − z)n(ζ − z0)dζ −
∫C
φ(ζ)
(ζ − z0)n+1dζ
](3.2)
前項は z → z0 で 0に収束し,後項は φ(ζ)ζ−z0 = ψ(ζ)とすれば,後項は∫
C
ψ(ζ)
(ζ − z)ndζ −
∫C
ψ(ζ)
(ζ − z0)ndζ
なので,fn−1(z)− fn−1(z0)の形ととみなせ,帰納法の仮定により,fn−1は連続であるので,右辺は z → z0で 0に収束し,したがって,fn(z)は連続であることがわかります.さらに.fn(z)は微分可能で
f ′n(z) = (n+ 1)
∫C
φ(z)
(ζ − z)n+2dζ = (n+ 1)fn+1(z)
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3.1. 線積分 27
です.再び,帰納法です.n = 0のときは (3.1)に示しました.まず,(3.2)の両辺を z−z0で割ります.その右辺の後項は上に述べたように fn−1(z)−fn−1(z0)
の形ですから,帰納法の仮定により,fn−1(z)は微分可能ですから
limz→z0
fn−1(z)− fn−1(z0)
z − z0= f ′n−1(z0)
は存在します.ここで帰納法の仮定により
f ′n−1(z0) = n
∫C
ψ(ζ)
(ζ − z0)n+1dζ = n
∫C
φ(ζ)
(ζ − z0)n+2dζ = nfn+1(z)
右辺の前項は z → z0で∫C
φ(ζ)(ζ−z0)n+2 dζ = fn+1(z0)に収束することから,前
項と後項を足し合わせて,fn(z)は微分可能であり,その値は
f ′n(z) = (n+ 1)
∫C
φ(ζ)
(ζ − z0)n+2dζ = (n+ 1)fn+1(z)
であることがわかりました.
定理 8 Dで正則な関数 f(z)は何回でも微分できて,
f(z) =∞∑n=0
(z − z0)n
2πi
∫C
f(ζ)
(ζ − z0)n+1dζ
ここで,C は z0 中心のD内の円で zは C の内部にあるものとする.
証明. すなわち
f (n)(z) =n!
2πi
∫C
f(ζ)
(ζ − z)n+1dζ
である.このことは上の φに f を代入すれば,帰納的に導かれるので,何回でも無限回微分できる.さらに,収束半径内では一様収束するので
f(z) =1
2πi
∫C
f(ζ)
ζ − zdζ
=1
2πi
∫C
f(ζ)
(ζ − z0)− (z − z0)dζ
=1
2πi
∫C
f(ζ)
(ζ − z0)(1− (z − z0)/(ζ − z0))dζ
=1
2πi
∫C
∞∑n=0
f(ζ)
ζ − z0
(z − z0ζ − z0
)ndζ
=∞∑n=0
(z − z0)n 1
2πi
∫C
f(ζ)
(ζ − z0)n+1dζ
Page 28
28 第 3章 積分
系 1 (一致の定理) すべての微分 f (n)(z0) = 0ならば f(z) ≡ 0である.
系 2 (一致の定理) znが z0 ∈ Dに収束し,Dで正則な f(z)が f(zn) = 0
ならば f(z) ≡ 0である.
証明. f が恒等的に 0でないとする.z0 でテイラー展開すると,∃k s.t.
f(z) = (z− z0)kg(z)かつ g(z0) = 0であるようにできる.g(z)は正則である
ので,z0の近くで 0にはならない.すなわち 0点は孤立している.これは矛盾である.
3.2 ローラン展開定理 9 (ローラン展開) f が r1 < |z − a| < r2 で正則とする.C1 を a中心,半径 r1の円,C2を a中心,半径 r2の円をそれぞれ左前に 1周する曲線とする.このとき,
f(z) =∞∑
n=−∞cnz
n
と展開できる.
証明. 仮定より ∫C1
f(ζ) dζ =
∫C2
f(ζ) dζ
が成り立ちます. f(ζ)−f(z)ζ−z は ζ = zで f ′(ζ)とおけば正則関数になる.その
ことからもf(z) =
∫C2
f(ζ)
ζ − zdζ −
∫C2
f(ζ)
ζ − zdζ
であることがわかる.C2 は特異点 zを内部に,C1 は外部に持っていることからもわかる.右辺第 1項からはテイラー展開
第 1項 =
∞∑n=0
cn(z − a)n, cn =1
2πi
∫C2
f(ζ)
(ζ − a)n+1
が得られる.第 2項は 1z−a = x, 1
ζ−a = ξとおくと,ξは半径 1r1で原点を右
回りに 1周する.この円を C ′1 と表そう.
1
ζ − z= − 1/(z − a)
1− (ζ − a)/(z − a)= − x
1− x/ξ, dζ = −dξ
ξ2
であるから,f(ζ) = g(ξ)と表すと
−∫C1
f(ζ)
ζ − zdζ =
∫C′
1
xg(ξ)
(ξ − x)ξdξ
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3.2. ローラン展開 29
を得る.これもテイラー展開
第 2項 =
∞∑n=0
bnxn+1, bn =
1
2πi
∫C′
1
g(ξ)
ξn−2dξ
できることになる.c−n−1 = bn とおけば,第 1項,第 2項を合わせると
f(z) =∞∑
n=−∞cn(z − a)n
を得る. c−1 を aにおける留数という.この式から n = 0とおけば
定理 10 (留数定理) f が r1 < |z − a| < r2 で正則とする.C がこの円環領域を 1周するとき ∫
C
f(z) dz = 2πic−1
領域 Dと a ∈ Dを考えましょう.r > 0が存在して,この円内で aを除き,正則なとき,aを孤立特異点といい,f(a)を適当に定めれば正則になるとき,除ける特異点といいます.
補題 2 aを fで正則でないが,aを除いた領域で正則かつ limz→a(z−a)f(z) =0ならば.aは除ける特異点である.
証明. a中心のローラン展開を考えると cn = 0 (n < 0)が導かれるので,f は正則になる. z = aのある近傍で aを除き正則となるとき,aは孤立特異点といいます.
孤立特異点 aに対して,limz→a
f(z) = ∞
ならば有理特異点といいます.この場合,
g(z) =1
f(z), g(a) = 0
とおいて,g のローラン展開を考えれば,g が aで正則であることがわかります.
g(z) =∞∑n=k
cn(z − a)n
とテイラー展開ができ,このとき,aを k位の極をもつといいます..つまり
f(z) =∑
n=−k−1
ck(z − a)k
と表されます.有理形でない特異点を真性特異点といいます.