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日皮会誌:103 (6), 805-813, 1993 (平5) Hermansky-Pudlak症候群の1例 木村 定勝1) 宰市1) 39歳の女性.出生時より全身性白皮症,幼少時より 打撲傷等で易出血性を呈し,時折,鼻出血,外傷によ る止血困難を認めていた.平成3年n月25日,変治唇 裂の修正手術目的にて当学形成外科に入院し,その際, 日光過敏を伴う全身性の白皮症を指摘され精査目的に て当科紹介となる.精査の結果,出血時間の延長,血 小板の二次凝集異常を認めた.胸骨骨髄検査で,HE染 色にてマクロファージ系細胞内に黄褐色に染まる穎粒 の沈着を認めた.これらの物質はOil red染色にて淡 赤色, SSB染色にて黒色, Giemsa染色, Nile Blue 染 色にて青緑色, Berlin-Blue染色にて陰性を呈しCer- oid様物質と同定された.このCeroid様物質は骨髄の マクロファージの他にリンパ球,単球にも認められた. 患者毛髪によりhair bulb incubation testで毛包部は 黒染し,チロジナーゼは陽性.露光部皮膚の電顕的観 察では第IV期メラノソームを認めず,メラノソームの メラニソ化不全を認めた.以上より自験例を Hermansky-Pudlak症候群チロジナーゼ活性陽性型 と診断した. 本症候群の本態はいまだに充分に解明されていない が,現在,ラインブームの機能異常によるとする説が 有力である.自験例において限界膜に囲まれたCeroid 様物質が骨髄のマクロファージの他に単球およびT リンパ球にも認められたことは,本症候群の本態がラ インブームの機能異常によることを示唆するものと考 えた. はじめに Hermansky-Pudlak症候群(以下HPSと略す)は, 1959年にHermanskyとPudlak1)により報告され,① 1)岩手医科大学医学部皮膚科(主任 宰市教 授) 2)同 第3内科 3)同 第2病理 平成4年8月3日受付,平成4年11月20日掲載決定 別刷請求先:(〒020)盛岡市内丸19- 1 岩手医大皮 膚科学教室 康記1) 信一郎2) 松田 佐熊 真弓1) 勉3) 全身性白皮症(oculocutaneous albinism),②血小板 機能異常による出血傾向,③骨髄にCeroid様物質を 含有する細網内皮系細胞の存在を3主徴とする常染色 体劣性遺伝性疾患である.自験例を報告するとともに 本邦報告例を紹介し若干の文献的考察を行う. 患者:39歳,女性. 家族歴:父方の祖父母がいとこ結婚.妹に白皮症を 認めるが,出血傾向にっいては不明である. 現病歴:幼少時より打撲等で易出血性を呈し,時折, 図1 臨床像.口唇裂を合併している 図2 臨床像.捷毛は白毛を呈し,眉毛, ている. 毛髪は染め
9

Hermansky-Pudlak症候群の1例drmtl.org/data/103060805.pdfHermansky-Pudlak症候群 図5 末梢血リンパ球のCeroid様物質(矢印)....

Mar 15, 2021

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Page 1: Hermansky-Pudlak症候群の1例drmtl.org/data/103060805.pdfHermansky-Pudlak症候群 図5 末梢血リンパ球のCeroid様物質(矢印). 既往歴:出生時より,右上口唇裂を認め昭和27年,昭和39年にそれぞれ修正手術を施行されているが,こ

日皮会誌:103 (6), 805-813, 1993 (平5)

Hermansky-Pudlak症候群の1例

木村

定勝1)

宰市1)

          要  旨

 39歳の女性.出生時より全身性白皮症,幼少時より

打撲傷等で易出血性を呈し,時折,鼻出血,外傷によ

る止血困難を認めていた.平成3年n月25日,変治唇

裂の修正手術目的にて当学形成外科に入院し,その際,

日光過敏を伴う全身性の白皮症を指摘され精査目的に

て当科紹介となる.精査の結果,出血時間の延長,血

小板の二次凝集異常を認めた.胸骨骨髄検査で,HE染

色にてマクロファージ系細胞内に黄褐色に染まる穎粒

の沈着を認めた.これらの物質はOil red染色にて淡

赤色, SSB染色にて黒色, Giemsa染色, Nile Blue 染

色にて青緑色, Berlin-Blue染色にて陰性を呈しCer-

oid様物質と同定された.このCeroid様物質は骨髄の

マクロファージの他にリンパ球,単球にも認められた.

患者毛髪によりhair bulb incubation testで毛包部は

黒染し,チロジナーゼは陽性.露光部皮膚の電顕的観

察では第IV期メラノソームを認めず,メラノソームの

メラニソ化不全を認めた.以上より自験例を

Hermansky-Pudlak症候群チロジナーゼ活性陽性型

と診断した.

 本症候群の本態はいまだに充分に解明されていない

が,現在,ラインブームの機能異常によるとする説が

有力である.自験例において限界膜に囲まれたCeroid

様物質が骨髄のマクロファージの他に単球およびT

リンパ球にも認められたことは,本症候群の本態がラ

インブームの機能異常によることを示唆するものと考

えた.

           はじめに

 Hermansky-Pudlak症候群(以下HPSと略す)は,

1959年にHermanskyとPudlak1)により報告され,①

1)岩手医科大学医学部皮膚科(主任 昆  宰市教

授)

2)同 第3内科

3)同 第2病理

平成4年8月3日受付,平成4年11月20日掲載決定

別刷請求先:(〒020)盛岡市内丸19- 1 岩手医大皮

膚科学教室

 康記1)

信一郎2)

松田

佐熊

真弓1)

 勉3)

全身性白皮症(oculocutaneous albinism),②血小板

機能異常による出血傾向,③骨髄にCeroid様物質を

含有する細網内皮系細胞の存在を3主徴とする常染色

体劣性遺伝性疾患である.自験例を報告するとともに

本邦報告例を紹介し若干の文献的考察を行う.

          症  例

 患者:39歳,女性.

 家族歴:父方の祖父母がいとこ結婚.妹に白皮症を

認めるが,出血傾向にっいては不明である.

 現病歴:幼少時より打撲等で易出血性を呈し,時折,

図1 臨床像.口唇裂を合併している

図2 臨床像.捷毛は白毛を呈し,眉毛,

 ている.

毛髪は染め

Page 2: Hermansky-Pudlak症候群の1例drmtl.org/data/103060805.pdfHermansky-Pudlak症候群 図5 末梢血リンパ球のCeroid様物質(矢印). 既往歴:出生時より,右上口唇裂を認め昭和27年,昭和39年にそれぞれ修正手術を施行されているが,こ

806 本村 定勝ほか

図3 血小板凝集検査.左:ADP,右l collagen. ADPによる一次凝集と二次凝集の

 解離, Collagenによる凝集異常を認める.

鼻出血,外傷による止血困難を認めていた.昭和55年

に歯周炎の治療中,止血困難を認め,救急センターを

受診し,諸検査の結果,血小板の数は正常である旅

機能異常の疑いがあることを指摘され,手術時におけ

る大出血の危険性について説明を受げたことがある.

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昭和60年頃より過多月経を認めている.平成3年11月

25日,右上口唇裂(変治唇裂.)の修正手術目的にて岩

手医科大学形成外科に入院し,その際日光過敏症を伴

う全身性の白皮症を指摘され,精査目的にて当科紹介

となる.

011

SI・

図4 胸骨骨髄塗沫標本におけるマクロファージ系細胞内のCeroid様物質

Page 3: Hermansky-Pudlak症候群の1例drmtl.org/data/103060805.pdfHermansky-Pudlak症候群 図5 末梢血リンパ球のCeroid様物質(矢印). 既往歴:出生時より,右上口唇裂を認め昭和27年,昭和39年にそれぞれ修正手術を施行されているが,こ

Hermansky-Pudlak症候群

図5 末梢血リンパ球のCeroid様物質(矢印).

 既往歴:出生時より,右上口唇裂を認め昭和27年,

昭和39年にそれぞれ修正手術を施行されているが,こ

の際の出血傾向についての記載は不明である.昭和48

年,右脛骨骨折の修正手術の際,昭和55年頃,歯科治

療の際に出血傾向を指摘されている.

 現症:頭髪,眉毛,隨毛,その他の体毛は出生時よ

り金髪であり,現在,頭髪,眉毛は染めている.全身

の皮膚は白色(図1, 2)を呈し,瞳孔は青色で,両

眼先天性水平性眼振,弱視,網脈絡膜炎,左内斜視を

認める.皮膚に出血斑を認めず,口腔,鼻腔に異常所

見を認めない.心音は正常,呼吸音は清明,腹部は平

担で神経学的に異常を認めない.

 臨床検査成績:血液検査一般で赤血球数,ヘモグロ

ビソともに正常範囲内で貧血は認めない.白血球数,

分画とも正常範囲内である.血小板数は27.6×104/μI

と正常範囲内である.血液生化学,血清,尿一般に異

常所見は認められない.血液凝固系では,出血時間が

Duke法で4分とやや延長, Ivy法で23分と延長,

Rumplel-Leede試験陽性を示した. PRP透過法によ

る血小板凝集検査では,血小板自然凝集は殆ど認めら

れず, ADPによる一次凝集と二次凝集の解離,コラー

ゲンの凝集異常を認める(図3).血餅収縮率,血小板

停滞率,プロトロソビソ時間,部分トロソボプラスチ

ソ時間等には異常所見を認めない.細胞性免疫,液性

免疫とも正常範囲内である.その他,呼吸機能検査に

も異常所見を認めない.G分染法による染色体分析で

は, 46XX正常核型で,欠失,転座等は認めない.さら

807

]ノ

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図6 末梢血の血小板. Dense granuleの減少をみる

 (矢印).

に胸骨骨髄塗沫標本のHE染色ではマクロファージ

系細胞内に黄褐色に染まる穎粒の沈着を認め,これら

の物質はPAS染色, Sudan III染色,011 red染色に

て淡赤色, Sudan Black B染色にて黒色, Giemsa染

色, Nile Blue 染色にて青緑色, Berlin-Blue染色にて

陰性を示し(図4),さらには未染色標本の蛍光顕微鏡

下による観察では自家蛍光を発し, Ceroid様物質と同

定した.これらの物質を電顕的に観察すると,一層の

限界膜で取り囲まれたhigh dense granuleとlow

dense granuleから構成されていた. Ceroid様物質は

末梢血のリンパ球,単球の電顕的観察でも認められ,

特に単球ではCeroid様物質は限界膜で取り囲まれた

ラインブームの中に認められた(図5).また免疫電顕

にてCeroid様物質を含有するリンパ球はTリンパ球

であると同定した.血小板の電顕的観察ではdense

granuleの減少が観察された(図6).患者毛髪による

hair bulb incubation testでは,毛包部は黒染し,チ

ロシナーゼ活性は陽性を示した2)(図7).さらに露光

部皮膚の電顕的観察では,メラノサイト内のノラノ

ソームの減少を認め,第IV期ノラノソームを認めず,

I~III期までのフェオメラノソーム様のメラノソーム

が主体であった(図8).

 以上より,①出生時より認められていた

Oculocutaneous albinism, ②出血時間の軽度延長と血

小板の機能異常,③骨髄の細網内皮系細胞のCeroid

様物質の沈着を認めたことより,自験例をHPSと診

断した.

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808 本村 定勝ほか

図7 Hair bulb incubation test.0.09%L一チr=・ジソ溶液(O.IM燐酸緩衝液, pH6.8)

 に4°C,14時間浸積し,さらに新鮮同様液に37°'C,24時間浸積.対照として毛球部を

 緩衝液のみに同様の方法で浸積,比較.

図8 患者皮膚表皮ノラノサイトの電顕像.

           考  察

 HPSは常染色体劣性遺伝性疾患の一つで,肺,腎,

消化管等,種々の臓器の機能障害を伴ト,多彩な病変

を呈し,これまで世界で200症例を越す報告3)がなされ

ている.本邦では著者らが検索したところでは, 1972

年にMurakamiら4)が報告して以来,現在まで48症例

(表1)の報告があり,比較的まれな疾患であると考え

える.これらは主に呼吸器科からの報告で皮膚科領域

からの報告は少なく, 1985年にOsadaら5)が最初に報

告して以来,自験例を含めて数症例の報告があるのみ

である.

 HPSに伴うalbinismは,Oculocutaneous albinism

型を呈し,チロジナーゼ活性陽性型と陰性型に分げら

れ,前者が多いとされる3).チロジナーゼ活性陰性型は

ピソク色の皮膚,白色の毛,水平性眼振,羞明,視力

低下等を出生時より有し,一生を通じて不変であり,

臨床症状に人種差はないとされる.組織学的にノラノ

サイトの分布,数は正常であるが, dopa反応は陰性で,

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       Herm ansky-Pudlak症候群

表1 本邦におけるHermansky-Pudlak症候群報告例

809

報告者 年度 年齢・性 家 族 歴 白皮症 出血傾向 セロイド 頼粒

肺繊維症 その他の合併症

1

2

3

4

5

6

7

8

9

10

n

12

13

14

15

16

17

18

19

20

21

22

23

24

25

26

27

28

29

30

31

32

33

34

35

36

37

38

39

40

41

42

43

44

45

46

47

48

村上ら4)

山田18)

森ら19)

田上ら2o)

福井ら2u

 々柴田ら22)

小池ら23)

瀬尾ら24)

遠藤ら25)

吉田ら26)

 々

筒井ら27)

 z/中俣ら28)

松本ら29)西村ら3o)

千治松ら31)

杉田ら32)

深山ら33)

長田ら5)

鎌刈ら3‘)

篠原ら35)

 々比留間ら36)

喜星ら37)

西村ら38)

倉島ら39)矢野ら4o)

竹重ら16)

池上ら41)

鈴木ら42)

北島ら4幄拓)

大木ら14)

見元ら44)

吉川ら45)

徳光ら46)

中野ら47)

 々

木村ら48)

大林ら49'大塚ら5o)

北島ら15)

藤野ら回

自験例

1972

1974

1979

1979

1979

 z/

1980

1981

 々

1981

1981

1982

 々

 々

1982

 々

1982

1983

1983

1984

1984

1984

1985

1985

1985

 々

 々

1985

1985

1985

1986

1986

1986

1987

1988

1988

1988

1988

1988

1989

1989

 々

1990

1990

1990

1990

1991

1992

12 吉

11 舎

24 ♀

14 ♀

10 舎

? 古

 4 吉

13 ♀

10 古

34 吉

51 ♀

 8 ♀

 1 吉

34 告

46 ♀

? ?

38 吉

24 ♀

32 舎

33 吉

24 吉

37 ♀

15 ♀

47 古

42 ♀

28 ♀

33 吉

42 ♀

34 害

32 吉

54 ♀

35 古

17 ♀

36 告

37 害

55 ♀

47 害

38 古

39 ♀

43 ♀

55 ♀

43 ♀

38 害

39 告

39 舌

32 ♀

39 告

39 ♀

両親いとこ結婚

     ?

母の妹に出血傾向

両親いとこ結婚

症例6の同胞

症例5の同胞

父のいとこに白皮症

両親いとこ結婚

両親またいとこ結婚

    なし

     ?

症例13の同胞

症例12の同胞

     ?

症例16の同胞

症例15の同胞

両親いとこ結婚

姉が白皮症

両親いとこ結婚

    なし

     ?’

両親いとこ結婚

両親いとこ結婚

    なし

     ?

     ?

     ?

両親はとこ結婚

     ?

両親いとこ結婚

両親近親結婚

両親いとこ結婚

両親いとこ結婚

両親血族結婚

     ?

両親血族結婚

両親いとこ結婚

     ?

     ?

    なし

症例15の同胞

両親血族結婚

血族結婚

     ?

両親いとこ結婚

両親いとこ結婚

両親いとこ結婚

父方の祖父母がいとこ結婚

RA

TX Synthetase欠損

慢性活動性肝炎

肺腺癌

気胸

T細胞系の免疫異常

チロジナーゼ活性は認められない.電顕的には第1・

2期メラノソームのみで第3・4期メラノソームを認

めず,またメラノソームの大きさも正常と比較して小

さく,内部構造も正常と異なり,不規則な線組様構造

を呈するなどの奇形を示すものが多い6)7)本型は先天

的にメラノサイトの酸化酵素であるチロジナーゼの機

能不全あるいは欠損によって生ずる8).チI=1ジナーゼ

活性陽性型は,皮膚の色,毛,眼の色の程度は様々で

あり,人種差も存在する8).出生時,すでに症状を呈し

て仏加齢とともに着色する傾向をもつ.木型では生

体内メラノサイトに,チロジナーゼは存在するが,こ

の酵素活性は抑制されている点が陰性型との相違点で

Page 6: Hermansky-Pudlak症候群の1例drmtl.org/data/103060805.pdfHermansky-Pudlak症候群 図5 末梢血リンパ球のCeroid様物質(矢印). 既往歴:出生時より,右上口唇裂を認め昭和27年,昭和39年にそれぞれ修正手術を施行されているが,こ

810 木村 定勝ほか

ある8).このようにHPSに伴うalbinismは表皮,毛母

ノラノサイトの数的減少はないが,チロジナーゼの欠

損あるいは活性の抑制により,ノラニソ色素の産生が

傷害されることに起因すると考えられており9),さら

には電顕的にyラノソームの形態異常,ノラニソ化不

全を認め,正常な成熟ノラノソームがみられないこと

により確認される.自験例では,臨床的に出生時より

あまり改善傾向を認めないoculocutaneous albinism

を示し,皮膚の電顕所見においてメラノサイト中のメ

ラノソームの減少と,第IV期ノラノソームを認めず,

I期からIII期までのフェオメラノソーム様の球状のメ

ラノソームを主体とし,また新鮮なhair bulbをチロ

ジソ溶液に浸す.いわゆるhair bulb incubation test

において陽性を示し,チロジナーゼ陽性型と診断した.

 本症候群の出血傾向は,血小板機能異常,すなわち

血小板中のdense granule, lysosomeなどの穎粒の先

天的欠損,または減少により,放出反応が障害される

ことによって起こるstrage-pool diseaseがその本態

とされている10)11)これにより血小板のコラーゲン,

ADP,エピネフィリソ,リストセチソなどによる2次

凝集の阻害と粘着能の抑制を認める.自験例において

も血小板敷は正常で,臨床的には明瞭な出血傾向は認

められなかったが,出血時間の延長,ADPにより一次

凝集と二次凝集の解離を認め,コラーゲンにより凝集

異常を示し, strage pool dsease の存在を確認した。

 HPSでは,種々の絹網内皮系組織にCeroid様物質

の沈着を認める. Ceroid様物質は組織化学的にoil

red染色などの種々の脂肪染色に陽性所見を呈し,血

小板機能異常により繰り返し起こる小出血のため,赤

血球や血小板に含まれる不飽和多価脂肪酸が生産さ

れ,過酸化作用により生じるものと推測されてい

る12)13).HPSの合併症は,このCeroid様物質が肺・腎

などの主要臓器に沈着することに起因し表Iに示すご

とく種々の合併症を認めるが,中でも間質性肺炎を主

とする肺病変を全体の48症例中33症例(68.8%)に認

める.その他,慢性活動性肝炎14),T細胞系の免疫異

常15),Thromboxanesynthetase 欠損16)例等を認める.

死因および予後については, HPSの死亡37症例中16例

が間質性肺炎病変を主とする肺疾患に起因17)してお

                        文

 1) Hermansky, F., Pudlak P ; Albinism associat-

   ed with hemorrhagic diathesis and unusual

   pigmented reticular cells in the bone marrow :

   Report of two cases with histochemical studies,

り,肺病変合併の有無は本症の予後を大きく左右する.

上述のごとく肺病変合併例は48症例中33例にみられ

(68.8%),これらはすべて24歳以降の成人であること

から,自験例において乱現在肺病変は認めないが,

今後の長期にわたる経過観察の必要性が示唆される.

 HPSの3主徴が単一の病因に基づくものであるか

どうかいまだ充分に解明されていないのが実態であ

る.従来,本症の全身性白皮症と血小板機能異常は,

互いにlinkしやすい2つの遺伝子座の異常である52)

という見方がなされたが,両者は個別にも存在し,さ

らに同一家系内においても両者を単独で有する症例も

存在することから否定的である.また,ライソゾーム

異常を本症の病因の本態とする報告がある.すなわち

HPSの組織の電顕的検索からCeroid様物質の集積

が,膜結合構造と関連して認められ,この膜結合構造

は,ライフブームを示唆しているという根拠からであ

る9)53)しかし,HPS症例の白血球中10種類のライソ

ゾーム関連酵素活性を調べた結果,対照群と有意な差

がなく,ライソゾーム酵素に異常がなかったとの報告

もなされており54)判然していない.一方,腎にCeroid

様物質の沈着を認めたHPS症例の尿中に,ライソ

ゾームの膜成分であるドリコール55)が,増加しライソ

ゾームの膜合成過程に障害を示唆する報告もある56)

自験例においてCeroid様物質が骨髄のマクロフージ

の他に単球およびTリンパ球にも認められ,ことにリ

ンパ球,単球では限界膜で囲まれたライソゾーム内に

認められたことは,本症候群の本態が,ライソゾーム

の機能異常によることを示唆するものと考えられる.

          おわりに

 自験例は,①Oculocutaneous albinism, ②血小板

の機能異常,③骨髄の絹網内皮系細胞のCeroid様物

質の沈着を認め, HPSの典型例であり,チロジナーゼ

活性陽性型を示した.本症候群の合併症としてT細胞

の免疫異常15)肉芽腫性大腸炎57)などの免疫系の異常

を示唆する報告もみられる.自験例では機能的な免疫

異常は認めないが, Ceroid様物質が単球およびTリ

ンパ球のライソゾームにも認められており,このこと

は単球およびリンパ球の機能異常を引き起こす可能性

を示唆するとのと考えられ,今後の検討が必要である.

   Blood, 14: 162-169,1959.

 2) Kugelman TP, Van Scott EJ: Tyrosinase

   activityin melanocytes of human albinos./

   InvestDen

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Hermansky-Pudlak症候群

 3) Witkop CJ Jr, Quevedo vc, Fitzpatrick TB :

  Albinism and other disorders of pigment metab-

  olism. The metabolic basis of inherited disease.

  (Stanbury JB, Wyngaarden JB, Fredrickson

  DS, ed), McGraw-Hill, New York, pp283-316,

  1983.

 4) Murakami M, et al : Thrombo Diath Haemor-

  rh, 27 : 461, 1972.

 5)長田玲子,堀 嘉昭,栗原 淳,他:Hermansky-

  Pudlak症候群,皮膚臨床, 28(5):493-500, 1986.

 6)堀 嘉昭:汎発性白皮症における表皮および毛嚢

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Page 8: Hermansky-Pudlak症候群の1例drmtl.org/data/103060805.pdfHermansky-Pudlak症候群 図5 末梢血リンパ球のCeroid様物質(矢印). 既往歴:出生時より,右上口唇裂を認め昭和27年,昭和39年にそれぞれ修正手術を施行されているが,こ

812 木村 定勝ほか

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Hermansky-Pudlak症候群

            A Case of Hermansky-Pudlak Syndrome

       Sadakatsu Kimura, Yasuki Mori, Mayumi Matsuta, Saiichi Kon1),

             Shinichiro Kuriya2)and Tsutomu SakUma3)

1)Departmentof Dermatology, School of Medicine, Iwate Medical University, Morioka, Japan (Prof. S. Kon)

       2)Departmentof Medicine Ill, School of Medicine, Iwate Medical University

       3)Department of Pathology 11, School of Medicine, Iwate Medical University

        (Received August 3,1992; accepted for publication November 20,1992)

813

  We reported a typical case of Hermansky-Pudlak syndrome involving a 39-year-old woman. At birth she had

leucoderma, gray hair and hemorrhagic diathesis. She was hospitalized and received medical treatment for acleft

lip. Ceroid-like materials were identified in macrophages and lymphocytes of the bone marrow by Suddan m and oil

red stainings。

  Electron microscopically these materials had a limited membrane in the lysosome. A lumi-aggregometer

showed the defect of asecond platelet aggregation. Hair bulb-incubation test revealed apositive tyrosinase activity.

By electron microscope, a melanosome in the stage IV was not observed in melanocytes of the skin, and almost a11

melanosomes were like pheomelanosomes. From these clinical laboratory, and pathological findings, this case is

diagnosed as tyrosinase-positive oculocutaneous albinism. We suggest that this disease is due to the functional

abnormality of the lysosome from our electron microscopical observation。

  apn J Dermatol 103: 805~813,1993)

Key words: Hermansky・Pudlak syndrome, tyrosinase, lysosome