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〔日本化学療 法学会第1回総会特別講 演〕 亜急性細菌性心内膜炎の治療 1緒 抗生剤選択について ペ ニ シ リン投 与 量 と投 与 法 Wペ ニ シ リン 中止 期 の決 定 と再 発 例検 討 Vペ ニ シ リン難 治 症 の対 策 VI併 用療 法 につ い て 治療 失 敗 例 の検 討 璽X予 防 と成 因の問鷺 X結 1.結 亜急性細菌性心内膜炎(以下 「亜 」または本症)は, 往時その診断確定が恰も死の宣告であつたと申して差支 え な いほ ど死 亡 率 の高 い,治 癒 軽 侠 の望 薄 い疾 病 で あつ た ことは 周 知 の とお りであ るが,近 年 抗生剤 の出現に よ り治癒 を期待 し うるに至 り,欧米 では70・v80%の 治癒 率 を あげ てい る。こ れ実 に抗 生 剤 療 法 の輝 か しい 成果 で あ る。し か し乍 ら,一 面 に お い て抗 生 剤 使 用 法 の 如何 に よつては,必 ず しもそ う容易に こ うい う良果 を得 られる もの で ない 事 笑 も吾 々は 経 験 して い る。し か も本 症 は, 戦 後 にお い ては 多 発 す る とさえ 云 われ て い る し,ま た近 来 そ の診 断 法 の進歩 と ともに比 較 的 しば しば 見 られ る よ うに なつ た。試 みに わ が 慶 大病 院 の入 院 統 計 を み る と, 本 症 は 終 戦 後 か ら昭 和25年12月 迄 の 間で は,内 科 全 入院患者の1・53%,昭和26年 では3.30%に達 し, さほ ど稀有 の疾 患 とは い え な い の で あ る。以 下 「亜 」 の 治 療 に つ い て述 べ る が,多 少 と も各 位 の御 参 考 とな れ ば 幸 甚 の至 りで あ る。 抗生剤の選択について (1)抗生 剤 の長 所短 所 本痒治療 の上 で先 づ第1の 問題 は,抗 生剤 の選択 とい うこ とであ る。抗 生 剤 の選 択は ど の よ うな観 点 に 基 い て お こ なわ れ るべ きか。そ れ には 本 症 の原 因 菌 が,使 用 さ れる ぺ き抗 生剤に感受性 を もつ とい うこ とが先決問題 で あ る こ とは 申 す ま で もな い。と こ ろが,本 症 の 原 因菌 の 大部分を占めるのは緑連菌群であるので,先 づペニシリ ン(Pc)が選択 の第1に 挙げ られ るので ある。また一面, 「亜 」の治療 にはbactericidalの 作 用 を もつ抗 生剤 が 望 ま し く,HりNTERなどは 殊 に それ を 強 く主張 して い 慶応義塾大学教授 る。そ の 点 でPc及 び ス トレプ トマ イ シ ン(SM)は,他 の ク ロ ラム フ エ ニ コール(CM),ク ロル テ トラサ イ ク リ ン(オー レオ マ イ シ ン,AM),オキ シ テ トラサ イ ク リン (テラマ イ シ ン,TM)な どのbacter三 〇staticな 抗生剤 よ り,よ り適 当 で あ る とい わ ね ば な らな い。但 し,SM は早 く抵抗性 となる欠点が あ り,また毒性が強 く,長期 の使 用 が不 可 能 で あ る。と ころ が,Pcは 大量使用が可 能 で あ り,副 作 用 もな く,他 の抗 生 剤 に 較 べ 長所 を もつ て い る。ま た,価 格 が他 の抗 生 剤 に比 し て安 価 な事 も重 要 な条 件 の一 つ に算 え るべ きで あ る。こ の よ うな理 由 か ら,先 づ 第1にPcが 選 ば れ るの で あ る。 (2)原因 菌 の感 受 性 本 症 の原 因 菌 の 大 部分(56株 の うち46株,82.1%・ ・・自験)が 緑連菌群 である ことは周知 の ことで あるが , これ ら原因菌株の各抗生剤 感 受 性 を検 査 した ところ, Pcに 対 して は大 多 数(77.3%)が0.03~0.12u/ccの 間 に あ り,半 数 が0・06ロ/ccで,平 均 してO.07u/ccの 感 受 性 を示 した。な おSMは2.757/cc,CMは1.7 7/cc,AMは0・26γ/cc,TMは0.30γ/ccの 平均感受 性 を 示 した。こ の 感 受 性か らみ る と,TM,AMはPc に劣 らず 有 効 であつて よい と思 われ るが,実 際 上 では Pcに及 ば ず,原 因菌 の感受性 と治療効果 との間に1つ の矛盾 が感ぜ られ る。 (3)治 癒 の比 吾 々 の経 験 に よ る と,Pcに よ る治癒 率 は70%内 で あ る の に反 し,他 の抗 生 剤 に よ る治癒 率 は,わ が教 室 の例 は 未 だ筐 少 で断 言 を は ば か るが,文 献 ヒで も余 り多 くない が それ を 集 計 す る と,40%前後 の 治癒 率 で,Pc に 比 し て著 る し く劣 つ てい る。こ れ はPcに よつ て難 治 な症例に使用 された とい う理 由 もあろ うが,HUNTER の い うbactericidalで な い 点 もあ る と思 わ れ る。こ の 点か らで もPcを 第1に 選 ぶべ きと思 われ る。 IIIPeの投 与 量 と投 与 法 (1)Pcの1日 投与 量 Pcの1日 の 投 与量 は,症 例 に よつ て 多 少差 異 が あ ろ うが,欧 米 で は最 近1日1GO万 ~2oO万単 位 以 上 が 推賞 され て お り,大 量 投 与 の傾 向 が窺 わ れ る。す なわ ち,Pc 血 申濃 度 が原 因菌 の感 受 性 の5~6倍 以 上 に保 た れ るべ き で あ る と主 張 され て お り,わが 教 室 のPcが 著 効 を奏
4

亜急性細菌性心内膜炎の治療 - Chemotherapyfa.chemotherapy.or.jp/journal/jjc/01/2/1_41.pdf · 亜急性細菌性心内膜炎の治療 1緒 言 皿 抗生剤選択について

May 20, 2020

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〔日本化学療法学会第1回 総会特別講演〕

亜 急 性 細 菌 性 心 内 膜 炎 の 治 療

1緒 言

皿 抗生剤選択につ いて

皿 ペニシ リン投与量 と投与法

Wペ ニシ リン中止期 の決定 と再発 例検討

Vペ ニシ リン難治症 の対策

VI併 用療法 につ いて

顎 治療失敗 例の検討

孤 治 療 成 績

璽X予 防 と成 因の問鷺

X結 語

1.結 言

亜急 性細菌性心内膜炎(以 下 「亜 」または本症)は,

往時 その診断確定が恰 も死の宣 告であつた と申して差支

えないほ ど死亡率 の高い,治 癒軽侠 の望薄 い疾病で あつ

た ことは 周 知 の とお りであ るが,近 年 抗生剤 の出現に

よ り治癒 を期待 し うるに至 り,欧米 では70・v80%の 治癒

率 を あげ てい る。こ れ実 に抗生剤療法 の輝か しい成果 で

あ る。し か し乍 ら,一 面 において抗生剤使用法の如何 に

よつては,必 ず しもそ う容易に こ うい う良果 を得 られる

ものでない事笑 も吾 々は経験 している。し か も本症は,

戦後 におい ては多発す る とさえ云われ ている し,ま た近

来 その診断法 の進歩 とともに比較 的 しばしば見 られ るよ

うになつた。試 みにわが慶大病院 の入院統計 をみる と,

本症は終戦後か ら昭和25年12月 迄 の間では,内 科全

入院患者の1・53%,昭 和26年 では3.30%に 達 し,

さほ ど稀有 の疾患 とはいえないのである。以 下 「亜」 の

治療 について述べ るが,多 少 とも各位 の御参考 となれば

幸甚 の至 りである。

皿 抗生剤の選択について

(1)抗 生剤の長 所短所

本痒治療 の上 で先 づ第1の 問題 は,抗 生剤 の選択 とい

うこ とであ る。抗 生剤の選 択は どのよ うな観点に基い て

お こなわれ るべ きか。そ れ には本症 の原因菌が,使 用 さ

れる ぺ き抗 生剤に感受性 を もつ とい うこ とが先決問題 で

ある ことは申すまで もない。と ころが,本 症の原因菌 の

大 部分を占めるのは緑 連菌群で あるので,先 づペ ニシ リ

ン(Pc)が 選択 の第1に 挙げ られ るので ある。ま た一面,

「亜 」の治療 にはbactericidalの 作 用 を もつ抗 生剤 が

望 まし く,HりNTERな どは殊に それを強 く主張 してい

慶応義塾大学教授 三 方 一 沢

る。そ の点でPc及 びス トレプ トマイ シン(SM)は,他

の クロラムフエニ コール(CM),ク ロルテ トラサイ ク リ

ン(オ ー レオマイシ ン,AM),オ キシテ トラサイク リン

(テ ラマイシ ン,TM)な どのbacter三 〇staticな 抗生剤

よ り,よ り適当である といわねばな らない。但 し,SM

は早 く抵抗性 となる欠点が あ り,ま た毒性が強 く,長 期

の使 用が不可能 である。と ころが,Pcは 大量 使用が可

能 であ り,副 作用 もな く,他 の抗生剤に較べ長所 を もつ

ている。ま た,価 格 が他 の抗生剤に比 して安 価な事 も重

要 な条件 の一 つに算 えるべ きであ る。こ のよ うな理 由か

ら,先 づ第1にPcが 選 ばれ るのである。

(2)原 因菌 の感受性

本症 の原因菌の大部分(56株 の うち46株,82.1%・ ・

・・自験)が 緑連菌群 である ことは周知 の ことで あるが,

これ ら原因菌株の各抗生剤 感 受 性 を検 査 した ところ,

Pcに 対 しては大多数(77.3%)が0.03~0.12u/ccの

間にあ り,半 数が0・06ロ/ccで,平 均 してO.07u/ccの

感受性を示 した。な おSMは2.757/cc,CMは1.7

7/cc,AMは0・26γ/cc,TMは0.30γ/ccの 平均 感受

性を示 した。こ の感受性か らみる と,TM,AMはPc

に劣 らず 有 効 であつて よい と思 われ るが,実 際上 では

Pcに 及ばず,原 因菌 の感受性 と治療効果 との間に1つ

の矛盾 が感ぜ られ る。

(3)治 癒 率 の 比 較

吾 々の経験 による と,Pcに よる治癒 率は70%内 外

で あるのに反 し,他 の抗生剤に よる治癒 率は,わ が教室

の例は未 だ筐 少で断言をはばか るが,文 献 ヒで も余 り多

くないが それを集計す る と,40%前 後 の治癒 率で,Pc

に比 して著 るしく劣 つ てい る。こ れはPcに よつ て難 治

な症例に使用 された とい う理 由 もあろ うが,HUNTER

のい うbactericidalで ない点 もあ ると思 われ る。こ の

点か らで もPcを 第1に 選 ぶべ きと思 われ る。

IIIPeの 投与量 と投与法

(1)Pcの1日 投与量

Pcの1日 の投与量 は,症 例 に よつて多少差異があろ

うが,欧 米 では最近1日1GO万 ~2oO万 単位以上が推賞

されてお り,大 量投 与の傾 向が窺 われ る。す なわ ち,Pc

血 申濃度 が原 因菌 の感受性 の5~6倍 以上 に保たれるべ

きである と主張 され てお り,わ が教室 のPcが 著効を奏

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42 CHEMOTHERAPY OCT.,1953

した例 で血 中濃 度を測定 しえた5例 はすペ ゼ感受性 の6

倍以上 を示 し,効 果不確実 な例14例 中12例 は実 に5

倍以下 であつた。従 がつ て前述 の原 因菌 の感受性 と併 わ

せ考察 して,Pcの1日 投与標準量 は160万N240万 単

位 を要す るこ とを強調 し度 い。

(2)右 効 量判定 の 目標

以上 の標準量 を与 えて も必ず しも充 分でな く,増 量を

要す る場合 があ る。従 来,Pcの1日 投与量の適否の判

定 としては,下 熱,脾 腫の消失,血 沈値 の恢復,貧 血 の

恢復,自 血球及 び妊 中球増多 の恢復,な どが一応 の目安

とされ ている。わ が教室 のPc投 与効果 の顕著な症例に

つ いて検討 す ると,下 熱は3・・v4日,少 くとも1週 以内

に起 るが,脾 腫の消失 とか貧血の恢復は しば しば遅延す

る場 合があ り,ま た白血球,好 中球 の増 多は発熱 と同様

1週 内外で恢復 す るが,症 例 によつ ては これ らの症状 を

欠如 する場合 もしば しばあつ て,毎 常これ らを有効量 判

定 の指 針 とす るわけにはいか ないのである。

わが教 室の実験に おいて,Pcが 有 効で充分 な時 は,

貧血 の有 無に拘 らず,一 週性 の網赤 血球増 多症 があ るこ

とを認 めた。な お また,Pcの 投与量 の不充分 と思われ

る時,Pcを 更に増 量す るこ とによつて再 び網 赤血球が

増 多 した。し か も,こ の網赤 血球 増多は他 の症 状 よ り早

期 に,且 つ確 実 に出現 する ことを 確 め た ので,こ れ を

Pc有 効量 判定 の目標 とな し うる こ とを 昨年の内科学 会

宿題報 告におい て提唱 し,そ の後 の症例 に よ りなお確 認

してい る。従 が つて標準量 を投与 して,こ れ らの有効量

判 定の 目標 を注意 して,適 宜増量 を計 るべ きである。

(3)投 与法 の検討

Pcの どの よ うな投与注が本症 の 治療 に最適 であ るか

とい うこ とは,種 々なる角 度か ら検討 されねばな らない

し,ま た各個 の症例 に よつ ては一 律に規 定で きぬ もの で

あ る。し か し,一 般 的にい うと,わ が教 室の経験 よ り,

油性 または水性 プ ロカイ ンPcに よる 長 期 間 隔 投与法

は,同 じ単位 の可 溶i生結 晶PcGを3時 聞毎分劃筋注 す

る方法 より,そ の治療成績 が著 る しく劣 つてい るこ とを

知つ た。ま た剖検例 において,臨 床経 過が明 らかで投 与

.後死亡 した10例 について,そ の投与法及び投与Pc総

量 と菌 の証 明 とを眺 めて みる と,8例 に おいて心弁膜 に

菌 を認 めたのであ るが,こ の8例 はすべ て長 間隔投与法

を うけたか・またはPc総 量3・000万 単位以下 であ?た

のであ る。こ のよ うな事実か らわれ われ は,可 溶性PcG

を3時 間毎 に筋注す る方法 を推賞 したい。

r7Pc投 与中止期の決定と再発例の検討

Pcを 中止するのは感染が完全に除去された後である

可きはもちろんであるが・その時期の決定はなかなか困

難 な ものであ る。こ の点を次 の よ うな事 項か ら考察 して

み よ う。

(1)投 与期間 と予後

教 室の成績に よる と,Pc投 与6週 未満 では殆 ん ど治

癒 者な く,全 国大学並 びに大病院 に依頼 した調査票 の集

計で も,4週 以上か ら治癒率 が急に上昇 している。即 ち

Pc投 与4週 未満 の治癒 率18・2%に 対 し,5{・11週 以

上 で56.O%は となつてい る。

(2)投 与総量 と予後

本症 のPc治 療後 におけ る治癒率 を検 する と,Pc投 

与総量4,000万 単位以下 では37.5%で あ るに対 し,

5,000万 単位以上使 用 した群 では67.5%で,約2倍 率

を示 している。

(3)中 止期 の症 状に よる予後

Pc投 与中止期 の臨床症状 を遠 隔成績 が ら概観 す る と.

体温の平常化,脾 腫消失,血 沈値恢 復(中 等価15mre

以下)な どに差異 のある ことが判然 とす る、要 するに,

治癒者は発熱は通常全 くな く,脾 腫の消失す るのが原則

で,血 沈 も同様 に正 常値に恢復すべ きで ある。従 がつ て

この よ うな臨床症状 の平常化す るまでPcを 使 用継 続せ

ねば な らない と云え る。

(4)鉄 負荷 試験 の正常化

さ らにわが教室では,本 症 において血清鉄 の減少 と血

清銅 の増加,並 び に鉄負荷 に よつ て血清鉄が上昇 しない

特徴 をその測定 に よつて確認 してい るが,こ の鉄剤 の負

荷試 験に よつ て」血清 鉄が著 明に上昇す るに至 る場合,こ

れが感染治療 の目標 とな る。こ のこ とは,昨 年の宿題報

告で も申述べ た し,また今 日までこれ を追確認 している。

従 がつ てPc中 止 時期 の決定 に必要 な こ ととして,前

項 の臨床症状 の平 常化のほかに,血 清鉄,」血清銅の正常

化,鉄 負荷試験 の平常化 の2つ を特 に附け加 える ととも

に,そ の重要 性iを重ね て強調 した い。

(5)再 発症例 の展示 とその反省

これ まで既報告 の再発症例(8例)を 検討す る と,そ

の大部 分の患者はPc投 与量2,000万 単位以下 であ り,

油 性Pcを 長 聞 隔 投 与法 に よつた もので あつた。そ し

て,そ の殆 んどが6月 内外 で再発 してお り,既 に報告し

た とお り・Pc投 与中止期 になお肝脾腫,或 いは微熱,

貧血 な どの充分 に恢復 していない ものであつ た。そ の後

に得た追加再発症例 を例示 す る。

症 例 河035歳 男子

入 院時38。Cの 発熱つx"き,血 沈 中等価104mmあ

り・再三 血液培養 して も菌を証 明せ ず。ス プ ロナール

1日69を 与 えて も下熱せ ず,PcG4時 聞毎1日120

万単位 注射 に よつて平熱 とな り,43日,計5 ,090万 単位 で中止 した。治 療中止後1月 半 で退院。当 時,血 濾21mm,A/GO・82で 正常化 をみ 一Cv・なかつた

。脾 購

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VOL.1NO.2 CHEMOTHERAPY 43

は なかつ た。退 院後7月 で左 季 肋 部 痛 を訴 え,再 入

院。肝 脾腫 あ り,血 沈87mm,A小GO・5で,再 発 と

認 められ た。再 びPc3時 間毎1日160万 単位 を108

β,計14,480万 単位投与 して治癒 し,以 後健康状態

を保つ てい る。こ れ は初回入 院時 の治療が4時 間毎で

あつた点 と,Pc中 止期に血沈,A小Gが 正常化 してい

なかつ た点が反省 させ られ る。

症 例 歳 男子

菌 を証 明 しえなかつた本症であ るが,38。N39。Cの

発 熱,心 雑音,血 沈52mm,A小GO.52で,初 めサイ

ァジン1日39投 与 で下熱 をみ ず,水性 プPtカ イ ンPc

l日90万 単位 の投与 で下熱 し,47日,計9,680万 単

位 で申止 した。治 療終了後1月,血 沈26mm,AIGも

恢復 しなかつたが,患 者 の都合で退院 し,約6月 後再

発 し,他 病 院に入院死亡 した。こ れは水性 プ 冒カイ ン

Pcの 長 間隔投与 である点,患 者の都合で 事故退 院 し

た点が注意 され るべ きであろ う。

VPc難 治 症^の 対 策

本症はPc出 現 以来 その治癒を期 待 しうる ようになつ

た と云 うも,そ の治癒率は未だ60~70%程 度 で難 治 の

感が ある々 その原因の一部は・原 因菌 が心弁膜 の流贅 の

奥深 くひ そみ,抗 生剤が充分に到達 し得 ない ことに ある

のは周知 の ことであるが,こ の外に臨床 的に難治 の理由

として,

(1)原 因菌:StreptOcOccisssangPtis,腸 球菌及 びPc

抵抗性菌等 の感染 による場合。教 室の成績 に よる と,緑

連菌全体 として治癒率53・8%で あるのに,Str・sang-

uis感 染例 では治癒 率僕 かに16・7%に 過 ぎない。ま た,

Str.foecalis感 染の2例 は ともに死 亡してい る。こ の

よ うな菌 の感染の場合の対策 として,Pcの 大量投 与 と,

SMと の併用,時 には他 の抗生剤を是非考慮 せねば な ら

な い。

(2)投 与法の過誤:こ のた めに原 因 菌 のPc抵 抗性

を顕著に増 加した症例を経 験 してい るが,こ れ らを検討

す る と,Pc投 与量 が少い こと,投 与期 間が短 いこ と,

長間隔投与法であつた こと,を原 因 としてあげ得 るので,

これ らの点に留意すべ きであ る。

(3)合 併症 の存 在する場合:

(a)リ ウマチ,尿 路 感染,蠕 歯,扁 桃腺炎 などで,

臨床観察に よつて対症療法 をお こな うべ きである。

(b)菌 交代症 の問題。本 症 にPcの 長期間使用 中

に,Pcに 非感受性の他 の菌 が繁殖 して,新 らしい疾病

の発生を見た り,症 状 を長 引か せる。即 ち,い わゆ る菌

交代症 が現 われ ることや,更 に新 らしい菌 の感染(Su-

perinfection)を 考慮せねばな らない。こ の点か ら云 う

と,Pcを 大量に投与 して,で きるだけ速かに治癒 軽侠

を計 らねば な らぬ と云 えよ う。

また近時,Pc使 用 によるシ ヨック様症状発 現の 報 旨

を散 見 す るが,わ が教 室 の可 溶 性Pc使 用 で は 未 だ この

よ うな 事 を経 験 しな い。お そ ら く,油 性,水 性 の 懸濁 剤

また は プ ロカ イ ンに よる も の と思 わ れ る。

次 にPc難 治 症 の対 策 とし て の他 の抗 生 剤使 用 につ い

て,Slr・sangnis感 染症 例 を展 宗 し よ う。

症 例 女 子

動 静豚 血 か ら3回 に わ た つ てStr・sangnisを 証 明

し,38。C前 後 の 弛 張熱 を示 した 本 症 で あ るが,TM

1日29を 投 与 した と ころ,4日 目か ら平 熱 とな り,

網 赤血 球16%か ら40%に 増 加 を み,赤 沈77mm

か ら29.5mmに 改 善 され た。14日,計289でTM

を や め,そ の後PcG3時 間毎1日240万 単位 にか え

43日,計1億0320万 単 位 で 申 止 した。血 沈11mm

とな り,退 院 後 健康 を保 つ て い る。

症 例 男子

39.5。~40。C齢 の 弛 張熱 を もち,流 血 か らStr.safε-

9%isを 証 明 した。該 菌 はPc感 受性0.03u/cc,エ

リス ロマ イ シ ン(EM)に 対 して0.007γ/ccで あ り,

EMを4時 間毎1日2.49投 与 した と ころ,漸 時 下 熱

し,4日 旨か ら微 熱 とな り,10日 以 後 全 く平 熱 とな

つ た。30日,計75,949で や め,血 沈2mm,軽 快

退 院 した。

VI併 用 療 法 に つ い て

われわれは本症 のPc難 治症 の対策か ら,併 用療法 を

多少経験 し,且 つ研究 した。わ れわれが併用療法 をお こ

なつた本症 の うち,原 因菌 の分 離 に成功 した ものが10

例 あ り,い ずれ もPcとSMと の併用である。感 染 に

対 しての効果 とい う点か らみる と,約 半数が有効 であつ

た。そ れ らの例を検討 す ると,右 効例 でもPc投 与量 と

Pc感 受性 とに関連性 がない ようで あるし,有 効無効 と

菌株,殊 に緑連菌群 の亜型 とも無関係であつた。併 用療

法 についての内外の文献 をみても,各 報告に よつて,有

効無効 まち まちである。

とにか く,併 用の際にPcの 投 与量 をど う決定すべ き

かは重要且つ困難 な問題 であ る。JAWETZは 抗生剤 の

併用を くわ しく研 究 し,PcとSMと はsynergistic

に,PcとCM,AM,TMと はantagonisticに 作用

す る といつ てい るが,教 室 の研究 では,抗 生剤 の組合 わ

せの みな らず,濃 度に より,実 験方法に より,ま た観察

時間に よ り,異 な る結果をえている。た とえば,五 十嵐

株(Str.mitis)を 用い て殺菌 または減菌濃度 によるPc,

SM併 用試 験におい て,PcO.06u/cc,SM5,10,20

γ/cc単 独でそれぞれ減 菌,殺 菌作用 を示 し,Pc濃 度

0.06u/ccに これ ら濃 度のSMを 併用す る と,更 に著 明

な殺菌作用,即 ちsynergisticの 作用を認 めた。と こ

ろが,Pcの 濃度 をやや薄め て0・03u/ccと する と,Pc

O.03u/cc単 独では減菌作用 を示す のに,こ れに前回同

様 の殺 菌濃度 のSMを 併用す る と,い ず れも逆に減菌

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44 CHEMO[rHERAPY OCT。,1953

症 が認 め られ ず,antagOnisticの 作 用 を起 した ので あ

る。ま た,平 山株(Stf.imis),伊 藤 株(Str・enitis)

を 用 い たPc,SM併 用 最 小 阻 止 濃 度 か らみ て も,あ る

濃 度 の組 み合 わ せ で はsynergisticで あ るが,あ る濃

度 で はantagOnisticと な つ て い て,こ の関 係 は 簡 単 な

も の で な い こ とを 鄭 つ た の で あ る。次 に 併 用 効 果 の あつ

た1例 を示 す。

症 例 男 子

Str.mitis感 染 の本 症 で あ るが,1日160万 単 位

のPcを 注射 して も38.5。{・39。Cの 発 熱 が とれ なか

つ た。こ れ にSM1日19筋 注 を併 用 す る と,3日 目

か ら完 全 に 下 熱 し,5日 の 併 用 で止 あ,以 後Pcの み

と した が,発 熱 を み な か つ た。因 み に 本 菌 のPc感 受

性o.06u/cc.SM感 受 性2・57/ccで あ る.

VII治 療 失 敗 例 の 検 討

Pc出 現後 といえ ども本症 は未 だ難 治であ り,死 亡率

未 だ30%内 外 をみている。

そ の死 亡の直接原因 を調査 す ると,全 例の80%以 上

が,心 不全及 び血栓,出 血 であ り,こ とに心不全 が中等

度以上に招来 された ものの予後は悪 く,そ の死 亡率72ユ

%で ある。こ のよ うな点か ら,本 症 治療 時 に心不全 へ

の対策,予 防は最大 関心事で なければ な らぬ。ま た,早

期 に診 断 し,早 期に治療 を開始 した ものほ ど,治 癒率 の

高 い ことは申す まで もない。教 室例並びに調査票例 で,

発病後3月 以 内に治療 を開始 した ものの治癒率60%に

反 し,そ れ以後 のものでは約30%を 示 し,そ の間に差

異 を認 め る。従 がつ て,早 期,且 つ確実 な診断法 の確立

が必要であ り,最 大死因で ある心不全へ の対策,予 防 と

して,対 症 療法 を重視 すべ きであ る。

VIII治 療 成 績 ノ

終戦後か ら昭和27年12月 までにわが教室 に入院 し

た本症 患者は総計75名 で,そ の うちPc非 使用者14

例 と,事 故退院5例,計19例 を除 いた56例 の・概 ね

以上私 の申述べ た治療要項 に よつてPc治 療 を施 した も

のにつ いて観 察す ると,軽 侠 退院40例,死 亡16例,

即 ち治癒率71・4%を あげてい る。Pc使 用中に死 亡し

た11例 の大部分 がその死 困は心不 全であつたが,そ の

ほか脳血栓 例,尿 毒症 例 も2・3み られた。Pc使 用後 に

死 亡した5例 はすべてその死因が心不全であつた こ とは

臨床上注 目すべ きか と思われ る。

退院律 の運 隔成績 をみ る と・観察6月 迄は症例40例

中,1例 は退院後死 亡,2例 が再発 そ の うち1例 はそ

の後死 亡し,他 の1例 は再治 療に よつ て恢復 してい る。

蟹察6月 以上 のもの24例 では・1例 は再発,再 治療に

よ り恢復 している。退 院後1年 以 上経過 した もの18例

では,多 くは正 常健康状態 に恢 復 し・会社な ど勤務可能

となつてい る。や や劣 る健康状態 のもの3名 あ るが,こ ・

れは腎炎 に よる高血 圧者,老 年者 などであ る。退 院後4

年以上経過 してい る34名 は皆健康状態 にあ る。

とにか く,わ が教 室では前述 の治療要項 に従 がつ て本

症 を治療 し,71.4%の 治癒 率を あげ てお り・ これは欧

米 のそれ とさほ ど遜 色ない もの と自負す るものであ る と

ともに,今 後 は更に治癒 率 の向上 を期 してい る。

IX予 防 と成因 の問題

(1)手 術時の菌血症

本症の成因に敗血巣と菌血症 とは必須の条件である

が,手 術時の菌血症の検索をすると,抜歯及び歯科的手

術時に22%の 菌血症を認め,し かも大部分に緑連菌を

認めた。そ のほか,耳 鼻科的,化 膿性疾態並びに非化膿

性疾患の外科的手術,並 びに妊娠中絶,婦 入科的手術時

などもしらべ・5~7%の 菌血症を認めているが・抜歯

時に最も高いことは注意すべきである。

(2)運 動逼重負荷に留意

本症憲者で既往症に心臓疾患を認めるもの約60%あ

り,これらの人の手術に際しては特に留意を要する。菌

血症のほかに,と にかく,心臓の種々なる程度の障碍の

存在が成因を左右するのである。こ のことは,吾 々の実

験的心内膜炎の威績から発生機序を考察しても云えるこ

とで,心 臓に種々な程度の所見があり,それに菌がつい

て,種 々な段階を経て本症が発生するように思われる。

これらの点も併わせ留意すべきである。

X結 語

以上,本 症 の治療 について申述 べたが,最 後 に申した

い こ とは,す べ ての抗 生剤浩 療にみ られ る よ うに,殊 に

本症 のよ うに長期 に抗生剤 を使用す る場合 には,抵 抗性

菌 の出現 によつ て,治 療 が次 第に困難 さを増 すのではな

いか とい う観 点か ら,新 らしい抗生剤 の出現 を期 待す る

とともに,他 方 には前述 の併用療法 の問題 の解決 が今後

に残 された重要課題 であ る とい うこ とであ る。

長時 間の御 清聴 を感謝す ると ともに,こ の化学療 法学

会 発会 の第1回 の総会に於け る特瑚講演 の光 栄 ある機会

を与 え られた佐 々会長 並びに本会 々員各位 に謹 んで御礼

申上 る。

図表 は紙面 の都合 上割愛 した が下記文 献を参照 された

いo

敗 血症の臨豚:日 本内科学会雑誌,41(9);535N548,

昭27・12・・ 日本伝染病学会i雑誌,25.(10,12);1N

17,昭27・6・,臨 簿札5(7);62φ 》643,昭27。7

抗 生剤 の 併 用療 法の検討:最 新 医学,8(5);613《 げ・

619,昭28.5

亜急性細菌性心内膜炎 の予後:治 療35(9):891~899.

昭28.9