システムモデリング&シミュレーション - jsme.or.jpシステムモデリング&シミュレーション 1.はじめに 1712年,トーマス・ニューコメン

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  • システムモデリング&シミュレーション

    1.はじめに 1712 年,トーマス・ニューコメンはそれまでに存在しなかったシステムを構想する神秘的な才能を持って,連続作動する蒸気機関を設計し運転に成功した.ニューコメンの蒸気機関は,半球型のボイラで発生させた蒸気をシリンダに導き,そこに水を噴射することによって蒸気を凝縮させ,生じた不完全な真空によってピストンを押し下げ,連結されたアームを上下運動させることによって動力を生み出した(図1).この設計は適切であったので,その後 60 年もの間,大きな変更を加えられることなく炭鉱から水を汲み上げ続けた. その後,このシステムはジェームズ・ワットによって改良され,イギリスに産業革命をもたらすことになる.ニューコメンは類

    たぐい

    稀まれ

    なインスピレーション能力によってこのシステムを構想し,ワットは実験との長年の苦闘を重ねることによってシステムを理解し,洗練させた(1). 今日,われわれが扱うシステムはより精緻なものへと進化し,ニューコメンやワットの時代に比べて,システムを構成する要素と要素間の複雑な相互作用を理解することはますます難しくなっている. 以下に紹介する LMS Imagine.Lab AMESim(以下,AMESim)はこのような複雑なシステムをコンピュータ上で表現し,その動作を再現するためのシステムモデリング・シミュレーションツールである.

    2. システムモデリング&シミュレーションツール「AMESim」

     AMESim はシステム内の物理現象を表現する方程式やマップデータを内包したさまざまなコンポーネントを組

    み合わせ,時間とともに変化するそれらの相互作用を計算によって再現する.たとえば,ニューコメンの蒸気機関のような二相流システムも図 2 のようにモデル化することができる. 300 年後の現在,熱エネルギーを運動エネルギーとして取り出すシステムにランキンサイクル熱回生システムがある(図 3). ワットは長い歳月と莫大な資金を実験に注ぎ込むことによって,ニューコメンのシステムを発展させたが,今日,われわれは AMESim を活用することによってランキンサイクルシステムのような複雑なシステムの実験と評価を机の上で実行することができる(図 4,図 5). このように,AMESim を活用することによって,システム設計者や機能検証者は,構想段階からシステム構成要素間の相互作用を理解し,時間やコストの制約を受けることなく,パラメータ設定と性能検証の繰り返す試行錯誤が可能になる.

    3. おわりに AMESim には,機械,油圧,熱,化学,電気などさまざまなシステムをモデル化するためのコンポーネントがライブラリ化されている.それらコンポーネントを必要に応じて組み合わせることにより異なる物理現象の相互作用によって成り立つシステムの仮想実験モデルを作ることができるのである.

    (原稿受付 2010 年 9 月 7 日)

    〔中沢俊彦 エルエムエスジャパン(株)〕

    ●文 献( 1 )E.S. ファーガソン,藤原良樹・砂田久吉訳,

    技 術 屋 の 心 眼, 平 凡 社 ラ イ ブ ラ リ ー,(1995),平凡社.

    ( 2 )http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/8/8e/Newcomens_Dampfm-aschine_aus_Meyers_1890.png

    図1 ニューコメンの蒸気機関(2)

    H

    K

    M

    I

    N

    P

    R

    L

    F

    E

    DB

    C

    A

    S

    M

    hm

    Ch

    図 2 �ニューコメンの蒸気機関モデル

    凝縮器

    蒸発器・過熱器拡張器 発電機

    内部熱交換器ポンプ

    図 3 �ランキンサイクルシステム

    蒸発器・過熱器

    タービン内部熱交換

    ポンプ凝縮器

    図 4 ランキンサイクルモデル

    20

    40

    300250

    200150

    10050

    ×103

    30

    20

    10

    0

    100

    0 50X:時間(s)

    ポンプ入口・出口圧力

    蒸発器・過熱器のエネルギー流量

    タービン回転数

    X:時間(s)

    X:時間(s)

    100 150

    0 50 100 150

    0 50 100 150

    -10-20-30-40-50

    図 5 シュミレーション結果

    日本機械学会誌 2010.�11 Vol.�113��No.1104 899

    ─ 63 ─

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