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65 植物防疫 第 73 巻第 11 号(2019 年) 農研機構野菜花き研究部門花き生産流通研究領域は茨 城県つくば市にあり栽培生理ユニット生産管理ユニ ット品質制御ユニットの 3 ユニット体制で花きの生理 特性に基づいた効率的かつ安定的な生産技術病害の防 除技術切り花の日持ちの延長や香りを対象にした品質 向上技術を開発するとともに花きがヒトに与える効果 に取り組んでいます。そのうち生産管理ユニットには 栽培分野 3 名と病害分野 2 名の研究員が所属しています。 この植物病害研究者 2 名が組織上国立研究開発法人で 唯一の花き病害担当者という位置づけになっています。 花き類は品目が多種多様でありかつ作型も多様であ るため安定生産を阻害する病害も非常に多くなり2 の担当者ですべてをカバーすることは不可能です。した がって生産管理ユニットの病害担当者は全国の病害関連 組織と協力しながら視野を広くもち農研機構唯一の 花き病害担当として全国の花き病害に関する研究ネット ワークのハブとなるべく日々努めています。 国内の花き生産現場では近年の異常気象や燃油・生 産資材の高騰等により安定的に花きの生産を行うことが 難しくなってきています。さらには切り花類の輸入が 増加し続けているため国内の花き生産に影響を及ぼし ています。これらコスト増栽培環境の変化輸入花き 花きの生産を行っていくうえでの多くの困難を乗り 越え日本の花き生産の振興を図るためには高品質の 花きを安定的に生産供給する体制を整えさらに国際 競争力を強化することが必要となっています。なおこでいう「高品質花き」とは外観に代表される商品品 質に加え取引情報などの市場(取引)品質や情報と商品 の一致といった社会的品質の高い花きを指しています。 生産管理ユニットではこれらの課題克服に資するた 花き生産流通研究領域の担う「主要花きにおける高 品質安定生産・品質管理技術の開発(H28R2 年度)」 のうち「高度環境制御と肥培管理等を活用した高品質花 き生産技術の開発」を担当し病害分野では実施課題「キ ク矮化病をはじめとする病害虫防除技術の確立」のも 難防除ウイロイド(ウイルスよりも小さい最小の病 原体)病の一つであるキク矮化病の抵抗形質の特徴を明 らかにするための研究に取り組むとともに各種花き病 害の病害因子の探索発生生態(どのように病気が発生 するかどのように伝染するか等病原菌の生活様式の 解明を含む)に基づいた防御技術の開発を進めていま す。栽培分野では現在国内産出額でカーネーションを 抜きキクユリバラに次ぐ生産額にまで成長してい るトルコギキョウを主な対象に研究に取り組んでいま す。従来のトルコギキョウ生産体系は播種から収穫まで 6 か月以上を要することまた連作障害も発生しやす いことから土壌消毒等が必要とされ同一施設での年 2 作以上は困難とされています。そこで実施課題「年 3 作を可能とするトルコギキョウの安定生産技術の開発」 のもとトルコギキョウ生産に薄膜水耕栽培(NFT)シ ステムを導入し水媒伝染性病害(特にピシウムによる 根腐病)対策肥培管理や二酸化炭素施用複合環境制 御システムを活用して高品質な切り花を安定効率的に生 産するための技術開発に取り組み開発技術の導入によ り同一施設で年 3 作の栽培も可能であることを実証しま した(https://www.naro.affrc.go.jp/project/results/4th_ laboratory/nivfs/2017/17_050.html)。 生産管理ユニットでは今後も日本の花き産業振興に資 するよう現場に貢献する科学的根拠に基づいた技術開 発を目指した研究に取り組みます。 (生産管理ユニット長 久松 完) 国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構 野菜花き研究部門 花き生産流通研究領域 生産管理ユニット 研究室紹介 トルコギキョウ周年生産のための新技術カタログ集 3050852 茨城県つくば市藤本 21 TEL 0298386818 キク矮化病 発生圃場 キク矮化ウイロイド(CSVd)によるキク矮化病 733 植物防疫
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Ê Ü YÚ植物防疫 第73 巻第11 号(2019 年) 65 タイトル 農研機構野菜花き研究部門花き生産流通研究領域は茨...

Oct 28, 2020

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Page 1: Ê Ü YÚ植物防疫 第73 巻第11 号(2019 年) 65 タイトル 農研機構野菜花き研究部門花き生産流通研究領域は茨 城県つくば市にあり,栽培生理ユニット,生産管理ユニ

65植物防疫 第 73巻第 11号(2019年)

タイトル

農研機構野菜花き研究部門花き生産流通研究領域は茨城県つくば市にあり,栽培生理ユニット,生産管理ユニット,品質制御ユニットの 3ユニット体制で花きの生理特性に基づいた効率的かつ安定的な生産技術,病害の防除技術,切り花の日持ちの延長や香りを対象にした品質向上技術を開発するとともに,花きがヒトに与える効果に取り組んでいます。そのうち,生産管理ユニットには栽培分野3名と病害分野2名の研究員が所属しています。この植物病害研究者 2名が組織上,国立研究開発法人で唯一の花き病害担当者という位置づけになっています。花き類は品目が多種多様であり,かつ,作型も多様であるため安定生産を阻害する病害も非常に多くなり,2名の担当者ですべてをカバーすることは不可能です。したがって生産管理ユニットの病害担当者は全国の病害関連組織と協力しながら,視野を広くもち,農研機構唯一の花き病害担当として全国の花き病害に関する研究ネットワークのハブとなるべく日々努めています。国内の花き生産現場では,近年の異常気象や燃油・生産資材の高騰等により安定的に花きの生産を行うことが難しくなってきています。さらには,切り花類の輸入が増加し続けているため,国内の花き生産に影響を及ぼしています。これらコスト増,栽培環境の変化,輸入花き等,花きの生産を行っていくうえでの多くの困難を乗り越え,日本の花き生産の振興を図るためには,高品質の花きを安定的に生産,供給する体制を整え,さらに国際競争力を強化することが必要となっています。なお,ここでいう「高品質花き」とは,外観に代表される商品品質に加え,取引情報などの市場(取引)品質や情報と商品の一致といった社会的品質の高い花きを指しています。生産管理ユニットではこれらの課題克服に資するた

め,花き生産流通研究領域の担う「主要花きにおける高品質安定生産・品質管理技術の開発(H28―R2年度)」のうち「高度環境制御と肥培管理等を活用した高品質花き生産技術の開発」を担当し,病害分野では実施課題「キク矮化病をはじめとする病害虫防除技術の確立」のもと,難防除ウイロイド(ウイルスよりも小さい最小の病原体)病の一つであるキク矮化病の抵抗形質の特徴を明らかにするための研究に取り組むとともに,各種花き病害の病害因子の探索,発生生態(どのように病気が発生するか,どのように伝染するか,等病原菌の生活様式の解明を含む)に基づいた防御技術の開発を進めています。栽培分野では現在,国内産出額でカーネーションを抜き,キク,ユリ,バラに次ぐ生産額にまで成長しているトルコギキョウを主な対象に研究に取り組んでいます。従来のトルコギキョウ生産体系は播種から収穫まで6か月以上を要すること,また,連作障害も発生しやすいことから土壌消毒等が必要とされ,同一施設での年 2作以上は困難とされています。そこで,実施課題「年 3作を可能とするトルコギキョウの安定生産技術の開発」のもと,トルコギキョウ生産に薄膜水耕栽培(NFT)システムを導入し,水媒伝染性病害(特にピシウムによる根腐病)対策,肥培管理や二酸化炭素施用,複合環境制御システムを活用して高品質な切り花を安定効率的に生産するための技術開発に取り組み,開発技術の導入により同一施設で年 3作の栽培も可能であることを実証しました(https://www.naro.affrc.go.jp/project/results/4th_laboratory/nivfs/2017/17_050.html)。生産管理ユニットでは今後も日本の花き産業振興に資するよう,現場に貢献する科学的根拠に基づいた技術開発を目指した研究に取り組みます。

(生産管理ユニット長 久松 完)

国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構野菜花き研究部門 花き生産流通研究領域 生産管理ユニット

研究室紹介

トルコギキョウ周年生産のための新技術カタログ集

〒 305―0852 茨城県つくば市藤本 2―1TEL 029―838―6818

キク矮化病 発生圃場

キク矮化ウイロイド(CSVd)によるキク矮化病

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植物防疫