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「障害者の地域移行」と「障害者の地域生活支援」 確立のための政策的課題 井 上 泰 司 はじめに 現在,日本の障害福祉制度は,大きな転換期を迎えようとしている。この時期に, 様々な制度改革への提言なども行われているが,改めて,障害者・家族のおかれている 実態の中で,「障害者の地域生活支援」を中心に早急に検討されなければならない,政 策的課題について整理を行うこととする。 1 .深刻な障害者・家族の暮らしの実態 今,日本の社会保障制度改革は,「医療から介護へ」「施設から地域へ」を主な視点と して,戦後の皆保険・皆年金制度を抜本的に見直し,参加型社会保障制度への転換と銘 打って,自助・共助型の福祉制度への転換を推し進め,医療・福祉・介護を新成長戦略 の領域に組み入れ,その市場化を一気に加速させようとしている。 こうした改革が,東日本大震災復興の名目で「社会保障と税の一体改革」として推し 進められることは,あの未曾有の大災害が日本に何を提起したのかを逆手に取る政策と 言わざるをえない。 加えて,民自公の三党合意で,成立した社会保障制度改革推進法は,元来自民党が推 し進めようとした社会福祉基礎構造改革の総仕上げとして,自己責任に加え,扶養者義 務の強化により,自助・扶助・共助をベースとして,保険制度の再強化を意図する改革 を押しすすめようとしている。今回の総選挙結果によって,自公政権が成立することと なったが,この流れは,一層大きく推進されることとなる事が予想される。 しかし,あの大災害は,改めて「生命・暮らしを守る」社会的制度の普遍性と公的責 任を提案していることは,様々な現状から明らかなことである。 加えて,災害弱者である高齢者や障害者・家族への支援についても,緊急にその改善
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Jul 26, 2020

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「障害者の地域移行」と「障害者の地域生活支援」確立のための政策的課題

井 上 泰 司

はじめに

 現在,日本の障害福祉制度は,大きな転換期を迎えようとしている。この時期に,

様々な制度改革への提言なども行われているが,改めて,障害者・家族のおかれている

実態の中で,「障害者の地域生活支援」を中心に早急に検討されなければならない,政

策的課題について整理を行うこととする。

1 .深刻な障害者・家族の暮らしの実態

 今,日本の社会保障制度改革は,「医療から介護へ」「施設から地域へ」を主な視点と

して,戦後の皆保険・皆年金制度を抜本的に見直し,参加型社会保障制度への転換と銘

打って,自助・共助型の福祉制度への転換を推し進め,医療・福祉・介護を新成長戦略

の領域に組み入れ,その市場化を一気に加速させようとしている。

 こうした改革が,東日本大震災復興の名目で「社会保障と税の一体改革」として推し

進められることは,あの未曾有の大災害が日本に何を提起したのかを逆手に取る政策と

言わざるをえない。

 加えて,民自公の三党合意で,成立した社会保障制度改革推進法は,元来自民党が推

し進めようとした社会福祉基礎構造改革の総仕上げとして,自己責任に加え,扶養者義

務の強化により,自助・扶助・共助をベースとして,保険制度の再強化を意図する改革

を押しすすめようとしている。今回の総選挙結果によって,自公政権が成立することと

なったが,この流れは,一層大きく推進されることとなる事が予想される。

 しかし,あの大災害は,改めて「生命・暮らしを守る」社会的制度の普遍性と公的責

任を提案していることは,様々な現状から明らかなことである。

 加えて,災害弱者である高齢者や障害者・家族への支援についても,緊急にその改善

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佛教大学総合研究所紀要別冊 脱施設化政策における知的障害者のグループホームの機能とその専門的支援の研究26

を求めているといえる。しかし,実態は,避難所にも避難できず,孤立化する障害者・

家族の深刻な実態は枚挙にいとまのないものとなっている。

 そんな中,前政権下,障害者施策の大きな転換が期待され,障がい者制度改革推進会

議が設置され,多くの当事者意見を反映して「総合福祉部会」は,抜本的な障害者施策

の転換を求める「提言」を行った。この提言は,障害者自立支援法訴訟における基本合

意と国連障害者権利条約批准を踏まえ,障害者の基本的人権を保障するために,最低限

保障されるべき社会権を施策の中にとり入れるべきとするものであった。

 しかし,こうした提言も「計画的・段階的」整備として,多くの課題が先送りされた

まま,先の障害者自立支援法の骨格を残し,「障害者総合支援法」として名称を変更す

るだけの改定となった。

 この先送りされた課題の審議が,障害者自立支援法を提案し,その存続を強く主張し

てきた自公政権下で行われることとなった今,先の基本的な社会保障制度改革の流れを

前提とするなら,障害者施策の抜本的改革が本当に進められるのかは,全く不透明な状

況となったといえる。

 ただ,ここで考えなければならないことは,こうした障害者・家族の暮らしの実態は,

ますます深刻なものとなっていることである。

 ここで,いくつかの実態を紹介する。

 その一つは,「家に帰れない障害者」の存在をどう見るかという問題である。現在,

大都市圏で,入所施設定員が減少し始めていることは事実である。そんな中で,「長期

(ロング)ショートスティ」「日替わりショートステイ」という現象が起こり始めている。

 強度行動障害等の状況が極めて重篤で,家族生活が営めない,家族に対する暴行やパ

ニックが強く,器物破損を繰り返す,拾い食いやゴミ集めが激しく,家族の見守りに限

界がある。交通事故トラブルや家屋侵入等の近隣トラブルが恒常化している等の理由か

ら,家庭生活が営むことができないが,とてもケアーホームでも対応できない障害者が,

結局「ショートスティ」の制度を使い回しして生活しなければならない状況が少しづつ

増え始めている。

 また,ある入所施設では,一定地域移行の可能な障害者の対応に努力しながらも,結

局,こうした強度行動障害等の方々が残り,総体の利用者が重度化し,日中活動等は,

なんとかティーチプログラムを活用して構造化した生活を保障する工夫を行っても,自

由時間や夜間等は,施錠等の「行動制限」を行わざるをえないという状況まで出てきて

いる。大阪府などは,こうした強度行動障害や触法性障害者に特化した入所施設までつ

くられてきている。

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「障害者の地域移行」と「障害者の地域生活支援」確立のための政策的課題  井上 泰司 27

 私たちは,「インクルーシブ社会」の実現という崇高な理念を実現していくことを強

く求めている。しかし現実の問題として,こうした地域での様々な軋轢が生じた場合,

その受け皿を「家族」のみが受け持っていくことには限界がある。実際,先に紹介した

「家に帰れない障害者」の問題もあるが,最近の障害児施設等の入所者の一部に,中学

から高等部にかけて「思春期」を迎える障害児の入所が増えつつあるという報告がある。

このことは,体力的にも活発な思春期の様々な難しい時期(パニックの激しさ,器物破

損・俳諧・暴行・奇声・激しいこだわり等)を家族だけでは体力的にも対応できない問

題があるともいわれている。もちろん,こうした障害児施設の加齢児問題は,結局家族

との同居すら困難な状況がある中で,幼少時から青年期までを施設で過ごすという異常

性を解消できない現状もある。

 二つ目に紹介するのは,福祉サービスを活用せず,親子で暮らしてきた障害者の実態

である。この障害者は,学校にも十分行けず,大人になっても親元のみで生活し,親が

すべての面倒を見てこられた方である。その親御さんも父親が他界し,母親との二人暮

らしでしたが,ある日,高齢の母親が自宅で転倒骨折し,緊急入院を余儀なくされた。

その際,緊急で行政がかかわり,その方の日常の支援をどう行うかとの対応に迫られた。

しかし,訪問しても,その方は母親の心配はしながらも,緊急ショートを手配しても,

決して家を離れようとはしなかった。やむなく以前訪問活動を行った施設の職員が一晩

泊って支援を行うこととなったが,水も食べ物も口にしな状況であった。幸いこの家庭

は経済的余裕があり,時々自費で活用していたヘルパーがあり,この方の泊まりこみ支

援を行うこととなったが,日中の場へのつなぎをしても,施設に通所することすら,嘔

吐等の対応で拒否を行っている。今後のこの方の支援は全く展望が持てない状況となっ

ている。

 また,触法性(軽度障害で,万引き・食い逃げ・放火・暴行等)障害者の再犯率は極

めて高く,その支援体制は全く不十分な状況といわれている。

 まさに,家族以外の社会的支援の検討抜きに,こうした人たちの地域生活の保障は成

りたたない実態がある。

 さらに,深刻な問題は,ケアホームや入所施設でも「医療的ケア」が必要となったり

「介護度」の高くなった高齢期の障害者の行き先は,結局,特別養護老人ホームや療養

型病床となり始めている現実もある。なぜ,施設から地域への移行がすすめられながら,

結局老人ホームや病院が最後の行き先とならなければならないのかを考えていかなけれ

ばならない。

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佛教大学総合研究所紀要別冊 脱施設化政策における知的障害者のグループホームの機能とその専門的支援の研究28

2 .「入所施設からの地域移行」とは何か

 近年の我が国における障害者政策は,2006年からスタートした「障害者自立支援法」

では,「障害福祉計画」の策定が義務付けられ,その中で,入所施設からの地域移行及

び精神病院等の社会的入院の解消のための目標数値は,2011年度末までに,現行の入所

施設利用者の 1 割以上を地域生活に移行し,入所施設定員を 7 %削減するというもので

ある。

 こうした具体的目標数値が,具体的に位置付けられたのは,戦後の障害者施策におい

ても初めてのことである。

 なぜこうした施策となったかについては,大きくは「ノーマライゼーション」や「イ

ンクルーシブ社会の実現」という国際的な障害福祉思想の流れがある。合わせて,日本

における施設処遇をめぐる様々な問題を契機とした「更友会事件」(1965)「府中療育セ

ンター事件」(1970)「白河育成園事件」「愛成学園事件」等施設入所者の人権侵害を告

発する障害者運動上の働きかけなどや重症心身障害児者への支援思想の発展等が契機と

なり,障害者の権利保障や自立生活を拡大していく実践的取り組みが後押しをする形で,

政策転換を求めてきた背景がある。

 この「脱施設化」については,私どもの大阪障害者センター障害者地域生活システム

研究会が出版した,「ノーマライゼーションと日本の脱施設化とは」(鈴木勉・塩見洋介

著,2002年かもがわ出版)に詳細が検討されているが,ここでの指摘にあるように,確

かに,「脱施設化」の流れは,ノーマライゼーション思想等を背景に,国際的に進めら

れてきた流れではあるが,北欧型のノーマライゼーション思想とアメリカ型ノーマライ

ゼーションの発想には若干のニアンスの違いがある。加えて日本でのこの思想の展開は,

「施設ではあたりまえのくらしを保障できない」「いったん施設に入ると一生出られな

い」「だから施設をつぶして浮いたお金で居宅支援サービスを拡充する」という一部の

障害者団体や研究者に代表されるような主張として展開されてきた。

 国際的には,2007年に発効した「障害者の権利に関する条約」では,第十九条の「自

立した生活及び地域社会に受け入れられること」の項の中で「障害者が,他の者と平等

に,居住地を選択し,及びどこで誰と生活するかを選択する機会を有すること並びに特

定の居住施設で生活する義務を負わないこと」「地域社会における生活及び地域社会へ

の受入れを支援し,並びに地域社会からの孤立及び隔離を防止するために必要な在宅

サービス,居住サービスその他の地域社会支援サービス(人的支援を含む)を障害者が

利用することができること」(日本政府訳)と規定されている。また障害者基本法改正

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「障害者の地域移行」と「障害者の地域生活支援」確立のための政策的課題  井上 泰司 29

法の中でも「全て障害者は,どこで誰と生活するかについての選択の機会が確保され,

地域社会において他の人々と共生することを妨げられないこと」(第三条 地域におけ

る共生等)と規定されるなど,こうした暮らしの場における,自己決定権を擁護するこ

とは,ある意味当然の考え方となり始めている。

 障害者自立支援法施行以来,施設からの地域移行は,かなり積極的にすすめられてき

た。しかしその推進の背景には,厚労省が,入所施設の個室化等と引き換えに,定員削

減を示唆したことや,入所施設の新体系移行に伴う,経営環境の変化等もあり,必ずし

も積極的移行ではない強硬な移行がすすめられた側面も見逃してはならない。ここでは,

福祉計画の基本となる「入所施設利用者が,施設を退所し,生活の拠点をグループホー

ム・ケアホーム,福祉ホーム,公営住宅等の一般住宅に移ったものをいう(家庭復帰を

含む)」というものであるが,この家庭復帰というものの実態をよく見ていく必要があ

る。しかも,その進捗について,2011年 2 月22日の「障害保健福祉関係主管課長会議資

料」によれば,今回(平成22年10月 1 日現在)調査結果をみると,「地域生活移行者数

の累計は,すでに平成23年度末の障害福祉計画の見込みを上回る24,277人(16.6%)と

なっている。一方,新規入所者が毎年 8 ~ 9 千人いることから,施設入所者削減数は,

6,562人(4.5%)にとどまっている」とされている。まさにここに,地域移行の大きな

問題が隠されているといわざるを得ない実態があるといえる。

 障がい者制度改革推進会議の総合福祉部会「地域移行検討作業チーム」の報告

(2011.7.26 第16回資料)では,『「地域移行」のもつ意味は,単に住まいを施設や病院

から移すことではなく,障害者個々人が市民として,自ら選んだ住まいで安心して,自

分らしい暮らしを実現することである。当然,すべての障害者が,障害の程度や状況,

支援の量等に関わらず,地域移行の対象となる。なお,「地域移行」は,住まいを施設

や病院から地域に移すことのみではなく,家族との同居から独立し,自分の住まいを設

けることも含み捉える必要がある。障害者本人の意志や希望,選択が尊重される支援の

仕組みと選択肢を作ることが早急に必要である。これは地域で生活する障害者について

も同様である。地域移行を進めるためには,地域社会で暮らすための基盤整備が最重要

課題である。入所定員や病床数の減を法定化は,それを前提としたものでなければなら

ない。さもないと,家族の不安や負担を強いる危険性と混乱を招きかねない。基盤整備

を積極的に進めるためには,例えば,時限立法として,「障害者の地域移行を促進する

ための基盤整備に関する法律」の制定が望まれる』とされている。

 また,2012年 4 月からは,障害者の一般相談支援を行う事業所が,施設や病院からの

「地域移行」希望者に対し,直接施設・病院に出向き,その意向確認や移行プログラム

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佛教大学総合研究所紀要別冊 脱施設化政策における知的障害者のグループホームの機能とその専門的支援の研究30

を作成し,地域への同行支援などを行いながら,移行を促進し,移行後の定着支援も担

当する仕組みが導入されたが,その実効性についても今後の課題とされている。

 国は,この現状に対し「グループホーム・ケアホームなどの住まいの場の確保や地域

における安心した暮らしを支える支援体制の整備など,更なる地域移行の取り組みの強

化」を提案しているが,本当にこうした対応で,この問題は解決していくのであろう

か?

3 .現状施策下での障害者の暮らし

 この問題を考えるにあたって,私どもの実施したいくつかの調査を紹介する。

 その一つは,現行制度下における障害者の暮らしの実態を調査した,「知的障害者の

暮らし実態調査(家計調査)」(大阪障害者センター 障害者の暮らしの場検討会:2010

年 4 月)である。

 この調査では,2009年度段階での,入所施設・グループホーム等・家族同居の三つの

場で暮らす知的障害者の暮らしの実態を調査したものである。この中で明らかになった

ことは,①どの場においても,趣味や外出などの活動は,一般の国民水準とはかけ離れ

た貧困な状況に置かれている。②障害者の,家計実態と消費生活実態もまさに「貧

困」!(障害者の生活は収支共に同世代と比べて低水準。貧困は障害者本人に先駆けて

家族に生じる)③ GHCH や入所施設への移行は親離れ・子離れの契機となり得ない。

(移行後も続く家族支援)等,「家族介護依存型」で過ごしてきた障害者とその家族の経

済的貧困や活動上の制約が,単純に「場」の問題だけではなく存在することが明らかに

なっている。さらに高齢期を迎える障害者や家族の社会的支援は皆無な状況の中で,先

行きへの不安が増大している実態も明らかになっている。

 こうした状況は,「堺における障害者の生活実態調査」(生活機能をそなえた地域拠点

づくり実行委員会:2008年 6 月)でも同様の結果が明確になっている。

 また,「母親の意識アンケート調査」(この子主人公実行委員会:2008年11月)では,

「私共の場合は,中学生までは,悪さをしても親が押さえることが出来ましたが,思春

期頃からそれも出来なくなり,調子の良いときは昼間は作業所に通うことが出来ますが,

調子が悪いと,夜間家で看ることが困難で泣く泣く精神科の病院に入院させる事も度々

でした,市役所に相談にいっても成果も無く,そんな時,運良く入所することが出来ま

した,ホームの職員の方々には迷惑をかけていることと思いますが,お陰でおお助かり

で感謝しています」「私は,女手一つで障害を持つ息子を育てて来ました,私は,身よ

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「障害者の地域移行」と「障害者の地域生活支援」確立のための政策的課題  井上 泰司 31

りも無く,頼る人はおりません。息子も大きくなって反抗期になり,毎日気持ちがいら

いらして,そんな時は,母に暴力を振るってきます,主人が早く亡くなったので大変で

した,その都度,あちらこちらの施設にショートステイで預かって貰ったりしました,

施設が遠い時は連れて行くのに大変でした,でも今の施設に運良く入所出来てよろこん

でいます」「私ども夫婦の親が癌に罹り,重度の障害を持つわが子をショートステイで

繋いで来ましたが,妻は腰痛があり,継続的な介護に耐え切れない状態でした,親は幸

いにも退院できましたが要介護の認定が下りました,これでは家族共倒れになる恐れも

生じ兼ねない状況で現在の施設で受け止めてもらいました(私の)親は80,90代で介護

を受けながらそれなりに元気にしています,このバランスが今私たち家族がそれなりに

安定している状態です,施設を出て自宅で子供の看護をする家庭環境にはとても,あり

ません」等,我が子を施設に入所させている親の手記の一文を紹介している。

 また,意識調査の中では,以下のような率直な親の思いが明らかになっている。

 「どんな支援があっても施設がないと地域では暮らせない(34.1%)」と「障害のため

近所の人から迷惑がられている・近所の人に気を使うので住みにくいところ(15%)」

の回答を合わせると約半数の人が地域では住めないと答えています。「長年すみなれた

地域ですみやすいところ」であるはずの地域が「住みたくても住めない」ところになっ

ているのが現状である。この現状で,施設に対する期待感は高まらざるを得ないのが実

態である。現在自宅から通所施設に通っている人の39%が「いずれは施設に入所させた

い」,35%が「いずれはグループホーム等に入れたい」と施設やホームに期待を寄せて

いる。しかし,施設等の見通しは暗く,「施設やホームの見通しが立たなくて不安に

思っている人」が55.8%,「将来介護してくれる人がわからないので不安」が55.6%と半

数以上の人が将来に対する不安を抱えている。

 こうした,地域での暮らしにくさを現実的に抱えて暮らしている当事者・家族にとっ

て今強く望まれることは,施設が良いかホームが良いかの問題ではなく,施設もホーム

も身近な地域に存在し,それぞれの利用体験等を通じて,障害の実態に応じて障害者自

身が主体的に選択でき,かつ家族以外のより適切な支援が受けられる条件が完備される

ことこそが望まれているといえる。

 これらの調査を通じて,明らかになってくることは,まさに「家族介護中心型福祉」

の限界がまじかに迫っていること。あまりに貧困な施設や福祉サービスの状況が,長期

にわたって改善していないことである。

 こうした状況の中で,親・家族は,必死になって自分たちを犠牲にしながらも,我が

子を抱えて踏ん張っているものの,「脱施設化」政策や「権利条約」が何をうたおうと,

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佛教大学総合研究所紀要別冊 脱施設化政策における知的障害者のグループホームの機能とその専門的支援の研究32

現実的に安心できる具体的展望を持ち得ていない実態が現存しているということである。

4 .今緊急に求められる「障害者の暮らしを支援するための政策課題」とは

 今本当に考えなければならない問題は,現状制度のあまりに貧困な現状である。

 第一に,入所施設は,現在の制度では,日中活動の事業と合わせて,やっと体制が引

ける状況にあり,職住の分離を前提とする制度である限り,必ずしも24時間の支援を行

える位置づけとはなっていない。結果的に,こうした制度を準用して,日中と夜間の支

援を併用しているのが実態であり,夜間体制の配置は,グループホームやケアホームと

比較しても格段の低さしかないのが現状である。職住分離の原則を想定しても,結果的

には日中体制を割いて,夜間体制を引かざるを得ないのが実態である。

 また,夜間体制等の想定は別として,個室化・小規模化・ユニットケア等への工夫が

進められつつあるが,まさに個別のプライバシーを十分守れる状況には至っていない。

規模的にも,大集団を基本とした生活が想定されているため,日課の個別化等について

も多くの限界を持っている。さらに重要な問題点は,現行の体制では基本24時間・365

日支援を一体的に行うこととなっているため,外出支援や地域とのつながりを持つ取り

組みは,ほとんど行えないのが現状となっている。

 ただし,こうした環境において,自らの生活リズムを確立しにくい人にとっては,一

定の見通しやすい環境を準備できることや,広い空間の中で,個別の関係から回避でき

る空間を見出すことができるなど,直接的な刺激から避難できるという点や,社会関係

の中での軋轢から避難できること,また24時間の支援情報を共有化しやすい環境があり,

支援の継続性が図れる,必要に応じて部屋替えなどの環境の変更が可能等の機能を持っ

ていることは看過できない機能といえる。

 合わせて,医療的支援に関しては,現在の基本的制度の中では,唯一重症心身障害児

施設以外の場では,せいぜい看護師が配置されているだけで,本格的な医療の提供を受

けることは困難であり,入院時等の対応についても,相当無理をした体制上の支援を

行っているのが実態である。

 第二に,グループホーム・ケアホームは,その制度の基本的位置づけの中でも①地域

とのつながりを持ちやすい環境に設置されていること。②小規模で家庭的な雰囲気を持

てる場として整備されてきたが,結局その具体的支援は,中核となるサービス管理者の

下で,非常勤等を中心としたケアスタッフが夜間に関わっていくことを前提としている。

したがって,日中の支援を制度上まず想定していないことが大きな問題となっている。

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「障害者の地域移行」と「障害者の地域生活支援」確立のための政策的課題  井上 泰司 33

この点で,入所施設と異なり,日中・夜間の支援の情報の共有化が難しいという問題等

も指摘され始めている。同時に,支援者の質がなかなか担保しにくく,障害の特性に合

わせた支援について多くの課題を持たざるを得ないのが実態である。

 同時に,小集団で家庭的という環境については,非常になじみやすいという半面,個

別の関係性が際立ちやすいことや,個々の自由時間の過ごし方などで課題を持つ人には,

大きな問題を引き起こすことも多く,場の選択の上でこうした実態を十分把握したうえ

での選択が望まれる。

 あわせて,必然小集団とはいえ集団生活であることから,自らが暮らしのルールをつ

くりだし対応しなければならないという面もある。また,部屋替えなどの環境変更が難

しい等の課題もある。それぞれに合った選択が配慮される必要がある。

 また,地域とのかかわりや余暇・外出などについては,基本的には,ガイドヘルパー

等の利用を前提とせざるをえず,十分な社会参加が保障されているとはいいにくい現状

がある。

 当然,医療的支援は想定されておらず,訪問看護等が必要となるが,この制度の不十

分さから,十分な支援がえられない,また経費がかさむ等の問題を持っている。もちろ

ん入院時等の対応は困難な状況にある。

 第三に,家族同居の場合,家族介護,特に母親を中心とした介護や24時間の見守りな

どが行われ,個別の関係性等も長い年月の中で培われているといえるが,当然その親の

介護力や経済力の低下に合わせて,その限界は近付きつつある。また,こうした介護力

の低下や親の価値観での暮らしが前提となるため,必ずしも個別のニーズに基づいた自

立した暮らしに成りにくい側面を持っている。合わせて,こうした支援を行っていくた

めの居宅介護や,外出支援はあまりにも不十分といえる。加えて入院時等の介護や医療

的支援についてもその不十分さは多く指摘されている。

 もちろん親は,親亡き後兄弟姉妹にその介護を期待する向きもあるが,それぞれの生

活が確立していく中では,画一的にこうした支援の移行も困難な状況も指摘されている。

それでも,他の支援の不十分さの中で,親が抱え込まざるを得ない現状がある。

 なぜ,こうした限界を持ちながらも,知的障害の重い人の親は,「入所施設」を言葉

にするのか,それは,何よりも,絶えず見守りや代弁を行える機能に期待するからに他

ならない。その意味では,個人情報保護を徹底しながらも,本人ニーズをエンパワーメ

ントできるしっかりとした相談支援体制や,支援カルテ方式の検討など,一貫した支援

体制を引ける仕組みも,場の問題以上に必要な課題といえる。しかし,現行の制度は,

結局家族依存型の福祉の中で,いずれの制度も大きな問題を抱えたままで,最終的に責

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佛教大学総合研究所紀要別冊 脱施設化政策における知的障害者のグループホームの機能とその専門的支援の研究34

任を負わされた家族だけではもう展望を持てない現状があるといえる。親だからこそ,

もっと豊かで楽しい暮らしを過ごさせてやりたいという思いにも「介護力」という限界

が立ちはだかっている。

 同時にいずれの場においても,もっと広く自由な空間,周りを気にせずゆったり過ご

せる空間の保障や,介護のみにとどまらず,オシャレや自由な趣味やスポーツに触れ合

える第三の世界の保障など,真に豊かな暮らしのための保障について,真剣に議論され

なければならない。

 その点では,単一の制度制限を撤廃し,ライフサイクルに合わせて,医療・福祉・教

育等重層的な支援を行うことなしに,障害者・家族の現状を打開していくことは全く困

難な状況にあると言える。加えて,障害者の高齢期の支援は全く確立されていない,社

会経験の不足や,家族介護中心できた現状の暮らし,障害ゆえの特別な支援の必要性等

このまま一般の高齢者対応と同様のもので十分な対応が行えるとは考えにくい,この点

でもその支援への検討や制度化についての検討も急がれている。

 まさに,現行制度のあまりに不十分な実態が存続される中で,「権利性」のみをう

たっても(もちろんこうした発想の転換は重要な視点であるが),その現実は,親も当

事者も安心して豊かに暮らしていく保障には至っていないというのが現状といえる。

 こんな中で,これまでの,家族介護中心型福祉という「負の遺産」や実態の制度への

不安感を抱えたまま,親や当事者にその決断を迫っていくことには,大きな無理がある

といわざるをえない。

 こうした問題点が明らかにある中,日本障害者協議会や知的障害者福祉協会等でも,

今後の暮らしの場のあり方や「入所型施設」の機能の問題等について,議論が行われ始

めている。ここでは,身体障害の方と,知的障害の方の支援システムの違いを十分とら

えて,「知的障害をもつ人の生活を,親密な帰属集団によるプライベートな空間と,広

く社会参加をする公共空間とを分離する」(日本障害者協議会:施設の在り方 WT 中間

まとめ1))ことも含め,生活施設の在り方などの検討が進められようとしている。

 こうした議論も踏まえ,筆者が参加した「障害者の居住の場と暮らしを支えるシステ

ムづくり」の提言第一次案では,以下のような柱立てでの,施策改善の提案を行ってい

る。

① 入所施設やグループホーム等現行の制度は,その場の機能を明確にし,個人の

尊厳や,その利用者の社会参加が十分保障されるよう,抜本的な職員配置基準や

1) 日本障害者協議会制作委員会「入所施設のあり方に関するワーキンググループ」2012.4. 座長:岩崎晋也(法政大学教授)。

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「障害者の地域移行」と「障害者の地域生活支援」確立のための政策的課題  井上 泰司 35

設備条件の改善及び制度の重層的利用を可能とする仕組みが必要である。

② どのような場の選択が行われても,その場と共に,暮らし全体を支える支援が

必要である。

③ ライフステージ全般を見通した支援システムの構築が求められる。

④ 特に,こうした重層的な支援システムを構築するに当たっては,福祉・医療・

社会教育・就労支援などの分野横断的な仕組みを構築していくことが求められる。

⑤ 高齢期の障害者への対応のための施策を早急に整備するべきである。

⑥ 緊急時に対応できる,公的責任を明確にした障害者の暮らしのセイフティネッ

トづくりが必要である。

 要約すれば,現在の施策の不十分さを早急に,「障害者の暮らしにおける権利保障」

を可能とする水準まで引き上げること。さらに,重層的な施策支援を実現すること。ま

た,緊急時の対応を含め,公的責任を明確にした社会的支援の仕組みを維持・発展させ

ることが求められていると言える。

 こうした保障がなければ,結局「インクルーシブ社会」の実現や個人の尊厳の尊重を

求める「障害者権利条約」の水準で,日本の障害者が安心して人間らしい暮らしを営ん

でいくことは,困難なものとなる。

 しかしながら,先にも触れたように,芸能人の生活保護問題などを契機に,「扶養」

問題がクローズアップされ,必要以上にこのことが強調される風潮もある。こうした議

論が,「家族扶養」論に転嫁され,「家族依存型福祉」への帰結につながることの無いよ

う冷静な議論も求められるところである。

 その点では,もう一つの視点として,家族介護者の直接支援を目的に高齢者ケアと障

害者ケアを横断する「ケアラー連盟」(2010.6)の主張を紹介しておく。この会では

「 1 .介護される人,する人の両当事者がともに尊重される。 2 .無理なく介護を続ける

ことができる環境を醸成・整備する。 3 .介護者の社会参加を保障し,学業や就業,趣

味や社交,地域での活動などを続けられるようにする。 4 .介護者の経験と人びとの介

護者への理解と配慮がともに活かされる社会(地域)を作る」という基本的視点を提起

しているが,今後大きな議論が必要となっているといえる。

 「親が面倒みて当たり前」「親の面倒は,子が見て当たり前」という意識は,日本独特

の美徳とされている中,当事者の権利,親・家族の権利のそれぞれが保障されるために

は,まだまだ,「家族主義」の中で熟成された意識改革も含め,多くの議論が制度論以

上に必要なものといえる。しかし,実際の彼らのおかれた現状は,こうした美徳論では

解消しない決定的状況があり,「親子心中」「孤独死」等の再燃が,その実態の深刻さを

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佛教大学総合研究所紀要別冊 脱施設化政策における知的障害者のグループホームの機能とその専門的支援の研究36

示している。

最 後 に

 先のような状況を改善していくための基本的視点は「障害者権利条約」が規定する,

基本的人権を保障していけるための,社会権の保障をどのように進めるかがかなめとな

る。

 しかしながら,現在の日本の社会保障制度改革は,最初にも指摘したように,まさに

「権利」を保障する基本的制度とはかけ離れて,「利用契約制度」をベースにした「現金

給付方式」に大きくシフトし,自己責任性が最大に強調される福祉へと転換されてきて

いる。また,この「現金給付方式」は,「憲法第87条」(公金支出禁止条項)を回避し,

本来公的な福祉・介護に営利企業参入を可能とする有効な手法として導入されたとも言

われている。

 なぜ,戦後憲法下,憲法25条の実現のため,医療・福祉・保健が公的に保障されてき

たのか,皆年金や皆保険制度がすすめられてきたのかを改めて想起する必要がある。合

わせて,こうした原則で発展したはずの福祉制度の中でも,落ちこぼされてきたマイ

ナーな存在としての障害者・家族に対する制度の貧困さが,現状を規定していると言わ

ざるを得ない。

 東日本大震災は,まさに日本の大きな転機と言われている。その内容は,開発政治で

農業や地場産業は圧迫された地方の実態,地方財政危機で医療,福祉,介護の削減,公

務員リストラの実態が,その被害を増大させ,復興へのめども立たない状況を生み出し

てきたと言われている。まさにこの震災が明らかにしたのは,安心安全の社会保障のあ

り方であると言っても過言ではない。

 渡邊治氏(元一橋大学教授)は,この点で,「社会保障基本法」の提案と合わせて以

下のような指摘を行っている。( 1 )大震災の被害,失業は,普遍主義的原則の重要性

(法 8 条)明らかに( 2 )大震災は社会保障の必要充足原則を改めて明らかに(法 9

条)( 3 )大震災は,基礎的社会サービスの現物給付原則(法10条)の必要性明らかに

した( 4 )国のナショナルミニマム保障の責務(法11条)の必要性を示した( 5 )震災,

原発事故は,国の責任と地方自治体の共同の必要性(法12条)を明らかに( 6 )財政上

の顧慮が復興を遅らせている(法13条)( 7 )震災は保険料等の減免原則(法16条)の

切実性を明らかに( 8 )学校,医療,保育,介護など不可欠の社会サービス無料化(法

17条)も切実に( 9 )震災は社会保障従事者の権利(法20条)改めて確認(10)大震災

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「障害者の地域移行」と「障害者の地域生活支援」確立のための政策的課題  井上 泰司 37

は所得補償,失業時の生活保障,生活保護の必要性,機能強化の必要示す(11)震災は

改めて,居住権が重要な社会保障の柱であること示した(法30条)(12)大震災,原発

事故は,高齢者,子ども,障害をもつ人に被害が加重されること明らかにした。

 しかるに,現在議論がすすめられようとしている「社会保障制度改革」は,推進法で

規定されるように,①自助・共肋・公助の最適バランスに留意し,自立を家族相互,国

民相互の助け合いの仕組みを通じて支援していく。②社会保障の機能の充実と給付の重

点化,制度運営の効率化を同時に行い,税金や社会保険料を納付する者の立場に立って,

負担の増大を抑制しつつ,持続可能な制度を実現する。③年金,医療及び介護において

は,社会保険制度を基本とし,国及び地方公共団体の負担は,社会保険料に係る国民の

負担の適正化に充てることを基本とする。④国民が広く受益する社会保障の費用をあら

ゆる世代が広く公平に分かち合う観点などから,社会保障給付に要する公費負担の費用

は,消費税収(国・地方)を主要な財源とする。等の基本方針をもとに,社会保障制度

改革国民会議が設置され,公的年金・医療保険・介護保険・少子化対策・生活保護制度

等の全般的改定の議論が始まろうとしている。

 この改革の方向性は,先に示したように,自助・扶助・共助(保険)を基調とした制

度への転換と共に,公的責任の限定化など,一層の構造改革の推進とサービス抑制をす

すめることに他ならない。先の渡辺氏等の主張と,現行の「社会保障制度改革」の流れ

は,まさにそのま逆の方向に進められようとしていると言わざるをえない。

 ただでさえも疲弊している家族介護中心型の福祉に加え,親の高齢化等を事由に,障

害者自身の暮らしを支える仕組みはもう限界といえる。また,新たな子ども子育て新シ

ステムの導入や療育機能の低下によって,子育て環境が大きく変化し,若い世代の親御

さんたちの「孤立化」や「障害受容の悪化」等が,家庭内虐待や「孤独死」(立川母子

孤独死事件:2011年)等の新しい社会問題も増加させようとしている。

 改めて,本来の社会保障・福祉のあり方こそがいま問われようとしているともいえる。

合わせて,この際,なぜあえて国連で「障害者」の権利条約がつくられたのか,その意

味には,こうした基本原則だけでは不十分な特別な支援や合理的配慮の必要性を問う必

要性が強調されているからである。

 今一度,こうした現状を踏まえて,本来の社会保障・福祉制度とは何か,また障害

者・家族の現状と歴史的政策的な問題点を掘り起こして「権利保障」としての障害者福

祉政策の展開について緊急に国民的議論が必要な時期と言わざるを得ない。

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佛教大学総合研究所紀要別冊 脱施設化政策における知的障害者のグループホームの機能とその専門的支援の研究38

【参考文献】※ノーマライゼーションと日本の「脱施設」(鈴木勉・塩見洋介ほか:かもがわ出版2003年 7 月)※希望の持てる「脱施設化」とは(峰島厚ほか:かもがわ出版 2003年12月)※障害者の「暮らしの場」をどうするか(障害者生活支援システム研究会編:かもがわ出版 

2009年 9 月)※どうつくる? 障害者総合福祉法(障害者生活支援システム研究会編:かもがわ出版 2010年

5 月)※「堺における障害者の生活実態調査」(生活機能をそなえた地域拠点づくり実行委員会:2008年

6 月)※「母親の意識アンケート調査」(この子主人公に! 実行委員会:2008年11月)※改訂版「介護者支援の推進に関する法律案(仮称)」政策大綱(素案)(市民法制局・社会保障

改革研究会(第10回):平成22年 4 月10日(土)修正)※障害者の地域での暮らしを守るための支援システムのあり方への提案(障害者の地域での暮ら

しを守るための支援システムのあり方検討会:2010年10月)※「社会保障でしあわせになるために」──「社会保障基本法」への挑戦(京都府保険医協会:

かもがわ出版 2007年10月)※「憲法 9 条と25条・その力と可能性」(渡辺 治:かもがわ出版 2009年)

(イノウエ タイジ 嘱託研究員)