Page 1
緒言
GC-MSD の性能を維持するためには、最終的に GC-MSDイオン源のクリーニングが必要になります。このため、GC 注入口やカラムのメンテナンスを行っても分析対象化合物のレスポンスの感度が改善されなくなる可能性があります。また、チューニングを行う際にキャリブレーションサンプルのイオンピーク形状が劣化したり、リペラやエレクトロンマルチプライアの電圧が上昇したりすることで、イオン源のクリーニングを行う必要性が起こることがあります。図 1 にイオン源クリーニング前の状態および最適な方法で洗浄を行った後の状態での数種の農薬についてのレスポンスの差を示します。
適切にクリーニング、組み立て、そして取り付けを行うことにより、堅牢で信頼性の高い測定を行うことができます。
MSD EI および CI イオン源の適切なクリーニングと取り付け
技術概要
特に CI イオン源の組み立ては、非常に重要です。世界中の研究室ではさまざまな方法でイオン源のクリーニングを行っています。研磨剤、石鹸または強い試薬などを推奨している研究室もあります。これらは非常に限られた範囲のアプリケーションに対しては有効ですが、イオン源の性能を長期にわたって維持することには決して有効ではありません。たとえば、多くの研磨剤や一部の石鹸には、バックグラウンドの上昇やレスポンスの低下を生じる高分子量ワックスが含まれる場合があります。化学薬品はイオン源表面に化学的影響を及ぼし、活性度を高める恐れがあります。
この技術資料では、長年の経験に基づき、5973 および5975 の電子衝撃イオン化 (EI) 不活性化イオン源、標準イオン源および化学イオン化 (CI) イオン源のクリーニングと取り付けのシンプルな方法を説明します。
Charles Thomson, Max Ruemler, Mickey Freed, Dave Peterson, and Harry Prest
図 1. 機械的なクリーニング前 (下側のクロマトグラム) と後 (上側のクロマトグラム) のアジンホスメチル (左) とデメトン異性体 (右) の重ね書きした RTIC
Page 2
2
予防措置
可燃性溶媒や潜在的に有毒な溶媒を扱っているすべての研究室での作業と同様、適切な予防措置を取る必要があります。
すべての溶媒、ガラス器具、アルミ箔などはきれいで汚れがなく、クリーニング処理中に必要に応じて、交換する必要があります。
イオン源のクリーニングを開始する前に、フィラメントなどの消耗品、またはリペラセラミックインシュレータなどの予備部品は素手で触ってはいけません。
クリーニング手順
イオン源の分解は、ハードウェアマニュアルや関連ビデオで説明されています (Agilent 5973 および 5975 シリーズ MSD ハードウェアユーザ情報 DVD ご参照ください)。すべてのセラミック (エントランスレンズおよびイオンフォーカスレンズ用インシュレータ)、イオン源ヒーターブロック、すべてのネジ、フィラメントは必ず清浄でリ
ントフリーな材質 (溶剤洗浄済みや空焼きしたアルミ箔のような) の上に置き、決して溶媒に暴露しないようにしてください (図 2 を参照してください)。クリーニングを行う金属製部品とクリーニングすべきでない部品とを分けておくと作業が簡単になります (図 2 および 3)。
以前はイオン源のクリーニングに緑色の研磨用アルミナシートを推奨していました。これは従来の Agilent 5971および 5972 MSD シリーズに適用できますが、5973 および 5975 MSD シリーズの新しいイオン源のクリーニングには好ましい方法ではありません。その代わりに、以下の方法を適用します。
1. 装置付属の研磨用アルミナパウダー (MICROGRIT)少量に脱イオン水を加えて、アルミナパウダー MIC-ROGRIT のスラリーまたはペーストを作ります。濃度は少し濃くしてください。
2. 付属の綿棒を用いて、少量の MICROGRIT 溶液を金属製部品に塗ります。部品表面がきれいに輝くまで磨き、汚れを取り除きます。
EI および CI のイオン源本体のクリーニングを行う際は、フィラメントからの電子がイオン源本体に入る穴をクリーニングすることも重要です。イオン源本体のクリーニングの最終段階で、木製の爪楊枝を使用して、MICROGRIT ペーストを穴に塗り磨いた後、この穴から MICROGRIT を取り除きます。
最も汚れやすい部品はイオン源本体、リペラ電極、ドローアウトレンズです。これらは特に注意してクリーニングしてください。
3. すべての部品を脱イオン水で洗浄します。この段階で、出来る限り完全に MICROGRIT を取り除きます。
4. 洗浄した部品すべてを脱イオン水の入ったビーカーに沈め、約 5 分間、超音波洗浄をかけます。ステップ 4、5、6、7 は図 5 を参照してください。
5. 金属製ピンセットを使用して水の入ったビーカーから部品を慎重に取り出し、メタノール (農薬分析用グレードまたは HPLC グレード) の入ったビーカーに沈めます。約 5 分間超音波洗浄を行います。図 2. 取り外し、分解した EI イオン源コンポーネント
図 3. クリーニングを必要とする EI および CI イオン源金属製コンポーネント
EI
CI
Page 3
3
6. 金属製ピンセットを使用してメタノールの入ったビーカーから部品を慎重に取り出し、アセトン (農薬分析用グレードまたは HPLC グレード) の入ったビーカーに沈めます。約 5 分間超音波洗浄を行います。
7. 金属製ピンセットを使用してアセトンの入ったビーカーから部品を慎重に取り出し、ヘキサン (農薬分析用グレードまたは HPLC グレード) の入ったビーカーに沈めます。約 5 分間超音波洗浄を行います。
8. 金属製ピンセットを使用してヘキサンの入ったビーカーから部品を慎重に取り出し、きれいなアルミ箔またはリントフリーのティッシュペーパーの上に置きます。マニュアルの指示どおりにイオン源を慎重に再組み立てします。フィラメントを点検し、消耗しているようであれば交換します。セラミック製のリペラインシュレータには特に注意してひび割れていないか確認 ださい。別の方法としては、SilTite 金属フェラル (部品
番号 5184-3569、内径 0.2 ~ 0.25 mm カラム用) を使用することです。このフェラルは慎重に締め付ける必要があります。適切に取り付けた場合、加熱サイクル後に絶えず再調整する必要のない安定したシールができます。
「良好な」真空状態になるまで、イオン源は決して加熱しないでください。これは真空漏れがなく、水分量が下がったかを確認することを意味します。漏れや水のバックグラウンドが多く存在する中でイオン源を使用温度に加熱すると、イオン源の活性度を高める可能性があり、クリーニング処理の努力は無に帰してしまいます。適切な手順としては、イオン源、四重極、GC 加熱部温度の冷却 (つまり、0 ℃に設定) と一緒にシステムを真空排気して、20 分間待ち、観察します。
1. マニホールド圧力を示す真空ゲージの値が下がってきましたか? (あるいは、フォアライン圧力が使用可能な値にまで下がりましたか?)
2. 圧力が良好な場合、次にマニュアルチューニングパネルに入り、空気と水の値を観察します (図 7)。窒素(28 m/z) が絶対値 25,000 カウント未満に下がれば、システムは通常真空漏れのない状態です。水は空気よりゆっくりと落ちるため、システムを空焼きする必要があります。
3. 分析メソッドを読み込みます。
この方法での操作の考え方は漏れがある場合で、装置加熱部はまだ冷えていて、加熱部が冷却するのを待つことなく、すぐにトラブルシューティングできます。
図 4. アルミナパウダーMICROGRIT とスラリー
図 5. イオン源クリーニング順序
してください。このひび割れは、一般的に締めすぎた場合に発生します。
9. イオン源を直ちに MSD に再組み付けします。アセトン洗浄後のイオン源は非常に乾燥しやすく、ヘキサン洗浄後には有機物のない状態です。そのため、これら溶媒は容易に蒸発するので、イオン源をオーブン内で過剰に空焼きをしないでください。溶媒中には残留物だけが残ります。従って、非常に純度の高い溶媒が必要になります。
再取付手順
GCカラムが装着されている場合、まず カラム出口をMSD から外し、適切にコンディショニングした後、MSDトランスファラインから取り付ける必要があります。カラムをトランスファラインに挿入した後、先端をカットし、トランスファラインインタフェースの先端でカラム先端が 1mm 出るように調整します (図 6)。トランスファラインフェラルをキーキーと 2 回音が鳴るまで締め付けます。トランスファラインを加熱した後、フェラルを再度締め直す必要があることを覚えておいてください。トランスファラインが加熱サイクルされる時の緩みが真空漏れの主な原因であるため、気密性を常に点検してく
Page 4
4
アナライザ空焼き
便利なマクロを用い、イオン源や四重極を「空焼き」して、水のバックグラウンドを低減させ、チューニングやデータ取り込みの性能を向上することができます。これにはチューンパラメータが高いイオン源温度を許容する必要があり、イオン源には 300 ℃、四重極には 200 ℃の最高許容温度以下に設定 (マニュアルチューンパネルまたは装置温度パネルで) して、保存してください (図 8)。
マクロプログラム Bake.mac をコマンドラインからmacro
"bake.mac",go <enter> と入力して呼び込みます。ダイアログボックスに空焼き温度と空焼き時間を入力します(図 8 参照)。
Bake.mac を \msdchem\msexe ディレクトリに読み込むか保存する必要があります。このマクロはMSD Chem-Station G1701DA リビジョン D03 以降のものにはインストールされています。
もしマクロプログラムがディレクトリに存在しない場合は、Agilent ホームページから、ユーザーとしてログインしてください。ソフトウェアの登録番号を持っていれば、マクロを入手できます。より詳細な手順を以下に記載します。
自動空焼きおよび性能チェックアウト
自動アプローチではマクロプログラム Bake.mac を使用します。ここでユーザーは漏れのないことを点検したシステムを真空排気し、メソッドとチェックアウトシーケンスを読み込みます。一般的にこの Checkout.M メソッドを使用して、メンテナンス後の装置性能を確認します。このマクロは図 9 のようなシーケンスで動作します。行こどに、このチェックアウトシーケンスは以下のように動作します。
図 7. 真空排気バッグラウンドチェック
図 6. コンディショニングされMSD に取り付けられたカラム。インタフェース先端から 1 mm 出るようにカラムを調整します。
Page 5
5
Can not exceed TUNE filesetpoints
Bake temps
Bake time
Final Temps
図 8. これはイオン源と四重極のマニュアル空焼きです。“bake.mac”,go
1. bake.mac を呼び出し、BAKE SourceTemp、Quad-rupoleTemp、Hours としてイオン源と四重極の温度と、空焼き時間を設定します。この例では、イオン源が 300 ℃で、四重極は 200 ℃で 6 時間空焼きされることを示しています。
2. イオン源と四重極は読み込んだメソッドチューンファイルの温度に戻り、次にオートチューンを実行します。
3. メソッド性能評価標準試料を 2 回注入します。
その後、空気と水のチューンレポート、そして性能評価標準試料のデータファイルを観察して、装置がユーザーの分析要求仕様範囲内で動作しているか確認します。
図 9. 真空排気シーケンス: Checkout.S.
Agilent Web サイトからのマクロダウンロードの説明
http://www.chem.agilent.com/cag/servsup/softdocs/ssbMain.html?anch=MS に移動します。登録してユーザー名とパスワードを取得する必要があります。有効な MSD Productivity ChemStation 登録番号を所有している必要があります。その後、MSD Chem-Station ダウンロードとパッチセクションを移動し、登録されている物を探します。
Page 6
Agilent は、万一この資料に誤りが発見されたとしても、また、本資料の使用により付随的または間接的に損害が発生する事態が発生したとしても一切免責とさせていただきます。
本資料に記載の情報、説明、製品仕様等は予告なしに変更することがあります。
© Agilent Technologies, Inc. 2006
Printed in JapanDecember 11, 20065989-5974JAJP
www.agilent.com/chem/jp
詳細情報
弊社製品とサービスについて更に詳しい情報をご希望のお客様は弊社 Web サイト (www.agilent.com/chem/jp)をご覧ください。