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2.3. 我が国の花き⽂化の国内外発信
2.3.1. 欧⽶と⽇本の花の市場は何が違うのか︖
欧⽶は国産切り花が衰退〜季節感の薄い切り花市場
⽶国の切り花市場では上位 3 品⽬が 80%を占める〜それが輸⼊に変わった
⽶国の切り花市場では上位6品⽬で全流通量の90%を占める。上位6品⽬の内訳は、バラ、カーネーション、キクで
80%(気候が⼀定の中南⽶の熱帯⾼地からの周年輸⼊)、国内⽣産のチューリップ、ガーベラ、ユリで 10%。1980
年代に⽶国の花き⽣産業者が南⽶コロンビアに移住し安価な切り花の輸出開始。アンデス諸国からの農作物輸⼊関税が撤廃された 1991
年以降は急増し、切り花の上位 3
品⽬はほぼ全量輸⼊で国内⽣産は崩壊した。なお、検疫上持ち込むことができない「⼟」がついている鉢植えについては、⽶国内で⽣産・供給されている。
ヨーロッパの切り花⽣産会社はアフリカ⾼原部に投資し通年⽣産拠点を移転
イギリス資本によるケニア⾼原部(気候が⼀定)でのカーネーション周年⽣産が 1970年代から開始。1980
年代からバラも⽣産。輸⼊量が拡⼤し 2000
年以降にオランダの花市場から供給されるようになるとオランダの切りバラ⽣産会社は⽣産拠点をケニアに移転。2003
年以降にエチオピアやジンバブエでも切りバラ⽣産が急増、2007年以降にヨーロッパ域内での⽣産は減少した。⽶国と同様に、鉢植えは欧州内で⽣産されている。
⽇本は国産切り花のシェアが維持されている
輸⼊が増えている上位品⽬(周年⽣産)の⽐重が低く季節性切り花の⽐重が⾼い
⽇本を含む東アジアは欧州に⽐較して植物相が豊富(⾃⽣する植物 7,000 種以上)である。ヨーロッパの植⽣は薄く、⽇本の 1/4
に当たる 1,600 種程度である。98
この豊かな植物相のため、⽇本⼈は⽂化として「植物で季節感を感じる」感性が強くなったと考えられている。これを反映して、流通する切り花の種類も⾮常に多く
120種以上と多様である。上位 6 品⽬が占める⽐重は 54%程度。その他の
46%には「季節性」のある切り花が多いのが特徴。⽇本市場でも上位品⽬である通年供給のカーネーションやバラは輸⼊品が増えつつあるが、季節性のある切り花は国産が強い。
98
これは最終氷河期の後に南⽅から植物が北上する際に、アルプスとピレネー⼭脈を越えられなかった影響と⾔われている。(『⽇本の花き園芸光と影』、ミネルヴァ書房、2016)
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⽇本の切り花市場は「季節感」がキーワード
今後、⼀層国際化が進む⽇本の切り花産業の将来を考える上で、「季節感」の重要性は増す。季節性のない輸⼊切り花によって、切り花⽣産基盤がなくなってしまった⽶国や、徐々に衰退しつつあるヨーロッパとは異なる道を進むには、⽇本の花き⽂化にもともと備わっている「季節感」を付加価値=売り物として評価し、それを産業の特徴として強化することが重要と考えられる。
まずは、国際流通に乗りにくい、旬の「季節感」のある切り花の⽣産で地場の花と輸⼊品との差別化を進めることが考えられる。「輸⼊」か「国産」か、「国産」ならばどこの「産地」なのか、「⽣産者は誰か」といった産地・⽣産者ブランドによる差別化(価格に差をつけること)を積極的に進めることが、⽇本の「花き⽂化」の感性を⾼めることにつながる。
「⽇本の切り花は⾼い」と⾔われており、それが需要の縮⼩を招いているという⾒⽅がある。問題は「⾼い」ことではなく「割⾼感」である。販売店レベルで鮮度認証を得ることや産地ブランドが浸透していないことから明らかなように、花の鮮度やブランド情報を消費者に⽰しておらず、そのことが「割⾼感」の原因となっている。
⽣鮮品である⾷⾁は当然のことながら加⼯⽇・消費期限が表⽰されている。鮮度は⼀⽬でわかる。その上で、「国産」と「輸⼊(原産国)」の表⽰があり、「国産」の⽅が⾼い。⾼いから国産が売れなくなってしまうということはなく、消費者は⽤途によって国産⾁を選択するのである。国産⾁の中でも、産地ブランドや有名な⽣産者ブランドが表⽰されているものはさらに⾼い。それでも、そのブランドは「美味しい」ということで、⾼くても売れる。したがって、産地や⽣産者はブランド価値を⽀える品質の向上/維持に極めて熱⼼である。
2.3.2. 花き輸出の将来
盆栽/植⽊の輸出 盆栽の輸出額 120 億円(2018 年)。中国(72 億円)、ベトナム(29 億円)、⾹港(5
億円)、台湾(4 億円)、イタリア(2 億円)、その他(8 億円)。国内需要は減少しているが、輸出は伸びている。
EU
での⼈気は根強いが検疫、線⾍対策の徹底が必須であり、急激な拡⼤は難しいと考えられている。また、世界的によく知られた盆栽の産地である⾹川県産の主⼒である「⿊松」は、害⾍のリスクがあり規制されている。
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⾼付加価値輸出
国際的な品種コンテストでの⼊賞
我が国の花きは、国際的に⾼い評価を得ている。
2012 年にオランダで開催された国際園芸博覧会(フロリアード
2012)における品種コンテストで⾮常に多くの⽇本産花きが受賞した。⽇本産花きの7品種が⼀席、4品種が⼆席、4品種が三席を受賞、また、展⽰された⽇本産花きがオランダ王国政府代表賞「フロリアード
2012 で最も美しい花々」を受賞した。
その後、トルコ・アンタルヤ市において開催された「2016
年アンタルヤ国際園芸博覧会」に、⽇本も参加。会期中は、⽇本政府出展屋内展⽰に約 16
万⼈が訪れ、同展⽰は屋内展⽰部⾨において「⾦賞」を受賞。また、コンテストでは、多くの⽇本産花きが、最⾼得点の獲得を含め⼊賞するなど、我が国の花きは、国際的に⾼い評価を得ている。
直近では、2019 年の北京国際園芸博覧会で⾏われた AIPH
の屋外出展コンテストにおいて、⽇本国として出展した「⽇本庭園」が、国際庭園部⾨の中で英国、ドイツ、カタール等とともに⼤賞を受賞した。
中国、⾹港、シンガポールへの⾼級品としての輸出
中国、⾹港、シンガポールへの⾼品質の⾼級品としての輸出は根強い⼈気がある。
ただし、鉢物の中で、過去にシンビジウムの中国への輸出があったが(宮崎県産を中⼼に 30 万鉢、2005
年)、当時の中国は「植物の新品種の保護に関する国際条約」(UPOV)を批准しておらず、無断増殖栽培が⼤量に⾏われたこと、⽇本の出荷ピークと中国の春節が時期的にずれることなどが障害となり伸びなかった。
利⽤許諾権の輸出/知的財産権ビジネス
⽇本国内で⽣産された花き製品は⾼級品として知られ、今後も根強い輸出需要が望まれている。しかしながら、国際競争⼒という観点から⾒れば、切り花や鉢物そのものではなく、今後は、知的財産権である育成者権に基づく海外での栽培許諾権の輸出が重要となる。⽇本国内の⽣産コストは⾮常に⾼く、交易条件としてみると、海外市場でボリュームゾーンを獲得するような輸出はかなり難しい。
⾹川県による先進事例〜ライセンス・ビジネス
⾹川県は、県育成のカーネーション「ミニティアラ」シリーズの2品種について、オランダの⼤⼿種苗会社
ヒルベルダ・コーイ社と、海外で苗を⽣産・販売する5年間
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の利⽤許諾契約を締結した(2014 年 1 ⽉ 17
⽇)99。利⽤許諾品種は「ミニティアラコーラルピンク」と「ミニティアラライラック」の2品種。利⽤国は欧州連合(EU)、ケニア、コロンビア。海外市場での販売により、⾹川県のオリジナル品種の国際的評価が⾼まり、国外だけでなく国内需要が⼀層拡⼤することが期待されている。
2.3.3. 花き⽂化の国内外への発信
国内への発信
国内向けのプロモーション活動は「花の国⽇本協議会」によるものが知られている。その主な活動には、以下のものがある。
花の国⽇本協議会 FLOWERING JAPAN によるプロモーション活動 (1) フラワーバレンタイン(2010
年から継続)
「フラワーバレンタイン」は 2 ⽉ 14
⽇のバレンタインデーに、男性から⼥性へ花を贈る⽂化を社会に浸透させるための業界統⼀キャンペーン。
花業界の有志で組織された⼀般社団法⼈花の国⽇本協議会(FJC/旧フラワーバレンタイン推進委員会)では、この活動趣旨に賛同する⽣花店、企業、団体からの会費・協賛⾦をもとに、販売をサポートするツールや情報の提供を⾏うほか、花き業界から情報発信のためのイベントやキャンペーンを展開している。
(2) WEEKEND FLOWER︓ホームユースの開拓 週末を素敵に過ごすための「WEEKEND
FLOWER」企画を⾏っている。⽇本最⼤級の料理ブログポータルサイト『レシピブログ』と連動し「花のある素敵な⾷卓提案」を展開。花購⼊習慣化のきっかけ作り、花の扱い⽅や⽇持ちの啓蒙、家庭内における⼦供への花育効果が期待される。
(3) 地域イベント・販促プランニング • 愛知県花きイノベーション地域協議会による「あいちの花」PR 活動のサポート •
フラワーバレンタインイベントにて東京都花き振興協議会とコラボレーション (4) 市場調査・分析の実施 • 【全国花店調査】全国花店
455 店が協⼒「カスミソウアンケート」 • 【消費者意識調査】全国男⼥ 1000 ⼈の花贈り意識調査「花と恋愛の相関図」 •
【消費者アンケート】フラワーバレンタイン意識・購買⾏動調査(2011 年より
継続)
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https://www.hilverdakooij.com/en/cut-flowers/sparkz/cornet#mini-tiara-baby-pink
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国外への発信
我が国の花き⽂化について、国際園芸博覧会への出展や各種⾒本市などへの出品を通じて、海外向け発信が⾏われている。
過去の国際園芸博覧会における⽇本の経験/出展事例︓
⽇本の主な出展事例︓
• 昆明世界園芸博覧会 1999(中国) • ジャパンフローラ 2000 • フロリアード 2002(オランダ) •
パシィフックフローラ 2004(⽇本・静岡県) • ロイヤルフローラ・ラチャプルック 2006(タイ王国) •
アンタルヤ国際園芸博覧会 2016(トルコ) • 北京国際園芸博覧会 2019(中国)
2019 年の北京国際園芸博覧会で⾏われた AIPH
の屋外出展コンテストにおいて、⽇本国として出展した「⽇本庭園」が、国際庭園部⾨の中で英国、ドイツ、カタール等とともに⼤賞を受賞した。
全国花き輸出拡⼤協議会(JFPEA)による輸出プロモーション活動事例
全国花き輸出拡⼤協議会(JFPEA)は海外での花き産業関連の国際展⽰会/⾒本市に出展し、⽇本の花きについてプロモーション活動を実施している。最近の出店実績は以下の通り。
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表 27 輸出プロモーション活動例 イベント開催場所 イベント名/開催時期 Ho Chi Minh, Vietnam
Vietnam Agritech Expo 19-22 Jun 2019
Phu Tho Indoor Sports Stadium, ベトナム ホーチミン市
Nantes, France The 12th of the International Floralies - Nantes
May 8th to 19th, フランス ナント 国際フローラリー 5/8-19
Beijing, China The International Horticultural Exposition 2019,
May 7 - 22 2019 北京国際園芸博覧会 延慶(Yanqing:ヤンチン)5/7-22
China Shanghai 上海古北花世界(花市場) Floral world commercial plaza From
on Nov 30 to Dec 2
Turkey Eurasia Plant Fair (Flower Show Istanbul) 22 - 24
November 2018
Holland IFTF International Floriculture Trade Fair Wednesday
Nov. 7 - Friday Nov.9
Viet Nam, Ho Chi Minh city
Japanese BONSAI, Agritech Vietnam 2018, booth No.A66-67 Venue:
Saigon Exhibition and Convention Center (SECC) July 26th - 28th
2018
USA Washington, D.C The AIFD 2018 National Symposium Washington,
D.C at Marriott Wardman Park
Autralia Melbourne International Flower & Garden Show at
ROYAL EXHIBITION BUILDING & CARLTON GARDENS From on March 21 –
to March 25, 2018
US Seattle AIFD National Symposium "X" American Institute of
Floral Designers July 1-5,2017
USA The PHS Philadelphia Flower Show 2017 March 11-19,2017
Germany IPM ESSEN 2017 - the worldʼs leading trade fair for
horticulture January 24-27,2017
出所︓全国花き輸出拡⼤協議会(JFPEA)ホームページ