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作SS こむろ こうじshinsai-engeki.com/novels/pdf/heikouspiral.pdf5 姉 R£ ど こ を 見 て い る と も 判 断 で き な い 中 空 に 視 線 を 漂 わ せ R£

Dec 26, 2019

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1

平行

へいこう

スパイラル

こむろこうじ

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2

あらすじ

二〇一一年

震災津波で両親を亡くした姉妹が

避難所を出て

仮設住宅に引

越してきた

姉は

市役所職員として働き

妹は定

職が無いまま

先が見えない現実を受け入れて毎日を暮らす決意を

していく

二〇一二年

三月

一年が経過したが

何ら変わらない現実に憤

りを感じる二人

人との関わりが薄く

被災地支援を偽善と本音を

言う妹に対し

人と関わりながら生きている姉はそれを諭す

二〇一三年

二年が経過しても何ら変わることのない

仮設住宅

の暮らし

不毛な会話をしながらも

先が見えない現実から逃避し

つつ

生きているという小さな幸せを確認しながら生活を続けてい

二〇一四年

姉は未来が見えなくな

てきている妹に

小説を書

くことを提案する

しかし

それは妹だけのためではなく自分自身

にも生きる糧を与えるものでもあ

二〇一五年

姉は自宅の有

た場所から見つか

たタイムカプセ

ルを持ち帰る

タイムカプセルには

震災で亡くな

た母親らかの

ジがしたためられたビデオが入

ていた

母親からのメ

セ-ジを見て

姉は過去を忘れることで

妹は過

去を忘れないことで

生きて行く力を見出してゆく

しかし

放置された四年間は戻るはずはなく

彼女たちの未来は

決して明るいものではない

それが

被災地四年目の現実である

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3

登場人物

29歳

33歳

みどり

市役所生涯学習課文化財室勤務

多くのことを背負いこんではいるが

表面上は明

るく過ごしている

23歳

27歳

洋海

ひろみ

コンビニのアルバイト店員

震災以降

時として強迫観念に襲われ

自暴自棄

な行動をとることが有るが

日常的には無気力

設定年齢は2011年の年齢

舞台の終焉には

2015年と

なる

その時点で

姉は33歳

妹は27歳である

未婚女性

が29歳から33歳へと4年の歳月を費やす姉のリアリテ

定職が無いまま23歳から27歳へと時を経る妹のリアリ

を念頭に置いて物語世界を構築してい

て欲しい

ゼロ

二〇一一年八月十日

基準日

舞台

何もない菱形に区切られた4畳半の空間

奥の2面だけに壁がある

上手側の壁には玄関に繋がるらしき口

が一つ開いている

殺風景な部屋

である

明りがつくとその殺風景な部屋

妹が

レジ袋を左手に下げた

まま

蛍光灯のスイ

チの紐を引く仕草で止ま

て立

ている

妹は

そのまま

その部屋

をぐるりと見回す

そこへ

姉も大量のレジ袋を抱えて現れる

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4

大体のものはそろ

ているでし

だいたいね

だいたいそろ

てる

て言

ても

ぱり食料は無いからね

てる袋

そこ

置いといて

冷蔵庫にしまうから

妹は虚ろな目をしたまま

姉を視野の中に置きながらも見つめる

でもなく

ただぼう

として

部屋

の全体像を眺め続けている

姉はあくせくと荷物を片付け

新たな荷物を部屋

に運びこむ作業

をし続ける

部屋

の隅の場所には

レジ袋に入

ている衣類とおぼ

しきものを置く

姉は

荷物を運び終えると

妹の斜めに向かいに座る

二人は精

神的に安定できる九十度の角度で相対する

何か飲む

何があるの

避難所で

ステ

クコ

もら

て来た

隅の無造作に積み重ねられたレジ袋をかき分けて

ステ

クコ

を見つけだす

ている人たちの分じ

ないの

大丈夫

私たちがほとんど最後だ

たじ

ない

そう?

そう

まだ居たじ

ない

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5

どこを見ているとも判断できない中空に視線を漂わせ

記憶

たどる

齊藤さんとこも

明日には仮設に入る

ここの仮設

無くて

小学校の校庭の方

小学生が居るから

学校に

近い方がいい

そう

でも

避難所で生活していた私たちが持

て行

てくれ

た方が助かる

誰かそう言

たの

避難所を運営していた

福祉協議会の小野さん

そう

断るだけが美徳じ

ないよ

そう

空気読んであげなき

あたしには読めない

気まずそうな表情を浮かべ

無理して

気を使

空気読む必要もないけどね

気持ちの置き場が無いことが

手のおき場所が無いところから読

み取れる

お湯沸かすね

立ちあが

て玄関口の台所へ行く

タラ

ゴジ

ゴジ

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6

水圧の低い水道から水が流れる音は途中から

ステンレスの洗い

場に落ちる音から

ヤカンに落ちる音

そしてヤカンに溜ま

た水

をさらに満たす音に微妙に変わ

てゆく

チチチチ

チチチチ

ガスレンジが点火する音が聞こえる

台所の方へ向

彼女としてはがんば

て出した少し大き

めの声で問い掛ける

ガス

もう出るんだね

玄関口の台所からも

少し気を張

て大きな声を出した姉の声が

てくる

昨日のうちに

手続きしといた

天井の蛍光灯を見やりながらつぶやく

そうだよね

電気もついてるしね

姉ち

凄いな

何が

何でもできて

やらなき

無ければ

仕方ないでし

てきて

妹の脇に座る

避難所の隣

の場所

にいた菅原さんたちは

夫婦で息子さん

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7

のところへ行くんだ

息子さん

銀行に勤めてるんだ

仙台

泉だ

仙台駅から地下鉄で北の方に行

たとこ

そこは

大丈夫だ

たの

山手だから

店も普通にや

てる

てよ

アウトレ

トもある

んだ

断水とか

停電とかはあ

たみたいだけど

今はもう普通みた

菅原さんの旦那さん

てあんまりし

べらないけど

奥さんが

おし

べりだから

色々聞いたな

旦那さん

切手集めが趣

味なんだ

切手?

旦那さんが

毎日切手の事を言う

奥さんが愚痴

てた

大事にしていた切手のコレクシ

ンが流されたんだ

ふうん

見返り美人

はもう手に入らないだろうな

見返り美人

切手のコレクタ

の中では有名な一枚なんだ

5円の切

手が1万円もするらしいよ

ふうん

そしたら

見返り美人なら

ここにいるのにね

原さんの奥さんがポ

ズ作

てたんだよね

かしくてさ

菅原さんの奥さん

り系だよね

そう

でも

それが妙に色

ぽくてさ

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8

お湯が沸いたことを知らせる

ケトルの笛の音が聞こえてくる

沸いた

立ちあが

て台所に消える

天井の蛍光灯をぼう

と見ている

姉ち

台所から声が聞こえる

私たち

どうなるんだろう

姉ち

んにもわからないの

わかる訳ないでし

いときから

つも

姉ち

んは明日のことを話し

てくれてたでし

想像してただけ

ソウゾウ?

明日が怖いから

こういうことが有

たらこうする

全部

考えるの

凄いね

心配性なだけよ

過去を夢想するような遠い目をする

姉ち

んは

何でも全部わか

てると思

てた

私はわからないことだらけ

何もわか

いない

私よりはわか

ているでし

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姉そうでもないわよ

あんたのソウゾウには敵わないわ

私のソウゾウは

夢の世界なだけ

だから

クリエイテ

なんでし

私の

想像

は現実的で夢

が無いけど

あなたの

創造

は夢が有る

そうなのかな

人間

無い物ねだりなものよ

そうなの?

プにコ

をいれて現れる

でも

私たちは

それぞれ無いものを持

ている

妹を見つめる

二人一緒なら最強だよ!

姉を見つめて

と笑う

そうだね

中空を見つめながら

姉さん

何?

ここにいつまでいるの

いつまで

期限が2年だから

それくらいじ

ない

その後

どこへ行くの

どこでもいい

どこでもいい?

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姉そう住むところが有れば

プに口をつけた状態でほほ笑むと

二人の居る空間が二

人の内面空間へと変わる

そして

と立ち上がる

二人は

誰にともなく語りだす

私たちはいつまでも

繰り返す

繰り返す

くりかえし続けるこの

平行螺旋の空間の中で

いつまでも

いつまでも

もがき続ける

私たちは

先へは進めない

後へも戻れない

いつまでも

いつまでも

いつまでも

いつまでも

この場所に

この空間に

しがみついて

生き続けている

生き続けなければならない

二人

続く限り

二人

お互いの顔を見合わせ

不惑に笑う

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空間は青い薄闇に包まれる

青い薄闇と音楽の中

二人の日常は繰り返される

特別なことが無い一日一日が繰り返されるうちに

八カ月が経過

する

その月日は

部屋の装いが夏から冬に徐々に変わ

てゆく様子か

ら読み取れる

それは日々繰り返す日常の中で

ブルが次第に

炬燵

になり

二人の衣服も次第に軽装になり

毎日の積み重ねによ

部屋

の中にある

モノ

が増えてくる様子から

八カ月もの歳

月が過ぎたことが感じられる

イチ

二〇一二年三月

一周忌

引き続き

仮設住宅の一室

窓から夕闇が近いことを知らせるオレンジ色の斜光が差し込ん

でいる

その部屋

には生活感のある

モノ

が存在感を増しつつある

二人が八か月を過ごした生活感が散りばめられている

その部屋

と台所の空間を区切る狭間の長押

には

がんばろう岩手

と書いてある暖簾

が掛けられてある

壁が屹立している角にはカラ

クスが置いてあり

その上に

小さなテレビが一台

テレビの上には

丁度三角を作るように洗濯

紐が張られていて

洋服がかけられていて

物干しの紐がそのまま

クロ

ト状態にな

ている

4畳半の部屋の中央に炬燵

がひとつ

座布団が二つ

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炬燵の上には

片付け切れていない新聞や雑誌

スナ

ク菓子

お茶を飲んだらしいコ

プが雑然と置かれている

玄関チ

イムの音が一つ鳴る

ピンポ

暫しば

しの時間を置いてもう一つチ

イムの音が鳴る

ピンポ

イムを押した人物が帰

たかと思われるほどの間の後

たようにチ

イムが連打される

ピポピポピポピンポ

ピポピポピピピピピンポ

ガチ

ガチ

と回して開けるタイプの鍵を開ける音がする

無機質なサ

シ戸とレ

ルの間につま

た砂が擦れる音がする

ドカドカと

誰かが一人

靴を脱いで部屋の中に入

てくる音が

する

がんばろう岩手

の暖簾をくぐ

コンビニの袋を手にぶら

提げた妹が

部屋の中に入

てくる

ピンポンしたのに

妹は

炬燵の先までずんずん進むと

くるりと振り向き

入口の

暖簾を凝視

うし

する

がんばろう?

目を見開き

息を大きく吸い

震えながら叫ぶ

がんば

てる

てばあ

コンビニの袋を投げ捨てると

暖簾を剥は

がし取る

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次にテ

ブル上のものを全部床に落とし

洗濯紐にぶら下が

いる衣類をむしり取る

その暴挙を働いた後

茫然と立ちすくむ

暫しの間の後

妹は

その場にし

がみ込み顔を伏せる

ただいま

という

声が聞こえる

洋海

ひろみ

いるの?

と続けられる

姉がその部屋

に入

てくると

荒らされて散らか

ているのを目

にする

姉は一瞬驚くが

目を閉じあきらめの表情になる

周囲を見まわし

妹がひざを抱えるようにして

下手側の壁にう

ずくま

ているのを見つける

どうしたの

全体の様子を把握するように見回した後

粛々と片付け始め

姉は無言で片付ける

姉が暖簾を拾い上げ

広げた時に

突然

妹が話し出す

こんなにがんば

てるのに

がんばろう

て言うから

もう一度暖簾を広げて見て

これね

という表情を

浮かべる

ごめんね

ボランテ

アの人がくれたんだ

捨てるわけにもい

かないし

今度新しいのを買

てくるから

暖簾を

丸めてレジ袋に詰めると

また粛々と片付け始める

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妹だ

たら

我慢する

捨てないで

我慢する必要無いよ

私たちのために色々や

てくれた人でし

我慢すること無いよ

自分には関係ないのに

一生懸命にや

てくれた人が

くれたものでし

我慢すること無いよ

と私たちにがんば

て欲しいんだよ!

我慢すること無い

て!

ごめん

なんで

姉ち

んが謝るの

ごめん

だからなんで

良かれと思

てしてることなんだから

だから

なんで姉ち

んが謝るの

お世話にな

たからだよ

そう

良いことだと思

てしてるんだよ

ゆるしてあげてよ

確信めいた表情で

と立ち上がる

偽善なんだ

被災地支援に来てる人たちはみんな偽善者なんだ

そんなことは言わないで

でも

そうでし

偽物の善意をあたしたちに押しつけてる

もう

壊れそう!

偽物なんかじ

ないよ

本気で

ここの人たちのためにや

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くれている人たちがほとんどなんだよ

でも

それで

私たちの心を傷つけている

傷つけたくてや

てるわけじ

ないよ

なんで

なんで

こんなことにな

うわけ

私たちの心の中までは見えないから

心の中が見えない?

一生懸命に考えても

ここで生まれてここで暮らしていないか

本当はわか

てもらえないんだよ

そんなこと

でも

それでも

精一杯考えてくれて

それでや

てくれてる

んだから

口ば

かりで

何もしない人より

ぽど偉いよ

錯乱して叫び声をあげて机をたたきだす

ごめん

自分を責めたつもりだ

たのに

ああ

暴れる妹を抱きしめる

ごめん

少し落ち着いてくるが

体と声を震わせながらつぶやく

誰が悪いの

誰も悪くない

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妹じ

どうしてこんなに辛いの?

津波が悪いの!海が悪いの!

そう

海は悪くない

海は悪くない!

声を震わせながらつぶやくように語りだす

海を悪く言わないでよ

あたしたちの

みんなの

大切なもの

を皆持

て行

たよ

憎いさ

腹が立つさ

でも

海は

海は

そうしようと思

て津波が起きたわけじ

ない

海は悪くない

海は悪くない

海は

海は?

海は私だもん

ペタンと座る

そうだね

海を悪く言

たら

洋海

ひろみ

の名前に海を

入れた父さんと母さんも悪者にな

うものね

そうだよ

海も悪くない

父さんも悪くない

母さんも悪くない

そうだね

母さんも悪くない

母さん

母さ

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泣き出す

妹の頭を抱きかかえる

洋海

ひろみ

大丈夫だから

大丈夫

泣きじ

くる妹を姉が抱きかかえながら

場面は青に包まれる

ニイ

二〇一三年八月

当初の入居可能期限

その部屋

次第に

そこで更に二年以上暮らした生活感が漂

ている雰囲気を醸し出してくる

一年半前は炬燵だ

たものは

団が取り除かれ

ブルにな

ている

夏にな

ている

それも

その後二度目の夏だ

壁に設置してあるエアコンの前に立

顔に涼しい空気を

あてながら突

ている

そこへ

姉が帰

てくる

ただいま

何や

てんの?

エアコンだと

扇風機みたいに声が震えたりしないんだね

あたりまえでし

凄く熱の?エアコンの室外機が沢山あるからかな

全国的に暑いみたい

ここの仮設だけじ

ないよ

そう

気楽なもんね

あんた

ここから出てないんだから

暑くない

でし

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妹暑い

この部屋から出たらとけち

あんたはアイスか

こんなに冷やしているのに

玄関の方からむんむんの空気が来

るもんね

あたりまえじ

ない

でも

ここは私の職場から比べれば楽園

職場

発掘現場

そう

こんなに暑いのに今日も外にいたの?

そう

早く発掘を終わらせないと

コウジ

ウタク建てら

れないでし

大変ですね

ホント

他人ごと何だから

倒れる人とか居ないの?

現場周

水分補給を促すとか

そんなことも私の仕事

ご苦労さんです

たままで

エアコンの風を受けながら目を閉じている

仕事に行かなくて良いの?

行きたくない

そり

そうでし

あたしだ

て行きたくない

行かなき

いいのに

そういうわけにもいかないでし

二人とも働かなくてどう

てご飯を食べるの?

どうにかなるんじ

ない

どうにもなりません

これだけ発達した現代社会で

飢え死に

する人もいる

それが

今の日本なのよ

ふうん

どうせ

一日そうや

てフラフラしてるんなら

仮設の中のお

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じいち

おばあち

んの家と

を回

ご機嫌伺いのボラン

アでもしたら

大学生が来てるじ

ない

去年までね

去年まで?

もう

ここにはほとんど来ないよ

自治会長さんとか

去年

までは流しそうめん

とかや

てくれたんだけど

ていた子が

就職したとかで

今年は来られない

はがきをもら

たんだ

就職しました

そり

そうだ

他人のことより自分のことが大事だもん

代わりに

あんたが何かしてみたら

人に会いたくない

仲間でもいれば何かできるんだけどね

みんな

仙台とか盛岡に出て行

そうね

みんな知らない土地で無理に笑

て暮らしてるのかな

営業スマイルも

慣れればどう

てことないよ

無理な笑顔を作りたくない

そり

そうだ

笑いたくもない

笑う相手がいなき

だるい

私も

あんたといると

気が滅入るわ

ごめん

消えるか

姉は妹の発言に対し

適切な答えを暫し考える

そういうこと言

てるんじ

ないの

言いすぎた

ごめん

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20

妹こ

ちがごめんだよ

ごめん

お互い気を遣いすぎだね

そうだね

姉妹なんだから

無理せずいこうよ

そうだね

相変わらず

エアコンの前に立ち

ぱなしでいる

今月中なんでし

何が

仮設にいられるの

そうでもないみたいよ

そうでもない

てどういうこと?

延長にな

たみたい

延長?

そう

延長

何それ

コウエイジ

ウタクの建設が思うように進まないから

延ばし

てくれるんだ

何それ

ありがたいことでし

行く先が決ま

ていないのに

出て

行け

て言うことは言わないでいてくれてるんだから

ただ

ただ

先延ばしにしないで

早くコウエイジ

ウタクを

作れ

うの

そんなこと言わない

用地買収とか

予算のこととか

色々あるんだから

それと

私の仕事の関係のことも

また

何か出たの

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妹何が出たのよ

貝塚

んだ

ゴミ捨て場か

貝塚は

その当時を知る貴重なタイムカプセルなのよ

不法投棄の現場も

後5000年後くらいには

貴重なタイム

カプセルだなんて

言われるのかもね

これがこの時代

に化石燃料を加工してつくられたペ

トボトルと言うものか

何てね

不法投棄の現場と

貝塚を一緒にしないでよ

一緒です

ゴミ捨て場じ

ないの

合法的に住民が指定して捨てた場所なんだから

不法投棄とは

違うでし

縄文の人たちは

今の人たちのように

自分だ

けの利益のために

環境を破壊する行為はしていません

そうですね

縄文人は素敵な人たちです

そうよ

現代人は縄文をち

とも理解していない

地球環境に

優しい

究極のエコな生活を何世代も実践してたのよ

素晴ら

しいことじ

ないの

姉ち

んは

仕事の話になると熱くなる

縄文人はすごいんだから

姉ち

んは

縄文人と結婚すればいいんだ

縄文人がここに居れば

迷わず結婚させていただきます

と寂しそうな表情を浮かべる

そうしたら

私を置いて出て行くの?

妹の心もちを感じ取る

あんたにも

縄文人のイケメンを紹介してあげる

あたしは

縄文というより弥生がいいな

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姉贅沢言わない

夏の盛りにエアコンの前から動かないような人

と結婚してくれるんなら

縄文でも弥生でも文句は言わないの

へいへい

しかし

不毛な妄想だね

全く

姉ち

何?

アイス食べたい

は?

ゲンダ

ては言わないから

ガリガリ君で良いから

てきて

よし

アイス買いに行こう

姉ち

ん買

て来てよ

働かざる者食うべからず

一緒に行

てあげるから

あんたが

買いなよ

今日

かくの休みなのに

コンビニじ

無くて

かいス

ができたから

に行

てみよう

暑くて行きたくな

アイスは諦めてね

仕方ないな

行くか

姉はその気にな

た妹を押し出すように

二人で部屋

から出て行

その部屋

はまた時間の経過を表す青い陰に包まれる

ブルには炬燵掛け布団がかけられる

炬燵の上にはミカンが

置かれる

冬の装いに部屋が変わ

てゆき

半年の歳月が流れ去る

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23

サン

二〇一四年三月

進めず戻れないスパイラル

年月の経過は

壁に掛けてあるカレンダ

を見ることによ

て感

じられる

しかし

部屋

夏の装いが冬のものにな

ているだけ

今までのような大きな変化は見られなくな

てきている

部屋の中で胸のところまで炬燵に入

て寝転が

ている

姉が厚手のダウンジ

トを羽織

現れる

寒い

ダウンジ

トを脱ぎながら

仕事行かなくて良いの?

来なくていい

先週から

高校を卒業したばかりの子が来た

でも

あんたの方が

仕事できるでし

私より

愛想笑いが上手

そう

簿記検定も持

てるし

ソロバンもできる

震災で停電にな

た時

何もできなか

た私とは違うの

電卓

使

て会計もできる

あんただ

て計算機使

て計算くらいはできるでし

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妹計算の仕方は知

ているけど

計算はできない

どういうこと

計算の仕組みは知

ているけど

計算の使い方は教えてもらわ

なか

誰も

そんなこと教えてもらわないわよ

教えないことまでするのは

良くない

て教わ

はみ出す

そう

若い子たちははみ出しても誉められる

あの時から

人を計る価値観も変わ

たのかもね

そう

それから

新しい子はパソコンもできるし

運転免許も

ている

英語検定もジ

ン2キ

ウだ

そんなにできる子がコンビニでバイト?

優秀でも

この町で暮らそうと思

たら

仕事が無いんだよ

姉ち

んみたいに役場に受かるか

介護関係の資格が無ければ

ここじ

仕事は無いんだよ

この町が好きでここで暮らしたくても

仮設店舗で営業してい

る店じ

新しく人を雇う余裕はないし

きな会社も無い

建設業の求人はあるでし

でも

女の子の求人は少ないし

ここの復興道路ができれば

別のところへ行かなき

ならなくなるでし

この町で仕事

をして暮らして行くことはなかなか難しいんだよ

ごめん

仕事がある私は

わか

てあげることができて無か

たね

また

ごめんだ

姉ち

んは悪くない

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悪いのは私

私がもう少しがんばれば良いんだ

仕事

探してくるから

あんただ

賢いんだから

仕事はある

ここでは

賢さは必要ないんだよ

賢さよりも

笑顔なんだよ

そう

なの

あたしには一番難しいことだ

そんなこと無い

だるい

考えるのも面倒くさい

生きるのも面倒くさい

あきらめち

だめよ

消えるのもめんどくさい

妹に何と声をかけて良いかと

さに思いつかず

考えあぐね

るが

遂にあることを思いつく

そうだ

小説書いてみない?

小説?

あんたなら

書けるんじ

ない

昔からたくさん本も読んでい

たし

小学校での将来の夢に

小説家

て書いてたじ

ない

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妹何で知

てるの!

あんたの学年の小学校の卒業文集

全部読んだ

変なところがマメなんだから

あんたのことは全部知

ておきたくて

お母さんみたい

今は

そんな

お母さんみたいな

もんじ

ない?

違う

姉ち

んは

姉ち

んだ

そり

そうだ

どう?

もう

書いてみない?

小説なら

ここでパソコン一台あれば書けるじ

ない

使

ここから

応募することもできる

小説か

印税が入れば

ぐでぐでしていても生活できるよ

小説ね

妹の顔を覗き込む

まんざらでもなさそうな表情を見て

を輝かせて自分自身に語りかける

そうね

新しい価値観ね

そうだよ

トがこれだけ普及し

てるんだから

才能さえあれば住んでいるところなんて関係な

いよね

姉ち

何熱くな

てるの?

とりあえず

トで調べてみるね

小さいのからコツコツと

まだ

やる

て言

て無いでし

てみようよ

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妹え

やらないの

でも

顔に

まんざらでもないかな

て書

いてあるわよ

変なこと言わないでよ

顔を手で隠し

暫く考えを巡らせた後

ぼそりと

呟つぶや

ダメでも誰にも迷惑かからないよね

かからない

姉ち

んには迷惑をかけるよ

何もしない迷惑より

何かしての迷惑なら

てでもしたい

くらいだ!

姉ち

んは

良いの?

良いに決ま

てるよ

応援する

この部屋から出なくても怒んない

本気でやるんなら

アイス買

てくれる?

いいじ

短編でも良いから

雑誌に掲載されたら

ゲンダ

ゲンダ

ツ!

ゲンダ

ツ!

てみるか

そうこなく

笑顔でパソコンを開く

ゲンダ

ツ凄いね

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妹そり

そうでし

ゲンダ

ツは特別な時にしか食べら

れないんだから

お父さんが買

てきてくれたのは

高校合格の時!

それと

運動会のチ

ンスレ

スでまぐれで一等賞を取

時!

あんたが生まれた時!

ずるい

その時

あたし食べてない

本気でふくれ

面をする

その顔を見て

ほほ笑む

何か

本当に久しぶりに目の前が明るくな

て感じだね

人間

先へ進めるかも

て思えることが生きることの糧に

なるんだね

カチカチとキ

ドをたたく

これなんてどう

日常のさりげない出来事をエ

掲載作品には二千円

パソコンを覗き込む

良いかも

姉ち

んのことを書いても良い?

でも普通よ

普通だと思

てるのは自分だけ

客観的に見ると

面白いんだ

から

濃い顔の縄文人に恋をしている縄文女子

姉の顔を正面から見る

吹きだして

話を続ける

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仕方ないわね

良いよ

好きに書いてください

楽しみにしててね

ふふ

たな!何想像したのよ

内緒

書いたら見せたげる

楽しみにしていて

楽しみ!楽しみ!作家先生

がんば

てくださいね

姉ち

何?

姉ち

んにつられて

あたしも何だか楽しい

そう♡

二人

笑顔で見つめ合う

二人を青い光が包み込む

青い光の中

は相変わらず時間の進みは早い

しかし

時間は進んでも

その部屋

の装いは変化しない

これが惰性に包まれた生活だ

一年前と一年

後では違いが感じられない

しかし

確実に二人の時間だけは経過

している

シイ

二〇一五年三月

過去の母からのメ

炬燵の上にノ

トパソコンが一台開き

ぱなしのままにな

炬燵に潜りこむようにして眠

ている

一年前と同じ状態だ

そこへ

玄関口から姉の声が聞こえてくる

居る?

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姉居るよね

雑誌買

てきたよ

あいた

ずぼ

という

変にこも

た音が聞こえる

炬燵の中の妹が

くりと体を起こし

台所の方に向か

て話

どうしたの

台所の方から妹に声をかける

とうとうや

てしまいました

た床板を踏み抜いてしまい

ました

はははは

姉ち

良いの壊したのに

良いの

良いの

壊そうと思

て壊したんじ

ないから

コンビニの袋と小さなかばんと重そうな大きなバ

クを抱え

て現れる

姉の足からは血が流れている

しかし

姉は

そんなこともお構いなしに

コンビニの袋から雑

誌を取り出す

そり

二年のつもりで建てている仮設に

四年も住んでれ

床も腐るわ

明日

住民生活課に電話して

直してもらう

でも

良いのこれくらい

あれれ

血が出てるわ

でも

良いか

はははは

テンシ

ン高いよ

いいの

これでテンシ

ンあげないで

いつテンシ

ンあげろ

て言うの

大丈夫?

これで

掲載五本目だよ

作家先生

凄いよ

よくや

しよし

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妹の頭をぐし

ぐし

にして撫でる

凄くないよ

凄いよ

全国紙だよ

それも賞金は今までの最高!

五万でし

五万だよ!

今までのところ

二千円

五千円

五千円

一万円

そして

今回遂に五万円!や

たじ

ない

もう

作家じ

い!

年収七万二千円

これで作家なんて恥ずかしくて言えないでし

でも

被災地の誇りよ

何もない町に住んでいて全国誌に掲載

されるなんて

作家だよ!

作家じ

無い

佳作だし

着々と印税生活が近づいているね

姉ち

んは前向きだね

ゼロじ

ないんだから

自信持

てよ!

姉ち

んが一番嬉しそう

そり

そうよ

あなたの才能を見出したプロデ

は私

なんだから

ふと気がついて

てきたバ

クを開く

それから

と待

てて

良いものが届いたんだよ

次回

作のネタになりそうだから

得意気な笑顔で

ブリキの缶を取り出す

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妹何それ

タイムカプセル

家が有

た場所から掘り出された

タイムカプセル?

父さんが

洋海が生まれたのを記念して庭に埋めたもの

嵩かさ

げ工事をするときに出てきたんだ

文化財室に届いたし

名前も書いてあ

たから

もら

て来た

本当に家のなの

間違いないよ

名前ついてるんだから

ほら

缶の表を見せる

本当だ

下手な字で

みどり

て名前も書いてる

姉ち

の好きだ

たセ

ンのシ

ルが貼

てある

それも

だ!

缶を開ける

この缶ね

ビニルでし

かり包まれていたから

中にも水が入

らなか

たらしいよ

パカ

と缶のふたを開ける

缶の中を覗き込み

一つ頷く

ぱりね

何が入

てるの

ビデオテ

プだよ

ビデオテ

プ?

たぶん

お母さんが映

てる

姉ち

ん知

てたの

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姉埋めた後に

内緒だ

て言いながら父さんが何度も教えてくれ

たから

ビデオテ

それもVHSだと言うことまで見越し

もうひとつの大きなバ

クから

ビデオデ

キを取り出す

用意周到

任せて

ドでビデオデ

キとテレビをつなぎながら話す

良く

ビデオデ

キが有

たね

ふふ

ビデオデ

てもう既に骨董品なのに

だからこそ

文化財室にあ

て言うこと

職権乱用

何とでも言いなさいよ

でも

流石ね

つなが

かけるよ

うん

ビデオテ

プをデ

キの中に入れると

キが動き始める

テレビに映像が映し出される

テレビの中の映像には姉と瓜二つの人物が映し出されている

母さんだ

そうだね

姉ち

んとそ

くり

今の私と同じくらいの年だもん

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テレビの中の人物は

小さい子と一緒だ

テレビの中の人物のお

腹は

こんもりと膨れている

姉ち

んだ

お腹には

あんたもいるね

テレビの中の女性は

カメラに向か

て話し始める

女性

どうして

こんなことをするのよ

はずかしいわよ

仕方

ないわね

咳払いをする

女性

大きくな

碧みどり

んそれから

洋海

洋海くん

かもね

お父さんが

碧ち

んがお嫁に行くときに披露宴で

流すんだと言

このビデオを撮

ています

男でもひろみだ

たんだ

映像の女性は話し続ける

女性

碧の結婚式の設定だ

たよね

とりあえずおめでとう

今日

は私の思う幸せの形について話をするね

結婚は

幸せの形

の一つです

旦那さまとの幸せを大事にしてい

てください

でも

幸せの形はそれだけじ

無いのよ

きちんと仕事を持

て生活ができることも幸せの一つの形

夢に向か

て走り

続けることも幸せの形の一つ

そんなあなたの色々な形の幸せを

全部受け止めてくれる人

貴方の隣にいることを

私は確信しています

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母さんごめん

まだ居ないや

女性

でもね

一番大事なことは

自分の傍にいる人を全力で幸

せにしてあげようと毎日一生懸命に暮らすこと

そうすれば

自然と自分も幸せになれる

てこと

それこそが

と幸

せでいられる秘訣かな?

姉の顔を見る

お母さん

隣の部屋であたしたちのことを見てるんじ

ない

このコメントを聞いてると

そう思えるよね

二人

またビデオに視線を移す

女性

そして

今の幸せのために

過去を忘れることも大事なこと

かもしれない

隣にいる誰かのために

お母さんお父さんを

忘れることも

次の幸せをつかむために大切なことかもしれ

ない

あなたたちの幸せのためなら

私たちは忘れられても

構わない

今の幸せを大切にしてください

コつけすぎかな

はい

テレビの画像が消える

二人は消えた画像を見続けるが

それぞ

れ一筋の涙がこぼれ落ちる

お母さん

そんなこと言わないでよ

母さん

未来が見えているような話しぶりだ

たね

あたしは

あたしは

母さんと父さんのこと

絶対忘れないよ

忘れる

てすごく悲しいことだけど

忘れるから生きていける

ていうこともあるんだ

私は忘れない

忘れても良いんだね

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妹私は忘れない

良いよ

あんたは忘れなくて

忘れないことを力にして生きて

行けば良い

うん

私は忘れる

うん

お母さんが忘れても良い

て言

てくれたんだもん

私は忘れない

良いよ

忘れない

泣きじ

くりながら

小さく一つ頷く

涙を拭い

笑顔を浮かべる

入賞祝いだ!

立ち上がり

玄関口の台所へ一旦消えると

ゲンダ

のアイスを持

て現れる

ゲンダ

ツウ

ていたアイスの一つを妹に渡す

乾杯!

乾杯!お母さんにも乾杯!ビデオを残してくれたお父さんに

も!

二人

アイスで乾杯をし

黙々と食べ始める

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妹ハ

ゲンダ

ツ一個でも幸せだよ

そうだね

沢山の幸せなんていらない

今ならハ

ゲンダ

ツ一個分の幸

せで十分

それだ!

何?

次回作!

ゲンダ

ツ一個分の幸せ

それだ!姉ち

ん天才!

あんたが言

たんじ

ないの

そうか

ブリキのタイムカプセル

どうする?

それもあ

たか!ネタはあるね

どんどんいけるね

姉ち

笑顔と勇気

ありがとう

あんたに私は

希望をもら

てるんだから

ちこそあり

がとう

二人の姉妹は笑顔で明日を見据える

二人はシルエ

トで包まれた後

青い暗闇の中に溶けて行く