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Kobe University Repository : Thesis 学位論文題目 Title ヒトの深部体温の測定法に関する研究 氏名 Author 芝﨑, 専攻分野 Degree 博士(学術) 学位授与の日付 Date of Degree 1998-03-31 資源タイプ Resource Type Thesis or Dissertation / 学位論文 報告番号 Report Number 1760 権利 Rights URL http://www.lib.kobe-u.ac.jp/handle_kernel/D1001760 ※当コンテンツは神戸大学の学術成果です。無断複製・不正使用等を禁じます。 著作権法で認められている範囲内で、適切にご利用ください。 Create Date: 2018-05-16
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Mar 13, 2018

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Kobe University Repository : Thesis学位論文題目Tit le ヒトの深部体温の測定法に関する研究

氏名Author 芝﨑, 学

専攻分野Degree 博士(学術)

学位授与の日付Date of Degree 1998-03-31

資源タイプResource Type Thesis or Dissertat ion / 学位論文

報告番号Report Number 甲1760

権利Rights

URL http://www.lib.kobe-u.ac.jp/handle_kernel/D1001760

※当コンテンツは神戸大学の学術成果です。無断複製・不正使用等を禁じます。著作権法で認められている範囲内で、適切にご利用ください。

Create Date: 2018-05-16

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博 士 論 文

ヒトの深部体温の測定法に関する研究

平成10年 1月

神戸大学大学院自然科学研究科

芝 崎 学

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目 次

第 1 章 緒 論 - - - - - - ‥ ‥ ‥ .‥ - - ‥ ‥ ‥ .‥ ‥ .‥ ‥ ‥ 1

1-1.研究の背景 - - - - ・- - - - ・- - - - ・- ・・- ・‥ ‥ 1

1-2.ヒトの体温調節 - - ・- ・- - - - ・- 日 日 - - - ・・・・- ・2

1-211.深部体温 ・- - - - ・- - - - - - - ・・・- ・-3

1-2-2.体温調節中枢温度 - ・- - - - - 日 日 ・・・- ・- -6

1-2-3.深部体温の測定方法 - - ・- ・- - - - - ・- - ・- 7

1-3.赤外線センサ ・- - - - - - - - ・- - - - - ・- - - - 8

1-311.非接触型戟膜体温計 ・- ・・・- ・・・- - ・・- - ・・- ・8

1-3-2.光ファイバの概要 - ・・・- - ・- - - - - - - - 10

1-3-3.赤外線センサの概要 - - ・- - - - - ・- ・- - - ll

1-4.研究の目的 - - ・- - - - - - - - ・- - - - ・- - - ・16

第 2 章 赤外線透過ファイバを用いた非接触型鼓膜体温計の開発 ・・・- - - - ・18

2-1.はじめに - - - ・.‥ ‥ - ・・- ‥ - .‥ ‥ - ‥ ‥ ‥ - - 18

2-2.システムの構成 - - - - - - - - - - - - - - - - ・- 1$

2-2-1.MCT型システム - ・- - - - - ・- - - ・- ・・- 18

2-2-2.DLATGS型システム - - - - - - ・・- ・・・・・・- ・21

2-3.実験方法 - - - - - - ・- ・- - ・- - - ・- - ・- - ・・23

2-3-1.静的特性実験 - - - ・- - - - - - - ・・- - ・23

2-3-2.動的特性実験 - - ・- - - - ・・- - - - - - ・23

2-3-3.赤外線透過ファイバの特性実験 - - - - - - - - -23

2-4.実験結果および考察 - - - - - - - ・- - - - - ・- - -24

2-4-1.実験結果および考察 :MCT型システム ・- - ・・- - - -24

2-4-1-1.静的特性実験 - - ・- ・- - - - - -24

2-4-1-2.動的特性実験 - - - - - ・- - - ・-25

2-4-2.実験結果および考察 :DLATGS型システム - - ・- - ・-27

2-4-2-1.静的特性実験 - - - - ・- ・- - - -27

2-4-2-2.動的特性実験 ・- - - - ・- - - ・- ・27

2-4-3.実験結果および考察 :赤外線透過ファイバの特性実験 ・- - ・29

2-5.まとめ - ・- - - - - - ・- - - ・- - ・・- - ・- - - 29

1

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第 3 章 鼓膜温測定に対する外乱の影響 - - - - - - - - - - - ・- -31

3-1.はじめに - ・- ・- - ・- - - - ‥ ‥ - ‥ ・- ・- ‥ ..・.31

3-2.実験方法 - - ・- - ・- - - ・・- - ・- - - - - - - -31

3-2-1.被験者の身体特性 ・・- - - - - - - ・- - - ・-31

3-2-2.実験および環境条件 - - - - - ・・・- - - - - -31

3-2-3.実験手順 - - - ・・- ・- - - - - ・- - - - ・31

3-2-4.測定項目および方法 - ・- - - - - - - - - - -32

3-215.統計処理 - - - - ・・・- ・- - - - - - - - ・33

3-3,実験結果 - - - - - - - 日 - ・- - - - - - - - - -33

3-4.考察 ・- ・- - - - - - - - - - ・- - - - ・・- - ・・35

3-5.まとめ ・- - - - - - - - - - ・- - - - - - - - -36

第 4 章 安静時受動的温熱負荷時の深部体温の測定 - - - - ・- ・・- - ・-37

4-1.はじめに - ・・- - ・・- - - - - - - ・- - - - ・- ・-37

4-2.実験方法 - - ・- - - - - - - .- - ・- - - - - - -37

4-2-1.被験者の身体特性 - ・- - - ・- - - - - ・- - ・37

4-2-2.実験および環境条件 - ・- - - - ・- - - - - - ・37

4-2-3.実験手順 - - - - ・- - - - - - - - - ・- ・37

4-2-4.測定項目および方法 - - - - - ・- - - - ・- - ・37

4-2-5.統計処理 - - - - - - - - - ・- - - ・- ・-39

4-3.実験結果 - - - - - ・- - - - ・- - - - - - - - ・-39

4-4.考察 - - ・- - - - - - - - - - - - ・- - - - - ・40

4-5.まとめ - ・- - - - - - ・・・・・- - - - ・・- - - ・- ・41

第 5 章 運動時の深部体温の測定 ・- - ・- - - - - ・- - - ・・- - - 42

5-1.はじめに - ・- - - - - ・- - - - - - ・- - - - - -42

5-2.実験方法 - - - - - ・- - - - - - - - - - - - - -42

5-2-1.被験者の身体特性 ・- - - - - ・- - - - - - -42

5-2-2.実験および環境条件 - - ・- - ・- - - - ・・- ・-42

5-2-3.実験手順 - ・- - - - ・- - - - - - ・- - -44

5-2-4.測定項目および方法 ・- - - - - - - - - - - -44

5-2-5.統計処理 - - - - ・- - - - - - - - ・- ・-44

513.実験結果 - - ・・・・- - - - - - - - ・・- - - ・・・・・-44

ii

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5-4.考察 ・- - ・- - - ・- - ・- - ・- - - - ・- - - - ・47

5-5.まとめ - - - ・・- ・- - - - ・・- ・- - - - - - ・- ・49

第 6 章 深部体温上昇時の体温調節反応 - - - - - - - - ・・- - - - ・50

6-1.はじめに - - - - - - - ・- - - - - - - - - I- ・-50

6-2.実験方法 ・- ・- ・- - - - - - - ・- ・- ・- ・- - - -50

6-2-1,被験者の身体特性 ・- - - - - ・- - - ・- ・・- ・50

6-2-2.実験および環境条件 - ・- - - - ・- - - ・- - - 50

6-2-3.実験手順 - - - - ・- - - - - ・- - ・- - - 51

6-2-4.測定項目および方法 ・- - - - - - - - - - - - 51

6-2-5.統計処理 - - - - - - - - - ・- - - - ・- ・52

6-3.実験結果 - - - ・- - - - - - - - - - - ・- - ・- -52

6-4.考察 ・- ・- - ・- - - - - - ・- - - - - - - ・・・-58

6-5.まとめ - - - ・- ・- - - ・- - - - ・・・- ・- - ・- - 69

第 7 章 総 括 - - ・- ・- - - ・- ・- ・- - - - - - - - - - ・71

参 考 文 献 ・- - - ・- - - ・- ・・・- - - - ・- - - - ・- - - ・74

謝 辞 - - - - - - - - - - .- ・- - ・- ・- - ・- - - - - - ・85

H術

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第 1章.

緒 論

1-1.研究の背景

エアーコンディショニングなどの空調機器の向上によって,我々は季節を問わず決適な温度空間で

生活することが可能になった。しかし,快適な温度空間を求める一方で,夏季や冬季には屋内外の温

度差が大きくなり,屋内外の移動の際,生体はかなりの温熱ストレスを受けている。例えば,真冬に

暖かい部屋から外出した場合にみられる動博や目旺などは,急激な温度変化が生体に影響したものと

考えられる。また,屋外で活動する機会がほとんどなく,常に温度制御された空間で生活している

と,暑熱または寒冷に対して身体が馴応できずに冷房病などの適応異常症候群に陥ることもある【1-

1]。周国環境の温度変化に対し,我々は深部体温をある一定のレベルに維持することのできる体温調

節能力を有している。体温調節機構は,体内外の温度が上昇すると,発汗や皮膚血管拡張などによっ

て体内の熱を体外に放散し,逆に体内外の温度が低下すると,皮膚血管を収縮したり,ふるえなどに

よって熱を産生して身体の内部環境を維持している。我々の体温調節能力は,四季の変化に対応し

て,夏には発汗などの熱放散能力を増大して高温適応能を増大し,冬にはふるえや脂肪を増やしたり

して低温適応能を増大する[1・1】。ところが,体温調節機構が四季の変化に対して十分に順応していな

いと,適応異常症候群に陥りやすくなる。普段からの運動習慣,短期的な暑熱または寒冷刺激や短期

的な暑熱下の運動トレーニングによって,発汗反応や皮膚血管反応などの体温調節能力は維持 ・向上

される[ト2-1-51。つまり,運動トレーニングやある期間の暑熱または寒冷刺激を与えることで,体温

調節能力はその刺激に適応してその能力を維持 ・向上するのである。しかし,我々はヒトの持つ体温

調節機能を十分に考慮した上で空調管理や健康管理を行っているのだろうか。これからの空調機器の

開発や住居環境の調節は,特定の空間の温度環境を制御するだけでなく,制御する空間の周囲の温度

環境も考慮する必要がある。また,我々も四季の変化に身体を馴応させたり,普段から運動する習慣

を身につけて,適応異常症候群にならないように配慮する必要がある。

最近では健康増進の目的で,ランニング,テニスや水泳などのスポーツが盛んに行われている。安

全にスポーツを行うためには,体調ばかりではなく,環境条件 (施設,天候など)にも十分に配慮す

る必要がある。例えば,真夏に屋外で運動を実施すると,暑熱障害である熱けいれん,脱水または脱

塩による熱疲労や熱中症に陥る可能性がある【116].これは,屋外だけでなく,十分な空調機器がない

学校の体育館などの施設でも同様である。真夏のこのような施設は,高温多湿になりやすく,体温調

節中枢の機能不全により熱中症に陥りやすい。一方,最近のスポーツジムなどは空調機器が充実し,

快適な温度で運動をすることが可能になってきているが,このような空調設備の整った施設はまだ少

ない。したがって,運動を実施する周囲の温度環境に対して,個人が十分に配慮しなければならない

のである。

1

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図1-1 体温調節中枢への入力

日常生活の大半を制御された温度空間の中で過ごす今日において,より快適な生活空間を考えるた

めにも,健康増進を安全に行うためにも,ヒトの体温調節機能が温度変化や運動時にどのように機能

しているかを研究することは非常に重要なことである。

1-2.ヒトの体温調節

体温調節中枢は視床下部にあり,ここでは体内の各臓器 (脂,肝臓,筋など)の代謝により産生さ

れた熱の情報,皮膚で察知した環境の温度変化の情報や,セントラルコマンド,代謝物質に対する反

射,機械受容器反射や圧受容器反射などの情報を統合し,熱放散または熱産生機構に命令を送る【1-

7】Qその中でも,深部体温の変化は体温調節機能に大きく影響する (図1-1).体温調節機能は,

自律性体温調節と行動性体温調節に大別される。前者は暑いときに汗をかいたり,寒いときにふるえ

たりすることであり,後者は着衣量を変えたり,木陰や日向へ移動することなどである.このような

調節機能により,深部体温はある一定の温度に保たれている。

では,なぜ深部体温を一定の温度に維持する必要があるのか?これは生命活動を維持するためにあ

る一定の温度に制御する必要があるからである。ヒトは有機物の組み合わせにより成り立っているた

め,その温度は体構造,ホルモン,酵素,筋収縮,免疫反応,および必須生命機能に関与する蛋白質

の熱特性に依存している。蛋白質は42oC付近で不可逆性変化を生じるため,この付近の温度を大きく

越えて深部体温が維持されることはない【1-8].しかし,蛋白質は有機物を構成する要因であるため

に,すべての動物の深部体温が同じかというとそういうわけではなく,動物の種類によって深部体温

は異なる。しかし,地球上にあるすべての物質の温度から考えると,我々,恒温動物は点のような非

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常に狭い範囲で温度調節を行っている。逆に言えば恒温動物は,内的 ・外的温度変化に対して,狭い

範囲に深部体温を制御することのできる優れた体温調節機構を備えているのである。

ヒトの深部体温は約37oCに保たれているが,高温,多湿,無風下で安静にして熱放散が減少する場

合や激しい作業や運動により著しい熱産生が生じた場合,深部体温は急激に上昇する。しかし,体温

調節機構が正常に働いていれば,発汗や皮膚血管拡張などの熱放散機構が作動して,深部体温の上昇

はある程度で抑制される【1-9]。一方,深部体温の異常な上昇によって体温調節中枢が機能障害を受け

ると,深部体温はさらに上昇し,44oC以上になると生命の危機にさらされる。また,逆に深部体温が

35oC以下になると組織代謝が低下し,28oC前後になると生命の危機にさらされる【1-10]。通常,我々

の深部体温は優れた体温調節機能により,ある一定の温度範囲に保たれ,体構造,ホルモン,酵素,

筋収縮,免疫反応,および必須生命機能は維持され,日常生活を送ることができる。

深部体温は,内的 ・外的な熱刺激によって大きく変化する。例えば,発熱,運動,環境温度の変

化,食物摂取,感情興奮などにより深部体温は上昇する【1-11】。発熱とは感染症,腫虜や脳出血など

の病的状態,つまり細菌性発熱物質,ウイルス性発熱物質,組織破壊などの外因性発熱物質や,外因

性発熱物質の刺激により体内で産生される内因性発熱物質などによって,深部体温が大きく上昇する

ことである[1-12]。また,運動時には,主に活動筋で産生される熱によって,深部体温は急激に上昇

する。このように生体に刺激が加わることによって,深部体温は急激に上昇するが,このような突発

的な刺激だけでなく,日内変動 (睡眠),性周期などのような生体のリズムよっても深部体温は変化

する。日内変動による深部体温の変化は光の影響を受けることでメラトニンが変化し,それが深部体

温の変動をもたらす【1-13】。また,性周期による深部体温の変化は月経周期の排卵後に排出される黄

体ホルモンの変化が体温調節中枢に作用し,深部体温の変動をもたらす【1-141。このメラトニンや黄

体ホルモンのリズムが乱れると,深部体温も変化する[1-15】。このほか,発達に伴い,深部体温は変

化する。安静時の子供の深部体温は成人よりも高く【1-16,1-171,体温調節機能が成熟する思春期を過

ぎたあたりから成人と同等の深部体温レベルになる【ト1恥 このような深部体温の変化は体温調節中

枢の活動性に影響を与えるため (図1-1),正確な深部体温の測定は体温調節機構を研究する上で

非常に重要である。

前述のように,深部体温は体温調節中枢に対する大変重要な入力であるが (図 1-1),近年の研

究においてどこで測定した温度を深部体温とするのかが議論の的になってきている。ここでは,深部

体温の定義について,体温調節機構にとっての深部体温 (体温調節中枢温)について考えてみたい。

112-1.深部体温

一般的には膜喬,口腔,直腸,食道,そして戟膜などで測定した温度を深部体温として用いる (義

1-1)。これらの温度はその用途によって使い分けられる。体温調節の研究分野では,動脈血温の

変化に対する応答性が早いことなどから,一般的に鼓膜温もしくは食道温を深部体温の指標として用

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表 1-1 深部体温の測定部位の特徴

長所 短所

鼓膜温 ・視床下部へ流れる内頚動脈血温を反映 ・センサ装着時に痛みや不快感を伴う

・動脈血塩の変化に対する応答が早い ・鼓膜の損傷の危険性あり

・外気温の影響を受けにくい ・感染症の危険性あり

食道温 ・心房の駆出動脈血温を反映 ・センサ装着時に痛みや不快感を伴う

・動脈血温の変化に対する応答が早い ・粘膜の損傷の危険性あり

・外気温の影響を受けない ・感染症の危険性あり

直腸温 ・外気温の影響を受けない ・センサ装着時に痛みや不快感を伴う

・測定が比較的容易 ・感染症の危険性あり・動脈血温の変化に対する応答が遅い

舌下温 ・測定が容易 ・動脈血温の変化に対する応答が遅い

・衛生的問題点がほとんどない ・温度平衡に時間がかかる・外気温の影響を受けやすい

膿喬温 ・測定が容易 ・動脈血温の変化に対する応答が遅い

いる。深部体温の定義は, 「体内諸臓器の機能や代謝に直接関係し,全身の温度の推移を示し,個々

の内的 ・外的温度変化に意味のある変動を示す部位の温度」である【1-ll,1-191。ヒトの身体には多量

の血液が体全体を巡っており,血液による熱の移動は大きい。心臓から駆出される大動脈血は体内の

すべての器官に供給され,諸臓器を環流した血液は大静脈を通って心臓に戻る。左心房から駆出され

る動脈血温は肺でのガス交換により冷却されているために,体深部を環流してきた血液を肺動脈へ送

る右心房の駆出動脈血温が深部体温として考えられる[ト19】。しかし,心房内の駆出動脈血温を測定

するためには,侵襲的なカテーテル法を用いる必要があり,この温度を非侵襲的に測定することは不

可能であるため,通常心房に近い位置で測定する食道温を心房内の駆出動脈血温の指標として用い

る。

図 1-2のようにヒトの身体を工学的に熱収支モデルで考えた場合【ト20],深部体温の定義を満た

す駆出動脈血温が深部体温として考えられる。しかし,ヒトの体温調節機能はどこで制御されるのか

を考えた場合,駆出動脈血温を体温調節中枢へ入力される深部体温の指標として良いかどうかは疑問

である。

ヒトの体温調節機能は満1歳をすぎた頃から比較的安定し,生後6ケ月までの乳児では体温調節機能

が不完全で,環境温度の影響を受けやすい[ト11]。このように体温調節機構が十分に機能していない

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図1-2 寒冷環境 (左)および温暖環境 (右)における

体内温度分布の透視図

乳児の場合は,駆出動脈血温が深部体温であると考えられる。しかし,体温調節機構が十分に機能し

ているヒトの身体は,自律性および行動性体温調節機能により身体の内部環境の恒常性を維持しよう

とする (図1-1)。すでに述べたように,このような機能は視床下部で制御されている。したがっ

て,ヒトの体温調節の研究において,体温調節中枢である視床下部から離れた温度を深部体温とする

ことが正しいかどうかは疑問である。視床下部温も駆出動脈血温と同様に,直接的に測定することが

できないので,通常鼓膜温を視床下部温の指標として用いる。Benzingcrl1-21-1-23]は,鼓膜温は視床

下部へ流れる内頚動脈血温を反映しており,発汗などの体温調節パラメータなどの変化と一致するこ

とを報告した。しかし,鼓膜温の測定方法が十分に確立されていなかったために,不十分な測定方法

により鼓膜温は環境温度の影響を受けたり【1-24,1125】,通常深部体温時に顔面部を冷却すると東面部

の皮膚温の低下に影響されることなどが指摘され【1-26,1-27】,鼓膜温が視床下部温を正確に反映する

か否かは疑問視されている【1・19,1-25,1-28-1-30】。これに対し,Mariaketal.[1-31]は手術中に患者の

許可を得た上で中脳の温度を直接的に測定し,中脳の温度変化を鼓膜および食道の温度変化と比較検

討した。その結果,鼓膜温は食道温よりも中脳の温度変化をより明確に反映していた。この報告によ

り,鼓膜温を正確に測定すれば,鼓膜温が体温調節中枢である視床下部の温度を反映している可能性

が示された。しかし,上記の問題から,体温調節の分野で鼓膜温が其の深部体温の指標であることが

確立されたわけではなく,今後さらに検討される必要がある。

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1-2-2.体温調節中枢温度

熱収支モデルとして人体を考えた場合,深部体温を決定しているのは熱産生と熱放散のバランスで

ある。最近,ラットではあるがこの熱産生に関与する代謝活動を制御する神経系の存在が報告されて

いる【1-32,1-33]。Shibataetal.【1-32]はラットの中脳にあるrubrospinaltract嶺域に深部体温を一定に保つ

ことに関与している神経細胞が存在する可能性があることを報告した.この商域の一部分の神経を切

除または麻酔処理を施すと,代謝活動が高まって深部俸温が上昇し,この部分の活性を薬理または電

気刺激により高めると,深部体温は低下する【1-33】。中脳は,体温調節中枢である視床下部に近接し

ており,体温調節機構を解明するためには,視床下部周辺の温度を測定する方が有用であると考えら

れる。しかし,この報告はラットに関するものであり,ヒトに対しても類似する箇所に代謝活動を制

御する神経細胞があるかどうかは現在のところ解明されていない。

脳には視床下部だけでなく,あらゆる活動に必要な機能を制御する大脳,小脳や脳幹などがある。

このような臓器は,思考や運動によって代謝が高まり,発熱する。また,高等な動物ほど脳の活動に

よる発熱はかなり大きくなると考えられる。1960年代の後半にネコやイヌが高深部体温時に行うバン

ティングが,脳温の上昇を抑制するための反応であること (選択的脳冷却)が報告された[1-34,1-

351。選択的脳冷却とは,運動などによって体内の温度が上昇したときに脳温を積極的に他の部位の温

度よりも低く保つ働きのことである。現在では多くの動物で選択的脳冷却の存在が明らかになり【ト

36】,ヒトにも選択的脳冷却が存在する可能性が報告された【1-37-1-41]。しかし,ヒトの報告では他の

動物のように直接的に脳温を測定した結果ではなく,鼓膜温を測定することで選択的脳冷却の可能性

を示唆したものであった。鼓膜温はすでに述べたように,環境温度に影響されたりすることから脳温

を反映するか否かは疑問視されており[1-19,1125,1-28-1-30],ヒトにおける選択的脳冷却は疑問視さ

れている【1-28,I-42]。さらに,ヒトは他の動物のように頚動脈網もなく,バンティングもしないこと

から,ヒトにおいては選択的脳冷却はなく,そのような反応を示す鼓膜温は脳温を反映していないと

いう報告もある[1119,1-28,1-42]。これに対しては,頚動脈網もなく,バンティングもしないウマにお

いて,選択的脳冷却が存在したこと【1-43],ヒトにおいても高深部体温時にバンティングに類似した

行為があること[1-40,1-41】などが報告されている。しかし,ヒトにおける選択的脳冷却に関しては唆

味な点が多く,さらなる検討が必要である。

ヒトにおいても代謝活動の神経制御や選択的脳冷却が存在するのであれば,ヒトの体温調節の研究

において脳温を測定することは非常に有用である。しかし,脳内の温度を直接的に測定することは不

可能であるため,鼓膜温が視床下部の温度を正確に反映するのであれば,体温調節の研究において鼓

膜温を深部体温の指標として用いることは有用的である。

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図1-3 従来の鼓膜温 (左)および食道温 (右)の測定方法

1-2-3.深部体温の測定方法

現在の体温調節の研究分野において,非侵襲的に測定した深部体温の指標には,鼓膜温と食道温の

二通りが用いられている。以下に,これらの温度の測定方法について説明する。

鼓膜温に関しては以下の測定基準を満たすことによって,環境温度の影響を受けず,正確な鼓膜温

の測定ができることが報告されている【144]。鼓膜温の測定方法性,外耳道より熱電対またはサーミ

スタを挿入し,鼓膜の3分のlより下側に温度計を接触させる (図1-3左)。そのときに,温度計が

鼓膜に接触するために生じるガサガサ音 (スクラッチノイズ)と鋭い痛み (シャープペイン)を被験

者が感じていることを確認する。そして,コットンウールなどで外耳道を覆い,外気温の影響を遮断

する。鼓膜温センサ挿入時の問題点は,センサを鼓膜に接触させることによる痛みとその痛みによる

不快感である。

食道温の測定方法は,鼻腔より熱電対またはサーミスタを身長の約4分の1の長さまで挿入する (図

1-3右)。温度計が喉に達した後,水を飲みながら徐々に温度計を挿入する。唾液を飲み込むと食

道温が低下するために,実験中は脱脂綿を口内に含んだり,吸引機で唾液を吸い取ったりして,唾液

を飲み込まないようにする。食道温センサ挿入時の問題点は,鼻腔や気道内で温度計が巻いて止まっ

てしまったり,不快感から鳴咽を伴ったりすることや唾液を飲み込まないように脱脂綿や吸引機を口

内に挿入することである。

これらの測定方法は一度挿入すると,センサを挿入していることによる不快感は残るが,連続的に

深部体温を測定することができる。しかし,これらの測定方法は,温度計を測定対象部に接触させる

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必要があるため,鼓膜または食道の損傷の問題がある。そのため,子供や高齢者の体温調節の研究

で,これらの深部体温を使用することは困難である。さらに,未知の感染症などの危険性が残るた

め,より安全で被験者の負担にならない深部体温の測定方法が望まれている。

1-3.赤外線センサ

温度の測定にはその用途により様々な温度計がある。従来の検温にはガラス水銀体温計,熱感光性

あるいは液晶セル,サーミスタ,熱電対および電子体温計などが用いられていた。この中でも体温調

節や臨床の研究分野で用いられている鼓膜温用や食道温用の温度計は,サーミスタもしくは熱電対で

ある。これらは接触型温度計であるため,センサを測定部に接触させる必要がある。そのため,粘膜

や鼓膜の損傷,感染症の可能性およびセンサ挿入時に被験者に与える苦痛などの問題がある。近年,

赤外線センサを利用した非接触型温度計が,工業分野などで用いられている。非接触型温度計は測定

対象部に温度計を接触させる必要がないために,上記のような痛みや不快感,または感染症に対する

問題がほとんどない。1-2-2に述べた内容より,1)食道温よりも鼓膜温の方が体温調節中枢温

を反映している可能性が高いこと,2)図1-3より食道温の測定よりも鼓膜温の測定の方があまり

温度計を体内に挿入する必要がないことから,非接触型温度計を用いた深部体温計を開発するには食

道よりも鼓膜の方が適していると考えられる。

1-3-1.非接触型穀膜体温計

より安全に深部体温を測定するために,1980年代より赤外線センサを用いた非接触型鼓膜体温計が

開発され その有用性に関して検討されてきた【1-45-I-571。非接触型鼓膜体温計は,主に救急医療や

一般看護の分野で早急に深部体温を測定する装置として開発された。この装置は,鼓膜に接触するこ

となく鼓膜の温度を測定できるために,患者に対し苦痛や差恥心を与えることなく,さらに測定にか

かる時間が短縮されることから米国においては普及の兆しがある[1-56]。これまでに数社から非接触

型穀膜体温計が販売されており,それらの機器を用いた多数の臨床試験が行われている[ト56】。しか

し,その結果の解釈は一致しておらず,賛否両論がある。既存の機器が深部体温計として不十分であ

るという理由の一つに,既存の機器には測定する人の熟練度が結果に影響することが報告されている

【1・52,1-54,ト571。その他,出力される値は製造業者が算出アルゴリズムをどのように設計したか,校

正装置を内蔵するか否かによって機種毎に校正値が異なることが報告されている【1-56】。既存の機器

の測定精度が不十分なのは,測定する人の熟練度や製造元のアルゴリズムだけが影響したのではな

い。鼓膜までの外耳道は湾曲しており,そのため赤外線センサが鼓膜ではなく,外耳道の赤外線を検

出している可能性がある (図1-4)。図1-5のように,赤外線センサには一定の視野角があり,

その視野角内にある物質のすべての赤外線を検知し,その平均値を出力する【1158]。正確な温度の変

化が必要でなかったり,発熱しているか否かを検討するだけであれば,既存の非接触型鼓膜体温計で

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図1-4 鼓膜周辺図

図 1-5 赤外線センサの赤外線検出特性

も判断することはできるかもしれない。しかし,体温調節の研究や手術中では正確な深部体温の経時

変化が重要となるので,鼓膜から放射される赤外線のみを連続的に検出できなければならない。より

正確に鼓膜から放射される赤外線を検出するためには,赤外線センサの視野角も考慮しなければなら

ない。鼓膜温が視床下部温を反映していると考えられているのは,鼓膜の下方の温度を測定するから

である。つまり,鼓膜の下3分の1あたりが,鼓膜直下に流れる内頚動脈の温度をよりよく反映してい

るからである【1-44]。したがって,正確に鼓膜温を測定するためには,できる限り赤外線センサを鼓

膜に近づけなければならない。しかし,図1-4のように鼓膜までの外耳道は湾曲しているので,赤

外線センサ自体を鼓膜に近づけることは困難である。本研究では,その間題の解決策として光ファイ

バに着目し,光ファイバを用いて鼓膜からの赤外線を検出することを試みる。

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1-3-2.光ファイバの概要

光ファイバは誘電体の材料により,石英ガラスを主体とした光ファイバ,多種類のガラスから成る

光ファイバ,プラスチック光ファイバに分類することができる【1-591。近年では,光ファイバ技術の

向上により,ISDNなどによる光通信が一般家庭にまで普及してきている。光ファイバはその種類に

よって透過する光の波長が異なる。ヒトの体温レベルの長波長の光を透過する光ファイバは,カルコ

ゲナイドガラスファイバである。このカルコゲナイ ドガラスファイバには,表 1-2に示すS系

PST,NSG),Se系OVSEG)およびTe系PTEG)の3系4種類ある。透過する赤外線の波長によってその用

途は異なる。人体から放射される赤外線を透過するのに最も適したカルコゲナイドガラスファイバは

Te系のNTEGである。これより,本研究ではNTEGを用いる。NTEGはコア材にGeSeTe,クラッド材に

GeAsSeTeを使用している.このNTEGの透過損失スペクトルは図1-6に示す通りである【1160】。

光ファイバの光損失には,透過損失だけでなく,構造の不均一性による散乱損失,曲げによる放射

損失などがある[1-59].これに対し,カルコゲナイドガラスファイバはフッ化物ガラスのような潮解

性がなく,多結晶ファイバのようにファイバの繰り返し曲げによる結晶粒界での散乱増加といった問

題がなく,可換性や耐候性に優れている[1-60]。このほかの大きな損失には,端面反射による光損失

がある。カルコゲナイドガラスファイバの端面反射による光損失は約40%もある。通常の光ファイバ

であれば反射防止膜等を施すことによって,この光損失を低減することができるが,本研究の時点に

おいて,外耳道に挿入できるような径のカルコゲナイドガラスファイバに反射防止膜を施すことはで

きなかった。したがって,赤外線センサも従来の非接触型鼓膜体温計で用いられていた焦電やサーモ

パイルだけでなく,より高感度の赤外線センサも選択肢として考慮する必要がある。

表 1-2 カルコゲナイドガラスファイバの性質

種類 NST NSG NSEG NTEG

構成 S系 S系 Se,* Te糸

構造 テフロンクラッド ガラスクラッド ガラスクラッド ガラスクラッド

波長域 1-7一皿 I-7ー1m 3-8pm 4-12ーlm

応用例 coレーザの coレーザの 成分分析 coレーザの

パワー伝送 パワー伝送 パワー伝送

温度計測 ガス分析 成分分析

10

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0

(uJqp).銘蛮

2 4 6 8 10

波長,(pm)

図 1-6 赤外線透過ファイバの光損失

1-3-3.赤外線センサの概要

すべての物体は,その温度が絶対零度以上であれば,その物体表面の原子あるいは分子の振動,回

転によって,その物体の温度に応じたエネルギーを放射している。この熱放射に関係するのは,波長

領域が約0.1-1000pmの電磁波であり,物体が放射するエネルギーにおける電磁波のピーク波長は,

多くの場合,赤外線領域内にある。赤外線とは,0.72-100叫mの広い波長帯域をもつ電磁波であり,

図 1-7のように,遠赤外線,中間赤外線および近赤外線の3つに分けられることもある【1-58]。

赤外線は,物体中を熱対流 ・熱伝導によって運ばれるものではなく,光のように直進し,真空中は

もとより,空気などの気体や流体または固体のような物体中も伝搬していく【1158].完全な真空中を

進むとき,赤外線はこれらの影響を全く受けないが,気体 ・液体 ・固体といった物体中を進むとき,

温度 (oc)

3871 1649 260 37

0.3 0.72 1.5 5.6 9.4 1000

ピーク波長 (Llm)

図1-7 温度とその温度に対するピーク波長の関係

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赤外線の一部は吸収あるいは反射される。赤外線は,可視光のように,レンズ,鏡や光ファイバなど

によって,光学的に集束させたり,方向を変えることも可能である (反射や屈折の法則に従う)[1-

5恥

物体から放射される赤外線エネルギーのピーク波長を算出するためには,ブランクの式とウィーン

の変位式が用いられるOブランクの式は,物体から放射される赤外線エネルギーの強さがその波長や

物体の温度とある一定の関係をもつことを利用したものである。単位波長 (lpm),単位面積 (1

cm 2) 当りの赤外線放射エネルギーをW人とすると,ブランクの式によりW人は次の式 (1・1)のよ

うに表すことができる【1-58]。

WA-27thc2/[A5(ech/AkT-I)]

-cl/[入5leら′入T・l]] (1・ 1)

W入:単色放射発散度 (W/cm2・一m)

h :プランク定数-6.6261×10・34 (W ・S2)

入 :波長 (pm)

C :光速度-2.9979×1010 (cm/S)

k :ボルツマン定数-1.3807×10123 (W ・S/K)

T :絶対温度 (K)

cl :第-放射定数-3・7418×104(W/cmユ・pm4)

C2 :第二放射定数-1・4388×104(pm・K)

上記の式 (1.1)の両辺を人について微分してその値を0とすると,放射エネルギーのピーク波長

入mを兄いだすことができる。結果はウィーンの変位則となり,次の式 (2・ 2)で表される【1-58]。

入 T-2897pm・K (1. 2)m

入m:放射エネルギーのピーク波長 (ドm)

式 (1.2)により,任意の温度Tについてその温度における放射エネルギーのピーク波長を求める

ことができる。したがって,温度Tをヒトの深部体温である37oCと仮定し,式 (1.2)を用いて計

算すると,9.34pmをピーク波長とする赤外線が放出されていることになる。深部体温の変動を考慮し

てピーク波長は約9-10pmと考えられる。上記の式 (1.1)と (1.2)においては放射率 Eを1と

して計算した。放射率が1となるのは,黒体と呼ばれる理想的な物体を考える場合である。黒体と

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(tqF*t.tE[3Jと

.妻

■汝憂 (ftn)

図1-8 ヒトから放射される赤外線

は,それ自身に入射するすべてのエネルギーを吸収し,かつ,あらゆる物体の中で,ある温度におい

て放射されるエネルギーが最も大きい物体のことである。図1-8に黒体 (放射率と-I)の単色放射

発散度W人と波長人の関係を示す。

放射率は,放射や吸収の効率を示し,物体固有の定数である。しかし,厳密に言えば,放射率はそ

の物体の表面状態や形状により,また,波長や温度によっても多少変化する。つまり,波長によって

放射率が変化するということは,それぞれの温度に対する放射率が異なる【1-61】。このように,放射

率を厳密に求めることは大変国井である。しかし,人体の皮膚の放射率は皮膚の色に関係なくe=0.98

(皮膚温が32oCのとき)である【1-58]。

一首で赤外線センサといっても.その原理や利用方法の点から考えると,その種類には様々なもの

がある。赤外線センサには,その検出原理によって量子型と熱型に分類できる。ここでは,それらの

種類と特徴について説明する。

(A)皇子型センサ

皇子型赤外線センサは,物体から放射される赤外線を光としてとらえ,センサに入射した光子

bhoton)と電子が直接相互作用し,その光子数に比例した電気信号を取り出す装置である。量子型赤

外線センサは熟型赤外線センサと比較すると感度が高く,応答性が康れているという長所をもってい

るが,逆に,高い感度を得るためにセンサ自体を冷却する必要がある。また,それぞれのセンサには

それぞれ特有の波長依存性があるため,測定する温度域に応じたセンサを選択しなければならないな

どの短所もある。ここでは,量子型赤外線センサの代表的なものをいくつか取り上げて説明する。量

子型には,真性型と不純物型があり,真性型はさらに,光伝導型 (PC型)と光起電力型 (PV型)に

分けられる。光伝導型は,赤外線による半導体素子の伝導度の変化を利用したものである。光起電力

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型は,赤外線によって,半導体のpn接合部に起電力が生じるという現象を利用したものである。

量子型赤外線センサ材料としてはHgCdTe,Ge:Au,Ge:Hg,Ge:Cu,PbS,PbSe,hSbおよびpbSnTe

などがある。PbS,PbSeは応答波長域が短いため高温でも利用できる安価で手軽なセンサである。

hSbは結晶の高純度化や ドーピングが容易に行えるため,PC型,PV型センサに利用される。PbSnTe

とHgCdTeはその組成を変えることにより応答波長域を連続的に変化させることができる。PbSnTeの

製法としては,ブリッジマン法や液相エピタキシャル法によって成長されるが,低濃度の結晶を得る

ことが困難であり,PC型センサの形成は難しく,主にPV型センサ用として利用されている【ト62】。

逆に,HgCdTeはゾーンメル ト法や再結晶法によって成長され 最近では各種のエピタキシャル法

も研究されている。この材料は,低キャリア濃度化 pn接合の形成が容易で,しかも安定した表面保

護膜の形成ができることから,pC型,pv型およびMIS型のいずれのセンサにも利用される。このた

め,最近の赤外線センサ用材料にはHgCdTeが主に用いられている【1-62】。

HgCdTe光導電素子は,サファイア基板上に薄いHgCdTe結晶膜を形成して作るため,光導電面の面

積,形状および素子数を比較的容易に変えることができる。長波長用のHgCdTeは液体窒素 (-196oC)

冷却を必要とするが,短波長用であれば電子冷却型もある【ト631。

今回用いたHgCdTeセンサは,PC型のものである。PC型は,赤外線が光導電素子に入射することに

より抵抗値が減少 (電気伝導度の増加)する光導電効果を利用した半導体素子を用いた赤外線センサ

である。赤外線の入射により,価電子帯の電子は入射光のエネルギーを吸収し,伝導体に励起され,

電気伝導度が増加し,半導体のエネルギーギャップよりも大きな入射光に対しキャリアの励起が可能

となり,光導電効果が生じる【1-63]。

(a)熱型センサ

量子型赤外線センサが赤外線を光量子 (photon)として検知するのに対し,熱型赤外線センサは赤

外線の吸収による熱電効果を利用したセンサである。熱型赤外線センサは,光が素子物質に吸収され

て熱に変換された後,温度上昇によって内部抵抗や分極など素子の電気抵抗が変化する現象である熱

電現象を介して,電気信号を得るものである【1-641。熱型赤外線センサの特徴は,入射赤外線に対し

波長依存性をもたないこと,冷却の必要がなく常温で使用できること,長波長の赤外線まで検出でき

ること,逆に量子型赤外線センサに比べて感度が低くて応答速度が遅いことなどである。熱型赤外線

センサはその動作方式から圧力型,抵抗変化型,熱起電力型および焦電型に分類される。

ゴーレイセルに代表される圧力変化型は,容器内にあるガスが照射赤外線の熱により膨溝し,その

変化を可視光線による変位,またはコンデンサ容量の変化として検出する。このセンサは高感度であ

るが,構造が複雑かつ高価であることから最近ではあまり利用されていない【1165].抵抗変化型は,

入射する赤外線の熱により素子構成物質の格子定数が変化し,その導電率が変わることを利用したも

のである。このタイプは入射エネルギーの変化を直流電圧で出力することができるが,安定化バイア

ス電流が必要となる。最近では素子材料に半導体を用いるものが多くなっている【1-65】。熱起電力型

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は感度を上げるために,熱電対を薄膜蒸着で構成し,かつ直列に接続して,その接点を中央に集中さ

せ,熱吸収膜を通して照射赤外線からの熱を受けて起電力を発生するものである。特徴としては,熱

電対のゼーベック効果を利用しているので電源を必要としないことが挙げられる。しかし,感度は他

のものより低く,その用途も限られている【1-651。焦電型は,強誘電体のもつ焦電効果を利用したも

のである。焦電効果とは,自発分極をもつ物質に温度変化が与えられた場合に,分極の電荷が変化す

る現象のことである。この種のセンサは高感度であり,エネルギー変化,つまり温度変化が与えられ

た場合のみ電荷が発生し,出力として検出される微分型である。

本研究では熱型赤外線センサには焦電型赤外線センサを用いた。この焦電型センサに用いられる焦

電材料には,LiTa02やTGSなどの単結晶,pbTi02やpzTのセラミックなどの種類がある【1-65]。本研究

ではTGS系のDLATGSを用いる。

図 1-9より,熱型赤外線センサ (例えば焦電素子を用いた焦電型赤外線センサ)は低波長から長

波長まで一様に検知することができるのに対し,量子型赤外線センサは検知できる波長に制限はある

ちのの,熱型に比べてかなりの感度が高いことがわかる。したがって,本研究で用いる赤外線センサ

を決定する際には,測定する温度域のピーク波長を考慮に入れて決めなければならない。前述のよう

に,ヒトの深部体温の変動を考慮すると,測定対象である鼓膜における赤外線のピーク波長は約9-

1叫mと考えられる。これより,この領域の赤外線波長を検出するには,熱型赤外線センサもしくは量

子型赤外線センサであれi丑IgCdTeが適切であることがわかる。

l l

lI lQ●(1竹村ヽ/ ヽヽ ー 】

Ex,LFhP23q ヽヽヽヽ , l澄 竿 竿 仰ヽヽ ELhQJb 九七一● 4一郎■4

轟l ーヽヽヽヽヽ lhALーT7q 帆 (1叫 榔 諾憎紺の叫脚_ヽ l

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1 2 3 1 5 6 7 8 9 10 11 12 13 11 15 16 17 tB

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図1-9 赤外線検出素子の分光感度特性

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1-4.研究の目的

ヒトの体温調節機構は,身体の内部環境を維持するためには欠くことのできない調節系の一つであ

る。発汗や皮膚血流量などの体温調節反応は,深部体温に大きく影響され (図1-1),ヒトの体温

調節機構を解明する上で深部体温は重要な指標として用いられている。一般的には肢喬,口腔,直

腸,食道,そして鼓膜などで測定した温度を深部体温として用いる。これらの温度はその用途によっ

て使い分けられ (表1-1),体温調節の研究では動脈血温の変化に対する応答性が早いなどの理由

から,鼓膜温や食道温を深部体温として用いる.一般的に,鼓膜温が体温調節中枢である視床下部温

を,食道温が体中心部である心房内の駆出動脈血温を反映するとされている。

これまでの鼓膜温や食道温の測定方法では接触型温度計を使用するため,センサの挿入によって鼓

膜や粘膜に外傷を与えたり,挿入時に被験者に苦痛を伴わせるなどの問題がある。そのため,子倣や

高齢者などに対して使用することは困難であり,また,未知のウイルスに対する感染などの問題か

ら,接触型の体温計を使用することは困難になると思われる。ヒトの体温調節を研究していくために

ち,安全な深部体温の測定方法が必要になると考えられる。体温調節の研究分野や臨床の分野におい

て,鼓膜温や食道温が深部体温として用いられているが,体温調節中枢温として鼓膜温の方が食道温

よりも有用性が高い可能性があること,赤外線センサを用いて食道温は測定できないことより,より

安全に鼓膜温を測定する目的で,非接触型鼓膜体温計が開発され,販売されている。しかし,既存の

機器は体温調節の研究分野や臨床の分野で必要な連続測定ができなかったり,測定する人の熟練度を

要するなどの問題点があった。さらに,赤外線センサの特性から鼓膜だけでなく,外耳道の温度も測

定している可能性も考えられる。これらのことより本研究では,安全にかつ正確に深部体温を連続測

定することのできる深部体温計を開発し,その有用性を明らかにすることを目的とする。本研究では

赤外線センサと赤外線透過ファイバを用いた非接触型穀膜体温計を開発し,その有用性について検討

する。

図1-10に本論文の構成を示す。各章の内容は,以下に示すとおりである。

第2章では,本研究で開発した非接触型鼓膜体温計の基本性能に関して検討する。赤外線透過ファ

イバの光損失を考慮した人体から放射される赤外線の検出に対して最も感度の良いセンサと,小型 ・

汎用性を考慮した安価なセンサの2種類を用いて,赤外線透過ファイバを用いた非接触型鼓膜体温計

を製作し,両非接触型穀膜体温計の基本性能に関する報告を行う。

第3章では,本研究で開発した非接触型戟膜体温計が正確に鼓膜の温度を測定できることを実証す

る。具体的には,側頭部および顔面部をアイスパックや扇風機を用いて冷却し,本研究で開発した非

接触型鼓膜体温計で測定した温度がそれらの冷却刺激による皮膚温の低下に影響されるか否かを検討

する。

第4章と第5章では,従来の接触型鼓膜体温計で測定した鼓膜温と,本研究で開発した非接触型鼓

膜体温計で測定した鼓膜温との比較検討を行う。また,もう一つの深部体温の指標である食道温との

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比較検討も行う。第4章では,受動的に深部体温を上昇させることのできる下肢温浴負荷時におい

て,それぞれの深部体温の測定を行う。第5章では,異なる3条件の運動負荷時において,それぞれ

の深部体温を測定を行う。

第6章では,ヒトの体温調節機能の中でも特徴的な発汗を対象に,非接触型鼓膜体温計で測定した

鼓膜温,接触型鼓膜体温計で測定した鼓膜温と熱電対で測定した食道温の変化に対する発汗反応につ

いて検討するOさらに,これらの深部体温の上昇に伴う汗腺活動 (活動汗腺数および単一汗腺あたり

の汗出力)を検討することによって,非接触型鼓膜体温計が,体温調節の研究に有用な装置であるこ

とを明らかにする。

第7章では,得られた研究成果の総括を行う。

第一章

緒言

第二章

赤外線透過ファイバを用いた

第三章

鼓膜温測定に対する

第四章

安静時受動的温熱負荷時の第五章

第六章

深部体温上昇時の

第七章

総括

図1-10 本論文の構成

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第 2章.

赤外線透過ファイバを用いた非接触型鼓膜体温計の開発

2-1.はじめに

より安全にかつ簡便に鼓膜の温度を測定するために,赤外線センサを用いた非接触型鼓膜体温計が

開発され その有用性に関して様々な報告がある[2-1]。しかし,既存の機器は体温調節や臨床の研究

分野で用いるには不十分であった【2-2]。なぜならば,既存の非接触型穀膜体温計は連続測定すること

ができず【2-2],さらに測定者の熟練度が影響したり[2-1】,第 1章で示したように赤外線センサの特性

が関与して穀膜の温度だけでなく,外耳道のそれも測定している可能性があるからである。本章では

連続測定および赤外線センサの特性に留意して,赤外線透過ファイバを用いた非接触型鼓膜体温計を

開発することを目的とする。本研究において,赤外線透過ファイバとして用いるカルコゲナイドガラ

スファイバは,現存の光ファイバの中ではヒトの深部体温レベルの温度の赤外線波長を最も効率良く

透過する光ファイバである。しかし,技術的な問題から端面反射により約40%の光損失がある。これ

より,カルコゲナイドガラスファイバを用いたサーモカメラなども赤外線センサに感度の低い熱型で

はなく,高感度のbSbなどが用いられている。しかし,高感度の赤外線センサは冷却が必要なため,

取り扱いが難しく,あまり実用的ではない。そこで,本研究では高感度と低感度の2種類の赤外線セ

ンサを用いる。装置1の赤外線センサにはヒトの深部体温レベルの温度の赤外線波長を最もよく検出

する量子型赤外線センサのMCTを用いる。一方,安価で救い易い非接触型鼓膜体温計を製作するため

に,装置2の赤外線センサには小型で汎用性の高い焦電型赤外線センサのDLATGSを用いる。本章では

両装置の基本性能に関して報告する。

2-2.システムの構成

2-2-1.MCT型システム

量子型赤外線センサは,メタルデュワ型MCT (浜松ホトニクス社製)を用いる。今回用いるMCT赤

外線センサは,素子を-196oCに冷却する液体窒素冷却式である。MCT赤外線センサの仕様を表2-1

に,外形寸法を図2-1に示す。

MCT赤外線センサは図2-1に示すように円筒形になっており,上部にある発砲スチロール栓を開

け,注入口より液体窒素を注入する。使用環境温度によって異なるが,25oCの環境温度下であれば一

回の液体窒素の注入 (約400cc)で約6時間の測定が可能である。

赤外線透過ファイバは,カルコゲナイドファイバであるNTEG (NOG社製)を用いる。MCT赤外線

センサを用いた非接触型鼓膜体温計 (以下,MCT型システム)の製作目的は,赤外線透過ファイバ

の光損失を考慮して,鼓膜からできる限り多く赤外線を検出することである。よって,使用する赤外

線透過ファイバはその断面積をできる限り大きくする。一般的な日本人の外耳道の大きさは長さが約

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表 2-1 MCT赤外線センサの仕様

型名 P3257

パッケージ メタルデユワ

受光面サイズ (皿 2) 1×1

素子温度 (oc) -196

受光感度sat入p(注1) Ⅳ仰) 1×103

D'(注2) (cm.Hzlh/W) 2×1010

NEPat入p(注3) (W/Hzl戊) 5Xl0-12

上昇時間 tr0-63%MaX. (pSeC) 1

注 1(入p):受光感度の最大となる波長。

注2(D●):比検出能力のことで,lWの光入力があったときの検出素子に

おける交流的なS/N比を示す。

注3(対EP):雑音量に等しい入射光量,S/N比が1となるときの入射光量。

r B

′ ≡≡トヽくン

【-

≡○○ト.lll■ l

・.盟 栓セl

l

9mm

図2-1 MCT赤外線センサの外患国

19

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37mm,口径が約10mmである【2-3]。これより,赤外線透過ファイバの構成はコア/クラッド径が250

/31叫m,長さが60cmのファイバを20本バンドルし,両端面を鏡面研磨したものとする。赤外線透過

ファイバを外耳道に固定するため,および環境温度が外耳道内に影響を及ぼさないために,外耳道挿

入側にはポリエチレンスポンジを取り付ける。

量子型赤外線センサはフォトンの変化により,温度変化をとらえるため,一定の温度を測定するた

めには,一定間隔で赤外線をチョッビングする必要がある。MCT型システムでは,アクリル製の一

枚羽チョッパをステッピングモーターに取り付け,赤外線透過ファイバから伝播される赤外線を

チョッビングする。ステッピングモーターは超小型ステッピングモーター (オリエンタルモーター社

表2-2 ZmSeレンズの仕様

種類 znse両凸レンズ

直径 (mm) 12.7

厚さ (帆 ) 2

焦点距離 (mm) 14.39

表面処理 両面反射防止膜付

図2-2 MCT型システムの構成図

20

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製)を用いる。

今回使用するMCT赤外線センサは,センサを保護する窓材からセンサまでの距離が9mmと離れてい

るために (図2-1),MCT赤外線センサおよび赤外線透過ファイバの視野角を考慮して両者間に集

光レンズを挿入する。赤外線は反射や屈折の法則に従うが,通常の光学用ガラスレンズでは赤外線自

体がレンズに吸収されてしまう。そこで,長波長の赤外線の透過に優れたznseレンズ (レーザメイト

社製)を用いる。ZnSeレンズの仕様を表2-2に示す。

システム全体の構成を図2-2に示す。MCT赤外線センサからの出力電圧は,プレアンプ (浜松ホ

トニクス社製)を介し,さらにDCアンプ (TEAC社製)によって2倍に増幅し,A/Dボードを介して

コンピュータ (日本電気社製)に入力する。あらかじめ測定した校正値を用いて実験終了後にコン

ピュータで演算して1秒毎の温度値を算出する。

2-2-2.DLATGS型システム

より安価で,小型の赤外線透過ファイバを用いた戟膜体温計を製作するため,汎用性のある

DLATGS焦電型センサ (島津製作所社製)を用いた非接触型鼓膜体温計 (以下,DLATGS型システ

ム)を製作する。 DLATGS赤外線センサの仕様を表2-3に,外形寸法を図2-3に示す。

このシステムの赤外線透過ファイバにもカルコゲナイドガラスファイバであるNTEG (NOG社製)

を用いるが,このシステムではコア/クラッド径が600/750pm,長さ50cmの径の大きなファイバを1

本のみ使用する。また,MCT赤外線センサと異なり,DLATGS赤外線センサはセンサの保護窓材から

センサまでの距離が短いため,集光レンズは用いない。さらに,DLATGS赤外線センサはMCT赤外線

センサのような強制冷却を必要としないために,センサ部をできるだけ小型化している。

システム全体の構成を図2-4に示す.DLATGS赤外線センサは,周囲温度の影響を受けないよう

に,温調素子と一体型になっている。温調素子は,温度調節回路により調節されている。MCT型シス

テム同様に,ファイバの外耳道挿入側にはポリエチレンスポンジを取り付けている。小型化のために

チョッビングモーターにはDCモーター (並木精密宝石社製)を使用している。DLATGS赤外線センサ

からの出力電圧はプレアンプ (島津製作所社製)を介した後,DCアンプで増幅し,An)ボードを介し

表2-3 DLArGS赤外線センサの仕様

型名 T0-5

受光面サイズ (mm 2) 0.64

素子温度 (oc) 常温

D* (cm.HztJ2/W) lX108

21

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てコンピュータ (日本電気社製)に入力する。ここではあらかじめ測定した校正値をコンピュータに

入力しておき,その値を用いて測定と平行しながらコンピュータで演算して1秒毎の温度値を算出す

るo

_ 穴_42 _

OlMC1

∩[

角nn

l

図2-3 DLATGS赤外線センサの外観図

(単位 :孤 )

図2-4 DLATGS型システムの構成図

22

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開発した2種類の非接触型鼓膜体温計の校正を行うために,簡易校正装置 (以下,黒体炉と称す

る)を製作する。校正装置にはベルチエ素子により温度調節される金属面を持つマイクロクーラー

(熱電子工業社製)を用いる。この装置の金属面に黒体テープ (3M社製, ど-1.00)を貼り付け,非

接触型鼓膜体温計はこの黒体テープ面を測定する。黒体炉の表面温度は,黒体テープと金属面の間に

熱電対 (鋼-コンスタンタン)を挿入して測定し,その出力はハイブリッドレコーダー (横河社製)

を介してコンピュータに入力する。入力される熱電対の表面温度値をモニターで確認しながら可変型

電圧計によって,黒体炉の表面温度を調節する。

2-3.実験方法

2-3-1.静的特性実験

液体窒素を注入し (MCT型システムの場合),システムを稼働するのに必要な電源を投入してか

ら,センサの出力値が安定するまでにかかる時間を検討する。

一定温度測定時におけるシステムからの出力値の安定性を検討する。また,環境温度に出力値が影

響されるか否かを検討するために,環境温度25oCおよび35oCの2条件下で実験を行う。

2-3-2.動的特性実験

黒体炉から放射される温度に対して,MCT型システムおよびDLATGS型システムの出力が線形性を

有するか否かについて検討する。ある一定の温度範囲において,異なる5つの一定温度を5分間測定

し,その平均値をその温度に対する出力とする。

運動時に深部体温が急激に上昇することを考慮して,黒体炉の温度を急激に変化させたときのMCT

型システムおよびDLATGS型システムの追従性およびヒステリシスに関して検討する。運動を行う

と,深部体温は急激に上昇する。ある一定の運動を行った場合,深部体温は20分前後で安定する。か

なり強い強度で運動を行うと,深部体温は定常状態になることはないが,それでも深部体温が40oCを

越えることはあまり考えられない。深部体温が5分間で5oC近くも変化することは考えにくいことか

ら,この実験では10分間および20分間周期で,黒体炉の温度を36oCから40oCの範囲で上昇 ・下降の変

化をさせる。

2-3-3.赤外線透過ファイバの特性実験

赤外線センサ自体の応答性は,両センサとも非常に良好で,MCT赤外線センサの応答時間は1ps,

DLATGS赤外線センサの応答時間は10msである。したがって,本システムにおける応答性は赤外線透

過ファイバを伝播するのにかかる時間に依存する。ここでは,異なる温度の測定対象物を重ねて,赤

外線透過ファイバの前に置き,瞬時に測定対象物を変えることによって,本システムの応答性につい

23

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て検討する。

さらに,赤外線透過ファイバの光損失には,透過捜失だけでなく,曲げによる放射損失が考えられ

るため,一定温度測定中に赤外線透過ファイバを900曲げることによって曲げによる放射損失につい

て検討する。

2-4.実験結果および考察

2-4-1.実験結果および考察 :MCT型システム

2-4-1-1.静的特性実験

液体窒素の注入,システムを稼働するために必要な電源の投入をしてから,赤外線センサの出力値

が安定するまでにかかる時間を検討した。環境温度により多少前後するものの,赤外線センサからの

出力値が安定するまでには50分~1時間かかることが確認された。これは,MCT素子が液体窒素に

よって冷却され,素子の温度が安定するのにかかる時間が影響していると考えられる。

一定温度測定時のMCT型システムからの出力値の安定性を検討した。図2-5は,システムを稼働

するために必要な電源の投入,液体窒素を注入してから30分後より1時間赤外線センサからの出力電

圧を計測したものである。図2-5より,約20分後 (液体窒素注入後50分)から赤外線センサの出力

は安定したo赤外線センサの出力値が安定した後,黒体炉の温度とMCT型システムの測定温度との最

大誤差は土0.2oC程度であった。この誤差の原因を検討するために,チョッパの位置をファイバーセン

サ間から,黒体炉-ファイバ間に変更して同様の実験を行った。その結果を図2-6に示す。図2-

l f l l l黒体炉

- MCT型システムl L_ A 一■山

0 10 20 30 40 50 60

時間,min

図2-5 MCT型システムの安定性

24

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40.0

39.0

U 38.0

頑 37.0

36.0

35.0

l l l

黒体炉

- MCT型システム

- TIIl l l l

0 10 20 30 40

時間,min

図2-6 MCT型システムのチョッパの位置を

変更した場合の安定性

5では,黒体炉温度とMCT型システムによる測定温度との最大誤差は土0.2oCあったが,図2-6の場

合には黒体炉の温度とMCT型システムによる測定温度間にほとんど差はなかった。したがって,図2

-5でみられた土0.2oCの温度誤差は,モーターの発熱やモーターの振動によって,ファイバや測定シ

ステム自体が振動している可能性やチョッパの放射率が不均一である可能性が考えられる。

環境温度によって出力値が影響を受けるか否かを検討するために,環境温度25oCおよび35oCの2条

件下で実験を行った。出力電圧は環境温度によって異なったものの,各環境温度毎に校正を行なえば

環境温度の相違による差はなかった。環境温度により出力電圧が変化した理由は,環境温度の違いに

よりチョッパ部分の温度が異なり,黒体炉とチョッパ間の温度差が環境温度によって異なったためと

考えられる。しかし,この間題はチョッパの周辺温度を温度調節器で制御したり,異なる環境温度で

実験する場合にはその都度校正を行うことで十分に修正できると考えられる。

2-4-1-2.動的特性実験

黒体炉の温度とMCT型システムで測定した温度間の線形性について検討した。36oCから40oCの範囲

において,異なる5つの一定温度を5分間測定して黒体炉の温度とMCT型システムで測定した温度との

相関関係を検討した。図2-7にその結果を示す。これより,MCT型システムは36oCから40oCの範囲

において,黒体炉の温度変化に対して一次の線形性を有することが確認できた。

10分間および20分間周期で,黒体炉の温度を36oCから40oCの範囲で上昇 ・下降の変化をさせたとき

のMCT型システムの追従性およびヒステリシスに関して検討した。図2-8に両実験の結果を示す。

いずれの実験においてもMCT型システムは黒体炉の温度変化に対して十分な追従性を示した。また,

25

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Uo.概要尺玉中

へ2r潅東低

36・0 37.0 38.0 39,0 40.0

黒体炉温度,oC

図2-7 MCT型システムの線形性

0

0

0

9

00

7

3

3

3

U..雌頑FFFr7本八2L藩東低

36.0

0

0

0

9

8

7

3

3

3

UO.雌頑q:FF7中八中瀬東低

37.0 38.0 39.0 40.0 36.0 37.0 38.0 39.0 40.0

黒対炉温度,oc 黒対炉温度,dc

lO分周期 20分周期

図2-8 MCT型システムの追従性およびヒステリシス

26

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黒体炉の温度変化に対するヒステリシスもなかった。これより,MCT型システムは36oCから40oCの範

囲の温度変化を正確に測定することができると考えられる0

2-4-2.実験結果および考察 :DLATGS型システム

2-4-2-1.静的特性実験

システムを稼働するのに必要な電源を投入してから赤外線センサの出力値が安定するまでにかかる

時間を検討した。DLATGS型システムは,MCT型システムと異なり,特別な冷却剤を使用することが

ないので,ウオームアップ時間は約2分である。安定性に関しては,MCT型システムと同様に良好

で,環境温度に関係なく,黒体炉とDLATGS型システムとの最大誤差は土0.2oC程度であった (図2-

9)。この誤差の理由としてはMCT型システムと同様のことが考えられ MCT型システムと同様に今

後の検討課題である。

0 10 20 30 40 50 60

時間,min

図2-9 DLATGS型システムの安定性

2-4-2-2.勤的特性実験

黒体炉の温度とDLArGS型システムで測定した温度間の線形性について検討した。30oCから40oCの

範囲において,異なる5つの一定温度を5分間測定して両者の相関関係を検討した。図2-10にその

結果を示す。これより,DLATGS型システムは30oCから40oCの範囲において,黒体炉の温度変化に対

して一次の禄形性を有することが確認できた。

10分間および20分間周期で,黒体炉の温度を36oCから40oCの範囲で上昇 ・下降の変化をさせたとき

のDLArGS型システムの追従性およびヒステリシスに関して検討した。図2-11に両実験の結果を

27

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U〇.概

要FFFf7中へ2[漣恵聴

30.0 32.0 34.0 36.0 3S,0 40.0

黒体炉温度,oc

図2-10 DLATGS型システムの線形性

U〇.概要q:Ff7本八4

藤東低

0

0

39

38

U〇

.概要

尺玉か八中

瀬東低

39.0

nU

0

OO

7

3

3

36.0 37.0 38.0 39.0 40.0 36.0

黒対炉温度,oC

IO分周期

37.0 38.0 39.0 40.0

黒対炉温度,oC

20分周期

図2-11 DLATGS型システムの追従性およびヒステリシス

28

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示す。いずれの実験においても,DLATGS型システムは黒体炉の温度変化に対して十分な追従性を示

した。また,黒体炉の温度変化に対するヒステリシスもなかった。これより,DLATGS型システムは

36oCから40oCの範囲の温度変化を正確に測定することができると考えられる。

2-4-3.実験結果および考察 :赤外線透過ファイバの特性実験

本システムの応答性および赤外線透過ファイバの曲げによる放射挽矢について検討した。図2-1

2は,瞬時に測定対象物を変えたときの本システムの応答性について検討した結果である。これよ

り,本システムの応答時間は1秒以内であると考えられる。以上の結果,応答速度に関しては深部体

温を測定するには十分であると考えられる。

38.0

36.0

51) 34.0

感4 32.0

30.0

28.0

26.0ー20 -15 -10 -5 0 5 10 15 20

時間,S∝

図2-12 赤外線透過ファイバによる遅れ時間

図2-13は一定温度測定中に赤外線透過ファイバを900曲げた場合の結果を示している (測定開

始から10分目に900曲げた)。黒体炉を動かした際に測定対象面がずれたために,温度出力が多少変

化しているが,本システムの測定温度と黒体炉の温度との最大誤差は±0.2oC程度であり,これは本シ

ステムの誤差範囲内と考えられる。したがって,赤外線透過ファイバの曲げによる放射損失はほとん

どないものと考えられる。

2-5.まとめ

いずれの測定システムも,黒体炉の温度変化に対して一次の線形性を有することが示された。ま

た,長時間一定温度測定中,黒体炉の基準温度に対する測定システムの出力値の最大誤差は土0.2oC程

度であった。さらに,両システムとも黒体炉温度の動的変化に対して十分な追従性を有し,ヒステリ

29

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~~~「~ー■1「F ■1■■■-■- 『~■芦「'~ ~

0 10 20

時間,min

図2-13 曲げによる赤外線透過ファイバの光損失

シスも見られなかった。したがって,両システムとも測定精度に関しては改善の必要があるものの,

ヒトの深部体温を測定するために必要な性能を有していると考えられる。

両システムとも,同等の測定性能を有していたことから,測定装置に使用する消耗品や測定システ

ムの製作にかかる費用,また実験の準備等を考慮すると,より安価で製作することのできるDLATGS

型システムの方がコストパフォーマンスの点で優れていると考えられる。さらに,MCT型システムは

液体窒素を使用するために,測定時間の拘束や取り扱いが困難であり,体温調節の研究や臨床の分野

で深部体温計として用いることは難しい。その点,DLATGS型システムは危険な薬品等を使用するこ

となく,装置自体が小型であるために,持ち運びが自由に行える.また,DLATGS型システムは冷却

剤が不必要なため,さらに小型化することも可能である。本研究の時点では,技術的な問題から赤外

線センサは人の体から離れたところに固定していたが,DLATGS型システムはさらに小型化してヘッ

ドホンなどのような頭部に固定できるものに内蔵することによって,より簡便に使用することのでき

る深部体温計を製作できる可能性を有している。

したがって,第3章以降ではDLATGS型システムを用いて実験を行い,その結果について報告す

る。

30

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第 3章.

鼓膜温測定に対する外乱の影響

3-1.はじめに

Benzingerl3-1-3-3]の報告以来,鼓膜温は多くの研究で深部体温として用いられている。しかし,外

耳道は食道と比較して短いために鼓膜温は食道温よりも,環境温度の影響を受けやすいことが指摘さ

れている【3-4-3-6]Oそのため,鼓膜温を深部体温の指標として用いるには不十分であるとする研究が

いくつか報告されている[3-4,3-5,3-7-3-9]。これに対して,BrimmelandCabanacl3-10]は鼓膜温の測定

方法について詳しい説明を行った。それによると,鼓膜温が深部体温または視床下部温を正確に反映

するのは,温度計を鼓膜の下3分の1に設置したときであり,さらにコットンウールなどで外耳道を覆

うことで外界の温度に影響されないことを報告している。また,Satoetal.【3-11】は通常深部体温時に

おいて,温度計が正確に鼓膜の温度を測定していれば,アイスパックや扇風機などで頭部 ・顔面部を

冷却しても,測定温度は低下しないことを報告した。ここでは,この点に留意し,本システムが鼓膜

の温度を正確に測定しているか否かを判断するために,Satoetal.[3-11]の報告に基づいて,通常傑部

体温時の被験者に対して頭部および顔面部の冷却実験を行う。さらに,外耳道に挿入する赤外線透過

ファイバの設置基準について検討する。

3-2.実験方法

3-211.被験者の身体特性

被験者は健康な男性3名で,その身体特性は身長(1.74土0.04m(SD)),体重(69.0士14.2kg),および年

齢(23土lyr)である。

3-2-2.実験および環境条件

実験は神戸大学発達科学部にある人工気象室内 (ナガノ科学,SR-3000)で実施する。環境条件

は,環境温度25oC,相対湿度50%である。冷却負荷はアイスパック (15×10cm)による右側頭部の冷

却,および直径30cmの扇風機を用いて寮面から約30cm離れたところから強風をあてることによる羨

面部の冷却をそれぞれ15分間行うC実験の概要を図3-1に示す。

3-2-3.実験手順

被験者は実験室に入室する前に,食道温センサを鼻腔から挿入した後,あらかじめ上記の環境条件

に設定された実験室に普段着のまま入室し,少なくとも30分間の椅座位安静を保持する。この間に,

各被験者が非接触型鼓膜体温計のファイバ部を右側外耳道内に挿入する。ファイバの先端部分にはポ

リエチレンスポンジを装着しており,このスポンジによりファイバは外耳道に固定され,周囲環境の

31

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崖 たは顔面亮

0 5 20 30図3-1 実験の概要 (分)

温度は遮断される。さらに耳介が冷却刺激の影響を受けないように耳介周辺を断熱材で覆う。冷却に

よる皮膚温の低下を判定するために,右側頭部と前額中央部に熱電対をサージカルテープ (3M社

製)で貼り付ける。5分間の安静データを測定した後,上記いずれかの冷却負荷を15分間行い,さら

に10分間の回復データを測定した後に実験を終了する。2種類の負荷は異なる日の同一時刻に実施す

る。

3-2-4.測定項目および方法

測定項目は,非接触型鼓膜体温計による右側鼓膜温,熱電対による食道温,右側頭部および前額中

央部皮膚温である。

非接触型鼓膜体温計による鼓膜温の測定は,ファイバ先端部のポリエチレンスポンジを押しつぶし

た後に,各被験者がゆっくり右側外耳道に挿入する。ファイバの設置条件は, 1)ファイバ挿入の際

にファイバを伝播したDCモーターの回転音が最もよく聞こえるところまでファイバを挿入し,2)

モニターに表示される温度が最も高いところとする。ファイバを伝播した赤外線は,焦電型赤外線セ

ンサに入射される。温度情報がコンピュータに入力されるまでの過程は第2章で記述した通りであ

る。

食道温は,各個人用に用意した熱電対 (銅コンスタンタン)に対し,身長の約4分の1の長さの位

置に印を付け,各被験者は鼻腔よりその印までコップ一杯 (約150cc)の水を飲みながら挿入し,刺

定する。右側頭部および前額中央部の皮膚温は熱電対 (同上)をテープ (3M社製)で貼り付けて測

定する。これら熱電対の信号はハイブリッドレコーダー (横河電機社製)を介して1秒ごとにコン

ピュータ (日本電機社製)に入力する。以上のデータはすべて1分間ごとに平均し,図および統計用

32

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データとして用いる。

3-2-5.統計処理

冷却負荷前後の値を比較するために,冷却負荷開始直前までの3分間および冷却負荷終了直前3分間

の平均値をそれぞれ,安静値および終了値として統計処理を行う。安静値と終了値間の有意差検定に

は,1群の分散分析およびsheffe'stcstを用い,有意水準の判定は5%以下とする。

3-3.実験結果

各被験者の頭部および顔面部への冷却刺激開始直前および冷却刺激終了直前の皮膚温,鼓膜温およ

び食道温の各3分間の平均値と標準偏差をそれぞれ表3-1および表3-2に示す。各被験者ともア

イスパックによる側頭部冷却刺激によって,右側頭部の皮膚温は15oC近く低下している。しかし,図

40.0

35.0

30.0

25.0

20.0

15.00 10 20 30

時間,min

図3-2 側頭部冷却実験時の鼓膜温,食道温

および側頭部皮膚温の経時変化

表3-1 側頭部冷却実験の安静時および冷却終了時の各温度パラメータの値 (oC)

皮膚温 (側頭部) 鼓膜温 食道温

被験者 安静暗 冷却終了時 安静暗 冷却終了時 安静暗 冷却終了時

HT 32.70土0.05 17.39iO.84* 36.88土0.03 36.93士0.05 36.72土0.06 36.71土0.07

NH 31.29士0.14 13.03土0.89* 36.86土0.10 36.86土0.09 36.73土0.05 36.69士0.06

*:安静時の値と比較 (p<0.05)

33

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3-2に示したように被験者HTの非接触型鼓膜体温計で測定した鼓膜温は,食道温と同様に頭部皮膚

温の低下の影響を受けていない。表3-1より,他の2人の被験者の鼓膜温と食道温も同様に頭部皮

膚温の低下に影響されなかった。

顔面送風による顔面部の冷却実験では,前額中央部の皮膚温は明らかに低下している。この顔面部

冷却実験においても,非接触型鼓膜体温計で測定した鼓膜温と熱電対で測定した食道温は,顔面部皮

膚温の低下の影響を受けていない (被験者HT,図3-3)。表3-2より,他の2人の被験者の鼓膜

温と食道温も同様に顔面部皮膚温の低下に影響されなかった。さらに,すべての実験結果で最も鼓膜

温が低下した被験者YIでも,その低下度は0.13oCであった。この値は本システムの測定誤差範囲内で

ある。

1 辛

額面部送風

- 一一一 日 TT食道温

前額皮膚温l J

0 10 20 30

時間,min

図3-3 務面部冷却実験時の鼓膜温,食道温

および前額部皮膚温の経時変化

表3-2 顔面部冷却実験の安静時および冷却終了時の各温度パラメータの値 (oc)

皮膚温 (前額部) 鼓膜温 食道温

被験者 安静暗 冷却終了時 安静暗 冷却終了時 安静暗 冷却終了時

HT 35.28iO.14 31.62土0.17* 36.75士0.03 36.75士0.05 36.67土0.05 36.66土0.06

NH 34.52土0.17 31.48土0.18* 36.60士0.04 36.62土0.03 36.49土0.05 36.35土0.08

YⅠ 34.67士0.25 30.88iO.22* 36.75土0.06 36.62土0.06 36.59土0.05 36.56土0.06

*:安静時の値と比較 (p<0.05)

34

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3-4.考察

図1-4のように解剖学的に見ると,鼓膜直下には視床下部や脳内部に流れる内頚動脈が存在する

ので【3-2】,鼓膜温が内頚動脈血温を正確に反映するのであれば,それは視床下部温または脳温を反映

すると考えられるC戟膜までの外耳道は非常に短い円筒形であり,日本人の外耳道の平均は長さ約

37Trm,口径約10rrmである【3-12]O食道の場合は,センサを鼻腔から40cm近く体内に挿入しているた

めに,唾液を飲み込まない限り温度が低下することはない。したがって,鼓膜温は食道温と比較して

環境温度に影響されやすい可能性がある.正確に鼓膜に温度計が設置されていなかったり,耳介の断

熱が不十分な場合,通常深部体温時に頭部や顔面部を冷却すると,その測定温度は低下する。これよ

り一部の研究者は鼓膜温を深部体温の指標として用いることを疑問視している【3-4,3-7,3・8,3-13】。こ

れに対して,BrinnelandCaban acl3-10】は鼓膜温の測定方法の基準を以下のように報告している :すな

わらl)温度計を穀膜の下3分の1の位置に設置し,2)被験者にシャープペインとスクラッチノイズ

を確認し,3)外耳道をコットンウールなどの断熱材で周囲の温度に影響されないように覆う。この

事順により,接触型鼓膜体温計で測定した温度は環境温度や皮膚温の低下の影響を受けなくなる【3・

10,3-ll,3-14,3-15]。しかし,本研究は非接触型鼓膜体温計であるために,彼らの測定基準である鼓膜

にセンサを接触させることはできない。また,赤外線透過ファイバが鼓膜の方向を向いていたとして

ち,その視野角内に外耳道が入っていたならば正確な鼓膜温を測定していることにはならない。さら

に,実験前後で視認することも困難であるために,上記の基準とは別の基準で確認する必要がある。

本研究ではモーターの回転昔に着目し,モーターの回転音と測定温度を測定基準とした。本章の実験

は,以下に示す先行研究の報告に基づいて,非接触型鼓膜体温計が鼓膜からの赤外線のみを検出して

いることと,赤外線透過ファイバの設置基準を確認するために行った。

一般に,血液はある一定方向にしか流れないが,頭部には脳温や脳内圧が変化することで,血流方

向が変化する導出静脈や眼角静脈が存在する【3116]。脳温や脳内圧が変化する高深部体温時に頭部や

顔面部を冷却すると,冷却された静脈血が導出静脈や眼角静脈を介して脳内に流れ,選択的脳冷却が

おこる可能性がある【3-16,3-171。しかし,通常または低深部体温時には頭部や顔面部を冷却しても脳

内に冷却された静脈血が流れることはない【3116]。したがって,通常深部体温時に頭部や額面部を冷

却しても脳温や鼓膜温は低下しない。Satoetal.[3-11]は,温度計が正確に鼓膜に接触していない場

合,頭部の冷却によって測定温度は0.6oCも低下するが,正確に測定すれば頭部や寅面部を冷却しても

測定温度は低下しないことを報告している。したがって,非接触型鼓膜体温計の視野角内に外耳道が

含まれていると,測定温度は明らかに低下するが,逆に測定温度が低下しなければ,鼓膜温を正確に

測定していると考えられる。今回の実験結果から判断すると,非接触型鼓膜体温計で測定した鼓膜温

は,側頭部や顔面部の冷却によって低下した皮膚温に影響されなかった。したがって,非接触型鼓膜

体温計は正確に鼓膜から放射される赤外線のみを測定していたものと考えられる。

今回の実験では非接触型鼓膜体温計を各被験者に装着してもらった。その時の基準は, 1)フアイ

35

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バを挿入する際に,そのファイバを伝播したDCモーターの回転音が最もよく聞こえるところまで

ファイバを挿入し,2)モニターに表示される温度が最も高いところとした。本章の結果より,この

基準を満たすことで,また鼓膜温が変化する運動などの実験においても1)のモーターの回転音を確

認することで,赤外線透過ファイバが鼓膜の方を向いていることを確認できるものと考えられる。

3-5.まとめ

本章では,1)非接触型鼓膜体温計が正確に鼓膜の温度を測定しているのか,2)外耳道に挿入する

赤外線透過ファイバの設置基準について検討した。アイスパックによる右側頭部および扇風機による

顔面部冷却によって,それぞれの部位の皮膚温は明らかに低下したが,非接触型鼓膜体温計で測定し

た鼓膜温は,これらの皮膚温の低下に影響されなかった。これより,非接触型鼓膜体温計は正確に鼓

膜の温度を測定していると考えられる。また,事前に設定した赤外線透過ファイバの設置基準によっ

て,赤外線透過ファイバが鼓膜に向けられていることが確認できた。さらに,実験中も験者が耳内を

確認することなく,被験者がモーターの音を確認することで十分に赤外線透過ファイバが鼓膜に向け

られていることを確認することができると考えられる。

36

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第4章.

安静時受動的温熱負荷時の深部体温の測定

4-1.はじめに

第3章において,提示した非接触型鼓膜体温計の測定手順を満たすことによって,非接触型鼓膜体

温計が正確に鼓膜の温度を測定できることを確認した。本章では,実際に体温調節の研究で行われて

いる下肢温浴負荷を用い,深部体温を受動的に上昇させ,その場合の深部体温の変化について検討す

る。下肢温浴負荷は,膝下のみを温水に浸水することで深部体温を上昇させる方法で,運動のように

身体を大きく動かすことがなく,部分的に加温するために,被験者に対して大きな負担を与えること

なく,深部体温を上昇させることができる。また,本章では非接触型鼓膜体温計だけでなく,接触型

温度計であるサーミスタを用いて,非接触型鼓膜体温計で測定する穀膜とは反対側の鼓膜温を連続的

に測定し,非接触型鼓膜体温計で測定した鼓膜温および食道温と比較検討することを目的とする。

4-2.実験方法

4-2-1.被験者の身体特性

被験者は健康な男性8名で,その身体特性は身長(1.70土0.05m(SD)),体重(64.5士9.8kg),および年齢

(22.8j=0.9yr)である0

4-2-2.実験および環境条件

実験は神戸大学発達科学部にある人工気象室内 (ナガノ科学,sR-3000)で実施した。環境条件

は,環境温度25oC,相対湿度50%である。図4-1に実験の概要を示す。写真のように被験者は背も

たれ付きのいすに座り,42oCに設定された浴槽に膝下まで浸水する下肢温浴を60分間負荷する。

4-2-3.実験手順

被験者は実験室入室前に,食道温センサを鼻腔より挿入し,ショートパンツのみに着替えた後,あ

らかじめ上記の環境条件に設定された実験室に入室し,少なくとも60分間の椅座位安静を保持する。

この間に,各被験者が接触型鼓膜体温計 (サーミスタ)を外耳道内に挿入する。その後,浴槽の横に

設置した椅子に座り,各被験者が非接触型鼓膜体温計のファイバ部を外耳道内に挿入する。3分間の

安静データを測定した後,下肢温浴負荷を60分間与える。

4-2-4.測定項目および方法

測定項目は,非接触型鼓膜体温計で測定した右側鼓膜温,接触型鼓膜体温計で測定した左側鼓膜

温,熱電対で測定した食道温および心拍数である。

37

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-60 -5 0 20 40 60入室

図4-1 実験の概要

非接触型鼓膜体温計による鼓膜温と食道温の測定方法およびデータの入力方法は.第3章の内容と

同様である。

接触型穀膜体温計による鼓膜温の測定は,バネのついた特注のサーミスタを各被験者がゆっくりと

左外耳道内に挿入する。設置基準は,センサが鼓膜に接触することによるシャープペインおよびスク

ラッチノイズがあることを確認することと,験者によって測定温度が正常か否かを確認することとす

る。また,実験終了時にもシャープペインおよびスクラッチノイズがあることを確認する。サーミス

タによる測定データは,データロガ- (センサテクニカ)を介して4秒毎にコンピュータ (日本電機

社製)に入力する。

この他,心拍数も連続的に測定する。心拍数は心拍テレメトリー (福田電子社製)を用いて測定

38

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し,データロガ- (モンテシステム社製)を介してサンプリング周波数200Hzでコンピュータ (Apple

社製)に入力する。

以上のデータはすべて1分間ごとに平均し,図および統計用データとして用いる。

4-2-5,統計処理

下肢温浴負荷前後の値を比較するために,その負荷開始直前3分間および終了直前3分間の平均値を

それぞれ 安静値および終了値とし,さらに安静値から終了値までの増加度を算出してそれぞれの統

計処理を行う。これらデータの有意差検定には,1群の分散分析およびsheffe'stestを用いる。さらに

経時変化の有意差検定には,繰り返しのある2群の分散分析およびsheffe'stestを用いる。なお,それ

ぞれのパラメータの経時変化については,各5分毎のデータを用いて処理する。いずれの場合も,有

意水準の判定は5%以下とする。

4-3.実験結果

非接触型鼓膜体温計で測定した鼓膜温,接触型鼓膜体温計で測定した鼓膜温および熱電対で測定し

た食道温の平均値と標準偏差を表4-1に示す。表にはこれらの値について,安静暗,下肢温浴負荷

終了時 (終了時),各温度パラメータの下肢温浴負荷中の増加度 (上昇度),各温度パラメータが上

昇開始した時間 (温度上昇開始時間 ;分)およびその時の各温度パラメータの値 (上昇開始間借温 ;

oc)を示している。

検定の結果,各温度パラメータにおいて,測定方法の違いによる明らかな差は認められなかった。

また,経時変化の有意差検定においても,いずれのパラメータ間においても条件間で差は認められな

かった (図4-2)。非接触型鼓膜体温計で測定した鼓膜温と接触型鼓膜体温計で測定した鼓膜温の

間には,相関係数0.89j=0.08の高い正の相関関係が認められた。表4-1より,統計的有意差はなかっ

表4-1 各深部体温の安静時,下肢温浴負荷終了時 (終了時),安静時から下肢温浴負荷終了まで

の深部体温の上昇度 (上昇度),温度上昇開始時間および上昇開始時の深部体温 (上昇開

始間借温)

安静暗(oC) 終了時(oC) 上昇度(oC) 温度上昇開始時間(min) 上昇開始間借温(○C)

鼓膜温 (非接触型) 36.69土0.21 37.51土0.32 0.81土0.31 5.1土2.6 36.61土0.26

鼓膜温 (接触型) 36.57士0.30 37.39士0.34 0.83土0.22 3.8士1.8 36.53土0.25

39

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-10 0 10 20 30 40 50 60 70

時間,min

図4-2 下肢温浴負荷時の深部体温の経時変化

たものの,食道温の上昇開始時間は鼓膜温のそれよりも早かった。しかし,非接触型鼓膜体温計で測

定した鼓膜温,接触型鼓膜体温計で測定した鼓膜温および食道温の上昇開始閥値温度に有意差はな

かった。

なお,下肢温浴負荷時の心拍数は,69.9士2.2拍/分 (安静暗)から実験終了時には95.1土3.5拍/分に

達した。

4-4.考察

下肢温浴負荷中,非接触型鼓膜体温計で測定した右側鼓膜温と接触型鼓膜体温計で測定した左側鼓

膜温は同様の経時変化を示した (図4-2)。安静時や終了時の値だけでなく,鼓膜温が上昇し始め

る時間,上昇開始閉値温度や下肢温浴負荷による鼓膜温と食道温の上昇度も同様であった (表4-

1)。これより,非接触型鼓膜体温計は実験中,正確に鼓膜の温度を測定していたものと考えられ

る。この測定法は非接触であるために,外耳道にポリエチレンスポンジで固定した赤外線透過ファイ

バが実験中に外耳道から外れることを懸念したが,8名の被験者とも赤外線透過ファイバは外耳道か

ら外れることなく実験を終了することができた。各被験者は,赤外線透過ファイバが鼓膜の方向を向

いているかどうかを判断するモーターの回転音は実験終了時においても開始時と同様に聞こえていた

と申告した。

第3章のように,通常深部体温時であれば頭部や顔面部を冷却することによって,温度計が鼓膜温

を正確に測定しているかどうかを検討することができる。しかしながら,下肢温浴負荷や運動によっ

て深部体温が上昇した場合には,この検定方法を用いることができない。なぜなら,壊面部の毛細血

40

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管網は他の部位に比較して充実しており,顔面送風などで冷やすと,血液は眼角静脈を介して脳を冷

却する可能性がある[4-1,4-2】。また,頭部を冷やすと,冷却された血液は頭頂部の導出静脈などに

よって脳内部に流入して脳塩を冷却することも考えられる【4-3】。したがって,第3章と同様の冷却を

行うと,鼓膜温は低下する可能性があるので,この実験では頭部や顔面部の冷却によって鼓膜温を正

確に測定しているか否かを検討することはできない。

非接触型鼓膜体温計で測定した右側鼓膜温と接触型鼓膜体温計で測定した左側鼓膜温の温度変化に

は統計的有意差は認められなかったものの,両者の温度は多少異なる。これには,鼓膜温の左右差と

測定精度が関与したものと考えられる。鼓膜温の左右差に関しては,頭部を大きく変化しなければ鼓

膜温の左右差はほとんどないが,頭部を左または右に傾けると最大約0.1oCの左右差があることが報告

されている【4-4】。また,第2章で述べたように非接触型鼓膜体温計には士0.2oCの測定誤差がある。こ

の両者が今回の結果に影響したものと考えられる。測定精度に関しては第2章で述べたことと同様に

外乱に対するノイズの軽減を検討する必要がある。また,現システムは校正に時間を有することよ

り,より簡便に正確な校正ができる方法を考える必要がある。

下肢温浴負荷や頭部をのぞく全身温浴負荷の場合,鼓膜温と食道温はほぼ同様の変化を示す【4-5,4-

61。本実験においても,先行研究と同様に両温度計で測定した鼓膜温と食道温は同様の変化を示し

た。下肢温浴負荷開始後,食道温の上昇は両鼓膜温のそれよりも先行するように見えるが,表4-1

に示すすべてのパラメータや経時変化においても有意差はみられなかったoこれより,下肢温浴のよ

うな受動的な温熱負荷実験において,本システムで測定した鼓膜温は深部体温の指標として用いるこ

とができると考えられる。

4-5.まとめ

本章では,実際に体温調節の研究で行われている下肢温浴負荷方法を用いて,深部体温を上昇さ

せ,非接触型鼓膜体温計で測定した右鼓膜温,接触型鼓膜体温計で測定した左鼓膜温,そして熱電対

で測定した食道温を比較検討した。下肢温浴負荷中,非接触型戟膜体温計で測定した鼓膜温は接触型

鼓膜体温計で測定した穀膜温と同様の経時変化を示した。また,両鼓膜温の変化と食道温の変化を比

較しても,ほぼ同様の経時変化を示した。これより,下肢温浴のような受動的な温熱負荷実験におい

て,本システムで測定した鼓膜温は深部体温の指標として用いることができると考えられる。さら

に,第3章で提示した非接触型鼓膜体温計の測定基準を満たすことで鼓膜温を連続的に測定すること

が可能であることが示されたO

41

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第 5章.

運動時の深部体温の測定

5-1.はじめに

身体活動は,生体の様々な制御系に影響を与える。たとえi出5oCの環境下で最大酸素摂取量の60_

70%の運動を行うと,6分の運動でも活動筋の温度は3oC近く上昇する【5-1]。この筋温の上昇は,体温

調節機能だけでなく,呼吸循環調節などにも影響する。また,我々の日常生専昔における身体活動は,

一定の負荷の活動をするのではなく,常に変化のある動きをする。運動負荷が変化すれば,その運動

負荷強度によって産熱量も変化する。したがって,様々な運動負荷で,ヒトの体温調節メカニズムが

検討されることも考えられる。本章では,ある一定負荷強度の運動時だけでなく,産熱量が変化する

異なる2種類の運動条件についても検討する。

本システムは非接触型体温計であるために,運動のように身体の動きを大きく伴うような場合にお

いても正確に鼓膜温を測定し得るかどうかは疑問である。また,運動を継続することが困難になるく

らいの活動時においても,鼓膜温の測定が可能であるかを検討することも必要である。このような観

点から,本章では3種類の運動条件で非接触型鼓膜体温計が鼓膜温を連続的に測定できるかを,接触

型体温計で測定した鼓膜温および食道温と比較することによって検討することを目的とする。

5-2.実験方法

5-2-1.被験者の身体特性

被験者は健康な男性8名で,第4章の実験に参加した被験者と同一である。

5-2-2.実験および環境条件

実験は神戸大学発達科学部にある人工気象室内 (ナガノ科学,sR-3000)で実施した。環境条件

は,環境温度25oC,相対湿度50%である。実験の概要を図5-1に示す。写真のようなスタイル (椅

座位を保持し,両手を自転車の上の台に置く)で,以下に示した条件の自転車運動を実施する。

(負荷1)心拍数が約150拍程度の一定負荷 (100-136W)を30分間 :固定運動負荷

(負荷2)50Wを1分間,その後15秒毎にlWづつ負荷を増加し,30分間運動を継続するランプ負荷

(計31分間) :ランプ運動負荷

(負荷3)8分毎に60,90,120および150Wと増加する多段階漸増負荷 (計32分間) :多段階運動負荷

これらの自転車運動のペダル回転数は60Ipmとする。

42

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固定運動負荷美食器具の取り付けi.I- i,I_5 HR140-150拍/分

多段階運動負荷

実鼓器具 の

取り付け

_6「 -ノ

入室

●l

15 0 8 16 24 32

(分)

図5-1 各運動負荷実験の概要

4 3

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5-2-3.実験手順

被験者は実験室入室前に食道温センサを鼻腔より挿入し,ショートパンツのみに着替えた後,あら

かじめ上記の環境条件に設定された実験室に入重し,少なくとも60分間の椅座位安静を保持する。こ

の間に,各被験者が接触型鼓膜体温計を装着する。その後,自転車の椅子に座り,各被験者が非接触

型鼓膜体温計のファイバ部を外耳道内に挿入する。3分間の安静データを測定した後,それぞれの自

転車運動負荷を行う。これらの負荷はそれぞれ日を変えてランダムに行う。なお,各実験の時間帯は

深部体温の日内変動をさけるために被験者毎に同一時間帯に実施する。

5-2-4.測定項目および方法

測定項目は,非接触型鼓膜体温計で測定した右側鼓膜温,接触型鼓膜体温計で測定した左側鼓膜

過,熱電対で測定した食道温および心拍数である。各センサの測定方法およびデータの入力方法は第

3章および第4章の内容と同様である。

以上のデータはすべて1分間ごとに平均し,図および統計用データとして用いる。

5-2-5.統計処理

運動負荷前後の値を比較するために,運動負荷開始直前3分間および終了直前3分間の平均値をそれ

ぞれ 安静値および終了値とし,さらに安静値から終了値までの増加度を算出してそれぞれの統計処

理を行う。これらのデータの有意差検定には,1群の分散分析およびsheffe'stestを用いる。さらに経

時変化の有意差検定には繰り返しのある2群の分散分析およびshe飽'stestを用いる。なお,それぞれ

のパラメータの経時変化については各5分毎のデータを用いて処理する。いずれの場合も,有意水準

の判定は5%以下とする。

5-3.実験結果

各運動時の非接触型鼓膜体温計で測定した鼓膜温,接触型鼓膜体温計で測定した鼓膜温および食道

温の平均値と標準偏差を表5-1に示す。表にはこれらの値について,安静暗,各運動負荷終了時

(終了時),各温度パラメータの各運動負荷中の増加度 (上昇度),各温度パラメータが上昇開始し

た時間 (温度上昇開始時間 ;分)およびその時の各温度パラメータの値 (上昇開始開値温 ;oC)を示

している。固定運動負荷時,ランプ運動負荷時および多段階運動負荷時の深部体温の経時変化を図5

-2-図5-4にそれぞれ示した。いずれの運動負荷時においても,本システムで測定した鼓膜温

は,接触型鼓膜体温計で測定した鼓膜温とほぼ同様の変化を示した。非接触型鼓膜体温計で測定した

鼓膜温と接触型鼓膜体温計で測定した穀膜温との相関関係を表5-2に示す。いずれの負荷において

も高い正の相関関係が得られた。また,いずれの運動負荷時においても,安静暗,運動終了時および

運動中の鼓膜温と食道温の上昇度に差はみられなかった (表5-1)。さらに,経時変化の有意差検

44

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表5-1 各深部体温の安静時,運動負荷終了時 (終了時),安静時から運動負荷終了までの深部

体温の上昇度 (上昇度),温度上昇開始時間および上昇開始時の深部体温 (上昇開始間

借温)

固定運動負荷 安静暗 終了時 上昇度 温度上昇 上昇開始

(cc) (oC) (○C) 開始時間(min) 開値温(oC)

鼓膜温 (非接触型) 36.75土0.25 37.5名士0.32 0.83j=0.38 5.5土1.9* 36.60土0.28

穀膜温 (接触型) 36.59士0.23 37.41土0.37 0.82土0.24 4.4土1.8* 36.57土0.26

ランプ運動負荷 安静暗(oC) 終了時(oC) 上昇度(oC) 温度上昇開始時間(min) 上昇開始関値温(oC)

鼓膜温 (非接触型) 36.91土0.24 37.75土0.54 0.84土0.41 6.4士0.7* 36.72土0.35

鼓膜温 (接触型) 36.85土0.23 37.73士0.40 0.88土0.25 5.6土1.2 36.72土0.22

食道温 36.86土0.19 37.86土0.49 1.00土0.36 3.5土1.2 36.66土0.20

多段階運動負荷 安静暗(oC) 終了時(oC) 上昇度(○C) 温度上昇開始時間(min) 上昇開始閥値温(oC)

鼓膜温 (非接触型) 36.91土0.26 37.69土0.41 0.78士0.34 5.4土2,5* 36.71土0.24

鼓膜温 (接触型) 36.85士0.23 37.77土0.41 0.92±0.30 4.5土1.5 36.79土0.25

*:食道温の上昇開始時間と比較 伊<0.05)

-5 0 5 10 15 20 25 30 35

時間,min

図5-2 固定運動負荷時の深部体温の経時変化

45

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ー5 0 5 10 15 20 25 30 35

時間,min

図5-3 ランプ運動負荷時の深部体温の経時変化

5 0 5 10 15 20 25 30 35

時間,min

図5-4 多段階運動負荷時の深部体温の経時変化

定においても,いずれの深部体温の間にも差は認められなかった。運動開始直後,食道温は鼓膜温よ

りも早く上昇し始めたが,上昇開始時の両鼓膜温と食道温に有意差はなかった。

ランプ運動および多段階運動負荷実験において,8名の被験者のうち3名の心拍数は毎分200拍近く

に達していた (図5-5)。一般的に各年齢層の最大心拍数は,概ね以下の式で推定できる。

予測最大心拍数-220-age l5-2]

46

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表5-2 非接触型鼓膜体温計で測定した右側鼓膜温と接触型

鼓膜体温計で測定した左側鼓膜温との相関関係

ランプ運動負荷 多段階運動負荷 固定運動負荷

傾き 0.93土0.39 0.89土0.18 1.00士0.23

相関係数 0.93士0.06 0.93土0.07 0.88j=0.09

これから算出すると,3名の被験者の平均年齢は21.7土0.6歳であることから,彼らの最大心拍数は約

198拍/分と考えられる。したがって,3名の被験者は最大負荷に近い自転車運動を行っていたと考え

られる。それにも関わらず,非接触型鼓膜体温計は運動終了時まで彼らの鼓膜温を測定することが

できた。

5-4.考察

快適な温度環境下で中強度の自転車運動を行うと,若干の潜時をおいて深部体温は上昇する。一定

の運動負荷の場合,鼓膜温よりも食道温の方が先行して運動開始後約20分で定常状態になるが,運動

開始後約30分で鼓膜温と食道温はほぼ同等になる【5-3]。本研究の固定運動負荷実験においても,食道

温の方が鼓膜温よりも早く上昇し始めたが,運動終了時の鼓膜温と食道温の値に有意差はなかった。

先行研究同様に[5-3-5-5],両鼓膜温と食道温の安静時の値,運動終了時の値および運動による両鼓膜

温と食道温の上昇度には有意差はなかった (表 5-1)。また,深部体温の上昇開始時間は両鼓膜温

JP吉野、beatsJmin

O

0

0

′0

4

2

1

1

1

0 10 20 30

時間,min

図5-5 最大負荷運動時の深部体温および心拍数の経時変化

47

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よりも食道温の方が早かった。両鼓膜温と食道温の変化が異なるのは,測定部位の相違によるものと

考えられる。

異なる3条件の運動負荷を行ったにも関わらず,非接触型鼓膜体温計で測定した右側鼓膜温と接触

型鼓膜体温計で測定した左側鼓膜温は,どの運動負荷時においても同様の変化を示した。表5-1お

よび表5-2に示すように,両鼓膜温の測定結果に統計的な有意差はなく,また,両者の間には高い

正の相関関係が得られた。両鼓膜温には若干の差があるが,第4章で考察したように,鼓膜温の左右

差と非接触型鼓膜体温計の測定精度が影響したものと考えられ,この測定精度に関しては改善する必

要があるB

ランプ運動負荷および多段階運動負荷時において,8名の被験者のうち,3名の被験者の心拍数が

200拍/分近くに達した.本研究の被験者は平均年齢21.7j=0.6歳であり,彼らの推定最大心拍数は約

198拍/分と考えられることから,この3名の被験者はそれぞれの最大負荷の運動に達していたものと

考えられる。最大負荷の運動に達しているにも関わらず,非接触型鼓膜体温計で測定したこれらの被

験者の鼓膜温は接触型鼓膜体温計で測定した鼓膜温と同様の変化を示した。また,実験終了時の申告

によれば運動中および終了時にもモータの回転音が聞こえていたことから,非接触型鼓膜体温計は鼓

膜の温度を正確に測定していたものと考えられる。

第4章で述べたように,運動実験においても下肢温浴負荷実験同様に運動終了時には深部体温が上

昇しているために,第3章のような頭部および顔面部冷却による鼓膜温の測定の確認をすることはで

きない。したがって,下肢温浴実験同様に被験者にモーターの回転音が聞こえるか否かを申告しても

らった。最大負荷の運動を行った3名の被験者 (計6回の実験)については運動中連続して鼓膜温を測

定することができたが,運動負荷の合計24回の実験のうち,3回の実験で被験者 (内2回は同一被験

者)から実験終了時に 「スポンジが抜けていく感じがした」という申告があった。申告のあった2名

の被験者の非接触型鼓膜体温計で測定した鼓膜温の上昇開始は接触型鼓膜体温計で測定した鼓膜温の

それよりも遅れ,非接触型鼓膜体温計で測定した鼓膜温は接触型鼓膜体温計で測定した鼓膜温よりも

低い値を示し,その上昇度も低かった。これは,赤外線透過ファイバが外耳道から明らかに押し出さ

れ,外耳道の温度も測定していたものと考えられる。運動時のように身体が大きく動かされる場合,

ポリエチレンスポンジによる支持が赤外線透過ファイバを外耳道に固定するには不十分であったもの

と考えられる。また,本研究においては50cmの赤外線透過ファイバを用い,赤外線センサ自体は身体

から離れたところに設置しているために体の動きに制限がある。これより,今後赤外線透過ファイバ

の固定方法を補聴器のような固定方法を用いたり,さらに赤外線センサの部分を含めて小型化して

ヘッドホンに内蔵するなどの工夫をして,激しい運動を行った場合においても赤外線透過ファイバが

外耳道から抜け出すことなく,固定できる方法を考える必要がある。

48

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5-5.まとめ

運動時おいても非接触型鼓膜体温計が穀膜温を連続的に測定できるか否かを確認するために,異な

る3条件の運動負荷を8名の男子学生に実施した。すべての運動負荷条件において,非接触型鼓膜体温

計で測定した鼓膜温は,接触型鼓膜体温計で測定した鼓膜温と同様の変化を示した。先行研究と同

様,両鼓膜温の上昇開始時間と食道温のそれのみに違いがみられたが,両鼓膜温と食道温の運動前の

安静債,運動終了時の値および運動による温度上昇度に明らかな差はみられなかった。運動によっ

て,心拍数が毎分200拍近くの最大負荷の運動を行った3名の被験者についても,非接触型鼓膜体温計

は連続的に実験終了まで正確に鼓膜の温度を測定することができた。外耳道における赤外線透過ファ

イバの固定部分の改良が必要であるが,非接触型鼓膜体温計は運動時においても鼓膜温を連続的に測

定できることが示された。

49

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第 6章.

深部体温上昇時の体温調節反応

6-1.はじめに

発汗による蒸発性熱放散は,環境温が皮膚温よりも高い暑熱環境下においては唯一の熱放散機構と

して,運動時においても優れた熱放散機構として機能する。体温調節の研究において,優れた熱放散

機能である発汗のメカニズムを検討することは重要であるO発汗などを含む体温調節機能は,体温調

節中枢へ入力される深部体温や皮膚温などの変化やその他の調節機構からの信号に対して活動する。

その中でも深部体温の変化は,体温調節反応に大きく影響し,暑熱負荷時や運動時の発汗反応は鼓膜

温や食道温の変化とよく相関することが報告されている【6-ト6-3]。体温調節の研究では,一般的に深

部体温と発汗量の関係から得られた回帰直線の傾きと,発汗が開始したときの深部体温 (発汗開始の

深部体温間借)を用いて発汗反応の活動性を検討する。本章では深部体温-発汗量の傾きと発汗開始

の深部体温開値を,非接触型鼓膜体温計で測定した鼓膜温,接触型戟膜体温計で測定した鼓膜温およ

び熱電対で測定した食道温で比較し,本システムで測定した鼓膜温が体温調節の研究に有用な装置で

あるかどうかを検討する。

発汗量は,活動汗腺数および単一汗腺あたりの汗出力 (汗腺の大きさ)に影響される[6-4,6-5]。し

かし,汗腺活動に関する研究は少なく,一致した見解も得られていない。例えば,運動負荷強度増加

に伴う発汗量の増加は活動汗腺数の増加に影響されることを報告している研究【6-61もあれば,それは

部位によって異なり,活動汗腺数の増加もしくは単一汗腺あたりの汗出力の増加,その両方の増加に

影響されることを報告している研究【6-7】もある。さらに,汗腺活動に関する先行研究は発汗開始時,

または発汗量が定常状態に達してから測定した結果であり【6-6,618-6-10],発汗量が増加し続ける非定

常状態における活動汗腺数の変化に関する研究はない。そこで,発汗量が変化している非定常状態に

おける汗腺活動 (数 ・量)に関しても検討する。

6-2.実験方法

6-2-1.被験者の身体特性

被験者は健康な男性8名で,第4章の研究に参加した被験者と同一である。

6-2-2.実験および環境条件

実験は神戸大学発達科学部にある人工気象室内 (ナガノ科学,sR-3000)で実施する。環境条件

は,環境温度25oC,相対湿度50%である。実験内容は,第4章および第5章に示したとおりである。

50

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6-2-3.実験手順

被験者は実験室入室前に食道温センサを鼻腔より挿入し,ショートパンツのみに着替えた後,あら

かじめ上記の環境条件に設定された実験室に入室し,少なくとも60分間の椅座位安静を保持する。こ

の間に,接触型鼓膜体温計,皮膚温測定用の熱電対および発汗量測定用の円形カプセルを装着する。

接触型鼓膜体温計は各被験者がサーミスターを外耳道内に挿入し,その間に験者が皮膚温&IJ定用の熱

電対を8カ所 (前額,胸部,腹部,前腕部,手甲部,大腿部,下腿部および足甲部)にサージカル

テープ (3M社製)で貼る。その後,発汗量を測定するためにカプセルを左胸部上側および左前腕部

屈曲側に生体用接着剤 (コロジオン)で装着する。その後の手順は第4章および第 5章と同様であ

る。なお,実験の時間帯は深部体温の日内変動を考慮して被験者毎に同一の時間帯に行う。

負荷条件として,下肢温浴および3条件の運動負荷を用いた。それぞれの負荷方法は第4章と第 5

章で示したものであるC多段階運動負荷を除き,汗腺数は発汗開始直後とその後は4分毎に測定す

る。多段階運動負荷時には発汗開始直後と運動負荷強度の増加後1分目,3分目および7分目に測定す

る。

6-2-4.測定項目および方法

測定項目は,非接触型鼓膜体温計で測定した右側鼓膜温,接触型鼓膜体温計で測定した左側鼓膜

温,熱電対で測定した食道温,皮膚温,心拍数,発汗量および活動汗腺数である。それぞれの方法で

測定した深部体温,皮膚温および心拍数の測定手順は,第3章,第4章および第5章に示した通りで

あるC発汗量は換気カプセル法により左胸部および左前腕部屈曲側の局所発汗量を測定する。胸部に

は断面積8.54cm2,前腕部には5.31cm2の円形カプセルを装着し,2.09/minの乾燥窒素ガスを流し,カ

プセルを通過した窒素ガスの湿度を湿度計 (vaisala社製)で測定する。湿度計からの出力は第3章の

熱電対のデータ収集と同様の方法で行う。

活動汗腺数は左側胸部および前腕屈曲部の局所発汗量を測定した箇所の近辺で測定する。測定方法

は,ヨウ素でんぷん法である。この方法は,測定部にヨウ素を塗り,余分なヨウ素をティッシュで取

り除いた後,でんぷんを含む用紙を測定部位に10秒間押し当て,汗によって押し出されたヨウ素をで

んぷんと反応させる方法である。1cmX2cmの範囲に残った斑点数を数え,1cm 2あたりの汗腺数を求

める。さらに,測定した時間帯の発汗量を汗腺数で除することで,単一汗腺あたりの汗出力を算出す

る。以上のデータはすべて1分間ごとに平均し,深部体温と発汗量や深部体温と汗腺数などの相関関

係を求める。

前述したように発汗反応を検討する場合,一般的に各被験者ごとに深部体温と発汗量の関係から得

られた回帰直線の傾きと,発汗が開始したときの深部体温 (発汗開始の深部体温聞値)を算出する.

1名の被験者のデータを用いて,その算出方法を説明する (図6-1)。横軸を深部体温,縦軸を発

汗量として図示すると,図6-1のようになる。発汗が急激に増加する時点Aの深部体温の値を発汗

51

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深部体温,oC

図 6-1 深部体温と発汗量との相関関係

開始の深部体温閲値とし,区間Bの深部体温と発汗量の関係を単純回帰直線で算出し,その傾きを深

部体温一発汗量の傾きとする。

平均皮膚温の算出方法は,以下に示すHardyandDuBois[6-11]の7点法より求めた。

平均皮膚温-0.07×前額部+0.35×腹部+0.14×前腕部+0.05×手甲部+0.19×大腿部十0.13×下腿

部+0.07×足甲部

6-2-5.統計処理

それぞれの方法で測定した深部体温に対する発汗開始の深部体温間借,各深部体温と発汗量との相

関関係の傾き,各深部体温の上昇開始時間,および発汗開始時間の有意差検定には,1群の分散分析

およびsheffe'stestを用いる。有意水準の判定は5%以下とする。

6-3.実験結果

図6-2-6-5に各負荷ごとの発汗量の経時変化 (上),各深部体温一胸部発汗量の関係 (中)

および各深部体温一前腕部発汗量の関係 (下)を示した。胸部および前腕部の発汗量は,鼓膜温およ

び食道温の上昇に伴い増加する。図6-2-6-5の中・下段にある深部体温一発汗量の関係は,平

均値を図示したものであるが,表6-1に個人ごとに算出した深部体温一発汗量の関係 (傾きと相関

係数)を各負荷毎に平均と標準偏差で示した。

胸部および前腕部の発汗量の増加はそれぞれの方法で測定した深部体温の上昇に対して明らかな正

の相関を示した。同一負荷条件,同一の発汗測定部位で,非接触型戟膜体温計で測定した鼓膜温と発

汗量との傾きと,接触型鼓膜体温計で測定した戟膜温と発汗量との傾きを比較すると,統計的有意差

52

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深部体温,oC

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深部体温,oC

図6-2 下肢温浴負荷時における胸部および前腕部発汗量の経時変化 (上),

各深部体温に対する胸部 (中)および前腕部発汗量 (下)との相関関係

53

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深部体温,oC

図6-3 固定運動負荷時における胸部および前腕部発汗量の経時変化 (上),

各深部体温に対する胸部 (中)および前腕部発汗量 (下)との相関関係

54

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36.8 37.2 37.6 3S.0

深部体温,oC

図6-4 ランプ運動負荷時における胸部および前腕部発汗量の経時変化 (上),

各深部体温に対する胸部 (中)および前腕部発汗量 (下)との相関関係

55

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深部体温,oC

36,8 37.2 37.6 38.0

深部体温,oC

図6-5 多段階運動負荷時における胸部および前腕部発汗量の経時変化 (上),

各深部体温に対する胸部 (中)および前腕部発汗量 (下)との相関関係

56

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表6-1 各深部体温と発汗量との相関関係

鼓膜温 (非接触型) 胸部発汗量 前腕部発汗量傾き 相関関係 傾き 相関関係

下肢温浴負荷 1.00土0.44 0.86土0.ll 0.79土0.23 0.87土0.ll

固定運動負荷 0.91土0.47 0.89土0.10 0.60土0.35 0.91土0.09

ランプ運動負荷 1.17土0.60 0.95土0.04 0.69土0.22 0.95土0.03

多段階運動負荷 1.15土0.75 0.94士0.03 0.73土0.37 0.94土0.04

鼓膜温 (接触型) 胸部発汗量 前腕部発汗量

傾き 相関関係 傾き 相関関係

下肢温浴負荷 0.98士0.42 0.93土0.06 0.78士0.20 0.82士0.07

固定運動負荷 1.24土0.62 0.94土0.04 0.83土0.29 0.94土0.04

ランプ運動負荷 1.27土0.51 0.96士0.03 0.82土0.31 0.97土0.02

多段階運動負荷 1.27土0.81 0.96土0.03 0.82iO.37 0.96土0.03

食道温 胸部発汗量 前腕部発汗量傾き 相関関係 傾き 相関関係

下肢温浴負荷 1.31士0.50 0.86土0.ll 1.04土0.26 0.86土0.ll

固定運動負荷 1.34土0.56 0.94土0.05 0.91土0.30 0.94士0.04

ランプ運動負荷 1.54土0.78 0.93土0.06 1.08主0.56 0.94士0.07

多段階運動負荷 1.56士1.22 0.93士0.06 1.03土0.56 0.93土0.06

はなかった (表6-1)。また,同一の発汗測定部位で,それぞれの深部体温において深部体温一発

汗量の傾きを負荷条件間で比較すると,負荷条件による差はなかった (表6-1)。

表6-2に発汗開始の深部体温開値を示した。非接触型鼓膜体温計で測定した鼓膜温と接触型鼓膜

体温計で測定した鼓膜温からみた発汗開始の深部体温開値は,すべての負荷において差はなかった。

また,食道温からみた発汗開始の深部体温開値も両鼓膜温のそれと差はなかった。さらに,それぞれ

の深部体温において,発汗開始の深部体温開値を負荷条件間で比較すると,いずれの深部体温におい

ても負荷条件による発汗開始の深部体温間借に差はなかった。

図6-6-6-9に各負荷ごとの発汗量の経時変化 (上),活動汗腺数の経時変化 (中)および単

一汗腺あたりの汗出力の経時変化 (下)を示した。下肢温浴負荷時と固定運動負荷時では,発汗量,

活動汗腺数および単一汗腺あたりの汗出力は,初期に大きな増加を示した後,定常状態に達した。し

かし,ランプ運動負荷時および多段階運動負荷時では,発汗量,活動汗腺数および単一汗腺あたりの

汗出力は,運動終了時まで増加し続けた。

57

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表6-2 発汗開始の深部体温間借 (oC)

下肢温浴負荷 固定運動負荷 ランプ運動負荷 多段階運動負荷

鼓膜温 (非接触型) 36.74土0.35 36.63土0.25 36.84士0.25 36.88土0.24

鼓膜温 (接触型) 36.69士0.27 36.72土0.22 36.83土0.35 36.83土0.25

図6-10-6-13に各負荷ごとの深部体温-発汗量,深部体温一活動汗腺数および深部体温一

単一汗腺あたりの汗出力の相関関係を測定条件ごとに示した。すべての負荷条件において,深部体温

一単一汗腺あたりの汗出力の関係は,いずれの深部体温の上昇に対しても一次の線形性を有した。こ

れに対し,深部体温一括動汗腺数の関係は,負荷条件により異なった。下肢温浴負荷時および多段階

運動負荷時には,いずれの深部体温の上昇に対しても活動汗腺数は一次の線形性を有したが,固定運

動負荷時ではいずれの深部体温に対しても初期に大きく増加した後ほとんど増加しなかった。これら

に対し,ランプ運動負荷時では食道温-活動汗腺数の関係は一次の線形性を有したが,両鼓膜温一活

動汗腺数の関係は初期に大きく増加した後,直線関係になった。

6-4.考察

本章では,体温調節パラメータの一つである発汗反応を用いて,今回開発した非接触型鼓膜体温計

で測定した鼓膜温が体温調節の研究における深部体温の指標として用いることができるかどうかにつ

いて検討した。具体的には,以下に示す内容で比較を行った。1)今回実嘩した負荷条件で得られた

深部体温一発汗量の関係より得られた傾きと発汗開始の深部体温間借がこれまでの先行研究と比較し

てどうであるか,2)深部体温一発汗量の関係より得られた両パラメータが測定方法によって異なる

のかどうか。

1)の検討内容の中で,まず深部体温一発汗量の傾きを表6-1に示した結果より検討すると,い

ずれの深部体温に対しても深部体温一発汗量の関係は,明らかな一次の正の直線関係にあることが示

された.深部体温-発汗量の関係は,皮膚温が高くなるほど左方に移動し,傾きも大きくなる【6-12]

ので,先行研究の環境条件を考慮して本研究の結果が先行研究の結果と概ね一致するかどうか検討す

る。下肢温浴負荷を用いたAokietal,の研究【6-13]は発汗反応の日内変動に関する研究であるために,

本研究の実験を行った時間とほぼ一致する時間帯 (塞)で比較すると,深部体温 (食道温)-前腕部

発汗量の傾きは1.29土0.20であり,本研究の結果と類似している。本実験で用いたランプ運動負荷およ

び多段階運動負荷と同様の負荷で深部体温一発汗量の関係を検討した先行研究はないが,固定運動負

荷時の深部体温 (食道温)一発汗量の関係を検討した先行研究で算出された傾きは,全身皮膚温を

3loCまで上昇させて100-150Wの運動を行ったJolmsonetal.【61]]の深部体温 (食道温)一前腕部発汗量

58

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図6-6 下肢温浴負荷時の発汗量,活動汗腺数および

単一汗腺あたりの汗出力の経時変化

59

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時間,min

図6-7 固定運動負荷時の発汗量,活動汗腺数および

単一汗腺あたりの汗出力の経時変化

60

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図6-8 ランプ運動負荷時の発汗量,活動汗腺数および

単一汗腺あたりの汗出力の経時変化

61

Page 67: Kobe University Repository : Thesis - 神戸大学附属図書館 University Repository : Thesis 学位論文題目 Title ヒトの深部体温の測定法に関する研究 氏名

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図6-9 多段階運動負荷時の発汗量,活動汗腺数および

単一汗腺あたりの汗出力の経時変化

62

Page 68: Kobe University Repository : Thesis - 神戸大学附属図書館 University Repository : Thesis 学位論文題目 Title ヒトの深部体温の測定法に関する研究 氏名

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深部体温,oC

図6-10 下肢温浴負荷時の深部体温の上昇に対する発汗量,

活動汗腺数および単一汗腺あたりの汗出力の増加

63

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36.6 37.0 37.4 37.8

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36.6 37.0 37.4 37.8

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36.6 37.0 37.4 37.8

深部体温,oC

図6-11 固定運動負荷時の深部体温の上昇に対する発汗量,

活動汗腺数および単一汗腺あたりの汗出力の増加

64

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● 鼓膜温 (非接触型)

○ 鼓膜温 (接触型)

胸部 □ 食道温

upuJMtBPuL醐放歌

2

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0

0

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深部体温,oC

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36.6 37.0 37.4 37.g

深部体温,oC

図6-12 漸増運動負荷時の深部体温の上昇に対する発汗量,

活動汗腺数および単一汗腺あたりの汗出力の増加

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○ロ

(非接触型)

(接触型)

前腕部

2

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0

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深部体温,oC

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36.6 37.0 37.4 37.8

深部体温,oC

図6-13 多段階運動負荷時の深部体温の上昇に対する発汗量,

活動汗腺数および単一汗腺あたりの汗出力の増加

66

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で1.74士0,38,環境温度25oC (相対湿度65%)の環境下で100Wの運動を行ったAokietal.【6-14]の深部体

堤 (食道温)一前腕部発汗量で1.14土0.06,そして環境温度25oC (相対湿度35%)の環境下で最大酸素

摂取量の35%の運動を行ったYamazakietal.[6-15]の深部体温 (食道温)一胸部発汗量と深部体温 (負

道温)-前腕部発汗量でそれぞれ1.22土0.43および0.63土0.25であった。これらの先行研究の結果は測定

部位と環境条件による違いがあるものの,本実験の結果と類似している。

もう一つの発汗反応に対する中枢の活動性を示す発汗開始の深部体温閥値に関しても,鼓膜温を用

いた発汗開始の深部体温閥値の研究はないので,本研究の食道温における発汗開始の深部体温閥値は

先行研究の結果と比較する。下肢温浴実験を行ったAokietal.[6-13]の発汗開始の深部体温間借は

36.92土0.09oC,前述の運動実験を行ったJolmsonetal.[6-1]の発汗開始の深部体温開値は36.97土0,11oC,

Aokietal.[6114】の発汗開始の深部体温閥値は37.5土0.2oC,そしてYamazakietal.[6-15]の発汗開始の深部

体温閥値は胸部で37.lo主o.29oC,前腕部で37.13土0.26oCであった。Aokietal.[6-14]の実験は夕方に

行っているために発汗開始の深部体温開値は高くなっているが,その他の結果はほぼ本研究の結果と

類似している。これより,本研究で用いた深部体温一発汗量の関係の算出手順は先行研究の手順と同

様と考えられる。

次に,2)の測定方法によって異なるかどうかについて検討する。第4章および第5章で述べたよ

うに食道温は鼓膜温よりも早く上昇し始めるために,統計的有意差はないが食道温-発汗量の傾きは

両鼓膜温一発汗量の傾きよりも大きかった。しかし,いずれの深部体温においても,深部体温一発汗

量の関係はすべての負荷条件で,明らかな正の相関関係が得られた.また。いずれの負荷条件におい

ても,非接触型鼓膜体温計で測定した鼓膜温より算出した深部体温一発汗量の傾きは接触型鼓膜体温

計で測定した鼓膜温より算出したそれと同様であった。発汗開始の深部体温間借に関しては,非接触

型鼓膜体温計で測定した鼓膜温,従来から用いられている接触型温度計で測定した鼓膜温および食道

温の間に差はなかった。これらより,非接触型鼓膜体温計で測定した鼓膜温は体温調節パラメータに

対する深部体温の指標として用いることができると考えられる。

同一環境条件下であれば,深部体温一発汗量の関係は,運動負荷強度に影響されないという報告[6-

7,6116]もあれば,そうでないという報告【6-171もある。本研究の結果は,多少のばらつきはあるもの

の,運動負荷形態によるいずれの深部体温一発汗量の傾きにも差はなかった。従来の報告は,異なる

一定の運動負荷強度で比較したものであるが【617,6-16,6117】,運動負荷強度によって深部体温一発汗

量の関係が変化するのであれば,ランプ運動負荷や多段階運動負荷時において深部体温一発汗量の関

係は一次の直線の関係にはならないと考えられる。つまり,運動負荷強度が変化する毎に深部体温一

発汗量の関係が変化すると考えられる。しかし,ランプ運動負荷や多段階運動負荷時のいずれの深部

体温一発汗量の関係も,固定運動負荷時のそれと同様に高い一次の線形性を示した。

発汗量の変化には,体温調節中枢へ入力される全身皮膚温の影響だけでなく【6-18-i-20】,局所の皮

膚温の変化が影響する【6-21】。しかし,全身の皮膚温の変化を示す平均皮膚温においても,発汗量を

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測定した局所の皮膚温においても,本研究の3つの運動実験において有意差はなかった。つまり,い

ずれの深部体温を用いても深部体温一発汗量の関係は運動負荷強度に影響されないと考えられる。

これより,深部体温を測定した部位を混同しなければ,鼓膜温も食道温も深部体温の指標として用

いることができる。また,非接触型鼓膜体温計および接触型鼓膜体温計それぞれで測定した鼓膜温と

発汗量の関係から求めた深部体温一発汗量の傾きと発汗開始の深部体温閥値に,測定方法による差は

なかった。したがって,本研究で開発した赤外線透過ファイバを用いた非接触型鼓膜体温計は,体温

調節の研究分野において,深部体温計として用いることができるものと考えられる。

汗腺活動に関しては,興味ある結果が得られた。すべての負荷条件において,深部体温-単一汗腺

あたりの汗出力の関係札 いずれの深部体温に対しても直線関係を示した。これに対し,深部体温一

活動汗腺数の関係は,下肢温浴負荷時にはいずれの深部体温の上昇に対しても活動汗腺数は直線的に

増加したが,運動時にはいずれの負荷においても初期に活動汗腺数が増加し,その後の反応は負荷条

件により異なった。固定運動負荷では,初期の活動汗腺数の増加後,いずれの深部体温の上昇に対し

ても活動汗腺数はほとんど増加しなかった。ランプ運動負荷では,食道温一活動汗腺数の関係は直線

的であったが,鼓膜温一括動汗腺数の関係では,活動汗腺数は初期に大きく増加した後,鼓膜温の上

昇に伴い増加した。多段階運動負荷では,いずれの深部体温の上昇に対しても活動汗腺数はほぼ直線

的に増加した。

下肢温浴負荷時の発汗反応は,深部体温や皮膚温による温熱性の要因の入力のみによって,汗腺が

活動しているが,他の3種類の運動には運動による非温熱性の影響が関与していると考えられる。し

たがって,これら運動の初期の反応結果には運動による非温熱性の影響が大きく関与していると考え

られる。深部体温がほとんど変化しないときの発汗反応には,非温熱性要因の影響が大きく,深部体

温が大きく変化するときの発汗反応には非温熱性要因よりも温熱性の要因の影響が大きくなる【6-

22】。しかし,固定運動負荷時において活動汗腺数は初期に大きく増加し,その後深部体温の上昇に伴

い活動汗腺数はほとんど増加していなかった。これより,活動汗腺数の増加には初期の非温熱性要因

の関与が大きいと考えられる。多段階運動負荷時において深部体温と活動汗腺数が直線関係になって

いるのは,負荷強度の変化が深部体温の上昇と活動汗腺数の増加の両方に影響していると考えられ

る。多段階運動負荷と同様にランプ運動負荷も運動強度が増大するが,活動汗腺数の変化は深部体温

の上昇に伴いわずかに上昇する。つまり,ランプ運動負荷のような小さな運動強度の変化は活動汗腺

数の増加には影響しないが,運動負荷強度の変化が大きいほど,活動汗腺数が増加するのかもしれな

い。これに対し,どの運動負荷においても単一汗腺あたりの汗出力は,初期にあまり増加せず,深部

体温の上昇に伴い増加した。これより,下肢温浴負荷時には,活動汗腺数も単一汗腺あたりの汗出力

も深部体温の上昇により増加するが,運動時には,単一汗腺あたりの汗出力は深部体温の上昇の影響

が大きく,活動汗腺数は運動による非温熱性要因の影響が大きい可能性が示唆された。

汗腺活動に関しては,今後さらなる検討が必要であるが,本章の結果はいずれの深部体温も体温調

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表6-3 各深部体温の安静時から発汗開始時までの深部体温の上昇度 (oc)

下肢温浴負荷 固定運動負荷 ランプ運動負荷 多段階運動負荷

鼓膜温 (非接触型) 0.05土0.25 -0.02土0.06* -0.07土0.19* -0.08土0,09*

鼓膜温 (接触型) 0.12土0.10 0.04土0.08* -0.01土0.07 0.03土0.07

*:食道温の上昇度と比較 (p<0.05)

節パラメータの一つである発汗反応と直線関係にあることを示している。したがって,本研究で開発

した赤外線透過ファイバを用いた非接触型鼓膜体温計で測定した穀膜温は,体温調節の研究分野にお

いて深部体温の指標として用いることができるものと考えられる。

従来の研究と同様に,深部体温の絶対値で比較検討した場合,鼓膜温でも食道温でも体温調節の研

究分野において深部体温の指標として用いることができるが,発汗開始までの深部体温の上昇度をみ

ると鼓膜温と食道温の反応は異なる (表6-3)。いずれの負荷においても,非接触型鼓膜体温計で

測定した鼓膜温と接触型鼓膜体温計で測定した戟膜温の発汗が開始するまでの上昇度に有意差はな

かった。しかし,鼓膜温と食道温で比較すると,下肢温浴負荷時には,発汗が開始するまでの食道温

と鼓膜温の上昇度に有意差はなかったが,運動負荷時の発汗が開始するまでの食道温の上昇度は,非

接触型鼓膜体温計で測定した鼓膜温のそれよりも明らかに大きかった。さらに,接触型鼓膜体温計で

測定した鼓膜温には有意差こそなかったが,その傾向がみられた。つまり,鼓膜温は発汗が開始する

までにほとんど上昇していないにも関わらず,それと比較して食道温は明らかに大きな上昇を示して

いる。体温調節は,体温調節中枢へ入力される深部体温や皮膚温などによって変化することから,刺

御系の反応としてみると,鼓膜温の方が食道温よ.りも体温調節中枢の温度をより反映している可能性

が考えられる。一方,運動時には深部体温や皮膚温の入力だけでなく,セントラルコマンド,代謝お

よび化学物質に対する反射や血圧反射などの入力も影響してくる。後者の非温熱性要因は,深部体温

の上昇を伴わずに発汗などの体温調節パラメータを活動させることより【6・23],運動時にはむしろ発

汗開始までの深部体温の上昇は小さくなるか,またはほとんどないものと考えられる。

これらのことより,体温調節中枢の温度は,食道温よりも鼓膜温によって反映されている可能性が

考えられる。このことに関しては,さらに様々な条件下で比較 ・検討する必要がある。

6-5.まとめ

発汗による蒸発性熱放散は,ヒトの体温調節機能特有のものであり,暑熱環境下においては唯一の

熱放散手段として機能し,運動時においても俵れた熱放散機構として機能する。このような発汗など

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を含め,体温調節機能は深部体温の変化に大きく影響される。本章ではヒトの体温調節機能でも特徴

的な発汗反応 :深部体温一発汗量の関係の傾きと発汗開始の深部体温間借の両面から,非接触型鼓膜

体温計の有用性について検討した。さらに,汗腺活動 (数 ・量)に関しても同時に検討した。

それぞれの深部体温の上昇に伴い,胸部および前腕部の発汗量は増加した。同一負荷条件,同一の

発汗測定部位において,非接触型鼓膜体温計で測定した鼓膜温一発汗量の傾きと,接触型鼓膜体温計

で測定した鼓膜温一発汗量の傾きに有意差はなかった。また,それぞれの深部体温に対する発汗量の

傾きは,同一の発汗測定部位で比較すると,運動負荷条件による差はなかった。発汗開始の深部体温

閉値は,すべての負荷において両鼓膜温と食道温に差はなかった。また,負荷条件間にも差はなかっ

た。これより非接触型鼓膜体温計で測定した鼓膜温は,体温調節の研究において,深部体温の指標と

して十分に用いることができると考えられる。しかし,安静時から発汗が開始するまでの深部体温の

増加を検討すると,鼓膜温はほとんど上昇していないにも関わらず,食道温は上昇していた。制御系

の入力と出力の関係や運動時の非温熱性要因の影響を考慮すると,戟膜温の方が食道温よりも体温調

節中枢の温度を反映している可能性が示唆された。

汗腺活動に関しては,単一汗腺あたりの汗出力も活動汗腺数も深部体温の上昇に伴い増加するが,

運動時の活動汗腺数は深部体温よりも運動による非温熱性要因の関与が大きい可能性が示唆された。

以上のことより,本研究で開発した赤外線透過ファイバを用いた非接触型鼓膜体温計は,体温調節

の研究分野において,深部体温計として十分に用いることができるものと考えられる。

70

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第 7章.

総 括

ヒトは,暑いときには汗をかいたり,木陰に移動したり,寒いときにはふるえたり,日向に移動し

たりして深部体温の恒常性を維持する。このように体内の温度を一定に調節する機能を体温調節機能

という。発汗や皮膚血流量の変化などの体温調節反応は,深部体温の影響が大きく,体温調節機構を

解明する上で,深部体温は重要な指標として用いられている。深部体温の定義は, 「体内諸臓器の機

能や代謝に直接関係し,全身の温度の推移を示し,個々の内的 ・外的温度変化に意味のある変動を示

す部位で測定した温度」である。侵襲的に体深部の温度を測定することはできないので,一般的には

肢蘭,口腔,直腸,食道,そして鼓膜などで測定した温度を深部体温として用いる。これらの温度は

その用途によって使い分けられ,体温調節の研究では主に動脈血温の変化に対する応答性が早いなど

の理由から鼓膜温や食道温を深部体温として用いる。

これまでの鼓膜温や食道温の測定方法は接触型温度計を使用するため,センサの挿入によって鼓膜

や粘膜に外傷を与えたり,挿入時に被験者に苦痛を伴わせるなどの問題がある。そのため,子供や高

齢者などに対して使用することは困難であり,また,未知のウイルスに対する感染などの問題から,

将来的に接触型の体温計を使用することは困難になると思われる。ヒトの体温調節機構を研究してい

くためにも,安全な深部体温の測定方法が必要になると考えられる。このような観点から,より安全

にかつ簡便に深部体温を連続測定するために,鼓膜温をターゲットとして,赤外線センサと赤外線透

過ファイバを用いた非接触型鼓膜体温計を開発し,その有用性について検討した。

以下に各章ごとの内容をまとめる。

第2章では,本研究で開発した非接触型鼓膜体温計の基本性能に関する検討を行った。黄膜から放

射される赤外線のみを検出するために用いた赤外線透過ファイバの光損失を考慮して,人体から放射

される赤外線の検出に対して最も感度の良いMCT赤外線センサと,汎用性の高い安価なDLATOS赤外

線センサを用いて赤外線透過ファイバ付きの非接触型鼓膜体温計を製作した。両非接触型鼓膜体温計

の基本性能を検討する静的 (安定性)および動的 (線形性,追従性およびヒステリシス)実験や,赤

外線透過ファイバに関連する本システムの応答性や赤外線透過ファイバの曲げによる放射損失を検討

する実験を行った。これらの結果,いくつかの改善面はあるものの,両非接触型較膜体温計は深部体

温を測定するのに十分な性能を有した。第3章以降ではコストパフォーマンスが良く,将来的に小型

で汎用性のある装置への改良が容易なDLATGS赤外線センサを用いた非接触型鼓膜体温計を採用する

こととした。

第3章では,本研究で開発した非接触型鼓膜体温計が,正確に鼓膜の温度を測定することができる

ことを検討した。鼓膜の温度を正確に測定していない場合,頭部および顔面部をアイスパックや扇風

機を用いて冷却すると,その測定温度は低下するが,本研究で開発した非接触型鼓膜体温計で測定し

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た温度はそれらの冷却刺激に影響されなかった。したがって,本研究で開発した非接触型鼓膜体温計

は正確に鼓膜温を測定していることが示された。

第4章と第5章では,従来の接触型温度計で測定した鼓膜温と,本研究で開発した非接触型穀膜体

温計で測定した鼓膜温とを比較検討した。まず第4章では身体を動かすことなく深部体温を上昇させ

ることのできる下肢温浴負荷時の深部体温の測定を行った。非接触型鼓膜体温計で測定した鼓膜温

は,接触型寅膜体温計で測定した鼓膜温と同様の変化を示したOさらに,他の深部体温の指標である

食道温と比較しても,類似した変化を示した.これより,本研究で開発した非接触型鼓膜体温計は,

下肢温浴負荷時において鼓膜温を正確に連続測定することができ,非接触型鼓膜体温計で測定した鼓

膜温は,体温調節の研究において深部体温の指標として用いることができると考えられる。第5章で

は,異なる3条件の運動負荷時において,接触型温度計で測定した鼓膜温と,非接触型鼓膜体温計で

測定した鼓膜温を比較し,さらに熱電対で測定した食道温とも比較した。第4章と同様に,本研究で

開発した非接触型鼓膜体温計で測定した鼓膜温は,接触型鼓膜体温計で測定した鼓膜温と同様の変化

を示した。食道温の上昇は両戟膜温よりも早かったが,安静時や運動終了時,運動前後のそれぞれの

深部体温の上昇度に差はなかった。さらに,最大負荷の運動を行った被験者の鼓膜温も連続的に測定

することができた。これより,非接触型鼓膜体温計は,運動時においても深部体温計として用いるこ

とができると考えられるD

第6章では,ヒトの体温調節の中でも特徴的な発汗の変化を対象に,非接触型鼓膜体温計で測定し

た鼓膜温,接触型鼓膜体温計で測定した鼓膜温および熱電対で測定した食道温をそれぞれ比較検討し

た。深部体温-発汗量の関係から得られた傾きと発汗開始の深部体温開値の結果から,非接触型鼓膜

体温計で測定した鼓膜温,接触型温度計で測定した鼓膜温,そして食道温のいずれも体温調節の研究

において深部体温の指標として用いることできると考えられた。発汗開始までのそれぞれの深部体温

の上昇度を比較すると,食道温よりも鼓膜温の方が体温調節中枢の温度を反映している可能性が示唆

された。これより,非接触型鼓膜体温計で測定した鼓膜温は,深部体温の指標として用いることがで

きると考えられる。

本研究の結果より,赤外線透過ファイバを用いた非接触型鼓膜体温計はヒトの鼓膜の温度を安静時

だけでなく,運動時においても正確に,連続的に測定できることが示された。第3章の頭部または顔

面部の冷却実験の結果は,本システムが正確に鼓膜から放射される赤外線のみを検出していることを

示した。しかし,本システムには土0.2oCの最大測定誤差があるために,今後さらに測定精度が向上す

るように改善する必要がある.このほか,本システムでは赤外線透過ファイバの固定にポリエチレン

スポンジを用いたが,運動中,ファイバが外耳道から抜け出る感じがするとの報告があったことか

ら,赤外線透過ファイバを固定する方法を改善する必要もある。補聴器の外耳道の固定部分を用いた

り,測定システム自体をさらに小型化してヘッドホンに内蔵することによって,赤外線透過ファイバ

の固定を確実なものにすることも考えられる。赤外線透過ファイバを用いた非接触型鼓膜体温計は,

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既存の非接触型鼓膜体温計が抱えていた問題点を解決したことにより,体温調節の研究分野だけでな

く,医療分野やその他の分野においても有用な深部体温計になると考えられる。さらに安全にかつ連

続的に戟膜温を測定できることによって,これまで戟膜温や食道温などの深部体温を測定することが

困難であった子供や高齢者などの体温調節の研究も進展するものと考えられる。

73

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第 2章

[211] TemdrupTE.An appmiSaloftemperatureassessmentbyin舟aredemissiondetectiontym panic

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[3・101 BrinnelH,CabanacM.Tym panictemperatureisacoretemperattueinhum anS.J.Them .Biol.

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第4章

[4-1] CabanacM,Human SelectiveBrainCooling:永坂鉄夫訳 金沢熱中症研究会,1997

[4-2] IlirashitaM,Shido0,TanabeM.Bloodflowthrough theophthalmicveinsduringexercisein

humans.EW .∫.Appl.Pbysiol.1992;64:92-97.

[413] Caban acM,BrimelH.BloodflowintheemlSSaryVeinsofthehum anhcadduringhyperthemia.fur.

J.Appl.Physiol.1985;54:172-176.

[4-4] OgawaT,SugenoyaJ,0lmishiN,etal.Effectofbodyandheadpositionsonbilateraldiffercncein

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[416] SatoKT,KaneNL,SoosG,GisolGCV,KondoN,SatoK.Recxaminationoftym panicmembrane

tempemtureasacoretemperattFe.J.Appl.Physiol.1996;80(4):123311239.

第 5章

[511] KogaS,ShiojiriT,KondoN,BarstowTJ.Effectofincreasedmuscletemperatureonoxygenuptake

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[513] CabanacM,GermainM,BrinnelH.Tym panictemperaturesduringhemifacecooling.Eur,J.Appl.

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第6章

[6-1] JolmsonJM,ParkMK.EffectofuprightexerciseonthresholdforcutBLneOuSVaSOdilationand

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Page 90: Kobe University Repository : Thesis - 神戸大学附属図書館 University Repository : Thesis 学位論文題目 Title ヒトの深部体温の測定法に関する研究 氏名

謝辞

本研究の間,終始懇切丁寧な御指導ならびに御鞍錘を賜りました神戸大学工学部森脇俊道教授に心

から感謝いたしますとともに,厚く御礼申し上げます。本論文の作成にあたり,御多忙中にもかかわ

らず御指導ならびに御高閲を賜りました神戸大学工学部中前勝彦教授,同 赤津堅造教授に感謝いた

しますとともに,厚く御礼申し上げます。

本研究の遂行にあたり,数多くの御教示と御支援を賜りました神戸大学発達科学部近藤徳彦助教授

に心から感謝いたします。また,多くの御助言と御支援を賜りました神戸大学工学部社本英二助教

撹,神戸大学大学院自然科学研究科柴坂敏郎助教授,神戸大学工学部樋野励助手,および道脇昭技官

に心から御礼申し上げます。

本研究の測定装置を製作するにあたり,数多くの御支援と御協力を賜りました島津製作所生産技術

研究所の長谷川英一氏,基盤技術研究所の喜多純一氏,同 小林潤也氏ならびに島津製作所の皆様に

心から御礼申し上げます。

本研究の実施にあたり,多大なる御協力を頂いた当時神戸大学工学部学生の古角直樹君,石井正人

君,井戸田能事君,千葉大学大学院の青木健君,神戸大学大学院生の富永寛隆君,同 堀川直幹君な

らびに神戸大学工学部生産機械工学科 森脇研究室の皆様に感謝の意を表します。

そして,3年間終始暖かい御激励を頂きました大阪国際女子大学井上芳光教授,神戸芸術工科大学

古賀俊策助教授,そして友人達に感謝の意を表します。

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