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10 中学生 教科書の 特色を生かした 授業案 はじめに この単元は、日本の近代化とアジアへの進 出、国際地位の向上とが重層的になっており、 とくに日本が欧米列強に「追いつく」ことを めざして戦った日清戦争と日露戦争は、その 後の日本の進路に大きな影響を及ぼしている。 つまり2つの対外戦争をとおして、日本は朝 鮮半島および中国大陸へ進出し、条約改正を 果たして列強の仲間入りをした。その後、第 一次世界大戦に参戦し、さらに海外への進出 を強める歴史をたどることになった。 第5章 近代日本の歩みと国際社会 4節 アジアの日本から世界の日本へ 1 朝鮮の支配を争った日清戦争 2 日露戦争と日本の立場 3 ぬりかえられたアジアの地図 4 近代日本をささえた「糸」と「鉄」 5 「一等国」の光と影 し公正に判断する」こと、すなわちさまざま な立場を考察して歴史の理解につなげる取り 組みが大事である。 教科書の特色 この教科書は「歴史の勉強は、考える・な ぞを解く歴史」(口絵2)という方針のもとさ まざまな工夫がされている。たとえば、各時 代を映し出すイラストの「タイムスリップ」 や実際の出土材料などから行う歴史のなぞ解 きの「歴史に挑戦」、当時の暮らしや生活を疑 似体験し報告している「体験リポート」、時代 を深く掘り下げる「歴史の舞台」などである。 その他、関係写真や地図・イラストなどの資 料も豊富に載せている。 さらに、教科書の見開きページの右下にあ る「やってみよう」は、1時間の単元のねら いをより深化させ る発展的な取り組 みとなっている。 時間に工夫をして 取り組みたい内容 で、選択教科で実 施することも可能 である。 アジアの日本から世界の日本へ 大阪市公立中学校教諭 日本にとって近代戦争の始まりの歴史であ り、現在のアジア諸国との複雑な関係が生じ る原点と位置づけられる歴史である。 今回、2つの戦争をとおして学習指導要領 における歴史分野の目標の「わが国と諸外国 の歴史や文化が相互に深くかかわっているこ とを考えさせる」ことや「さまざまな資料を 活用して歴史的事象を多面的・多角的に考察 「中学生の歴史 初訂版」より このような教科書の特色を生かして「アジ アの日本から世界の日本へ」の単元に取り組 みたい。とくに「日清戦争」 「日露戦争」を中 「中学生の歴史 初訂版」p.171
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アジアの日本から世界の日本へ...10 11 歴史 中学生の 教科書の 特色を生かした 授業案 はじめに この単元は、日本の近代化とアジアへの進

Feb 29, 2020

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10 11

歴 史中学生の

教科書の特色を生かした授業案

��はじめに

 この単元は、日本の近代化とアジアへの進

出、国際地位の向上とが重層的になっており、

とくに日本が欧米列強に「追いつく」ことを

めざして戦った日清戦争と日露戦争は、その

後の日本の進路に大きな影響を及ぼしている。

つまり2つの対外戦争をとおして、日本は朝

鮮半島および中国大陸へ進出し、条約改正を

果たして列強の仲間入りをした。その後、第

一次世界大戦に参戦し、さらに海外への進出

を強める歴史をたどることになった。

第5章 近代日本の歩みと国際社会

 4節 アジアの日本から世界の日本へ

  1 朝鮮の支配を争った日清戦争

  2 日露戦争と日本の立場

  3 ぬりかえられたアジアの地図

  4 近代日本をささえた「糸」と「鉄」

  5 「一等国」の光と影

し公正に判断する」こと、すなわちさまざま

な立場を考察して歴史の理解につなげる取り

組みが大事である。

��教科書の特色

 この教科書は「歴史の勉強は、考える・な

ぞを解く歴史」(口絵2)という方針のもとさ

まざまな工夫がされている。たとえば、各時

代を映し出すイラストの「タイムスリップ」

や実際の出土材料などから行う歴史のなぞ解

きの「歴史に挑戦」、当時の暮らしや生活を疑

似体験し報告している「体験リポート」、時代

を深く掘り下げる「歴史の舞台」などである。

その他、関係写真や地図・イラストなどの資

料も豊富に載せている。

 さらに、教科書の見開きページの右下にあ

る「やってみよう」は、1時間の単元のねら

いをより深化させ

る発展的な取り組

みとなっている。

時間に工夫をして

取り組みたい内容

で、選択教科で実

施することも可能

である。

アジアの日本から世界の日本へ大阪市公立中学校教諭

 日本にとって近代戦争の始まりの歴史であ

り、現在のアジア諸国との複雑な関係が生じ

る原点と位置づけられる歴史である。

 今回、2つの戦争をとおして学習指導要領

における歴史分野の目標の「わが国と諸外国

の歴史や文化が相互に深くかかわっているこ

とを考えさせる」ことや「さまざまな資料を

活用して歴史的事象を多面的・多角的に考察

「中学生の歴史 初訂版」より

 このような教科書の特色を生かして「アジ

アの日本から世界の日本へ」の単元に取り組

みたい。とくに「日清戦争」「日露戦争」を中

「中学生の歴史 初訂版」p.171

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心に、生徒が主体となって多面的・多角的に

取り組めるように、教科書の資料とワークシ

ートそして班学習を活用した授業を行う。班

学習は自分の意見や相手の意見を交流する場

面が設定でき、それによって相互の学び合い

とその深化が期待できるからである。

 以下は、それらを取り入れた授業案である。

��「日清戦争」をあつかった授業案

 日清戦争にいたった過程と結果を簡単に学

習した後、ビゴーが描いた図を見て次のよう

な問いを設定して考えさせる。

問1.どのような場面か説明をせよ。またそ

う思った理由を書きなさい。

 上の風刺画を見て、国名を確認し問1の答

えを求める。またそう考えたその理由を述べ

させる。すぐに列強クラブの集まり、または

帝国主義諸国の仲間入りと理解できればよい

が、そうでなければ、共通点を見出すように

ヒントをあたえる。

問2.ヨーロッパ各国の人物が、アジア人で

ある日本が入ってくる姿を見てどのよ

うなセリフをいうか考えよう。

「中学生の歴史 初訂版」p.170

 ここではおもに、イギリスやドイツ、ロシ

アを中心にセリフを考えさせたい。たとえば、

イギリスの立っている位置(入り口にいて日

本の後側に立っている)、その表情に注目させ

てセリフを書かせる。同様にロシアの場合は、

その態度と手前に座っている位置から列強に

おける立場が推測できるだろう。ドイツは当

時の日本との関係(伊藤博文らがドイツに憲

法の研究に行った)を復習しながらセリフを

考えさせる。

『脱亜論』

    福沢諭吉

今日の謀を為すに、わが国は隣

国の開明を持って、共にアジア

を興すの猶予ある可からず、寧

ろ其伍を脱して西洋の文明国と

進退を共にし、其支那(中国)

挑戦に接するの法も、隣国なる

が故にと特別の会釈に及ばず、

正に西洋人が之に接するの風に

従いて処分す可きのみ。悪友に

親しむ者は、共に悪名を免かる

可らず。我れは、心に於てアジ

ア東方の悪友を謝絶するものな

り。 (時事新報の社説より)

「中学生の歴史 初訂版」p.171(左)、インターネットで検索し抜粋する(右)

問3.風刺画の日本の姿を見た朝鮮の人々や

中国の人々の立場に立って、隣国の日

本人へ意見を述べよう。

 セリフを入れたビゴーの風刺画と「朝鮮の

遣日視察団」、「脱亜論」、教科書p.171の本文

「遼東半島・台湾などとともに、2億両(当

時の日本の国家予算の3.6倍)の賠償金をえ

ました。」を読み、これらの資料から朝鮮と

中国の人々がどう思ったか考えさせる。生徒

が答えやすいように、「日本人よ」の書き出し

からそれぞれの立場で意見を書かせる(なお

歴 史

歴 史中学生の

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「脱亜論」はインターネットより簡単に検索

し抜粋できる。その経緯も含め生徒には現代

語訳にして紹介する)。

朝鮮の人々 日本人よ、

中国の人々 日本人よ、

 日清戦争のまとめとして次の4コマ漫画の

①~④に日本人のセリフを書かせる。

 日清戦争前とその結果を背景に日本が列強

と肩を並べ、しかも追い越して列強を小さく

見ようとするおごりに注意して日本の意識の

変化に対する自分の意見を書かせる。

 意識の変化にたいする生徒の意見も聞く。

生徒の意見

・日本は、戦争に勝って自分が強くなったと

思って、えらそうにしだした。うれしかっ

たと思う。

・最初は外国より弱かったのに、外国が意外

と弱いとわかってバカにしだしたと思う。

「中学生の歴史 初訂版」p.170

��「日露戦争」をあつかった授業案

 日露戦争前の国際関係をワークシートで確

認をしてそれぞれの利害関係をしっかり押さ

えたい(p.14のワークシート参照)。

問1. 次の風刺画の場面を説明しよう。

 場面説明をさせる前に、気づいたことを書

かせる。たとえば、ロシア人と日本人の体格

の差は何を意味しているのか、ロシアはどう

して両手を後ろにしているのか、回りで見て

いる人たちはどんな表情か、幕の上から覗い

ている人はどこの国の人か、どんな思いで見

ているのか、など。生徒が疑問を持てば、簡

単に話し合わせて、日露戦争前の世界の見方

であることを説明する。

問2.開戦論と非戦論を読み、自分はどちら

の立場におき、自分と異なる意見に対

して反論を書いてみよう。

 班活動でそれぞれの内容を整理して話し合

い、班ごとに開戦論を支持する側と非戦論を

支持する側に立たせて相手への反論を書かせ

て意見交換する。

「中学生の歴史 初訂版」p.172

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   論への反論

問3.資料⑤⑥を見て、自分が当時の国民だ

ったら、戦争に対してどんな意見(賛

成か反対)になるか書いてみよう。

戦争に対して、

と思う

生徒の意見

・戦争に勝てば賠償金がもらえてもうかると

と思っていたのに、とれずに損だから戦争

を進めた国に腹を立てたと思う。

・税金は重たくなるし犠牲者も出したのに、

よいことはない。損をしただけと思ったと

思う。

「中学生の歴史 初訂版」p.173⑥⑤

問4.日比谷焼き討ち事件をおこした人の立

場で意見を書いてみよう。

政府への意見

問5.条約改正までの経緯を見て、感想を書

こう。

「中学生の歴史 初訂版」p.173

改正まで何年かかったのだろうか?

・日米修好通商条約の締結は    年(不平等条約)

・治外法権の撤廃は        年

改正まで   年間かかる

・関税自主権の回復は       年

回復まで   年間かかる

改正の努力を知って感想を書いてみよう。

生徒の意見

・治外法権の撤廃に41年、関税自主権の回復

に53年もかかったことを知ってびっくりし

た。

・当時の政府は大変な苦労をして条約改正し

たことがわかった。

歴 史

歴 史中学生の

「中学生の歴史 初訂版」p.173

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��評  価

 歴史学習における評価については、その単

元のねらいに基づいて「評価規準表」が作成

され、「関心・意欲・態度」「思考・判断」「技

能・表現」「知識・理解」にわけて評価するこ

とになっている。

 その評価をする場合、ワークシートであら

かじめそれぞれの観点別の課題や質問を設定

すれば、後で評価しやすくなる(上記ワーク

シートの例を参照)。

 ただ、細かく評価することは時間的に厳し

いので、1枚のワークシートで4観点のうち

1つか2つまでとしたい。また自己評価、理

解度の確認は、「関心・意欲・態度」の観点

で評価するとよいと思われる。

��さいごに

 日清戦争、日露戦争を通して日本が列強諸

国の仲間入りを果たす歴史の流れは、国外、

国内のそれぞれの立場で日本の近代化政策に

対する評価が異なるところである。それを教

科書では節の最後に「一等国の光と影」の項

目でまとめている。それゆえ、本単元は日朝

関係・日中関係の現在につながる歴史的なこ

とがらなので、相手国の立場や日本の立場、

当時の国際関係を多面的・多角的に理解させ

たいところである。

 それぞれの立場の資料を使い、意見を書か

せ、お互いに交流する取り組みは時間がかか

るが、「学び方を学ぶ」には必要な学習過程だ

と思われる。さらに工夫をして取り組みたい。

日露戦争と日本の立場(ワークシート) 1.下図の   に次の適語を入れよう。         【知識・理解】    (ロシア 日本 イギリス 南下 三国干渉 日英同盟)

(1895年       ) で 反発     政策

中国(清) 朝 鮮 ←支配―

支配 接近1902年      を結ぶ(ロシアの南下政策に対抗)

2.日本の世論に対してそれぞれの意見に反論を書いてみよう【思考・判断】

開戦論の内容 開戦論に対する反論

非戦論の内容 非戦論に対する反論