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第8章 耐震、免震、制震の基礎知識の基礎知識
参考文献:(1)斉藤大樹 「耐震・免震・制震のはなし」、日刊工業新聞、2005年、¥1200(2)清水建設免制震研究会「耐震・免震・制震のわかる本」、彰国社、¥3200
耐震構造・免震構造・制振構造
Aseismic Structure歴史と実績のある
通常の建物
Seismic Isolation低層建物に適する
高層建物にも適用可能
Vibration Control高層建物に適する
建物は揺れるが強さ・粘りで耐える
免震装置により地震による揺れを受けにくくする
地震による揺れをダンパーで吸収して小さくする
1.耐震構造: 構造的に地震に耐えるようにした建物
(a) がっちりと造る (b) 多少壊れても粘り強く造る
a) 柱や梁を堅固に造り、構造的に大きな地震にも十分に耐えるようにする。問題は経済
性。数百年に1回の大地震にも十分に耐えるような構造形式にすることは、通常はき
わめて不経済である。
b) 倒壊することだけは避けることにして、多少の損壊は許し、粘りのある構造とする。鉄
筋コンクリート構造の場合は、せん断補強筋を増やす。中小地震に対しては建物が損傷
せず、継続使用ができるようにする。稀に発生する大地震に対しては、建物の損傷は許
容するが、人命に関わる倒壊・崩壊が起こらないようにする。
中小地震に対しては「強さ」で、大地震に対しては「粘り」で抵抗するという考え方。
(a) がっちりと造る (b) 多少壊れても粘り強く造る
損傷限界(状態E)
安全限界(状態U)
崩壊(状態C)
大地震大地震
中小地震
線材が主体の構造
横から力(地震力)が加わると横 ら力( 震力) 加 る
線材が主体の構造
横から力(地震力)が加わると横 ら力( 震力) 加 る
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壁が主体の構造
横から力(地震力)が加わると震
壁が主体の構造
横から力(地震力)が加わると震
解放工学的基盤における地震動の加速度応答スペクトル
⎪⎧ <+= TTSA 16.0,3000320
「損傷限界」:中小地震に対する使用性の確保「安全限界」:大地震に対する安全の確保
⎪⎩
⎪⎨
≤=<≤=
TTSTS
A
A
A
64.0,/51264.016.0,800
,
5倍
耐震設計(限界耐力計算法)の考え方
地震に対する建築物の性能を検証する方法として、「限界耐力計算」(建築基準法施行令第82の6)が、平成12年に新たに導入された。
なお、建築基準法は、わが国において、地震などの災害に対して、人命や財産を保護することを目的に、建物の最低の性能を規定したもの。
「損傷限界」:中小地震に対する使用性の確保建物の耐用年限中に何度か遭遇する可能性のある中小地震に対しては、建物は損傷せず、使用性が保たれること。
「安全限界」:大地震に対する安全性の確保建物の耐用年限中に、きわめて稀に遭遇する可能性のある大地震に対しては、人命にかかわる倒壊・崩壊が起こらないこと。
「損傷限界」と「安全限界」
耐震設計(限界耐力計算法)の考え方
地震に対する建築物の性能を検証する方法として、「限界耐力計算」(建築基準法施行令第82の6)が、平成12年に新たに導入された。
なお、建築基準法は、わが国において、地震などの災害に対して、人命や財産を保護することを目的に、建物の最低の性能を規定したもの。
「損傷限界」:中小地震に対する使用性の確保建物の耐用年限中に何度か遭遇する可能性のある中小地震に対しては、建物は損傷せず、使用性が保たれること。
「安全限界」:大地震に対する安全性の確保建物の耐用年限中に、きわめて稀に遭遇する可能性のある大地震に対しては、人命にかかわる倒壊・崩壊が起こらないこと。
「損傷限界」と「安全限界」
2.免震構造:建物と基礎を切り離して、建物に入る
地震動を低減する構造
「免震支承」:アイソレーター(isolator)「減衰装置」:ダンパー(damper)
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免震構造のアイデア究極の免震機構
鎌倉の大仏
免震構造の基本的考え方
免震装置により,建物の揺れの周期(固有周期)を長くし,地震による建物応答を低減する
積層ゴムの特徴
ゴムを一層の単体として用いた場合は、水平方向には小さな力で変形するものの、圧縮方向にも柔らかいため、建物自体の荷重によって変形してしまう。そのため、床上の荷重の移動によって建物が傾いてしまう。これを解決する方法として、薄いゴムシートと鉄板をサンドイッチ状に交互に貼り合わせた積層ゴムが考案された。
積層ゴムの構造
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積層ゴムの変形積層ゴムの種類
1.天然ゴム系積層ゴム
2.鉛プラグ入り積層ゴム
3.高減衰積層ゴム
天然ゴム系積層ゴム
減衰が小さく減衰定数としては2~3%である。
鉛プラグ入り積層ゴム (LRB)
鉛は柔軟性が高く、繰り返しの変形に対しても性能が回復 し や す い 。 小 さ な 力 で徐々に変形する特性(クリープ特性)があるため、地震後に弾性変形が生じても、ゴムの復元力で初期の位置まで戻る性質がある。
高減衰積層ゴム
• 天然ゴム• 天然ゴムと合成ゴムのブレンド• クロロプレンゴム• シリコンゴム
鉛ダンパー
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フランジプレートスタッド
鋼材ダンパー
ダンパーロッド
免震装置鉛プラグ入り積層ゴム天然ゴム系積層ゴム
+鋼材ダンパー、鉛ダンパー
鉛プラグ
高減衰積層ゴム
鋼材ダンパー 鉛ダンパー
東北大学免震実証建屋
免震技術に関する共同研究清水建設・東北大学:1986年より継続
左: 耐震構造 右: 免震構造
RC造3階建て
地震観測結果による免震効果の確認
X(短辺)Y(長辺)RF
(84, 137)(345, 672)
1998年9月15日 宮城県南部地震 (M 5.0)
耐震構造 免震構造
1F
B1F
(64, 116)
(185, 386)
(182, 378) (75, 101)
観測位置 (X, Y)
単位:cm/s2
建屋屋上の比較
-800
0
800
0 5 10 15 20 25 30
在来 RF X免震 RF X
加速度 (cm/s2)
X方向
0 5 10 15 20 25 30
時間 (sec)
-800
0
800
0 5 10 15 20 25 30
在来 RF Y免震 RF Y
加速度 (cm/s2)
時間 (sec)
Y方向
増幅特性の比較
-800
0
800
0 5 10 15 20 25 30
B1F YRF Y
加速度 (cm/s2)
時間 ( )
在来
時間 (sec)
-800
0
800
0 5 10 15 20 25 30
B1F YRF Y
加速度 (cm/s2)
時間 (sec)
免震
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WESTビル (郵政省電算センター)
●Lead rubber (φ1,200) 54●Natural rubber (φ1,000) 46●Natural rubber (φ800) 20●Steel damper 44
建設地 :神戸市北区構 造 :SRC造,地上6階規 模 :建築面積 8,563㎡
延床面積 46,823㎡設 計 :郵政大臣官房建築部 他
装置の配置図
1995年兵庫県南部地震での観測記録
East – west North - south
6F
1F
Base
免震建物評定件数の推移
200
250
告示による免震建物
大臣認定による免震建物
件数
震災前
震災後
1995年兵庫県南部
地震
0
50
100
150
83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 年
(資料 日本免震構造協会)
150
200
250件 電算センター
学校(教育施設)
庁舎
病院
老人・福祉施設
美術館
免震建物の用途別件数の推移
0
50
100
150
85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 年
研究所・工場
共同住宅等
事務所
その他
3.制震構造:建物の地震による揺れを特別な装置で
制御する構造
「アクティブ制震」:コンピュータで最適な制御力を与えて揺れを制
御する構造
「パッシブ制震」:あらかじめ設置した装置の特性に従って揺れを「パッシブ制震」 あらかじめ設置した装置の特性に従って揺れを
制御する構造
「共振回避タイプ」:揺れを小さくする原理によって、地震の揺れと
の共振を回避する構造
「エネルギー吸収タイプ」:地震によるエネルギーを吸収して振動を
減衰させる構造
a) 付加質量機構:構造物の頂部で、別の質量を揺らす
ことで、建物の共振振幅を調整し、付加した質量の振動で揺れのエネルギーを吸収する機構。
TMD(Tuned Mass Damper):バネやダンパーが付いた剛体を載せる機構。TLD(Tuned Liquid Damper):液体の入ったタンクを載せる機構。AMD(Active Mass Damper):付加質量の動きをコンピュータで制御する機構。
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b) 可変剛性機構:建物の水平剛性を変化させることで、
建物の固有周期を変えて、地震動との共振を避ける機構。
油圧を利用して、ブレース(斜め材)の機能発揮のON、OFFをコンピュータ制御で切り替える機構。これ以外にも建物の減衰を変化させる可変減衰機構も提案されている。これらは、「アクティブ制震」の「共振回避タイプ」に分類される。
c) エネルギー吸収機構:建物の地震による揺れを小さ
くするために、ダンパーを用いて制震する機構。
「パッシブ制震」の「エネルギー吸収タイプ」に分類される。
パーシャルフロート免震構造パーシャルフロート免震構造パ シャルフロ ト免震構造パ シャルフロ ト免震構造 ■水は浮力を生み出す
■水はせん断剛性ゼロ水平地震動を感じない(完全免震)固有周期は∞
水構造物
「浮かす」ことによる利点「浮かす」ことによる利点
構造物の支えが要らない
振動
水=剪断剛性ゼロ
地震以外の外力(風や水の流れ、波)に対する安全性・居住性の確保
現実的には
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沿岸浮体式構造の提案事例
浮体式の原子力発電所の概念図
Breakwater
Mooring System
波・流れに対する強固な防御防波堤
係留設備
完全浮体構造の適用上の問題点完全浮体構造の適用上の問題点
強風時の居住性強風時の居住性
鉛直・回転変動鉛直・回転変動
建築面積: 952 m2
延床面積: 1253 m2
建物高さ: 17.2 m(地下3.3m、地上13.9 m)
構造の概要構造の概要
階数 : 地上2階・地下1階
構造 : RC造、一部S造
建物重さ: 2900 t
喫水 : 2.3m (建物の重さの半分を浮力で支持)
貯水槽 : 平面積 830 m2 、深さ 4.5m、貯水量 1540 t
断面パース断面パース透水体
積層ゴム
建物重量の約半分を浮力で支持建物重量の約半分を浮力で支持
2.3m3.5m
2.0m
17 3
2.0m2.0m
8.3m
2.0m 30.7m6.9m
積層ゴムと透水体の配置積層ゴムと透水体の配置
37.6m
2.0m 2.0m
17.3m
2.0m2.0m
9.0m透水体