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今月の野菜 野菜情報 2018.12 58 いちごはバラ科オランダイチゴ属の多年草 であることから一般的に果樹に含めることが 多く、日本のように野菜として扱う国は珍し い。わが国へは江戸後期(18世紀)にオラ ンダ人によって長崎に伝えられたことからオ ランダイチゴと呼ばれたが、野生のいちごに 親しんでいた当時の日本人には受け入れられ なかった。 日本での栽培は明治以降で、品種は福羽が 中心だったが、第二次大戦後、高度経済成長 に伴い電照技術も発達し昭和40年代以降は 幅広い産地と作型に対応できる品種に移り変 わっていった。いちごは一定の寒さにあうと 花芽をつけるという性質があり、これを利用 して夏場に苗を冷蔵するなどの方法で生育を コントロールし、現在では、ほぼ周年で栽培・ 出荷が可能となっている。ちなみに、いちご の赤い実は果実ではなく、種子のベッドの役 割をしている花托(かたく)の部分である。 主要産地 資料:農林水産省「野菜生産出荷統計(平成29年産)」 注:図中の番号は収穫量の多い順番、期間は主な出荷期間を表している。 いちごの需給動向 調査情報部 とちおとめ(栃木県産) きらぴ香(静岡県産) ⑤愛知県 12月~5月 ②福岡県 11月~5月 ⑨千葉県 12月~5月 ⑥長崎県 11月下旬~5月 ③熊本県 11月~5月 ⑦茨城県 11月~6月 ④静岡県 10月~6月 ⑧佐賀県 1月~5月 ⑩宮城県 10月中旬~5月上旬 ①栃木県 10月下旬~6月上旬
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今月の野菜 いちごの需給動向 - alic今月の野菜 野菜 58 2018.12 いちごはバラ科オランダイチゴ属の多年草 であることから一般的に果樹に含めることが

Feb 06, 2020

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今月の野菜

野菜情報 2018.1258

いちごはバラ科オランダイチゴ属の多年草であることから一般的に果樹に含めることが多く、日本のように野菜として扱う国は珍しい。わが国へは江戸後期(18世紀)にオランダ人によって長崎に伝えられたことからオランダイチゴと呼ばれたが、野生のいちごに親しんでいた当時の日本人には受け入れられなかった。日本での栽培は明治以降で、品種は福羽が中心だったが、第二次大戦後、高度経済成長

に伴い電照技術も発達し昭和40年代以降は幅広い産地と作型に対応できる品種に移り変わっていった。いちごは一定の寒さにあうと花芽をつけるという性質があり、これを利用して夏場に苗を冷蔵するなどの方法で生育をコントロールし、現在では、ほぼ周年で栽培・出荷が可能となっている。ちなみに、いちごの赤い実は果実ではなく、種子のベッドの役割をしている花托(かたく)の部分である。

主要産地

資料:農林水産省「野菜生産出荷統計(平成29年産)」 注:図中の番号は収穫量の多い順番、期間は主な出荷期間を表している。

いちごの需給動向      調査情報部

とちおとめ(栃木県産)

きらぴ香(静岡県産)

⑤愛知県 12月~5月

②福岡県 11月~5月

⑨千葉県 12月~5月

⑥長崎県 11月下旬~5月

③熊本県11月~5月

⑦茨城県 11月~6月

④静岡県 10月~6月

⑧佐賀県 1月~5月

⑩宮城県10月中旬~5月上旬

①栃木県10月下旬~6月上旬

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野菜情報 2018.1259

平成29年の作付面積は、5,280ヘクタール(28年比98.3%)と、28年に比べてやや減少した。上位5県では、◦栃木県� 554ヘクタール(同 94.5%)◦福岡県� 455ヘクタール(同 98.3%)◦熊本県� 316ヘクタール(同 98.4%)◦静岡県� 303ヘクタール(同 98.4%)◦長崎県� 268ヘクタール(同 96.8%)となっている。

29年の出荷量は、150,200トン(28年比103.6%)と、28年に比べてやや増加した。上位5県では、◦栃木県� 23,600トン(同 100.9%)◦福岡県� 16,900トン(同 114.2%)◦熊本県� 10,300トン(同 106.0%)◦静岡県� 9,950トン(同 105.3%)◦愛知県� 9,410トン(同 105.5%)となっている。

出荷量上位5県について、10アール当たりの収量を見ると、栃木県の4.53トンが最も多く、次いで福岡県の3.90トン、愛知県の3.79トンと続いている。その他の県で多いのは、佐賀県の4.32トン、茨城県の3.70トンであり、全国平均は3.10トンとなっている。

作付面積・出荷量・単収の推移

0

1,000

2,000

3,000

4,000

5,000

6,000

7,000

22 23 24 25 26 27 28 29

(ヘクタール)

その他

茨城

愛知

長崎

静岡

熊本

福岡

栃木

(年)

作付面積の推移

資料:農林水産省「野菜生産出荷統計(平成29年産)」

4.53

3.90

3.43 3.51

3.79

4.32

3.70

3.10

0

1

2

3

4

5

栃木 福岡 熊本 静岡 愛知 佐賀 茨城 全国

(トン/10a)

平成29年の主産地の単収

資料:農林水産省「野菜生産出荷統計(平成29年産)」 注:�黄色は、出荷量上位5県以外で単収が多い2県および全国

平均。

0

2

4

6

8

10

12

14

16

18

22 23 24 25 26 27 28 29

(万トン)

その他

茨城

長崎

愛知

静岡

熊本

福岡

栃木

(年)

資料:農林水産省「野菜生産出荷統計(平成29年産)」

出荷量の推移

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野菜情報 2018.1260

明治初期に米国より栽培用品種の導入が試みられたが定着せず、その後、明治32年に福ふく

羽ば

逸はや

人と

がフランスの品種から育成した「福羽」の成功により本格的に商業的栽培が始まった。「福羽」はさまざまな品種の親となり、その後、昭和40年代に至るまで70年間ほど

営利栽培された。戦後、ハウス栽培も普及し冬場でも栽培できる作型も広まったことから、現在では、北海道から九州まで栽培されており、栽培地域や作型に加え、果色やサイズにより差別化した品種など多様化が進んでいる。

作付けされている主な品種等

東京都中央卸売市場の月別入荷実績(平成29年)を見ると、11月から栃木県の入荷が増え始め、12月からは福岡県、茨城県、静岡県、佐賀県も加わり急増する。ピークは3

月で5月まで入荷が続く。6月以降は宮城県から入荷するものの量は少なく、10月までは入荷が非常に少ない時期が続く。

資料:農畜産業振興機構の関係者聞き取り。

栃木 (49)

栃木 (43)

栃木 (40)

栃木 (42) 栃木

(56) 宮城(28)

栃木(73)

栃木 (52)

福岡(16)

福岡 (20)

福岡 (18) 福岡

(20)

茨城(10)

栃木(19)

福岡(14)

茨城(12)

茨城(11) 佐賀 (12)

佐賀(10)

静岡(8)

茨城(10)

静岡(9)

佐賀(9) 茨城(10)

茨城(9)

福岡(7)

静岡(9)

佐賀(5)

静岡(7) 静岡(8)

静岡(8)

佐賀(7) 佐賀(6)

その他(9)

その他 (10)

その他 (12)

その他 (11)

その他(12)

その他 (53)

その他 (100)

その他 (100)

その他 (100)

その他 (100)

その他 (27)

その他(9)

0

1,000

2,000

3,000

4,000

5,000

6,000

1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月

トン

資料:農畜産業振興機構「ベジ探」(原資料:平成29年東京都中央卸売市場年報)注1:(�)内の数値は、月別入荷量全体に占める割合(%)である。

平成29年 いちごの月別入荷実績(東京都中央卸売市場計)

東京都・大阪中央卸売市場における月別県別入荷実績

都 道 府 県 名 主 な 品 種

栃 木 県 とちおとめ、スカイベリー

福 岡 県 あまおう

熊 本 県 ゆうべに、さがほのか、恋みのり、ひのしずく

静 岡 県 紅ほっぺ、きらぴ香

長 崎 県 ゆめのか、さちのか

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野菜情報 2018.1261

大阪中央卸売市場の月別入荷実績(平成29年)を見ると、11月から入荷が始まる長崎県、熊本県、福岡県、佐賀県は春に向けて数量を増やしていく。1月以降は徳島県、香

川県も入荷し3月のピークに向けて数量を増やし、5月まで出荷が続く。6月は長崎県、香川県から出荷がみられるが7月から10月までは非常に入荷が少ない時期が続く。

東京都中央卸売市場における国内産の生鮮いちごの卸売価格(平成29年)は、1キログラム当たり968~2630円(年平均1738円)の幅で推移している。出荷の増える1月からは下落し、4~5月に底となり、7

~10月にかけて上昇する傾向がみられる。一方、外国産の生鮮いちごの卸売価格は1000円~1500円の幅で推移し、国産に比べて変動が少ない。

0

500

1,000

1,500

2,000

2,500

3,000

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12

(円/kg)

27年

28年

29年

(月) 0

500

1,000

1,500

2,000

2,500

3,000

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12

(円/Kg)

27年

28年

29年

(月)

長崎長崎

長崎 長崎

長崎香川 米国

長崎

福岡

福岡

福岡福岡

福岡 長崎 長崎熊本

熊本

佐賀

熊本

熊本

佐賀 熊本福岡

佐賀

熊本

佐賀

佐賀

香川 佐賀佐賀

徳島

香川

徳島

徳島

熊本

香川その他

その他

その他

その他

その他

その他

その他 その他 その他 その他

その他

その他

0

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1,000

1,500

2,000

2,500

3,000

月 月 月 月 月 月 月 月 月 月 月 月

トン

資料:農畜産業振興機構「ベジ探」(原資料:平成29年大阪市・大阪府中央卸売市場年報)注1:(�)内の数値は、月別入荷量全体に占める割合(%)である。

平成29年 いちごの月別入荷実績(大阪中央卸売市場計)

卸売価格の月別推移(国内産) 卸売価格の月別推移(外国産)

資料:�農畜産業振興機構「ベジ探」(原資料:東京都中央卸売市場「市場月報」)

東京都中央卸売市場における価格の推移

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野菜情報 2018.1262

生鮮いちごの輸入量は3000トン前後で推移しており、国産の出荷量が極端に少なくなる夏場に業務用として輸入される米国産が中心である。冷凍いちごは2万5000トンから3万トンの間で推移しており、中国、米国のほかチリからも増えてきている。ピューレなどが含まれる調製いちごは、中国、米国、フランスなどから輸入されている。

輸入量の動向

22年 29年

米国 3,023 95.2%

139 4.4%

0.3%

その他 6

0.2%

生鮮いちご

合計 トン

米国 3,110 95.5%

韓国 148 4.5%

生鮮いちご

合計 トン

中国 12,962 47.9%

チリ 3,929 14.5%

エジプト 2,887 10.7%

モロッコ 1,653 6.1%

その他 2,364 8.7%

冷凍いちご

合計 トン中国

16,999 66.4%

米国 5,671 22.1%

エジプト 792 3.1%

ポーランド 344 1.3%

その他 501 2.0%

冷凍いちご

合計 トン合計 トン

中国 1,044 27.5%

米国 866

22.8%

フランス 642

16.9%

韓国 518

13.7%

その他 722

19.1%

調製いちご

合計 トン

米国 829

28.0%

中国 807

27.3%

韓国 620

20.9%

フランス 474

16.0%

その他 229 7.7%

調製いちご

合計 トン

オランダ

韓国

米国3,25412.0%

チリ1,2975.1%

冷凍いちごの輸入量の推移

国別輸入量

0

1,000

2,000

3,000

4,000

5,000

22 23 24 25 26 27 28 29

(トン)

(年)

0

5

10

15

20

25

30

35

22 23 24 25 26 27 28 29

(千トン)

(年)

資料 :農畜産業振興機構「ベジ探」(原資料:財務省「貿易統計」)

0

1,000

2,000

3,000

4,000

22 23 24 25 26 27 28 29

(トン)

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資料 :農畜産業振興機構「ベジ探」(原資料:財務省「貿易統計」) 資料 :農畜産業振興機構「ベジ探」(原資料:財務省「貿易統計」)

0

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3,000

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22 23 24 25 26 27 28 29

(トン)

(年)

0

5

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30

35

22 23 24 25 26 27 28 29

(千トン)

(年)

資料 :農畜産業振興機構「ベジ探」(原資料:財務省「貿易統計」)

0

1,000

2,000

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4,000

22 23 24 25 26 27 28 29

(トン)

(年)

資料 :農畜産業振興機構「ベジ探」(原資料:財務省「貿易統計」) 資料 :農畜産業振興機構「ベジ探」(原資料:財務省「貿易統計」)

いちごの輸入量の推移

調製いちごの輸入量の推移

Page 6: 今月の野菜 いちごの需給動向 - alic今月の野菜 野菜 58 2018.12 いちごはバラ科オランダイチゴ属の多年草 であることから一般的に果樹に含めることが

野菜情報 2018.1263

いちごの輸出実績を見ると、平成22年から24年まではほぼ横ばいとなっているが、25年から徐々に増え始め、29年には対前年比1.7倍まで増加した。関税がないうえに、日本の港で植物検疫を受けずに輸出できることから香港向けが太宗を占めるが、台湾、シンガポールへの輸出量も伸びている。海外では、日本産いちごの食味の良さに対する認知度が高まっており、今後は富裕層に加えて中間層もターゲットにした価格帯も伸びていくものと期待されている。

いちごの1人当たり年間購入数量は減少傾向にあり、平成29年には778グラムとなった。これは、標準的ないちごパックで約3個分である。いちごは、1960年代までは春から初夏が旬であったが、品種改良やハウス栽培も普及し、クリスマス需要に合わせた冬場の出荷も増えてきている。老若男女に人気があるいちごは、野菜、果実の中でもビタミンCが豊富で、5~6粒で1日に必要な50ミリグラムを摂取できるという魅力もある。ビタミンCは抗酸化作用があることから動脈硬化や脳卒中を予防したり、風邪の予防も期待できる。冷凍で保存もできるので、ジャムやジュースの材料としてストックしておくのもお薦めである。切らずにそのまま食べられるので、気軽に食卓に乗せたい。

いちごの消費動向

600

650

700

750

800

850

900

950

1,000

1,050

22 23 24 25 26 27 28 29

(グラム)

(年)

資料:農畜産業振興機構「ベジ探」(原資料:財務省「貿易統計」)

資料:�農畜産業振興機構「ベジ探」   (原資料:総務省「家計調査年報」)

1人当たり年間購入量の推移

22年 29年

米国 3,023 95.2%

139 4.4%

0.3%

その他 6

0.2%

生鮮いちご

合計 トン

米国 3,110 95.5%

韓国 148 4.5%

生鮮いちご

合計 トン

中国 12,962 47.9%

チリ 3,929 14.5%

エジプト 2,887 10.7%

モロッコ 1,653 6.1%

その他 2,364 8.7%

冷凍いちご

合計 トン中国

16,999 66.4%

米国 5,671 22.1%

エジプト 792 3.1%

ポーランド 344 1.3%

その他 501 2.0%

冷凍いちご

合計 トン合計 トン

中国 1,044 27.5%

米国 866

22.8%

フランス 642

16.9%

韓国 518

13.7%

その他 722

19.1%

調製いちご

合計 トン

米国 829

28.0%

中国 807

27.3%

韓国 620

20.9%

フランス 474

16.0%

その他 229 7.7%

調製いちご

合計 トン

オランダ

韓国

米国3,25412.0%

チリ1,2975.1%

輸出量の動向

0

100

200

300

400

500

600

700

800

900

1,000

平成22 23 24 25 26 27 28 29

(トン)

その他

シンガポール

台湾

香港

(年)

資料:�農畜産業振興機構「ベジ探」   (原資料:財務省「貿易統計」)

輸出量の推移(生鮮いちご)