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Research Abstracts on Spatial Information Science CSIS DAYS 2017 - 8 - A03 UAV-SfM 手法を用いた海岸砂丘植生と地形の関係性の解明 中田 康隆 1 , 小口 高 2 , 早川 裕弌 2 1 東京大学大学院 新領域創成科学研究科, 2 東京大学 空間情報科学研究センター 連絡先: < [email protected] > (1) 日本の海岸砂丘には,かつて砂の動的な挙 動が多様な地形を形成し,それに対応した植生が 成立することで,多様性の高い生態系が存在して いた.しかし,都市化・護岸工事・砂防林造成等の 各種開発により,縮小・消滅が進行してきた.従来 の自然環境が残る砂丘は少なくなっており,残存 する砂丘の環境を詳細に調査することは,将来の 保全計画の立案等にも必要不可欠である.本研究 では,海岸砂丘生態系の基盤であり,一次生産者 である植生に着目する.海岸砂丘植生の生態につ いては,明らかにされていないことが多い.既往研 究では,植生の分布や生存に堆砂量が最も影響 するとされている(MaunPerumal 1999). しかし, これまでに行われてきた海岸砂丘植生と地形等の 環境要因との関係性を論じた研究は,その多くが 面的に地形と植生を論じたものではなく,動的な地 形と植生との空間関係が論じられた例は少ない. そこで,我が国でも数少ない元来の環境が多く残 る鳥取砂丘を対象とし,UAV-SfM 手法(小型無人 航空機を用いた SfM 多視点ステレオ写真測量)に より高解像度の地表面情報を取得し, 地形と植生 との関係性の把握を試みた. (2) 海浜・中間・内陸の 3 つの調査区を設定し, 各種データを取得する.データ解析には ArcGIS10.3 を用いる.調査は 2016 9 月,2017 3 月と 9 月の計 3 回実施した.地形の把握には UAV-SfM 手法及び航空機 LiDAR(以下, ALS)デ ータ(2010 5 月)よりセルサイズ 0.5 mの DEM (数値標高モデル)を作成した. 地形量には標高と その変化量,傾斜角,斜面方位を用いた.植生の 把握の際には,各群落において 1 ×1 mのコドラ ート(方形区画)を最低 5 か所,計 100 か所設置し, 各コドラート内で出現種とその植被率を調査した. さらに出現種と植被率を用いて PCOR4.25 TWINSPAN 法(2 元指標種分析)より植生区分を行 った.これは指標種に着目し,その種の出現量から 地点を分割する方法である.この植生区分の結果 UAV-SfM 手法により作成されたオルソ画像から 植生図を作成した.この植生図と地形量を重ね合 わせ,植生と地形の関係性を把握した. (3) 各植生が選好する環境を定量化するために 選好度指数を算出した.その結果,植生の分布は 冬季の西から北の風と恒常的に吹く南風に影響を 受けることが判明した.また,背丈の低い植生は緩 傾斜の砂丘,高い植生は急斜面の砂丘を選好する ことがわかった.さらに,植被率が高い植生は堆積 域,低い植生は侵食域を選好する傾向を示した.今 後はこれらの結果を基に保全や再生における指標 を作成したい. (4) 使 PAREA-LiDAR 鳥取県鳥取砂丘」国際興業 株式会社 (5) 本研究は,山陰海岸ジオパーク補助金の助 成を受けた.東大 CSIS 共同研究 No. 739 の成果の 一部である. (6) Maun, M.A. and Perumal, J. 1999Zonation of vegetation on lacustrine coastal dues: effects of burial by sand. Ecology Letters, 2, 14-18. 2:地形量の分布(内陸区) 1:植生図 (内陸区)
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Sep 22, 2019

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Page 1: UAV-SfM手法を用いた海岸砂丘植生と地形の関係性の解明 · Research Abstracts on Spatial Information Science CSIS DAYS 2017 - 8 - A03 UAV-SfM手法を用いた海岸砂丘植生と地形の関係性の解明

Research Abstracts on Spatial Information Science CSIS DAYS 2017

- 8 -

A03

UAV-SfM 手法を用いた海岸砂丘植生と地形の関係性の解明

中田 康隆 1, 小口 高 2, 早川 裕弌 2 1 東京大学大学院 新領域創成科学研究科, 2 東京大学 空間情報科学研究センター

連絡先: < [email protected] >

(1) 動機:日本の海岸砂丘には,かつて砂の動的な挙

動が多様な地形を形成し,それに対応した植生が

成立することで,多様性の高い生態系が存在して

いた.しかし,都市化・護岸工事・砂防林造成等の

各種開発により,縮小・消滅が進行してきた.従来

の自然環境が残る砂丘は少なくなっており,残存

する砂丘の環境を詳細に調査することは,将来の

保全計画の立案等にも必要不可欠である.本研究

では,海岸砂丘生態系の基盤であり,一次生産者

である植生に着目する.海岸砂丘植生の生態につ

いては,明らかにされていないことが多い.既往研

究では,植生の分布や生存に堆砂量が最も影響

するとされている(Maun・Perumal,1999). しかし,

これまでに行われてきた海岸砂丘植生と地形等の

環境要因との関係性を論じた研究は,その多くが

面的に地形と植生を論じたものではなく,動的な地

形と植生との空間関係が論じられた例は少ない.

そこで,我が国でも数少ない元来の環境が多く残

る鳥取砂丘を対象とし,UAV-SfM 手法(小型無人

航空機を用いた SfM 多視点ステレオ写真測量)に

より高解像度の地表面情報を取得し, 地形と植生

との関係性の把握を試みた.

(2) 方法:海浜・中間・内陸の 3 つの調査区を設定し,

各 種 デ ー タ を 取 得 す る . デ ー タ 解 析 に は

ArcGIS10.3 を用いる.調査は 2016 年 9 月,2017年 3 月と 9 月の計 3 回実施した.地形の把握には

UAV-SfM 手法及び航空機 LiDAR(以下, ALS)デ

ータ(2010 年 5 月)よりセルサイズ 0.5 mの DEM(数値標高モデル)を作成した. 地形量には標高と

その変化量,傾斜角,斜面方位を用いた.植生の

把握の際には,各群落において 1 m×1 mのコドラ

ート(方形区画)を最低 5 か所,計 100 か所設置し,

各コドラート内で出現種とその植被率を調査した.

さらに出現種と植被率を用いて PCOR4.25 の

TWINSPAN 法(2 元指標種分析)より植生区分を行

った.これは指標種に着目し,その種の出現量から

地点を分割する方法である.この植生区分の結果

と UAV-SfM 手法により作成されたオルソ画像から

植生図を作成した.この植生図と地形量を重ね合

わせ,植生と地形の関係性を把握した.

(3) 結果:各植生が選好する環境を定量化するために

選好度指数を算出した.その結果,植生の分布は

冬季の西から北の風と恒常的に吹く南風に影響を

受けることが判明した.また,背丈の低い植生は緩

傾斜の砂丘,高い植生は急斜面の砂丘を選好する

ことがわかった.さらに,植被率が高い植生は堆積

域,低い植生は侵食域を選好する傾向を示した.今

後はこれらの結果を基に保全や再生における指標

を作成したい.

(4) 使用したデータ:

・ 「PAREA-LiDAR 鳥取県鳥取砂丘」国際興業

株式会社

(5) 謝辞:本研究は,山陰海岸ジオパーク補助金の助

成を受けた.東大 CSIS共同研究No. 739 の成果の

一部である.

(6) 参考文献:

Maun, M.A. and Perumal, J. (1999) Zonation of vegetation on lacustrine coastal dues: effects of burial by sand. Ecology Letters, 2, 14-18.

図 2:地形量の分布(内陸区) 図 1:植生図 (内陸区)