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有限数学第2 小関 健太 2016 本講義は,グラフ理論のいくつかの知識は既知と仮定する.基本的な内容は「有限数学 第一」の講義,またはグラフ理論の基礎的な教科書を参照のこと.
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有限数学第2 - Keio University証明. jGj に関する帰納法.jGj = 1 ならばOK.(その頂点のボタンを押せば良い.) よって,jGj 2 とする. 主張3.1

Jul 17, 2020

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Page 1: 有限数学第2 - Keio University証明. jGj に関する帰納法.jGj = 1 ならばOK.(その頂点のボタンを押せば良い.) よって,jGj 2 とする. 主張3.1

有限数学第2

小関 健太

2016

本講義は,グラフ理論のいくつかの知識は既知と仮定する.基本的な内容は「有限数学第一」の講義,またはグラフ理論の基礎的な教科書を参照のこと.

Page 2: 有限数学第2 - Keio University証明. jGj に関する帰納法.jGj = 1 ならばOK.(その頂点のボタンを押せば良い.) よって,jGj 2 とする. 主張3.1

1 握手補題の応用本稿では,多重辺およびループのない単純グラフのみを扱い,単にグラフとよぶ.グラ

フ G とその頂点 x に対し,x に接続する辺の数を G での次数とよび,dG(x) で表す.

定理 1 (握手補題) G をグラフとすると,以下が成り立つ.∑x∈V (G)

dG(x) = 2|E(G)|.

定理 2 (奇点定理) 任意のグラフは次数が奇数の頂点を偶数個持つ.

1.1 応用1: ランプパターン

n ×m のマス目にランプが並んでいる.各マスのランプは,その位置のボタンを押すと on-off が切り替わる.(図 1 参照) 初期配置はすべてのランプが off で,全部のランプを on にしたい.これができるマス目を反転可能 という.

図 1: ランプの on-off の例.(各回では×のマスのボタンを押しており,斜線のマスのランプが on になっている.)

これをグラフの問題へと変換する.すなわち,グラフ G の各頂点にランプがあり,一つの頂点 v のボタンを押すと,v とその近傍 N(v)にあるすべてのランプの on-offが切り替わる.グラフが反転可能とは,マス目の場合と同様の意味で使う.なお,次の性質が,グラフ G が反転可能であるための必要十分条件である.次を満たす頂点集合 S ⊆ V (G) が存在する.

|N(v) ∩ S| が

{奇数 v ∈ S のとき,

偶数 v ∈ S のとき.

定理 3 任意のグラフ G はある操作で反転可能である.

証明. |G| に関する帰納法.|G| = 1 ならば OK.(その頂点のボタンを押せば良い.)

よって,|G| ≥ 2 とする.

主張 3.1 任意の頂点 u に対し,「ある操作 Su で u 以外の頂点が反転し u は反転しない」としてよい.

1

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証明. 帰納法の仮定より,G− u はある操作 Su で全頂点が反転する.Su を G に行ったとき,もし u も反転するならば,操作 Su で G は反転可能となり証明が終了する.したがって,Su では u は反転しない,としてよい. □

主張 3.2 任意の頂点 u, v に対し (u = v)「ある操作 Su,v で u と v のみ反転する」としてよい.

証明. 主張 3.1 にある操作 Su と Sv を考える.操作 Su,v を,G で Su の後に Sv を行うもの,と定義すると,これで u と v のみ反転する. □

ここで,まず G の全頂点のボタンを一度ずつ押す.このとき,各頂点 v で v の次数が奇数,かつそのときに限り v のランプは off となる.ここで奇点定理より,

{v ∈ V (G) : dG(v) は奇数 }

は偶数個の頂点よりなるので,それを v1, v2, . . . , v2k と書くことができる.主張 3.2 より,操作 Sv1,v2 , Sv3,v4 , . . . , Sv2k−1,v2k を一度ずつ行うことで,全頂点が on となる. □

演習 1 3× 3 のタイルの場合に,全頂点の on-off を反転させよ.また,3× 4 ではどうか?

演習 2 初期配置が「1頂点のみが on で他はすべて off」のとき,すべての頂点を同時にon にはできない場合がある.そのような例を見つけよ.

1.2 応用2: 山登り

A,Bの二人が 1本道の山道の両端のそれぞれにおり,その標高はどちらも 0mとする.ここで,

A と B のいる地点の標高は常に等しい

という条件を満たしながら二人が移動する.(図 2 を参照.特に,2番目から 3番目において B は後戻りしていることに注意せよ.)

A B

A BA B

A B

図 2: A, B の移動の例.

定理 4 標高がマイナスの地点は存在しないとすると,A, B は出会うことができる.

2

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証明. 簡単のため,山道はすべて階段であり高さがそろっているとする.さらに,この階段を左から順に 0, 1, 2, . . . , ℓ と名前をつけておく.A が 0番目の段に,B が ℓ 番目の段にそれぞれいる場合がスタートである.ここで

S ={(i, j) : 0 ≤ i ≤ j ≤ ℓ, i番目の段と j番目の段は高さが等しい

}という集合 S を頂点集合とし,S の二つの元 (i, j) と (i′, j′) に対し,i′ = i ± 1 かつj′ = j± 1 であるときに辺で結んだグラフ G を考える.すなわち,S は A と B がいる可能性のある位置のペアの集合であり,A が i 番目の段に B が j番目の段にそれぞれいる場合に,一回の移動で A が i′ 番目の段に B が j′ 番目に移れるとき,(i, j) と (i′, j′) を辺で結んでいる.このとき,次の主張が成り立つ.(証明は演習問題とする.)

主張 4.1 (i) 初期配置 (0, ℓ) ∈ S の G での次数は 1 である.

(ii) (i, j) ∈ S − {(0, ℓ)} に対し,i = j ならば (i, j) の G での次数は偶数である.

したがって,主張 4.1 (i) より頂点 (0, ℓ) の次数は奇数であり,G において (0, ℓ) を含む連結成分 C に対し奇点定理を用いると,C に (0, ℓ) 以外の次数が奇数の頂点 (i, j) が存在することがわかる.主張 4.1 (ii) より i = j である.C は連結成分なので,頂点 (0, ℓ)

から 頂点 (i, i) への道が存在し,その順に状態を遷移させることで i 番目の段で A と B

が会うことができる. □

演習 3 主張 4.1 を示せ.

演習 4 定理 4 において “標高がマイナスの地点は存在しないとする” という条件を仮定しないと反例が存在するが,これを示せ.

1.3 応用3: 整数長の辺を持つ長方形への分割

次の定理を奇点定理を使って証明しよう.

定理 5 長方形 ABCD の内部を,小長方形へ分割する.(図 3 参照) このとき,すべての小長方形で縦か横の長さが整数ならば,もとの長方形 ABCD でも縦か横の長さが整数となる.

証明. 長方形の頂点 A, B, C, D を,A を原点に,B を x軸上に,D を y 軸上にそれぞれ配置する.このとき,次のグラフ G を考える.各小長方形の頂点と中心の集合を G

の頂点集合とし,次のように辺集合を定義する:各小長方形の頂点 (x, y) に対し,x または y が整数である,かつそのときに限り頂点 (x, y) とその小長方形の中心を辺で結ぶ.例えば,4頂点の座標が (1, 1/2), (

√2, 1/2), (

√2, 5/2) および (1, 5/2) の小長方形の場合を

図 4 に示す.以下,このグラフ G での次数を考えることで頂点 B の x 座標または頂点 D の y 座標

が整数であることを示せる. □

3

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D

A B

C

図 3: 長方形の小長方形への分割

(1, 1/2)

(1, 5/2)

(√2, 1/2)

(√2, 5/2)

図 4: 小長方形の例と G の辺

演習 5 各頂点の G での次数を考えることで,定理 5 の証明を完結せよ.

演習 6 定理 5 は 3次元以上に拡張できるか?

1.4 応用4: Hex というゲーム

次のルールのゲームを行う.外領域が四角形で内部が三角形に分割されている平面グラフ G を考える.また,外領

域の四角形の頂点を,時計回りの順で a, b, c, d とおく.二人のプレイヤー A と B が交互にマークされていない頂点を選び,A は赤を,B は青をそれぞれマークする.また,初期配置として,a, c は赤で b, d は青で,それぞれマークされているとする.このとき,A

は a と c を結ぶ赤い道を,B は b と d を結ぶ青い道を作れば勝ちとなる.また,どちらもそのような道を作れなかった場合は,引き分けとする.

a b

cd

図 5: Hex の進行例で,A が勝った局面.赤い頂点を四角で,青い頂点を三角で表している.

a b

cd

図 6: グラフ H の構成.A の頂点を四角で,B の頂点を三角で表している.何もない G の頂点は C である.

定理 6 このゲームにおいて,引き分けは起こらない.

証明. 引き分けが起こったと仮定する.すなわち,全ての頂点がマークされているが,赤い a, c-道も青い b, d-道もない,と仮定する.このとき,次のように頂点集合 A, B, C を

4

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定義する.

A = {x ∈ V (G) : x は a から赤い道で到達可能 },B = {x ∈ V (G) : x は b から青い道で到達可能 },C = V (G)− A− B.

定義より,a ∈ Aかつ b ∈ B であり,また,引き分けが起こったと仮定したので,c, d ∈ C

である.3頂点が A, B, C で異なる集合に属す三角形面を 3色三角形とよぶ.次の主張が証明の鍵である.

主張 6.1 G に 3色三角形が存在する.

主張 6.1 が正しいとして証明を完了させる.G の 3色三角形を xyz とおき,x ∈ A,

y ∈ B, z ∈ C とする.A, B の定義より,G は赤い a, x-道と青い b, y-道をそれぞれ持つ.しかし,z の色が赤の場合は a から x を経由し z に至る赤い道が,青の場合は b からy を経由し z に至る青い道が,それぞれ存在するが,いずれにせよこれは z ∈ C に矛盾する.したがって,主張 6.1 を示せばよい.そのために次のグラフ H を考える.

V (H) = {内部の三角形面 } ∪ {外領域 },E(H) = {uv : u と v は A と B を結ぶ辺で隣接する }.

各点の H での次数について,次の三つが直ちにわかる.

(i) 各三角形面の次数は 0, 1 または 2.

(ii) 特に,次数が 1 である必要十分条件はその面が 3色三角形であること,である.

(iii) 外領域の次数は 1.

ここで奇点定理と (iii) より,H に外領域以外の頂点で次数が奇数のものが存在する.(i)

と (ii) より,その三角形面が 3色三角形である. □

演習 7 6× 6-grid において,上のゲームを行うと面白くないことを説明せよ.

1.5 応用5: Sperner の補題

内部が三角形に分割されている三角形 ABC を次のルールで頂点を着色する.(図 7 参照.) このルールを満たす頂点の着色を三角形 ABC の Sperner 着色とよぶ.

• 頂点 A は色 1,頂点 B は色 2,頂点 C は色 3 で塗る.

• 線分 AB 上の頂点は色 1 または 2,線分 BC 上の頂点は色 2 または 3,線分 CA

上の頂点は色 3 または 1 で塗る.

• 内部の頂点は色 1, 2 または 3 で塗る.

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B C

A 1

2 332 2

112

13

図 7: Sperner の補題にある着色の例.斜線が 3色で着色された三角形である.

定理 7 (Sperner の補題) Sperner 着色された三角形 ABC において,頂点が 1, 2, 3 と3色で着色された三角形が存在する.(ただし,内部が空のもののみを三角形と呼ぶ.)

演習 8 定理 7 を,以下のグラフ H を用いることで定理 6 と同様の方法で示せ.

定理 8 (Brouwer の不動点定理) f を 2次元球面から自分自身への連続写像とすると,f は不動点を持つ.(すなわち,ある点 x で f(x) = x である.)

証明. 2次元球面ではなく T = 三角形 ABC 上の連続写像としてよい.任意の x ∈ T

で f(x) = x と仮定し矛盾を導く.T0, T1, . . . を内部が小三角形に分割された三角形の列で,その小三角形の面積の最大値

が 0 に収束するもの,とする.(例えば,図 8 のようなもの) ただし,T0 = T とする.各k ≥ 0 で Tk の頂点の着色を次のように定義する.(図 9 参照.)

T0 = T

A

B C

T1

A

B C

T2

A

B C

図 8: 小三角形の面積の最大値が 0 に収束する三角形 T0, T1, T2, . . . の例.

• 頂点 A は色 1,頂点 B は色 2,頂点 C は色 3 で塗る.

• 各頂点 x では,半直線 xf(x) と Tk が交わる点が,線分 AB 上の場合は色 3 で,線分 BC 上の場合は色 1 で,線分 CA 上の場合は色 2 でそれぞれ塗る.

• ただし,半直線 xf(x) と Tk が交わる点が A である場合は,色は 2 でも 3 でも良い.同様に,B または C で交わる場合は,それぞれ,色 1 か 3,色 1 か 2 で塗る.

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• 線分 AB または BC または CA 上の頂点 x で f(x) も同じ線分にある場合は,次のように塗る; X,Y ∈ {A,B,C} に対し,x が線分 XY 上の頂点で半直線 xf(x) が頂点 X 方向へ向かう場合は,x を Y の色で塗る.

これは Tk の Sperner着色となる.したがって,Spernerの補題より,Tk は頂点が 3色で着色された三角形を含む.この 3色で着色された三角形の頂点で色 iのもの (i ∈ {1, 2, 3})を vik とおく.

Tk

A

B C

x

f(x)

図 9: x とその像 f(x) の例.この場合,x には色 3 を与える.

T はコンパクトなので,点列(v1k)k≥1は収束する部分列を含む.その部分列を

(u1ℓ

)ℓ≥1

とし,u1ℓ → u (as ℓ → +∞) とおく.ここで T0, T1, . . . の小三角形の面積は 0 に収束する

ため,u1ℓ に対応する v2k, v

3k の頂点をそれぞれ u2

ℓ , u3ℓ とおくと,||u1

ℓu2ℓ ||, ||u1

ℓu3ℓ || → 0 (as

ℓ → +∞) である.したがって,

u2ℓ → u, u3

ℓ → u (as ℓ → +∞)

となる.各 ℓ ≥ 1に対し,Tℓ の着色において u1

ℓ の色は 1なので,色の塗り方より半直線 u1ℓf(u

1ℓ)

は線分 BC と交わる.さらに f は連続で u1ℓ → u (as ℓ → +∞) なので,半直線 uf(u) も

線分 BC と交わる.同様に,u2ℓ と u3

ℓ を考えることで,半直線 uf(u) は線分 CA,AB と交わることがわかり,矛盾する. □

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2 Ramsey 理論Kn で n 頂点の完全グラフを表す.K2 を単に辺,K3 を三角形ともよぶ.辺が着色されたグラフにおいて,ある部分グラフの辺の色がすべて同じとき,その部分

グラフを単色であるという.さらに辺の色が指定されているときは,赤い部分グラフ,青い部分グラフのように言う.2つのグラフ G と H に対し,G と H の (2色) Ramsey

数 r2(G,H) を次のように定義する.

r2(G,H) は以下の性質を満たす最小の正整数 N である:KN の辺をどのように赤・青の 2色で着色しても,赤い G か青い H が存在する.

2.1 完全グラフの Ramsey 数

Ramsey 数については,特に G が Kn,H が Km の場合が基本的であり,まずはこれを調べる.

定理 9 次の二つが成り立つ.(1) r2(K2, Km) = m. (2) r2(K3, K3) = 6.

証明. (1) 次の二つを示せばよい.それぞれは簡単である.

(a) (存在性) Km の辺をどのように赤・青の 2色で着色しても,赤い K2 か青い Km が存在する.(すべての辺が青ならば青い Km が,そうでなければ赤い K2 が存在する.)

(b) (最小性) Km−1 の辺の,赤・青の 2色でのある着色で,赤い K2 も青い Km も存在しない.(実際に,すべての辺を青で塗ればよい.)

(2) (存在性) K6 の辺の赤・青 2色での着色を考える.ある頂点 v に注目する.v の次数は 5 であるので v は (a) 3本以上の赤い辺に接続する,または,(b) 3本以上の青い辺に接続する.対称性より,(a) が起こると仮定して良い.A を赤い辺で v と隣接する頂点集合とおく.

• A 内に赤い辺がある ⇒ v とその赤い辺で赤い K3 となる.

• A 内に赤い辺がない ⇒ A の 3頂点が青い K3 となる.

いずれの場合でも赤い K3 か青い K3 が見つかった.

(最小性) K5 において,赤い K3 も青い K3 も存在しないような着色が存在する. □

(存在性)の別証明. K6 に K3 は全部で(63

)= 20 個存在する.ここで,

R: 赤い K3 の個数, B: 青い K3 の個数, M : 2色の K3 の個数

とおくと,R +B +M = 20 である.各 2色の K3 において,各面から 2色の頂点へ向かって → をおく.すなわち,

(→ の総数) = 2M

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である.一方で,各頂点 v で,v に接続する赤い辺の数を r(v), 青い辺の数を b(v) とそれぞれおくと,r(v) + b(v) = 5 であり,相加・相乗平均の関係より,

(v に向かう → の総数) = r(v) · b(v) ≤(r(v) + b(v)

2

)2

=25

4

である.ここで,左辺はその整数性から ≤ 6 であり,したがって,K6 の 6 頂点すべてを考えると,

(→ の総数) ≤ 36

である.以上より,M ≤ 18 であり,R +B ≥ 2 が得られる. □

演習 9 K7 の辺を 2色で着色すると,単色の K3 が少なくとも 4個存在することを示せ.

演習 ∗ N ≥ 7 に対し,KN の辺を 2色で着色したときに存在する単色の K3 個数の下界を求めよ.

定理 10 (Ramsey, 1930) 任意の n,m ≥ 2 で r2(Kn, Km) は存在する.特に,次が成立する.

r2(Kn, Km) ≤ r2(Kn−1, Km) + r2(Kn, Km−1).

証明. N = r2(Kn−1, Km)+ r2(Kn, Km−1) とおき,KN の辺を赤・青の 2色で着色する.頂点 v を一つ選び,

A = {u ∈ V (KN) : 辺 uv は赤で着色されている },B = {u ∈ V (KN) : 辺 uv は青で着色されている },

と定義する.|A|+ |B| = N − 1 より,(a) |A| ≥ r2(Kn−1, Km) か (b) |B| ≥ r2(Kn, Km−1)

の少なくともどちらか一方が成り立つ.(a)の場合は,r2(Kn−1, Km) の定義より,A 内に赤い Kn−1 か青い Km が存在する.前

者の場合は頂点 v と合わせて赤い Kn が得られ,また後者の場合はそのままで青い Km

が得られる.(b) の場合も同様にして,赤い Kn か青い Km が得られる. □

演習 10 (b) の場合を示し,証明を完結させよ.

定理 10 より,ただちに下の式が得られる.

r2(Kn, Km) ≤(m+ n− 2

m− 1

).

特に,r2(Km, Km) ≤ 22m−3 である.一方で,次に述べるような既存の下界は上界とは大きな差が存在する.実際に,Ramsey 数を決定することは非常に難しい問題であり,n,m

が小さい場合に関しても,r2(K4, K4) = 18 であるが 43 ≤ r2(K5, K5) ≤ 49 としか判明していない.定理 10 より,r2(K3, K4) ≤ 10 は得られるが,実際には r2(K3, K4) = 9 であることが

知られている.これを示すことも容易ではない.

演習 11 r2(K3, K4) ≤ 9 を示せ.

9

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定理 11 n, p, q ≥ 2 と m = p+ q − 1 に対し,以下が成り立つ.

r2(Kn, Km) ≥ r2(Kn, Kp) + r2(Kn, Kq)− 1.

証明. N1 = r2(Kn, Kp) − 1, N2 = r2(Kn, Kq) − 1 とおく.N = N1 + N2 としたとき,KN のある赤・青での着色で,赤い Kn も青い Km も存在しないものを見つければよい.定義より,赤い Kn も青い Kp も存在しない KN1 のある着色が存在し,また,赤い Kn

も青い Kq も存在しない KN2 のある着色が存在する.ここで,KN を N1 頂点と N2 頂点へと分け,それぞれに上の彩色を行うことにしよう.残る辺は KN1 と KN2 を結ぶ辺であるが,それらの辺に適切な色をぬり,所望の着色を得よ. □

演習 12 上の KN1 と KN2 を結ぶ辺に適当な着色をして証明を完成させよ.

演習 ∗ 上の方法で r2(K3, K4) ≥ 8 が示せる.このときの彩色の方法を具体的に示せ.

演習 13 r2(K3, K4) ≥ 9 を示せ.

定理 12 (Erdos, 1947) 任意の m ≥ 3 に対し,次が成り立つ.

r2(Km, Km) ≥ 2m/2.

証明. 定理 9 (2) より,r2(K3, K3) = 6 ≥ 2√2 = 23/2 である.したがって,m ≥ 4 と

してよい.N < 2m/2 とし,「KN の辺の赤・青の 2色でのある着色で,赤い Km も青い Km も存

在しない」ことを示す.N 頂点に順にラベル 1, 2, . . . , N を付け KN の辺の赤・青の 2色での着色全体の集合を GN とおく.|GN | = 2(

N2 ) である.

また,KN の N 頂点のうち,ある m 頂点を固定する.この m 頂点が赤い Km であるような着色は,2(

N2 )−(

m2 ) 通り存在する.したがって,KN の辺の赤・青の 2色での着色

で,赤い Km が存在するものの集合を GredN とおくと,Km の選び方が

(Nm

)通りで,その

Km が赤い塗り方は 2(N2 )−(

m2 ) 通りであるため,|Gred

N | ≤(Nm

)· 2(

N2 )−(

m2 ) である.ここで,(

Nm

)≤ Nm

2m−1 であること (演習 14) と N < 2m/2 という仮定,および m ≥ 4 より,

|GredN |

|GN |≤

(N

m

)· 2−(

m2 ) ≤ Nm

2m−12−(

m2 ) < 2

m2

2−(m2 )−m+1 = 2−

m2+1 ≤ 1

2

である.同様に,KN の辺の赤・青の 2色での着色で青い Km が存在するものの集合をGblueN とおくと,

|GblueN |

|GN |<

1

2

が成り立つ.以上より,GN −(GredN ∪ Gblue

N

)= ∅ が導かれ,すなわち,ある着色で赤い

Km も青い Km も存在しないことがわかり,証明が完了した. □

演習 14(Nm

)≤ Nm

2m−1 を示せ.

なお,定理 12 の証明は構成的ではなく,m を固定し N = 2m/2 − 1 としたとき,KN

の単色の Km が存在しない赤・青での着色を見つけるためには,すべての着色を一つずつ調べるしかない.

10

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2.2 一般のグラフ Ramsey 数

完全グラフ以外のグラフ G,H に対しての Ramsey 数についてもいくつかの結果が知られている.ここでは,基本的なものとして,道,木,閉路などについて述べる.ここで,Pm で m 頂点の (長さ m− 1 の) 道を表し,Cm で m 頂点の閉路を表す.

定理 13 (Parsons, 1973) n ≥ 2 に対し次が成り立つ.

r2(Kn, Pm) = (n− 1)(m− 1) + 1.

下界 (最小性) の証明. N = (n − 1)(m − 1) とし,KN の赤・青の 2色での着色で赤いKn も青い Pm も存在しないものを構成すればよい.KN の頂点を (m− 1) 頂点づつ,(n− 1) 個のブロックに分割する.ここで,各ブロッ

ク内の辺をすべて青く,また異なるブロックを結ぶ辺をすべて赤く塗る.このとき,青い辺でできるグラフの各連結成分は m− 1 頂点しか含まないため,青い Pm は存在しない.

 また,任意に n 頂点を選ぶと,ブロックは n − 1個しか存在しないため,n 頂点のうちの少なくとも 2頂点が同じブロックに属し,その 2頂点は青い辺で結ばれる.したがって,赤い Kn も存在しないことがわかる.

上界 (存在性) の証明には次の補題を使う.これは有限数学第1において現れているため,証明は省略する.

補題 14 最小次数が m− 1 以上の任意のグラフは頂点数 m の道を含む.

演習 ∗ 上の補題 14 を示せ.

上界 (存在性) の証明. n に関する帰納法で示す.N = (n− 1)(m− 1) + 1 とし,KN の辺の赤・青の 2色での着色を考え,赤い Kn か青い Pm が存在すること示す.n = 2 のときは自明に成り立つため,n ≥ 3 とする.

演習 15 n = 2 のとき,命題が成り立つことを説明せよ.

ケース 1:ある頂点 x で,x は少なくとも (n−2)(m−1)+1 本の赤い辺に接続している.このとき,xと赤い辺で隣接している頂点の集合を Aとおくと,|A| ≥ (n−2)(m−1)+1

であるため,帰納法の仮定より,A 内に (a) 赤い Kn−1 か (b) 青い Pm が存在する.(a)

の場合はその Kn−1 に x を加えることで,KN に赤い Kn が見つかる.(b) の場合は直ちに青い Pm が存在することがわかる.

ケース 2: 任意の頂点 x で,x は高々 (n− 2)(m− 1) 本の赤い辺に接続している.このとき,次の “青い”グラフ H を考える.

V (H) = V (KN)

E(H) = {uv : uv は青で着色されている }.

ケース 2 の仮定より,δ(H) ≥ N − 1− (n− 2)(m− 1) = m− 1 である.ここで,補題 14

より,H は Pm を含むことがわかる.これが KN の青い Pm である. □

実際は,補題 14 の代わりに下の補題を使うことで,もう少し強い定理 16 が示せる.

11

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補題 15 任意の m 頂点の木と任意のグラフ H において,δ(H) ≥ m − 1 ならば,H はT と同型な木を部分グラフとして含む.

定理 16 (Chvatal, 1977) T を m 頂点の木とする.このとき,n ≥ 2 に対し次が成り立つ.

r2(Kn, T ) = (n− 1)(m− 1) + 1.

演習 ∗ 補題 15 を m に関する帰納法で示せ.

演習 16 Cm を m 頂点の閉路とする.このとき,m ≥ 4 に対し,次の補題 17を用いて,以下を示せ.

r2(K3, Cm) = 2m− 1.

補題 17 n ≥ 3 で n 頂点のグラフ H において,δ(H) > n/2 ならば,任意の 3 ≤ k ≤ n

に対し,H は長さ k の閉路を含む.

2.3 多色 Ramsey 数

k ≥ 2 と n1, . . . , nk ≥ 2 に対し,rk(Kn1 , . . . , Knk) を次をみたす最小の正整数 N と

して定義する.KN の辺を色 1, 2, . . . , k で着色すると,色 i の Kniが存在する.特に

rk(K3, . . . , K3) を簡単のため rk(3) と書くことにする.

定理 18 任意の k ≥ 2 に対し,rk(3) は存在する.

証明. k = 2 において,r2(3) = r2(K3, K3) = 6 より,rk(3) を k に対して帰納的に上界を求めればよい.ここでは

rk(3) ≤ r2(K3, Km)

を示す.ただし,m = rk−1(3) である. N = r2(K3, Km) とおく.KN の辺を色 1, . . . , k のk 色で着色し,単色の K3 が存在することを示す.ここで,

色A = 色 1,

色B = 色 2, . . . , k,

と定義し,KN の辺が色A,Bの 2色で着色されていると考える.このとき,N = r2(K3, Km)

であることから,KN は (a) 色 A の K3 か (b) 色 B の Km を含む.(a) の場合は色 1 のK3 が存在する.また,(b) の場合,その Km の辺は色 2, . . . , k の k − 1 色で着色されていることと m = rk−1(3) から,帰納法の仮定より,Km 内に単色の K3 が存在し,やはり証明が完了する. □

演習 17 k ≥ 4 で偶数のとき,rk(3) ≤ r2(Km, Km) を示せ.ただし,m = rk/2(3) である.

演習 18 r3(K3, K3, K3) ≤ 17 を示せ.

12

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2.4 多色 Ramsey 数の応用: Schur の定理

{1, 2, . . . , 13} を以下のように 3つの集合に分割する.

A1 = {1, 4, 10, 13}, A2 = {2, 3, 11, 12}, A3 = {5, 6, 7, 8, 9}.

このとき,任意の i (1 ≤ i ≤ 3) と任意の x, y ∈ Ai で,x+ y ∈ Ai である.(x = y の場合も含む.すなわち,x ∈ Ai ならば 2x ∈ Ai である.) しかしながら,この性質は十分に大きな整数を用意すると成り立たないことがわかる.これを述べた次の定理が Schur によって示されている.

定理 19 (Schur, 1916) 任意の k ≥ 1 に対し,ある N が存在して,{1, 2, . . . , N} の任意の k個の集合への分割 A1, . . . , Ak に対し,ある i (1 ≤ i ≤ k) とある x, y ∈ Ai で,x+ y ∈ Ai となる.(ただし x = y でも可.)

証明. N = rk(3) = rk(K3, K3, . . . , K3) とおく.定理 18 より,そのような N は存在する.{1, 2, . . . , N} の k個の集合への分割 A1, . . . , Ak を考え,ある i (1 ≤ i ≤ k) とあるx, y ∈ Ai で x+ y ∈ Ai を示せばよい.V (KN) = {1, 2, . . . , N}であるN 頂点の完全グラフKN において,各辺 ijを |i−j| ∈ Aℓ

となる色 ℓ で着色する.これは,KN の辺の k 色での着色なので,N = rk(3) より,単色の K3 が存在する.その色を i (1 ≤ i ≤ k) とおく.すなわち,ある a, b, c ∈ V (KN) で辺 ab, bc, ac の色はすべて i である.対称性より a < b < c としてよく,このとき辺の着色の定義から b− a, c− b, c− a ∈ Ai である.したがって,x = b− a かつ y = c− b とすると,x, y ∈ Ai で x+ y = c− a ∈ Ai が成り立つ. □

演習 ∗ 定理 19 において,k = 2 のとき N = 5 で良いことを示せ.また N = 4 では不可であることも示せ.

演習 ∗ 「任意の正整数 k と任意のグラフ G に対し,rk(G,G, . . . , G) が存在する」という定理を使い,以下を示せ.任意の k ≥ 1 に対し,ある N が存在して,{1, 2, . . . , N} の任意の k個の集合への分割

A1, . . . , Ak に対し,ある i (1 ≤ i ≤ k) とある x, y, z ∈ Ai で,x+ y + z ∈ Ai である.

定理 20 (Schur, 1916) 任意の k ≥ 1 に対し,ある N が存在して,任意の p ≥ N である素数 p に対し,ある正整数 x, y, z が存在して,以下が成り立つ.

xk + yk ≡ zk (mod p).

証明. k ≥ 1 に対し,定理 19 の N を選ぶ.任意の p ≥ N である素数 p に対し,所望の x, y, z が存在することを示せばよい.ここで,Z∗

p を Zp − {0} 上に演算として積を考えた群とすると,これは p が素数であるとき巡回群となることが知られている.したがって,Z∗

p には生成元が存在し,それを g とおく.すなわち,任意の x ∈ Z∗p に対し,ある正

の整数 r が存在して x ≡ gr (mod p) と書ける.さらに,0 ≤ i ≤ k − 1 である i に対し,

Ai := {x ∈ Z∗p : x ≡ gr (mod p) かつ,ある j に対し r = kj + i}

と定義すると,A0, . . . , Ak−1 は {1, 2, . . . , p− 1} の分割となる.

13

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ここで N, p の選び方より,ある i (0 ≤ i ≤ k− 1) とある x′, y′, z′ ∈ Ai で,x′ + y′ = z′

である.さらに x′, y′, z′ ∈ Ai であることから,ある j1, j2, j3 が存在して,

x′ ≡ gkj1+i, y′ ≡ gkj2+i, z′ ≡ gkj3+i (mod p)

となる.したがって,x′ + y′ = z′ であることから,

gkj1+i + gkj2+i ≡ gkj3+i (mod p),

すなわち,gi ·

(gkj1 + gkj2 − gkj3

)≡ 0 (mod p)

である.ここで,p が素数であり,gi ≡ 0 (mod p) なので

gkj1 + gkj2 ≡ gkj3 (mod p),

であり,x = gj1 , y = gj2 , z = gj3 とおくことで所望の x, y, z が見つかった. □

2.5 Ramsey ゲーム

完全グラフ KN において,二人のプレイヤー A と B が交互にマークされていない辺を選び,A は赤を,B は青をそれぞれマークする.A は赤い Km を,B は青い Km を,それぞれ作れば勝ちとなる.なお,先手は A である.また,どちらもそのような Km が作れなかった場合は引き分けとする.このゲームを Km-Ramsey ゲームとよぶ.

定理 21 任意の m に対し,ある N が存在し,KN 上の Km-Ramsey ゲームは A が必勝である.

証明. N = r2(Km, Km)とすれば引き分けはない.Aが負けないことは次の演習で示す.□

演習 ∗ (i) m = 3, N = 5 のとき,A が必ず勝てることを示せ.

(ii) m = 3, N = 4 のときはどうか?

(iii) Aに負けはないことを示せ.すなわち,最善を尽くすと Aが勝つか引き分けである.

(iv) mに対し,Bが引き分けにすることができる,なるべく大きな N を見つけよ.(N =

2m− 4 のときで可能.)

定理 22 (Erdos & Selfridge, 1973) 任意の m と任意の N で,ℓ =(m2

)− 1 である ℓ

で 2ℓ >(Nm

)ならば KN 上の Km-Ramsey ゲームは B が引き分けにできる.

上の m,N に関する条件は,下のように書き直せる.

m ≥(1 + o(1)

)2 logNlog 2

14

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3 ハミルトン閉路与えられたグラフに対し,辺を順にたどり,すべての頂点をちょうど一度ずつ通り元の

頂点に戻る経路をそのグラフのハミルトン閉路,また,元の頂点に戻らなくともよいものをハミルトン道とそれぞれ呼ぶ.

3.1 1-タフとハミルトン閉路

ナイトはチェスの駒の一種であり,図 10 のように 1× 2 の長方形の対角線上に位置するマスに移動できる.「あるマスにいるナイトが,すべてのマスをちょうど一度ずつ通り始めのマスに戻る」ような経路をナイトツアーと呼ぶ.また,ナイトツアーにおいて,「始めのマスに戻らなくともよい」ことにしたものを開ナイトツアーと呼ぶ1.8× 8 の (通常の) チェス盤や 5× 6 のチェス盤にはナイトツアーが存在するが,ここで考えたい問題は存在しない場合の “理由”である.

図 10: ナイトの動き方. 図 11: 5× 5 のチェス盤.

命題 23 (1) 5× 5 のチェス盤 (図 11) にはナイトツアーが存在しない.

(2) 4× 4 のチェス盤にもナイトツアーが存在しない.

(1) の解答例:次の事実から説明できる.

「ナイトは白マスと黒マスを交互に移動する」

5× 5 のチェス盤には,白マスが 12マス,黒マスが 13マス存在する (またはその逆となる) ため,すべての頂点をめぐり出発点に戻ることは不可能である. □

4

3

2

1

a b c d

1

2

図 12: マス b2 と c3.

4

3

2

1

a b c d

3

2

4

1 5

5

5

5

図 13: マス b2, c2, b3, c3.

(2) の解答例:図 12 にある ⃝ の 2マス b2 と c3 に注目する2.ナイトが 1 a4 にいる場合は ⃝ のどちらかを経由しない限り他のマスへは移動できない.これは 2 d1 でも同

1これに対し,始めのマスに戻るものを閉ナイトツアーと呼ぶこともある.2チェスの表記に従い,チェス盤の行を数字で,列をアルファベットで記し,その組合せで各マスを表す.

15

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様である.すなわち⃝ の 2マス以外は, 1 a4 のマス, 2 d1 のマス,および 3 その他のマス,と三つのグループへと分割され,一つのグループから他のグループへの移動には⃝ のどちらかのマスを必ず使う.しかしながら ⃝ は 2マスしか存在しないため,三つのグループをすべて巡り始めのマスに戻ることは不可能である. □

問題 23 (2) の解答例 (その 2):図 13 にある ⃝ の 4マス b2, c2, b3, c3 に注目する.先の解答例と同様に,a1, d1, a4, d4 の各マスにいるナイトは,⃝ のいずれかのマスを経由しない限り他のマスへは移動できない.加えて, 5 の 4マス b1, d2, a3, c4 のいずれかにいるナイトは,この 4マス内は ⃝ のマスを使わずに移動可能だが,それ以外のマスへの移動は⃝ のマスを経由する必要がある.これは図 13 の記号のない 4マス c1, a2, d3,

b4 についても同様である.結局,⃝ の 4マスに対して,それ以外のマスは,a1, d1, a4, d4 の各グループ,および

b1, d2, a3, c4 のグループ,c1, a2, d3, b4 のグループ,と六つのグループへと分けられ,どのグループも他のグループへ移動するためには⃝ のいずれかを経由する必要がある.したがって,どのグループから始めても ⃝ の 4マスだけでは 6グループすべてにはたどり着けず,(閉)ナイトツアーどころか開ナイトツアーさえ存在しない. □

a1

c2

c3

b2d3 c4

d2b3c1

a2

b4a4 d1

d4b1

a3

4

3

2

1

a b c d

図 14: (4× 4)-ナイトグラフ.

図 15: 1-タフだが,ハミルトン閉路をもたないグラフ

このナイトツアーは,次のグラフにおけるハミルトン閉路とみなすことができる:チェス盤の各マス目を頂点とし,“ナイトが一手で移動できる”関係にある頂点対を辺で結んだグラフ.これをナイトグラフと呼ぶ.図 14 に 4× 4 のナイトグラフを示す.上の解答例より,下の定義と命題 24 が示唆される.任意の頂点部分集合 S に対し,G から S の頂点を取り除いてできるグラフ G− S が

ω(G− S) ≤ |S|

を満たす.同様に任意の頂点部分集合 S で ω(G− S) ≤ |S|+ 1 が成り立つようなグラフG を弱 1-タフであるという.

命題 24 ハミルトン閉路をもつグラフは 1-タフである.また,ハミルトン道をもつグラフは弱 1-タフである.

証明. 対偶,すなわち,「グラフ G のある頂点部分集合 S で ω(G− S) > |S| が成り立つならば,G はハミルトン閉路をもたない」を示せばよい.そのような頂点部分集合 S が存在したと仮定する.このとき,G− S の一つの連結成

分の頂点を始点とする道を考えると,この道が G− S の他の連結成分へたどり着くためには S の頂点を通る必要がある.したがって,ω(G− S) 個の連結成分をすべて回って始

16

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点を含む連結成分に戻るためには同じ数の S の頂点が必要となるが,ω(G− S) > |S| であるため,これは不可能である.これより,G はハミルトン閉路をもたないことが示された. □

なお,命題 24 の逆は一般には成り立たない.例えば,図 15 のグラフは,1-タフだがハミルトン閉路を持たない.

演習 19 命題 24 のハミルトン道の場合に対し,逆が成り立たないことを示せ.すなわち,弱 1-タフだがハミルトン道を持たないグラフを与えよ.

チェス盤のナイトツアーについては,現在では以下の定理が知られている.

定理 25 (Schwenk) m ≤ n としたとき,m × n のチェス盤にナイトツアーが存在するための必要十分条件は,次のいずれもが成り立たないことである.

(I) m と n がともに奇数である.

(II) m = 1, 2 または 4 である.

(III) m = 3 であり,かつ n = 4, 6 または 8 である.

演習 ∗ この定理 25 の十分性を示せ.

この定理 25 の必要性を考えよう.(III) の m = 3 かつ n = 8 の場合は,そのナイトグラフが 1-タフであるにもかかわらずナイトツアーが存在しない.しかしながら,その他の場合はすべて,対応するナイトグラフが 1-タフではないことで示すことができる.問題 23 (1) と同様にして (I) の場合が示せ,(II) の m = 4 かつ n = 4 の場合が問題 23 (2)

に相当する.(II) の m = 1, 2 の場合は簡単なので,それ以外の場合を演習とする.

演習 20 (3 × 4)-ナイトグラフ,(3 × 6)-ナイトグラフ,および,任意の n ≥ 5 に対する(4× n)-ナイトグラフのそれぞれが 1-タフではないことを示せ.

演習 21 (3× 8)-ナイトグラフが 1-タフであることを示せ.

演習 ∗ この定理 25 の開ナイトツアー版を考えよ.

3.2 3-正則グラフのハミルトン閉路の数

与えられたグラフに対し,

定理 26 (Smith, 1946−) G を 3-正則グラフとし,e を G の辺とする.このとき,e を通る G のハミルトン閉路の数は偶数である.

17

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e e e

図 16: 3-正則グラフの例 (左図).辺 eを通るハミルトン閉路はちょうど 2個である (右図).

証明. Thomassen による証明を紹介する.e を通るハミルトン閉路が存在しない場合,数は 0 で OK.したがって,e を通るハミルトン閉路が存在する,としてよい.e = xy とし G′ = G− y とおく.次のグラフ H を考える.

V (H) = {P : P は x を端点とする G′ のハミルトン道 },

であり,P と P ′ は P = v1, v2, . . . , vn−1 に対し (ただし v1 = x),ある k (1 ≤ k ≤ n− 3)

で,vk ∈ N(vn−1) かつ

P ′ = v1, v2, . . . , vk, vn−1, vn−2, . . . , vk+1

と書けるとき,かつそのときに限り H で隣接する.(図 17 参照)

v1 vk vk+1 vn−2 vn−1

P

v1 vk vk+1 vn−2 vn−1

P ′

図 17: H において隣接する G のハミルトン道 P と P ′.

主張 26.1 P = v1, . . . , vn−1 に対し,以下が成り立つ.

dH(P ) =

{2 vn−1 ∈ NG(y) のとき,

1 vn−1 ∈ NG(y) のとき.

証明. まず vn−1 ∈ NG(y) のとき, G は 3-正則なので vn−1 は vn−2 以外に 2頂点の近傍を持つ.それぞれの近傍が H で P に隣接するハミルトン道を作るので,dH(P ) = 2 である.vn−1 ∈ NG(y) のときも同様である. □

ここで,P = v1, . . . , vn−1 に対し,vn−1 ∈ NG(y) であるとき,v1, . . . , vn−1, y, x が G のハミルトン閉路であり,辺 e を通る.また,逆に,G において e を通るハミルトン閉路は y を取り除くことで,ある頂点 vn−1 ∈ NG(y) に対し x と vn−1 を端点とする G′ のハミルトン道を誘導する.したがって,主張 26.1 より,H で次数が 1 の頂点が G で e を通るハミルトン閉路に対応する.そして奇点定理より,H で次数が奇数の頂点は偶数個であるため,定理 26 が成り立つ. □

演習 ∗ G がオイラーグラフで x を G の頂点とする.このとき,「x を端点とするハミルトン道の数」は偶数であることを示せ.

演習 ∗ G が 3-正則グラフでハミルトン閉路を持つとき,G は少なくとも 3 つのハミルトン閉路を持つことを示せ.

18

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4 平面グラフの問題定理 27 (オイラーの公式, 1750?) 平面上の任意の連結なグラフ G において,次が成り立つ.ただし,F (G) で G の面の集合を表す.

|V (G)| − |E(G)|+ |F (G)| = 2.

4.1 放電法

放電法は,平面グラフ等が良い性質を持つことを示す際に用いられる重要な手法である.ここではその一例として,オイラーの公式を放電法で証明する.

証明. これは Thurston による証明である.平面グラフ G に対し,各辺が直線で描かれており x軸に平行ではないとしてよい.(x軸に平行な辺があれば,少し回転させればよい.) まず,各頂点に +1 を,各辺に −1 をそれぞれ与える.ここでは,それぞれの値を電荷とよぶ.このとき,次が成り立っている.

(電荷の合計) = |V (G)| − |E(G)|.

各頂点,および各辺に対し,その電荷をすぐ右にある面へと渡す.(放電する という操作である.) ここで,x 軸に平行な辺が存在しないことから,“すぐ右” は well-defined である.このとき,各面 f の放電後の電荷の総量を考える.f が外領域ではないときは,f

は “左側”に並ぶ辺と頂点から電荷を受け取るが,そのような辺と頂点は上から順に “辺,頂点,辺,頂点,· · · ,辺” と現れている.(f が 凸でないときは少し注意が必要だが,やはりこれが成り立つ.) したがって,f が受け取る電荷の合計は −1 である.また,f が外領域であるときは,f へ電荷を渡す頂点・辺が f の “左側”に “頂点,辺,頂点,· · · ,頂点” と現れており,合計で +1 の電荷を受け取る.したがって,

(電荷の合計) = −(|F (G)| − 1

)+ 1 = −|F (G)|+ 2

である.したがって,電荷の合計が放電の前後で変化しないことから,オイラーの公式が証明できた. □

+1

+1+1

+1

+1

+1

−1

−1

−1

−1−1

−1

−1

−1

図 18: 定理 27 (オイラーの公式) の放電法による証明.

命題 28 G を平面の三角形分割 (外領域も三角形) とし,G の頂点数を n とする.このとき G の面の数は 2n− 4 である.

19

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演習 22 命題 28 を放電法で示せ.ヒント:各頂点に初期電荷として +2 を与え,電荷の移動のルールを考えよ.

グラフの各頂点 v に対し,v に接続する辺の本数をその頂点の次数といい dG(v) と書き,また,各面 f に対し,f の境界の辺の本数をその面の次数といい dG(f) と書く (この二つの次数はある種の双対の関係にある.)

握手補題より, ∑v∈V (G)

dG(v) = 2|E(G)|

が成り立ち,またその証明と同様に,各辺がちょうど二つの面の境界に属すことより,∑f∈F (G)

dG(f) = 2|E(G)|

が成り立つ.したがって,∑v∈V (G)

(dG(v)− 6

)+

∑f∈F (G)

(2dG(f)− 6

)= −12 (1)

が成り立つ.

演習 23 等式 (1) をオイラーの公式を使って示せ.

ここで,どのようなグラフ G でも 2角形はありえないので,全ての面 f で dG(f) ≥ 3

が成り立つ.したがって 2dG(f)− 6 ≥ 0 と等式 (1) より,∑v∈V (G)

(dG(v)− 6

)≤ −12

であり,この左辺が 0 未満のため,ある頂点 v で dG(v) − 6 < 0 である.すなわち,次の補題が証明できた.

補題 29 任意の平面グラフには次数が 5 以下の頂点が存在する.

この補題から次の彩色の結果が得られる.

定理 30 任意の平面グラフは 6 色以下で彩色できる.

等式 (1) からの帰結である補題 29 を用いることで,平面グラフの 6色以下での彩色が簡単な帰納法で得られた.現在では「4色以下での彩色が可能である」という命題 (4色定理) が示されているが,その証明にも上のアイデアが登場する.等式 (1) を使うもう少し複雑な例として,次の定理を示す.次の命題は 4色定理の証明のために考えられたものである.

定理 31 G を平面の三角形分割とする.G の最小次数が 5 ならば,G にはある辺 xy で「x の次数が 5 で y の次数が 6 以下である」ものが存在する.

20

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証明. そのような辺が存在しないと仮定し,矛盾を導く.まず,各頂点 v と各面 f に次のような (初期)電荷 ch(v) と ch(f) を与える.

ch(v) = dG(v)− 6,

ch(f) = 2dG(f)− 6 = 0.

これに対し,等式 (1) より次が成り立つ.∑v∈V (G)

ch(x) = −12.

ここで,次数が  7 以上の各頂点 v は,近傍にある次数 5 の頂点に 1/5 づつ電荷を渡し,放電後の各頂点 v の電荷の値を ch∗(v) と表す.ここで各頂点 v に注目する.G の最小次数は 5 と仮定したため,ch(v) ≥ −1 である.v の次数が 5 の場合,定理の仮定より v の近傍の頂点はすべて次数が 7 以上である

ため,

ch∗(v) ≥(dG(v)− 6

)+

1

5· 5 = 0

である.vの次数が 5の場合は電荷を渡すことがないため,ch∗(v) ≥ ch(v) = dG(v)−6 = 0

である.v の次数が 7 以上であると仮定する.このとき,G は三角形分割であるため,v

の近傍に次数 5 の頂点は高々⌊dG(v)

2

⌋個しか存在しない.(そうでないならば,v の近傍

に次数 5 の頂点が連続して現れ,それが所望の辺となる.) したがって,

ch∗(v) ≥(dG(v)− 6

)− 1

5·⌊dG(v)

2

⌋≥ 9

10dG(v)− 6 ≥ 0

である.いずれの場合でも ch∗(v) ≥ 0 となり,∑

v∈V (G) ch(x) = −12 に矛盾している.□

定理 32 次の条件 (∗) を満たす平面グラフは 3 色以下で彩色できる.(∗) 長さが 4 以上 11 以下の閉路が存在しない.

定理 32 は,次の補題 33 を補題 29 の代わりに用いることで,定理 30 と同様の方法で証明できる.したがって補題 33 を示せば十分である.

補題 33 条件 (∗) を満たす平面グラフには次数が 2 以下の頂点が存在する.

証明. 条件 (∗) を満たすある平面グラフ G において「全ての頂点で次数が 3以上である」と仮定し,矛盾を導く.定理 31 の証明と同様に,

ch(v) = dG(v)− 6,

ch(f) = 2dG(f)− 6,

とおく.

21

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ここで,三角形以外の各面 f は図 19 のように接続する各頂点に 3/2 ずつ電荷を渡し,放電後の,各頂点または面 x の電荷の値を ch∗(x) と表す.この電荷の受け渡しではその総量は変化しないため,上の式より,∑

x∈V (G)∪F (G)

ch∗(x) =∑

x∈V (G)∪F (G)

ch(x) = −12 (2)

が得られる.

f

図 19: 電荷の受け渡し.(矢印に沿って 3/2 ずつ渡す)

演習 24 各頂点 v および各面 f で放電後の電荷 ch∗ が 0 以上であることを示せ.

以上より,任意の頂点または面 x において ch∗(x) ≥ 0 となる.したがって,∑x∈V (G)∪F (G)

ch∗(x) ≥ 0

が成り立ちますが,これは等式 (2) に矛盾し,補題 33 の証明が完了した. □

なお,定理 32 の条件 (∗) は最善ではなく,「長さが 4 以上 7 以下の閉路が存在しない」としても正しいことが示されている.一方で,「条件 (∗) の “11 以下” を “5 以下” にしても正しい」という命題は Steinberg 予想として知られていたが,つい最近,反例が見つかった.したがって,残る問題は「長さが 4 以上 6 以下の閉路が存在しない」場合のみである.

4.2 四色定理と同値な命題

定理 34 (四色定理) 任意の平面グラフは 4-彩色可能である.

有名な四色定理であるが,本項ではこれと同値な二つの命題を紹介する.なお,各面がすべて三角形 (外領域も含む) の平面グラフを平面の三角形分割という.平面グラフの頂点の彩色においては,四角形以上の面があれば対角線を加えても難しさは変わらないため,三角形分割にのみを考えればよい.したがって,次の (I) は四色定理と同値である.また,それぞれの彩色は図 20 を参照せよ.

定理 35 平面の任意の三角形分割 G に対し,次の三つは同値である.

(I) G は 4-彩色可能である.

22

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(II) G の辺を「どの三角形にも 3色すべてが現れている」ように 3色で塗り分けることができる.(Grunbaum 彩色)

(III) G の各面に +1 または −1 を割り当てて「どの頂点においても接続する面の値での合計値が mod 3 で 0 である」とできる.(Heawood 彩色)

1

2 3

1

4

1 2

3

1

3

32

1 2−1

−1 −1

+1 +1

+1

図 20: 4-彩色,Grunbaum 彩色,Heawood 彩色の例.

(I) ⇒ (II) の証明. G が 4-彩色 c を持つとし,色を Z2 ×Z2 で表す.すなわち,4色を (0, 0), (0, 1), (1, 0), (1, 1) とする.このとき,各辺 e = xy に対し,辺 e を c(x) + c(y)

で彩色する.ただし,上の + は Z2 ×Z2 上での和を取っている.G の各面は三角形であり,その 3頂点を x, y, z とおくと,その面の 3 辺はそれぞれ

c(x) + c(y), c(y) + c(z), c(x) + c(z)

で彩色されている.ここで,c が G の頂点の彩色であることから c(x) = c(y) であり,したがって c(x) + c(y) = (0, 0) と c(x) + c(z) = c(y) + c(z) が成り立つ.同様にして,上の彩色において (0, 0) は現れず,またすべてが異なる値である.よって,これが G のGrunbaum 彩色である. □

演習 25 図 21 の平面の三角形分割 G において,(1) 4-彩色を見つけよ.(2) 定理 35 (I)

⇒ (II) の証明にならい,その 4-彩色から得られる Grunbaum 彩色を見つけよ.(3) さらに定理 35 (II) ⇒ (III) の証明にならい,その Grunbaum 彩色から得られる Heawood 彩色を見つけよ.

(II) ⇒ (III) の証明. G の Grunbaum 彩色を f とおく.ただし,f の 3色は 0, 1, 2

とする.このとき,G の各面 T に対し,辺の色 0, 1, 2 は順に時計回り,または反時計回りに現れている.写像 φ : F (G) → {+1,−1} を,各面 T が前者のときには +1 を,後者のときには −1 をそれぞれ割り当てるものとする.ただし,外領域の三角形では +1 と−1 を逆にする.これが Heawood 彩色となることを示す.頂点 v において,v に接続する辺を時計回りに e1, e2, . . . ek とおき,辺 ei と ei+1 に挟

まれた面を Ti とおく.(ただし,ek+1 = e1 である.) ここで,φ の定義より,

f(ei+1) ≡ f(ei)− φ(Ti) (mod 3)

23

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図 21:

++

++

+−

−−

図 22:

が成り立つ.したがって,帰納的に考えて,

f(ek+1) ≡ f(ek)− φ(Tk) ≡ · · · ≡ f(e1)−k∑

i=1

φ(Ti) (mod 3)

が得られるが f(ek+1) = f(e1) であるため,所望の式が成り立つ. □

(II) ⇒ (I) の証明. G の Grunbaum 彩色を f とおく.ただし,f の 3 色は Z2 × Z2

の元のうちの (0, 1), (1, 0), (1, 1) とする.次の主張が重要なアイデアである.(この主張の証明は以下で演習とする.)

主張 35.1 G の任意の閉路 C に対し,次が成り立つ.∑e∈E(C)

f(e) = (0, 0).

Gの頂点彩色 cを次のように構成する.Gの頂点を一つ選び,その頂点 v0 の色を (0, 0)

とする.v0 からはじめ,「まだ彩色されていないが彩色されている頂点と隣接する頂点」を順に (I) ⇒ (II) の証明の逆操作で彩色していく.すなわち,頂点 v が未彩色であるが,彩色済みの頂点 u と隣接しているときは,

c(v) = c(u) + f(uv)

と定義する.(図 23 を参照.) ただし,ここでも + は Z2 × Z2 上での和を意味する.この彩色 f は Z2 × Z2 を像として持つため,4 色しか使わない.そこで,c が実際に

「隣接する 2頂点は異なる色である」こと,すなわち,任意の辺 xy に対し c(x) = c(y) を示す.ある辺 xy で c(x) = c(y) と仮定する.c の定義より,ある頂点列 x0, x1, . . . , xp (ただし

x0 = v0 かつ xp = x) によって x まで順に頂点が彩色されている.すなわち,頂点 xi+1

の彩色に頂点 xi の彩色 c(xi) が用いられており,c(xi+1) = c(xi) + f(xixi+1) が任意のi = 0, 1, . . . , p− 1 で成り立っている.特に,任意の i で,

c(x) = c(xi) +

p−1∑j=i

f(xjxj+1) (3)

24

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v0 (1, 0)

(0, 1) (1, 1)

(1, 1)

(1, 0) (1, 0)

(0, 1)

(0, 0) (1, 0)

(0, 1)

(1, 1)(1, 1)

図 23: Grunbaum 彩色から 4-彩色へ.(→が 頂点の彩色の順を,□内が彩色 c を表す.)

である.同様に,頂点 yの彩色のために,頂点列 y0, y1, . . . , yq (ただし y0 = v0 かつ yq = y)

が用いられたとすると,

c(y) = c(yi) +

q−1∑j=i

f(yjyj+1) (4)

が任意の i で成り立つ.ここで,xs = ys となる s ≥ 0 を最大に取る.x0 = y0 = v0 であるため,そのような s は存在する.ここで,上の式 (3) と (4) より,

c(xs) +

p−1∑j=s

f(xjxj+1) = c(x) = c(y) = c(ys) +

q−1∑j=s

f(yjyj+1)

すなわち,p−1∑j=s

f(xjxj+1) +

q−1∑j=s

f(yjyj+1) = (0, 0)

が成り立つ.(xs = ys であることと−f(yjyj+1) = f(yjyj+1) であることに注意せよ.) 一方で,閉路

C = xs, xs+1, . . . , xp, yq, yq−1, . . . , ys+1, ys

を考えると,主張 35.1 より,∑

e∈E(C) f(e) = (0, 0) である.しかし,

(0, 0) =∑

e∈E(C)

f(e) =

p−1∑j=s

f(xjxj+1) +

q−1∑j=s

f(yjyj+1) + f(xy)

であるため,これらより f(xy) = (0, 0) となり矛盾が得られる.以上より,c が G の頂点の 4-彩色であるが示せた. □

演習 26 主張 35.1を,C の内部にある三角形面の集合を F (int(C))とおき,∑

T∈F (int(C))

∑e∈E(T )

f(e)

を 2通りに評価することで示せ.

25

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(III) ⇒ (II) の証明. Heawood 彩色 φ が与えられているとする.G の一つの辺 e を選び,e の色 f(e) は 0 とする.このとき,辺 e からはじめ,φ(T ) = +1 の面 T に接続する辺の色は 0, 1, 2 が時計回りに,そうでない面では反時計回りに,それぞれ現れるように順に辺の色を定める.これにより構成される辺の着色が Grunbaum 彩色となることは (II) ⇒ (I) と同様の手法で示せるが,煩雑になるので省略する. □

演習 ∗ (III) ⇒ (II) の証明をきちんと述べよ.

演習 27 図 22 の平面の三角形分割 G の Heawood 彩色において,(1) 定理 35 (III) ⇒(II) の証明にならい,その Heawood 彩色から得られる Grunbaum 彩色を見つけよ.(2)

さらに定理 35 (II) ⇒ (I) の証明にならい,その Grunbaum 彩色から得られる 4-彩色を見つけよ.

4.3 Sprouts という平面上のゲーム

Sprouts という名前の次のゲームを考える.平面上の n 点に対し,二人のプレイヤーA と B が交互に次の操作を行う.(i) 現在の点のうちの 2点 (同じ点でもよい) を選び辺で結び,(ii) その辺を細分して新しい点を加える.

ただし,(i) の操作で次数が 4 以上の点を作ってはならず,また,加える辺が他の辺と交差してもならない.(図 24 参照.) この操作を繰り返し,辺を加えられなくなったプレイヤーの負けとする.すなわち,最後に辺を加えたプレイヤーの勝ちである.

A B A B

図 24: n = 3 の Sprouts の例

定理 36 n 点の Sproutsは高々 3n−1 回で決着がつく.(特に,引き分けは起こらない.)

証明. 各点 x に対し,a(x) = 3−(現在の次数) とおく.すなわち,a(x) は今後,点 x

から出ることが可能な辺の数を表している.また,その合計値をポテンシャル と呼ぶ.まず,初期配置において,ポテンシャルは 3n である.また,ポテンシャルは,各プレ

イヤーの各ターンにおいて,(i) で 2 だけ減り,(ii) で 1 だけ増える.したがって,合計では各ターンでポテンシャルはちょうど 1ずつ減る.またどのような局面においてもポテンシャルは 1以上であるため (最後の細分で加えられた頂点 x では a(x) = 1 であることに注意せよ),高々 3n− 1 回しか繰り返すことができない. □

定理 37 n 点の Sprouts は決着がつくまでに少なくとも 2n 回かかる.

26

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証明. n 点の Sprouts に対し p 回でゲームが終了したとする.このとき,最終的にはn+ p 点が存在する.また,最終局面において,次数が 2 以下の頂点を未飽和という.最終局面の各点 x に対し,(1) 未飽和の頂点の次数は 2 であり,かつ (2) 未飽和の頂

点 x の近傍 N(x) の頂点は次数が 3 である.(そうでないと,さらにゲームの操作ができる.なお,(1) ではないときはループとして辺を加える.) さらに、二つの未飽和の点は同じ面に隣接しないことから,未飽和な点 x と y に対し N(x) と N(y) に共通頂点は存在しない.これより,最終局面の頂点数 n+ p は,未飽和の頂点数を s とすると 3s 以上となり,

n+ p ≥ 3s

を得る.また,定理 36 の証明にあるポテンシャルを考えると,最終局面のポテンシャルがちょうど s であることから,3n− p = s を得る.これらより s を消去すると,p ≥ 2n

を得て証明が完了する. □

演習 ∗ 定理 36 と 37 では Sprouts における操作の回数の上界と下界を求めているが,それらはともに最善である.これを示せ.

なお,操作の回数 p が奇数のときは A が勝ち,偶数のときは B が勝っている.実際のゲームにおいては,2n 回 (下界)や 3n− 1 回 (上界)でゲームが終了することはまれであり,双方が最善を尽くした際の勝敗も簡単にはわからない.(n = 3 くらいでも,すべてを解析することは難しい.試してみよ.) しかし,小さい場合の全探索の結果,次の予想が立てられている.これはコンピュータを使うことで n ≤ 44 では正しいことが示されている.

予想 38 n 点の Sprouts は,n ≡ 0, 1, 2 (mod 6) のとき,かつそのときに限り先手が必勝である.

演習 ∗ 図 25 の局面で勝つ操作を示せ.

図 25:

演習 ∗ Sprouts の (ii) の操作において,プレイヤー A はその辺を 2 回細分することにする.(ただしこのゲームは,特に A にとって非常につまらない.なぜか?) このとき,ゲームの終了までのかかる操作の回数が 6n− 2 回以下,8n

3回以上であることを示せ.

Sprouts の変形版として Brusseles Sprouts という次のゲームが知られている.平面上の n 個の小さい十字架たちを考える.このときの十字架の各辺を free end とよぶ.す

27

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なわち,初期配置では 4n 本の free end が存在する.二人のプレイヤー A と B が交互に次の操作を行う.(i) free end を二つ選び辺で結び,(ii) その辺の途中に二つの free end を持つ十字架を一つ加える.

ただし,(i) の操作で加える辺が他の辺と交差してはならない.この操作を繰り返し,最後に辺を加えたプレイヤーの勝ちとする.

A B A B

図 26: n = 3 の Brusseles Sprouts の例

定理 39 Brusseles Sprouts はちょうど 5n− 2 回でゲームが終わる.したがって,n を固定すると,どのようにゲームを行っても勝者は同じである.

証明. n 個の十字架の Brusseles Sprouts に対し,p 回でゲームが終了したとし,終局時のグラフを G とする.ただし,十字架の集合が G の頂点集合である.1 回の操作でちょうど 1 つの十字架と,ちょうど 2 本の辺が加えられるため,初期状態が n 個の十字架と 0 本の辺をもつことから,

|V (G)| = n+ p, かつ |E(G)| = 2p

である.次に G の面の数を free end の数を用いて考える.まず次の二つが成り立つ.

• ゲームのどの状態においても,すべての面は少なくとも一つの free end を持つ.

(操作 (i) によって新しくできた面のみを考えれば良いが,そのような面は操作 (ii)

によって加えられた十字架の free end が存在する.)

• 終局時には,各面は高々一つの free end しか持たない.

(そうでないならば,その二つの free end を結ぶことでゲームを継続できる.)

したがって,G の各面はちょうど一つの free end を持つ.また,各操作では 2 つの free

end を使い 2 つの新しい free end を作るため,free end の総数は初期値 4n から変化しない.これらより,

|F (G)| = 4n

が成り立つ.よって,オイラーの公式より

(n+ p)− 2p+ 4n = 2

が成り立ち,p = 5n− 2 を得る. □

演習 ∗ n点の Brusseles Sprouts において,B は (ii) の操作で新しい十字架を加えないことにする.(A は通常と同じ.) このゲームの終局までの操作の回数の上界と下界を求めよ.

28

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4.4 格子点に関わる問題

座標平面上の点で各座標が整数である頂点を格子点とよぶ.T を平面上の格子点を頂点とする多角形で,全ての頂点が格子点のものを格子多角形とよぶ.平面上の多角形の内部と境界は自然に定義されるものとするが,内部は境界を含まないことに注意する.また,内部および境界に頂点以外の格子点を持たない三角形を基本三角形と言う.

補題 40 T を平面上の基本三角形とすると,T の面積 S(T ) は 1/2 である.

証明. 「T のすべての角が鈍角でない」ならば,T のある辺は x 軸または y 軸に平行になり,T の性質より面積が 1/2 であることが確認できる.そうでないなら,そのような三角形に適当に等積変形してやればよい. □

定理 41 (Pick の公式, 1899) 平面上の格子多角形 Q の面積 S(Q) は

S(Q) = nint +1

2nbound − 1

である.ただし,nint で Q の内部の格子点の数を,nbound で Q の境界上の格子点の数をそれぞれ表す.

例えば,図 27 左の格子多角形 Q では,nint = 1 かつ nbound = 9 であり,したがって定理 41 より,Q の面積は 1 + 9

2− 1 = 9

2である.

図 27: 格子多角形の例 (左図) とその内部の基本三角形への分割 (右図).

定理 41 の証明. 平面上の格子多角形 Q の内部を基本三角形に分割する.(これが可能であることは自明ではないが,適当に格子点同士を結ぶことで達成できる.図 27 右を参照.) これによりできる内部三角形分割を TQ とおく.各三角形は基本三角形であるので,補題 40 より

S(Q) =1

2f

が成り立つ.ただし,f で TQ の基本三角形面の数 (外領域を含まない) を表す.したがって,このグラフ TQ の頂点,辺の数をそれぞれ数えることで,オイラーの公式から f を計算すればよい.TQ の構成法より下は容易にわかる.

|V (TQ)| = nint + nbound.

29

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また,各三角形は 3つの辺を持ち,TQの境界の辺の数が nboundであることから,2|E(TQ)| =3f +nbound である.(注:双対グラフの握手補題)したがって,これとオイラーの公式から,

f + 1 = |E(TQ)| − |V (TQ)|+ 2

=1

2

(3f + nbound

)−

(nint + nbound

)+ 2

=3

2f − nint −

1

2nbound + 2.

これを解いて,以下を得る.

S(Q) =1

2f = nint −

1

2nbound − 1. □

系 42 格子正 m 角形は m = 4 以外では存在しない.

証明. 正 m 角形 Q の各頂点が格子点であるとする.このときピックの定理より,Q の面積は有理数である.また,整数倍に拡大することで,Q の中心も格子点であるとしてよい.中心と各頂点を結び Q を m 個の二等辺三角形に分割すると,面積は m · S(T ) となる.ただし S(T ) はその二等辺三角形の面積である.a で中心から頂点までの距離を表すとすると,

S(T ) =1

2a2 sin(2π/m)

である.ここで,a2 は格子点を結ぶ線分の長さの 2乗なので有理数 (ピタゴラスの定理),sin(2π/m) は m = 4 で無理数なので,S(T ) も m = 4 で無理数である.したがって,Q

の面積も無理数となり矛盾する. □

定理 43 平面の格子点を 5 つ選び K5 の頂点とし,辺をすべて直線で描く.(辺は交差してもよい.) このとき,少なくとも 1辺は頂点以外の格子点を通る.

証明. 以下の命題を示せば良い.

平面上の任意の 5つの格子点 (x1, y1), . . . , (x5, y5)に対し,ある i, j ∈ {1, 2, 3, 4, 5}で,(xi, yi) と (xj, yj) の中点

(xi+xj

2,yi+yj

2

)も格子点である.

ここで,各格子点の各座標を偶奇によって分類すると (偶,偶), (偶,奇), (奇,偶) および (

奇,奇) の 4通りに分類される.したがって,5つの格子点 (x1, y1), . . . , (x5, y5) に対し,ある i, j ∈ {1, 2, 3, 4, 5} でこの偶奇のタイプが一致し,xi + xj および yi + yj がともに偶数となる.すなわち,(xi, yi) と (xj, yj) の中点も格子点である. □

演習 ∗ 次を満たす最小の整数 m を求め,その理由を答えよ.Z3 上の任意の m 個の格子点 x1, . . . , xm に対し,ある i, j ∈ {1, 2, . . . ,m} (ただし i = j) で,xi と xj の中点も格子点である.

定理 44 T を格子三角形とする.また,格子点を各座標の偶奇によって (偶,偶), (偶,奇), (

奇,偶) および (奇,奇) の 4通りに分類する.このとき,「T の面積が整数ではないための必要十分条件は,T の 3頂点のタイプが全て異なる」である.

30

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証明. (十分性) T = ABC の 3頂点のタイプが全て異なる,と仮定する.このとき,A

と B のタイプが異なるため,線分 AB の中点は格子点ではない.(定理 43 の証明も参照.) したがって,線分 AB は内部 (線分 AB から端点 A と B を除いたもの) に格子点を偶数個含む.同様のことが線分 BC と 線分 AC でも成り立つ.したがって,頂点A,B,C と合わせて T の境界上の格子点の数は奇数であり,定理 41 より T の面積は整数である.

(必要性) 対偶を考える.T = ABC の 3頂点でタイプの同じものがある,と仮定する.対称性より,頂点 A と B のタイプが同じとしてよい.このとき,線分 AB は内部に格子点を奇数個含む.頂点 C のタイプも同じ場合は,同様に線分 BC と AC も内部に格子点を奇数個含む.一方で,頂点 C のタイプが異なる場合は,線分 BC と AC は内部に偶数個の格子点を含む.いずれにせよ,境界上の格子点の数は奇数となり,定理 41 より T

の面積は整数ではない. □

演習 ∗ 平面の格子四角形の面積が整数であるための必要十分条件を,定理 44 のように与えよ.

演習 ∗ 格子三角形 T = ABC に対し,線分 AB の内部に格子点が 3 個,線分 AC の内部に格子点が 3 個のとき,T の面積 S(T ) が 8 の倍数であることを示せ.

4.5 美術館問題と刑務所の庭問題

凸とは限らない領域 (美術館) に何人かの警備員を配置し,その領域全体を監視したい.ただし,領域の境界は壁とみなし,それを通過しての監視は不可能である.「この状況で,何人の警備員が必要か」という問題は次の定理で解決された.

定理 45 (Chvatal, 1975) n 角形領域は n3人の警備員がいれば監視できる.

定理 45 の n3は最善である.これは図 28 の例から示される.実際に,図 28 の多角形

領域を監視するためには,各斜線の領域に対し少なくとも 1人の警備員が必要であるが,斜線の領域は n

3個存在している.

図 28: 定理 45 の最善の例

ここで,全頂点が外領域に隣接している平面グラフを外平面グラフと呼ぶ.

補題 46 任意の外平面グラフ G は次数が 2以下の頂点を持つ.

証明. G の内部に四角形以上の面が存在する場合は,その面に適当に対角線を引くことで新しい外平面グラフ G′ が得られ,G′ で次数が 2 以下の頂点はG でも次数は 2 以下である.したがって,G の内部の面はすべて三角形であるとしてよい.

31

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命題を頂点数に関する帰納法で示す.G を,内部の面がすべて三角形の外平面グラフとする.G の頂点数は 4 以上であるとしてよい.「G の各頂点の次数が 3 以上である」と仮定して矛盾を導く.G の頂点数を n,内部の三角形面の数を f とそれぞれおく.G は外平面グラフであることから,外領域の境界上の辺の数は n である.まず,各面のまわりの辺の数を数えることで,2|E(G)| = 3f + n を得る.(注:双対グ

ラフの握手補題である.) また,各頂点の次数が 3 以上であり内部はすべて三角形であるので,外領域の境界上の辺が属す内部の三角形はすべて異なり,したがって f ≥ n である.よってオイラーの公式より,n+ (f + 1) = |E(G)|+ 2 であるから,

2|E(G)| = n+ 3f ≥ 2n+ 2f = 2(|E(G)|+ 1

)となり,矛盾する.したがって,G のある頂点で次数が 2 以下である. □

系 47 任意の外平面グラフの頂点は 3 色で彩色が可能である.

証明. 外平面グラフ G を考える.G の頂点数が 3 以下ならば 3 色で彩色できることは自明である.したがって |G| ≥ 4 としてよい.ここで,G から v を取り除いてできるグラフ G− v を考えると,G− v も外平面グラフであるため,帰納法の仮定より,T − v の頂点は 3 色で彩色できる.ここで v の近傍は高々 2頂点なので v の近傍の頂点に使われていない色が存在し,v をその色で彩色すればよい. □

定理 45 の証明. ここでは,Fisk (1978) による証明を紹介する.n 角形領域 Q の内部を,新しい頂点は加えないように三角形 TQ へと分割する.(証明しないが,これは可能である.注:3次元の場合には凸ではない多様体の内部を単体 (正四面体)へと,新しい頂点を追加しないように分割することは,不可能な場合が存在する.) したがって,|V (TQ)| = n

であり,TQ の全頂点が外領域に接している.系 47 より,TQ の頂点は 3 色で彩色できる.ここで,TQ の頂点数は n であるため,ある色に対し,その色で彩色されている頂点の

数は n3以下である.その色で彩色されているすべての頂点に警備員を配置すれば n

3人以

下で全体を監視できる. □

演習 ∗ 以下を示せ.平面上に,1個の “穴”を持つ領域 Qを考える.この Qは高々⌊n+23

⌋人の警備員で監視できる.ただし,n は Q の外領域と穴に存在する壁の数の総数である.

演習 ∗ (O’Rourke, 1982) 上の演習で,穴の数が h 個のときは⌊n+2h

3

⌋人の警備員で

十分であることを示せ.

予想 48 各警備員は n角形の壁に配置されその壁上を動くことができるとする.このときは,n

4人の警備員で十分である.

演習 ∗ 予想 48 では n4人の警備員が必要となる美術館が存在することを示せ.

この美術館問題の亜種として,いくつかの部屋が存在する場合を考える.部屋同士は壁によって仕切られ,警備員は壁を通過しての監視は不可能であるが,壁上に配置された警備員はその壁の両側が監視できる,とする.また,3つ以上の壁が交わる点に配置された警備員はその点に接するすべての部屋を監視できる.すなわち,領域の多角形がはじめから小領域へ分割されている場合である.この問題は刑務所の庭問題 と呼ばれている.

32

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定理 49 (Hoffmann & Kriegel, 1996) 内部が凸四角形に分割されている領域 Qは n/3

人の警備員がいれば監視できる.ただし,n は Q の頂点の数である.

補題 50 平面の三角形分割 T に対し,T の頂点が 3色で彩色できるための必要十分条件は,T の各頂点の次数が偶数であることである.

定理 49 の証明. 以下は Zhang & He (2005) の証明である.定理 45 の証明にならい,Q

の各凸四角形面に適当に対角線を入れ,頂点が 3色で彩色できる三角形分割にできれば良い.補題 50 より,これは対角線を加え各頂点の次数が偶数である三角形分割にすることと同値である.(各四角形は凸であるため,どちらの対角線も加えることができ,得られた三角形分割の 3色での彩色が警備員の適切な配置を与える.) ここでは簡単のため,外領域も四角形とする.ここで,各四角形面で “辺から入り反対側の辺へ抜ける” という操作を元の辺に戻るま

で繰り返す.この操作で得られる辺の列 (双対の歩道) をリングとよぶことにする.どの四角形も,あるリングにより 2回通過されている.ただし,そのリングは同じものかもしれないし, 異なるものかもしれない.各リングに適当に向きを付ける.その向きにしたがって,各四角形面の対角線を次のように加え,三角形分割 T を得る;

対角線が,その四角形面を通るリングの向きにおいて,二つの終点と二つの始点へと分割する.(図 29 を参照.)

この三角形分割 T で,各頂点の次数が偶数となることを示せばよい.

図 29: 四角形面におけるリング (点線) の向きと加えるべき対角線 (二重線).

各頂点 v のまわりのリングの一部たちで構成される閉路 Cv を考える.なお,Cv 上には,「リングの交点」と「リングと Q の辺の交点」が交互に現れる.前者の集合を Rv,後者の集合を Xv とおく.(図 30 参照.) 特に |Rv|+ |Xv| は偶数である.各 x ∈ Rv は次の2通りに分類される.すなわち,リングの向きを Cv 上で見たときに,x で向きが変わる場合と変わらない場合である.前者の数を r1, 後者の数を r2 とおく.特に,r1+ r2 = |Rv|である.また,Cv の向きは Xv では変化しないことと向きの変化は必ず偶数回起こることから,r1 は偶数となる.ここで,r2 に対応する箇所に対角線を入れることから,三角形分割 T での頂点 v の次数は次のように計算でき,証明が完了する.

degT (v) = |Xv|+ r2 = |Xv|+(|Rv| − r1

)≡ 0 (mod 2). □

演習 ∗ 図 31 の四角形分割 (各面が四角形である平面グラフ) に適当に対角線を入れ,すべての頂点で次数が偶数である三角形分割を作れ.

33

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vv

:リングの交点 = Rv の点

:リングと Q の辺の交点 = Xv の点

図 30: 頂点 v の周囲の状況の例 (左図) と,閉路 Cv,Rv および Xv (右図).

図 31:

4.6 凸多角形の存在

平面上の一般の位置にある点配置を考える.すなわち,どの 3点も同一直線上にない.(“どの 4点も同一円周上にない” という条件も仮定することもある.) このとき,凸m角形を見つけたい.

定理 51 (Eros & Szekeres, 1935) m ≥ 3 の任意の整数 m に対し,ある定数 f(m) が存在して,平面上の一般の位置にあるどの f(m) 点もある m 点が 凸m角形を形成する.

証明. 特に,

f(m) ≤(2m− 4

m− 2

)+ 1

を示す.

演習 ∗ f(4) ≤ 5 を示せ.

演習 ∗ f(5) ≥ 9 を示せ.

参考:内空凸m角形

34

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定理 52 (Horton, 1983) 任意の定数 N で,平面上の一般の位置のある N 点で内空 凸7角形を持たないものが存在する.

内空 凸 6角形が存在するための N の最善の値は未解決問題.≤ 463 (Koshelev, 2007)

≥ 30 (Overmars, 2003)

35

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5 辺の分割と極値グラフ理論

5.1 平面上の点と直線

定理 53 (Sylvester–Gallai の定理) 平面上の一直線上にない n 点を考える.(n ≥ 3.)

このとき,n 点のうちのちょうど 2 点だけを含む直線が存在する.

証明その1. 一つ目の証明は平面幾何を用いた直接的なものである.n点の集合を S とおき,S の 2点以上を通る直線の集合を Lとおく.任意の直線 ℓ ∈ L

は S の 3 点以上 n− 1 点以下を含むと仮定して矛盾を導く.ここで,ℓ ∈ L と ℓ 上にない点 p ∈ S の組 (ℓ, p) で,p から ℓ までの平面上での距離が最も近いものを (ℓ0, p0) とおく.また,p0 から ℓ0 へ下した垂線の足を q0 とおく.ℓ0 は S の点を 3 点以上含むため,ある p1, p2 ∈ S は ℓ0 において q0, p1, p2 の順に並んでいるとしてよい.(ただし,q0 = p1かもしれない.) このとき,点 p0 と p2 を結ぶ直線 ℓ1 を考えると,p1 は ℓ1 上にはなく,p1 から ℓ1 までの距離は p0 から ℓ0 までの距離より近く,組 (ℓ0, p0) の選び方に矛盾する.(図 32 参照.) □

q0

p0

p1

p2ℓ0

ℓ1

図 32: 定理 53 の証明その 1.

ここではオイラーの公式を用いた別証明を与える.次がそのための補題である.

補題 54 任意の平面グラフ G は次数が 5 以下の頂点を持つ.

証明. G に対し,オイラーの公式より次の式が成り立つ.(証明は演習.)∑v∈V (G)

(6− dG(v)

)+

∑f∈F (G)

(6− 2dG(f)

)= 12. (5)

なお,dG(f) で面 f の境界の辺の数を表す.ここでは単純グラフのみを考えているため,各面の境界は 3本以上の辺を持ち,12 = (左辺) ≥

∑v∈V (G)

(6 − dG(v)

)である.これよ

り,次数 5 以下の頂点が存在することが直ちにわかる. □

演習 ∗ 上の式 (5) をオイラーの公式と握手補題より示せ.

ここで,球面上の円の中で最も大きいものを,その球面の大円という.大円は球の中心を通る平面と球面の交線によってできる.地球でいえば,赤道や経線が大円の一種である.

36

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証明その2. 以下は Norman Steenrod の証明による.平面のすぐ近くに球を置くことで,平面上の n 点の集合 S を球面の北半球に射影する.

このとき,S の 2頂点以上を通るどの直線もその球面の大円に対応する.この対応で,定理 53 の命題は次のように変換できる.

n ≥ 3 で,球面の北半球にある n 点が同一の大円上にないとき,n 点のうちのちょうど 2 点だけを含む大円が存在する.

ここで,球面の各点 p に対し,その点の双対となる大円 Cp を対応させる.すなわち,点 p を球の “北極”とみなしたときの “赤道”に当たる大円を Cp とおく.これは球面からその球面の大円の集合への,2対 1 写像である.このとき,球面の一つの大円 C に対し,上の逆写像で得られる 2点を pC , p

′C とおくと,C 上の任意の点 p において,大円

Cp はその 2点 pC , p′C を通ることが確認できる.したがって,上の写像によって各大円 C

は球面上の 2点 pC と p′C へと対応される.さらにいうと,同一の大円 C 上にある k 点p1, . . . , pk に対し,pC と p′C は k個の大円 Cp1 , . . . , Cpk の交点となっている.すなわち,上の写像により,球面において「点 ↔ 大円」と相互に変換される.(特にこの写像は双対と呼ばれる.)

これより,定理 53 の命題はさらに下のように変換できる.

n ≥ 3 で,球面上の n 個の大円が同一の交点を持たないとき,n 個のうちのちょうど 2 個の大円だけが通る点が存在する.

ここで,球面上の同一の交点を持たない n 個の大円に対し,交点たちが作る平面 (球面)グラフ G を考える.すなわち,G は大円たちの交点の集合を頂点集合とし,いずれかの大円上で連続する 2頂点を辺で結んでできるものである.G の構成法より,「各頂点の次数は 4以上の偶数」となる.したがって,補題 54 と合わせて考えると,G は次数 4

の頂点 v を持つ.このとき,v はちょうど 2 個の大円に含まれ,証明が完了した. □

演習 ∗ 上の証明において,“n 個の大円が同一の交点を持たない” という仮定はどこで使われたかを示せ.

演習 ∗ 補題 54 の証明に戻って式 (5) を考えることで,一直線上にない n 点においては,ちょうど 2 点だけを含む直線が少なくとも 3 本存在することを示せ.

定理 55 平面上の n 点で,全ての点が一直線上にない場合を考える.(n ≥ 3.) このとき,少なくとも 2 点を含む直線が n 本以上存在する.

証明. n に関する帰納法で示す.n = 3 ならば自明に成り立つため,n ≥ 4 としてよい.n 点の集合を S とおく.定理 53 より,S のうちのちょうど 2 点を通る直線 ℓ が存在

する.ここで,ℓ が通る S の点の一つを p とおき,S ′ = S − {p} とする.S ′ の n− 1 点が一直線上にないならば,帰納法の仮定より S ′ のうちの少なくとも 2 点

を含む直線が n− 1 本以上存在する.このときは,それらの直線に ℓ を加えることで,Sの 2 点以上を通る直線が n 本以上得られる.また,S ′ の n − 1 点が一直線上にあるとし,その直線を ℓ0 とする.このとき,S ′ の

任意の点 p′ に対し,p と p′ を通る直線は S の点をちょうど 2 点通り,したがって,そ

37

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のような直線が n− 1 本存在する.よって直線 ℓ0 と合わせて,S の 2 点以上を通る直線が n 本以上得られる.(図 33 参照.) □

ℓ0

p

図 33: 定理 55 の証明において,S ′ の n− 1 点が一つの直線 ℓ0 上にある場合.

5.2 完全グラフの辺の分割

実は,定理 55 は次の定理の系としても得られる.ここで,完全グラフ Kn に対し,その部分グラフたち H1, H2, . . . , Hm が「Kn のどの辺も,ちょうど一つの Hi に含まれる」という性質を満たすとき,Kn は H1, H2, . . . , Hm へと分割されているという.

定理 56 完全グラフ Kn が部分完全グラフ H1, H2, . . . , Hm へと分割されているならば,m = 1 または m ≥ n である.

演習 28 平面上の一直線上にない n 点の集合 S に対し,S を頂点集合とし,平面上で同一直線上にある 2 点を辺で結んだグラフを G とする.このグラフ G を用いて,定理 55

が定理 56 の系であることを説明せよ.

定理 56 の証明. 完全グラフ Kn が部分完全グラフ H1, H2, . . . , Hm へと分割されているとし,m = 1 かつ m < n であると仮定する.このとき,放電法を用いて矛盾を導く.初期電荷として,各頂点に +1 の電荷を与える.このときの電荷の合計は n である.各

頂点 x は,x を含まない ような Hi たちに等分に電荷を渡す.すなわち,x を含まないような Hi たちの個数を rx とおくと,x はそのような Hi のそれぞれへ,ちょうど 1

rxの

電荷を渡す.各頂点 x と x を含まない Hk の組を考えると,次の不等式が成り立つ.

m− rx ≥ |Hk|.

なぜならば,Hk に含まれる各頂点 y に対し,Kn の辺 xy たちはそれぞれ異なる Hi に含まれており,左辺 m− rx は「x を含む Hi たちの個数」を表しているからである.これより,

rx ≤ m− |Hk|

が得られる.ここで,各部分完全グラフ Hk が受け取る電荷の総量を考えよう.Hk は x ∈ V (Hk) と

なる各頂点 x より 1rxの電荷を受け取るため,合計で少なくとも∑

x ∈V (Hk)

1

rx≥

∑x ∈V (Hk)

1

m− |Hk|

38

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の電荷を受け取る.ここで,x ∈ V (Hk) である頂点 x は全部で n− |Hk| 個存在するため,∑x ∈V (Hk)

1

rx≥

∑x ∈V (Hk)

1

m− |Hk|=

n− |Hk|m− |Hk|

>n

m

である.なお,最後の不等号は n > m かつ |Hk| ≥ 1 から得た.よって,放電後の電荷の合計を計算すると,

n = (電荷の合計) > m · nm

= n

となり矛盾である. □

演習 29 定理 56 の結論 m ≥ n が最善であることを示す例を与えよ.

定理 56 の結論 m ≥ n は「すべての Hi の大きさが等しい」という条件を要求したとしても,いくつかの n ではやはり最善であることが知られている.例えば,n = 7 の 7

個の完全グラフへの分割として,次のような例が存在する.V (K7) = {0, 1, 2, 3, 4, 5, 6} に対し,H1, . . . , H7 を次のように定める.

V (H1) = {0, 1, 6}, V (H2) = {0, 2, 5}, V (H3) = {0, 3, 4}, V (H4) = {1, 2, 4},V (H5) = {1, 3, 5}, V (H6) = {2, 3, 6}, V (H7) = {4, 5, 6}.

これはファノ平面と呼ばれる平面から作られる.実は,定理 56 が定理 55 の拡張であったように,この問題は通常のものとは異なる幾何として述べられている.(そのような幾何学は,特に有限幾何と呼ばれている.) 実際に,上の K7 の分割の例は,図 34 にあるファノ平面 から作られている.

0

1

2 3

4 5

6

図 34: ファノ平面.

演習 30 Kn を「すべての Hi の大きさが等しい」ような部分完全グラフ H1, H2, . . . , Hn

へと分割できたとする.このとき,n は,ある整数 t に対し n = t2 − t + 1 と書けるが,これを示せ.

そのような n で 7 の次に小さいものは 13 である (t = 4 のとき) が,実際に,n = 13

のときにはそのような分割は存在する.

演習 ∗ K13 を n 個の部分完全グラフで同じ大きさのものへと分割せよ.

39

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定理 57 完全グラフ Kn が部分完全 2部グラフ H1, H2, . . . , Hm へと分割されているならば,m ≥ n− 1 である.

証明. 完全グラフ Kn が部分完全 2部グラフ H1, H2, . . . , Hm へと分割されているとし,m < n−1であると仮定する.各 Hi は完全 2部グラフであり,それぞれの部集合を Li, Ri

とおく.Kn の各頂点 v に変数 Xv を与える.H1, H2, . . . , Hm が Kn の分割なので,∑

u,v∈V (Kn),u=v

XuXv =m∑i=1

(∑s∈Li

Xs ·∑t∈Ri

Xt

)(6)

が成り立っている.ここで,次の線型方程式系を考える.∑v∈V (Kn)

Xv = 0,

∑s∈Li

Xs = 0 (i = 1, . . . ,m).

これは n 個の変数に対し m+ 1 < n 本の線形方程式からなっており,したがって,自明でない解 Xv = αv (v ∈ V (Kn)) を持つ.このとき,式 (6) の右辺の

∑の各 i において,∑

s∈Liαs = 0 であることから, ∑

u,v∈V (Kn),u=v

αuαv = 0

を得る.よって,∑

v∈V (Kn)αv = 0 であることより,

0 =( ∑

v∈V (Kn)

αv

)2

=∑

v∈V (Kn)

α2u +

∑u,v∈V (Kn),u=v

αuαv =∑

v∈V (Kn)

α2u

となる.しかしながら,αv (v ∈ V (Kn))が自明でない解であることから,∑

v∈V (Kn)α2u > 0

となり,矛盾がおこる. □

次の例が定理 57 の最善の例となっている.Kn に対し,n = 1 では辺が存在せず,分割の意味がないため n ≥ 2 とする.ここで,1頂点 v を固定し,v に接続するすべての辺からなる完全 2部グラフ K1,n−1 を Hn−1 とおく.Kn からその頂点 v を取り除いた完全グラフ Kn−1 を考え,以下帰納的に,完全 2部グラフ K1,n−2, . . . K1,1 をとると,これはn− 1 個の完全 2部グラフよりなる Kn の分割である.(図 35 に n = 5 の場合を示す.)

K5 H4 H3 H2 H1

図 35: H1, H2, H3, H4 による K5 の分割.各 Hi は K1,i と同型である.

演習 31 図 35 の例 (1 ≤ i ≤ n− 1 で Hi が K1,i の場合) において,各 Hi で Li が 1 点側としたときに定理 57 の証明内の方法でできる線形方程式系を示し,その解が自明なものしか存在しないことを確認せよ.また,逆に各 i で Ri が 1 点側としたときも考えよ.

40

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5.3 極値グラフ理論:三角形のないグラフ

ある種の条件のもとで辺数が最大となるグラフ (とその辺数) を考える分野が極値グラフ理論である.(例えば,次の演習のような問題である.) ここではまず,「3頂点の道を持たない」「三角形を持たない」という性質を考える.

演習 32 G を n 頂点で P3 (3頂点の道) に同型な部分グラフを持たないグラフとする.このとき,|E(G)| ≤ n

2を示せ.また,その等号を満たすグラフを示せ.

定理 58 (Turan, 1941) G を n 頂点の三角形を持たないグラフとする.このとき,次が成り立つ.

|E(G)| ≤⌊n2

⌋⌈n2

⌉.

この証明には下の補題を用いる.補題 59は Cauchy–Schwarzの不等式 ⟨a, b⟩2 ≤ |a|2|b|2

において,a = (a1, . . . , an)T かつ b = (1, . . . , 1)T と置くことで得られる.なお,n = 2

のときが相加・相乗平均の関係式である.

補題 59 任意の n 個の正の実数 a1, . . . , an に対し,以下が成り立つ.( n∑i=1

ai

)2

≤ nn∑

i=1

a2i .

また,等号は a1 = a2 = · · · = an のとき,かつそのときに限り成り立つ.

定理 58 の証明. 示すべき式における n の偶奇を考えると |E(G)| ≤ n2

4を証明すればよ

い.グラフ G の最大の独立頂点集合を A とおき,その大きさを α とする.(その内部に辺を持たない頂点集合を独立であるという.) すなわち,G のどのような大きさ α + 1 の頂点集合もその内部に辺を含む.ここで,G は三角形を持たないため,任意の頂点 u でその近傍 NG(u) は独立頂点集合である.したがって,dG(u) ≤ α が成り立つ.ここで頂点の集合 B = V (G)−A を考える.A 内に辺が存在しないため,G のすべて

の辺の少なくとも一方の端点は B に含まれる.したがって,|E(G)| ≤∑

u∈B dG(u) である.ここで |B| = β とおくと,α + β = n であることから,相加・相乗平均の関係より,以下のように所望の不等式を得る.

|E(G)| ≤∑u∈B

dG(u) ≤ αβ ≤(α + β

2

)2

=n2

4. □

Mantel による定理 58 の証明.

やはり |E(G)| ≤ n2

4を示せば十分である.G を n 頂点の三角形を持たないグラフとす

る.G は三角形を持たないので,G の各辺 uv に対し dG(u)+ dG(v) ≤ n である.よって,∑uv∈E(G)

(dG(u) + dG(v)

)≤ n|E(G)|

である.また, 上の左辺の∑の中で,各頂点 u に対しての dG(u) はちょうど dG(u) 回

表れるため,これより

n|E(G)| ≥∑

uv∈E(G)

(dG(u) + dG(v)

)=

∑u∈V (G)

(dG(u)

)2

.

41

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一方で,補題 59 と握手補題より,∑u∈V (G)

(dG(u)

)2

≥ 1

n

( ∑u∈V (G)

dG(u))2

=4|E(G)|2

n

が成り立つため,変形して所望の不等式を得る. □

演習 33 定理 58 のそれぞれの証明において,n が偶数のときに等号を満たす場合を考え,そのようなグラフを決定せよ.

演習 34 G を n 頂点 m 辺のグラフとする.このとき,G は少なくとも

4m

3n

(m− n2

4

)個の三角形を持つことを示せ.

ヒント:Mantel による定理 58 の証明を利用せよ.特に,G の各辺 uv に対し,uv を含む三角形は dG(u) + dG(v)− n 個以上存在する.これを用いて,次の集合の要素数を 2通りに評価せよ.

S ={(uv, T ) : uv ∈ E(G), T は辺 uv を含む G の三角形

}.

定理 58 のさらに別の証明 G を n 頂点の三角形を持たないグラフで辺数が最大のものとする.まず,次の主張を示す.

主張 59.1 G は次の性質を満たす 3頂点 u, v, w を持たない:uv, uw ∈ E(G) だが vw ∈E(G) である.

u

v w

図 36: 3頂点 u, v, w.

u v

w

u v

w

v′

図 37: 主張 59.1 の証明の,場合 1 におけるグラフの変形.

証明. そのような 3 頂点 u, v, w が存在したと仮定する.(図 36 参照.) このとき,次の 2つのそれぞれの場合で矛盾を導く.

場合 1: dG(u) < dG(v) または dG(u) < dG(w) である.対称性より dG(u) < dG(v) としてよい.このとき,グラフ G の次の変形を考える.(図

37 参照)

頂点 u を取り除き,N(v′) = N(v) となるように新しい頂点 v′ を加える.

42

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ここで,新しいグラフを G′ と書く.ただし vv′ ∈ E(G′) であることに注意する.このとき,G′ が三角形 T を持つとすると,G は三角形を持たないため,T は頂点 v′ を含む.しかし vv′ ∈ E(G′) であるため,T は v は含まず,したがって v′ の代わりに v を用いることで G の三角形が見つかり矛盾する.したがって,G′ は三角形を持たないが,

|E(G′)| = |E(G)| − dG(u) + dG′(v′) = |E(G)| − dG(u) + dG(v) > |E(G)|

であり,G を三角形を持たない辺数最大のグラフとしたことに矛盾する.

場合 2: dG(u) ≥ dG(v) かつ dG(u) ≥ dG(w) である.このとき,グラフ G の次の変形を考える.

頂点 v, w を取り除き,N(u′) = N(u′′) = N(u) となるように新しい頂点 u′, u′′

を加える.

ここで,新しいグラフを G′′ と書く.場合 1 と同じ理由で G′′ は三角形を持たず,

|E(G′′)| = |E(G)| −(dG(v) + dG(w)− 1

)+ 2dG(u) > |E(G)|

であり,同じく矛盾を得て,主張 59.1 の証明が終了した. □

では,主張 59.1 を用いて定理 58 を証明する.ここで,2 頂点 u, v に対し,

uv ∈ E(G) である,かつそのときに限り u ∼ v となる,

ような V (G) の 2項関係 ∼ を定義する.主張 59.1 より ∼ は推移律を満たし同値関係となる.この同値類は G で独立頂点集合となり,また異なる同値類に属す 2頂点は辺で結ばれている.したがって,G は三角形を持たないことから同値類は高々 2 つであり,G

は辺のないグラフ,または完全 2部グラフ Kn1,n2 と同型になる.(ただし n1 + n2 = n.)

辺数の最大性より前者が起こらないことが自明にわかり,また,次の式から証明が終了する.

|E(Kn1,n2)| = n1n2 ≤⌊n2

⌋⌈n2

⌉. □

演習 35 上の証明を利用し次を示せ: G を n 頂点で K4 を部分グラフとして持たないグラフとする.このとき,次が成り立つ.

|E(G)| ≤ n2

3.

一般にこれをさらに拡張した次の結果が同様の手法によって証明できる.

定理 60 (Turan, 1941) G を n 頂点で Kk+1 を部分グラフとして持たないグラフとする.このとき,次が成り立つ.

|E(G)| ≤(1− 1

k

)n2

2

演習 ∗ 定理 60 を示せ.また,等号が成り立つ例を特徴付けよ.

43

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5.4 極値グラフ理論2:四角形のないグラフ

定理 61 (Reiman, 1958) G を n 頂点の四角形を持たないグラフとする.このとき,次が成り立つ.

|E(G)| ≤⌊n4

(1 +

√4n− 3

)⌋.

定理 61 の証明. G を n 頂点の四角形を持たないグラフとする.このとき,次の集合 S

を 2通りに数える.

S ={(

u, {v, w}): v = w かつ uv, uw ∈ E(G)

}.

ただし,(u, {v, w}

)∈ S に対し,vw が G の辺であるかどうかは気にしない.まず,頂

点 u から見ると,

|S| =∑

u∈V (G)

(dG(u)

2

)=

1

2

∑u∈V (G)

(dG(u)

)2

− 1

2

∑u∈V (G)

dG(u)

が得られる.次に,Gは四角形を持たないことから,任意の頂点対 {v, w}に対し,(u, {v, w}

)∈

S となる頂点 u は高々一つしか存在しない.したがって,|S| ≤(n2

)である.これらより,

1

2

∑u∈V (G)

(dG(u)

)2

− 1

2

∑u∈V (G)

dG(u) ≤(n

2

)

が得られ,変形すると次が導かれる.∑u∈V (G)

(dG(u)

)2

≤ n(n− 1) +∑

u∈V (G)

dG(u).

ここで,補題 59 より,( ∑u∈V (G)

dG(u))2

≤ n2(n− 1) + n∑

u∈V (G)

dG(u)

であるが,握手補題より∑

u∈V (G)

dG(u) = 2|E(G)| であるため,結局,

4(|E(G)|

)2 − 2n|E(G)| − n2(n− 1) ≤ 0

である.この 2次不等式を解くことで |E(G)| の上界が得られる. □

演習 36 G を n 頂点で K2,3 に同型な部分グラフを持たないグラフとする.このとき,|E(G)| の上界が n3/2 の定数倍であることを示せ.ヒント:定理 61 の証明と同様の方法を用いよ.特に,同じ定義の S に対し,この場合の|S| の上界を考えよ.

演習 ∗ t ≥ 2 に対し,G を n 頂点で K2,t に同型な部分グラフを持たないグラフとする.このときの G の辺数の上界を,同様にして与えよ.

44

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定理 61 の上界はほぼ最善であることも知られている.すなわち,次の定理が成り立つ.この証明において用いられている手法も,前章に現れた有限幾何である.(実際に,ここでの n の値で p = t− 1 とおくと演習 30 で現れる n の値となるが,これは偶然ではない.)

定理 62 任意の素数 p と n = p2 + p+ 1 に対し,四角形を持たないような n 頂点のあるグラフ G で次が成り立つ.

|E(G)| =n− 1

4

(1 +

√4n− 3

).

証明. 素数 p を法とする有限体 Zp 上の 3次元ベクトル空間 X を考える.すなわち,

X ={v = (v1, v2, v3) : vi ∈ Zp, i = 1, 2, 3

}で,演算として各座標の Zp での和を考える.(以下注意しないが,和は Zp で考える.)

ここで,X の一つのベクトル v に対し,[v] で v が生成する 1次元部分空間を表す.(ただし v = 0 = (0, 0, 0) とする.) すなわち,

[v] ={u : u = kv, 0 ≤ k ≤ p− 1

}である.特に,

∣∣[v]∣∣ = p となる.ここで,グラフ Gp を次のように定義する.

V (Gp) ={[v] : v ∈ X − {0}

},

かつ E(Gp) ={[v][w] : [v] = [w], ⟨v,w⟩ = v1w1 + v2w2 + v3w3 = 0

}.

ここで “⟨v,w⟩ = 0” である,という性質は [v] と [w] の代表元の取り方に依存しないため,この定義は well-defined である.(すなわち,kv ∈ [v] に対し,⟨v,w⟩ = 0 ならば⟨kv,w⟩ = 0 である.)

演習 37 p = 3 のとき,上のグラフ G3 を図示せよ.

このとき,各 1次元部分空間 [v] は 0 でないベクトルをちょうど p − 1 個含み,ベクトル空間 X は 0 でないベクトルをちょうど p3 − 1 個含む.また,X の二つのベクトルv と w に対し,[v] ∩ [w] = {0} であるか [v] = [w] であるため,

|V (Gp)| =p3 − 1

p− 1= p2 + p+ 1 = n

である.ここで Gp の 2頂点 [v]と [w]に対し,Gp において共通近傍 [u]が存在したと仮定する.

つまり,[u][v], [u][w] ∈ E(Gp) である.このとき,Gp の辺の定義より,u = (u1, u2, u3)

は次の線形方程式系の解 x = (x1, x2, x3) となる:

v1x1 + v2x2 + v3x3 = 0,

w1x1 + w2x2 + w3x3 = 0.

ただし,v = (v1, v2, v3) かつ w = (w1, w2, w3) としている.ここで [v] と [w] は Gp の異なる頂点であり,そのため v と w は 1次独立である.したがって,上の線型方程式系の

45

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解空間の次元は 1 であり [u] がその 1次元部分空間と一致する.これより,[v] と [w] のGp における共通近傍 [u] は一つしかなく,Gp に四角形は存在しない.最後に,Gp の辺数を握手補題によって与える.Gp の各頂点 [v] に対し,線形方程式系

v1x1 + v2x2 + v3x3 = 0

を考えると,その解空間 Xv の次元は 2 となる.特に,Xv は 0 でないベクトルをちょうど p2 − 1 個含み,X の各 1次元部分空間は 0 でないベクトルをちょうど p− 1 個含むため,Xv はちょうど

p2 − 1

p− 1= p+ 1

個の 1次元部分空間を含む.頂点 [v] の Gp での近傍はこの 1次元部分空間たちであり,したがって,次数は高々

p+ 1 である.これより,2|E(Gp)| ≤ (p+ 1)n であり,n = p2 + p+ 1 から得られる等式p = −1+

√4n−32

を使い,

|E(Gp)| ≤ (p+ 1)n

2=

n

4

(1 +

√4n− 3

)は得られる.

これをもっと詳しく見よう.上の Xv は,ちょうど p+ 1 個の 1次元部分空間を含む.これらが [v] の Gp での近傍のように見えるが,この p+1 個のうちの一つは自分自身 [v]

かもしれず,その分を除く必要がある.したがって,Gp の各頂点 [v] に対し,次のことが成り立つ.

dGp([v]) =

{p+ 1 (v1)

2 + (v2)2 + (v3)

2 = 0 のとき,

p (v1)2 + (v2)

2 + (v3)2 = 0 のとき.

(7)

そこで,次数が p の頂点の数を決めるため,方程式 (x1)2 + (x2)

2 + (x3)2 = 0 の解 x =

(x1, x2, x3) の個数を調べる必要がある.実際に次が成り立つ.

主張 62.1 方程式 (x1)2 + (x2)

2 + (x3)2 = 0 の解は,ちょうど p+ 1 個の [v] からなる.

主張 62.1 の証明は後に回し,まずは,これが正しいとして定理 62 の証明を完了させる.主張 62.1 と式 (7) より,Gp で次数が p であるような [v] はちょうど p+ 1 個である.

ここで Gp の頂点数が p2 + p+ 1 であることから,次数 p+ 1 の頂点はちょうど p2 個存在し,

2|E(Gp)| = p(p+ 1) + (p+ 1)p2 = p(p+ 1)2

である.さらに n = p2 + p+ 1 を使って計算を進め,

|E(Gp)| =p(p+ 1)2

2=

p2 + p

4

(1 + (2p+ 1)

)=

n− 1

4

(1 +

√4n− 3

)となり,証明が終了する.したがって,後は主張 62.1 を示せばよい.

主張 62.1 の証明.X の 1次元部分空間を適当な順で [v(1)], [v(2)], . . . , [v(n)] と書く.これに対し,次のよ

うな n× n の行列 A を考える:

46

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A の i行 j列の成分は,⟨v(i),v(j)⟩ = 0 のとき 1 で,そうでないとき 0.

このとき,v(i) が方程式 (x1)2 + (x2)

2 + (x3)2 = 0 の解であるための必要十分条件は,

⟨v(i),v(i)⟩ = 0 であることなので,A の定義より,主張 62.1 を示すためには A の対角成分にある 1 の個数がわかれば良い.そのために,A の trace (対角成分の和) を計算する.ここで用いる性質は下のものである:

trace A = (A の固有値の和).

さらに A の固有値を求めるために,A2 を考える.特に,

• A の i行は,線形方程式系

v(i)1 x1 + v

(i)2 x2 + v

(i)3 x3 = 0

の解 x = (x1, x2, x3) たちで作られる 1次元部分空間に対応する箇所に 1 が与えられている.(ただし,v(i) = (v

(i)1 , v

(i)2 , v

(i)3 ) とおいている.) すでに見たように,その

ような 1次元部分空間は p+ 1 個存在する.したがって,A2 の i 行 i 列成分 (対角成分) は p+ 1 となる.

また,各行の和が p+ 1 なので,p+ 1 が A の固有値である.なぜならば,1 を全成分が 1 のベクトルとすると,A1 = (p+ 1)1 であるため,p+ 1 が A の固有値で1 が対応する固有ベクトルとわかるからである.

• A の第 i 行と第 j 行を考える.これは,上と同様に考えると,線形方程式系

v(i)1 x1 + v

(i)2 x2 + v

(i)3 x3 = 0

v(j)1 x1 + v

(j)2 x2 + v

(j)3 x3 = 0

の解 x = (x1, x2, x3) に対応する箇所で同時に 1 が与えられている.そのような解は,やはりすでに見たように,ちょうど一つの 1次元部分空間をなしている.これが A2 の i行 j列の成分に対応しており,その値は 1 である.

以上より,A2 は次のような形をしている.

A2 =

p+ 1 1 · · · 1

1 p+ 1 · · · 1...

.... . .

...

1 1 · · · p+ 1

= pI + J.

ただし,J はすべての成分が 1の n×nの正方行列で,I は単位行列である.ここで,J は固有値 n (重複度 1) と 0 (重複度 n− 1) を持つ.したがって,A2 は固有値は n+ p (重複度 1)と p (重複度 n−1)を持つ.Aは実対称行列で対角化可能であるので,Aの固有値は±√n+ p (重複度 1)と ±√p (合わせて重複度 n−1)である.上で述べたように p+1が A

の固有値であるが,これが一つ目のものに対応している.(√n+ p =

√p2 + 2p+ 1 = p+1

に注意.) これより,A の固有値において√p の重複度を s,−√p の重複度を t とそれぞ

れおくと,trace A = (A の固有値の和) = (p+ 1) + s

√p− t

√p

47

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であるが,A の対角成分の和は整数であり p は素数であるため,s = t が成り立ち,A の対角成分の和はちょうど p+ 1 である.これで主張 62.1 の証明が終了した. □

演習 ∗ p = 3 のとき,上の証明中の行列 A と A2 を与えよ.

48

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6 グラフの交差数

6.1 完全 2部グラフの交差数

グラフを平面上に描いた際にできる辺同士の交点の数を考える.ただし,グラフの描画には次の条件を課す.

• 各辺はその端点以外の頂点とは交わらない.

• 辺同士は “交差的に”交わる.

• 3辺が交わっている交点は存在しない.

グラフ G に対し,これらの条件を満たす描画で最小の交点の数をG の交差数といいcr(G) と書く.定義より,「G が平面的であるための必要十分条件は cr(G) = 0 であること」が自然に導かれる.完全 2部グラフ K3,3 は平面的ではないグラフとして有名だが,さらに cr(K3,3) = 1 であることが知られている.これの拡張として,G が完全 2部グラフの場合において以下の予想が提案されている.

予想 63 (Truan, 1940s) 正の整数 n,m に対し,次が成り立つ.

cr(Kn,m) =⌊n2

⌋⌊n− 1

2

⌋⌊m2

⌋⌊m− 1

2

⌋.

注意:Kn,m の交差数 cr(Kn,m) は高々(n2

)(m2

)であることが簡単にわかる (なぜか?).

予想 63 は,その自明な上界が最善の値と (係数を除いて) 漸近的には近いものであると示唆している.

定理 64 予想 63 の上界 (≤) は正しい.

証明. 例えば K5,6 の場合は図 38 のように描画すればよい.一般の場合は次の演習で求めよ. □

図 38: K5,6 の最適と思われる描画.

49

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演習 39 一般の n,m に対し,図 38 を参考に最適と思われる埋め込みを与えよ.またその交点数が,予想 63 の式の右辺と一致することを示せ.

ここでは,予想 63 の n = 3 の場合を定理 58 を用いて示す.

定理 65 予想 63 は K3,m の場合は正しい.

証明. 定理 64 より上界は正しいので,下界のみを示せばよい.すなわち,K3,m の任意の描画において,交点が⌊3

2

⌋⌊22

⌋⌊m2

⌋⌊m− 1

2

⌋=

⌊m2

⌋⌊m− 1

2

⌋個以上存在することを示す.

y1

y2

y3

x1

x2

x3

y1 y3

y2

y4 y4

図 39: K3,4 の描画とそれからできるグラフ H.(X = {x1, x2, x3} としている.)

K3,m の頂点を X ∪ Y とおく.ただし,3 頂点側の頂点集合を X,m 頂点側の頂点集合を Y とする.また y ∈ Y に対し,y に接続する K3,m の辺の集合を E(y) とおく.すなわち,|E(y)| = 3 である.ここで,K3,m の一つの描画 φ に対して,Y を頂点集合とするグラフ H を次のように構成する.

Y の 2頂点 y1, y2 に対し,E(y1) のある辺と E(y2) のある辺が φ において交わるとき,かつそのときに限り,H において y1 と y2 を辺で結ぶ.

つまり,E(H) = {y1y2 : E(y1) と E(y2) が φ において交差する }

である.(図 39 参照) このとき,φ における交点の数は少なくとも |E(H)| 以上であるため,

|E(H)| ≥⌊m2

⌋⌊m− 1

2

⌋を示せばよい.そのために,H の補グラフ H を考える.これは,H と同じ頂点集合を持ち,H において隣接しない 2頂点を辺で結んだグラフである.(すなわち,E(H) = {y1y2 :y1y2 ∈ E(H)} である.) ここで,K3,3 が平面的でないことより,次の主張が成り立つ.

主張 65.1 H は三角形を持たない.

仮に,H が三角形 y1y2y3 を持ったとすると,H と H の定義より E(y1), E(y2), E(y3) のどの辺も交差しないが,これは X と y1, y2, y3 による K3,3 が辺の交差なく平面に描けていることになり,K3,3 が平面的ではないことに矛盾する.

50

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したがって,定理 58 より H の辺数の上界が計算できる.すなわち,

|E(H)| ≤⌊m2

⌋⌈m2

⌉である.これより |E(H)| の下界が求まる.

|E(H)| =

(m

2

)− |E(H)| ≥ m(m− 1)

2−⌊m2

⌋⌈m2

⌉=

⌊m2

⌋⌊m− 1

2

⌋. □

また,次の漸化式が知られており,これより,予想 63 は n (および m) が奇数のときが本質的であるとわかる.

定理 66 任意の正の整数 n,m に対し次が成り立つ.

cr(Kn,m) ≥n

n− 2cr(Kn−1,m).

証明. 完全 2部グラフ Kn,m の平面への描画で交点数が最小のものを考える.このとき,次の集合 S を 2通りに数える:

S ={(p,H) : p は Kn,m の描画における交点,

H は Kn−1,m と同型な部分グラフで p がやはり交点となるもの}.

まず,Kn,m において,n 頂点側の部集合のうちの n− 1 頂点を固定し,Kn−1,m と同型な部分グラフ H を考える.交差数の定義より,H は少なくとも cr(Kn−1,m) 個の交点を持つ.また,そのような H の選び方は n 通りあり,したがって,

|S| ≥ n · cr(Kn−1,m)

である.一方で,Kn,m の各交点 p を考える.交点 p には Kn,m の n 点側の部集合のうちの 2頂点が関わり,その 2 頂点を含むような H で p はやはり交点となっている.そのような H は n− 2 個存在し,交点 p は cr(Kn,m) 個存在するため,

|S| = (n− 2) · cr(Kn,m)

を得る.これより,定理 66 の証明が完了する. □

演習 40 定理 66 を利用し,予想 63 は n が奇数のときのみを解けばよいことを示せ.特に,予想は K4,m の場合には正しいが,これを示せ.

なお,完全グラフ Kn の交差数 cr(Kn) についても完全 2部グラフのときと同様の予想が提案されている.これも,上界は示されている.すなわち,Kn の “良さそうな”描画が示されており,残る問題はそれが最善であると示すことである.

予想 67 (Hill, 1960) 正の整数 n に対し,次が成り立つ.

cr(Kn) =1

4

⌊n2

⌋⌊n− 1

2

⌋⌊n− 2

2

⌋⌊n− 3

2

⌋,

51

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演習 ∗ 予想 67 の上界は正しいことを,Kn の “良さそうな”描画を与えることで示せ.

この予想は n ≤ 12 では正しいことが示されているが,一般には難しい.また,次の演習より,予想 67 は n が奇数のときが本質的であるとわかる.

演習 41 任意の正の整数 n に対し,次が成り立つことを示せ.

cr(Kn) ≥n

n− 4cr(Kn−1).

なお,交差数にはさまざまなバリエーションが知られており,それぞれで上のような問題が考えられている.例えば,“各辺を直線分で描く” という制限を付けたものは線形交差数 (rectilinear crossing number) と呼ばれている.これに関しては,完全グラフ Kn において n ≤ 27 まで決定されている.

演習 42 cr(K6) = 3 を示せ.

6.2 交差数の一般的な下界

本項では,グラフ G の交差数 cr(G) の二つの下界を示す.特に,二つ目は交差補題という名前で知られているものであり,一つ目の補題を用いて証明する.

補題 68 単純グラフ G に対し,n = |V (G)|, m = |E(G)| とする.このとき,cr(G) ≥m− 3n が成り立つ.

補題 68 の証明. 単純グラフ G に対し,n = |V (G)|, m = |E(G)| とおき,G を辺の交点を許して平面に描画する.このときの交点数を t としたとき,t ≥ m− 3n を示せばよい.ここで,各交点を新しい頂点に変更してできる平面グラフ G′ を考える.なお,G の描画で上の条件を仮定したため,この平面グラフ G′ は単純グラフである.

G′ の頂点数は |V (G′)| = n+ t であり,また,一つの新しい頂点に対し,その交点に関わる 2辺が 4辺へと分割されることから |E(G′)| = m+ 2t がわかる.また,オイラーの公式から得られる平面グラフの辺数の上界 |E(G′)| ≤ 3|V (G′)| より得られる不等式

m+ 2t ≤ 3(n+ t

)− 6

を解いて,t ≥ m− 3n+ 6 を得る. □

演習 ∗ オイラーの公式を用いると,平面グラフ H の辺数の上界 |E(H)| ≤ 3|V (H)| が得られる.これに関して,以下の 3つに解答せよ.

• |E(H)| ≤ 3|V (H)| を証明せよ.

• “ある条件” を仮定すると,|E(H)| ≤ 3|V (H)| − 6 が成り立つ.この “ある条件” を与えよ.

• 上の “ある条件” を仮定しないと,|E(H)| ≤ 3|V (H)| − 6 が成り立たない場合が存在する.その例を示せ.

52

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定理 69 (交差補題) 単純グラフ G に対し,n = |V (G)|, m = |E(G)| とする.このとき,m ≥ 4n ならば以下が成り立つ.

cr(G) ≥ m3

64n2.

定理 69 の証明. 単純グラフ G の平面への最適な描画を考える.ここで,G の各頂点を独立に確率 p (0 ≤ p ≤ 1) で選び,選ばれた頂点たちによって誘導されるグラフを Gp と書く.(すなわち,各辺 xy は x も y も共に選ばれる,かつそのときに限り Gp に属すとする.) np,mp および Xp をそれぞれ,Gp における頂点数,辺数,交差数を表す確率変数とする.補題 68 より,任意のグラフ H で cr(H)− |E(H)|+3|V (H)| ≥ 0 であるので,期待値に対しても,

Ex(Xp −mp + 3np) ≥ 0

が成り立つ.ここで,個々の期待値 Ex(np),Ex(mp),Ex(Xp) を計算する.G の各頂点は独立に確率

p で選ばれるため,Ex(np) = pn である.また,G の各辺はその両端点がともに選ばれるとき,かつそのときに限り選ばれるため,Ex(mp) = p2m が得られる.同様に,G の各交点に対し,その交点が Gp でも交点であるための必要十分条件は,その交点に関わる 2辺がともに Gp に存在すること,すなわち,その交点に関わる 4頂点がすべて Gp に存在すること,である.したがって,Ex(Xp) = p4cr(G) である.よって,期待値の線形性から

0 ≤ Ex(Xp)− Ex(mp) + 3Ex(np) = p4cr(G)− p2m+ 3pn

となり,変形して以下を得る.

cr(G) ≥ m

p2− 3n

p3.

ここで,p = 4n/m とおく.仮定から m ≥ 4n なので,確かに p ≤ 1 である.このとき,上式より次を得る.

cr(G) ≥ m(4n/m

)2 − 3n(4n/m

)3 =1

64

(4nm3 − 3nm3

n3

)=

m3

64n2. □

6.3 交差補題の応用

交差数の応用として,次の離散幾何のものが知られている.

定理 70 平面上の点の n 点の集合 S に対し,

A ={{p, p′} : p, p′ ∈ S, p と p′ 間の距離はちょうど 1 である

}とおくと,次が成り立つ.

|A| < 8n4/3.

証明. S の各点 p に対し,p を中心とした半径 1 の単位円 Cp を描く.このとき,次の主張を認めても一般性を失わない.

1/19 注:講義中では下の主張を忘れていたため,証明中の式に反例が存在し誤った証明となってしまった.申し訳ないが,下の主張を認めたうえで各自で議論を完成させてほしい.

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主張 70.1 任意の点 p ∈ S は少なくとも二つの単位円 Cp′ , Cp′′ 上にあるとしてよい.また,任意の点 p ∈ S に対応する単位円 Cp 上には少なくとも二つの S の点が含まれる.

主張 70.1 は,そうでないとすると,p ∈ S を適当に動かすことで |A| を増加させられることからわかる.二つ目の命題は「点 p が単位円 Cp′ に含まれる ⇔ 単位円 Cp が点 p′

を含む」という関係からただちに成り立つ.

このとき,B =

{(p, Cq) : p, q ∈ S, 点 p は単位円 Cq 上にある

}とおくと,|B| = 2|A| である.ここで,次のグラフ G を構成する.

V (G) = S

E(G) = {pp′ : ある q ∈ S に対し,p, p′ は単位円 Cq 上の点,かつ

Cq は p と p′ を結ぶ内部に S の点を含まない弧を持つ}.

この G は,E(G) の定義にある Cq の弧を用いた自然な描画を持っている.特に,二つの単位円 Cq と Cq′ は高々 2回しか交わらないため,G の交差数 cr(G) は次を満たす.

cr(G) ≤ 2

(n

2

)< n2.

一方で,cr(G) の下界を補題 69 (交差補題) を用いて与える.まず,主張 70.1 より,G

はループを持たない.また,2 点 p, p′ に対し,p と p′ をともに含む単位円 Cq は高々 2

つしか存在せず,そのような q ∈ S は B のちょうど 2 つの要素 (p, Cq) と (p′, Cq) を誘導する.したがって,

|E(G)| ≥ 1

4|B| =

1

2|A|

が成り立つ.ここで,|E(G)| ≤ 4n = 4|V (G)|であるときは,|A| ≤ 2|E(G)| ≤ 8n ≤ 8n4/3

であり,定理が成り立つため |E(G)| > 4n であるとしてよい.よって,G は交差補題の仮定を満たすため,

cr(G) ≥ 1

64

|E(G)|3

n2≥ 1

512

|A|3

n2

を得る.したがって,以上より

|A|3 ≤ 512n2 · cr(G) < 512n4

が成り立ち,所望の上界を得て定理 70 の証明が完了する. □

定理 70 において,|A| の上界が O(n4/3) であることを示したが,これは最善ではないと思われている.実際に,次の予想が知られている.なお,Erdos はこの予想に $500 の賞金をかけている.

予想 71 (Erdos, 1946) 定理 70 における A に対し,ある定数 a, c が存在して,十分大きな n に対し,

|A| ≤ a · n1+c/ log logn

が成り立つ.

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6.4 交差補題の応用2

定理 72 (Szemeredi and Trotter, 1983) 平面上の点の集合 S と直線の集合 Lに対し,次が成り立つ.

A ={(p, ℓ) : p ∈ S, ℓ ∈ L, 頂点 p は直線 ℓ 上にある

}とおくと,次が成り立つ.

|A| ≤ max{4|S|+ |L| − 1, 4|S|2/3 |L|2/3 + |L|

}.

証明. 以下は Szekely による証明である.まず,L のすべての直線は少なくとも一つの頂点を含むとしてよい.ここで,次のグラ

フ G を考える.

V (G) = S,

E(G) = {(p, p′) : p と p′ はある直線 ℓ ∈ L 上で連続している }.

演習 43 このグラフ G の交差数を考えることで,定理 72 の証明を完成させよ.

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