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ビジョンのない上司に ビジョンを抱かせる時に ちかふじ りゅう 2009Copyright © 2009 Ryu Chikafuji. All Rights Reserved. 絵巻物 ~其の壱~ 1 http://www.frombayarea.com version 0.9 Tuesday, October 27, 2009
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What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

Oct 31, 2014

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Business

Taka Kondo

This slide describe about "vision" from functionality point of view, that is, what can vision work, how does it work, etc. Sorry, current version is written in Japanese.
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Page 1: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に

ちかふじ りゅう

2009年

Copyright © 2009 Ryu Chikafuji. All Rights Reserved.

絵巻物~其の壱~

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http://www.frombayarea.com

version 0.9

Tuesday, October 27, 2009

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~はじめに~

「私の上司には、ビジョンがない」、「うちの組織には、ビジョンがない」、「日本には、ビジョンを示せる政治家がいない」など、最近は”ビジョン”の欠如を嘆く声が頻繁に聞こえる。ところで、そもそも、”ビジョン”とは何だろうか?辞書にあるような意味合いの文章を作れば、この手の嘆きに応えられるのだろうか?そうは思えない。これらの文脈で、そして、多くの文脈で使われている”いわゆるビジョン”には、組織に関係する人々の行動に影響を与えることを期待しているはずだ。

言葉の”定義”にこだわることに意味はない。大事なことは、どのように”機能”させるかにある。

広○苑:ビジョンとは、組織としてのあるべき未来像が...

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~はじめに~

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交通安全の”スローガン”と違い、”いわゆるビジョン”には単純な”行動”だけでなく、不確定な未来に対する”思考”や

”決断”に影響することを期待しているはずだ。言い方を変えると、我々は”いわゆるビジョン”にそれが機能することを求めている。ならば、辞書の定義ではなく、どのように”機能”させるかをベースに考えるべきである。

本書では、世界の優良企業の例を挙げつつ、上記の観点から機能する”いわゆるビジョン”の策定方法について筆者の意見を述べる。

スローガン 確定的に行動を求める

”いわゆるビジョン” 不確定な未来に対する思考と行動を求める

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~はじめに~

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なお、後述するように”いわゆるビジョン”は、組織やケースによっては、”MISSION”であったり、”CREDO(信条)”であったり、あるいは、”PRINCIPLE(原則)”、”VALUE”、さらには、これらがミックスされた場合もある。本来、これらの概念は異なる意味・効果を持っており、学問的には別々に説明されるべきであろう。しかし、本文では煩雑さを避けるために敢えて一緒くたにする。そこで、本文では特に断らない限り、これら概念を総称して”ビジョン”、あるいは、 ”VISION”と記載する。

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“VISION”“MISSION”“CREDO”“PRINCIPLE”“VALUE”...

本文中では、区別せず、ビジョン OR “VISION”

~はじめに~

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1章 VISIONLESS経営 ... 現状

2章 VISIONにどんな機能を期待するのか?... “VISION”の機能

組織内部には、自律性・創造性・生産性を高める 組織外部からは、機会を呼び寄せる

3章 分類と事例... “VISION”策定の目的を4つに分類:

(1) 新領域を開拓(2) 既存領域の深堀、再定義(3) 価値観の継承(4) 官僚主義、旧態依然とした体質の払拭上記、各々の事例紹介

4章 VISIONの策定について... 4つの分類に対し:

(1) → 策定方法について(2) → 策定方法について(3) → 策定への留意事項について(4) → 策定及び浸透について

5章 まとめ... 私が言いたかったこととは

補足資料: 事例集... 有力企業の”VISION”

~ 目次 ~

1章 VISIONLESS経営2章 VISIONにどんな機能を期待するのか?3章 分類と事例4章 VISIONの策定について5章 まとめ

付録: 有力企業の”VISION”

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1章 VISIONLESS経営~現状の認識~

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組織にVISIONがないと...

我社は、一致団結して、5年後に○○分野で売上1千億円を達成する!そのために、一致団結して頑張るんだ!

従業員一丸となって、経常利益を伸ばして、法令遵守して、環境にやさしくて、強い特許を出願して、それでもって、えっと、そうだ世界の優良企業の仲間入りを果たすんだ。これが、我社のビジョンだ!

△△に関しては、ライバルのX社にシェアで負けているが、皆で頑張って逆転するんだ!やり方は何でも良いぞ!

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1章 VISIONLESS経営

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どこに向かって進めば良いのか、誰も自信を持って行動できない。

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1章 VISIONLESS経営

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画期的な提案があっても、承認する方だって自信を持って承認できない...

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1章 VISIONLESS経営

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Page 10: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

”とりあえず”、みんなが否定しにくい、差し障りのないアイデアを、恐れ恐れ進めてみる。が、

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1章 VISIONLESS経営

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行き先が定かでないので、すぐに迷子になってしまう。

あるいは、猪突猛進、目を塞いだまま壁に衝突してしまう。OR

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1章 VISIONLESS経営

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Page 12: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

担当部門以外の人は、”実は”まじめに耳を傾けてなく、

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1章 VISIONLESS経営

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”恐る恐る”なので目立たないが、”実は”累積投入金額、メンバーの精神的消耗・モチベーションの低下、機会損失など、水に流れる損失は、莫大なものとなっている...

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1章 VISIONLESS経営

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Page 14: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

“VISION”って何だろう?

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1章 VISIONLESS経営

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Page 15: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

2章

VISIONにどんな機能を期待するのか?

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(*) “Abbott Laboratories”:1888年設立のシカゴを本拠地とする医療関連企業。スイスのRoche社と並び、世界の医療技術を100年以上リードし続けている超優良企業。

Abbott Laboratories:

Our “Promise for life” is a statement that describes – for our customers, our communities, our shareholders and all of our stakeholders – what we believe in, what we value, and what we strive to deliver in our day-to-day work. For Abbott employees, Our Promise is our compass – guiding us in our actions and decision making, to ensure we live up to the high expectations we’ve set for ourselves in order to serve our stakeholders better. Our Promise challenges us to continually improve and inspires us to always aim higher.

A Promise for Life~以下、STATEMENTの本文が続く~(略)

右頁は“Abbott laboratories(*)”の”Promise for Life”と呼ぶステートメントの前文で、何のためにこのステートメントがあるのかを説明している。前文にも、本文中にも”VISION”という言葉は一度も登場しない。しかし、この前文は、まさに、”VISION”に求める機能を非常に良く表している。

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次頁に対訳を掲載

http://www.abbott.com/global/url/content/en_US/10.10:10/general_content/General_Content_00003.htm

2章 VISIONにどんな機能を期待するのか?

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Page 17: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

A PROMISE FOR LIFE ~ 前文の対訳:

“Promise for life”は、顧客、コミュニティ、株主、そして、すべてのステークホルダーに対し、我々が何を信じ、何に価値を認め、また、日々の仕事を通して、何を実行しようと努めているのかを述べたものです。一方、Abbottの社員にとっては、この”Promise”は、自分たちの行動や意思決定の指針であり、ステークホルダーのために我々みずからが設定した高度の期待にこたえられることを保証するものです。また、それは、我々社員に絶えず向上することを求め、常により高い目標をもつよう促します。

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2章 VISIONにどんな機能を期待するのか?

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“VISION”は、組織として社会へどのように貢献するのかを示し、①組織内部に対しては、行動・決断できるレベルの具体的な方向を示すことで、組織としての生産性を最大化できるよう進化させ、②組織外部のステークホルダーには、組織の将来の存在価値を示し、賛同と期待、そして、協力を得ることを狙う。

方向

賛同

期待

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2章 VISIONにどんな機能を期待するのか?

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つまり、組織内部に対しては、

時代の変化(*)や機会へのアンテナ感度を向上させ、 正しい優先順位付けと取捨選択を自律的に考えさせ、 何をすべきかの議論で立ち往生させるのではなく、 どのように成果を最大化するかに力を注がせる。

(*) 市場ニーズ/顧客層、技術、インフラ、社会制度、等

“VISION”

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2章 VISIONにどんな機能を期待するのか?

P. 76へ戻るP. 83へ戻るP. 102へ戻る

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組織の外部へ対しては、潜在パートナー(*)の共感と関心を引きつける吸引力として機能する。

(*) 取引先企業や顧客、株主、あるいは、コミュニティやマスメディア、政府関連、等

“VISION”

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2章 VISIONにどんな機能を期待するのか?

P. 76へ戻るP. 83へ戻るP. 102へ戻る

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Page 21: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

組織は長期的にはダーウィンの適者生存の法則に対峙する。”VISION”は、前述の機能で組織を変化に敏感な体質に変える。つまるところ、”VISION”は変化が大きい社会の中で組織が時代や社会に適応しながら、生存、繁栄できるようにすることを目的としている。

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“It is not the strongest of the species that survives, nor the most intelligent that survives. It is the one that is the most adaptable to change”

- Charles Darwin

”最も強い種族が生き残るのでも、最も賢い種族が生き残るのでもない。最も変化に敏感な種族が生き残るのだ。”

- チャールズ・ダーウィン

PICTURE FROM WIKIMEDIA COMMONS

2章 VISIONにどんな機能を期待するのか?

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Page 22: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

3章 分類と事例

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人がビジョンを求める”背景”には、目的に応じ、幾つかのパターンがある。ここでは、右のように分類した。

(A) 将来への舵取り(B) 組織文化の継承 or 払拭

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3章 分類と事例

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Page 24: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

まず、一つ目の目的は「将来への舵取り」。

「我々の組織は、これから、どこへ向かって進むのか?」

ビジネス教本が細分類を示唆する。つまり、考えるべくは2つ。新領域(新事業)を開拓するか、既存領域(既存事業)

を深堀、あるいは再定義するか。

(A) 将来への舵取りI) 新領域を開拓II)既存領域の深堀、再定義

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3章 分類と事例

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Page 25: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

もう一方の目的は、「組織の文化」に関わるケース。組織がある程度、成長してくると、創業者は後世まで自分の価値観を伝えたくなるもの。一方、組織が古くなると官僚主義的な傾向が蔓延してくる。創業者の価値観はいびつな解釈に導かれ、閉塞感が漂い、組織のメンバーは自己疲弊してくる。世の中の変化がいよいよ大きくなると、旧態依然とした体質の打破が最重要課題になる。

(B) 組織文化の継承 or 払拭I) 価値観の継承II)官僚主義、旧態依然とした体質の払拭

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3章 分類と事例

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Page 26: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

本章では、以下、右記の各々に対する”VISION”の事例を紹介する。

(A) 将来への舵取りI) 新領域を開拓II)既存領域の深堀、再定義

(B) 組織文化の継承 or 払拭I) 価値観の継承II)官僚主義、旧態依然とした体質の払拭

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3章 分類と事例

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Page 27: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

(A) 将来への舵取りI) 新領域を開拓

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事例 1

Adobe Systems

3章 分類と事例 ~将来への舵取り 新領域を開拓

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Page 28: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

Adobe Systems:

2000年代前半、Adobe社にはロングセラー商品も花形商品もあり、業績は悪くなかった。しかし、将来を見渡すとマイクロソフト等の潜在競合と熾烈な競争が待ち構えていた。 2000年に同社CEOに就任したChizen氏は、将来のために大きな戦略転換が必要と考えた。それまでの同社は、「良い製品を作れば売れる」という典型的なパッケージ・ソフト販売のビジネスだった。

ドル箱商品も複数あり、業績は悪くなかった。

潜在的な競合は強者ばかり

・・・28

3章 分類と事例 ~将来への舵取り 新領域を開拓

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Page 29: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

Adobe社の商品には、プリンタ業界で標準になっていた”Post Script”とオンライン出版業界で標準になっていた”PDF Reader”という製品があった。どちらも、収益への貢献は大きくなかった。しかし、どちらもプラットフォーム(*)と呼ばれるに相応しいくらい普及していた。

Chizen氏はここに注目した。つまり、Adobeはプラットフォームを提供する会社であると。そして、右頁下に記載した内容の ”VISION”を掲げ、自らが出演、説明するビデオで社内外に語り始める。

(*) プラットフォーム: 広く共通に使える基盤となる製品や技術のことを呼ぶ。例えば、WindowsなどのOSは、アプリを使うユーザにとっても、また、アプリ開発者にとってもプラットフォーム。IEやFire Fox、Safari等のWeb BrowserもWebにコンテンツを掲載している人やWebアプリ開発者にとってはプラットフォーム。Excelを使ってアプリを開発している人にとっては、Excelもプラットフォーム。

プリンタ制御ソフト

プロ向け編集ソフト

プロ向け画像編集ソフトオンライン出版

2000年頃まで:なんとなく?『出版関連のソフトウェア・ビジネス』を展開

Chizen’s VISION

インターネットを介して人々がより簡単に、直感的に、効果的にアイデアや情報を伝達できるプラットフォーム提供

(本誌、「付録」を参照)

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3章 分類と事例 ~将来への舵取り 新領域を開拓

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Page 30: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

”プラットフォーム提供”に関しては、過去2度、マイクロソフトとの覇権争いに勝った実績から、社内においては、”我々が取り組むべきこと”との認識を、外部からは、

”Adobeならできる”という期待を得られたであろう。

注目すべきは、当時、”何となく出版関連のソフト”を開発していた企業が、通信アプリのプラットフォームへ進出しようとしたことである。当時、同社にはビジョン実現に必要な、動画や音声ストリーミング技術も、組込みソフトウェアのノウハウもなかったであろう。

なんとなく『出版関連のソフトウェア・ビジネス』

Chizen’s VISION

インターネットを介して人々がより簡単に、直感的に、効果的にアイデアや情報を伝達できるプラットフォーム提供

ギャップ

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3章 分類と事例 ~将来への舵取り 新領域を開拓

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Page 31: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

Chizen氏のビジョンは、社員へは自分たちにどんな技術が必要なのかを考えさせ、技術買収、企業買収などの大胆な行動を決断させる。一方、ベンチャー企業やベンチャー・キャピタルに対しても夢の共有と実現へ向けた協力を集めることに繋がる。

(*) 日本の大企業、あるいは他力本願の企業は、ベンチャー・キャピタルをパートナーにすれば、つまり、投資ファンドに出資すれば、大きな新事業ネタに繋がると考えるケースが多い。私もこの手の取り組みに関与していた。無駄だと思う。順番が逆である。大企業側が先にビジョンを掲げ、ビジョン達成に必要なミッシング・ピースを探す手段としてベンチャー・キャピタルを利用するなら機能するだろうが、そうでなければ、3年後にはお決まりの「まったく期待はずれだった」というフレーズを使うことになる。 31

“VISION”

“VISION”

組織内のアンテナ感度向上

潜在パートナー吸引力

3章 分類と事例 ~将来への舵取り 新領域を開拓

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Page 32: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

右は、Chizen氏がCEO在籍中に実行した買収案件の一部である。特にFlash PlayerのMacromedia社買収は、

Adobe、Macromedia両社にとって高い相乗効果をもたらし、名買収として評価が高い。また、Adobe社は、Granite Ventures

というベンチャー・キャピタルを投資パートナーとし、同社の投資ファンドへ累計300億円くらいつぎ込んでいた。Chizen

氏が明快なビジョンを提示していたので、Granite社はChizen

氏と夢を共有し、同ビジョン達成に貢献する投資ポートフォリオを容易に構築できたであろう(*)。

Glassbook Inc eBook関連のソフトウェア.

Fotiva, Inc フォトアルバム、フォトシェアリング

Accelio Corporation Webビジネスソリューション

Syntrillium Software (事業部門買収)

デジタルオーディオツール. Yellow Dragon Software

XMLメッセージング、メタデータ管理ソフト. Q-Link Technologies Inc

Javaベースのワークフロー管理. OKYZ S.A.

CAD等の3D技術. Macromedia

Flashプレイヤー技術 Iteration:Two

RIA(Rich Internet Application)のコンサルティング会社. Mobile Innovation

携帯機器向けのユーザインタフェース設計・開発. Navisware(事業部門買収)

DRM(デジタル著作権管理)部門を買収. Trade and Technologies France

CADデータ互換確保技術. InterAKT

Macromediaの拡張ツール.

Serious Magic Inc ビジュアル・コミュニケーションツール.

Antepo Inc., オフィス向けのメッセージングシステム........

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3章 分類と事例 ~将来への舵取り 新領域を開拓

(*) Adobeが資金投入したGraniteのファンド、”Adobe Ventures”シリーズは100%Adobeが出資しているため、GraniteのWebサイトには情報は掲載されてない。しかし、過去何度か、Adobe社のAnnual Report (Form-10K)に投資先ベンチャーの情報が記載されているので、興味のある方はそちらを参照。また、抜粋であれば、下記のサイトでも確認できる。

http://www.adobe.com/aboutadobe/adobeventures/

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Page 33: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

Chizen氏が引退を発表した2007年末には、AdobeはRIA (Rich

Internet Application)と呼ばれる次世代Webプラットフォームのリーダーとなった。出版業界向けのパッケージソフトのビジネスからWebプラットフォーム・ビジネスへ転換を遂げた。”VISION”が達成された。

YouTubeも各新聞社/テレビ局のWebサイトも、今ご覧になっているSlideShareもAdobe製品を使っている。

FLASH

プラットフォーム製品 ドル箱製品群:

プラットフォーム上で表示・再生する編集ソフト

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3章 分類と事例 ~将来への舵取り 新領域を開拓

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Page 34: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

(A)将来への舵取りII)既存領域の深堀、再定義

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事例 2

(1) Ritz-Carlton

(2) 緊急治療室

(3) 米国有力大学

3章 分類と事例 ~将来への舵取り 既存領域の深堀、再定義

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Page 35: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

(1) The Ritz-Carltonの事例:

右は世界で最も有名なビジョン(CREDO, MISSION, MOTTO)

の一つであり、読者の大半は大学の講義や社員研修等で聞いたことがあるだろう。今更ながらも、素晴らしいビジョンである。特に、"We are Ladies and Gentlemen serving

Ladies and Gentlemen."。このモットーは、社員に行動だけでなく思考も求めている。顧客や株主、取引先には、期待や共感、協力を得るためのメッセージになっている。リッツカールトンでは、このビジョンを徹底するために人事評価制度等が工夫されているそうだが、詳しくは、同ホテルの経営手法が記載された本を参照のこと。

THE CREDO

The Ritz-Carlton Hotel is a place where the genuine care and

comfort of our guests is our highest mission.

We pledge to provide the finest personal service and facilities

for our guests who will always enjoy a warm, relaxed, yet refined

ambience.

The Ritz-Carlton experience enlivens the senses, instills well-

being, and fulfills even the unexpressed wishes and needs of our

guests.

MOTTO

At The Ritz-Carlton Hotel Company, L.L.C., "We are Ladies and

Gentlemen serving Ladies and Gentlemen." This motto

exemplifies the anticipatory service provided by all staff

members.

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http://corporate.ritzcarlton.com/en/About/GoldStandards.htm

次頁に対訳を掲載

3章 分類と事例 ~将来への舵取り 既存領域の深堀、再定義

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Page 36: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

信条:リッツ・カ-ルトンホテルはお客様に心からのおもてなしをさせていただき、ゆっくりとくつろいでいただくことを一番の使命と考えています。

私たちは、最高のパ-ソナル・サ-ビスと施設設備をご提供し、お客様に、つねに温かく、くつろいだ気分と洗練された雰囲気を楽しんでいただくことをお誓いします。

リッツ・カ-ルトンでのご宿泊がお客様の感性を活性化させ、お客様にやすらぎを与え、また、お客様が言葉で表されなかったご希望やニ-ズにもお応えさせていただきます。

モットー:リッツ・カ-ルトン ホテル会社のモット-は「紳士淑女のお客様に、私たちも紳士淑女の態度でおもてなしする」ということです。

このモット-のもとに、スタッフ全員がお客様のご期待に添うサ-ビスに心がけます。

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3章 分類と事例 ~将来への舵取り 既存領域の深堀、再定義

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Page 37: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

(2) ある緊急治療室の事例:

右は、ピーター・ドラッカーの著作からの引用である。この例でも、ミッションが緊急治療室のメンバーに行動だけでなく思考を求め、一方、患者からは期待と共感を得られるものになっている。

~ 何年か前、病院の緊急治療室のミッションの検討に手を貸した。答えは簡単、しかもわかりきったものだった。それは、「患者を安心させること」だった。だが、そのためには患者の容態を早く正しく把握することが必要だった。この病院の緊急治療室の場合、驚いたことに、10人に8人は特に問題もなく、一晩眠れば治るという程度のものだった。・・・中略 ・・・こうして私たちは、このあきれるほどわかりきったミッションに辿り着いた。しかしこのミッションは、緊急治療室に運び込まれる者は必ず1分以内に診察されるべきことを意味した。それがミッションから導きだされる目標だった。あとは行動するだけだった。・・・中略・・・必ず行うべきことは全員を直ちに診ることだった。なぜならそれが患者を安心させる唯一の方法だからである。 ~

~『非営利組織の経営』ピーター・F・ドラッカー著/上田惇生訳、ダイヤモンド社~より

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3章 分類と事例 ~将来への舵取り 既存領域の深堀、再定義

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Page 38: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

(3) 米国有力大学の事例:

右は、米国有力大学の”基本”ミッションである。”基本”と書いた理由は、特に文面にされている訳ではないが、関係者は当たり前に認識している、という意味である。

以前の仕事で、私は数百名を超える教授、研究者、産学連携担当者と話をする機会があった。その時の感触から、右の2つは当たり前のように認識されていた。日本の大学関係者も、これを読めば、「そんなの分かりきっている」と答えるかもしれない。

大学(院)のミッション

・社会の将来に役立つ人材の輩出・社会の将来に役立つ知識の創造

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3章 分類と事例 ~将来への舵取り 既存領域の深堀、再定義

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Page 39: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

米国の有力大学では、このミッション達成のために何を重視しているか?”社会の将来”のためには、当たり前だが社会を知るのが、まず、第一に必要だ。どこかの大学のように国からのお金が少なくなったから、仕方なく産学連携を考えるのとは、意識レベルが全然違う。技術の標準化委員会に多くの大学関係者が参加している。企業の戦略会議にアドバイザとして多数参加している。今後、どんな人材が必要かを企業側と真剣に議論している。工学部だけではない。法学部にせよ、経済学部にせよ、芸術系にせよ、社会との絆を太くすることが最重要事項の一つとして取り組まれている。

私のいるシリコンバレーでは、大学は社会の中心的な組織と認識されている。

ミッション”社会の将来に役立つ~”

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必要な行動、思考社会との絆を太くする

3章 分類と事例 ~将来への舵取り 既存領域の深堀、再定義

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事例 3

(1) Medtronic

(2) Johnson & Johnson

(B) 組織文化の継承 or 払拭(I) 価値観の継承

3章 分類と事例 ~組織文化 価値観の継承

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(1) Medtronic:

医療従事者や循環器疾患を煩っている方以外は、あまり馴染みのない社名かもしれないが、Medtronicは医療デバイス業界では、世界の超一流企業として君臨している会社である。1949年、米国の片田舎、ミネソタ州ミネアポリスで医療機器の修理工として誕生した同社は、その後、心臓ペースメーカーの開発を契機に医療デバイスの世界のリーディング・カンパニーへと成長を続る。その過程で、創業者、アール・バッケンが彼の同社に対する思いを継承する目的で残したのが、次に記載するミッションである。まずは、同ミッションの前文を右に記載する。

Early in Medtronic's history, co-founder Earl Bakken was

overcome by the emotional response patients had to his

products. They were overjoyed to regain mobility, feel better,

and sometimes even to be alive as a result of Medtronic's

work.

Earl wanted that human benefit to be the company's main

purpose, so he and the board of directors produced a formal

statement of the company's objectives. Nearly a half-century

later, that Mission continues to serve as an ethical framework

and an inspirational goal for employees around the world. It

guides our day-to-day work and reminds us that our efforts are

changing the face of chronic disease for millions of people.

次頁に対訳を掲載

http://www.medtronic.com/about-medtronic/our-mission/index.htm

3章 分類と事例 ~組織文化 価値観の継承

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Page 42: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

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メドトロニック社が創立されて間もない頃、共同創立者のア-ル・バッケンは彼の製品に対する患者たちの喜びの反応に圧倒されるほどでした。それまで動くことができなかった患者が動けるようになったり、病状が快方に向かったり、また、時には、メドトロニック社のおかげで命を救ってくれたといって大喜びだったのです。

ア-ル・ベッケンは人々のために尽くすということを会社の主要な目的にしたいと考え、自分を含む取締役会でわが社の目的を表明する公式のステ-トメントを作成したのでした。およそ半世紀たったいまでも、そのミッションはわが社の世界中の従業員にとっての包括的倫理規範として、精神的な目標として、役立っているのです。それはわれわれの日々の業務の指針であり、われわれの努力が何百万人もの人々にとって、慢性病の様相を大きく変えていっているのだ、ということを思い起こさせてくれるのです。

3章 分類と事例 ~組織文化 価値観の継承

Tuesday, October 27, 2009

Page 43: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

43

右が、1960年に創業者ア-ル・バッケンにより起案され、取締役会で公式に採用されたミッションである。医療デバイスに少しでも関係する学会では、必ずと言っていい程、同社の社員を見かける。同社がベンチャー企業に投資している金額は、一流のベンチャーキャピタル並みであり、運用実績に至っては、超一流と言って良いだろう。同社が本拠地を置くミネアポリスは、人口40万人弱の地方都市にも関わらず、医療デバイス関連では、質・量共にシリコンバレーと並び世界最高峰の産業クラスターを形成している。

MISSION:

To contribute to human welfare by application of biomedical

engineering in the research, design, manufacture, and sale of

instruments or appliances that alleviate pain, restore health, and

extend life.

To direct our growth in the areas of biomedical engineering

where we display maximum strength and ability; to gather

people and facilities that tend to augment these areas; to

continuously build on these areas through education and

knowledge assimilation; to avoid participation in areas where

we cannot make unique and worthy contributions.

To strive without reserve for the greatest possible reliability

and quality in our products; to be the unsurpassed standard of

comparison and to be recognized as a company of dedication,

honesty, integrity, and service.

To make a fair profit on current operations to meet our

obligations, sustain our growth, and reach our goals.

To recognize the personal worth of employees by providing an

employment framework that allows personal satisfaction in

work accomplished, security, advancement opportunity, and

means to share in the company's success.

To maintain good citizenship as a company.

次頁に対訳を掲載

3章 分類と事例 ~組織文化 価値観の継承

http://www.medtronic.com/about-medtronic/our-mission/index.htm

Tuesday, October 27, 2009

Page 44: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

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使命:

医用生体工学の応用により、患者の苦痛を緩和し、健康状態を回復させ、患者の生命を延ばすための器機や装置の研究、設計、製造、製品販売を通じて、人類の福祉に貢献すること。わが社がその力を最大限発揮している医用生体工学の分野でのさらなる発展を目指すこと;これらの分野をいっそう発展させるための人材を集め、また、施設を充実させること;教育と知識を同化させ、引き続きこれら医用生体工学の分野の応用を基礎にすえていくこと;また、わが社が独自の価値ある貢献ができない分野への参入は避けること。わが社の製品の可能な限り最大の信頼獲得と最高の品質追求のための努力を惜しまないこと;比較の上では他社の追随を許さず、奉仕、正直、誠実、そしてサ-ビス精神に満ちた企業として認知されること。当期営業での適正な利益をあげ、企業としての責任を果たし、成長を維持し、目標を達成すること。従業員の個人としての価値を認めること。そのために、従業員に、仕事の達成感や安心感、昇進の機会、会社の成功を分かち合う方法を含む雇用形態を提供すること。企業として、よき市民であり続けること。

3章 分類と事例 ~組織文化 価値観の継承

Tuesday, October 27, 2009

Page 45: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

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(2) Johnson & Johnson:

右は創業家出身で、1963年まで同社会長を務めたRobert Wood

Johnsonが策定したCREDO(信条)である。現在までに36の言語に翻訳、世界中のグループカンパニーに配られている。策定されたのは1943年というから戦時中だが、CSR (Corporate

Social Responsibility)がやかましく言われる今日ですら、CSRのステートメントとして、そのまま使えそうな内容になっている(とWebでも自慢している)。創業120年を超えてなお成長を続ける世界の超優良企業。今回の金融危機でも株価がほとんど下がっていないが、この先見性に優れたCREDOがその一因だろうか。

Our CREDO:

We believe our first responsibility is to the doctors, nurses and

patients, to mothers and fathers and all others who use our

products and services. In meeting their needs everything we do

must be of high quality. We must constantly strive to reduce our

costs in order to maintain reasonable prices. Customers’ orders

must be serviced promptly and accurately. Our suppliers and

distributors must have an opportunity to make a fair profit.

We are responsible to our employees, the men and women who

work with us throughout the world. Everyone must be

considered as an individual. We must respect their dignity and

recognize their merit. They must have a sense of security in their

jobs. Compensation must be fair and adequate, and working

conditions clean, orderly and safe. We must be mindful of ways

to help our employees fulfill their family responsibilities.

Employees must feel free to make suggestions and complaints.

There must be equal opportunity for employment, ...

続きは、こちらを参照http://www.jnj.com/wps/wcm/connect/30e290804ae70eb4bc4afc0f0a50cff8/our-credo.pdf?MOD=AJPERES

次頁に対訳を掲載

3章 分類と事例 ~組織文化 価値観の継承

Tuesday, October 27, 2009

Page 46: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

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我が信条:我々の第一の責任は、我々の製品およびサービスを使用してくれる医師、看護師、患者、そして母親、父親をはじめとする、すべての顧客に対するものであると確信する。顧客一人一人のニーズに応えるにあたり、我々の行なうすべての活動は質的に高い水準のものでなければならない。適正な価格を維持するため、我々は常に製品原価を引き下げる努力をしなければならない。顧客からの注文には、迅速、かつ正確に応えなければならない。我々の取引先には、適正な利益をあげる機会を提供しなければならない。

我々の第二の責任は全社員 ——世界中で共に働く男性も女性も—— に対するものである。社員一人一人は個人として尊重され、その尊厳と価値が認められなければならない。社員は安心して仕事に従事できなければならない。待遇は公正かつ適切でなければならず、働く環境は清潔で、整理整頓され、かつ安全でなければならない。社員が家族に対する責任を十分果たすことができるよう、配慮しなければならない。社員の提案、苦情が自由にできる環境でなければならない。能力ある人々には、雇用、 能力開発および昇進の機会が平等に与えられなければならない。...

続きは、こちらを参照http://www.jnj.co.jp/group/community/credo/index.html

3章 分類と事例 ~組織文化 価値観の継承

Tuesday, October 27, 2009

Page 47: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

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事例 4(1) GE

(2) IBM

(3) 日産

(4) GM

(B) 組織文化の継承 or 払拭II) 官僚主義、旧態依然とした体質の払拭

3章 分類と事例 ~組織文化 官僚主義、旧態依然とした体質の払拭

Tuesday, October 27, 2009

Page 48: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

大きな組織に所属したことがあれば容易に想像できると思うが、存亡の瀬戸際に立たされない限り、組織文化を変えることは非常に難しい。存亡の危機に瀕してすら難しいだろう。90年代、GE(*)、IBM、日産、GMが経営危機に陥った。

(*) GEは、危機の予兆があるだけで業績は悪くなかったが。

48

“これは重大な危険である。それでは自分たちが行っていることが何であり、なぜであるかが分からない。意味のなくなった時代遅れの規則を経営政策と名付け、聖なる牛のように扱うことにもなる。”

ー 『企業とは何か』ピーター F. ドラッカー

3章 分類と事例 ~組織文化 官僚主義、旧態依然とした体質の払拭

Tuesday, October 27, 2009

Page 49: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

GEは危機の予兆の段階で、IBMは危機に陥った段階で、CEO

の断固とした決意の下、徹底的な組織文化の改革を遂行した。数年後、そして今も、GEとIBMは世界の超優良企業に返り咲いている。日産は危機に行き詰まり、独自再建を諦めた。その後、ルノー傘下に入り、親会社から送られた新CEOの氏の下、組織文化の改革を断行。数年後、ルノーグループの一員としてブランドと共に蘇った。一方、GMは組織文化には手を付けず、リストラと新規事業への投資で乗り切ろうとした。そして、昨年から今年にかけて、その醜悪な企業文化が白日の下に晒される結果となった。

49

GE経営危機に陥る前に改革断行。世界の超優良企業の地位を維持。

IBM経営危機に陥った後、社外から新CEOを招き、改革を断行。世界の超優良企業に返り咲く。

日産独自再建を諦めルノー傘下に入る。ルノーから送られてきた新CEOの下、改革を断行。最も利益率の高い自動車メーカーに蘇る。

GM

組織文化には手を付けず、リストラと新事業への投資で乗り切ろうとした。一時好転しかけたが、再び長期的に衰退、連邦破産法11条適応へ。

経営危機に対する各社の対応とその後の経過

3章 分類と事例 ~組織文化 官僚主義、旧態依然とした体質の払拭

Tuesday, October 27, 2009

Page 50: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

(1) GE:

右は、GEのジャック・ウェルチ氏が掲げた”VISION”である。発表されたのは内輪の会議ではなく、CEO就任後、初のウォールストリートへの経営説明会だった。それまで、終身雇用が暗黙の了解だった同社では、これを聞いた社内のショックは、凄まじかったであろう。ウェルチ氏は、最初の2年間で71の事業と製品群を売却、一方で買収、合併、出資案件は計118にものぼった(*)。

(*) 『ジャック・ウェルチ わが経営』ジャック・ウェルチ他、宮本喜一訳 日経ビジネス文庫

50

「世界でもっとも競争力のある企業になる。そのためにすべての市場でナンバー1かナンバー2になる。その可能性のない事業はテコ入れするか、売却するか、閉鎖する」

(1981~1995年までのGEのミッション)

ー『ウィニング 勝利の経営』- Jack Welch著 / 斎藤聖美訳、日本経済新聞社

(*) ウェルチ氏はIBMのガースナー氏と異なり、GE生え抜きの社員、つまり大学院を出てからGE一筋の人物。しかも、MBAではなく、工学博士の技術者。

3章 分類と事例 ~組織文化 官僚主義、旧態依然とした体質の払拭

Tuesday, October 27, 2009

Page 51: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

この発表と、その後、有名になった”選別(*)”方式で、ウェルチ氏は数年以上、マスコミからしばしば吊るし上げられ、また、社内でも戦々恐々の時期が続いた。毎日、社員から山のような抗議の手紙が届いた。中性子爆弾(建物は残して人だけ殺す)のあだ名が付くなど、マスコミの格好の餌食になった。しかし、ウェルチ氏は怯むことなく信念を通し、GEを最強の企業文化へと変身させた。

(*) 人事査定でトップ20%、ミドル70%、ボトム10%に分類、トップには手厚い報酬を与え、一方、ボトムは自動的に解雇される仕組み。ウェルチ氏自身は、経営幹部だけを対象としたが、その後、下部組織でも採用。ある日、突然、解雇を言い渡される方式より、この方式の方が次への準備期間が長いので、社員にとって実は安心できる方式である。選別を経験したことのある知人は、悪くない印象を一様に持っている。今日では、シリコンバレーでも大手優良企業を中心に選別的な方法を採用している企業も増えた。

51

私の経験からいえば、効果的なミッション・ステートメントは、基本的には次の問いかけに回答を与えるものである。

「私たちはこのビジネスでどうやって勝とうとしているのか」

「古きよき時代に私たちは何をうまくやってきたか」に答えるものではない。「どの事業部門や役員もカッカとしないですむように、我々の事業を表現するにはどうすればよいのか」でもない。

ー『ウィニング 勝利の経営』- Jack Welch著 / 斎藤聖美訳、日本経済新聞社

3章 分類と事例 ~組織文化 官僚主義、旧態依然とした体質の払拭

Tuesday, October 27, 2009

Page 52: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

(2) IBM:

転換を迫られた企業の舵取りを物語った著作としては、 ルイス・ガースナー氏(IBM 前CEO)の『巨像も踊る(*)』がMBA

コースなどで推薦書になるなど著名である。90年代初め、IBMは現在の米国自動車ビッグ3のように深刻な経営危機に陥り、12万人以上の解雇者を出し、アナリスト等からは「存在価値のない会社」、「数年で潰れる」と酷評を受けていた。ご存知のように、 IBMはガースナー氏の指揮下、当時のハードウェア中心のビジネスモデルから、その後、サービス中心の超優良企業へと華麗なる変身を遂げる。

(*) 原作は、”Who says elephants can’t dance?”、山岡洋一・高遠裕子 両氏の邦訳で日本経済新聞社から出版されている。

MISSION:

“We strive to lead in the invention, development and

manufacture of the industry's most advanced information

technologies, including computer systems, software, storage

systems and microelectronics. We translate these advanced

technologies into value for our customers through our

professional solutions, services and consulting businesses

worldwide.”

52

次頁に対訳を掲載

3章 分類と事例 ~組織文化 官僚主義、旧態依然とした体質の払拭

(*) 上記の”VISION”は、ガースナー氏の時代のものであるが、同氏の著書には登場しない。

Tuesday, October 27, 2009

Page 53: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

ミッション:

我々は、コンピュータ・システム、ソフトウェア、ストレージ・システム、及びマイクロ・エレクトロニクスを含む領域で、 産業界で最も進んだ情報技術の発明、開発、製造で世界をリードし続ける。そして、ワールドワイドに広がるプロフェッショナル・ソリューション、サービスおよびコンサルティング・ビジネスを通して、これらの技術をお客様にとって価値の高い製品へと結びつけていく。

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3章 分類と事例 ~組織文化 官僚主義、旧態依然とした体質の払拭

Tuesday, October 27, 2009

Page 54: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

一方、同時進行で創業者が築き、その後、時代に適合しなくなった企業文化を改革するという難事業も達成する。そして、この難事業達成に向けガースナー氏が導入した ”いわゆるビジョン”が右に挙げる ”PRINCIPLES”になる。

(*) ガースナー氏がCEO就任時のIBMの企業文化に関する記載は、閉塞感が蔓延する現在の日本の大手企業、役所、学校等の組織文化に驚くほど重なるところが多い。今の組織文化に問題意識のある方は、一読されることを勧める。

PRINCIPLES:

The marketplace is the driving force behind everything we do.

At our core, we are a technology company with an overriding

commitment to quality.

Our primary measures of success are customer satisfaction

and shareholder value.

We operate as an entrepreneurial organization with minimum

burencracy and a never-ending focus on productivity.

We never lose sight of our strategic vision.

We think and act with a sense of urgency.

Outstanding, dedicated people make it all happen, particularly

when they work together as a team.

We are sensitive to the needs of all employees and the

communities in which we operate.

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次頁に対訳を掲載

3章 分類と事例 ~組織文化 官僚主義、旧態依然とした体質の払拭

Tuesday, October 27, 2009

Page 55: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

原則

市場こそが、すべての行動の背景にある原動力である 当社はその核心部分で、品質を何よりも重視するテクノロジー企業である 成功度を測る基本的な指標は、顧客満足度と株主価値である 起業家的な組織として運営し、官僚主義を最小限に抑え、つねに生産性に焦点を合わせる 戦略的なビジョンを見失ってはならない 緊急性の感覚をもって考え行動する 優秀で熱心な人材がチームとして協力し合う場合にすべてが実現する 当社はすべての社員の必要とするものと、事業を展開するすべての地域社会に敏感である

(*) 『巨像も踊る』山岡洋一氏、遠藤裕子氏の翻訳。同著書中では、各々の補足説明があり、そちらも是非、参照頂きたい。

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3章 分類と事例 ~組織文化 官僚主義、旧態依然とした体質の払拭

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Page 56: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

『巨像も踊る』は、企業文化の改革にウェイトを置いた著作になっているが(実際、前述の”MISSION”は本書には記載されていない)、同氏の活動は、IBMの企業文化を時代・社会に柔軟に適合できる体質改善活動であったのだろう。

56

手続き、ルール、プロセス

作られた当初は機能するが、...

歳月とともに当初の形態と意図から外れ、形骸化、手段の目的化へ

閉塞的、官僚主義の組織へ

手続き、ルール、プロセスを破壊、一掃

原則によるリーダーシップへ

3章 分類と事例 ~組織文化 官僚主義、旧態依然とした体質の払拭

Tuesday, October 27, 2009

Page 57: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

(3) 日産:

92~99年の8年で7度の赤字、有利子負債額2兆1千億円、2000年3月期には6800億円を超える最終赤字が予想されていた。今となっては、昨今のGMの破綻と比べると見劣りする数字(?)かもしれないが、当時は絶望的な状態と見なされていた。右は、2005年、再建成功後にCNNが行ったカルロス・ゴーン氏へのインタビューからの抜粋である。

57

鍵となった3つの要因

(再生へ向けた)シンプルな”VISION”

- 我々はどこに向かっているのか- 目的地はどこか

戦略- どうやってそこに辿り着くのか- どんなアクション・プランか

コミットメント-上記が経営のどのレベルにも浸透され、また、誰もが自分にどんな貢献が期待されているかを知っていることを確かなものとする。その上で、経営トップからの強いコミットメントを感じなければならない。

- “Carlos Ghosn: Nissan’s turnaround artist”, Benjamin, CNN

http://edition.cnn.com/2005/BUSINESS/04/20/boardroom.ghosn/

3章 分類と事例 ~組織文化 官僚主義、旧態依然とした体質の払拭

Tuesday, October 27, 2009

Page 58: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

ゴーン氏著作の”SHIFT - Inside Nissan’s Historical Revival”から、再建時のビジョンを表している部分を右に記載する。

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“I know and I measure how much effort, how much sacrifice,

and how much pain we will have to endure for the success of

the Nissan Revival Plan. But believe me, we don't have a

choice, and it will be worth it. We all shared a dream: a

dream of a reconstructed and revived company,

a dream of a thoughtful and bold Nissan on

track to perform profitable growth in a balanced

alliance with Renault to create a major global

player in the world car industry. This dream

becomes today a vision with the Nissan Revival

Plan. This vision will become a reality as long as

every single Nissan employee will share it with

us.”

- "SHIFT - Inside Nissan's Historic Revival", Carlos Ghosn, et al.

次頁に対訳を掲載

3章 分類と事例 ~組織文化 官僚主義、旧態依然とした体質の払拭

Tuesday, October 27, 2009

Page 59: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

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私には「日産再建計画」の成功のために、われわれが、どれだけの努力をし、どれだけの犠牲を払い、どれだけの痛みに耐えねばならないかわかっている。しかし、私を信じて欲しい。われわれには選択の余地はないし、また、そうする価値があるのだ、ということを。われわれ社員一同は一つの夢を共有するのだ。会社が再建され、復活した姿を見せる日の夢、ルノ-とのバランスのとれた提携により、収益をあげ、成長への軌道に乗った細心にして大胆な日産の夢、そして、日産が、世界の自動車産業界の主役になる日の夢を。この夢が「日産再建計画」のビジョンになる。この夢は日産の従業員の一人残らず全員がともに分かち合ってこそ現実になるのだ。

- "SHIFT - Inside Nissan's Historic Revival", Carlos Ghosn, et al.

3章 分類と事例 ~組織文化 官僚主義、旧態依然とした体質の払拭

Tuesday, October 27, 2009

Page 60: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

戦略、アクション・プランは良く知られた”NISSAN

REVIVAL PLAN”である。大胆なコスト計画が柱となった衝撃のアクション・プランであった。このプランの前半で、経営危機に陥った要因分析として、それまでの企業文化を右のように取り上げている。

60

http://www.nissan-global.com/JP/DOCUMENT/PDF/FINANCIAL/REVIVAL/DETAIL/1999/fs_re_detail1999h.pdf

過去の業績不振の原因

利益追求の不徹底 顧客志向性の不足 機能、地域、職位横断型業務の不足 危機意識の欠如 共有ビジョンや共通の長期計画の欠如

3章 分類と事例 ~組織文化 官僚主義、旧態依然とした体質の払拭

Tuesday, October 27, 2009

Page 61: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

さらに、右の目標を掲げ、経営トップのコミットメントとして、もし、右の項目の1つでも期日までに達成できなければ、ゴーン氏を含む経営陣全員が退任することを記者会見の場で表明した。

61

http://www.nissan-global.com/JP/DOCUMENT/PDF/FINANCIAL/REVIVAL/DETAIL/1999/fs_re_detail1999h.pdf

2000年度に連結当期利益の黒字化を達成 2002年度に連結売上高営業利益率4.5%以上を達成 2002年度末までに自動車事業の連結実質有利子負債を7000億円以下に削減

3章 分類と事例 ~組織文化 官僚主義、旧態依然とした体質の払拭

Tuesday, October 27, 2009

Page 62: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

その後は周知のように、日産は当初の計画を1年前倒しで達成する。また、2003年までに2兆1千億円の借金を完済。2004年の時点で、自動車メーカーで世界で最も営業利益率の高いメーカーになった。

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3章 分類と事例 ~組織文化 官僚主義、旧態依然とした体質の払拭

Tuesday, October 27, 2009

Page 63: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

(4) GM:

GMは前述の3社と異なり、組織文化には手を付けなかった。いや、付けられなかった。何故、組織文化の改革に着手できなかったのか?過去の偉大な経営者、アルフレッド

P. スローン(*1)と彼が残した一冊の本の影響が大きいだろう。4章の「価値観の継承」で述べることが当てはまるが、1963年に出版された同氏の著作の存在が大きすぎたのだ。これについては、立命館大学の坂本和一教授の論文に詳しく記載されている(*2)。

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(*2) http://www.ritsumei.ac.jp/~kazuichi/profile/2008.1.pdf

(*1) MITの経営大学院、”Sloan School of Management”の 設立者

3章 分類と事例 ~組織文化 官僚主義、旧態依然とした体質の払拭

日本語版は『GMとともに』のタイトルでダイヤモンド社から出版されている。現在も経営書のバイブルと称賛されている。

http://www.amazon.com/Years-General-Motors-Alfred-Sloan/dp/0385042353/ref=sr_1_1?ie=UTF8&s=books&qid=1254532694&sr=8-1

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Page 64: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

64

3章のまとめ

3章 分類と事例

Tuesday, October 27, 2009

Page 65: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

3章では、右の4つのケースに対し、それぞれ事例を紹介した。各々のケースで登場するステートメントは、教科書の言葉では、ビジョンだったり、ミッションだったり、原則だったりと様々だ。一方で、全ての事例に共通して言えるのは2章で述べた機能である。つまり、どの ”VISION”

も、組織内のメンバーへ変化への感度を高め、自律的に考え、行動することを支える基準になり、組織外のステークホルダーへは、賛同と理解、そして協力を呼びかける内容になっている。

次章では、”VISION”の策定について述べる。

65

(A) 将来への舵取りI) 新領域を開拓II) 既存領域の深堀、再定義

(B) 組織文化の継承 or 払拭I) 価値観の継承II) 官僚主義、旧態依然とした体質の払拭

3章 分類と事例

Tuesday, October 27, 2009

Page 66: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

4章 VISIONの策定について

66Tuesday, October 27, 2009

Page 67: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

”VISION”策定を目的に”VISION”を策定してはならない。当たり前のことだが、現実には、多くの組織で計画書の体裁を整えるために”VISION”を作成していないだろうか?3章を記載した理由は、ここにある。

機能する”VISION”は、策定段階で明確な目的がある。経営企画部が作成した事業計画書ひな形の項目を埋めるためではない。

67

まず、“VISION”策定の目的を明確に。“VISION”策定という手段を目的化しないように。

4章 VISIONの策定について

Tuesday, October 27, 2009

Page 68: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

組織が置かれる状況は様々であり、”VISION”を策定する目的も多様であろう。しかし、多くの場合、目的は3章で取り上げた右の4項目に分類できると思う。そこで、以降では、この分類毎に策定に関して述べる。

68

(A) 将来への舵取りI) 新領域を開拓II) 既存領域の深堀、再定義

(B) 組織文化の継承 or 払拭I) 価値観の継承II) 官僚主義、旧態依然とした体質の払拭

4章 VISIONの策定について

Tuesday, October 27, 2009

Page 69: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

69

(A) 将来への舵取りI) 新領域を開拓

VISIONの策定方法について

4章 VISIONの策定について~将来への舵取り(新領域を開拓)

Tuesday, October 27, 2009

Page 70: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

前述のAdobeの例が示すように、組織がどこに向かうのか、そのためにどんなことに敏感にならなければならないのか、どんなアイデアが歓迎されるのか、組織内外に理解してもらう必要がある。そして、理解してもらうためには根拠が不可欠だ。新しい領域に踏み込み、そこで成功できることを組織内外に伝えられるストーリーが必要になる。新領域開拓を目的とする”VISION”には、右の要件を満たす必要がある。

70

組織内部に対して:

『我々だからこそ、やるべき領域である』と自覚できること

組織外部に対して:

『彼らなら、実現できるかもしれない』と期待を持たせられること

4章 VISIONの策定について~将来への舵取り(新領域を開拓)

Tuesday, October 27, 2009

Page 71: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

Adobeは通信アプリの会社ではなかった。しかし、プラットフォーム競争では巨人Microsoftにすら連勝していた。通信アプリという切り口では、社内外で賛同を得ることは難しかっただろう。しかし、プラットフォームとなれば、社内は「それは我々が」と奮起し、社外は「Adobeなら」と期待を抱けただろう。

71

自分たちの強み

自分たちが誇れる実績(世の中への貢献)

4章 VISIONの策定について~将来への舵取り(新領域を開拓)

Tuesday, October 27, 2009

Page 72: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

新領域開拓を目的とするなら、組織内には奮起を、外部には期待を起こさせるシナリオが必要だ。そのためには、まず、右の項目の少なくとも一方、すなわち、良い意味での自分達らしさを、真摯に、客観的に考える。

72

自分たちの強み自分たちが誇れる実績(世の中への貢献)

4章 VISIONの策定について~将来への舵取り(新領域を開拓)

Tuesday, October 27, 2009

Page 73: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

強みはあるのか?誇れる実績はあるのか?「そんなもん、あるなら苦労しない」とふて腐るリーダーもいるだろう。反対に、客観的には、全然、強みでないことを強みと自己暗示に懸命になるリーダーもいるだろう。

しかし、ここは、手を抜いたり、諦めることはできない。

新領域に手を付けられる組織は、普通は多少なりとも誇れる過去があるはずである。見方を変え、見る対象を変えれば、探し求めたピースは見つかるはずである。

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自分たちの強み自分たちが誇れる実績(世の中への貢献)

4章 VISIONの策定について~将来への舵取り(新領域を開拓)

Tuesday, October 27, 2009

Page 74: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

組織の内外を認めさせられるピースが見つかったら、次はいよいよ、ビジョンのシナリオ策定に取り組む。「俺には、そんなセンスはない」と萎縮してしまうかもしれない。もし、全く新しいアイデアを打ち立てるのであれば、相応のクリエイティビティを要求されるだろう。だが、そんなことは稀である。我々が考えつくアイデアと似たアイデアは、ほぼ確実に、既に誰かが考えている。AdobeのRIA、IBMのサービス事業、APPLEのiPod/iPhone、いずれも、全く新しいシナリオではなかった。

74

VISON - 強み・実績を絡めたシナリオ作り

4章 VISIONの策定について~将来への舵取り(新領域を開拓)

Tuesday, October 27, 2009

Page 75: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

他社やベンチャー企業等の構想を日頃から気にかける。対象範囲を広め、異分野や海外市場も貪欲に情報を取りに行く。この過程を通し、事業性に魅力があり、尚かつ、自分たちの強み・実績が活かせるシナリオを探し、模倣し、強み・実績を組込み、自分たちの組織へフィットさせる。ビジョンのシナリオ策定は、結局のところ、いかに多くの構想案を日頃、耳にしているかに掛かっている。

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坂本龍一「作曲の95%は過去の遺産を糧にしており、作曲家自身の発明はせいぜい1~2%、最大でも5%くらいのもの」

ジョン・レノン「僕らの曲をオリジナルだなんていわないでくれ。ありゃ全部パクリだよ」

4章 VISIONの策定について~将来への舵取り(新領域を開拓)

Tuesday, October 27, 2009

Page 76: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

ビジョンのシナリオは、”オリジナル”か”パクリ”かの違いに意味はない。右の機能を果たせるか否かである。オリジナリティに拘る必要はない。それより、強み・実績を説き、組織内外の人々を喚起することが重要である。

シリコンバレーの起業家たちは、毎度、ディスカッションするたびにシナリオが修正されている。彼らは、色々な人とディスカッションすることでシナリオが磨かれていくと信じている。大企業の社員ですら、煮詰まっていない段階の”VISION”を外部の人間と議論する。本書の議論を踏まえて、色々な人と議論してみるのは最良の方法であろう。

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“VISION”

“VISION”

組織外部に対しては、...(2章 P.20)

組織内部に対しては、...(2章 P.19)

4章 VISIONの策定について~将来への舵取り(新領域を開拓)

Tuesday, October 27, 2009

Page 77: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

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(A) 将来への舵取りII) 既存領域の深堀、再定義

4章 VISIONの策定について~将来への舵取り(既存領域の深堀、再定義)

VISIONの策定方法について

Tuesday, October 27, 2009

Page 78: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

既存事業の深堀、あるいは、再定義は、経営の教科書で扱われる最も一般的な命題であり、方法論はかなり確立されている。

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4章 VISIONの策定について~将来への舵取り(既存領域の深堀、再定義)

Tuesday, October 27, 2009

Page 79: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

基本は組織の再査定からスタートする。右は、ピーター・ドラッカーら経営学の大御所が組織の自己査定に関する方法をまとめた”The Five Most Important

Questions”という著作から引用した5項目である。右の5つの質問に脊髄反射で答えるのが目的ではない。これら5つの質問に対する答えを、もう一度、じっくり考え直して見なさい、というのが同書の趣旨である。

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1) 我々のミッションは何か?2) 我々の顧客は誰か?3) 顧客の価値は何か?4) 我々の成果は何か?5) 我々の計画はどうあるべきか?

“The Five Most Important Questions - You will ever ask about your organization”

Peter F. Drucker with Jim Collins, Philip Kotler, et al.Leader to Leader Institute

4章 VISIONの策定について~将来への舵取り(既存領域の深堀、再定義)

Tuesday, October 27, 2009

Page 80: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

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1) 我々の顧客は誰か?2) 顧客の価値は何か?

3) 我々のミッションは何か?

4) 我々の成果は何か?5) 我々の計画はどうあるべきか?

既存事業を継続している営利企業の場合(*)、順番を右のように変え、1)、2)から考え始めるのが良いだろう。何故なら、非営利組織の場合、今あるリソース(=強み)を活用するしか道がないが、営利企業の場合、既存市場へアクセス、つまり顧客との接点自体が強みにもなる。顧客価値に繋がるものが何か分かれば、それを買収や提携で入手できる可能性があるからだ。

(*) “The Five Most Important Questions”は、非営利組織の経営にウェイトが置かれている。

4章 VISIONの策定について~将来への舵取り(既存領域の深堀、再定義)

Tuesday, October 27, 2009

Page 81: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

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1) 我々の顧客は誰か?2) 顧客の価値は何か?

「顧客層は不変ではない。あなたが製品を提供している顧客グループの潜在顧客数も増減する。顧客は多様化する。顧客に必要な物、顧客が求める物、顧客の願望は進化する。」

“The Five Most Important Questions - You will ever ask about your organization”

Peter F. Drucker with Jim Collins, Philip Kotler, et al.Leader to Leader Institute

“顧客”に関してピーター・ドラッカーは著書の中で、「組織が達成した成果によって満足させられるべき人々」と述べている。あなたが組織のリーダーならば、”顧客は誰か”、”顧客の価値は何か”、色々な角度から、何度も何度もじっくり考えなければならない。

4章 VISIONの策定について~将来への舵取り(既存領域の深堀、再定義)

Tuesday, October 27, 2009

Page 82: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

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3) 我々のミッションは何か?

顧客の価値を明らかにしたら、次は、その価値をもたらすために組織はどのように行動すべきか、そのための組織の思考と行動の基準となる考えを定義する。

4章 VISIONの策定について~将来への舵取り(既存領域の深堀、再定義)

Tuesday, October 27, 2009

Page 83: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

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“VISION”

“VISION”

組織外部に対しては、...(2章 P.20)

組織内部に対しては、...(2章 P.19)

4章 VISIONの策定について~将来への舵取り(既存領域の深堀、再定義)

このようにして考えたミッションは、2章で述べた右の機能を有する。これが、「既存領域の深堀、再定義」を目的とした ”VISION”になる。

Tuesday, October 27, 2009

Page 84: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

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(B) 組織文化の継承 or 払拭I) 価値観の継承

VISION策定の留意事項について

4章 VISIONの策定について~組織文化(価値観の継承)

Tuesday, October 27, 2009

Page 85: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

”価値観の継承”とは、3章のMedtronicと Johnson & Johnson の例が示すように、事業を軌道に乗せたリーダーが成功の秘訣を”価値観”として組織に定着させようというケースである。多くの優良企業で、この手の価値観は文章化しているので見本には不自由はしないはずだ。Medtronic や Johnson & Johnson

も良い例になると思う。よって、ここでは、策定方法を述べることは省略する。

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4章 VISIONの策定について~組織文化(価値観の継承)

Tuesday, October 27, 2009

Page 86: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

一方、策定者が偉大なリーダーであればあるほど、後の組織では、それを変更できなくなるので、策定には十分な留意が必要になる。つまり、組織が成功すればする程、官僚主義的な流れの中で曲解して使われるようになる。

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「基本信条はワトソン(*)の時代に、そしてその後の数十年に、たしかに原則として機能していた。しかし、素晴らしい響きをもった原則から、見る影もないものに様変わりしていた。贔屓目に見ても、退屈なお説教でしかなかった。」

ー『巨像も踊る』より

4章 VISIONの策定について~組織文化(価値観の継承)

(*) IBMの創業者、Thomas J. Watson, Sr。息子であり、第2代目CEO(1952-1971年)のThomas J. Watson, Jrも伝説的経営者。ちなみに、 Sr

の父も Thomas Watson。

Tuesday, October 27, 2009

Page 87: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

右はワトソン氏の基本信条である。文言自体は非の打ちようもない。同じ文言を真似して額縁に飾っている日本企業も多いだろう。しかし、これらが、その後、IBM社内では次項のように曲解されるようになる。

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ワトソン氏のBASIC BELIEFS(基本信条)

・Excellence in everything we do (完全性の追求)

・Superior customer service (最善の顧客サービス)

・Respect for the individual (個人の尊重)

4章 VISIONの策定について~組織文化(価値観の継承)

Tuesday, October 27, 2009

Page 88: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

”基本信条”の文言は、右のように策定者のワトソン氏が考えていたはずのない意味を持つようになった。組織は成長すれば、官僚主義の芽が必ず出てくる。過去の偉大なリーダーの価値観は、時を経ると悪しき官僚システム化への口実になりやすい。「価値観の継承」を目的とした”VISION”は、策定時にこのことをよく想定しておくべきである。

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~曲解された基本信条~

”完全性の追求”

→管理組織の影響力拡大を助長、窒息しそうな官僚主義構造ができあがる。

”最善の顧客サービス”

→ビジネスが順調に伸びている時の成功方式をルール化、固持。その後、市場環境が変った後でも顧客のニーズよりも自分たちのルールを守ることにこだわり続ける。

”個人の尊重”

→個人の尊重ではなく、社員の飽くなき”権利意識”、

IBMの正社員だからというだけでの”特権意識”が蔓延。上司の指示に同意できなければ、無視することもできるようになる。個人の責任が限りなく小さくなる。社員の視野を内へ内へと向かわせる。

4章 VISIONの策定について~組織文化(価値観の継承)

Tuesday, October 27, 2009

Page 89: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

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“VISION”策定時の留意点

(1) 組織が時代・環境に応じて適応・進化することを要求

(2) 各文言の趣旨を詳しく説明した補足資料を正式文書として別途作成すること

右は、以上を踏まえての留意事項である。一つ目は、策定する”VISION”の項目の最初か最後に、あなたの組織が時代・環境に応じて適応・進化しなければいけない、旨の項目を入れておくのが良いだろう。時代や社会環境への適応があって初めて組織は生き残れる。二つ目は、”VISION”の各項目に対する詳細説明の資料を別途作成し、こちらも正式の文書として残しておくべき。もちろん、価値観を曲解されないためである。

IBMのガースナー氏は、”PRINCIPLE”の各条文に対し、各々詳しい説明文を残している。

4章 VISIONの策定について~組織文化(価値観の継承)

Tuesday, October 27, 2009

Page 90: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

私が、以前勤めていた会社では、耳を疑うような駐在員規定が残っていた。例えば、「駐在員は互いに5マイル以上、離れたところに住居を借りること」とか、「駐在員は、ドイツ車、及び、日本車に乗ることを禁ずる」など。40年も昔に策定された規定だが、策定した人物が社長・会長を長年務めるなど、極めて影響力の大きな人物であったため、誰もその規定に手を入れる者はいなかった。策定した時代背景を考えると、日本企業が良き市民として米国社会に受け入れられるためには妥当な規定だったかもしれない。しかし、21世紀まで残す規定ではなかった。現地の責任者が決められる駐在員規定ですらこの状態である。ましてや会社全体の価値観に至っては、後の組織での変更は極めて難しいと考えるべきだ。

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4章 VISIONの策定について~組織文化(価値観の継承)

Tuesday, October 27, 2009

Page 91: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

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(B) 組織文化の継承 or 払拭I) 官僚主義、旧態依然とした体質の払拭

VISIONの策定方法について

4章 VISIONの策定について~組織文化(官僚主義、旧態依然とした体質の払拭)

Tuesday, October 27, 2009

Page 92: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

3章でも述べたが、組織文化の変革は極めて難しい取り組みである。GE、IBM、日産の例では、いずれも、①”VISION”を掲げる、②社内に浸透させる、③経営トップのコミットメントを示す、の基本3本セットを忠実にこなしている。

92

4章 VISIONの策定について~組織文化(官僚主義、旧態依然とした体質の払拭)

GE経営危機に陥る前に改革断行。世界の超優良企業の地位を維持。

IBM経営危機に陥った後、社外から新CEOを招き、改革を断行。世界の超優良企業に返り咲く。

日産独自再建を諦めルノー傘下に入る。ルノーから送られてきた新CEOの下、改革を断行。再び、世界の舞台へ蘇る。

GM組織文化には手を付けず、リストラと新事業への投資で乗り切ろうとした。連邦破産法11条適応へ

経営危機に対する各社の対応とその後の経過

Tuesday, October 27, 2009

Page 93: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

掲げた”VISION”は、右のように三者三様である。共通点は、これらの”VISION”を策定する前に、組織文化の問題点を非常に深く分析している点である(次項)。

93

4章 VISIONの策定について~組織文化(官僚主義、旧態依然とした体質の払拭)

GE

「すべての市場でナンバー1かナンバー2になる。その可能性のない事業はテコ入れするか、売却するか、閉鎖する」

IBM 8つの”PRINCIPLE (原則)”

日産 “NISSAN REVIVAL PLAN”と再建へのビジョン

掲げた”VISION”

Tuesday, October 27, 2009

Page 94: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

右に、3社が自社の組織文化を分析した結果をまとめた。前項の各社の”VISION”は、この分析結果に対して策定されている。

94

4章 VISIONの策定について~組織文化(官僚主義、旧態依然とした体質の払拭)

GE

<分析結果から設定した目標>意識が高いだけでなく、適応力に優れ行動が機敏に• 現実(ありのままに見て、率直に対処)

• 品質(能力の限界を突き破るようストレッチ)

• 人的要素(積極的に挑戦する雰囲気)

IBM

<分析結果から導かれた問題点>• 顧客のニーズに無関心で、社内政治に没頭• 官僚組織が縄張りを守るための存在に• 「ノー」の文化、会社方針を無視• 経営幹部がリーダーでなく、プロセス統括者等

日産

<分析結果から導かれた問題点>• 利益追求の不徹底• 顧客志向性の不足• 機能、地域、職位横断型業務の不足• 危機意識の欠如• 共有ビジョンや共通の長期計画の欠如

組織文化の分析結果

Tuesday, October 27, 2009

Page 95: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

当然だが、3社とも“VISION”を打ち出した後は、それを徹底的に組織へ浸透させる取り組みを始める。ガースナー氏の表現では、”VISION”を「DNAに浸透させる方法を編み出さなければならない」。

この方法も三者三様である。が、

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“VISION”“MISSION”“CREDO”“PRINCIPLE”“VALUE”“MOTTO”“BILIEF”...

4章 VISIONの策定について~組織文化(官僚主義、旧態依然とした体質の払拭)

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Page 96: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

3CEOとも強力な”ショック療法”からスタートしている点は共通である。

GEの場合は、記者会見で”ナンバー1か、ナンバー2”戦略を発表、最初の2年間で凄まじい数の案件を実行に移した。日産の場合は、独自再建を諦めルノー傘下に入ること、さらにルノーから”コストカッター”の異名を持つゴーン氏が送られてきたこと、そして、NISSAN REVIVAL PLANと3段階で大きなショックがあった。

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4章 VISIONの策定について~組織文化(官僚主義、旧態依然とした体質の払拭)

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Page 97: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

IBMは、GEや日産に比べると多少ソフトであった。まず、官僚主義が生み出したルールやプロセスをほぼ一掃させる。GEや日産ほどではなくとも、恐らく、これだけでも、会社全体がショックを受け、大混乱に陥ったであろう。続けて、前述の”PRINCIPLE”を打ち出し、それを右のような

”ショックの連続”の取り組みで浸透させていった。

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既存ルール・規定・手続きを一掃、プロセスを破壊

↓“PRINCIPLE”を策定、新IBMの優先事項を明確化

↓上級幹部会(全世界)にて、いかに現状の組織文化が競争力を低下させているかを示し、徹底的な改革を宣言

↓旧IBMと大きく異なるリーダーの条件を文書化して示す。さらに、これをもとに幹部の研修プログラムを開始。

↓象徴的な取り組みとして、企業戦略を議論する”上級指導者グループ”を組織。メンバーは肩書きや地位に関係なく、リーダーとしての資質で選任(旧IBMでは、あり得なかった)。

↓(業績の回復もあり、改革が停滞)

↓”PRINCIPLE”に、より連動した業績評価方法を導入

↓・・・

4章 VISIONの策定について~組織文化(官僚主義、旧態依然とした体質の払拭)”VISION (PRINCIPLE)”浸透へ、IBMの取り組み

Tuesday, October 27, 2009

Page 98: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

もちろん、ショックを与えるだけでなく、経営トップのコミットメントを示し、”VISION”を浸透させる取り組みをトップ自ら相次いで投入する。右は、各経営トップが取った”VISION”を浸透させるためのコミットメントと取り組みをまとめたものである。

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4章 VISIONの策定について~組織文化(官僚主義、旧態依然とした体質の払拭)

GE

•マスコミに何を言われようが揺るがない•最初の2年間で71の売却案件、118の買収・合併・出資案件を実行

•GEグループ内でウェルチ氏自身が隔週で”タウンミーティング”を開催、改革の必要性を訴える

IBM

•上級幹部会(全世界)にて徹底的な改革を宣言•旧IBMと大きく異なる”リーダーの条件”を明文化•”上級指導者グループ”を新規組成、肩書き・地位に関係なくリーダーの資質だけで招集等、“PRINCIPLE”を浸透させる施策を次々実行

日産

•再建計画に掲げる3つの目標が1つでも期限内に達成できなければ、経営陣が総退陣すると表明

•クロス・ファンクショナル・チームを改革の象徴的体制とし、実質、CEO直属とする等

経営トップのコミットメントと”VISION”を浸透させる取り組み

Tuesday, October 27, 2009

Page 99: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

組織のメンバーのDNAへ浸透させる方法は、組織の性格や置かれている状況によって調整する必要はあるが、リーダー自らが先頭に立って改革を推進する必要性はどの組織でも変らないだろう。

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“このままでは自分が役に立たなくなるとわかれば、たいていの人は奮起する。そして、ほとんどの人は将来についての説得力あるビジョンがあれば、やる気になる”

ールイス・ガースナー、『巨像も踊る』より

4章 VISIONの策定について~組織文化(官僚主義、旧態依然とした体質の払拭)

Tuesday, October 27, 2009

Page 100: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

以上、3社の”VISION”の策定から浸透までをまとめた。各々のステップの詳細は各社各様ではあるが、いずれも右の流れのステップを踏んでいる。

組織文化の分析では大きな声では言い難い、組織を弱くする問題が幾つも浮かび上がるだろう。94頁の例の他にも、例えば、「出る杭を打つからYESマンだらけ」、「誰もリスクを取らない」、「自部門の利益しか追求しない、 全社的利益は二の次」、「リーダー不在で管理者ばかり」、「”とは言っても”と上位方針を簡単に歪める」、「”やむない理由で撤退”ばかりのやったフリ症候群」等である。

100

4章 VISIONの策定について~組織文化(官僚主義、旧態依然とした体質の払拭)

組織文化を分析

↓“VISION”を策定

↓ショック療法

↓“VISION”に基づく指導(評価)、管理の表明

↓トップのコミットメントを表明

↓“VISION”を浸透へ

(“VISION”に基づく改革の実行)

↓(絶えまぬ改革へ)

・・・

”VISION”の策定から浸透までの流れ

Tuesday, October 27, 2009

Page 101: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

”VISION”策定の目的は、分析で明らかになった組織文化の問題払拭である。組織を弱め蝕む悪しき文化を払拭し、新しい文化を組織の”DNA”に浸透させることだ。

“VISION”策定後の作業は額縁に入れて壁に貼り出すことではない。”VISION”を浸透させるアイデア(例えば右に示す基準や条件・取り組みへの浸透)を次から次へと生み出し、実行に移すことである。

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4章 VISIONの策定について~組織文化(官僚主義、旧態依然とした体質の払拭)

“VISION”浸透のアクション(例)

象徴的な出来事(*1)

判断、決断の新基準個人や組織の新成果評価基準昇進の新条件経営幹部の新条件採用の新基準幹部研修の新しい目的・目標新しいプロジェクトスタイルの導入(*2)

新人事制度・・・等

(*1) 大抜擢人事、大規模組織異動、降格人事、部門売却、等(*2) 例えば、日産の”クロス・ファンクショナル・チーム”、IBMの”上級指導者グループ”など

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Page 102: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

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“VISION”

“VISION”

組織外部に対しては、...(2章 P.20)

組織内部に対しては、...(2章 P.19)

したがって、”VISION”を書く際には、前項右の例に挙げたような項目へ具体的なアイデアに繋がるように意識する。組織を蝕む悪しき文化を払拭し、組織を強くする新しい取り組みに正統性を与える内容になるよう意識する。

このような意識で作成された”VISION”は、組織内部に対しては、変革へ敏感になり、変るために何をすべきか、優先順位、取捨選択を自律的に考えられるようになる。組織の外部に対しても、Win-Winの関係を強化するチャンスとして賛同と期待を得られるであろう(*)。

4章 VISIONの策定について~組織文化(官僚主義、旧態依然とした体質の払拭)

(*) 例えば、日産はリバイバル・プランで1145社あったサプライヤーを600社へ減らすと発表した。力のあるサプライヤーにとっては、顧客である日産が再生し、尚かつ、納品が大幅に増えるチャンスであるから、賛同と期待を得られたであろう。

Tuesday, October 27, 2009

Page 103: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

”VISION”策定の要点を右図にまとめる。まず、”VISION”で掲げた内容が組織を蝕み、弱める文化を否定、払拭できるか確認する。その後、”VISION”がアクションに繋がるか、アクションを起こそうとする人物に正統性を与えるか確認する。これには、幾つか、具体的なアクションの例を考えてみるべきである。

以上が、”VISION”策定方法である。

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4章 VISIONの策定について~組織文化(官僚主義、旧態依然とした体質の払拭)

組織文化の分析結果

“VISION”

“VISION”浸透のアクション

組織を蝕み弱める悪しき文化を否定、払拭するか?

アクションに結びつくか?アクションに正統性を与えるか?

”VISION”策定の要点

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Page 104: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

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ここでは、「官僚主義、旧態依然とした体質の払拭」のケースとして経営危機に陥った企業の例を取り上げた。しかし、もう少し、身近で緊急性は少ないが、重要な「組織の体質改善」の取り組みは他にもある。その代表例が、最近、欧・米・アジアの企業が非常に重要視している ”Diversity and

Inclusion”である(「付録」のHarley-Davidson参照)。

日本では、Diversityは、まだ女性を積極に活用しようという程度の段階だが、欧米では、年齢、出身国や文化、人種、宗教等の多様性を経営トップが音頭を取って積極的に取り入れている。倫理の問題ではない。多様なアイデア、価値観、機会を取り入れ、新たなイノベーションと市場を創出しようという狙いである。つまり企業の競争戦略上の課題として取り組んでいる。少なくとも環境問題よりも優先順位の高い課題として取り組んでいる。

”Diversity and Inclusion”は、非常に重要な課題である。頁数を割いて論ずる必要があると思う。よって、本書では取り上げず、別途、この課題だけにフォーカスした著作をしようと考えている。

4章 VISIONの策定について~組織文化(官僚主義、旧態依然とした体質の払拭)

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Page 105: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

5章 まとめ

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本書では、機能と目的を軸にビジョンについて論じた。実際の機能を示すために、事例を幾つも取り上げた。シリコンバレーでの活動を通し、これまで何百人という起業家、大学等の研究者、大手企業の研究者と議論する機会があった。ビジョンの議論に参加する機会もよくあった。彼らは、ビジョンが機能するものだと理解している。一方、同時期に所属していた日本企業では、ビジョンは、計画書の体裁を整えるためのものだった。

・・・陳腐なフレーズが並ぶだけで、社員はどうすればいいかわからず、斜に構えて冷ややかな態度に出るだけ、という結果になる。「XYZ社は品質とサービスを大切にします」とか「○×社は、顧客第一をめざします」とかいうミッション・ステートメントを見たことのない人はいないだろう。品質やサービスを大切にしない会社や、顧客を第一に考えない会社がどこにある!りっぱな意図を持って、何時間も何時間も感情的な議論を戦わせたというのに、出てきたものは、そこらの市販のリストから抜き出してきたような「誠実・品質・卓越・サービス・敬意」なんてバリューが並んでしまったというのはよくある話だ。冗談じゃない。まともな会社なら当然そんなことは信奉しているに決まっている。そもそも、誠実であることはゲームに参加するための入場券みたいなものだ。骨の髄まで、誠実さや道徳観念が染み込んでいないのなら、入場を拒否されるべきだ。・・・

「第1章 ミッションとバリュー こんなに大事なことなのに、たわ言ばかり」より

ー『ウィニング 勝利の経営』- JACK WELCH著 / 斎藤聖美訳、日本経済新聞社

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「ミッションで主張していることが適切かどうかを調べるには、それに対する異論がありうるかどうかを考えてみればよい。異論がないなら、そのミッションの主張は取り除くべきである。例えば、『金額に見合う最高の価値をお届けする』という目的に対して異論を挟む会社があるなどと誰が考えるだろうか。異論がなければ、それは言うに値しないのである」

『創造する経営』- ラッセル・エイコフ

佐久間 陽一郎 ; 「顔の見えない企業に戦略は作れない」よりhttp://business.nikkeibp.co.jp/article/pba/20080625/163653/?P=2

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ウォートンスクールのエイコフ教授は、右のような方法を提唱している。経営の基本方針でも同じであろう。次頁は、日本を代表する4社の経営説明会の資料である。

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Page 108: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

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Page 109: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

109

前項のステートメントが適切かどうかは、エイコフ教授の方法で判断できるだろう。なるほど、もっともな方法だと思う。しかし、そもそも、何故、適切でない”VISION”(ステートメント)が作成されてしまうのか、その行動原理を考えるべきである。

Tuesday, October 27, 2009

Page 110: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

110

“VISION”策定を目的に”VISION”を策定してしまう、つまり、プレゼンテーション資料や事業計画書の体裁を整えるために、書類の空欄を埋めるために

”VISION”を策定するからエイコフ教授のテストが必要になってしまう。このようにして策定されたものは、”VISION”ではない。

Tuesday, October 27, 2009

Page 111: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

111

私が本書を執筆した理由、本書を通して言いたかったことは、次のことである。

Tuesday, October 27, 2009

Page 112: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

112

本物の“VISION”は機能する。組織の内外に機能する影響力がある。

だから、まず、どんな機能を”VISION”に持たせたいのか、その目的を明確にする。

“VISION”の策定は、ここから始まる。

Tuesday, October 27, 2009

Page 113: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

113

Vision without Action is a dream.

Action without Vision is simply passing the time.

Action with Vision is making a Positive Difference.

- Joel Barker

本物のビジョンの下、意欲も能力も高い人たちが活躍できる場が増えること。本書はそれを願って執筆した。

2009年10月1日

Tuesday, October 27, 2009

Page 114: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

114

付録: 有力企業の”VISION”

Tuesday, October 27, 2009

Page 115: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

115

Abbott Laboratories

Adobe Systems

Moët Hennessy - Louis Vuitton

HONDA

Apple

Harley-Davidson

Roche

特に引用元の記載がない邦訳文は著者サイトで日本語訳したものです。あくまで、参考までに翻訳した文章であり、正確な意図の把握はオリジナルの言語を参照してください。

Tuesday, October 27, 2009

Page 117: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

科学を医療へ

わが社は健康な生活を追求する人々のために役立とうとすることにその存在理由があります。このことはアボット社の一世紀以上に及ぶ歴史の中で引き継がれてきましたが、科学技術の導入は、その恩恵が絶えず健康に役立てられるようにと、熱心に、しかも慎重に、試みられてきました。

わが社の製品は、新生児から高齢者まで、人生のあらゆる段階にかかわり、医療や薬を使っての治療、栄養に関することから診断技術に至るまでをカバ-しています。

医療はわが社の中心的な業務であり、それを行うことは求める人々へのわが社の責務でもあります。

Turning Science into Caring

We are here for the people we serve in their pursuit of healthy

lives. This has been the way of Abbott for more than a century –

passionately and thoughtfully translating science into lasting

contributions to health.

Our products encircle life, from newborns to aging adults, from

nutrition and diagnostics through medical care and pharmaceutical

therapy. Caring is central to the work we do and defines our

responsibility to those we serve:

117

Abbott

Tuesday, October 27, 2009

Page 118: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

我々は健康にとって、また、健康管理(ヘルスケア)を実践する上で、有意義な改善の可能性のある最先端の科学や技術を発展させます。

我々は社内における多様性、わが社の製品、技術、マ-ケット、そして人間の多様性を重視します。多様な考えが結びあって、共通の目標に立ち向かったとき、新しい考えが生まれ、絶えず変化する健康に関するニ-ズに対応できるよりよい方法が見つかるのだと信じています。

我々は他に例のないような実践にスポットを当てます。それは世界各地に散らばっているアボット社の社員の目立った特徴でもあります。そのことはわれわれの任務が人々の生活に強い影響を及ぼすという点で、社員自身や社員相互に強く求められていることなのです。

我々は高度な品質基準、人間関係の卓越性、正直で、公平で、誠実な行動で人々の信頼をかちとるよう努力します。

我々は、われわれのビジネスのために、また、われわれのサ-ビスを受ける人々のために成功を続けます。そのために、1世紀以上前のわが社の創立時の基本理念に従います。わが社は革新的な医療と、われわれの実践のすべてにおいて、有意義な違いをもたらしたいという願望を持っています。

We advance leading-edge science and

technologies that hold the potential for significant

improvements to health and to the practice of health care.

We value our diversity – that of our products,

technologies, markets and people – and believe that diverse

perspectives combined with shared goals inspire new ideas and

better ways of addressing changing health needs.

We focus on exceptional performance – a hallmark

of Abbott people worldwide – demanding of ourselves and each

other because our work impacts people's lives.

We strive to earn the trust of those we serve by

committing to the highest standards of quality, excellence in

personal relationships, and behavior characterized by honesty,

fairness and integrity.

We sustain success – for our business and the people we

serve – by staying true to key tenets upon which our company

was founded over a century ago: innovative care and a desire to

make a meaningful difference in all that we do.

118

Abbott

Tuesday, October 27, 2009

Page 119: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

わが社の約束はわれわれの仕事が人々の健康と命のためにあるのだ、ということに尽きるのです。

The promise of our company is in the promise that our work holds for health and life.

119

Abbott

Tuesday, October 27, 2009

Page 120: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

Adobe Systems

120

http://www.adobe.com/aboutadobe/

Tuesday, October 27, 2009

Page 121: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

121

Adobe

Adobe is pleased to share its vision for revolutionizing how the

world engages with idea and information.

Right now, anyone who creates, views, and interacts with

information clearly feels the impact of Adobe software and our

technologies.

In the last few years, the world has changed significantly, and

communication bandwidth has exploded. 700 million people can

now access the web worldwide. Every hour, 1.3 billion e-mails are

sent. Almost 1.5 billion people worldwide have a mobile phone.

We are continually bombarded with multiple messages from

multiple media, all competing for our attention. So, it’s not enough

to simply inform. We must now help our customers transform their

communications into engaging, interactive experiences.

アドビは、世界の人々のアイデアと情報との関わりに革新をもたらすための我々のビジョンを皆さんと是非、共有させて頂きたいと思います。

現在、情報に関して、創造したり、見たり、他の人と相互に情報交流をし合ったりしている人なら誰でもアドビのソフトウェアや技術のインパクトをクリアに実感できると思います。

この数年、世界は著しく変化しています。そして、通信帯域は爆発的に拡大しています。今や7億人もの人が世界中のウェッブサイトにアクセスすることができます。1時間あたり約13億ものEメ-ルが送られ、また、世界中でおよそ15億人が携帯電話を持っています。

私たちは、たくさんのメディアから無数のメッセ-ジの洪水に絶えず見舞われ、また、それらすべてのメッセ-ジは私たちの注意を引こうと競い合っています。ですから、たんに伝える、というだけでは不十分です。アドビは、現在、お客様にコミュニケ-ションというものを、たんに伝えるだけでなく、人を引きつける魅力ある、相互に反応し合う形へと変えてゆくための助けをしなければなりません。

Tuesday, October 27, 2009

Page 122: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

122

Adobe

What does it mean?

Adobe has always pushed the boundaries of the digital universe to

help people and organizations communicate better. Now we’re

focusing our innovation and creative energy to take another big

step forward.

Our customers need high-impact, reliable, and dynamic digital

communication, and Adobe is well positioned to make a reality.

Given the range of solutions we’re enabling, we are incredibly

excited about where we’re beaded.

Adobe is truly revolutionizing how the world engages with ideas

and information – anytime, anywhere, and through any medium.

Adobe provides solutions to address the needs of our customers

in financial services, government, manufacturing, education,

publishing and media, telecommunications, life sciences, and other

major industries.

そのことは何を意味するのでしょうか。

アドビは、これまで、つねにデジタルの世界の壁を押し広げ、人々や各組織、機関がよりよくコミュニケ-ト する手助けをしてきました。今、アドビは、我々の技術革新力と創造力を集中てし、さらに大きな前進に結びつけようとしています。

我々の顧客は、インパクトの強い、信頼のおける、ダイナミックなコミュニケ-ションを求めています。そして、アドビ社はそれを実現するに相応しいポジションにいます。

アドビが可能にしようとしているソリューションを並べ、その向かうべく方向を見ると、我々自身、信じられないほどの興奮を覚えます。

アドビは、世界の人々のアイディアや情報との関わり方において、いつでも、どこでも、どんなメディアを通しても、真に革命的なことをやっています。

アドビはフィナンシャル・サ-ビス、政府機関、製造業、教育、出版やメディア、電信、生命科学、その他、主要な産業において顧客のニ-ズにこたえるためのソリュ-ションを提供しています。

Tuesday, October 27, 2009

Page 123: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

123

Adobe

At the heart of every interaction in every business are three key

elements:

People, Information, and Processes.

Adobe’s vision is clearly focused on the people and their

experience.

Our solutions enable the creation and delivery of experiences that

securely extend the reach of information.

Experiences that automate processes for greater efficiency

Experiences that are intuitive, rich, and compelling.

Experiences that are truly engaging

すべてのビジネスにおいて、あらゆるインタラクションの中心には3つのキ-になる要件があります。

人、情報、そして、プロセスの3つです。

アドビのビジョンは明らかに人と人の体験に焦点を合わせています。

我々のソリューションは、創造的な活動や配信で安心して情報伝達範囲を広げられる経験にすることができます。

より高い効率性へ向けてのプロセス自動化の顧客経験 直感的で、豊かで、感動的とすら言える顧客経験 真に魅力ある顧客経験

Tuesday, October 27, 2009

Page 124: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

124

Moët Hennessy - Louis Vuitton

http://www.lvmh.com/

Tuesday, October 27, 2009

Page 125: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

LVMH: Moët Hennessy - Louis Vuitton

The mission of the LVMH group is to represent the most refined

qualities of Western “Art de Vivre” around the world. LVMH must

continue to be synonymous with both elegance and creativity. Our

products, and the cultural values they embody, blend tradition and

innovation, and kindle dream and fantasy.

In view of this mission, five priorities reflect the fundamental values

shared by all Group stakeholders:

Be creative and innovate

Aim for product excellence

Bolster the image of our brands with passionate determination

Act as entrepreneurs

Strive to be the best in all we do

125

LVMHグル-プのミッションは世界中に西欧のア-ル・ド・ヴィヴル(生活の芸術)の中でも最も洗練された質を提示することです。LVMHは今後ともエレガンス(優美さ)とクリアビリティ(創造性)双方の同義語であり続けなければなりません。私たちのグル-プの製品やグル-プが具現している文化的な価値感は、伝統と革新の融合であり、夢とファンタジ-を抱かせるものです。

このミッションを考えるとき、次の5つの優先事項がすべてのステ-クホ-ルダ-が共通して持っている基本的な価値観に影響を与えています。

創造的かつ革新的であること製品の優越性を追求すること情熱的な決意を持って、私たちのブランドのイメ-ジを高めてゆくこと企業家精神を持って行動することなすべきこと全てにおいてベストになるよう努力を惜しまないこと

Moët Hennessy - Louis Vuitton

Tuesday, October 27, 2009

Page 126: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

Be creative and innovate:

Group companies are determined to nurture and grow their

creative resources. Their long-term success is rooted in a

combination of artistic creativity and technological innovation: they

have always been and always will be creators.

Their ability to attract the best creative talents, to empower them

to create leading-edge designs is the lifeblood of our Group.

The same goes for technological innovation. The success of the

companies’ new products-particularly in cosmetics – rests squarely

with research & development teams.

This dual value-creativity/innovation- is a priority for all companies. It

is the foundation of their continued success.

126

創造的かつ革新的であること:

グル-プ内各社はそれぞれの創造的人的資源を育て、成長させることを決意しています。各社の長期的な成功は芸術的創造性と技術的革新の結合に根ざすものです。グル-プ内各社は、これまでも、そして将来においても、つねに創造者なのです。

もっとも優れた創造的才能ある人材を集め、それらを育て、最先端のものを創造する力を持たせることが私たちグル-プの活力源になります。

技術革新についても同様です。各社の新製品、特に化粧品部門での成功は、まさに研究開発チ-ムにかかっています。

この創造と革新の二重の価値観は、グル-プ各社にとっての優先すべき重要事項であり、成功し続けるための基礎となるものです。

Moët Hennessy - Louis Vuitton

Tuesday, October 27, 2009

Page 127: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

127

Aim for product excellence:

Group companies pay the closest attention to every detail and

ensure the utter perfection of their products. They symbolize the

nobility and perfection of traditional craftsmanship. Each and every

one of the objects their customers buy and use exemplifies our

brands’ tradition of impeccable quality. Never should Group

companies disappoint, but rather continue to surprise their

customers with the quality, endurance, and finish of their products.

They never compromise when it comes to product quality.

Their search for excellence go well beyond the simple quality of

their products: it encompasses the layout and location of our

stores, the display of the items they offer, their ability to make their

customers feel welcome as soon as they enter our stores... All

around them, their clients see nothing but quality

製品の優越性を追求すること:

グル-プ各社はあらゆる細部にわたって細心の注意を払い、製品の完璧さを確かなものにします。そのことは伝統的な職人気質による高貴さと完璧さを象徴しています。お客様が買い、そして使う製品の一つ一つが、私たちのブランドの、非の打ちどころのない品質を体現しているのです。グル-プ各社はそれぞれの顧客を決して失望させてはいけないのであって、製品の質、耐久性、仕上がり具合などで、絶えず顧客のみなさんに驚きを感じ続けていただけるようにすべきです。製品の質という点では、決して妥協はしない、ということです。

優越性の追求とは、単に製品の品質という範囲を超えて、私たちの販売店のレイアウトやロケ-ション、商品の展示方法(ディスプレイ)、そして、お客様が店内に入った瞬間の歓迎的な雰囲気を感じていただくことまでを網羅しています。グル-プ各社はすべての面でお客様に質の高さを感じていただくのです。

Moët Hennessy - Louis Vuitton

Tuesday, October 27, 2009

Page 128: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

128

Bolster the image of our brands with passionate

determination:

Group brands enjoy exceptional reputation. This would not amount

to much, and could not be sustained, if was not backed by the

creative superiority of their products. However, without this aura,

this extra dimension that somewhat defies logic, this force of

expression that transcends reality, the sublime that is the stuff of our

dreams, Dior would not be Dior, Louis Vuitton would not be Louis

Vuitton, Moët would not be Moët...

The power of companies’ brands is part of LVMH’s heritage. It took

years and even decades to build their image. They are an asset that

is both priceless and irreplaceable.

Therefore, Group companies exercise stringent control over every

minute detail of their brands’ image. In each of the elements of their

communications with the public ( announcements, speeches,

messages, etc.), it is the brand that speaks. Each message must do

right by the brand. In this area as well, there is absolutely no room

for compromise.

情熱的な決意を持って、私たちのブランドのイメ-ジを高めていくこと:

グル-プのそれぞれのブランドは大きな評判を得ています。もしこの評判が製品の創造的な優越性に裏打ちされていなければ、さほどのものにはならないし、今後、続いていくこともないでしょう。

しかし、このオ-ラ、いくぶんロジックに反するような特質、現実を超越した表現の力、大きな夢のような崇高さがなかったら、 Dior は Diorではなくなり、 Louis Vuittonは

Louis Vuittonでなくなり、MoëtはMoëtでなくなってしまうのです。各社のブランドの力はLVMH の遺産の一部なのです。それらのイメ-ジを確立するためには何年も、いや、何十年もかかったのです。それらは、きわめて貴重で、かけがえのない財産なのです。したがって、グル-プ内各社はブランドのイメ-ジのどんな些細な部分にも厳しいコントロ-ルが必要です。一般の人々とのコミュニケ-ションにおいても(アナウンスメント、スピ-チ、メッセ-ジなど)、つねに発信しているのはそのブランドなのです。各々のメッセ-ジは、まさにそのブランドによって発信されるのです。ですから、この分野においても、まったく妥協の余地はないのです。

Moët Hennessy - Louis Vuitton

Tuesday, October 27, 2009

Page 129: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

129

Act as entrepreneurs:

The Group’s organizational structure is decentralized, which fosters

efficiency, productivity, and creativity.

This type of organization is highly motivating and dynamic. It

encourages individual initiative and offers real responsibilities-

sometimes early on in one’s career. It requires highly entrepreneurial

executive teams in each company.

This entrepreneurial spirit requires a healthy dose of common sense

from managers, as well as hard work, pragmatism, efficiency, and the

ability to motivate people in the pursuit of ambitious goals. One

needs to share and enjoy this entrepreneurial spirit to – one day-

manage a subsidiary or company of the LVMH group.

起業家精神を持って行動すること:

グル-プの組織上の構成は分権的で、それぞれに効率性と生産性と創造性を発展させています。

このような形の組織は高いモ-チベ-ションを持ち、ダイナミックです。それは個人的な自発性を助長し、時には、個々人のキャリアの早い段階で、実際上の責任を持たせることがあります。また、各々の会社には高度な起業家精神を持った経営幹部チ-ムの存在が必要になります。

この企業家精神に必要な要件は、勤勉さはもとより、経営陣の一員としての健全な常識、実用的な発想、効率性、そして、野心的な目的を追求するための社員への動機づけをする能力、などです。将来、いつの日か、子会社やHVMH

グル-プのいずれかの会社を経営するためには、この起業家精神をともに分かち合い、エンジョイする必要があるのです。

Moët Hennessy - Louis Vuitton

Tuesday, October 27, 2009

Page 130: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

130

なすべきことすべてにおいて、ベストになるよう努力を惜しまないこと:

最後に大事なことは自分たちがベストになるのだ、という野心を持つことです。各々の会社は絶えず向上をめざし、決してひとりよがりになることなく、技能の幅を広げ、仕事の質を高め、新しい考えを思いつく努力をします。

グル-プはこの精神、そして、関連する全ての中で、進歩への渇望を持つことを推奨します。

Strive to be the best in all we do:

Last but not least is our ambition to be the best. In each company,

executive teams strive to constantly improve, never be complacent,

always try to broaden our skills, improve the quality of our work,

and come up with new ideas.

The Group encourages this spirit, this thirst for progress, among all

of its associates.

Moët Hennessy - Louis Vuitton

Tuesday, October 27, 2009

Page 131: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

131Tuesday, October 27, 2009

Page 132: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

基本理念人間尊重 三つの喜び(買う喜び、売る喜び、創る喜び)

社是わが社は、世界的視野に立ち、顧客の要請に応えて、性能の優れた、廉價な製品を生産する。わが社の発展を期することは、ひとり従業員と株主の幸福に寄與するに止まらない。良い商品を供給することによって顧客に喜ばれ、関係諸会社の興隆に資し、さらに日本工業の技術水準を高め、もって社会に貢献することこそ、わが社存立の目的である。

わが社の運営方針1.常に夢と若さを保つこと2.理論とアイデアと時間を尊重すること3.仕事を愛し職場を明るくすること4.調和のとれた仕事の流れを作り上げること5.不断の研究と努力を忘れないこと

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右は、1956年に本田宗一郎氏・藤澤武夫氏が作成した経営理念です。1956年という時代背景を考えると、極めて先進的な内容になっている。次項に、現在の同社の経営理念を掲載した。オリジナルの理念が、時代に合わせた適応をしながら残っている。

HONDA

Tuesday, October 27, 2009

Page 133: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

133

社是

私たちは、地球的視野に立ち、世界中の顧客の満足のために、質の高い商品を適正な価格で供給することに全力を尽くす

基本理念人間尊重

自立自立とは、既成概念にとらわれず自由に発想し、自らの信念にもとづき主体性をもって行動し、その結果について責任を持つことです 平等平等とは、お互いに個人の違いを認め合い尊重することです また、意欲のある人には個人の属性(国籍、性別、学歴など)にかかわりなく、等しく機会が与えられることでもあります 信頼信頼とは、一人ひとりがお互いを認め合い、足らざるところを補い合い、誠 意を尽くして自らの役割を果たすことから生まれます

Hondaは、ともに働く一人ひとりが常にお互いを信頼しあえる関係でありたいと考えます

3つの喜び 買う喜びHondaの商品やサービスを通じて、お客様満足にとどまらない、共感や感動を覚えていただくことです 売る喜び価値ある商品と心のこもった応対・サービスで得られたお客様との信頼関係により、販売やサービスに携わる人が、誇りと喜びをもつことができるということです 創る喜びお客様や販売店様に喜んでいただくために、その期待を上回る価値の高い商品やサービスを創り出すことです

運営方針

常に夢と若さを保つこと 理論とアイデアと時間を尊重すること 仕事を愛しコミュニケーションを大切にすること 調和の取れた仕事の流れを作り上げること 不断の研究と努力を忘れないこと

http://www.honda.co.jp/csr/philosophy/philosophy1/index.html

HONDA

Tuesday, October 27, 2009

Page 134: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

Apple Inc.

134Tuesday, October 27, 2009

Page 135: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

左のVISIONは98年以前のバージョン。残念ながら、現在、どのようなVISIONが掲げられているのか、分からない。天才ビジョナリー、スティーブ・ジョブスの下では、言葉は不要か?一方、ジョブスの右腕であり、アップルのもう一人の天才(経営)、ティモシー D. クック(COO: 最高経営執行者)が、経営説明会で述べた同社の”BUSINESS PHILOSOPHY”がいわゆる”VISION”に相当するのかもしれない。次項以降を参照。

"To make a contribution to the world by making tools for

the mind that advance humankind."

対訳:

人類を進歩させる気持ちになるツールを作り出すことで、世界に貢献する。

135

APPLE

Tuesday, October 27, 2009

Page 136: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

There is an extraordinary breadth and depth and tenure among

the Apple executive team and these executives lead over

35,000 employees that I would call “all wicked smart”. And that’s

in all areas of the company, from engineering to marketing to

operations and sales and all the rest. And values of our company

are extremely well entrenched.

We believe that we’re on the face of the Earth to make great

products, and that’s not changing. We’re constantly focusing on

innovating. We believe in the simple, not the complex. We

believe that we need to own and control the primary

technologies behind the products we make, and participate only

in markets where we can make a significant contribution.

136

アップル社の経営陣には並はずれた幅の広さと奥行きの深さと在任期間の長さがあり、この経営陣が、私が「とてつもなく優秀」、と呼んでいる35,000人を超える従業員を指揮しています。その指揮はわが社のすべての分野、つまり、技術部門からマ-ケッティング部門、営業から販売、その他すべてに及んでいます。そして、わが社の価値観はきわめて確固たるものがあります。

わが社がこの地球上に存在するのは優れた製品を作るためであり、その信念は不変のものです。われわれは常に新しいものを作り出すということに集中して取り組んでいます。われわれは複雑なものより単純なものをよしと信じています。われわれは、自分たちが作る製品の背後にある、基本技術を獲得・駆使すること、そして、有意義な貢献ができる分野のマ-ケットにのみ参入することが必要だと信じています。

APPLE

Tuesday, October 27, 2009

Page 137: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

We believe in saying no to thousands of projects so that we

can really focus on the few that are truly important and

meaningful to us. We believe in deep collaboration and cross-

pollination of our groups, which allow us to innovate in a way

that others cannot.

And frankly, we don’t settle for anything less than excellence in

every group in the company, and we have the self-honesty to

admit when we’re wrong and the courage to change. And I

think, regardless of who is in what job, those values are so

embedded in this company that Apple will do extremely well.

137

われわれは何千ものプロジェクトに対しNOと言います。それは、われわれにとって真に重要で、意味のある数少ないプロジェクトに集中して取り組むためです。われわれはわが社のグル-プ間の緊密な共同作業と交流を重視します。そのことが、他ではできないやり方での新しいものへの改革を可能にするからです。

率直に言って、わが社のどのグル-プも、卓越したもの以外の何ものにも満足するものではありません。また、われわれは、企業としての誠実さを保ち、もしわれわれがあやまちを犯した場合には、それを認め、改める勇気を持っています。どの仕事を誰が担当しているかにかかわらず、それらの価値観はわが社に深く浸透し、その結果、アップル社は、今後も、きわめて順調に運営されていきます。

APPLE

Tuesday, October 27, 2009

Page 138: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

138

~DIVERSITY~

Tuesday, October 27, 2009

Page 139: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

Harley-Davidson:

右は、ハーレー・ダビッドソンの”DIVERSITY(多様性)”に関するビジョンである。ハーレー・ダビッドソンと聞けば、すぐにステレオタイプのライダー像が思い浮かぶくらい、多様性とは最も無縁そうな企業だ。わざわざ、DIVERSITYだけのために右記の”VISION”をWEBに大々的に掲載している様子から、かつての固まったイメージの払拭に本気のようだ。

一時、日本勢に押されていたが、現在は縮小が続く二輪市場において一人勝ち状態、1998~2008年の10年間はCAGR(複合年間成長率)が10%を超える驚異的な成長を続けている。

(*) DIVERSITYは、現在、日本を除く欧米アジアのリーディング・カンパニーで、経営上、最も重要なキーワードになっている。DIVERSITYとは何か、ご存知ない方は、下記リンクを参照のこと。

139

http://h50146.www5.hp.com/lib/info/hr/10policy-diversity&wlb.pdf http://www.peoplefocus.co.jp/OD/divercity2.html

~ Diversity ~

Mission:

Our diversity mission is to foster a culture that integrates

diversity and inclusion into all aspects of the business in order

to further fulfill dreams through the experiences of

motorcycling.

Vision:

Harley-Davidson values, embraces and celebrates diversity in

order to develop and continuously improve mutually

beneficial relationships with stakeholders to fulfill dreams and

provide extraordinary customer experiences in an increasingly

dynamic, diverse and global market.

Action:

We are driven to grow our business, our people and our

brand through diversity. Guided by our overall corporate

principles and values, diversity is the spark that ignites the

human experience in new ways to help power our company’s

success for next 100 years.

Harley-Davidson

Tuesday, October 27, 2009

Page 140: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

140

〈多様性〉

ミッション:

わが社の多様性への使命とは、ビジネスのあらゆる局面で、様々な背景を持った人材や考えなどを一体化させ、モ-タ-サイクリングの経験を通して、さらなる夢を実現させていくような文化を育てることです。

ビジョン:

ハ-レイ・ダビッドソン社はステ-クホ-ルダ-との互恵関係を発展させ、つねに改善を継続するために、多様性を尊重し、受け入れ、称賛します。そのことにより、ますますダイナミックになっていく、多様で、グロ-バルなマ-ケットで、社員やステ-クホルダ-の夢を実現し、顧客にたぐいまれな経験を提供していきます。

アクション:

わが社は多様性を通して、わが社のビジネス、従業員、そして、ブランドを育ていきます。わが社の総体的な企業方針と価値観に導かれて、この多様性こそが、新しい形での人間的経験のための発火点となり、次の100年に向けてのわが社の成功の原動力になっていくのです。

Harley-Davidson

Tuesday, October 27, 2009

Page 141: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

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本文は英語、日本語ともに下記リンクから写したものhttp://www.roche.com/corporate_principles_in_eight_languages.pdf

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Page 142: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

Roche Corporate Principles

These are the guiding principles which embody our vision of the

company we strive to be:

an innovative company which enjoys the pride of its employees

and deserves the lasting trust

of its partners.

MISSION

Our aim as a leading healthcare company is to create,produce

and market innovative solutions of high quality for unmet

medical needs. Our products and services help to

prevent,diagnose and treat diseases, thus enhancing people’s

health and quality of life. We do this in a responsible and ethical

manner and with a commitment to sustainable development

respecting the needs of the individual,the society and the

environment.

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ロシュの企業原則

はじめに従業員が誇りとし、パートナーが末永い信頼を寄せるに値する革新的な会社、それが当社の目指す企業ビジョンを具現化する指針です。

使命有数のヘルスケア企業である当社は、現在まだ満たされていない医療ニーズに対して質の高い革新的なソリューションを創造し、その製造と販売を行うことを企業目的としています。当社の製品とサービスは、病気の予防、診断、治療を支援し、それを通じて人々の健康と生活の質を高めます。また、当社はそれに際して、人、社会、環境のニーズに配慮しながら、責任ある倫理的なやり方で、持続可能な発展に努めます。

Roche

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Page 143: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

VALUES

<Service to Patients and Customers>

A prime objective of Roche is to meet the patients’

and customers’ needs for high quality products and services. This

implies identifying and solving their problems and anticipating

their future needs by maintaining close contacts with them and

listening to what they say. Our commitment includes full respect

for patients’ individual rights.

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価値

<患者と顧客に対する奉仕>

ロシュの第一目標は、質の高い製品とサービスで患者と顧客のニーズに応えることです。これは患者や顧客と密接なコンタクトを保ち、彼らの話に耳を傾けることによって、問題点をつきとめ、それを解決し、将来のニーズをいち早くキャッチすることを意味します。患者個人の権利を深く尊重することも、当社の大きな責任であると認識しております。

Roche

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Page 144: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

<Respect for the Individual>

We believe that the success of our company depends on the

combined talents and performance of dedicated employees. For

this reason,we want:

to build respect for the individual into all our work by

ensuring that all members of the organisation understand

their responsibility to respect each other’s rights and dignity;

our people to develop their talents and make optimal use of

their abilities and potential and to encourage information-

sharing and open dialogue;

to provide recognition based on performance and

contribution to Roche’s success;

to promote diversity and equal opportunities;

everyone in the organisation to work under optimal

conditions of health and safety.

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<個人の尊重>

会社の成功は献身的な従業員の多様な才能と仕事ぶりによるというのが、当社の信念です。よって、当社は以下を目標としています。

組織全員が互いの権利と尊厳を尊重することを各人の義務として確実に理解するようにして、当社の全業務において個人の尊厳を確立すること当社社員が自己の才能を開発し、その能力と潜在力を最大限に活用し、積極的に情報共有と率直な対話をはかること個人の業績ならびに会社の成功への貢献度に基づいて従業員各人の功労を認めること多様性と機会均等の促進組織全員が最適な環境の中、健康的、かつ安全に働く事。

Roche

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Page 145: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

<Commitment to Responsibility>

We want to meet high standards of performance and corporate

responsibility in all our activities and we apply our Corporate

Principles in our dealings with business partners. We are

committed to selecting, developing and promoting employees

and managers with self-drive and empathy who:

• combine professional competence with a leadership style

that motivates people to high performance;

• have an open mind and a sense of urgency, understand the

needs of the company and have the courage to question

conventional wisdom;

• have the flexibility required to broaden their experience;

• live these corporate principles in their decisions and

actions.

145

<責任の明確な意識>

当社は自己の全活動において高水準の業績をあげ、高水準の企業責任を果たすことを目指し、さらに取引先と業務においてその企業原則を実践します。また、自発性があり、周囲への配慮を怠らない従業員と管理者を選び、啓発し、昇進する重要性を認識しています。具体的には、以下のような従業員と管理者を指します。

業績をあげるべく人々のやる気を起こす指導者としての品格と職能を兼ね備えるもの開かれた考え方をもち、何が緊急かを見分けられるセンスをもち、会社のニーズを理解して、従来の常識をあえて疑問に付す勇気をもつもの経験を広げるために必要な柔軟性をもつもの決定と行動においてこの企業原則を実行するもの。

Roche

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Page 146: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

<Commitment to Performance>

We aim to continuously create value for our stakeholders and to

achieve sustainable,high profitability. We do this in order to maintain

our commitment to research,to ensure our growth and

independence, to provide employment opportunities,to cover risks

and to pay an attractive return on invested capital.

<Commitment to Society >

We want to maintain high ethical and social standards in our

business dealings,in our approach to medical science, in our efforts

to protect the environment and ensure good citizenship. We will

maintain these standards by adherence to local, national and

international laws and co-operating with authorities and in

proactively communicating with the public. We

support and respect the human rights within the sphere of our

influence. We recognise the need to work in partnership with our

stakeholders, regularly seeking their views and taking them into

account.

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<業績に対する責任の自覚>

当社は自己の利害関係者のために継続的に価値を創出し、持続可能な高い収益性を達成したいと考えています。それにあたって、当社は研究に真剣に取り組み続け、自己の成長と独立性を保ち、雇用機会を提供し、危険を担架し、投下資本に対する魅力的な資本利益率を実現することを目指します。

<社会に対する責任の自覚>

当社は自己の業務取引、医学へのアプローチ、環境保全の取り組みにおいて、高い道徳的規範と社会的規範を守り、良識ある社会の一員としての地位を確保したいと考えています。地域法、国内法、国際法を遵守し、各官庁と協力し、積極的なパブリックコミュニケーション活動を行うことにより、当社はそれらの規範を守ります。また、当社は自己の力の及ぶ範囲において人権を尊重し、擁護します。当社は利害関係者との協力のもとに、常に彼らの意見を聞き、それに配慮を行いながら業務を展開する必要性を自覚しています。

Roche

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Page 147: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

<Commitment to the Environment>

As part of our commitment towards sustainable development we

proactively seek to employ new,more sustainable technologies and

processes and to minimise our impact on the environment.

<Commitment to Innovation>

Innovation across all aspects of our business is key to our success.

Being active in high-technology fields, we must recognise new trends

at a very early stage and be open to unconventional ideas. We see

change as an

opportunity and complacency as a threat. We therefore encourage

everywhere in the company the curiosity needed to be open to the

world and new ideas.

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<環境に対する責任の自覚>

持続可能な発展する当社の取り組みの一環として、当社は環境保全に一層役立つ新しい技術とプロセスを積極的に使用し、環境への影響を最小限にとどめるように努めます。

<革新に対する責任の自覚>

当社の成功への鍵は、全事業領域にわたる革新にあります。先端技術の分野で活動する当社は,非常に早い段階から新しい動向をキャッチし、型破りな考えにもオープンである必要があります。変化はチャンスであり、自己満足は脅威であるというのが当社の考えです。よって、当社では各部署の一人一人が世界や新しい考えに対して開かれた態度をもつために必要な好奇心をもつように促します。

Roche

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Page 148: What Can Vision Work Version1.1: 「ビジョンのない上司にビジョンを抱かせる時に」

<Continuous Improvement>

We are committed to benchmarking our principles and

achievements against the industry and best practice;

this includes transparent reporting. We will continue to put in place

directives and processes that enable us to implement each of our

Corporate Principles.

Entry into Force

The Roche Corporate Principles of 1990 were reviewed, amended

and adopted by the Corporate Executive Committee on January

14,2003,and approved by the Board of Directors on February

24,2003.

The amended Roche Corporate Principles enter into force on

February 25,2003.

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<持続的な改善>

当社は自己の企業原則について必ずベンチマーク調査を行い、業界比較によりその達成度を再優良例(ベスト・プラクティス)と比較します。それに伴い、秘密主義によらない開かれた報告を行います。そして、企業原則の各項目を実現する助けとなる指令やプロセスを当社は導入し続けます。

発行ロシュの1990年企業原則は、2003年1月14日の重役委員会において見直し・改正のうえ、採択され、2003年2月24日に取締役会により承認されました。

ロシュの企業原則改定版は、2003年2月25日に効力を発します。

Roche

Tuesday, October 27, 2009