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Title 国際資本移動と為替レート制度 Author(s) 岩本, 武和 Citation 岩本ゼミナール機関誌 (2002), 6: 86-111 Issue Date 2002-03-25 URL http://hdl.handle.net/2433/56899 Right 108-111ページは未許諾のため本文はありません Type Departmental Bulletin Paper Textversion publisher Kyoto University
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Title 国際資本移動と為替レート制度 Issue Date URL … · Title 国際資本移動と為替レート制度 Author(s) 岩本, 武和 Citation 岩本ゼミナール機関誌

May 31, 2020

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Page 1: Title 国際資本移動と為替レート制度 Issue Date URL … · Title 国際資本移動と為替レート制度 Author(s) 岩本, 武和 Citation 岩本ゼミナール機関誌

Title 国際資本移動と為替レート制度

Author(s) 岩本, 武和

Citation 岩本ゼミナール機関誌 (2002), 6: 86-111

Issue Date 2002-03-25

URL http://hdl.handle.net/2433/56899

Right 108-111ページは未許諾のため本文はありません

Type Departmental Bulletin Paper

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Kyoto University

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国際資本移動と為替レート制度

京都大学大学院経済学研究科

岩本 親和

目 次

Ⅰ 問題の所在

Ⅱ 両極の解とBBCレジーム

(i)政策トリレンマと両極の解

(註)BBCレジームと基礎的均衡為替レート(FEE母

Ⅲ 国際資本移動とフェルドシュタイン=ホリオカのパラドックス

(i)ネットの資本移動とグロスの資本移動

(並)カバー付き金利裁定(CI円とカバー無し金利裁定(UIP)

(i)内外資産の完全代替と不完全代替

(並)ポートフォリオ・バランス・モデル

Ⅴ 結論と課題

Ⅰ 問題の所在

ステイグリッツは、世界銀行のチーフ・エコノ

ミストを辞任した後、「私が世界経済危機で学んだ

こと」と題するエッセイを公表し、世銀在任中か

ら展開していたIMF批判のトーンをさらに高め

た(Sti頭tち200q)。

まず、アジア通貨危機の大きな原因とされる「資

本の自由ヰヒ」について、彼は次のように疑問を投

げかける。「1990年代初期、東アジア諸国は金融

市場と資本市場を自由化した。それは、これらの

国がもっと資金を惹きつける必要があったからで

はなく(貯蓄率はすでに30%を越えていた)、国

際的な圧力があったからで、その圧力の一部は、

アメリカ財務省からのものだった」。周知のごとく、

ここで言う「国際的な圧力」とは、すでにバグワ

ッティが言った「ウォール街=財務省複合体」か

らの圧力であった魯bagⅣati,19粥)1。

さらに彼は、アジア危機に対して行ったIMF

の処方箋を次のように批判する。1980年代にラテ

ン・アメリカで起こった債務危機は、公的債務と

金融緩和とインフレが重なったので、IMFによる

緊縮財政と金融引締は正しい処方箋であった。し

かし、1997年のタイでは、財政は黒字で金融も引

き締められていたにもかかわらず、IMFが前回と

同じ処方箋を課したことは間違いであった。タイ

の問題は、公的部門にあったわけではなく、民間

部門の不良債権にあった。「こういう状況で、引き

締め政策を講じても東アジアの経済は回復しない

だろうと私は恐れた。むしろ景気後退、さらには

不況にすら陥れることになる。高金利は、負債比

率が非常に高い束アジア企業を破綻させるし、倒

産と債務不履行はさらに増える。政府支出の削減

は、経済をさらに収縮させるだけである」。この批

判もまた、すでにフェルドシュタインが「IMFの

誤診」として、その処方箋の誤りを指摘していた

ことであった軌1d8tei叫1998)。 lステイグリッツもまた、世銀在任中に「小国開

放経済は、大海を漕いでいく.ボートのようなもの

だ。この数年間における資本移動は、この海に似 ている。全ての途上国がこの海で漂っている」と、

小国開放経済が自由な資本移動に巻き込まれるこ

との危険性を比喩的に述べていた。

-86-

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このように、小国開放経済が資本移動を自由化

する危険性と、それがもたらした通貨・金融危機

に対するIMFの誤診については、正統派の経済

学者の間でも、すでに共通認識となっている。当

のIMFでさえ、アジア危機が発生する直前まで

進めていた「資本勘定の交換性」に向けたIMF

協定改正を中断せざるを得なかったし(F由cb叫

成d.,1999)、お膝元のアメリカ議会でも、シカゴ

学派の重鎮アラン・メルツァーを委員長とする「メ

ルツァー委員会報告」(IntemationalFi皿anCial

In8titu伝on AddsoⅣCommi88ion,2000)が提申

され、IMFと世界銀行の役割分担と機能縮小が提

唱されるに至った。

他方、アジア危機の大きな原因が、資本移動の

自由化にあるとしても、これらの国が採用してい

たドル・ペッグ制という硬直的な為替レート制度

も、アジア危機のもう⊥っの原因とされてい笥。

これは、指数的に拡大する国際資本移動が不可逆

的な傾向であるならば、それに対して持続可能な

為替レート制度はいかなるものであるか、という

問題の立て方である2。

し第二に、実質実効為替レートの過大評価による

「経常収支危機」は結果であり、その原因は、

BIBFの開設を契機とした資本の自由化と、過大

な資本流入による「資本収支危機」であった4。さ

らに第三に、通貨当局による不胎化介入が無効で

あったことである。資本流入があれば、本来なら

ば資金の需給が緩み、金利が低下するが、固定相

場制を維持するためには不胎化介入を行ってマネ

タリーペー スを一定に保つ結果、金利が上昇し、

さらなる資金流入を招くのである。これら三つは、

「資本移動が自由である場合、固定相場制の下で

は、マネタリーベー スを一定に保つ不胎介入を含

む金融改発は無効である」という「政策トリレン

マ」に対応している。

ところで、資本移動と為替レート制度の違いに

よってマクロ経済政策の有効牲が異なることを簡

潔明瞭に示した理論モデルに、古典的なマンデ/レ

=フレミング・モデル(以下「MFモデル」と略)

がある。MFモデルが多くの批判にさらされなが

らも、今日に至るまで使用頻度が高いモデルとな

っているのは、むしろその単純な仮定(例えば「完

全な資本移動_l)と、極端な結論(例えば「政策ト

リレンマ」)にあると言ってよいであろう5。しか 〈図1・1挿入〉

図1・1は、アジア通貨・金融危機の発生メカニ

ズムを震源地であるタイについて、定型化された

事実をまとめたものである。ここから次の三つの

ことが分かる。第鵬に、通貨危機の直接の引き金

となったのは、・確かにバーツの実質実効為替レー

トの過大評価である。その意味で、実質為替レー

トの

為替レート制度が求められようし、実効為替レー

トの安定を目指すなら、事実上のドル・ペッグで

あった通貨バスケットはなく、例えば円のウェイ

トを高めた通貨バスケットが求められよう3。しか

む為替レート制度の選択肢の問題に主な焦点が当

てられた。さらに究極には、ユーロ導入という背 景もあって、「アジア共通通貨単位」仏8ian

CurrencyUmit,ACU)まで視野に入れたものまで

議論された(岩本1999b)。 4しかも、通貨危機が発生するに、バブルの崩壊

と銀行の不良債権が累積する銀行危機が発生する

というイ双子の危機」が特徴的なことであった。

資本収支危機を回避するためには、何らかの資本

規制(capi七山control)が求められようし、銀行危機 を発生させないためには、プルーデンス規制を柱

とする金融規制鮎andalre卯1ation)が求められ

よう。より一般的には、貿易の自由化に始まり、 資本の自由化に終わる段階的で漸進的な「自・由化

の順序」(鍾耶enC¢0沌be柑h毘tion)が明らかにさ

れねばならない。

らマンデル自身次のように述べている。「もちろん

資本の完全移動性の仮定は文字通りは有効ではな

い。すなわち私の結論はダ⊥ク・グレイとライト・

グレイであるよりはむしろ白か黒なのである。大

量の資本流入がなくて、カナダがアメリカのとは

2新興市場諸国および通貨危機後の東アジアの為

替レ⊥ト制度については、藤木(2000)および福

田・計(2001)を参照。 8アジア危機以降、再度議論が復活した「円の国 際化」の議論も、今回は「通貨バスケット」を含

ー87-

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し、・アセット・アプローチから多く分岐してきた

近年の為替レートの理論モデルからみれば、古色

蒼然たるフロー・アプローチに依拠したオリジナ

ルなMFモデルは、幾重にも修正を重ねられてき

た(;。

本稿では、この為替レートの理論モデルの発展

とMFモデルの修正を念頭に置いた上で 、今日に

おける国際資本移動と.為替レート制度のあり方を

展望する。Ⅱでは、現在IMyが勧告する為替レ

ート制度の公式見解となっている「両極の解」と、

それに対立するウイリアムソンの「BBC レジー

ム」の可能性について検討する。mでは、国際資

本藤動に関するいわゆる「フェルドシュタイン=

ホリオカのパラドックス」について、ネットおよ

びグロスの資本移動と、カバー付きおよびカバー

無し金利平価の実証研究をもとに考察する。Ⅳで

は、アセット・アプローチから多く分岐してきた

近年の為替レートの理論モデルを展望し、リス

ク・プレミアム付きのポートフォリオ・バランス・

モデルに基づき、通貨当局が為替政策と金融政策

を独立に運営できる可能性を検討する。

これに対し、ブレトン・ウッズ体制下の25年

間は、厳格な資本規制の下で固定相場制度を維持

し、為替リスクを公的部門が担うことで「黄金時

代」を享受できた時代であった7。確かに、実体経

済のパフォーマンスは、ブレトン・ウッズ体制下

より、その崩壊後の方が、先進国・途上国ともに

悪化している。●工業諸国の成長率は、1960~73

年の期間は平均4.4%であったが、1973~90年の

期間には1.7%に低下した。貿易の伸びも1960年

代には平均で10%以上であったが、1973年以降

は5%以下に低下した。インフレ率さえ、3.7%か

ら7.9%へと悪化した。「貿易が成長のエンジンで

ある」というフレーズはもはや過去のものとなっ

たが、それに代わって金融が成長のエンジンとは

なり得てはいない。

こうした実体経済の悪化は、変動相場制の採用

と資本市場の自由化と、関係を持つものであろう

か。この間いに答える・・・t一つの手がかりとして、近

年よく言われるようになった「政策トリレンマ」

bolicy血1emma)がある。これは、「資本移動が完

全に自由であるならば、同定相場制の下では、金

融政策は無効になる」というMFモデルの結論の

一つである8。しばしば引用されるオブズフェルド

によると、「資本市場の開放が為替レートと金融政

Ⅱ 両極の解とBBCレジーム

(り政策トリレンマと両極の解

ブレトン・ウッズ体制崩壊後の1970年代以降、

資本市場の統合が進み、資本移動が飛躍的に拡大

した、。‘これは、変動相場制に移行し、為替リスク

が「民営化」されたことによって、各国がそれま

での資本規制を撤廃し、金融・資本市場を自由化

せぎるを得なくなったことの必然的帰結であった

伍atwenand恥yloち1999)。

7IMF第1粂は、IMFの目的が、均衡破壊的な短

資移動や近隣窮乏化的な為替切下げ競争を除去す

ることによって、「国際貿易の拡大および高水準の

雇用・実質所得の拡大」を達成することであるこ

とを述べている。また、IMF協定の最重要条項で

ある第8粂は、あくまで「経常勘定に関する通貨

の交換性」、すなわち貿易の自由化に向けた「為替

管理」(excban酢印nt耶心の撤廃を謳ったもので、

第6秦においては、各国は独自の「資本規制」

kapitalcontrol)を実施できるが明記されている。

8一国の有効需要の拡大が海外への需要の拡大に よって漏出するのと同様に、金利の引き下げが海

外への資本流出によってその効果が無力化する。

いずれも「経済のグローバル化」による「国民国

家の意義の喪失」あるいは「一国ケインズ主義の

無力化」の例として言われることがらであるが、

このこと自体は、すでにケインズ自身が、1933

年の‘‘NationalSe旺モ血伍ciencプ’という論文で指

蹄していたことがらである(岩本,1999a,8頁・9頁

参照)。

違った利子率均衡を維持できる程度に応じて、財

政政策は伸縮為替相場のもとで雇用政策に何がし

かの役割を演じると期待できるし、金融政策は固 定相場制のもとで雇用および産出量に何がしかの

影響をおよぼすことができる。しかしこんにち、

この可能性がわれわれに存在するとしても、将来

それはより弱い程度で存在するであろうと推測し

てよい」伽undd,1963/19鴫邦訳,311貢)。

¢例えば、釣℃nkelandRa血(198中,

Ob8t飴1d(2000),奥村(198功(2001),河合(1994)な どを参照。

-88-

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策に対して課す制約は、矛盾する三つの政策

(血con8i8tentt血tカ、あるいはアラン・テイラ

ーとモーリス・オブズフェルドが名付けた開放経 ●●●■

済のトリレンマ(open-eCOnOmytdemma)という

考え方によって、よく知られている。つまり、一

国は、固定為替レートと自由な資本市場を同時に

維持しながら、他方で国内の政策目標を志向する

金融政策を追求することはできないというもので

ある」(Obs七島1d,1998,p,8)。

さらに、①為替レートの固定、②自由な資本移

動、③金融政策の自律牲という国際通貨システム

を構成する3要素を同時に達成することはできな

い、という政策トリレンマは、ニの3つのうち、

どの2つを採用して、どの1つを放棄するかによ

って、国際通貨システムの歴史を分類する基準に

も さ れ て い る 伍i血engreen,1996,

Ob8t危1d,1998)。第一次大戦前の国際金本位制の

時代は、①と②を採用して、③を放棄したシステ

ムであった。第二次大戦彼のブレトン・ウッズ体

制は、①と③を採用して、②を放棄したシステム

であった。さらに、ブレトン・ウッズ体制崩壊後、

多くの先進国では、②と③を採用して、①を放棄

する選択を行った。これに対して、ユーロを採用

したEU諸国では、①と②を採用しで、③を放棄

するという一見すると国際金本位制の時代と同じ

選択肢を採用した。

こわように現在においては、多くの場合、ほと

んどの先進諸国が採用している選択肢か、ユーロ

諸国が採用している選択肢の2つしかないことか

ら、すでに早い段階からアイケングリーンは、資

本移動の自由化が存続する限り持続可能な為替レ

ート制度は、「変動相場制」か「通貨統合」しかあ

り得ないと断言した伍i血engreen,1994)。彼の予

言は、その後アジア危機を初めとする多くの新興

市場で発生した通貨・金融危機を経て、今日「両

極の解」(twoc肌er80htions,bipolarv払わと

してⅠ脚の公式見解となっている(y由cもeち2001)。

まず、ある国の中央銀行が、自国の不況対策と

して金融緩和を行い、この国の金利が低下すると、

投資家は国際金融市場において、この国の債券を

売り、相対的に金利の高くなった外国の債券を購

入して、資産構成を変化させる。このように自国

から資金が流出すると、外国為替市場において、

自国通貨売り・外国通貨買いが発生し、自国通貨

は減価し、為替レートの安定を保つことはできな

い。この場合、この国は、「金融政策の自律性」と

「自由な資本移動」を維持して、「為替レートの安

定」を放棄したことになる。このように、現在多

くの先進国が採用している変動相場制(フリー・フ

ロート)が-一方の極である。

他方、「金融政策の自律性」を放棄して、「為替

レートの安定」と「自由な資本移動」の2つを達

成することもできる。上記の例で言うと、自国通

貨の減価を防ぐため、中央銀行が外国為替市場に

おいて自国通貨買い・外国通貨売りの市場介入を

行うのである。しかし、この市場介入は自国のマ

ネーサプライを縮小させることになるので、当初

の金融緩和の目的を達成できず、通貨当局は金融

政策の自律性を失うことになる。このように、現

在ユーロ参加国が採用している通貨統合、ないし

は完全な固定相場制(ハード・ペッグ)がもう--・方

の極である。

このように、現在のIMFの公式見解たる両極

の解とは、政策トリレンマのうち琴本移動の自由

を前提とした場合、持続可能な為替レート制度は、

「フリー・フロート」か「ハード・ペッグ」しか

なく、「ソフト・ペッグ」(中間的な為替レーート制

度)は持続可能ではないというものである。

(ii)BBC レジームと基礎的均衡為替レート

(FEER)

これに対して、むしろソフト・ペッグのような

中間的な為替レート制度の方が、望ましいとする

代表的な見解に咤旧Cレジーム」がある。BBC

とは、「Band(為替バンド)・Ba8ket(通貨バスケッ

ト)・Crawl(タロノーリング・ペッ グ)」の頭文字をと

ったものである。これは、最初ドーンプーシュに

よって命名され(Dombl鳩Cll,199㊥、今日ウイリア

ムソンによって強く推奨されているもので、彼は、

この3つを組み合わせた為替レート制度こそ、東

-89-

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アジア諸国のような開放小国経済には相応しいと

言う触m鮒n,2001)。

BBCレジームにおける「為替バンド」では、上

下10%~15%の比較的広い変動幅が認められ、こ

れによって金融政策の自律性が確保される。また、

「通貨バスケット」は、バイラテラルな為替レー

トの安定よりも、実効為替レートの安定を目指す

もので、ウイリアムソンは、最終的には、米ドル

を35~40%、日本円を30~35%、ユーロを30%

程度バスケットに組み込んだ「アジア通貨単位」

(A8ianCumencyUnit,ACU)を展望している。最

後に、為替バンドの中心レートを「クロール」さ

せることによって、実質為替レートの安定を目指

す。

ウイリアムソンによると、「両極の解」の基礎に

ある考え方は、「為替レート制度の選択は、金融政

策の選択に等しい」というものである。すなわち、

固定相場制の採用は、金融政策から裁量性を排除 =…▲●●■●●

して、為替レートを名目アンカーとして用いてい =…●●■…=■ るのであり、インフレーション・ターゲティング

■●●●●

●● を名目アンカーとして用いれば、変動相場制が許

容され、金融政策の自律性が確保される。

前者のケースは、外為市場が狭除で、金融市場

や金融機関も未成熟で、でB市場などの金融政策

の手段が未発達であるため、金融政策に規律が保

てない国において、名目アンカーとして固定相場

制を採用することが効果的なケースである。ただ

し、アルゼンチンの例でも明らかなように、自国

通貨の過大評価から投機アタックに見舞われる前

に、「より柔軟な為替レート制度」に退出していく

かが重要なポイントとなる。

後者のケースは、インフレ・ター・ゲットを採用

し、かつそれに信頼性が置かれているならば、変

動相場制を採用して金融政策の自律性を確保する

ことが望ましいケースである。しかし、経済の開

放度が高い小国経済では、為替リスクのない「よ

り安定的な為替レート制度」に向かうことが望ま

しい。・特に、タイや韓国などのアジア諸国のよう

に、貿易依存度が非常に高く、かつ域内貿易比率

の高い国の間では、域内通貨の相互関係が安定し

ている必要がある。したがって、BBCレジームは、

「インフレ・ターゲットに代替するものではなく、

それを補完するものである」。すなわち、BBCレ

ジームとは、後者のような国において、金敢政策

の自律性をある程度確保した上で、より安定した

為替レートを目指すソフト・ペッグである。

ところで、このBBCレジームは、かつてウイ

リアムソンが提唱し、EMSと基本的には同じ制

度である「ターゲット・ゾーン構想」の延長線上

にあり、中心となるのは、為替バンドの中心レー

トとされる「基礎的均衡為替レート」

(fundamenta】eqllilihrjum exchangc rate,

FEE母の概念であるb。ここでFEERとは、古典

的なスワン・モデル(Swan,1963/1968)において、

国内均衡と対外均衡をともに満たす為替レートで

ある。図2-1は、有名なスワン・ダイヤグラムを

示している。縦軸の実質為替レートRは、

炬 ア

である。ここで、Sは名目為脊レート、Pは自国

の物価水準、P★は外国の物価水準である。実質為

替レートは自国財で測った外国財の相対価格(あ

るいは交易条件)を示すので、名目為替レートの減

価(Sの上昇)、自国の物価水準の下落(Pの下落)、

外国の物価水準の上昇伊★の上昇)は、実質為替レ

ートを減価(Rの上昇)させて、自国の競争力を高

める。

く囲2-1挿入〉

横軸のアブソープションAは、

J=C+J+G

9通常「均衡為替レート」は、「貿易財物価指数に

よってデフレートされた購買力平価」で、現実の

為替レートが向かうべきアンカーとされる。これ

に対して、非貿易財を広範に含む消費財物価指数

でデフレートされた購買力平価は、各国の生活水

準を比較する尺度として利用される(吉川,1999)。

Ⅶam88n(19$尉で定義されたFEERも、この意

味での均衡為替レートである

揮隕比良m紺n,19賂pp.19-2銑

-90-

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である。Cは消費、Ⅰは投資、Gは政府支出であ

る。Yを国内総生産、Ⅹを輸出、Mを輸入とする

と、国内均衡および対外均衡は、

y=d+∬-〟

∬-〟=y-d=0

で定義される。

対外均衡(経常収支の均衡)をもたらすRとAの

組み合わせを示すEE曲線が右上がりであるのは、

Rが上昇(実質為替レートが減価)すると、経常収

支が増加するので、経常収支を減少させるために

は、Aが増加(アブソープションが拡大)しなけれ

ばならないからである。EE曲線の左上の領域は、

対外均衡をもたらすRとAの組み合わせより、高

いRと嘩いAが対応しているので、経常黒字の領

域、右下の額域は、対外均衡をもたらすRとAの

組み合わせより、低いRと高いAが対応している

ので、経常赤字の領域である。

また、国内均衡(完全雇用または自然失業率をも

たらす総生産の水準)をもたらすRとAの組み合

わせを示すDE曲線が右下がりであるのは、Rが

上昇(実質為替レートが減価)すると、経常収支が

増加して総需要が拡大するので、経済を自然失業

率の水準にまで戻すには、Aが減少(アブソープシ

ョンが縮小)しなければならないからである。DE

曲線の右上の領域は、国内均衡をもたらすRとA

の組み合わせより、高いRと高いAが対応してい

るので、インフレの領域、左下の額域は、対外均

衡をもたらすRとAの組み合わせより、低いR

と低いAが対応しているので、失業の領域である。

このように、スワン・ダイヤグラムでは、4つ

の示均衡領域(失業と黒字、失業と赤字、インフレ

と黒字、インフレと赤字)が示され、国内均衡と対

外均衡が同時に達成できる腋点における実質為替

レートⅣがFEERである10。

ウイリアムソンのBBCレジームにおける為替

バンドの中心レ.-トは、このFEERを意味してい

る。かつてのターゲット・ゾーン樺想では、この

FEERを中心にしてバンドを設けるものであった

が、さらにこの中心レートをクロールさせるのが

BBCレジーム構想である。このようにBBCレジ

ームの基礎になっている理論は単純である。ただ

し、ウィリアムソンの提案では、FEERにおける

対外均衡の概念は、持続可能な経常収支ポジショ

ンという意味に拡大されている。すなわち、将来

の債務返済が持続可能である限り、現在経常赤字

を持つことは可能とされている。確かに、将来の

GDPの伸びを推計し、それをもとに将来の債務返

済額を推計した上で、経常赤字の持続可能な水準

を決定することは容易なことではなく、FEERの

正確な値については不確実性が伴い、この提案を

実施に移すこ と には困難が伴 う(De

Grawe,291・292頁)。しかしウイリアムソンは、

国内均衡を維持することに優先順位をおくべきで

あって、短期的な対外不均衡はショック・アブソ

ーバー として利用され、BBC レジームにおける

FEERは中期的に対外均衡を達成する為替レート

として考えられるべきであるとしている。

Ⅱ 国際習本移動とフエルドシュタイン=

ホリオカのパラドックス

(i)ネットの資本移動とグロスの資本移動

各国の金融市場の統合が進み、国際資本移動が

活発化すると、各国の貯蓄は世界全体でプールさ

切り下げて国内の物価水準Pが下落することによ

って、実質為替レートが減価(Rが上昇)し、経済

は均衡点Eに向かう。しかし、価格が硬直的な場

合、失業を減らすための拡張政策をとれば、経済 はG点に向かい、国内均衡は満たされるが、経常

赤字はさらに拡大する。逆に、′経常赤字を減らす

ために引締政策をとれば、経済はF点に向かい、

対外均衡は滞たされるが、失業はさらに増加する。

このように、経済がC点を通る水平線の罠にはま っている状態が、ミードの言うディレンマ状態で

ある。あるいは、IMF協定の言う「基礎的不均衡」

の状態であり、同定相場制の維持を放棄して、や

がては自国通貨の切下げに至らざるを得ないであ

ろう。

10今、経済が何らかのショックによって、均衡点

Eから帯解してC点に移ったとしよう。例えば、

インフレが生じて、実質為替レートが増価(Rが下

落)し七、経常収支が赤字になり、需要が落ち込む

ことによって生産が縮小して失業が発生するよう

な状況である。 このとき、価格が伸縮的であるならば、賃金を

-91-

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れ、それらは最も収益率の高い国に投資されるは

ずであるから、咽内貯蓄と国内投資には何ら相関

関係がなくなる」と予想される。しかし、いわゆ

る「フェルドシュタイン=オリオカのパラドック

ス」(以下「FHパラドックス」と略)を囁矢とする

一連の実証研究で乱国内貯蓄と国内投資の間に

強い相関関係を見いだしている11。これは、国内

貯蓄が自国市場で吸収され、投資家が国■内資産へ

強いポートフォリオ選好を持つことを示しており、

必ずしもグローバルな意味での金融市場の統合な

いしは資本移動の活発化を支持していない(翁

他,1999)。

くるが、それでも19鯛年代後半以降ようやく第

一次大戦頃の3%に近い水準にまで回復している

に過ぎない。最近になってもネットの資本移動が

必ずしも大きなものではいという彼らの実証研究

は、FHパラドックスと整合的である。

〈図8-2、図3-3挿入〉

翁他(1999)は、Ob8脆ItandTaylor(1997)の研

究対象とほぼ対応する10カ国について、1970年

以降のネットとグロスの資本移動を比較した。ネ

ットの資本移動(資本流出一資本流入)を示した図

3-2では、Ob8t鎚1tand馳yl肝h997)とほぼ同じ

結果を得ている。

これに対し、グロスの資本移動(資本流出+資本

流入)を示した図3・3では、1980年代後半から急

拡大し、特に1990年代後半からは飛躍的に拡大

していることがわかる。ただし、グロスの資本移

動を歴史的に実証することは極めて困難である。

貯蓄・投資バランスは経常収支に等しく、経常

収支の不均衡はネットの資本移動によってファイ

ナンスされる(日本語で言ういわゆる「実需に基づ

いた」資本取引である)ので、資本移動が自由であ

ることは、経常収支の不均衡が持続可能である(重

複世代間の効用最大化ないしは動学的最適化)と

いう意味では望ましいことである。その意味で、

FHパラドックスが教えることは、金融市場の一

層の統合ないしは資本移動のさらなる活発化が望

ましいということになる。しかし、グロスの資本

移動は、すでに十分に活発であり、さらに近年飛

躍的に拡大しており、その大部分は望ましい資本

移動とは全く別の、いわゆる「投機に基づいた」

資本取引である。

グロスの資本移動が急拡大している背景にほ、

一回の取引量が大きくなったことのみならず、資

本取引が短期化し、資本の流出入が激しくなって

いることがある。その意味で、トービン税の目的

が、長期投資に対する収益を減少させることなく、

短期で往復毎Ⅵ皿d一山pping)する資本移動に対す

る収益を減少させることにあるのは、グロスの資

く図3-1挿入〉

Ob8脆1tand恥ylod1997)は、先進12カ国にお

ける経常収支の対名目GI)P比の推移を調べるこ

とによって、ネットの資本移動の推移を歴史的に

実証した。-一国の貯蓄と投資の差額は経常収支に

等しく、経常収支は資本収支でファイナンスされ

るので、この実証研究はFHパラドックスを歴史

的に換証することになる。図針1によると、1870

年から第一次大戦までは、その値は概ね3%を越

える水準にあり、特に国際金本位制が確立した

1890年代前後は4~5%超の水準にまで達してい

た。しかし、その後の戦間期およぴブレトン・ウ

ッズ体制期には大きく落ち込み、変動相場制に移 行した1970年代以降、再びこの数値は上昇して

11Feld8te血andHorioka(198¢は、1960年から

1974年におけるOECD加盟16カ国について、

国内投資率(Ⅰ/やと国内貯蓄率昏/Y)との間に、

J/y=0.04+0.89g/ア 属2=0.91

(0・02)笹07)

という強い相関関係を見いだした。Ob畠七鎚Id儀nd

Ro卵餌199軸p.161・164〉は、1982年から1991年

におけるOECD加盟22カ国のデータにより、

J/ア=0.09十0.62ぷ/r 属2=0,69

(0.02)(0.卵)

という若干弱い相関を見いだしたが、依然として

正の相関を示している。

ー92-

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本移動に対する課税という意味で、近年の資本移

動の特徴に相応しい栓塞と言えるだろう。

とき、先物プレミアム(亜は両国の金利差屯⊥iりに

等しい。

CIPは、資金取引に資本規制などの障壁が何も

ないならば、必ず成立する。図計4は英米間のCIP

の歴史的推移であるが、図3-1のネットの資本移

動の推移とほぼ同様の結論が得られている

(Ob或飴1tand恥yloち1997)。すなわち、第一次大

戦までは、英米間の金利格差は1%前後と非常に

小さく、カバー付き金利裁定取引が活発に行われ

ていたが、その後の戦闘期およびブレトン・ウッ

ズ体制期には、両国の金利格差は最大で4%近く

まで大きく広がり、再び金利差が締小してくるの

は1980年代に入ってからである。近年の実証研

究でも、ユーロ市場など資本規制のないオフショ

ア市場では厳密にCIPが成立しているが、日米間

など主要国市場間でも資本移動が自由化されてか

らはCIPが成立するようになった(図3-5参照)。

(ii)カ′ト付き金利平価(CIP)とかト無し金利平

価(U胆)

短期の資本移動がどれだけ活発に行われている

かは、金利裁定取引がどれだけ活発に行われてい

るかに等しい。一般に、金利の低い国から金利の

高い国へ資金を移動させるとき、資金移動時点と

資金回収時点での為替リスクを回避するために、

直物為香取引と先物為替取引を同時に行う為替ス

ワップ取引が使われる。したがって、ふつう金利

裁定取引は、「先物カバー付き」の金利裁定取引の

形態をとる。

鼠、Fを直物レートおよび先物レート、i、i★を

自国および外国の金利とすると、1単位の自国通

貨を金利iで調達し、それで1侶単位の外国外貨

を購入(直物買い)し、金利i★で外国で運用した後、

F単位の自国通貨と交換に1単位の外国通貨を売

却(先物売り)した場合の葬利合計は(1+iり×即S

となり、そこから1+iを返済する。前者伊卜国通

貨で運用した元利合計)が、後者(自国通貨を調達

した元利合計)よりも大きい限り、この金利裁定取

引は続く。そのため、自国通貨の調達コストであ

る自国金利iが上昇、直物買いが発生するのでS

が上昇、外国通貨の運用益である外国金利i曽が‾F

落、甥廟売りが発生するのでFが下落する。結局

このようなカバー付き金利裁定取引は、

1十呵…●)× (3-1)

が成立するまで続くことになる。(3-1)式が成立し

ているとき、「カバー付き金利平価」kove柁d

ht紺e8tpa頭ty;CI功が成立していると言う。dを

先物プレミアム(自国通貨のディスカウント)とす

ると、CIP条件は、

く図3-4、図3・5挿入〉

これに対し、為替リスクを先物予約でカバーし

ない金利裁定取引によって、為替レートの期待減

価率を考慮に入れた内外の期待収益率が等しくな

る関係を、、「ヵバー無し金利平価」(uneovered

inter朗七pa由tyiUIP)と言う。Eを期待為替レーート

とすると、UIPが成立しているとき、内外の期待

収益率に関する均衡式は、

● f=f十 (3-3)

と表される。なぜなら「左辺>右辺」ならば、資

金は自国で運用した方が利益が上がるから、自国

資産に対する需要が高まることで、自国の債券価

格は上昇(利子率iは下落)し、逆に「左辺<右辺」

ならば、資金は外国で運用した方が利益が上がる

ダーぶ

1+f F ニ=∴∴† コ=

1十J’ぶ

と変形できるが、凱fをS、Fの対数値とし、両 辺の対数をとると、上式は近似的に、

′-∫#トJ●

と変形できる。

●●

=ニ‡-~ d羊 (3-2)

と表される12。すなわち、CIPが成り立っている

ほ(3・1)式は

-93-

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から、外国資産に対する需要が高まることで、外

国の債券価格は上昇(利子率i★は下落)するからで

ある。為替レートの期待減価率を〃とすると、

(3・3)式は、

f=f†+… [ ただし、P=誓‡

と表される16。P>0(F>E)ならば、投資家は自

国通貨建て資産をカバーなしで保有することにリ

スクを感じていることを意味し、自国通貨建て資

産の期待収益率(わは、外国通貨建て資産の期待収

益率炉+dより、リ・スク・プレミアム分(∂だけ

高くなければならない。

例えば、現在は円建て資産を持っているが、将

来それをドルと交換して対外支払いを必要として

いる輸入業者を考えよう。この業者の期待為替レ

ートの平均値(E)が120円で、先物レート(研が130

円であるとき、この業者が「リスク回避的」な投

資家ならば、円がさらに大きく減価する(例えば

140円)ことを嫌うので、先物予約によって確実に

円をドルと交換しておくことを望むだろう。この

場合の10円伊-E)は、円が減価する為替リスク

の市場価値である。現在の為替レー十(S)が100

円ならば、日米の金利差仁一iりは、期待減価率(ノ上

=佃卜牒)侶)2%より、リスクプ・レミアム(炉(F

一助/S)1%だけ開かなければならない。

逆に、逆に、β<0(F<E)ならば、投資家は外

国資産をカバ鵬なしで保有することにリスクを感

じていることを意味し、外国通貨建て資産の期待

収益率G★+〃)は、自国通貨建て資産の期待収益率 0より、リスク・プレミアム分(β)だけ高くなけ

ればならない。例えば、現在はドル建て資産を持

っているが、将来この対外受取りを円と交換する

必要のある輸出業者を考えよう。この業者の期待

為替レートの平均値佳)が130円で、先物レート

(幻が120円であるとき、この業者が「リスク回避

的」な投資家ならば、ドルがさらに大きく減価す

る(例えば110円)ことを嫌うので、先物予約によ

って確実にドルを円と交換しておくことを望むだ

ろう。この場合の10円(E--のは、ドルが減価す

る為替リスクの市場価値である。現在の為替レ∵

g-ぶ P=柵= .. 才一f

ぶ (3-4)

と変形できる18。すなわち、UIPが成り立ってい

るとき、為替レートの期待減価率(〝)は両国の金

利差仁一iりに等しい。

資本移動に規制がなければCIPは常に成立する

が、UIPは理論上の仮説であるため、実際にt乃P

が成立するかどうかは、実証研究でも確かな結論

は出ていない。なぜならば、t刀P仮説の検証は、

期待減価率がわからないため、期待に関する特定

の仮説(適合的期待や合理的期待)に基づいて行わ

れるが14、たとえl乃P仮説が棄却されても、それ

が期待に関する特定の仮説が間違っていたからな

のか、UIPが成り立たないことによるからなのか、

区別ができないからである(Is肛d,1995,Cb.5,高

木,1999,122頁-123頁)。

特に、投資家のリスクに対する態度は重要であ

る。投資家が「リスク中立的」な場合には、先物

為替レートは期待為替レートに等しく、E±Fとな

り、UIPとCIPの区別は意味がなくなる。しかし、

投資家が「リスク回避的」な場合には、UIPが成

立しない。ここで、βをリスク・プレミアムとす

るとご(3・3)式で表される内外資産の期待収益率に

関する均衡式は、

柑CIPと同様に、eをEの対数倍とすると、(3・粛

式は、 .●

. ピー∫#J-J

と変形できる。

14例えば、適合的期待や合理的期待といった仮

説に基づいて行われるが、最も単純な静学的期待

(今期と同じ為替レートが将来も続くと予想)を仮

定すると、S=Fとなり、(3一心式ほ単純に、

.●

~去J

と表される。通常のMFモデルは、この静学的期

待を仮定し、資本収支は内外金利差のみによって

決まる。

16対数表示をすると、

′=g+P

となる。

-94-

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ト(S)が100円ならば、日米の金利差G★一分は、期

待減価率(〃=穣一S)/S)3%より、リスクプ・レミ

アム(β=紘一の/S)1%だけ開かなければならない。

差別である。したがって、CIPのみならず(3-4)式

のUIP、すなわち、

[ ただし、いギ] ●■ f芝J+P

Ⅳ 固定レート制における金融政策の自律

(り資産の完全代替と不完全代替

資産価格としての為替レート決定論であるアセ

ット・アプローチは、次のように分類される(図

4・1)。

も成立する。

これに対し、「内外資産が不完全代替」

(i皿pe殖cta88et紺b8titⅦtab揖ty)の場合、自国資

産と外国資産の期待収益率が異なっていても、外

国為替市場は均衡しうる。すなわち、投資家はた

とえ期待収益率が低い資産でも、リスクの低い債

券を選好するかもしれないし、逆にリスクの高い

債券を保有するた捌こは、その期待収益率よりリ

スク・プレミアム分だけ高くなければならない。

このときUIPは成立せず、外国為替市場の均衡は、

(3・封式のように、

と表される。

f=f■・…[ただし、P=王手] 内外資産が不完全代替の場合、最も興味深い結

論は、通貨当局が為替レート政策と金利政策を互

いに独立して運営できるという点である

(Dornb朋CbandⅨrugm叫1976,p・556)。内外資

産が完全代替の場合、固定相場制の場合、MFモ

デルより、自律的な金融政策や不胎化介入は無効

となる。すなわち、為替レート政策と金融政策を

独立に使うことはできない。これに対して、内外

資産の代替性が不完全ならば、固定相場制の下で

も通貨当局は金融政策の独立性を維持でき、「資本

移動が完全である場合、固定相場制の下では金融

政策の自律性は達成できない」というMFモデル

から導かれるトリレンマ命題とは異なる結論が得

られる。

このような結論が得られるのは、通貨当局のマ

ネタリー・コントロール(マネー・サプライを設定

する能力)が、単にマネタリー・ベースの総額を変

化させるだけでなく、マネタリー・ベー スを構成

する国内資産と対外資産の比率(ポートフォリ

オ・バランス)を変化させるからである。したがっ

て、通貨当局による為替レート政策(外貨準備によ

る市場介入)や、金融政策(国内資産の売買による

〈図4・1挿入〉

まず、アセット・アプローチに共通する仮定は、

「資本移動の完全性」(per鈷ct capital-mobi揖y

between countde8)であり、CIPが成立すること

が前提となっている。その上で、アセット・アプ

ローチは、「内外資産の完全代替」(per鈷d

8ubstitutabilitybetween domeBticandforeign

bon由)を仮定する「マネタリー・アプローチ」と、

「内外資産の不完全代替」を仮定する「ポートフ

ォリオ・バランス・モデル」に大別される。前者

は、UIPが成立することを前提とし、その上で価

格の伸縮性を仮定する「マネタリスト・モデル」

と、価格の硬直性を仮定する「ドーンプッシ主・

モデル」に二分される。後者は、UIPが成立しな

いことを前提とし、内外資産の保有にはリスク・

プレミアムが付く。

重要なのは、「国際資本の完全移動牲」と「内外

資産の完全代替性」の区別である。r国際資本の完

全移動性」を仮定すれば、デフォルトーリスクや

資本規制への懸念がないので、(計2)式のCIP、す

なわち、

f=f・+d

が成立する。.

ただし、d=誓] 「内外資産の完全代替性」は、「国際資本の完全

移動性」よりも強い仮定で、資産保有者は自国お

よび外国の証券保有から得られる期待収益率が同

じならば、ポートフォリオ構成に関しては全く無

ー95-

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公開市場換作)は、民間部門における投資家のポー

トフォリオ・バランスに影響を及ぼす。例えば、

「不胎化介入」は、マネタリー・ベ∵スの総額は

変わらないが、通貨当局が保有する国内資産と対

外資産の構成比率を変化させ、これに対応して投

資家が保有する国内資産と対外資産の構成比率も

変化する。したがって、上記のように、たとえ投

資家が保有する国内資産と対外資産の期待収益率

が同じであっても、リスク・プレミアムが異なっ

て内外資産が不完全代替である場合には、内外資

産が完全代替である場合のように、マネー・ サプ

ライの総額の変化だけを考慮に入れたモデル

(UIPを前提としたマネタリー・モデルや、t乃P

を組み込んだM暫■モデルの拡張16りでは不十分と

なる。

Pを物価水準、Lを実質貨幣需要、Yを実質国民

所得とすると、

=瑚ア) タ

(4-1)

f=f+ +p(4-2)

ただし、P=P(β-d), P->0

で表される(以下は、Ⅹr噸man amd Ob8班混,

pp.507-511,pp.521-523参頗)。

ここで、Aは中央銀行が保有する自国債券、B

は政府債務残高(国債発行残高)を表す。この式は、

投資家にとって自国債券と外国債券は完全な代替

物ではなく、自国債券を保有することに対するリ スク・プレミアムβは、民間部門が保有する政府

債務残高(B一心が増加するほど上昇し、中央銀行

が保有する自国債券(刃が増加するほど低下する

ことを意味している。すなわち、投資家が危険資

産を保有するた捌こは、その予想収益率かリス

ク・プレミアム分だけ高くなくてはならない。

図4・2の下半分は、(4-1)式で示される貨幣市場

の均衡を表し、上半分は(4-2)式で示される外国為

替市場の均衡を表す。(4-1)式で決まった利子率が、

(4・カ式の左辺で表される自国通貨建ての期待収

益率であり、それは図9の上半分の垂直線で表さ

れる。また(4-2)式の右辺で示されるリスク・プレ

ミアム付きの外国通貨建ての期待収益率は、図9

の上半分の右下がりの曲線で表される。最初、貨

幣市場と外国為替市場が軌点で均衡していたと

しよう。

(ii)ポートフォリオリくランス・モデル

そこで、リスク・プレミアムがある場合の貨幣

市場と外国為替市場の均衡特、Mを名目貨幣供給、

】6t汀Pを組み込んだMFモデルは、

y=C(γ-ア)+′¢)+G十βP(れ∫)

=坤,ア) ア

.g--∫ . 王=f 十∴

と表される什は税金、BPは国際収支を表す)。注 *で触れたように、E=Sという静学的期待を仮定

すれば、外国為替市場の均衡式は、 .●

~=J

となり、通常のMFモデルとなる。UIPを組み込

んだMFモデルでは、馳ugmanand Obさt鈷Id(2000,C血.16)等のテキストで採用されて

いるAかDDモデルを使用する方が分かりやすい

が、通常のM万■モデルで採用されているIS・Mモ

デルと全く同じ結論が導かれる¢

17マンデル自身は、「資本の完全移動性の仮定は

体系内の全ての証券が完全な代替物であることを

意味すると解釈することができる」

伽血鮎い963/19関,邦乳298東)と述べ、二つの

仮定を同等のものとして扱っているが、彼が実は

両者を区別していたとして、Mf■モデルを再定式

化したものとして井川(19$労がある。また、本稿

注5も参照めこと。なお、MF密デルを以下で述 べるポートフォリオ・バランス・モデルから再検

討したものとして渡辺(1998)がある。

く図廿2挿入〉

まず、不胎化介入の効果を調べてみよう。固定

相場制では不胎化介入は効果がないとされるのは、

自国通貨の切下げを狙った中央銀行による「外国

通貨買い・自国通貨売り」の市場介入によって増

加したマネー・サプライを相殺するため、「自国債

券売り」のオペレーションを行うと、結局マネー・

サプライがもとの水準にもどってしまうからであ

る。

-96-

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しかし、不胎化によってマネー・サプライに変

化がなくても、中央銀行が保有する資産構成につ

いてみれば、「自国債券売り」のオペレーションに

よって自国債券(刃が減少しているので、リスク・

プレミアムpが上昇している(pl<郎)。したがっ

て、外国資産の収益率は右上方にシフトし、外国

為替市場の均衡点は軌からE2へ移り、為替レー

トはSlからS2へと切り下げられる。

次に、金融政策の効果について考えると、MF

モデルによると、固定相場制では金融を綬和して

も、マネー・サプライの増加による自国通貨の減

価を防ぐため、中央銀行が「外国通貨売り・自国

通貨買い」の市場介入によって、増加したマネー■

サプライを相殺するため、金融緩和政策が打ち消

されてしまうと考えられるからである。

しかし、マネー・サプライの増加による金融緩

和を行った場合、中央銀行が保有する資産構成に

ついてみれば、「自国債券買い」のオペレーション

によって、自国債券(功が増加しているので、リス

ク・プレミアムβが低下している(桝>p3)。した

がって、外国資産の収益率は左下方にシフトする

ことによって、外国為替市場の均衡点は、Elから

E8へ移り、為替レートはSlで固定されたまま、

金利をilから由へ下げることができる。

すると、

〟=〟(げ+P,Ⅳ) +

β=β(fノ+け,町) ■-- ・ト

ダ=ダ(f,f★」一帖粁) 一 十 +

と表せる。各変数の符号条件は、第一に、貨幣需

要は、内外の債券に対する予想収益率が上昇する

と減少する。第二に、内外の債券需要は、当該国

債券に対する予想収益率が上昇すると上昇し、相

手国債券に対する予想収益率が上昇すると下落す

る。第三に、三つの資産とも総資産額が上昇する

と、上昇する(資産効果)。

(4・3)式は恒等的に成り立つので、(4・㊥式~(4・6) 式のうちの二つが成立すれば、残りの一つは自動

的に成立する(ワルラス法則)。したがって、外国

利子率i★と期待為替レートEが与えられると、独

立した二つの式から、自国利子率iと為替レート

Sが決定される。

く図4・3、図4・4挿入〉

囲4・3は、貨幣市場と国内債券市場を均衡させ

る自国利子率と為替レートの組み合わせを表す

MM曲線とBB曲線を描いたものである。MM曲

線が右上がりで、BB曲線が右下がりなのは、①

為替レートSが上昇(減価)すると、自国民の保有

する外国債券の自国通貨建て価値SFが上昇する

ことによって、総資産額Wが増加するので、資産

効果によって貨幣帝賓と国内債券需要はともに増

加するが、②貨幣市場の超過需要は利子率iの上

昇によって、均衡が回復されなければならず、自

国債券市場の超過需要は利子率iの下落に、均衡

が回復されなければならないからである。

ポートフォリオ・バランス・モデルでは、二つ

の曲線の交点軌で、為替レートと利子率が決定

される。このモデルから、通貨当局がマネー・サ

プライを変えずに為替レートを操作できること

(不胎化介入の有効性)や、逆に為替レートを変え

ずにマネー・サプライを管理できること(固定相場

内外資産が不完全代替であるケースは、一般に

はポエトフォリオ・バランス・モデルで説明され

る18。

一国の投資家は、保有する金融資産の総額1Ⅳを、

自国通貨M・国内債券B(自国通貨建て)・外国債

券F(外国通貨建て)の形で、分散して保有するも

のとすると、

Ⅳ=〟+βヰ5ア (4-3)

という予算制約式が成り立つ。三つの資産市場の

ストック均衡条件は、右辺を各資産の需要関数と

18ポートフォリ.オ㌧バランス・モデルは、初期の

開発者であるプランソンとヘンダーソンによって

再検討されているが(Bran80nand

Hend母指0皿,1985)、以下は主として浜田(1996)と

高木(1999)によっている。

ー97-

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制での金融政策の有効性)を示すことができる。

ます、市場介入(ここでは自国通貨売り介入)の

効果を考えよう。第一に「不胎化されない介入」

の場合、貨幣供給が増加するので、MM曲線は

M’M’曲線へと左方シフトする。なぜならば、為替

レートSが不変ならば、利子率iが下落して貨幣

需要を増加させなければならないからである。こ

の結果、新しい均衡点はE2へ移り、利子率は毎

へ下落し、為替レートはS2へ上昇(減価)する。

第二に「不胎化された介入」の場合、貨幣供給

は一定で、資産総額Wも変化しないが、自国債券

と外国債券のポートフォリオ構成を変化させる。

すなわち自国通貨売りによって外国債券の供給は

減少し、売りオペレーションによって自国債券め

供給は増加する。自国債券の供給が増えると、BB

曲線はB’B’曲線へと右方シフトする。なぜならば、

為替レートSが不変ならば、利子率iが上昇して

自国債券に対する需要を増加させなければならな

いからである。この結果、新しい均衡点は払へ

移り、利子率はねへ上昇し、為替レートはS2へ

上昇(減価)する。

次に、固定相場制下での金融政策の効果を考え

よう。図4・4に示されるように、買いオペレーシ

ョンによって貨幣供給を増加させると、MM曲線

は左方にシフトするが、自国債券の供給が減少す

るので、BB曲線も左方にシフトする。その結果、

為替レートはSlで固定されたまま、金利をilか

ら毎へ下げることができる。

このように、内外資産の不完全代替を仮定した

ポートフォリオ・バランス・モデルでは、内外資

産の構成比を変化させることによって、通貨当局

が金融政策と為替政策を独立に行うこと(貨幣供

給を一定にして為替レートを動かしたり、為替レ

ートを固定して貨幣供給を変化させたりするこ

と)ができることを明らかにしている。

したのは、性急な資本の自由化に伴う過大な資本

移動と、それに対して持続可能な為替レート制度

に問題があったからである。まず為替レート制度

に焦点を当てると、自由な資本移動を前提とする

限り、持続可能な為替レート制度は、ハード・ペ

ッグかフリー・フロートしかないとする「両極の

解」は、現在のIM万I公式見解であり、MFモデル

から直接導かれる政策トリレンマに依拠したもの

である。ただし、2で述べるように、両極の解は、

それが前提としている「自由な国際資本移動」が

疑わしい限り、二者択・一一の単純な問題ではなくな

る。

これに対して、ウイリアムソンの鴨BCレジー

ム」は、小国開放経済には望ましい固定相場制の

メリットと、金融政策の独立性が維持できる変動

相場制のメリットを組み合わせたソフト・ペッグ

である。ただし、BBCレジームの場合、為替レー

トが名目アンカーとはなりえず、インフレ・ター

ゲットを名目アンカーとして採用することが考え

られるので】9、金融政策にはある程度の制約が課

される。また、中心レートとしてのFEERは、持

続可能な経常収支ポジションを認めるもので、基

本的に対外均衡より国内均衡を優先するケインズ

的な発想を持っている。ただし、経常赤字の持続

可能な水準を決定することは容易ではなく、

FEERの正確な倍を推計し、この提案を実施に移

すことに百草困難が伴う。

2.次に、通貨危機のもう一つの要因であった

資本移動の自由化に焦点を当てると、ネットの資

本移動で見る限り、「フェ/レドシュタイン=ホリオ

カのパラドックス」に関する実証研究は、近年に

おいても必ずしも国際資本移動の活発化ないしは

金融市場のグローバルな統合を支持していない。

しかし、近年の国際資本移動の大きな特徴は、グ

ロスの資本移動の飛躍的拡大であり、それは一回

の取引量が大きくなったことのみならず、資本取

引が短期化し、資本の流出入が激しくなっている Ⅴ 結論と課題

本稿の考察から、以下のような結論と残された

課題が指摘される。

1.1990年代以降に21世紀型金融危機が頻発

19実際、インフレ・ターゲットは通貨危機直後に

韓国で導入され、2000年に入ってインドネシアと

タイで導入された(福田・計,2001)。

-98-

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ことを意味し、経常収支の不均衡を持続可能なも

のとする望ましい資本移動とは言えない。その意

味では、何らかの資本規制は正当化されるかもし

れないし、グロスの資本移動の課税する「トービ

ン税」のアイディアは放棄されるべきではない。

また、本稿の範囲を超えるがヾ 自由化の順序問題

として、資本の自由化には健全な金融規制が前提

条件となり、この条件を満たさない資本自由化に

は大きな危険が伴う20。

さらに、資本移動の自由度を測るもう山つの尺

度である金利裁定については、カバー付き金利平

価(CI巧は先進国の間では成立している。しかし、

カバー無し金利平価(t丑円については、実証研究

でこれを完全に支持することは困難である。した

がって、今日のスタンダードな為替レート決定論

が依拠するUIPは、実証的な裏付けを持たない仮

説である。UIP仮説は、資本移動の完全性のみな

らず、内外資産の完全代替も仮定しないと成り立

たないが、投資家がリスク回避的であり、内外の

資産保有にリスク・ウレミアムがつく場合、内外

資産は不完全代替となろ。

3.内外資産が不完全代替を前提とする「ポー

トフォリオ■バランス・モデル」では、金融政策

と為替政策を独立に運営されることが示され、固

定相場制のもとでの不胎化介入や金融政策の有効

性が結論づけられる。例えば、通貨当局によるマ

ネー1サプライの拡大は、投資家が自国通貨建て

資産を保有することのリスク・プレミアムを下げ

ることによって、「資本流出→為替レートの減価」

を引き起こすことなく、金利を引き下げることが

できる。

確かに、理論的に資産の代替性と資本の移動性

とは異なる概念であるが、多くの実証研究では、

資本規制がない場合に内外資産の代替性が高いこ

と、つまり資本移動が自由になるほど、内外資産

の代替性も高まることを示している。これが事実

なら、分析手.段としてのポートフォリオ・バラン

スは必要なく、より単純なマネタリー・モデルで

十分なことになる(高木,166頁)。さらに、不胎化

介入は為替レートに影響を及ぼすことができる考

えを支持する実証研究は、ほとんどない。つまり、

市場介入が為替レートに影響を及ぼすのは、ポー

トフォリオ効果ではなく、アナウンスメント効果

によるところが大きいのである。他方、多くの実

証研究では、マネタリー・モデルが依拠するUiP

仮説は必ずしも支持されず、それを棄却している。

もしも、t刀P仮説が棄却されるべきであるという

推論が、リスク・プレミアムの存在を反映してい

るなら、資産の不完全代替に依拠するポートフォ

リオ・バランス・モデルは支持されることになる。

要するに、「資本の移動性」と「資産の代静性」

の区別や、両者を区別した上で金融政策と為替政

策の独立性は維持できるかという問題は、理論的

にも実証的にも解決がついていない問題なのであ

る。

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図1-1:アジア通貨・金融危機のメカニズム(タイのケース)

毎出競争力の低下

図2-1:スワン・ダイヤグラム

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図3-1:ネットで見た国際資本移動の歴史的推移(1870年~1990年)

図3-2:ネットで見た国際資本移動の推移(1970年~1997年)

鰻綱削那託絆鹿㍍轍

軋蔦

盈′漫

盈腰

1,、ち

!爵

観、毒

草督

期首瑠苛諾 登逸欝磯謂菅録す署貰重苛撃戯欝葛笥曙感遜掛導翫鵜那葦摘鮮姦職警琶 鰐琵罫弥重態整賂野冨

饗陶芸覿軌鮎艶弼削ぎ感触聯榊車軸怨敵袈

輔ギニトリ▲、去:ニ‥j-■、=亘いい‘.・IJJ一㌢・.‾ノ・うンン\、、巨∴ト、∫.で:ソj■∫■.l、率,ノ、‡い1-、こ、…、

諷穀農紛轡訝、轟韓句激観輩

出所:翁他(1999)

-103-

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図3-3:グロスで見た国際資本移動の推移(1970年~1997年)

竜湘感瀞痘B野絶≠′醸妾

層臨

習遼

琶浄

胡藩貰1苛透写護習感て格鞄苛昔苛機雷諺鮮重層轟著名讃銅鮎登賂感貸地療静剥・酎髄琶絡髄習琵琶娘田

出所:翁他(1999)

図3-4:英米のカバー付き金利平価の歴史的推移(1870年~1990年)

-104-

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図3-5:日米のカバー付き金利平価の推移

欝鵬 閣 嚇糟 陸弓感 動塾海 砂j念

経…弼牽領紆勉練ずb豊野 遜欝聯瑞転戯婚儀頸泡

隆儲 鱒靡三羞ユ肝禦醐汐藤輝 戯感醜那瑚瀾㈲酔

出所:高木(1999)

図4-1:アセット・アプローチの分類

ネタリストモデブ

→伸縮的価格(且exiblep血es)

ネタリー・アプローチ

→内外資産の完全代替

→カバー無し金利平価(UIP)の成立

(i-i★=J

→リスク・プレミアム無し

(戸0)

ーバーシューティンクや・モデブ

(ドーンブッシュ・モデル)

→硬直的価格(8ticky脚ic朗)

セットアブロ

→資本の完全

-→カバー付き

(i-i★芦心

ートフがオ・ハやランス・モテ

→内外資産の不完全代替

→カバー無し金利平価(UIp)は成立せず

→リスク・プレミアム有り

(p≠0)

出所‥Frankel(1983)

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図4-2:固定レート制下での不胎化介入と金融政策

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-106-

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国4疇3:ポートフォリオ・バランスーモデルでの市場介入

12 11 13

図4-4:ポートフォリオ・バランス・モデルでの金融政策

12 11

ー107-