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14 2019.10.28[月] 金融財政ビジネス 第 3 種郵便物認可 RAF2008GSIFIsRAF13 9RAFRAFFSB13 11 RAFRASRAFRASRAFRAF1UFJRAF調UFJUFJ
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地域銀行経営とリスク管理 - 三菱UFJリサーチ&コンサルティ …三菱UFJ リサーチ&コンサルティング 金融戦略室プリンシパル 杉山敏啓

Sep 16, 2020

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Page 1: 地域銀行経営とリスク管理 - 三菱UFJリサーチ&コンサルティ …三菱UFJ リサーチ&コンサルティング 金融戦略室プリンシパル 杉山敏啓

142019.10.28[月] 金融財政ビジネス 第3種郵便物認可

金融庁、過剰なリスク回避を要請

 

金融機関はリスクをとってリター

ンを上げる性質の産業であり、経営

戦略の策定に際しては、意識してと

りに行くリスクと、回避するリスク

とを峻し

ゅんべつ別する必要がある。収益獲得

のために進んで受け入れるリスクの

種類・量をリスクアペタイトと呼ぶ。

RAFは、金融機関の内部規律と取

締役会によるリスクガバナンスを有

効に機能させるとともに、外部ステ

ークホルダー(利害関係者)とのコ

ミュニケーションを通じたけん制に

よって、金融機関による過剰なリス

クテークを回避させリスクアペタイ

トを適切に保持するための経営管理

の枠組みである。2008年に顕在

化した世界的金融危機の反省を踏ま

えて、国際的な巨大金融機関(G─

SIFIs)をはじめとする大手金

融機関を主な対象として、RAFが

要請された経緯がある。

 

本邦では金融庁が13年9月に発表

した金融モニタリング基本方針にお

いて、主要行等についてRAFの構

築状況をモニタリング項目に加えた

ことを契機に、大手金融機関で

RAFの構築・導入が進んだ。主要

国の金融当局で構成する金融安定理

事会(FSB)が13年11月に提示し

たRAF諸原則では、リスクアペタ

イト・ステートメント(RAS)を

作成して金融機関とステークホルダ

ーとのコミュニケーション手段とし

て用いる旨の原則が明記されている。

大手金融機関のRAFではこの諸原

則の通り定期的にRASを作成して

おり、金融当局とのコミュニケーシ

ョンにも活用している。

 

金融庁は長らく、地域金融機関に

対してはRAFを求める態度を明確

にはしてこなかった。金融行政方針

におけるRAFの位置付けを図表1

地域銀行経営とリスク管理

理念に則し健全性確保を

三菱UFJリサーチ&コンサルティング

金融戦略室プリンシパル

杉山敏啓

解 説

 マイナス金利政策を背景に、金融機関の国内営業店部門の収益性はますます低下するとともに、順イ

ールドスプレッド(長短利回り差)を活用して資金利益を稼ぐビジネスモデルは行き詰まった。収益低

下への対応として、市場部門のリスクテークが拡大される可能性がある。だが、下方リスクが生じた際

に地域金融仲介機能に支障を来すようでは、地域銀行の多くが掲げる地域貢献という存立目的が果たせ

なくなってしまう。過剰なリスクテークを回避し、経営理念に則した経営計画を策定・実行する上で、

大手銀行では既に普及した「リスクアペタイト・フレームワーク」(RAF)の思想・考え方を地域銀

行経営においても取り入れることが望ましい。

すぎやま・としひろ 三和総合

研究所入社。三和銀行事業調査

部出向、UFJ総合研究所主任

研究員、三菱UFJリサーチ&

コンサルティング金融戦略室長

を歴任。専門は金融機関マネジ

メント。日本証券アナリスト協

会検定会員、埼玉大学経済学会

会員、江戸川大学経営社会学科

教授。主著に「銀行の次世代経営

管理システム」(金融財政事情研

究会)。

 

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15 2019.10.28[月] 金融財政ビジネス 第3種郵便物認可

により年表形式で見ると、中小・地

域金融機関向けには18年より前は

RAFについての言及はなかった。

だが、18年央ごろから地域金融機関

に対する風向きが変わった。金融庁

が18年7月に発表した「平成29事務

年度 

地域銀行モニタリング結果と

りまとめ」では、地域銀行のリスク

テークを経営体力やリスクコントロ

ール能力に見合う範囲に収める上で、

RAFの活用が述べられた。18年9

月に発表された金融行政方針では、

地域金融機関が健全性を確保し、地

域金融仲介機能を発揮するためには、

経営理念の実現に向けた経営

戦略・計画を策定・実行する

態勢が必要であり、そのため

の経営管理手法の一つとして

RAFが例示された。19年8

月に発表された金融行政方針

でも同様の趣旨が述べられて

いる。「中小・地域金融機関

向けの総合的な監督指針」は

19年6月に一部改正されて

「銀行の実情に応じ、例えば、

収益性や健全性等に係る定量

的指標、管理会計その他の財

務・経営分析、リスクアペタ

イト・フレームワーク等の経

営管理の枠組み等を活用しな

がら、経営戦略・計画の妥当

性の検証や見直し等を行って

いるか」との記述が盛り込ま

れ、RAFの活用が例示され

た。

 

金融庁が地域金融機関に対

してRAF活用に言及するようにな

ったものの、その位置付けは例示に

とどまっており、歯切れが悪いよう

にも感じられるが、これは中小・地

域金融機関の個別性への配慮であろ

う。仮に、大手金融機関並みの

RAF導入を真正面から要請してし

まうと、RAS作成などを掲げる

FSBのRAF諸原則に準拠した経

営管理態勢を導入することと

捉えられかねず、金融機関の

規模・特性によっては実情と

はなじまない過剰装備となる

恐れもあるからだ。地域金融

機関にとって重要なのは、

RASを作成すること自体で

はなく、自らの経営管理に

RAFの思想・考え方を取り

入れることによって、リスク

テークと収益獲得とのバラン

スを保持し、健全性の確保と

地域金融仲介機能の発揮を確

かなものとするところにある。

リスク管理思想の全体像

 

リスクアペタイトとは意識

してリスクをとる態度を意味

するが、リスクに対する基本

的考え方(リスクカルチャー)

が、この態度に影響を及ぼす。リス

クカルチャーは経営理念に包含され

る上級概念である。すなわち、リス

クアペタイトの設定は、経営理念と

矛盾がないように整合的に行われる

べきであると言え、この点検も

RAFの役割に含まれる。RAFが

カバーする経営管理の領域は非常に

広範であり、RAFは銀行経営の在

(出所)金融庁資料より作成

〈図表1〉金融行政方針におけるリスクアペタイト・フレームワークの位置付け

2013 年 9月平成 25事務年度金融モニタリング基本方針

【SIFIs 及びその他の主要行等に対する金融モニタリング】・経営戦略:中期経営計画の重要施策、計数目標、リスクアペタイトフレームワークの構築状況等。

RAFの言及なし

RAFの言及なし

RAFの言及なし

【主要行等に対する監督・検査】・特にG-SIBs 等については、リスクアペタイトフレームワークを構築し、経営方針の策定や収益管理等の決定にも活用しているか、検証する。

【グローバルに活用する金融機関】・特に3メガバンクグループや大規模証券会社グループ等についてはストレス時の金融仲介機能の十分な発揮がより重要であることを踏まえ、以下の点について検証する。a) リスクアペタイトフレームワークの構築を通じ、経営レベルでのリスクガバナンスの強化を図っているか

RAF の活用を通じたリスク・リターンを意識したガバナンスの高度化が進展しているか。リスクの変化に応じた実効性ある議論を促すためのリスク・アペタイト指標の設定等に課題を抱えており、高度化の余地がある。

経営戦略・計画の策定、実行する態勢を構築する一連のプロセスの中で、金融機関の実情に応じ、例えばRAF、金融仲介機能のベンチマークによる自己評価、財務・経営分析、ストレステスト等を活用。

大手銀行グループの多くは RAF を導入・深化させる工夫が進んでいるが、リスク・アペタイトに応じた指標やリスクリミット等の適切な設定・モニタリングについて課題があるほか、譲論の活性化に資する運用について高度化の余地が見られる。

経営理念の実現に向け、経営戦略・計画の策定、実行する態勢を構築する中で、金融機関の実情に応じ、例えば、リスクアペタイト・フレームワーク (RAF)、金融仲介機能のベンチマーク、ポートフォリオ全体の分析やビジネスラインごとの経営分析、ステレステスト等を活用することが考えられる。

2014年 9月平成 26事務年度金融モニタリング基本方針

2015年 9月平成 27事務年度金融行政方針

2016年 10月平成 28事務年度金融行政方針2017年 11月平成 29事務年度金融行政方針

2018年 9月平成 30事務年度金融行政方針

2019年 8月令和元事務年度金融行政方針

大手金融機関 中小・地域金融機関

(出所)筆者作成

〈図表2〉リスクアペタイト・フレームワークの全体像銀行のリスク・リターン管理に関する枠組み全体を指す

銀行の経営理念やリスクカルチャーに基づくリスク・リターン方針を定め、リスク・リターン指標の目標を定めた文書

経営計画を事業戦略、財務計画、リスクアペタイトの総体として策定

メインシナリオを前提とした経営計画について、ストレス下の影響度を計測し、ダウンサイドリスクを検証

事業戦略 (業務運営の戦略計画)

経営理念・リスクカルチャー

統合リスク管理規程類

経営計画の検証

・目的と定義・基本方針とリスクカルチャー・リスクの定義と計測手法・リスク管理態勢・リスクアペタイトの設定と管理・計数計画

財務計画 (B/S,収益の計画)

リスクアペタイト 所要経済資本 リスクキャパシティー

 配賦経済資本

リスクプロファイル 使用経済資本

リスクアペタイト・フレームワーク (RAF)

リスクアペタイト・ステートメント(RAS)

リスク・リターン指標の目標

リスク資本配賦制度

ストレステスト

メインシナリオ

ストレスシナリオ

期中進捗管理・モニタリング

経営計画の策定

経営計画

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162019.10.28[月] 金融財政ビジネス 第3種郵便物認可

り方そのものであるといわれるゆえ

んである。

 

RAFの全体像について概念図を

図表2に示す。経営理念に包含され

るリスクカルチャーや重視する企業

目的に基づいて、経営戦略・計画が

設定される。経営計画とは事業戦略、

財務計画、リスクアペタイトの総体

であり、収益計画、バランスシート

計画、リスクテーク量、それらを実

現するための戦略が含まれる。事業

戦略とは、経営計画のうち財務計

画・リスクアペタイトを実現するた

めの具体的な業務戦略の計画である。

財務計画とは、経営計画のうち収益

やバランスシートに関する計数計画

である。リスクアペタイトとは、事

業戦略や財務計画を達成するために

リスクキャパシティーの範囲内で進

んで引き受けようとするリスクの種

類・量のことである。リスクの定義

や計量化方法、管理体制などを定め

る「統合リスク管理」も、保有する

リスクテーク量に対して自己資本を

配賦する「リスク資本配賦」も、経

営計画の下方乖か

いり離リスクを検証する

「ストレステスト」も、いずれも

RAFに含まれる取り組みである。

ストレステストによる検証を経て、

組織として承認された経営計画と、

そのベースとなる経営管理態勢など

を文書化したものがRASである。

経営理念と経営パフォーマンス

 

令和元事務年度の金融行政方針で

は、地域金融機関が健全性を確保し

て地域金融仲介機能を発揮するため

には、確固たる経営理念を確立した

上で、その実現に向けた経営戦略・

計画を策定・実行するこ

との必要性が強調された。

経営理念は、地域金融機

関が企業として目指すビ

ジョンであり、リスクア

ペタイトを設定する上で

のよりどころとなる。経

営理念が相違すれば、金

融機関の経営戦略や経営

行動に影響を及ぼし、ひ

いては金融機関の経営パ

フォーマンスの相違とし

て表れることが予想され

る。本稿では試みとして、

地域銀行について経営理

念を調査した上でタイプ

別に分類し、経営指標の

グループ別の平均値を概

観したい。経営理念は経

営ビジョン、企業理念、行是、行訓

などと呼ばれることもあり、その記

述内容はシンプルなものから複数項

目を箇条書きで列挙するものなど、

各行各様である。図表3は、各地域

銀行あるいは銀行持ち株会社の経営

理念に相当すると思われる記述内容

を個別調査した上で、筆者が指定し

たキーワードが含まれるか否かによ

って、地域銀行を経営理念に応じて

顧客志向、内部志向、健全志向、業

績志向にタイプ分けした結果概要で

ある。一つの銀行が複数のタイプに

該当する場合はもちろんある。

 

地域銀行の粗利経費率(OHR)

を見ると、業界平均値と比べて、顧

客志向有りタイプ群、内部志向有り

タイプ群などは相対的に高く、経費

効率性について甘さ(経費への寛容

さ)が垣間見られる。他方、業績志

(注)ROA5y、σ ROA5y は過去 5 年度(2012-17年度)の総資産利益率(ROA)の平均、標準偏差経営理念タイプは各行の経営理念等に含まれる筆者指定キーワード(下記)の有無により判定、銀行の分類のカッコ内は該当銀行数顧客志向:公共、社会、客、大衆、地域、地元内部志向:職員、行員、従業員健全志向:健全、安定、堅実、信用、信頼業績志向:株主、出資者、収益、利益、業績、企業価値、革新、挑戦、チャレンジ、積極、成長、進

(出所)全国銀行協会「全国銀行財務諸表分析」、各行ディスクロージャーより筆者作成

〈図表3〉地域銀行の経営理念タイプによる経営パフォーマンスの相違

粗利経費率 2017 年度OHR銀行の分類

全体 (104)

0.60

0.79 0.372%

0.367%

0.463%

0.340%

0.382%

0.375%

0.366%

0.391%

0.357%

0.086%

0.084%

0.124%

0.071%

0.091%

0.083%

0.095%

0.083%

0.088%

0.80

0.68

0.83

0.78

0.79

0.80

0.78

0.81

0.460%

0.440%

0.420%

0.400%

0.380%

0.360%

0.340%

0.320%

0.300%0.060% 0.070% 0.080% 0.090% 0.100% 0.110% 0.120%

ROA5y

σROA5y

0.70 0.80 0.90 0.300% 0.400% 0.500% 0.050% 0.100% 0.150%

顧客志向有り (98)顧客志向無し (6)

内部志向有り (24)内部志向無し (80)

健全志向有り (75)健全志向無し (29)

業績志向有り (47)業績志向無し (57)

経営理念タイプ 全体 (104)

業績志向有り (47)健全志向有り (75)

顧客志向有り (98)

内部志向有り (24)業績志向無し (57)

健全志向無し (29)

内部志向無し (80)

顧客志向無し (6)

総資産利益率 5 年平均ROA5y

ROAの標準偏差 5年σROA5y

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17 2019.10.28[月] 金融財政ビジネス 第3種郵便物認可

向有りタイプ群、健全志向有りタイ

プ群などの利益蓄積に熱心と思われ

るグループではOHRは相対的に低

く、シビアな経費効率性が垣間見ら

れる。

 

総資産経常利益率(ROA)の過

去平均水準と標準偏差からリスク・

リターン状況を概観すると、内部志

向有りタイプ群、顧客志向有りタイ

プ群は、業界平均値と比べて低リス

ク低リターンのポジションに位置し

ている。これに対して内部志向無し

タイプ群、顧客志向無しタイプ群は、

高リスク高リターンのポジションに

位置している。このように各行にお

ける経営理念の相違は、経営パフォ

ーマンスの相違につながっている可

能性が示唆される。経営理念の中で、

業績志向の有り・無しに着目して2

群にタイプ分けし、個別銀行のリス

ク・リターン状況をプ

ロットした結果を図表

4に示す。図表中には

回帰直線を引いたが、

これの傾きは無リスク

利子率をゼロと見なせ

ばシャープ比率(超過

リターン÷リスク)に

相当する。業績志向有

り銀行の方が回帰直線

の傾きが大きく(シャ

ープ比率が大)、リス

ク対比リターンが良好

である傾向がうかがえ

る。

 

経営理念は、各行が

大切にする価値観を端

的に表現したものであ

り、経営計画(事業戦

略、財務計画、リスクアペタイト)

の設定に当たって鑑みられるべきで

ある。別の言い方をすれば、経営理

念とは全くそぐわないような経営計

画案は、いかに収益的に魅力があっ

たとしても、経営として承認すべき

ではない。戦術を駆使することより

も、適切なビジョンを設定して目指

す姿に向かった経営行動をとること

が大事であり、ビジョンとは全くそ

ぐわない経営計画では砂上の楼閣と

なりかねない。

経営計画の検証

 

金融機関の経営パフォーマンスは、

経済金融環境の影響を強く受ける。

経営計画は通常、メインシナリオに

基づいて策定されるが、将来は不確

実であり経済金融環境は変化する。

経営計画・リスクアペタイトの設定

に際しては、メインシナリオが外れ

て下振れた場合であっても、損失が

リスク許容度の範囲に収まることを

検証する必要がある。

 

金融機関が抱えるリスク量に対し

て、自己資本を割り当ててリスクキ

ャパシティーを管理するリスク資本

配賦制度(経済資本配賦制度)は、

99%タイル(100年に1度)など

のリスク量を計量化して、リスク量

が自己資本の範囲内に収まっている

ことを確認する取り組みであり、銀

行業界では従前から普及している。

しかしながらこの取り組みは、仮に

リスクが顕在化した際、債務超過に

は陥らない(すなわち預金保険によ

る保護範囲を超える預金払戻額の一

部がカットされる事態には至らな

い)ことの確認にとどまる。リスク

資本配賦制度によるリスクキャパシ

ティーの確認だけでは、経営計画の

承認に際しての検証としては不十分

である。

 

世界的金融危機の反省を踏まえて

銀行のストレステスト(健全性審査)

が世界的に普及した。ストレステス

トが導入された初期段階では、スト

レス時の自己資本比率に関心が置か

れていたが、近年ではストレス時の

損益も重視されている。ストレステ

ストは、経営計画・リスクアペタイ

トが、自らの経営理念・リスクカル

チャーと照らし合わせて受け入れ可

能か否かを判断する上での重要な検

証作業であることから、経営計画案

が承認される以前に実施・報告され

ている必要がある。

 「ストレス時にも債務超過には陥

(注)ROA5y、σROA5yは過去5年度(2012-17年度)の総資産利益率(ROA)の平均、標準偏差

  経営理念タイプの分類方法は図表3と同様  回帰直線は切片無しの単回帰直線  本図表ではスルガ銀行を除いて示した(出所)全国銀行協会「全国銀行財務諸表分析」、各行ディスクロージャーより筆者作成

〈図表4〉地域銀行の経営理念における業績志向タイプによるリスク・リターンの相違

1.60%

1.40%

1.20%

1.00%

0.80%

0.60%

0.40%

0.20%

0.00%0.00% 0.05% 0.10% 0.15% 0.20% 0.25% 0.30% 0.35% 0.40% 0.45%

ROA5y(リターン)

σROA5y(リスク)

業績志向有り銀行回帰直線(業績志向有り) 回帰直線(業績志向無し)

業績志向無し銀行

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182019.10.28[月] 金融財政ビジネス 第3種郵便物認可

らないこと」を確認するにとどまっ

ていては、検証のレベル感としては

目線が低過ぎである。経営計画のダ

ウンサイドリスクについて検証する

場合、ストレス時にも健全性を維持

するとともに地域金融仲介機能の発

揮を可能とする状態を保持すること

が望まれるため、100年に1度な

どよりもストレスシナリオの蓋が

いぜん然性

(発生確率)を高く設定した複数の

ストレスシナリオの下で、ストレス

顕在時にも許容範囲の損失に収まっ

ていることを確認すべきである。

 

リスクアペタイトの設定に際して

は、経済金融環境が下振れた場合で

あっても、経営として受け入れ可能

なストレス時損失を「リスク許容度」

として明確にしておくことが望まし

い。ストレス時には経営不振に陥っ

た金融機関に対する早期是正措置の

発動を回避できればよく、そのリス

ク許容度の範囲内で最大限のリスク

テークを図ってリターンを追求する

というのも一つの考え方である。だ

が、早期是正措置が目前に迫った状

況では、自己資本比率の分母対策(リ

スクアセット抑制)を考えざるを得

なくなり、地域金融仲介機能に支障

を来す懸念につながる。地域金融機

関としてはストレス時にこそ地域金

融仲介機能を保持することが重要で

あり、そのためには期待リターンを

控えめに抑えてでもリスク許容度を

厳しくし、最低所要基準よりも上方

の自己資本比率を維持する目線を置

くというのも一つの考え方である。

 

リスク許容度の置き方は、各金融

機関の考え方によって異なる。「早

期是正措置の回避」は、健全性評価

における最低基準である。「金融仲

介機能の維持」として、国内基準行

であっても自己資本比率8%割れの

回避などをリスク許容度に置いても

よいであろう。リスク許容度をさら

に上方に置いて「黒字経営の維持」

とすることも一考である。また、メ

インシナリオに基づいて策定された

経営計画が、リスク許容度を順守で

きなくなる確率をストレステスト結

果に基づいて参考提示すれば、経済

金融環境が今後下方に乖離した場合

における健全性維持の状況を一目で

把握できて、経営判断に役立つであ

ろう(図表5)。

意思疎通のツールとして活用

 

経営理念に則して経営戦略・計画

を策定し、自らの存立目的をバラン

スよく達成しつつ業績を上げるのは、

企業としてあるべき取り組みである。

特定の経営指標をピックアップして

見栄えを良くしようとすると、別の

分野で無理が生じて全体のバランス

を崩すことになりかねない。例えば、

域内の融資シェアを上げようとすれ

ば、貸出金利競争や与信費用増加、

営業経費投下などによって利益率が

低下するとともに、分母成長ペース

が勝れば自己資本比率が低下する。

高い自己資本比率に固執すれば、リ

スクテークが不足してリターンは伸

び悩み、ROE(自己資本利益率)

が低迷することになりかねない。

 

RAFを構成する経営管理の各取

り組み(事業・財務計画、統合リス

ク管理、リスク資本配賦、ストレス

テストなど)は、ほとんどの金融機

関において既に運用されているもの

ばかりである。RAFの思想・考え

方を活用する意義は、これら既存の

取り組みを相互に連携してバランス

を取るところにあると言える。ビジ

ネスの持続可能性を損なわないため

には、ボリューム、利益、自己資本、

リスク量といった各計数のバランス

を保つことが重要であり、そのため

の枠組みとしてRAFへの期待が高

まりを見せている。とはいえ、経営

管理に奇策はなく、RAFは既存の

取り組みの有効性を発揮して、自行

のビジョンと経営計画や実際の経営

行動の整合性を総体的に確認する枠

組みにすぎない。RAFの思想・考

え方を組織内で活用するとともに、

外部ステークホルダーとのコミュニ

ケーションにも役立てる姿勢が望ま

れる。

(出所)筆者作成

〈図表5〉経営計画・リスクアペタイトの設定とリスク許容度による検証のイメージ

(数値は仮設例・国内基準行を想定、金額単位:億円)

リスクアセット自己資本自己資本比率

リスク許容度による検証

金融仲介機能の維持黒字経営の維持

早期是正措置の回避

債務超過の回避

自己資本比率 8%割れする確率赤字となる確率

自己資本比率 4%割れする確率

自己資本比率 0%割れする確率メインシナリオから外れてリスク許容度を突破する確率

ストレステスト結果のリスク許容度順守状況

10,0009009.0%

10,2009279.1%

11,0008988.2%

12,0008006.7%

ROE当期純利益

経営計画主要計数

リスクアペタイト関連

経営計画メインシナリオ リスクシナリオ

10年に 1度ストレスシナリオ25年に 1度

メインシナリオ リスクシナリオ ストレスシナリオ

利益関連 5.0%45

-0.2%-2

10.0% × ××2.7%

0.0%

0.0%

-11.1%-100

基準時点

ストレステスト