Bib J124- 127PBib_124–133_pt2_.indd 127 6/21/06 1:49:58 PM 1.嫉妬に駆られた兄弟たちはヨセフの殺害を たくらむが、ユダが説得して、奴隷として隊商

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第 2章　創世記から族長時代まで

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ヨセフと家族イスラエルは、ヨセフが年寄り子であったので、どの息子よりもかわいがり……（創37:3）

創 世記37-50は「ヨセフの物語」と呼ばれることが多いが、この呼び方は必ずしも

正しくない。第37章 2節で明確にされているように、これはヤコブの家族（ヘブライ語では「ヤコブの子孫たち」）の物語なのである。物語の中心人物はもちろんヨセフだが、ヨセフの兄弟たちと父ヤコブも主要な役を演じる。創世記37-50は、「短編小説」と呼ばれるほど、上質の物語としての要素をすべて備えている。善人と悪人の登場人物、イスラエルの一介の民が国際的舞台で成功を収める物語（シンデレラストーリーと呼ぶ者もいる）、繰り返されるたくらみと劇的な危機、そして説得力のある結末。けれども、この物語の最大の特色は、これらの要素が縒り合わされ、この世界への神の関わり方についての神学的「トーラー」（教え）を見事に形成しているというところにある。物語の起源はおそらく古代に遡るが、現在のテキストは、のちのバビロン捕囚前後に活動した神学的意識を持った執筆者たちが注意深く手を加えた結果を反映している。

ヤコブ一家のいがみ合い　創世記37では、主要人物が次々と紹介されるが、読みすすめていくと、はたしてこれから起こるもめ事は誰のせいなのかと、少し首をかしげたくなる。第37章 2節で、羊飼いの少年ヨセフは、兄たちのことを父に告げ口するが、ヨセフは本当のことを言ったのだろうか。それとも話をでっち上げたのだろうか。聖書の文章からは分からない。　 3節で、ヨセフを溺愛するイスラエル（ヤコブ）は、この息子のために晴れ着を作ってやる。この晴れ着を表すヘブライ語は、サムエル記下13:18で

ダビデの娘である王女の上着を指すときにも使われている。かつては「多彩な色の上着」と訳されていたが、現代の聖書翻訳者は「裾の長い晴れ着」と訳している。この晴れ着は、のちにヨセフがファラオの恩寵を受けることをあらかじめ示唆するものなのだろうか。　もう少し短い文脈の中で疑問を探すなら、ヨセフをこれほどひいきするヤコブは軽率すぎるのではないか、と思われてくる。実際 4節で、兄弟たちは、ヨセフに対する父親のこの態度ゆえに、揃ってヨセフを憎むようになっている。兄弟たちの怒りは弟にではなく父親に向けられてもおかしくなかったかもしれない。だが兄弟たちは、ヨセフが受ける溺愛が、この大家族（イスラエルの12人の息子）の中での自分たちの立場を脅かすと考えたのだろう。ヤコブが他の兄弟よりもヨセフをかわいがったのは、 2節に書かれているヨセフの告げ口の中身のせいだった、ということも考えられる。

ヨセフの夢　ヨセフの少年期の一連の出来事は、 3段階で記述されている。最初はヨセフの告げ口、次が晴れ着、そしてヨセフの夢の話が語られる（創39:5-11）。古代の人々は、夢は神が自らの意図を伝える手段であると考えることがよくあった。もしそうなら、ヨセフの夢は、神が、ほかの兄弟たちとは違い、ヨセフのために特別な意図を持っていることを示しているはず

〔下〕バルトロ・ディ・フレーディによる14世紀のフレスコ画。将来を予見するヨセフの夢を聞いた兄弟たちは、自分たちがヨセフに従うことになるという意味だと解釈する。

聖書の物語を演じる

　聖書は、物語を余すことなく記録しているのではなく、概略あるいは要点を述べていることが多い。古代の執筆者にとり、すべてを逐語的に記録するのは、大変すぎたからである。筆記は、費用と時間のかかる大事業だった。イスラエルの民の語り手たちは、書かれた物語を、実際に生き生きと演じて見せた。ときには細部を付け加えて曖昧な部分を明確にしたり、一部を隠して聞き手の興味を掻き立てて物語に引き込んだりもした。イスラエルの語り手たちは、物語の筋を 3段階で展開することを好んだ。

〔右〕羊を守るヨセフのレリーフ像。サン・ゲナロ・ドゥオーモ（ナポリ）。ふつうの羊飼いとして過ごしたヨセフの少年時代は、その後の偉大な人生と明確な対照をなす。

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ヨセフと家族

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である。作物の束についての最初の夢は、ヨセフが他の兄弟たちより優れていることを、また太陽と月と星についての 2番目の夢は、ヨセフが家族全体よりも優れていることを暗示している（母親のラケルはすでに死んでいるので、この月が誰を指しているか明らかではない）。物語の筋立てから言えば、この二つの夢はこれから起こる出来事の前兆となっている。中心人物たちの人間関係は、さらに険悪になっていくのである。兄弟たちはヨセフにはっきりとした敵意を抱き、ヤコブでさえもヨセフを叱責する。何かが起こらざるをえない状況の中、続く数節で、兄弟たちの嫉妬が抑えきれなくなり、ヨセフを殺す計画が練られる様子が語られる。

ヨセフ殺害のたくらみ　ヨセフを始末しようとする兄弟たちのたくらみは大失敗に終わる。最初は殺す計画だったが、ルベンとユダが計画を変えさせ、通りかかったイシュマエル人に売りつけることにした。この部分、創世記37:28は、様々に解釈されている。兄

弟たちは通りかかったイシュマエル人／ミディアン人の隊商にヨセフを売ったとする解釈を採る者が多いが、最近は、通りかかったミディアン人が兄弟たちを出し抜いて、放り込まれていた穴からヨセフを引き上げたとする説もある。このヨセフの「脱出」は、偶然なのだろうか、それとも神の不可思議な手によるものなのだろうか。聖書に描かれる物語の多くがそうであるように、人間の悪から、なにがしかの善きことが生じている。ルベンとユダは「虐げられた人々」への連帯と同情という面を見せる。このテーマは、ヨセフの物語の中でのちにあらためて展開される。

消えないヨセフの存在感　創世記37の最後のエピソード（37:31-35）は、ヨセフの面影をなんとか消し去ろうと別のたくらみを練る兄弟たちを描く。ヨセフを始末する計画は大失敗に終わったが、兄弟たちは、ヨセフが死んだことにして、家族からヨセフの記憶を消し去ろうと計画する。だが、これもみじめな失敗に終わる。

〔下〕ドン・オーギュスタン・カルメ『聖書事典』（1732年）に描かれたヨセフの穴の図解。ヨセフを始末するたくらみを変更した兄弟たちは、彼を穴に投げ込んだ。

〔上〕バルタサル・ベシェイ『ヨセフの晴れ着を見るヤコブ』。殺害計画の失敗後、兄弟たちはヨセフの不在の言訳のため、ヨセフの晴れ着に山羊の血をつけた。

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1.嫉妬に駆られた兄弟たちはヨセフの殺害をたくらむが、ユダが説得して、奴隷として隊商に売ることにする。

2.奴隷となったヨセフはポティファルに仕える。

3.ヨセフは無実の罪で監獄に。ファラオに仕えていた二人の囚人の夢を正しく解釈する。

4.ファラオが夢に悩まされ、その解釈のため監獄からヨセフを呼び出す。

5.ヨセフの見事な夢解釈と賢明な助言に感銘を受けたファラオは、エジプトを預言された飢饉に備えさせる仕事をヨセフに命じる。

6.ヨセフの計画によりエジプトは前もって飢饉に備えたが、周辺諸国は飢饉にうまく対応できなかった。

ネ ゲ ブ

シュルの荒れ野

アラバ

エ ジ プト

ゴ シェ ン

シ ナイ

地 中 海

死海

ガリラヤ湖

ヨルダン川

ナイル川

ベエル・シェバ

ベテル

ドタン

ガザ ヘブロン

エルサレム

カデシュ・バルネア

メンフィス（ノフ）

ヘリオポリス（オン）

ラメセス

シケム

ツォアン

ラバ

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100 km0

エジプトに至るヨセフの経路

エジプトに至るヨセフの経路

30°

30°

紅海

地中海

シリアキプロス

イスラエル

レバノン

エジプト

ヨルダン

第 2章　創世記から族長時代まで

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山羊の血の付いたヨセフの晴れ着を見せられたヤコブはこれに騙されてしまう。しかし、とても皮肉なことに、ヤコブがいつまでも嘆き悲しんだために、かえってヨセフの存在と、高められたヨセフの立場が、兄弟たちの記憶に刻まれることになった。ヨセフは肉体的には不在だったが、彼が象徴するものはすべて、存在し続けたのである。

エジプトでのヨセフ　物語の次のエピソードは、大帝国エジプトでのヨセフとそ

の成功を語る。第37章と同じく、ここでも物語は 3段階で展開する。最初はファラオの侍従長ポティファルの家に雇われたヨセフの物語（第39章）。 2番目はファラオの監獄での給仕役の長と料理役の長の夢の解釈の物語（第40章）、最後は、エジプト人が誰もできなかったファラオの夢の解釈の物語（第41章）である。

ユダとヨセフの対比　旧約聖書の編者は、エジプトでのヨセフの話の前に、ヨセフの兄弟ユダの物語を挿入している（第38章）。これは、創世記37-50が単にヨセフの物語ではなく、ヤコブ一族の物語である証拠の一つと言える。ここで、息子の嫁のタマルに対するユダの接し方と、第

39章でポティファルの妻に対するヨセフの接し方とは、はっきりとした対比をなす。ユダは気遣いに欠け、行き過ぎがあったのに対し、ヨセフは監獄につながれることも厭わず、気高く厳格な対応をした。しかしユダにとっても、悪いことばかりではなかった。最後にはタマルはユダに劇的な変化をもたらしたのである。おそらくこれは、のちにエジプトでユダの振る舞いが変わる前兆として描かれている（創44:18-34）。　創世記39の重要性の理由はもう一つある。ここで初めて、ヨセフの運命を神が導いていることが強調されるのである。第37章では暗黙のうちに示されていたにすぎなかったことが、ヨセフの冒険のうちで最も厄介で危機的なこの局面で明確に示される。かつては、ヨセフの殺害を計画した兄弟たちによって穴に投げ入れられたが、エジプトに下ったヨセフはまた別の落とし穴に落とされようとしている。彼の旅は破滅へと向かっているように見える。しかしここで聖書の文章は、「主がヨセフと共におられた」ことを強調する（創39:2, 3, 21,

23）。神と共にあり、行いの正しいヨセフが、最後にはことを成し遂げるのである。

夢の解釈　創世記40で、宮廷の給仕役の長と料理役の長がファラオの不興を被り、監獄に入れられる。そしてヨセフが二人の世話を命じられる。このエピソードは、二つのテーマを器用に組み合わせている。第一のテーマは、人間の目から見て、エジプトのヨセフはまったく無力な立場にいる、ということを強調する。監獄の奥深くにいて、古代世界最強の国の最強の人物である王に仕えるものに、さらに仕えている。給仕役と料理役の今後の運命は、ファラオの気まぐれに委ねられている。もう一方のテーマは、エジプト人が持たず、ヨセフが持っている一つの力―夢を解釈する力―を強調する。ヨセフの言葉によれば、夢の解き明かしは「神がなさること」（創40:8）であり、ヨセフが役人たちの夢をうまく解き明かせたのは、第38章で繰り返し述べられたように、神がヨセフと共

〔下〕給仕役と料理役の夢を描いたモザイク画。ヨセフによる二人の夢の解釈は、それぞれまったく違った未来を予言する。

〔右頁〕フアン・ウルチ『ヨセフとポティファルの妻』。誘いを拒絶されたポティファルの妻―「袖にされた女」―は、ヨセフを罪に陥れる。

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ヨセフと家族

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