思春期小児における意志決定支援 余谷暢之 神戸大学医学部附属病院 腫瘍センター・緩和ケアチーム 特定助教
思春期小児における意志決定支援
余谷暢之
神戸大学医学部附属病院
腫瘍センター・緩和ケアチーム 特定助教
ケース
• 75歳 男性
– 肺がん、手術困難、化学療法不応
– 原発巣の増大、胸水貯留に伴う呼吸困難
– 癒着術後も胸水貯留続く
– オピオイド投与しているが緩和は不十分
– もともと寡黙なタイプだが本人は最近ふさぎ込みがちで会話が続かない
– 家族は苦痛緩和のための鎮静を望んでいる
ケース
• 15歳 男児
–気胸(肺転移)で見つかった右大腿の肉腫
–手術困難、化学療法不応
–肺転移の増大、胸水貯留に伴う呼吸困難
–オピオイド投与しているが緩和は不十分
–本人は最近ふさぎ込みがちで会話が続かない
–家族は苦痛緩和のための鎮静を望んでいる
思春期年齢のこどもとの話し合い
ケアや治療の意志決定にこどもを巻き込む ことは挑戦である
Bluebond-Langner
思春期小児のむずかしさ
• 意思決定能力の問題
• 治癒が望めない病気を持つ思春期患者 との話し合い
思春期小児のむずかしさ
• 意思決定能力の問題
• 治癒が望めない病気を持つ思春期患者 との話し合い
子どもの権利条約
• 意見を表明する権利(12条)
–自己の意見を形成する能力があればその児に影響を及ぼすすべての事項について自由に 自分の意見を表明する権利がある
• 知る権利(13条)
–表現の自由についての権利を有する
–あらゆる種類の情報を求め、受け、伝える 自由を有する
ヘルスケアに対する子どもの権利に関する
WMAオタワ宣言
• 小児患者及びその両親あるいは法定代理人は、
子どものヘルスケアに関するあらゆる決定に、
積極的に情報をもって参加する権利を有する。
子どもの要望は、そのような意思決定の際に
考慮されるべきであり、また、子どもの理解力に
応じて重視すべきである。成熟した子どもは、
医師の判断によりヘルスケアに関する自己決定を
行う権利を有する
世界医師会(WMA) 1998年 (日本医師会・訳)
インフォームド・コンセントの要素
• 情報の開示
–治療・検査の内容と目的およびその利益と危険性
–代替的方法とその利益と危険性
• 自発性
• 意志決定能力
意思決定能力の判断
• 選択を表明する能力
• 意志決定に関連する重要な情報を理解 する能力
• 意志決定によって起こりうる結果を認識する能力
• 合理的な思考過程で選択を比較考察する能力
Appelbaum P, et al. NEJM 1998
意思決定能力の解釈 Sliding scale
• 介入の性質と本人の意向によって 異なった基準を採用する
Roth, et al. Am J Psychiatry 1977
本人の意向 介入の性質
有益性>有害性 有益性<有害性
希望するとき 緩い基準 厳しい基準
拒否するとき 厳しい基準 緩い基準
親の立場
• 親は子どもを養育する義務と権利(親権)がある 民法820条
• 親は子どもの養育及び発達についての 第一義的責任者である
• 親は子どもの最善の利益に基づいて行動 する義務がある
子どもの利益・親の利益
• 親が有する親権は子どもに対する支配権ではない
• 親は介護負担や経済的負担、他のきょうだいの利益保護などの点において患児との間に利益相反関係にある
Gillick Competence -イギリスの例-
• 十分に判断能力があると思われる14歳の女性が診療所を受診
• 女性は避妊薬のメリットとデメリットを理解した上で、両親には内緒で避妊薬の処方を希望した
• 両親は敬虔なカトリック信者で避妊や 人工妊娠中絶には絶対反対の立場である
医師は処方してよいのか?
Gillick Competence -イギリスの例-
• 英国では16歳以上の子どもは親の意向に関わらず医療行為に同意する権限をもつ
1969年 家族法改正法
• 16歳未満でも医師の判断により判断能力があると認められれば同意の権限をもつ
“Gillick Competence”
子どもの特性に配慮した立法
• デンマーク – 15歳に達した患者は治療に関して自分自身で インフォームド・コンセントを与えることが できる
– 親権者は未成年者の決定に関与するものとする
• ノルウェー – 子どもは、12歳に達したときは、自身の健康に関するすべての件に関して、自己の意見を 述べることができなければならない
Short Summary
• 思春期小児における意思決定能力
–明確な基準はない
–意思決定において自分の意見を話す権利を 有している
–本人と対話するという意識が大切
思春期小児のむずかしさ
• 意思決定能力の問題
• 治癒が望めない病気を持つ思春期患者 との話し合い
小児がん患者への対応の難しさ
• 積極的な治療ができないということは ギブアップしたのと同じこと
–米国では戦うことが美徳でありあきらめる ことは避けられる風潮がある
–治療のシフトチェンジはすべての可能性が 絶たれた時にのみ行われる
Morgan ER, et al. NEJM 2000; 342: 347-48
Whittam EH. Cancer 1993; 71: 3450-62
進行がん患者の病状認識、意志決定 ~成人の場合~
• 抗がん剤治療が治癒を目指したものでは ないことが理解できていない
–転移性肺がん 69%
–転移性大腸がん 81%
• この誤解は医師とのコミュニケーションが良好と答えた患者でより多い OR=1.90
Weeks JC, et al. NEJM 2012
進行がん患者の病状認識、意志決定 ~AYA世代の場合~
• AYA世代の進行がん患者も同様に抗がん 治療が治癒を目指したものとの認識
–身体的
–精神的
–認知
–スピリチュアル
未成熟であるがゆえにその傾向が強いのでは ないか
Pao M, et al. NEJM 2013
AYA世代のがん患者の治療の現状
• 2001年から2010年までに亡くなった 663人のAYA世代のがん患者(15-39歳)
–亡くなる14日以内の化学療法 11%
–亡くなる30日以内のICU管理 22%
–亡くなる30日以内の救急受診 22%
–亡くなる30日以内の入院 62%
–上記のいずれかの治療 68%
Mark JW, et al. JAMA Oncol 2015; 1: 592-600
アドバンス・ケア・プランニング
• 今後の治療・療養について患者・家族と 医療従事者があらかじめ話し合う自発的なプロセス
–患者本人の気がかりや意向
–患者の価値観や目標
–病状の予後の理解
–治療や療養に関する意向や選好、その提供体制
思春期小児におけるアドバンス・ ケア・プランニングの利点
• EOLにおける決断について十分な情報を 得ることができる
• より良いコミュニケーションが取れたと 感じる
• 自分が意思決定できなくなったときには 自分の意向を踏まえて家族がよいと思う 治療を行ってほしいと答える割合が多い
• 心肺蘇生など治療の制限を行う割合が高い
Lyon ME, et al. JAMA Pediatr 2013
Lyon ME, et al. J Palliat Med 2009
医療者にとっての障壁
• 予後がはっきりしないこと
• ご両親が非現実的な期待を持っていること
• 話をした後に家族と向き合う自信がない
• 希望を失ってしまうのではないかという 医療者自身の不安
Brook L, et al. Arch Dis Child 2008; 93: 1067-70
Durall, et al. Pediarics 2012; 129: e975-82
Yoshida S, et al. Jpn J Clin Oncol 2014
いつ話し合うのか?
• 決められたものはない
• 以下の時が話しやすいとされている
–状態が比較的安定している
–判断が差し迫っていない
–手術、入院など大きな疾患の変化を乗り 越えた時
いつ話し合うのか?
「この患者さんが1年以内に亡くなったら 驚きますか?」
–緩和ケアを開始するタイミングとして有用
–スクリーニングツールとして有用
Moss AH, et al. Palliat Med 2010
Moroni M, et al. Palliat Med 2014
いつ話し合うのか?
Bergstraesser E. Eur J Pediatr 2013
急性リンパ性白血病 再発
思春期特有の難しさ
• 15歳 男児 白血病
– 他人に対して親しみを表さない
– 車いすを押しながらのコミュニケーション
– 遊ぶのは研修医でもできるけどわかってくれないと相談はできない、学校はどっちにつくかわからへん
• 15歳 男児 白血病
– 身の回りの事象をすべて遊びとしてとらえる
– 不安があるときは体を密着させる
– 家族でなく「まる」のイメージ
多賀陽子、余谷暢之他.小児がん 2005; 42: 42-48
思春期の児の希望
• 96%の思春期患者が予後について正しくすべて 知りたいと答えた
• 成人の抗がん剤治療ができなくなったがん患者
– 大まかな予後について知りたい 63%
– 具体的な予後を%で知りたい 42%
Wiener L, et al. Pediatrics 2012
Umezawa S, et al. Cancer 2015
思春期の児の希望
• 医師と一緒に意思決定をしたい – 慢性疾患の児の96%
• 状態悪化時のことについて話したことがある – 慢性疾患の児の44%
• EOLのケアについての話し合い – 52%は家族とだけで医師は不要
– 16%が家族と医師も一緒に
– 12%は自分だけで考えたい
• 普段の外来で生命維持治療の話をしたいか – 50%がしたいと答えた
• 意思決定能力がなくなった時の代理意思決定者の希望 – 72%が母親または両親
Lyon ME, et al. J Adlesc Health 2004; 35: 1-6
いつ話したいか?
Lyon ME, et al. J Adlesc Health 2004; 35: 1-6
病気の子どもの親
• 病気の子どもを養育する義務
–自責の念
–病気自体の受け入れの問題
• 代理意思決定の義務
–自身が混乱・不安の中にあっても求められる
–子どもの「最善の利益」を代弁する困難さ
家族の想い
終末期における医師の役割;親の希望 • こどもの意志決定の最終決定者である自身をサポートしてほしい
• 患者家族としてははっきりとした意見を言って もらえた方が患者家族が主たる意思決定者である ことを尊重してもらっているように感じる
終末期の後の医師の役割:家族の認識 • 家族とその結論を支持しサポートしてもらうという 役割
• フォローアップして適切な継続的なサービスを紹介 すること
Sullivan J, et al. Arch Dis Child 2014; 99: 216-220
ACPを行うツール
• Five Wishes
–自分が意思を表明できなくなった時の 代理意思決定者
–してほしい/してほしくない治療行為
–快適に過ごすためにしてほしいこと
–周りのひとにしてほしいケア
–大切な人にしってほしいこと
ACPを行うツール
• Five Wishesを行うことで
– 95%のAYA患者が自分自身に役立つ
– 90%が自分以外にも役立つと答えた
Wiener L, et al. J Palliat Med 2008
Short Summary
• 治癒が望めない病気を持つ思春期患者 との話し合い
–状態が安定しているときから話し合うことが必要
–「1年以内に亡くなる可能性がある」
思春期年齢のこどもとの話し合い
ケアや治療の意志決定にこどもを巻き込む ことは挑戦である
Bluebond-Langner