88 恋愛ゲーム で、 東証一部上場 ~新卒でもヒットが出せる仕組みとは ? ~ 津谷祐司 ●代表取締役会長 東 奈々子 ●取締役副会長 新卒社員を即戦力化する"フォーマット "とは? ボルテージ また、ヒットにつなげる検討サイクルをフォーマットとして 規定しているのも同社の特徴だ。個々の問題解決のため には「A→Bフォーマット」という図を用い、改善確認には 「G−PDCAサイクル」という手法を用いる。Gは「ゴール」 の意味だ。これらのフォーマットに仕事の成果を載せていく ことで、社員の仕事の質が上がっていく。 津谷会長は「いいコンセプトには、きちんと本質がある。 フォーマットがあることで、その本質を浮き彫りにすること ができる。それが強みだ」と語る。 また、一部の例外を除き、恋愛コンテンツはあえて1日1 話しか進めない設定である点もミソ。15分程度で終わる1 話限定のほうが就寝前などにメールを打つ感覚で楽しめ、 格好の気分転換となるからだ。束の間の疑似体験を通じ、 女性たちに日々の疲れを癒す時間を提供しているのだ。 ヒット性を有したコンテンツをコンスタントに量産するため に、ボルテージが構築したゲーム作りのフォーマット。その一 例として挙げられるのは、女心を徹底分析した「恋愛コンテ ンツを作るためのバイブル(恋コンバイブル・左の写真)」を 社内で共有していること。同バイブルをもとに組み立ててい けば、新人でも「胸キュン」のコンテンツを生み出せる。 また、社内では独自の「3行企画書」が用いられている。 その形式に沿って記入すれば、若手社員の漠然としたアイ ディアがロジカルなものへと変換されていくという仕掛けだ。 さらに、ストーリーを作成するうえでは「三幕構造」を原点 とし、「恋愛と戦い(挑戦)のドラマ」をコンテンツ作りの基 本と位置づける。あらゆる映画において、「恋愛と戦い」が ストーリーの本質となっているからだ。映画作りの視点から コンテンツを作っている津谷会長ならではの発想だろう。 ※ボルテージが提供中の、携帯キャリア、公式月額サイト登録者数、SNSプラットフォーム向けソーシャルアプリ登録者数、 およびAppStore、GooglePlayで提供中のアプリのインストール数、各タイトルの合計数 『「胸キュン」で100億円』上阪徹著(KADOKAWA・ 価格1300円)は、ボルテージの創業から現在までの 成長の軌跡と、強さの秘密である「徹底的なマニュア ル作り」の現場をレポートした初の書籍。 帰宅後なのか、あるいは休日なのか。1人の若い女性がソファーでくつろいでいる。片手にはスマホを携え、どうやらゲームに興じているらしい。イマドキの女性の間では、日常的な光景だろう。そのような生活の1コマを彼女の頭上から撮影し、その写真を表紙に用いた書籍が2月末から書店の店頭に並んだ(右の写真)。センセーショナルなのは、こうしたビジュアルだけではない。「胸キュン」で100億円。これが同書籍のタイトルだ。興味を惹かれて手に取ってみると、次第にその真意がつかめてくる。「胸キュン」とは、スマホでプレイできる恋愛ゲームのことだった。しかも、それは女性向けに的が絞られたものだという。この女性向け恋愛ゲームを手掛けているのは、1999年9月創業のボルテージだ。2006年に第1弾をリリースし、以降は同ジャンルに特化。創業から15 年で年間100億円の売上高を稼ぎ出すまでに成長し、モバイル恋愛ゲーム会社として国内最大手の地位を確立した。海外に目を向けても、同ジャンルでここまでの売上高を誇る企業は他に例を見ないだろう。2011年には東証1部市場への上場を果たす一方、8年連続で「テクノロジーFast50 」を受賞し、史上最多獲得記録を保持している。累計で2600万人※ にも達する女性の心を捉え、業績を拡大させ続けてきた結果が客観的にも広く認められているわけだ。ボルテージの快進撃はゲーム制作のフォーマット化がもたらしたものだ。新卒でもいきなりヒット作品を生み出すことが可能な「フォーマット(仕組み)」が社内に構築されており、それが同社最大の強みとなっている。たとえ経験値ゼロの新人であっても、それに当てはめていけば訴求力の高い恋愛ゲームを製作できる精緻なマニュアルが確立されているのだ。ボルテージでは毎週、社内で若手中心に提案会を行っている。社員が担当コンテンツの業績を上げるために練った案を次々と発表する。持ち時間は一人90 秒、企画書はA4一枚、説明には「A→B」というフォーマットを使うのが決まりだ。これは、「現在の姿=A」→「解決後=B」への解決策を明確にすることで、自分が何のために何をするのかをはっきりさせるフォーマットだ。これによって、評論家のように問題点を指摘するだけだった社員が、見違えるように課題の解決に向かうことができるようになる。津谷会長は博報堂在籍中に米国のUCLA映画学部大学院へ留学した。その経験を生かし、映画作りの視点からコンテンツを作っている。明らかに一般的なゲーム制作会社とは一線を画しており、そのこともヒットへと結びついていると言えよう。加えて、徹底して女性の目線からアプローチしていることも大きい。同社社員の平均年齢は28 歳で、その6割を女性が占めている。東奈々子取締役副会長は、「学生のころ、当社のゲームのユーザーだった人がすでに何人も入社してきています」と語る。冒頭で触れた書籍は、ボルテージがこうした成功の方程式を導き出すまでの経緯やフォーマットの概要、社内の組織・環境作りの工夫などを紹介したものだ。ゲーム業界に限らず異業種においても、新卒社員の即戦力化などで参考になることだろう。すでに業界の頂点に立ったボルテージだが、現状に満足することなく、新たな挑戦を続けている。2012年にサンフランシスコで子会社を設立し、翌年に社長職を退いた津谷会長は現地に移住。米国の同拠点において陣頭指揮に立っている。「組織の立上げというゼロからのスタートで、日本でボルテージを設立した頃と同様の日々を送っています。こちらでも日本のフォーマットをアレンジし、人材育成に活用しています。米国でもこのジャンルのゲームを認知してもらい、1 年後の黒字化をめざしています」こう意気込んだ直後、津谷会長の眼光は鋭く光った。1963年生まれ。東京大学工学部卒業。博報堂に入社、空間プロデュ ーサーとして活動。UCLA映画学部大学院に留学を経験し、帰国後 は社内ベンチャー事業を担当。99年同社を退社してボルテージを起 業、代表取締役社長に就任。2013年取締役会長、2014年より現職。 「ボルテージ」のコンテンツ制作の裏側をはじめて 詳しく紹介した書籍が発売された。しかし、これは ゲーム開発のノウハウをまとめた本ではない。企 業・組織における仕事の進め方について示唆に溢れ るビジネス書である。なぜ、ボルテージは優れたゲ ームを量産できるのか。それは創業者で、現会長で ある津谷祐司氏のユニークな経歴に秘密があった。 1969年生まれ。津田塾大学数学科卒業後、 博報堂に入社。00年に津谷氏の起業に伴 い、ボルテージに参画。副社長を経て、 2013年より現職。 毎週開催される提案会の様子 ボルテージの恋愛コンテンツ制作ノウハウ が詰まった小冊子「恋コンバイブル」 胸キュンゲームで年商100億円の企業課題解決を繰り返し若手社員がゴールに近づく米国拠点の立ち上げに創業者夫妻で乗り込む提供/ボルテージ http://www.voltage.co.jp/