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1 木村恵一 システム工学部 精密物質学科 ナノテクノロジー研究系 分析化学・機能有機材料研究室 http://www.wakayama-u.ac.jp/~kkimura/応用分析化学 システム工学部 前期、5セメスター、月曜日 3 時限 授業の内容 (1)基礎分析化学 (2)機器分析化学(重点を置く) 履修アドバイス 履修要件は特に定めないが、化学系科目全般を履修していること が望ましい。分析化学Iは、科学全般に必要な基礎知識であるが、特 に、将来(大学院進学も含めて)化学の分野を専門としたい者は必修 である。短期間で基礎および機器分析化学を講義する結果、要点の 説明にとどめる場合もあるので、教科書のみならず参考書なども読 んで必ず復習をすること。また、将来の分析化学研究に備えて、英 語の分析化学用語も覚える努力をすること。 ○講義OHPのpdfファイルのダウンロード http://www.wakayama-u.ac.jp/~kkimura/Kougi/BunsekiKagaku 授業のペース (1)基礎分析化学 1回目:ガイダンスと分析化学の予備知識 (定量、定性分析、精度と確度) 2回目:分析化学の予備知識(各種濃度、ppm,ppb,ppt,ppq など) 3回目:活量、化学平衡、酸と塩基序論 4回目:pH(定義、強酸塩基のpH、弱酸塩基の塩のpH)、緩衝液 5回目:酸塩基(中和)滴定、沈殿滴定 6回目:キレ-ト滴定、酸化-還元滴定 7回目:ヨウ素滴定、溶媒抽出 (2)機器分析化学 8回目:組成、状態、表面、分離分析概論、 分子スペクトル分析I (吸光、蛍光) 9回目:分子スペクトル分析II (赤外吸収、ラマン) 10回目:原子スペクトル分析(原子吸光、炎光分析、発光) および質量分析 11回目:電気化学分析及び化学センサー 12回目:クロマトグラフィー 13回目:X線・電子線分析 14回目:復習、研究紹介 15回目:最終試験 研究室からのメッセージ 研究は厳しいものであるが、大いに楽しむべきものである。 また、得られた研究成果は速やかに公表し、社会に還元する ともに外部に評価を求めなければならない。さらに、できる 限り英語で成果発表し世界にアピールしなければならないと 考えています。 研究室のモットー 最前線の研究をエンジョイする。 安全第一に。 何事にも興味を持ちベストを尽くす。 国際人を目指せ。 メリハリのある生活を。 分析化学の予備知識(基礎概念) ○定量分析(quantitative analysis)、定性分析(qualitative analysis) analyzeとは analyze: 検出(detect)、測定(determine)、分離(separate)を総称 して言う。 ○分析対象(analyte) 常量(meso> 100 mg)、少量(semimicro10~100mg)微量(micro1~10mg)、極微量 (ultramicro< 1mg) ○成分 主成分(major、1%以上)、少量成分(minor、1%以下)微量成分(minor0.1%以下または1ppm以下)極微量成分(ultratrace1 ppt以下)
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Kiso Bun Seki

Nov 27, 2015

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Bathuka Chuka

Analytic Chemistry
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Page 1: Kiso Bun Seki

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木村恵一 システム工学部 精密物質学科 ナノテクノロジー研究系 

  分析化学・機能有機材料研究室

(http://www.wakayama-u.ac.jp/~kkimura/)

応用分析化学

システム工学部 前期、5セメスター、月曜日 3 時限

○ 授業の内容!(1)基礎分析化学!(2)機器分析化学(重点を置く)!

○ 履修アドバイス!  履修要件は特に定めないが、化学系科目全般を履修していることが望ましい。分析化学Iは、科学全般に必要な基礎知識であるが、特に、将来(大学院進学も含めて)、化学の分野を専門としたい者は必修である。短期間で基礎および機器分析化学を講義する結果、要点の説明にとどめる場合もあるので、教科書のみならず参考書なども読んで必ず復習をすること。また、将来の分析化学研究に備えて、英語の分析化学用語も覚える努力をすること。!

○講義OHPのpdfファイルのダウンロード  http://www.wakayama-u.ac.jp/~kkimura/Kougi/BunsekiKagaku

授業のペース

(1)基礎分析化学

1回目:ガイダンスと分析化学の予備知識    (定量、定性分析、精度と確度)

2回目:分析化学の予備知識(各種濃度、ppm,ppb,ppt,ppq など)

3回目:活量、化学平衡、酸と塩基序論

4回目:pH(定義、強酸塩基のpH、弱酸塩基の塩のpH)、緩衝液

5回目:酸塩基(中和)滴定、沈殿滴定

6回目:キレ-ト滴定、酸化-還元滴定

7回目:ヨウ素滴定、溶媒抽出

(2)機器分析化学

8回目:組成、状態、表面、分離分析概論、 分子スペクトル分析I (吸光、蛍光)

9回目:分子スペクトル分析II (赤外吸収、ラマン)

10回目:原子スペクトル分析(原子吸光、炎光分析、発光)     および質量分析

11回目:電気化学分析及び化学センサー

12回目:クロマトグラフィー

13回目:X線・電子線分析

14回目:復習、研究紹介

15回目:最終試験  

研究室からのメッセージ

研究は厳しいものであるが、大いに楽しむべきものである。

また、得られた研究成果は速やかに公表し、社会に還元する

ともに外部に評価を求めなければならない。さらに、できる

限り英語で成果発表し世界にアピールしなければならないと

考えています。

研究室のモットー

最前線の研究をエンジョイする。

安全第一に。

何事にも興味を持ちベストを尽くす。

国際人を目指せ。

メリハリのある生活を。

分析化学の予備知識(基礎概念)

○定量分析(quantitative analysis)、定性分析(qualitative analysis)!

○analyzeとは analyze: 検出(detect)、測定(determine)、分離(separate)を総称 して言う。

○分析対象(analyte) 常量(meso、> 100 mg)、少量(semimicro、10~100mg)、 微量(micro、1~10mg)、極微量 (ultramicro、< 1mg)!

○成分 主成分(major、1%以上)、少量成分(minor、1%以下)、 微量成分(minor、0.1%以下または1ppm以下)、 極微量成分(ultratrace、1 ppt以下)、

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○量を表す接頭語 m(milli、ミリ) 10-3, µ(micro 、マイクロ) 10-6, n(nano、ナノ) 10-9, p(pico 、ピコ) 10-12, f(femto 、フェムト) 10-15, a(atto 、アット) 10-18, z(zept 、ゼプト) 10-21, y(yocto 、ヨクト) 10-24

K(kilo 、キロ) 103, M(mega 、メガ) 106 , G(giga 、ギガ) 109,!T(tera 、テラ) 1012, P(peta 、ペタ) 1015, E(exa 、エクサ) 1018, !Z(zetta 、ゼタ) 1021, Y(yotta 、ヨタ) 1024!

○方法、記録チャート、分析装置を表す接尾語 polaro(-graphy グラフィー, -gramグラム, -graphグラフ), !chromato(-graphy, -gram, -graph), !spect(-roscopy, rum, rometer)!

○状態分析を用語 in vivo(生体系その場分析)、 in vitro(生体系そのままではなく、一部を試験管などに導いて 生体反応を追跡すること)、 in situ(非生体系および生体系でのその場分析)

確度(accuracy)と精度(precision)!

確度(accuracy)は、測定値と真値の一致の程度である。 確度を左右する誤差は、確定(系統、規則、定)誤差があり、 機器、機器操作、測定方法に由来する誤差である。

精度(precision)は、同じ量を繰り返し測定した場合の一致の程度(再現性)である。

精度を左右する誤差には、ランダムな不確定(偶然)誤差があり、その誤差は正規(ガウス、誤差)分布に従う。 誤差は、絶対誤差(測定値-真値)、相対誤差{(測定値-真値)100/真値 (パーセント)}で表す。

要点!

・”分析”の意味!・確度と精度�

(1)基礎分析化学

1回目:ガイダンスと分析化学の予備知識    (定量、定性分析、精度と確度)

2回目:分析化学の予備知識(各種濃度、有効数字など)

3回目:活量、化学平衡、酸と塩基序論

4回目:pH(定義、強酸塩基のpH、弱酸塩基の塩のpH)、緩衝液

5回目:酸塩基(中和)滴定、沈殿滴定

6回目:キレ-ト滴定、酸化-還元滴定

7回目:ヨウ素滴定、溶媒抽出

モル、原子量、分子量、式量(教科書 p9-12)

モル(mol)、物質量:アボガドロ数(6.022 X 1023)の   原子、分子の重量

グラム原子量(gram-atomic weight):   ある元素(原子)のアボガドロ数の重量 (無名数)

グラム分子量(gram-molecular weight):   ある分子のアボガドロ数の重量、   分子を構成する原子の原子量の総和 (無名数)

グラム式量(gram-formula weight):   イオン性化合物(酸、塩基、塩などの強電解質)の   アボガドロ数の重量(無名数)

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ダルトン(dalton):

 蛋白質の一分子の重量。生物および生化学者は蛋白質などの  大きな”分子”について分子量という用語を使うのは適当でない。

 実質的には、分子量と同じである。12Cは12ダルトンで、  1ダルトンは、1/(6.022 X 1023)=1.661 X 10-24 g ! (アボガドロ数の逆数)となる。

 ”1個の大腸菌の重量は約6 X 1011ダルトン  (約1 X 10-12 g)である。”

溶液の濃度

モル濃度(molarity):  通常、溶液1L中に含まれるモル数(mol/L, mol L-1 , mol/dm3 , ! mol dm-3 ) 分析化学では、1 mol/Lを1 Mと表すことがある。

規定度、規定濃度 (normality):  普通、等量(equivalent weight)/Lを意味し、Nを単位として用  いる。等量は式量を反応単位数(反応単位:酸-塩基反応, H+;   酸化-還元反応, 電子;沈殿または錯形成反応, イオン)で割った  もので、単位としてeqを用いる。

ミリ当量濃度(meq/L)は、臨床分析などにおいて電解質濃度を表示  するのに良く用いられるが、ミリモル濃度(mmol/L)にイオンの電   荷数を掛けた値である。この概念は、電解質の全体の平衡状態を ! 考えるためである。生理学上、生体内の全電解質濃度が重要で! ある。

式量濃度(formality):  イオン性の塩の溶液のモル濃度(mol/L)のことで、Fを単位  として用いる。モル濃度は溶液の全濃度を示し、式量濃度は  平衡濃度を示す時に用いられる。    ?F=?M X 解離度

重量モル濃度(molality, molal concentration)  1000gの溶媒中に1モルの溶質を含む場合に1モラル(molal)! といい、単位はmを用いる。この濃度表示は、他の容量濃度と  異なり、温度に依存しない。蒸気圧や浸透圧などの測定時に  用いる。

略号 単位 重量/重量!(wt / wt)!

重量/体積!(wt / vol)!

体積/体積!(vol / vol)!

ppm (1/106)! parts per million!

百万分率!(10-4 %)

mg / kg!µg / g!

mg / L!µg / mL!

µL / L!nL / mL!

ppb (1/109)! parts per billion!

十億分率!(10-7 %)

µg / kg!ng / g!

µg / L!ng / mL!

nL / L!pL / mL!

ppt (1/1012)!parts per trillion!

一兆分率!(10-10 %)

ng / kg!pg / g!

ng / L!pg / mL!

pL / L!fL / mL!

ppq (1/1015)!parts per quadrillion!

千兆分率!(10-13 %)

pg / kg!fg / g!

pg / L!fg / mL!

fL / L!aL / mL!

分析化学的な濃度表示(ppm, ppb, ppt, ppq)!

固体試料の濃度は重量/重量で、液体試料では重量/重量または 重量/体積(より一般的)で、気体試料では体積/体積(volppx)で表すのが一般的である。!ppqt(? )(1/1018) (parts per quintillion) 百京分率 ?!

有効数字 (JIS Z 8401, 教科書p79)!

○表記法 936,600が有効数字5桁であれば、9.3660X105となる。

○掛け算と割り算の場合、演算数のうち最も有効数字の桁数の少ないkey number に答えの桁数を合わせる。 ! 1.234 X 983 =1213 =1210!

○足し算と引き算の場合、有効数字は小数点の位置に左右され、最小の小数点の桁に合わせる。小数点を1桁余分に計算しておいて、最後に四捨五入すればよい。 5.623 – 0.45 = 5.173 = 5.17!

○四捨五入(一般のモノとは多少異なる。)

最後の桁が5より大きい場合、小さい場合、それぞれ切り上げ、 切り下げを行う。最後の桁が5の場合、最も近い偶数に切り上げ、 または切り下げする。

(小数点一桁までが有効数字の例)

8.549 = 8.5 !8.460 = 8.5 !

8.650 = 8.6   !8.651 = 8.7!8.65 = 8.6!8.55 = 8.6!

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要点!

・濃度いろいろ!・ppm, ppb, ppt, ppq!・有効数字、四捨五入�

(1)基礎分析化学

1回目:ガイダンスと分析化学の予備知識    (定量、定性分析、精度と確度)

2回目:分析化学の予備知識(各種濃度、ppm,ppb,ppt,ppq など)

3回目:活量、化学平衡、酸と塩基序論

4回目:pH(定義、強酸塩基のpH、弱酸塩基の塩のpH)、緩衝液

5回目:酸塩基(中和)滴定、沈殿滴定

6回目:キレ-ト滴定、酸化-還元滴定

7回目:ヨウ素滴定、溶媒抽出、有効数字

活量、イオン強度、活量係数 (教科書p14)!

 イオンの濃度が大きくなると、会合などの問題で、イオンの 解離(電離)が抑制される。例えば、3Åの1価-1価イオンでは、1M 溶液で、13.8%会合している。

 イオンの有効濃度は活量(a, activity)と呼ばれ、 a = f・C!(f:活量係数, activity coefficient 、C:濃度)!で表される。

 希薄溶液(1 X 10-4 M以下の電解質濃度)では、活量は濃度に ほぼ等しい。

活量の概念�

M+

X-

X-

X-X-

M+M+

M+

M+

X-

M+X-

X-

X-X-

M+M+

M+

M+X-

M+

M+

M+

M+

M+ X-

X-X-

X-

X-

X-

X-

X-

X-

X-

M+

M+

M+M+

M+

低濃度の電解質 高濃度の電解質

電解質は完全解離し、 イオンは独立して振る舞う。

電解質は完全解離できない (イオン対を形成)ので、 イオンは必ずしも独立して 振る舞うことができない。

活量はイオン強度に大きく依存する!! イオン強度が同じなら、活量係数も変わらない。(Lewisの法則)

イオン強度(ionic strength, µ)!

 総電解質濃度(1価イオンに換算したイオンの総数)の尺度である。

  µ = 1/2 ΣCz2 = 1/2 (C1z12 + C2z2

2 + C3z32 + ・・・・・)

 (C:濃度, z:価数) (2・13式、教科書p16)

 Debye-Hückel理論では、活量係数 f は、

- log f = Az2µ1/2/(1 +Bαµ1/2) (2・9式、教科書p14) (z:イオンの価数, A, B : 定数, α:水和イオン径パラメーター)

で表され、 µ<0.2までは適用できる。!

 通常の一価イオン(αは約3Å)の場合、

- log f = 0.51z2µ1/2/(1 + µ1/2) (2・10式、教科書p14)

と簡略化でき、µ<0.01以下で成り立つ。

 次のDaviesの経験式では、さらに高イオン強度(µ~0.6)まで有効 である。(教科書には記載なし)

  - log f = {0.51z2µ1/2/(1 + 0.33 αµ1/2)} - 0.10z2µ!

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平均活量係数!

 単一イオンの活量係数は、実験的に測定困難であるので、!平均活量係数(f± )を求める。

 電解質AmBnの平均活量係数は、

(f±)m+n = fAm ・ fBnで定義される。

 つまり、 f± = m+n√fAm ・ fBn となる。

化学平衡

 aA + bB ⇔ cC + dD の化学反応において、順方向の反応速度はkf[A]a[B]b、逆方向の反応速度はkb[C]c[D]dで表される。  反応が平衡状態にある時は、順,逆方向の反応速度が等しいので、 kf[A]a[B]b = kb[C]c[D]dである。

 濃度平衡定数(単に平衡定数とも言う)Kʼは、順方向反応速度と!逆方向反応速度の比となる。 ! Kʼ = kf/kb = [C]c[D]d/[A]a[B]b !

平衡定数は、活量係数を考慮して熱力学的平衡定数Kを用いなければならない。  K = aC・aD/aA・aB = fC[C]・fD[D]/fA[A]・fB[B]    = Kʼ ・(fC・fD /fA・fB )

 化学平衡を用いる分析化学では、高濃度を取り扱わない限り、!濃度平衡定数が適用できる。

酸-塩基平衡 (教科書p.25)!

  酸、塩基の考え方として、Brønsted-Lowry理論とLewis理論がある。   一般(有機反応など)には、Lewis理論(電子対受容体が酸、電子対供与体が塩基)が用いられるが、分析化学では、解離定数による取り扱いのためにBrønsted-Lowry理論を通常使用する。

Arrhenius理論  酸はH+を与える物質である。

Brønstedの酸塩基 (教科書p.26)

 酸はH+を与える物質であり、塩基はH+を受け取る物質である。  つまり、 酸 = H+ + 塩基  である。

 HA + H2O ⇔ H3O+ + A- K = aH3O+・aA-/aHA・aH2O ! 酸           共役塩基

酸解離定数(acidity constant) (K・aH2O) = Ka = aH3O+・aA-/aHA 

 B + H2O ⇔ BH+ + OH- K = aBH+ ・aOH-/aB・aH2O! 塩基     共役酸!

 塩基解離定数(basicity constant) (K・aH2O)= Kb= aBH+ ・aOH- / aB

pHの概念 (教科書p 25)!

Sørensenの定義 (水素イオン指数、水酸イオン指数)

pH = - log [H+], pOH = - log [OH-]!

しかし、本来は、!pH = - log aH+, pOH = - log aOH- である。!

負のpH値は計算上はあり得る。しかし、本来は、 pH = - log aH+であるので、

実際的ではない。100%(36N, 18M)硫酸は、ほとんど解離していない。

水のイオン積(ion product) (教科書p.25)!

水も解離している!!

2H2O ⇔ H3O+ + OH- K = aH3O+ ・aOH- / aH2O2!

水のイオン積 (自己イオン化定数)

(K・aH2O2) = Kw = aH3O+ ・aOH- = [H+][OH-] = Ka・Kb!

Kw = 1.0 X 10-14 at 25°C 中性 pH = pOH = 7.00      5.5 X 10-13 at 100°C pH = pOH = 6.13 2.5 X 10-14 at 37°C   pH = pOH = 6.80 (人の血液のpHは7.35~7.45で、中性が6.80であるので、 かなりのアルカリ性である。)

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強酸塩基と弱酸塩基(教科書p.25~)

 強酸:解離度99%以上の酸解離 Ka> 1 X 105  弱酸:解離度1%以下の酸解離  Ka< 1 X 10-2  解離度(degree of dissociation) = [H+]/[HA] X 100 (%)

 強酸 HCl + H2O → H3O+ + Cl-   ! Kaは無限大(> 1 X 105)   弱酸 CH3CO2H + H2O ⇔ H3O+ + CH3CO2

- ! Ka = 1.75 X 10-5 (25°C)、pKa = (- log Ka ) = 4.76!

 強塩基  NaOH → Na+ + OH-      Kbは無限大(> 1 X 105)  弱塩基  NH3 ⇔ NH4

+ + OH- ! Kb = 1.75 X 10-5 (25°C)、pKb =4.76

要点!

・活量、イオン強度!・酸塩基平衡!・酸塩基解離(強弱酸塩基)

(1)基礎分析化学

1回目:ガイダンスと分析化学の予備知識    (定量、定性分析、精度と確度)

2回目:分析化学の予備知識(各種濃度、ppm,ppb,ppt,ppq など)

3回目:活量、化学平衡、酸と塩基序論

4回目:pH(定義、強酸塩基のpH、弱酸塩基の塩のpH)、緩衝液

5回目:酸塩基(中和)滴定、沈殿滴定

6回目:キレ-ト滴定、酸化-還元滴定

7回目:ヨウ素滴定、溶媒抽出

pHの算出 (教科書p 25以降) !

 pH = - log [H+], pOH = - log [OH-]!

強酸、強塩基の系 (教科書p 27)  HA → H+ + A-!

 MOH → M+ + OH-!

 高濃度の場合は、Ca (酸の濃度) = [H+] = [A-]、!  Cb (塩基の濃度) = [OH-] = [M+]となる。水の解離は無視できる。

希薄溶液の場合(10-7M以下の強酸または塩基の濃度)

 酸塩基のpHやpOHへの寄与は小さく、  水の解離の影響が無視できない!

 HA = A- + H+  H2O = H+ + OH-!

 [H+]H2O = [OH-]H2O = x とすれば、 [H+] = Ca + x   ( Caは、酸の初期濃度)  Kw = [H+] [OH-] = (Ca + x) x!

  故に、x2 - xCa - Kw = 0 、この式でpHが計算できる。

 quiz: 1 X 10-7MのNaOH水溶液のpHは?    (空気中の炭酸ガス等の影響は無視)     答: pH = 7.21

弱酸、弱塩基の系 (教科書p 28)

弱酸  HA ⇔ A- + H+  H2O ⇔ OH- + H+  上記2つの平衡が存在する。

 [A-] + [OH-] = [H+]  (電荷均衡則)  Ka = [H+] [A-]/[HA] = [H+] [A-]/(Ca - [A-]) ! = [H+] ([H+] - [OH-])/{Ca - ([H+] - [OH-])}  [OH-] = Kw/[H+]  (水のイオン積)  ∴ Ka = [H+] ([H+] - Kw/[H+])/{Ca - ([H+] - Kw/[H+])} !

 もし、水の電離が無視できる[H+]>>[OH-] (濃度100倍以上)の場合 !では、Ka = [H+]2/(Ca - [H+]) と近似できる。  さらに、Ca >> [H+] (濃度100倍以上, Kaが1 X 10-2以下, すなわち,  Ca > 100Ka )では、Ka = [H+]2/Ca 、すなわち [H+] = √(Ka・Ca)となる。

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弱塩基

 同様に,! B + H2O ⇔ BH+ + OH-  H2O ⇔ OH- + H+  上記2つの平衡が存在する。

 [BH+] + [H+] = [OH-]  Kb = [OH-] [BH+]/[B] = [OH-] [BH+]/(Cb - [BH+]) ! = [OH-]([OH-] - [H+])/{Cb - ([OH-] - [H+])}   [H+] = Kw/[OH-]  (水のイオン積)  ∴  Kb = [OH-]([OH-] - Kw/[OH-])/{Cb - ([OH-] - Kw/[OH-])}

 もし、水の電離が無視できる[OH-] >>[H+](濃度100倍以上)の場合 では、Kb = [OH-]2/(Cb - [OH-])と近似できる。  さらに、Cb >> [OH-] (濃度100倍以上, Kbが 1 X 10-2以下, すなわちCb>100Kb )では, Kb = [OH-]2/Cb,すなわち[OH-] = √(Kb・Cb)となる。

弱酸、弱塩基の塩 (教科書に記載なし)!

弱酸塩の陰イオンはBrønstedの共役塩基   A- + H2O ⇔ HA + OH-  !  Kb = [HA][OH-]/[A-] = [HA][OH-] [H+]/[A-] [H+] = Kw/Ka 弱塩基の場合と同様に、CA- > 100Kb(Kbが 1 X 10-2以下)の場合、!   [OH-] = √(Kb・CA-) !

弱塩基塩の陽イオンはBrønstedの共役酸   BH+ + H2O ⇔ B + H+ !   Ka = [B][H+]/[BH+] = [B][H+] [OH-]/[BH+] [OH-] = Kw/Kb 弱酸の場合と同様に、CBH+ > 100Ka(Kaが 1 X 10-2以下)の場合、!   [H+] = √(Ka・CBH+)!

弱酸(弱塩基)の共役塩基(酸)の解離定数は、Kw = Ka・Kb!

pH(pOH)の温度依存性

Kw = [H+][OH-] = 1 X 10-14 at 25°C ∴ 中性のpH = pOH =7      5.5 X 10-13 at 100°C ∴ 中性のpH = pOH = 6.13 2.5 X 10-14 at 37°C ∴ 中性のpH = pOH = 6.80!

(ちなみに、人の血液はpH7.35~7.45 で、中性が6.80であるので、かなりのアルカリ性である。)!

温度と共にpHは下がる!

緩衝液 (buffer solution) (教科書p30)!

 HA ⇔ A - + H+  A- + H2O ⇔ HA + OH- !

 酸やアルカリを少々加えてもpH値がほとんど変化しない溶液の ことで、弱酸/共役塩基または弱塩基/共役酸の”高濃度の”!混合物である。

CH3CO2H-CH3CO2Na: pH = 4.76±1, NH3-NH4Cl系: pH = 9.24±1,

KH2PO4-Na2HPO4: pH = 7.12±1,

Tris緩衝液[トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン/塩酸]

[(HOCH2)3CNH2 - HCl: pH = 8.08±1]などがある。

緩衝液のpH (教科書p31)

弱酸-弱酸塩の組み合わせ(CH3CO2-/CH3CO2H, HPO4

2-/H2PO4-)!

物質収支から Ca + Cb = [HA] + [A-] 電荷均衡則から Cb + [H+] = [A-] + [OH-] [A-] = Cb + [H+] - [OH-]、 [HA] = Ca - [H+] + [OH-] Ka = [H+](Cb + [H+] - [OH-])/{Ca - ([H+] - [OH-])} (教科書 p31の4.42式)!Ca >> |[H+] - [OH-]|、Cb>> |[H+] - [OH-]|ならば、 Henderson-Hasselbalchの式 Ka = [H+]Cb/Ca (4.45式)が導かれる。 pH = pKa + log([共役塩基]/[酸]) !弱塩基-弱塩基塩の組み合わせ(NH3 /NH4

+) Kb = [OH-]([OH-] - [H+])/{Cb - ([OH-] - [H+])} = Kw/Ka(教科書 4.44式) 上記と同様に、Kb = [OH-]Ca/Cbが導かれる。 pOH = pKb + log([共役酸]/[塩基])

高濃度であるほど緩衝効果が大きく、共役塩基/弱酸と弱塩基/共役酸の比によってpHが決まり、pKa±1以内のpH領域で緩衝作用が有効である。

緩衝能(buffer index)!

β = dCb/dpH = - dCa/dpH!

[酸]/[共役塩基]、または塩基]/[共役酸]の濃度比が1の時、緩衝能は最大になり、pH = pKaとなる。 また、緩衝液の電解質濃度が高い程、緩衝効果は大きい。

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8

血中のpH(生体の緩衝液)

CO2(H2CO3)とHCO3-のバランスでpHを決めている。

pH = pKa(CO2) + log([HCO3-]/[H2CO3]) = 6.10 + log(26mM/1.3mM) = 7.40 (at 37°C )

(37°Cでは中性が6.80であるので、人の血液はかなりのアルカリ性である。)!

通常、[HCO3-]/[H2CO3] = 20 :1である。!ヘモグロビンのO2 結合 → H+放出 → HCO3- + H+ = H2CO3 炭酸脱水酵素によって H2CO3 = CO2 + H2O 促進 → 肺からCO2放出

酸性症(アシドーシス) → 糖尿病 アルカリ症(アルカローシス)

要点!

・pH の算出法!・酸塩基平衡!・緩衝液

(1)基礎分析化学

1回目:ガイダンスと分析化学の基礎知識    (定量、定性分析、精度と確度)

2回目:分析化学の基礎知識(各種濃度、ppm,ppb,ppt,ppq など)

3回目:活量、化学平衡、酸と塩基序論

4回目:pH(定義、強酸塩基のpH、弱酸塩基の塩のpH)、緩衝液

5回目:酸塩基(中和)滴定、沈殿滴定

6回目:キレ-ト滴定、酸化-還元滴定

7回目:ヨウ素滴定、溶媒抽出

強酸-強塩基滴定 弱酸-強塩基滴定 容量分析!

酸塩基滴定(中和滴定) (教科書p33)  滴定曲線p34 図4.1

弱酸-強塩基滴定および 弱塩基-強酸滴定ではKaやKbが小さくなると(pKaやpKbが大きくなると)、終点は、明確に確認できない。

弱塩基-弱酸滴定は 可能か。

滴定曲線のpH

濃度Caの強酸HAを濃度Cbの強塩基B-で滴定する場合

(中性付近では、水の解離が無視できないので、水のイオン積を

 考慮しなければならない。)

①滴定前および滴定初期のpH pH = - log Ca (水の解離が無視できる場合、10

-5 M 以上) [H+] = Ca + √Ca

2 + 4Kw / 2 (10-7 M 以下)

②当量点におけるpH:  [H+] = √Kw

③当量点以降のpH:  [H+] = C + √C2 + 4Kw / 2 (C:過剰の塩基) pH = pKw + log C (水の解離が無視できる場合、10

-5 M以上)

中和滴定の終点の検出、指示薬

pHメーターを用いるのが最適。

指示薬を用いるが簡便(一般的)

           HIn ⇔ H+ + In-

例�

-

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9

指示薬を用いる中和滴定の終点決定 (弱酸を強塩基で滴定する場合の濃度およびKa依存性)

中和滴定の変色pH

pH = pKa + log ([In-]/[InH])!

[In-]/[InH]の濃度比が0.1~10では明白な色の変化が認められる。 すなわち、pKa ± 1のpH 2の変化の間に変色する。

当量点のpHによって、適切な指示薬を選ばなければならない。

フェノールフタレイン pH8~ 10 (終点が中性付近) 無色---赤紫 メチルオレンジ   pH3~ 5  (終点が酸性)   赤---黄(橙)

種々のpH指示薬 (p36,表4.1)

当量点のpHによって、適切な指示薬を選ばなければならない。強酸-強塩基滴定の指示薬としてフェノールフタレイン(無色-赤色の明確な変色)が適しているが、希釈溶液では、当量点がその変色域から外れてくるので、ブロムチモール(変色域pH6 - 8)などに変える必要がある。

炭酸ナトリウムの滴定(教科書に記載無し)

 CO32- + H+ → HCO3

-     (メチルオレンジ)  HCO3

- + H+ → CO2 + H2O   (フェノールフタレイン)

 二つの当量点がある。第二終点ではCO2の発生のため終点が見にくい。煮沸してCO2を追い出すと終点のpH変化が急激になり、終点が見やすくなる。

 標準溶液の調製時の注意  NaOHの純度は低いので、Na2CO3を除かなければならない。(NaOHをそ のグラム数と同mLの水に溶解させ、溶解性の低いNa2CO3は数日間静置して沈殿させて、

上澄み液をデカントする。KOHはこの方法は使えない。) 精製乾燥後、 フタル酸水素カリウムで標定する。  塩酸はNa2CO3で標定できるが,CO2の発生などで終点がわかりにくい。トリス(ヒドロキシルメチル)アミノメタン(Tris)による標定が推奨できる。  標定済みのNaOHがある時には、HClの標定は迅速かつ正確にできる。CO2の影響 を避けるために、HClをNaOH(滴定剤)で滴定する方が良い。

炭酸ナトリウムの塩酸による中和滴定における指示薬の選択 沈殿滴定(教科書p39~)

沈殿平衡、溶解度積 (Ksp , solubility product)

    MmXn (s) ⇔  mMn+ + nXm- !

K = [Mn+]m[Xm-]n/[MmXn]

    [Mn+ ]m[Xm-]n = K・定数 = Ksp

![Mn+ ]m[Xm-]n < Ksp  不飽和(沈殿は起こらない) ![Mn+ ]m[Xm-]n = Ksp  飽和状態 ![Mn+ ]m[Xm-]n > Ksp  過飽和状態

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10

溶解度積(solubility product)

AgCl ⇔ (AgCl)aq ⇔ Ag+ + Cl- !Ksp(溶解度積) = [Ag+][Cl-] = 1 X 10-10 = s2 s (溶解度) = 1X 10-5 M!

PbI2 ⇔ Pb2+ + 2I- !Ksp = [Pb2+][I-]2 = 7.1 X 10-9 = s(2s)2 = 4s3 s = [Pb2+] = 3√(Ksp / 4 ) =1.2 X 10-3 M!

PbSO4 ⇔ Pb2+ + SO42- !

Ksp = [Pb2+][SO42-] = 1.6 X 10-8 = s2

s = [Pb2+] = √Ksp = 1.3 X 10-4 M!

PbI2の溶解度積はPbSO4より小さいが、PbIの方がPb2+の溶解度(s)は大きいことに注目!

沈殿滴定

滴定曲線  反応によって難溶性塩の沈殿を生成する際には、いずれかのイオンの  定量に沈殿滴定が使用できる。  例えば、硝酸銀によるハロゲンイオンの滴定  Ag+ + Cl- → AgX X = Cl-, Br-, I-, SCN-

溶解度積(Ksp)が小さい程、当量点での曲線の変化は大きい。

変化の大きさ:I- > Br- > SCN- > Cl-

終点の検出

Ag+ またはハロゲンイオンのイオン選択性電極により、pAgまたはpXの急激な変化をみる。

指示薬を用いる沈殿滴定が一般的。

a.モール法 (Mohr)!

指示薬としてCrO42-を加え、Cl-をAgNO3標準溶液で滴定する。

終点になると、過剰のAg+とCrO42-が反応して赤色のAg2CrO4の沈

殿が生じる。  CrO4

2- + 2Ag+ → Ag2CrO4 (黄色)      (赤色)

b.フォルハルト法(Volhard)!

 Cl-, Br-, I-, CN-, SCN-などAg+と沈殿を生成するアニオンの 間接滴定法。硝酸酸性で、過剰の既知量(過剰)AgNO3を加えて、アニオンを沈殿させ、過剰のAg+をKSCN標準溶液でFe3+(鉄明礬)を指示薬として逆滴定する。

 Ag+ + SCN- → AgSCN  Fe3+ + SCN- → Fe(SCN)2+         (赤色)

c.ファヤンス (Fajans)法(吸着指示薬を用いる方法)

Cl-をAg+で滴定する場合、当量点前では、沈殿したAgClの表面はCl-で覆われ、二番目の吸着イオンとして金属イオンが保持される。  AgCl : Cl- :: M+ !当量点を過ぎるとAg+が過剰になり、沈殿の表面を覆い、第二相には指示薬の陰イオンを吸着し、安定な指示薬のAg+錯体を作り着色する。  AgCl : Ag+ :: In- 

ジクロロ

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要点!

・容量分析!・酸塩基滴定(中和滴定)!・沈殿滴定

(1)基礎分析化学

1回目:ガイダンスと分析化学の基礎知識    (定量、定性分析、精度と確度)

2回目:分析化学の基礎知識(各種濃度、ppm,ppb,ppt,ppq など)

3回目:活量、化学平衡、酸と塩基序論

4回目:pH(定義、強酸塩基のpH、弱酸塩基の塩のpH)、緩衝液

5回目:酸塩基(中和)滴定、沈殿滴定

6回目:キレ-ト滴定、酸化-還元滴定

7回目:ヨウ素滴定、溶媒抽出

錯滴定(キレ−ト滴定) (教科書 p49~)!

配位子 :非共有電子対を持つ(N, O, Sなどを含む)分子 (ligand) 配位結合により金属錯体(metal complex)が生成する。 二座配位子、三座配位子、多座配位子(キレ-ト配位子)

キレ-ト:2個以上の配位基を持つ配位子をキレ-ト試薬、     (chelate) 錯体をキレ-ト、その滴定をキレ-ト滴定と言う。

代表的な配位子 (p51, 表6.1)�

エチレンジアミン四酢酸(EDTA)

EDTAの錯形成平衡

エチレンジアミン四酢酸(EDTA)は 有名なキレ-ト配位子(試薬)である。 EDTAは四価の弱酸(H4Y, H3Y-, H2Y2-, HY3-, Y4-) EDTAそのものは水に難溶であるため、水溶性の二Na二水和塩(H2YNa2・2H2O)を通常用いる。

全生成定数 Mn+ + Y4- ⇔ MY(n-4)+ KMY(絶対生成定数)= [MY

(n-4)+]/[Mn+][Y4-] Mn+ + CY ⇔ MY

(n-4)+ K'MY(条件生成定数)= [MY(n-4)+]/[Mn+]CY

          (CY: H4Y, H3Y-, H2Y2-, HY3-, Y4- の 総濃度)

KMY = K'MY /α4 (α4 = [Y4-] /CY)

cf. 逐次生成定数(p54)

図6.1 各pHにおいて存在する EDTA化学種の割合�

α (モル分率)

= [解離種] /CY

Page 12: Kiso Bun Seki

12

EDTA滴定

EDTA金属錯体の生成定数が大きいほど、すなわち、金属キレ-トが安定なほど、終点での変化は大きくなり低いpHで滴定可能になる。

K’MY(条件生成定数) >1 X 105 であれば、キレ-ト生成反応は定量

的に(>99%)進行する。→ キレ-ト滴定可能

pHによって、α4(モル分率、[Y4-]/CY)が変化するので、

KMY = K'MY /α4 = 1 X 105/α4より大きいと、そのpHで該当する金

属イオンを定量できる。 例えば、pH=7.0においてα4 = 4.8 X 10

-4であり、KMY = 1 X 105 /

4.8 X 10-4 = 2 X 108以上であれば、該当する金属イオンがこのpHで滴定できる。

EDTA滴定の当量点(終点)確認   イオン選択性電極を用いる電位差測定(錯形成していない金属イオンの活量を選択的に求める)により当量点を検出できる。

 一般的には、金属指示薬が用いられる。 エリオクロームブラックT(Eriochrome Black T, BT) (H2InNa)が典型的な指示薬である。Mg2+(Ca2+)のEDTA滴定はpH10で行う。一般に、金属と指示薬の錯体は、金属と滴定試薬(EDTA)の錯体より10倍から100倍不安定である(生成定数が小さい)ことが多い。

 Mg2+  + H2Y2- → MgY2- + 2H+  (Mg2+でとEDTAの錯形成反応)

 MgIn- + H2Y2- → MgY2- + HIn2- + H+ (当量点付近での金属指示薬の反応)

 (赤) (無色)  (無色) (青)

KMg KIn

 Ca2+もMg2+と同様、エリオクロームブラックTと錯体を作るが、 かなり不安定であるので、明確な終点を与えない。この時、既知量のMg-EDTA錯体を加えて、生じたMgIn-(赤)を用いて滴定する。

 指示薬として,カルマガイトやキシレノールオレンジなどもある。

 Ca2+選択性の高いキレ-ト試薬として、エチレングリコール(β- アミノエチルエーテル)-N,N,N',N'-四酢酸(EGTA)がある。

直接滴定法   M + Y → MY  MIn- + Y → MY + In-

逆滴定法  M + excess Y → MY + rest Y  rest Y + In + M' → M'Y  In + M'→ M'In   適当な指示薬やpH条件が見当たらない、あるいは対象金属の キレ-ト生成反応が遅い場合。

間接滴定法  2Ag+ + Ni(CN)4

2- → 2Ag(CN)2- + Ni2+ の錯形成反応と併用し て、遊離のNi2+をキレ-ト滴定することにより、間接的にAg+を 定量する。

酸化還元

電気化学セル 酸化:電子を奪う  還元:電子を与える  酸化還元反応(oxidation-reduction reaction)は、  総称して”redox”(リー・ドックス)reactionといわれる。

 酸化が起こる方の電極が陽極(anode)であり、還元が起こる方の電極が陰極(cathode)である。

水の電解   陰極で 2H+ + 2e- → H2 が起こり、

 陽極で 4OH- - e- → O2 + 2H2O が起こる。

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基準水素電極(NHE,Normal Hydrogen Electrode)    2H+ + 2e- ⇔ H2  (H

+の標準電位 = 0 Vとする。)  H+(1M)│H2│Pt (25℃、水素ガス1気圧、H

+の活量 = 1 M)

標準電極電位(酸化還元電位)(E0)  半反応(還元反応)の基準水素電極に対する電位(p61, 表7.1)

 標準電位が”正”の場合、酸化還元対の酸化体が、H+より強い 酸化剤となる。 標準電位が”負”の場合、酸化還元対の還元体が、H2より強い 還元剤となる。

標準電極電位 (酸化還元電位) (E0) vs.NHE

 基準水素電極(NHE)の取り扱いが簡便でないので、カロメル電極や銀-塩化銀電極が、基準電極として、よく用いられる。  (p62, 表7.2)

電極(酸化還元)電位 [見かけ電位、ネルンスト(Nernst)の式]

  E = E0 + (RT/nF)ln(aox/ared) 活量依存性!   Mn+ + ne- → M の還元反応で,金属Mは1Mとするので、   E = E0 + (RT/nF)ln aMn+ と表せる。

  E' (条件電位) = E0 + (RT/nF)ln([ox]/[red]) 通常は、E = E'として差し支えない。    (活量と濃度が同じであれば)

見かけ電位  酸化還元の標準電位(Eo)は、すべての化学種が1Mの場合に相当する。酸などが存在すると、金属イオンが錯体などを形成して、実質的な金属イオン活量を低下させるので標準電位も変化する。その場合、見かけ電位(E')を用い、特定の条件で1Mの酸化型と還元型を含む電位を表す。例えば、1M HCl中のCe4+/Ce3+対の見かけ電位は1.28Vである。

酸化還元反応[2つのredox(半反応)系を混ぜた場合の反応]

  半反応の標準電位の差が正の場合、E0の大きい半反応の酸化体がE0の小さい半反応の還元体を”自発的に”酸化する。

  つまり、電極反応において、その半反応の標準電位の差(ΔE0)と自由エネルギーの関係は次のようになる。  ΔGo=-nF(ΔE0)  ΔE0が正、すなわち負のΔGo(自由エネルギー変化)の場合、自発的な反応が起こる。

例  Ce4+ + e- → Ce3+ E0 = 1.695 V    Fe3+ + e- → Fe2+ E0 = 0.771 V   1.695 - 0.771 = + 0.924で正の値で,ΔGoは負になるので、Ce4+は Fe2+を自発的に酸化することになる。(二つの半反応を組み合わせた場合、標準還元電位が大きい半反応(還元反応)が起こり、小さい半反応は逆反応(酸化反応)が起こる。)

酸化還元平衡

  Ox1 + n e- → Red1 E1

0 Ox2 + m e

- → Red2 E20

m Ox1 + n Red2 ⇔ m Red1 + n Ox2

K(平衡定数) = ([Red1]m[Ox2]

n)/([Ox1]m[Red2]

n)

ΔE0 = E10 - E20 = (RT/mn)log{([Red1]

m[Ox2]n)/([Ox1]

m[Red2]n)}    

= (RT/mn)logK

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酸化還元滴定の条件

m=n=1の場合

  Ox1 + Red2 ⇔ Red1 + Ox2

K(平衡定数) = ([Red1][Ox2])/([Ox1][Red2])

 ΔE0 = RT log{([Red1][Ox2])/([Ox1][Red2])} = RT logK = 0.0591 logK (at 25℃)

 定量的(99.9%以上)に進行するためには、K = 1 X 106 (99.9 X 99.9/0.1 X 0.1)以上であればよく、ΔE0が0.355 V(0.0591 X 6)以上であればよい。  たとえば、 Fe2+(0.1M) + Ce4+ (0.08M, 25mL) ⇔ Fe3+ + Ce3+ の反応(Ce4+をFe2+で滴定)では、電位差は0.766V[E0(Ce)=1.44V, E0(Fe)]=0.674)でK= 9.1 X 1012であり、完全に反応は右に進む。

酸化還元滴定の当量点(終点)の検出

 電位変化の追跡で急激な電位変化が確認できる。

 たとえば、 Fe2+ + Ce4+ → Fe3+ + Ce3+ の反応では、 Eeq (当量点電位) = (1.44 + 0.674)/2 =1.06 V [E0(Ce) = 1.44 V, E0(Fe)=0.674 V] が終点である。

M1とM2をm:nで混合した場合の酸化還元反応の当量点電位      Eeq = (nE1

0 + mE20) / (m + n)

酸化還元指示薬

a.自己指示法   MnO4

- + 8H+ + 5e- → Mn2+ + H2O  (赤紫色)   (ほとんど無色)  酸化、還元試薬そのものが着色している場合、そのものの生成や消滅によって終点が判明する。   例:過マンガン酸イオン

b.でんぷん指示薬法  I2-でんぷん反応により青色を呈するので、ヨウ素滴定の指示薬として用いられる。 ヨウ素の半反応、I3- + 2e- → 3 I- において、I3-(I2)は酸化剤、 I-は還元体として作用する。I3-がデンプンに包接され深青色に呈色する。

c.酸化還元指示薬   電位によって酸化/還元が起こり、酸化型と還元型で色が異なる場合、指示薬として用いることができる。酸化還元滴定の等量点電位付近の電位で酸化還元が起こる標準電位を持たねばならない。   たとえば、フェロイン、[トリス(1,10-フェナントロリン)鉄(II)硫酸]は還元型が赤色、酸化型が淡青色(標準電位は1.06V) であり、Ce(IV)を用いる滴定に有効である。

  Fe3+錯体 + e- → Fe2+錯体    青       赤

  Fe2+ + Ce4+ → Fe3+ + Ce3+ の当量点電位 Eo =1.06Vで色の変化が見える。

滴定例(ヨウ素滴定以外)(教科書p67)

 a. 過マンガン酸カリウム法(自己指示薬)    MnO4

- + 8H+ + 5e- → Mn2+ + H2O  E0 = 1.51 V (酸性)

 (赤紫色)   (ほとんど無色)

鉄アンミン錯体、シュウ酸ナトリウム、亜硝酸カリウムの 滴定

 b. 二クロム酸カリウム法(指示薬が必要)    Cr2O7

2- + 14H+ + 6e- → 2Cr2+ + 7H2O E0 = 1.33 V

エタノール、硫酸第一鉄、ヨウ化カリウムの滴定

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要点!

・錯形成平衡!・キレ−ト滴定!・酸化還元平衡!・酸化還元滴定

(1)基礎分析化学

1回目:ガイダンスと分析化学の基礎知識    (定量、定性分析、精度と確度)

2回目:分析化学の基礎知識(各種濃度、ppm,ppb,ppt,ppq など)

3回目:活量、化学平衡、酸と塩基序論

4回目:pH(定義、強酸塩基のpH、弱酸塩基の塩のpH)、緩衝液

5回目:酸塩基(中和)滴定、沈殿滴定

6回目:キレ-ト滴定、酸化-還元滴定

7回目:ヨウ素滴定、溶媒抽出

ヨウ素滴定(代表的な酸化還元滴定)(教科書p68)

a.ヨウ素酸化滴定(iodimetry)

 還元体 + I3- → 酸化体 + I-     I2(I3-)は,中程度の酸化剤であるので、還元剤の定量に使用できる。  I3- + 2 e- → 3I- (0E = + 0.5355 V)

 通常、弱い酸性溶液に対して、中性またはアルカリ性(pH8)のI2溶液(KI水溶液のI2を溶かして、I3-)で行われる。(直接滴定法)  ヨウ素酸化滴定(ヨージメトリー)の例:チオ硫酸ナトリウム、亜砒酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、硫化水素などの還元性物質 (p.68) 例  2Na2S2O3 + I2 → Na2S4O6 + 2NaI

cf. ヨウ素還元滴定(iodometry)

b.ヨウ素還元滴定(iodometry)

 I-は弱い還元剤であるので、強い酸化剤を還元する。  過剰のI-を加え酸化体をすべて還元し、遊離するI2(I3

-)を チオ硫酸ナトリウムで逆滴定する。(間接滴定法)

 Cr2O72- + 6I- (過剰) + 14H+ → 2Cr3+ + 3I2 + 7H2O

ヨウ素還元滴定(ヨードメトリー)の例: 硫酸銅、二クロム酸カリウム、過マンガン酸カリウム、過臭素酸カリウムなどの酸化性物質(その他 H2O2, ClO-, SbO4, [Fe(CN)6]

3-なども) (p.69) 例  2CuSO4 + 4KI → 2CuI + I2 + 2K2SO4

溶媒抽出(液-液抽出)(教科書p71)

  水と水に混じらない有機溶媒(表8.1)を振り混ぜると、二相間で化学種の分配平衡が成り立つ。比重によって、有機溶媒が上下相いずれかになる。

分配定数(分配係数)(KD)

  有機相(下付添字o,organic)と水相(下付添字a,aqueous)に 存在する物質の活量の比

  KD = ao / aa 

Ka = ([H+] [BzO-]) / [BzOH]!

KD = [BzOH] o / [BzOH] a または,[BzO-] o / [BzO-] a

酸解離性物質�

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分配比 (D)

  溶質が解離性の場合、系が複雑になる。例えば、安息香酸は水相中においてBzOH ⇔ BzO- + H+ のような解離平衡を持つ。当然、分配係数KD = [BzOH]o / [BzOH]aとなる。つまり、同一化学種の分配比になる。便宜上、全化学種(非解離、解離種、会合体なども含む)の濃度比を分配比で定義する。

  D = [BzOH]o / ([BzOH]a + [BzO-]a) = Co / Ca

  酸解離定数 Ka = ([H+]a[BzO

-]a) / [BzOH]a とすると、 分配係数と分配比の関係は、D = KD / (1 + Ka / [H

+]a) で表される。[H+]a 》Kaであれば、D = KD になる。

  定性的には、水相がアルカリ性では、安息香酸が解離し、有機層に分配しにくくなり、Dは小さくなることが理解できる。

抽出百分率(%E)

 溶質全体のモル数に対して有機層に分配された溶質のモル数。

 % E = l00 X CoVo / (CoVo + CaVa)  Vo : 有機相の体積、 Va: 水相の体積

 抽出百分率と分配比との関係は、  % E = 100 X D / {D + (Va/Vo)}で表される。  つまり、有機層の容積が大きい方が抽出%は大きくなる。  Va = Voならば、  % E = 100 X D / (D + 1)

 D<0.001の時、抽出百分率は0.1%以下でほとんど抽出されないことになるし、逆にD>1000ならば、定量的(>99.9%)に抽出されることになる。

金属イオンの溶媒抽出

 金属イオンは、一般に水溶性であり、有機層に抽出するには 脂溶性を金属イオンに付与しなければならない。

a. イオン会合錯体  イオンの脂溶性を増大させるために脂溶性の大きい対イオンと イオン会合体を形成し、有機層に抽出する。

 A+ + B- →  A+ B- (A+、 B-のいずれかが脂溶性であればよい。)  (水相)    (有機相)

 脂溶性の大きいアニオン:テトラフェニルホウ素イオン(Ph4B-)

 脂溶性の大きいカチオン:四級アンモニウムイオン(R4N+)、

           テトラフェニル砒素イオン(Ph4As+)

b. 金属キレ-ト(金属-配位子錯体)   金属イオンが有機(脂溶性)の配位子と錯体を形成することにより脂溶性が増し、有機層に分配しやすくなる。

ジチゾン プロトン解離条件下、 PhNHNHC(S)N=NPhはPb2+などの金属イオンに配位し、電荷のない錯体を生成し、有機層に抽出される。この際ジチゾンは緑色から赤色に変化するために、吸光光度定量できる。水相のpHによって金属イオンの選択性が支配される。(Hg2+はpH1でも抽出される。)

イオン選択性: Hg2+ > Ag+ > Cu2+ > Bi3+ > Sn2+ > Pb2+ > Zn2+ > Tl+ > Cd2+

+ 2 H+

クラウンエーテルは、 アルカリおよびアルカリ土類金属 イオンの優れた抽出剤になる。

Page 17: Kiso Bun Seki

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抽出平衡 (教科書、p75)

  D = { KD,MLn・Kf Kan・[HL]on } / { KD,HLn ・[H+]an }  

 または、    D = Kex・([HL]on / [H+]an)!  log D = log Kex + n log[HL]on + n pHa

KD,MLn:金属錯体の分配係数、 KD,HLn:配位子の金属錯体の分配係数、Kf:錯体の安定度定数、Ka:配位子の酸解離定数、[HL]o:有機層の配位子濃度、[H+]a:水相のプロトン濃度、Kex:抽出平衡定数( [M+]a + n[HL]o ⇔ [MLn]o + n[H+]a の水-有機相界面の平衡)

  Dは([HL]on / [H+]an)に比例する。すなわち、金属錯体の抽出は、有機層の配位子濃度と水相のpHで決まる。

金属イオン間の抽出の分離係数(S)   二種類の物質M1のM2が競争的に分配する抽出系を考えると、   S = D1 / D2 = {Kf(1) KD,MLn(1)} / {Kf(2) KD,MLn(2)}となり,分離係数(選択性の指標)は錯体の安定度定数と分配係数の積の比で決まる。

  分離係数 S>104で完全分離(M1の99%以上が有機相、M2の99%以上が水相に残存する。)

効率的な抽出 n回の抽出で水相中の抽出されない残量の割合(Fn)および濃度(Wn)は、

  Wn= W0{Va / (DVo + Va)}n、Fn ={ Va / (DVo + Va) }

n    W0:水相の初濃度

  少量の有機溶媒で多数回繰り返して、抽出効率を上げる。   (Fn 、 Wnを小さくする) →   向流分配:多段階抽出を連続的に行う方法

マスキング(Masking)(教科書p76)

  金属キレ-ト抽出で選択性を改善するために、EDTAやCN-などのマスキング剤(水溶性の配位子で、これと錯体形成する金属イオンは水相に残る。)を使用する。

  例:Cu2+ / VO2+混合系中のVO2+の抽出において、Cu2+をマスキングするためにEDTAを用いる。

(2)機器分析化学

8回目:組成、状態、表面、分離分析概論、 分子スペクトル分析I (吸光、蛍光)

9回目:分子スペクトル分析II (赤外吸収、ラマン)

10回目:原子スペクトル分析(原子吸光、炎光分析、発光)     および質量分析

11回目:電気化学分析及び化学センサー

12回目:クロマトグラフィー

13回目:X線・電子線分析

14回目:復習、研究紹介

15回目:最終試験