抗菌薬の選び方 後編 ~感染部位別に考える~

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抗菌薬の選び方 後編~感染部位別に考える~

松戸市立病院  ICT中村 海人

感染臓器別に考える抗菌薬の選び方

1. カテーテル関連血流感染症

2. 尿路感染症

1. 単純性膀胱炎

2. 単純性腎盂腎炎

3. 複雑性腎盂腎炎

3. 肺炎

1. 市中肺炎

2. 耐性菌リスクの高い肺炎

3. 誤嚥性肺炎

CRBSI = catheter related blood stream infectionカテーテル関連血流感染症

CRBSI

1. カテーテル関連血流感染症

静脈

カテーテル

カテーテル留置直後清潔!

皮膚

皮下組織

1. カテーテル関連血流感染症

静脈

カテーテル刺入部に菌発生!

皮膚

皮下組織

1. カテーテル関連血流感染症

静脈

カテーテル

カテ伝いに増殖…(菌が定着)

皮膚

皮下組織

1. カテーテル関連血流感染症

静脈

カテーテル

血管内に到着…菌血症に!

皮膚

皮下組織

1. カテーテル関連血流感染症

静脈

カテーテルカテーテルを抜去するだけだと…

血管内に菌が残っている!=菌血症は治らない!放っておくと感染性心内膜炎や化膿性脊椎炎を起こすリスクあり

皮膚

皮下組織

1. カテーテル関連血流感染症

静脈

カテーテルカテ先培養だけ出せば十分?

99% は定着菌を拾ってきているだけ!カテ先培養だけでは定着菌と判別できない

Crit Care Med. 2011 Jun;39(6):1301-5

1. カテーテル関連血流感染症

コアグラーゼ陰性ブドウ球菌

・メチシリン感受性・メチシリン耐性

黄色ブドウ球菌・ MSSA・ MRSA

腸球菌 カンジダ腸内細菌科

緑膿菌

眼内炎を起こす!

黄色ブドウ球菌: MRSA vs MSSA

当院細菌検査結果より作成 期間: 2014/4/1-15/3/31  検体:血液

MRSA54%

MSSA46%

抗 MRSA 薬

バンコマイシン

リネゾリド(ザイボックス ® )

ダプトマイシン(キュビシン ® )

MRSA が過半数!

カテーテル関連血流感染症当院におけるベストプラクティス

※ 重症・全身状態不良の場合は以下の併用を考慮

● セフェピム(第4世代セフェム) マキシピーム

®

 第一選択

 バンコマイシン (抗MRS A 薬)

• カテーテルを抜去

• 血液培養 2 セット、カテ先培養を提出

カテーテル関連血流感染症

• 培養に応じて de-escalation が必須

MSSA セファゾリン

MRSA バンコマイシン

2. 尿路感染症

2. 尿路感染症

2-1. 単純性 膀胱炎

2-2. 単純性 腎盂腎炎

2-3. 複雑性 腎盂腎炎

感染部位からの分類:膀胱炎 vs 腎盂腎炎

腎盂腎炎発熱あり

敗血症を伴う

膀胱炎発熱なし

排尿症状

合併症からの分類: 単純性 vs 複雑性

合併症尿路の解剖学的異常:前立腺肥大、腫瘍、結石

排尿機能の問題:神経因性膀胱

異物:尿道カテーテル

免疫不全:糖尿病、ステロイドなど

性別:男性

単純性 複雑性

なし あり

尿路感染症の分類

膀胱炎 腎盂腎炎

単純性 単純性膀胱炎 単純性腎盂腎炎

複雑性 複雑性膀胱炎 複雑性腎盂腎炎

2-1. 単純性膀胱炎

• 既往歴のない若い女性に多い

• 大部分は感受性良好な大腸菌が原因

膀胱炎 腎盂腎炎

単純性 単純性膀胱炎 単純性腎盂腎炎

複雑性 複雑性膀胱炎 複雑性腎盂腎炎

大腸菌(非 ESBL )の感受性

S84%

I7%

R9%

セファゾリン第 1世代セフェム

S I R

S82%

I1%

R17%

レボフロキサシンニューキノロン

S I R当院細菌検査結果より作成 期間: 2014/4/1-15/3/31  検体:尿

クラビット

クラビット ® より第一世代セフェムの方が感受性良好!

2-1. 単純性膀胱炎当院におけるベストプラクティス

第二選択●レボフロキサシン(ニューキノロン) クラビット ®

第一選択● セファクロル(第1世代セフェム) ケフラール ®

● セフォチアム(第2世代セフェム) パンスポリン

2-2. 単純性腎盂腎炎

• 敗血症を伴うので血液培養が必須

• 病原性の高い大腸菌やその他の腸内細菌科(ク

レブシエラ、プロテウスなど)により生じる

膀胱炎 腎盂腎炎

単純性 単純性膀胱炎 単純性腎盂腎炎

複雑性 複雑性膀胱炎 複雑性腎盂腎炎

大腸菌(非 ESBL )の感受性

S84%

I7%

R9%

セファゾリン第 1世代セフェム

S I R

S82%

I1%

R17%

レボフロキサシンニューキノロン

S I R

当院細菌検査結果より作成 期間: 2014/4/1-15/3/31  検体:尿

クラビット

大腸菌(非 ESBL )の感受性

当院細菌検査結果より作成 期間: 2014/4/1-15/3/31  検体:尿

S100%

セフォタキシム第3世代セフェム

S I R

スペクトラムはセフトリアキソンと同じ!

2-2. 単純性腎盂腎炎当院におけるベストプラクティス

第二選択●レボフロキサシン(ニューキノロン) クラビット ®

第一選択● セフトリアキソン(第3世代セフェム) ロセフィン

®

2-3. 複雑性腎盂腎炎

• 起因菌は腸内細菌科、緑膿菌、腸球菌などいろいろ

• 適切な治療のために尿培養・血液培養が必須

• 尿カテは可能ならば抜去、無理なら入れ替える

膀胱炎 腎盂腎炎

単純性 単純性膀胱炎 単純性腎盂腎炎

複雑性 複雑性膀胱炎 複雑性腎盂腎炎

注意すべき起因菌

• 腸球菌にはセフェム系無効

• ESBL など高度耐性菌が原因となる事がある

かと言って何でもかんでも最初からカルバペネムは考えもの…

CRE :カルバペネム耐性腸内細菌

前編でも登場したぜ!

2-3. 複雑性腎盂腎炎当院におけるベストプラクティス

第一選択● ピペラシリン・タゾバクタム(抗緑膿菌ペニシリ

ン)

 ゾシン ®

第二選択● メロペネム(カルバペネム) メロペン ®

腸内細菌科・緑膿菌・腸球菌をカバー

上記+ ESBL をカバー

ESBL 産生大腸菌の割合

ESBL13%

87%

ESBL 非 ESBL

ESBL と判明したら

カルバペネム系に

抗菌薬を変更する

当院細菌検査結果より作成 期間: 2014/4/1-15/3/31  検体:尿

3. 肺炎

3-1. 市中肺炎

3-2. 耐性菌リスクの高い肺炎

3-3. 誤嚥性肺炎

3-1. 市中肺炎

抗菌薬選択のポイント

• 細菌性肺炎か、非定型肺炎か

• BLNAR型インフルエンザ桿菌を考慮

非定型肺炎とは

• 細胞壁をもたない細菌による肺炎

• β ラクタム系(ペニシリン、セフェム等)無効

• 若くてもともと元気な人に多い

• しつこくて、乾いた咳が特徴

マイコプラズマクラミジアレジオネラ

非定型肺炎の鑑別

1. 年齢 60歳未満2. 基礎疾患がない、あるいは軽微

3. 頑固な咳がある

4. 胸部聴診上所見が乏しい

5. 痰がない、あるいは迅速診断法で原因菌が証明されな

6. 末梢血白血球数が 10000/mm3未満である

4項目以上合致した場合⇒非定型肺炎の疑い(感度 77.9% 、特異度 93.0% )

市中肺炎の分類: 細菌性 vs 非定型

細菌性肺炎球菌

インフルエンザ桿菌

モラクセラ

非定型マイコプラズマ

クラミジア

レジオネラ

マクロライド系 ペニシリン系セフェム系

カルバペネム系

耐性化

無効

市中肺炎の分類: 細菌性 vs 非定型

細菌性肺炎球菌

インフルエンザ桿菌

モラクセラ

非定型マイコプラズマ

クラミジア

レジオネラBLNAR

ペニシリン系

セフェム系

ニューキノロン系

マクロライド系

テトラサイクリン系

BLNAR型インフルエンザ桿菌

当院細菌検査結果より作成 期間: 2014/4/1-15/3/31  検体:下気道

BLNAR39%非

BLNAR61%

BLNAR非 BLNAR

第 3 世代セフェム

ニューキノロン

β ラクタマーゼ(ペニシリン分解酵素)

がないのに、ペニシリン耐性

有効

市中肺炎:細菌性肺炎当院におけるベストプラクティス

外来

第一選択

 スルタミシリン(アミノペニシリン) ユナシン ®第二選択

 レボフロキサシン(ニューキノロン) クラビット ®入院

第一選択

 セフトリアキソン(第3世代セフェム) ロセフィン

®第二選択

 レボフロキサシン(ニューキノロン) クラビット ®

※BLNAR には無効

市中肺炎:非定型肺炎当院におけるベストプラクティス

外来

第一選択

 アジスロマイシン(マクロライド)ジスロマック

®第二選択

 ミノサイクリン(テトラサイクリン) ミノマイシン ® レボフロキサシン(ニューキノロン) クラビット ®入院(重症)

第一選択

 レボフロキサシン(ニューキノロン)クラビット

®

市中肺炎:細菌性か非定型か不明当院におけるベストプラクティス

外来

第一選択

 スルタミシリン(アミノペニシリン) ユナシン ®

    +

 アジスロマイシン(マクロライド) ジスロマック ®

第二選択

 レボフロキサシン(ニューキノロン) クラビット ®

細菌性肺炎

非定型肺炎

市中肺炎:細菌性か非定型か不明当院におけるベストプラクティス

入院

第一選択

 セフトリアキソン(第3世代セフェム) ロセフィン

®

    +

 アジスロマイシン(マクロライド) ジスロマック ®

第二選択

 レボフロキサシン(ニューキノロン) クラビット ®

細菌性肺炎

非定型肺炎

3-2. 耐性菌リスクの高い肺炎

• 院内肺炎、医療介護関連肺炎 (NHCAP)の多くが含まれる

• 90日以内の抗菌薬投与歴や免疫不全がある

場合は耐性菌リスクが高い

• 緑膿菌をカバーする抗菌薬を選ぶ

• MRSA はルーチンではカバーしない

肺炎球菌の感受性

S100%

AMCP/CVAアミノペニシリン

S I R

S79%

I15%

R7%

メロペネムカルバペネム

S I R当院細菌検査結果より作成 期間: 2014/4/1-15/3/31  検体:下気道

当院では肺炎にカルバペネムは推奨されない!

3-2. 耐性菌リスクの高い肺炎当院におけるベストプラクティス

入院

第一選択

 ピペラシリン・タゾバクタム(抗緑膿菌ペニシリン) ゾシン

®

MRSA を考慮する場合

 バンコマイシン(抗 MRSA 薬) 

細菌性肺炎+緑膿菌

3-3. 誤嚥性肺炎

• 嚥下機能低下をベースとして発症

• 認知症や老衰の終末期と考えられる状態では、

抗菌薬の意義は限られる

• 耐性菌出現や医療コストに配慮した抗菌薬選択

が求められる

3-3. 誤嚥性肺炎当院におけるベストプラクティス

入院

第一選択

 アンピシリン・スルバクタム(アミノペニシリン) ピシリバクタ

®

第二選択

 ピペラシリン・タゾバクタム(抗緑膿菌ペニシリン) ゾシン ®

細菌性肺炎+嫌気性菌

上記+緑膿菌

術後感染予防の抗菌薬について

• 2016年 3月、日本化学療法学会・日本外科感染症学会より発

• 近日中に学会HP にサマリーを掲載予定

• ほとんどの手術でセファゾリンの単回~ 24時間投与を推奨

術後感染予防抗菌薬適正使用のための実践ガイドライン

最後に

• 感染症診療の未来は決して楽観できない

• 感染部位と主な起因菌をセットで覚える

• 広域抗菌薬を乱発しない

• 適切な投与量・投与期間を守る

• きちんと培養をとる

• 分からない時はICTに相談

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