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研究エッセイ ■アフリカの子どもたちから何を学ぶことができるか: 「アフリカ子ども学を語る会inNagoya」開催報告 愛知県立大学外国語学部国際関係学科/多文化共生研究所研究員 亀井伸孝 2011年10月9日(日)、愛知県立大学サテライト キャンパスにて、「アフリカ子ども学を語る会in Nagoya」が開催された(主催:アフリカ子ども学研 究会、アフリカ日本協議会、愛知県立大学多文化共 生研究所、名古屋大学大学院国際開発研究科)。アフ リカにおける文化人類学、国際開発に関わる研究者 たちのほか、本学学生、名古屋大学大学院生、NGO スタッフ、一般市民など、約40名の参加を得て、盛 んな議論が行われた。 ●きっかけとなった子どもの民族誌 「アフリカ子ども学」(studies。n Afri。an Childhood)発足のきっかけは、2010年夏にさかの ぼる。筆者の博士論文(亀井,2002)をもととした 単著『森の小さな〈ハンター〉たち:狩猟採集民の 子どもの民族誌』が、2010年に刊行された。アフリ カ・カメルーン共和国の熱帯雨林に暮らす狩猟採集 民の子どもたちを主役とし、子どもの日常生活、生 業活動、遊び、学校教育などを網羅的に描いた民族 誌である。 『森の小さな〈ハンター〉たち』 京都大学学術出版会,2010 本書は、文化人類学的な研究に基づいた作品であ る。森の狩猟採集民の子どもたちの集まりに加わり、 信頼関係をつちかいながら、参与観察調査を行った。 そして、当該の人びと(ここでは子どもたち)に近 い視点をもって生活の営みを理解し、その認識に基 づいて文化を網羅的に記載した。基本的に、現地社 会に対して何らかの改善などを求める提言ではなく ありのままの現状を写し取って報告するというスタ ンスである。しかし、幸運にも、子どもたちの文化 を学ぶという民族誌的な分野を越え、多様な読者層 に恵まれた。 たとえば、『週刊朝日』の書評では、若い日本人の 苦労話の読み物としてのおもしろさを指摘していた だき(土嵐 2010)、『熊本日日新聞』では、一種の 近代社会批判のメッセージをもっとの位置づけを受 けた(野田,2010)。 研究者コミュニティにおける反応としては、日本 文化人類学会、日本アフリカ学会、国際関係学会の 学会誌で書評を受けた。文化人類学のほか、アフリ カ研究の上でも、国際開発研究の分野でも、アフリ カの子どもに注目することは意義深いとの指摘が相 次いだ。 ■Ⅳ0による公開書評会と特集号 本書を素材として議論したいという読者たちから の要請を受け、NPOアフリカ日本協議会(AJF)の主 催で、公開書評会「『森の小さな〈ハンター〉たち』 を手がかりに「アフリカ子ども学」を考える‥亀井 伸孝さんに子どもたちと過ごす中で感じたこと、考 えたことを聞く」(2010年9月9日,東京都渋谷区, 環境パートナーシップオフィスEPO会議室)が開催 された。 『アフリカNOW』90号 特集「アフリカ子ども学の試み」 文化人類学、教育開発、NGO、ジャーナリズム、心 理学、出版業界などの分野の人たちが集まり、著者 である私は熱心な読者たちに囲まれて、四方八方か ら質問、コメント、要望などを受けた。 本というものは、実に多様な読者によって、著者 -122
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アフリカの子どもたちから何を学ぶことができるか:db.csri.for.aichi-pu.ac.jp/journal/journal6/6-4-3.pdf · 2012-11-09 ·...

May 28, 2020

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研究エッセイ

■アフリカの子どもたちから何を学ぶことができるか:「アフリカ子ども学を語る会inNagoya」開催報告

愛知県立大学外国語学部国際関係学科/多文化共生研究所研究員 亀井伸孝

2011年10月9日(日)、愛知県立大学サテライト

キャンパスにて、「アフリカ子ども学を語る会in

Nagoya」が開催された(主催:アフリカ子ども学研

究会、アフリカ日本協議会、愛知県立大学多文化共生研究所、名古屋大学大学院国際開発研究科)。アフ

リカにおける文化人類学、国際開発に関わる研究者たちのほか、本学学生、名古屋大学大学院生、NGOスタッフ、一般市民など、約40名の参加を得て、盛

んな議論が行われた。

●きっかけとなった子どもの民族誌「アフリカ子ども学」(studies。n Afri。an

Childhood)発足のきっかけは、2010年夏にさかの

ぼる。筆者の博士論文(亀井,2002)をもととした

単著『森の小さな〈ハンター〉たち:狩猟採集民の子どもの民族誌』が、2010年に刊行された。アフリ

カ・カメルーン共和国の熱帯雨林に暮らす狩猟採集

民の子どもたちを主役とし、子どもの日常生活、生

業活動、遊び、学校教育などを網羅的に描いた民族

誌である。

『森の小さな〈ハンター〉たち』

京都大学学術出版会,2010

本書は、文化人類学的な研究に基づいた作品であ

る。森の狩猟採集民の子どもたちの集まりに加わり、

信頼関係をつちかいながら、参与観察調査を行った。そして、当該の人びと(ここでは子どもたち)に近い視点をもって生活の営みを理解し、その認識に基づいて文化を網羅的に記載した。基本的に、現地社

会に対して何らかの改善などを求める提言ではなく

ありのままの現状を写し取って報告するというスタンスである。しかし、幸運にも、子どもたちの文化

を学ぶという民族誌的な分野を越え、多様な読者層

に恵まれた。

たとえば、『週刊朝日』の書評では、若い日本人の

苦労話の読み物としてのおもしろさを指摘していただき(土嵐 2010)、『熊本日日新聞』では、一種の

近代社会批判のメッセージをもっとの位置づけを受

けた(野田,2010)。

研究者コミュニティにおける反応としては、日本

文化人類学会、日本アフリカ学会、国際関係学会の

学会誌で書評を受けた。文化人類学のほか、アフリカ研究の上でも、国際開発研究の分野でも、アフリ

カの子どもに注目することは意義深いとの指摘が相

次いだ。

■Ⅳ0による公開書評会と特集号

本書を素材として議論したいという読者たちからの要請を受け、NPOアフリカ日本協議会(AJF)の主

催で、公開書評会「『森の小さな〈ハンター〉たち』を手がかりに「アフリカ子ども学」を考える‥亀井

伸孝さんに子どもたちと過ごす中で感じたこと、考えたことを聞く」(2010年9月9日,東京都渋谷区,

環境パートナーシップオフィスEPO会議室)が開催

された。

『アフリカNOW』90号

特集「アフリカ子ども学の試み」

文化人類学、教育開発、NGO、ジャーナリズム、心

理学、出版業界などの分野の人たちが集まり、著者である私は熱心な読者たちに囲まれて、四方八方か

ら質問、コメント、要望などを受けた。

本というものは、実に多様な読者によって、著者

-122 -

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も想定していない多様な読まれ方をするのだということを身にしみて感じた。それとともに、おのずと

限界がある私個人の研究を、各界の専門家たちが深い知識をたずさえて埋め合わせにきてくださってい

るというこの状況は、実に得がたい機会だと痛感し

た。

これまで「飢え」「不就学」「児童労働」など、非

常にネガティブなイメージでとどまっていたアフリ

カの子どもたちについて、学際的な知識と関心をも

ちよって議論することはおもしろい、という手応え

があった。この流れは、新しい学問を生みそうだ、

と。

この公開書評会に基づき、AJFのニュースレター

で「アフリカ子ども学」特集号が組まれた(アフリ

カ日本協議会2011)。私はこの特集の巻頭言として「アフリカ子ども学の構想」を執筆し、仲間集めを

始めた。

1アフリカ子ども学のねらい

今回、愛知県立大学多文化共生研究所も主催者に加わる形で開催されたのは、このような流れを受け

て実現した学際的な研究会である。今回は、「教育」

をひとつのキーワードとし、おもにアフリカの子ど

もと教育に関わりをもつ人たちに集まってもらった。

始めに、私が「アフリカ子ども学を語る会・開催の趣旨」を述べた。私たちがアフリカの子どもたち

から学べることは何かという問題提起を行い、主催

者として以下の3点を挙げた。1)人類進化へのアプローチ(生態人類学、心理学)

2)人間の文化の多様性と学習、成長(文化人類学、

民俗学)3)アフリカ理解と開発‥教育・保健を中心、に(国際

開発研究、アフリカ地域研究)いずれにしても、重要なのは「子どもたちを主役

と位置づけた研究が必要であること」であると述べ

た。

研究エッセイ

■パネルディスカッション「私にとってのアフリカ子ども学」

次いで、3人のパネリストによる報告「私にとっ

てのアフリカ子ども学」のセッションへと移った。

報告に先立ち、司会者である教育開発、教育学を専

門とする山田肖子さん(名古屋大学)から、学校は子どもの生活の中の一部に過ぎないこと、子どもた

ちを理解するためには、学校に来ることも含めた生

活する主体としての子どもを、もっと総体的にとら

える必要があるとの視点が示された。

次いで、一人目のパネリストである相島正さん(ミコノの会)の報告があった。ミコノの会とは、ケニ

アで学校支援を中心にさまざまな活動をしている

NGOである。学校建設や運営、奨学金支給などの事

業の経験を通じて、とくに女子の児童・生徒に対す

る丁寧な対応の必要性などを指摘した。

一 才

二人目は、数学教育開

発を専門とする中和渚さん(東京未来大学)である。ザンビアにおける

教育実践の事例に基づきながら、子どもたちが

学校の授業以外の場面で見せるさまざまな知

識や能力に驚かされた経験などを紹介した。

三人目は、ウィリー・」■L       トコさん(東京大学)で

コンゴ民主共和国出身のウ ある。メディアによるア

イリー・トコ氏(東京大学) プリカのイメージの構

築に関する研究などに携っている。自身がコンゴ民主共和国で子ども時代

を過ごしていた経験をまじえながら、アフリカの子

どもたちはそれぞれが幸せに暮らしている、たくさ

んの子どもがいるという事実をまず人びとに知って

もらいたいと訴えた。

パネルディスカッション(2011年10月9日)

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研究エッセイ

■「なぜアフリカなのか」

休憩をはさんで、お二人のコメンテータに登壇い

ただいた。一人目のコメンテータとして、ボツワナでブッシ

ュマンの子どもの調査を行ってきた文化人類学の秋

山裕之さん(京都華頂大学)に登壇いただいた。この学際研究を始めるにあたって「なぜアフリカなの

か」という問いかけを行い、アフリカの多様性への

視座を強調した。二人目のコメンテータとして、清水貴夫さん(名

古屋大学)に話していただいた。イスラム教徒が多いブルキナファソで「ストリートチルドレン」と呼

ばれる子どもたちの調査を行った経験に関連させな

がら、子ども学に「宗教」のテーマを含めていくこ

との重要性を指摘した。

最後の討論では、フロアをまじえて、アフリカ子

ども学研究会がこれから取り組むことが望ましいテーマについての意見交換をした。

「お金と子ども」「子ども研究の中のアフリカ」「遊

び、学び、学校」「食と健康」「生産、労働」「生物学の視点、ヒト理解」などのキーワードが挙げられ、

すそ野の広さと取り組むべき課題の多さを印象づけた。

同会場で開催された立食形式の懇親会には、約30

名が参加し、有意義な意見交換のひと時となった。

■アフリカ=「楽しみな大陸」

近年、アフリカは開発援助の対象地域としてのみ

ならず、新興市場としての関心を集めつつある。ア

フリカが、「新たな黄金郷(ェルドラド)」(Lacoste,

2009)、「資本主義最後のフロンティア」(「NHKスペ

シャル」取材班,2011)などと形容されることもし

ばしばである。

その背景には、最近の資源価格の高騰という要因、BRICs、とりわけ中国が積極的な投資を行っているこ

ともさることながら、「若年人口急増の大陸=巨大マーケットの出現」という予感が関連している。

少子化で悩むヨーロッパや日本、早くも高齢化社

会到来のきざしを見せつつあるアジアとは異なり、アフリカでは若年人口が急増している。世界でも珍

しい「これからの大陸」に対し、熱い視線が集まっ

ているのである。つまり、アフリカの子どもたちと

は、世界経済の行く末をも左右しうるキャスティン

グ・ボートと言えるのかもしれない。

アフリカを「みじめな大陸」と考えるのではなく、「楽しみな大陸」としてポジティブにとらえていき

たい。その姿に付き合い続け、実像を発信し続ける

ためのささやかないとぐちとして、今後とも「アフ

リカ子ども学」の研究活動に取り組んでいきたいと

考えている。

【付記】名古屋大学大学院のウェブサイトに、この行事で用いら

れた発表資料などが掲載されている(アフリカ子ども学,Online)。また、本企画の討論内容は、改稿を経た上で、

『アフリカ教育研究』第3号(2012年内に刊行予定)に

掲載される見込みである。

アフリカ日本協議会.2011.『アフリカNOW』90(特集「ア

フリカ子ども学の試み」).「NHKスペシャル」取材弘2011.『アフリカ:資本主義

最後のフロンティア』東京:新潮社.亀井伸を2002.「狩猟採集民バカにおけるこどもの日常

活動と社会化過程に関する人類学的研究」京都大学博士学位論文.

亀井伸孝.2010.『森の小さな〈ハンター〉たち:狩猟採

集民の子どもの民族誌』京都‥京都大学学術出版会.

土屋敦・2010.「話題の新刊:『森の小さな〈ハンター〉

たち』亀井伸孝」『週刊朝日』2010年4月9日増

大号,p.142.

野田正彰・2010.「読書=野田正彰が読む:「森の小さな

〈ハンター〉たち」亀井伸孝著」『熊本日日新聞』2010年4月4日.p.8.

Lacoste,Yves・2009・Gdqpollt]que:1alonguej71stojre

d’aujoLJZ・d’j7ul’.ParlS=Larousse.(=2011.『ラ

ルース:地図で見る国際関係』東京:原書房)「アフリカ子ども学」

http://m・gSid・nagOya-u.aC.jp/syamada/ya

mada’S%20actlVlties_AfrlCa%20children.htm

12012年2月21日閲覧.

【資料】「アフリカ子ども学を語る会」inNagoya

(プログラム)

日時:2011年10月9日(日)13:00-16‥00

場所‥愛知県立大学サテライトキャンパス(愛知県

産業労働センター(ウィンク愛知)15階)

名 古 屋 駅 桜 通 口 よ り 徒 歩 5 分

http://www.Winc-aichi.jp/access/

主催‥アフリカ子ども学研究会、アフリカ日本協議

会、愛知県立大学多文化共生研究所、名古屋大学大

学院国際開発研究科

参加無料

■開催趣旨「アフリカの子ども」と聞いて思い浮かぶイメー

ジは?飢餓?児童労働?不就学?子ども

兵?

確かにそれらも現実の一面ではありますが、それ

らマイナスのことがらだけをつづりあわせて、アフ

リカの子どもたちのイメージ全体を作ってしまっていませんか。

アフリカは、人口10億人の半数を子どもたちが占

めていると言われる大陸です。アフリカを理解する

ためには、子どもたちの姿を学ぶことが必要です。

不幸な問題に注目するだけでなく、「アフリカに、実

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に多くの子どもたちが暮らしている」という現実か

ら出発したいと思います。

子どもたちは日々何を食べて、どんな交友関係を

もっていて、学校や仕事やお金のことをどう思っていて、周りの大人たちとどう付き合っているのだろ

うか?そのふだんの暮らしと文化に学びながら、これからの関わりを考えていくための「アフリカ子

ども学を語る会」を開きます。研究者、支援者、アフリカで子ども時代を過ごした当人たちによる座談

会を手がかりに、一緒に考えてみましょう。

■プログラム

13:00-13:10 アフリカ子ども学を語る会・開催

の趣旨

亀井伸孝(愛知県立大学)13:10-13:40 パネリストによる報告

「私にとってのアフリカ子ども学」

司会:山田 肖子(名古屋大学)

報告1:相島正(ミコノの会)

報告2:中和渚(東京未来大学)報告3:ウィリー・トコ(東京大学)

13:40-15:00 パネルディスカッション

司会:山田 肖子パネリスト‥相島正/中和渚/

ウィリ ー・トコ/亀井伸孝

15:00 休憩

15:15-15:35 コメント

コメント1:秋山裕之(京都華頂大

学)コメント2:清水貴夫(名古屋大学)

15:35-16:00 全体討議

16:00-16:30 機材など片づけ、懇親会準備

17:00 懇親会

■発題者紹介

亀井伸孝(かめい・のぶたか)愛知県立大学外国語学部。関心事は、アフリカ狩

猟採集民の子ども、少数言語、遊びなど。著書に『森の小さな〈ハンター〉たち』『アフリカのろう者と手

話の歴史』ほか。

山田 肖子(やまだ・しょうこ)

名古屋大学大学院国際開発研究科。関心事は、アフリカにおける教育政策、学校を中心とする若者の

知識、技能形成、教育を通じた価値形成など。著書

に『国際協力と学校』『アフリカのいまを知ろう』ほ

か。

村島正(むらしま・ただし)ミコノの会事務局長。NGOスタッフとして、ケニ

アで学校支援などの活動を行っている。

研究エッセイ

中和渚(なかわ・なぎさ)東京未来大学こども心理学部。関心はアフリカの

数学教育開発、数学の学びと子どもたちの生活の関

連。論文に「ザンビア基礎学校における数学授業の

学習‥指導の特徴と改善に関する考察」『アフリカ教

育研究』(2010)1号、77-91他。

Willy Lukebana Toko(ウィリー・ルケバナ・トコ)

東京大学大学院学際情報学府。NHK W。rld Radi。

Japanフランス語放送ジャーナリスト。関心事は、

先進諸国におけるアフリカ・イメージ。特に学際的に観たメディアや援助団体などに流布される「アフ

リカ」。「アフリカ」から見た「アフリカ」。論文:≪

L’heuredesreligieuxdansuneAfriqueabandonnee.

SentiravecEccleslainAfrica≫inAubeNouvelle,

n・35・1996:3-15;≪LaviolenceenAfrique:une

fatalite?≫inAubeNouvelle,n.38,1997:26-36;

≪ L’Afrique va-t-elle survivre au troisiene

millenaire?≫in Aube Nouvelle,n.39,1997:

78-89など。

秋LLJ裕之(あきやま・ひろゆき)

京都華頂大学現代家政学部。関心事は、アフリカにおける子どもと青年など。共著に『遊動民(ノマ

ッド)』ほか。

清水貴夫(しみず・たかお)名古屋大学大学院文学研究科博士後期課程。専門

は文化人類学、関心事は都市、若者文化、人の移動

など。業績は「少年の移動と「ストリート・チルドレン」~ブルキナファソ ワガドゥグの事例から~」

(人間の探求シリーズ9KyotoWorkingPapers。。

Area Studies No・99(G-COE Series97))など。

■問い合わせ・参加連絡

(特活)アフリカ日本協議会・斉藤電話  03-3834-6902

E-mailinfo@ajf.gr.jp

■「アフリカ子ども学研究会」とは

2010年9月、アフリカ日本協議会(AJF)の主催

で、アフリカの子どもの民族誌『森の小さな 〈ハン

ター〉たち』の公開書評会を開きました。その参加

者を中心とし、分野や専門の違いをこえて「アフリカの子どもたちに学ぼう」という共通の関心で集ま

っている人たちのネットワークです。

※「『森の小さな〈ハンター〉たち』を手がかりに「アフリカ子ども学」を考える」(2010年9月9日)の

記録を以下で読むことができます。http://www・ajf.gr.jp/1ang_ja/africa-nOW/no90/t

OP2.html

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研究エッセイ

【資料】「アフリカ子ども学の構想」亀井伸孝

「アフリカ子ども学」ということを考えている。

「アフリカの子ども」というと、何を連想されるだ

ろうか。「飢餓でやせ細った子ども」という代表的な印象の

ほかにも、「子ども兵」「児童労働」「誘拐」「性暴力/

性労働」「高い死亡率」「HIV孤児」「女子割礼(性器切

除)」「ストリートチルドレン」「就学率の低さ」などな

ど、ネガティブなことばをいくつも思いついくことが

できるだろう。

しかし、それは本当にアフリカで生まれ育つ子ども

たちの全体像を示しているのだろうか。私は、現地に

行って子どもたちと出会うたびに、そんなことを感じていた。

問点は、いくつかある。まず、いま列記した問題は、

確かに現実の一部を言い当てており、どれも避けては

ならない重要な問題である。しかし、それだけで「アフリカの子ども」のイメージがおおい尽くされてしま

ったら、何かが足りないと感じるのである。

また、ここに上げた課題とは、みなアフリカ内外の

おとなたちが引き起こした問題に関わることが多い。

おとなが原因を作った問題に巻き込まれた子どもたちの姿だけを取り上げて描き、「アフリカの子どもはこう

いうものだ」と再びおとなたちが勝手に納得している、

そんな図式が思い浮かぶ。

さらに、これらの問題が、先進諸国の数値との比較で語られがちなことも、気になっている。比べてみて

差があったら、いつもアフリカは「教え導かれる役割」

を負わなければならないのだろうか。

アフリカの子どものイメージについて「何かが足り

ない」と思ったとき、つい、ポジティブなイメージを

付け加えようと、「かがやく瞳」「素朴な笑顔」「伝統を

受け継ぐ従順さや器用さ」などが強調されがちだ。し

かし、それらも本当の意味で、アフリカの子どもたち

の姿を伝えているようには見えない。やはり、先進諸

国との比較でしか、アフリカの子どもたちを描けてい

ないからである。

アフリカは、人口の過半数が15歳以下という「子ど

もたちの大陸」である(決して「アフリカが子どもっ

ぽい」という椰旅を込めているのではない)。アフリカ

を理解するためには、子どもたちの姿を学ぶことが必

要である。それをしなければ、まるで主役を欠いた芝

居のようではないか。

事件性の高い不幸な問題だけをつづりあわせるので

はなく、まず、「アフリカに多くの、実に多くの子ども

たちが暮らしている」という事実から出発するのはど

うだろうか。そして、先進諸国との落差で理解するの

ではなく、アフリカの子どもたちをじかに理解しよう

とする試みがあってもよいのではないか。

道端の食堂でお手伝いするコートジボワールの子どもたち

子どもたちは日々何を食べて、どんな交友関係をもっていて、学校や仕事やお金のことをどう思っていて、

周りのおとなたちとどう付き合っているのだろう。ラ

クダを追いかけている子どももいれば、ツイッターで

世界中に友だちを作っている子どももいるだろう。携

帯も欲しいけれど、翌月の村のお祭りも楽しみにしているかもしれない。私たちは、子どものことを何も知

らないのである。

冒頭に挙げた子どもをめぐるさまざまな問題は、もちろん解決しなければならない。そういう意味で、ア

フリカの子どもたちへの支援は必要であるに違いない。

しかし、相手のことをよく知らなければ、スムーズな

支援などできないのである。アフリカの子どもたちを「教え導くべき対象」としてではなく、その地で生ま

れ育ち、その環境の中で生きている「対等なパートナー」として、理解と対話を進めていくのはどうだろう

か。

このような視点で思いついた「アフリカ子ども学」。

それは、アフリカの子どもたちに暮らしぶりを教えて

もらいながら、よりよい理解と支援を考えていこうと

する、アフリカ研究・実践の大きな柱のひとつである

に違いないと確信している。

※この「構想」は、アフリカ日本協議会の機関誌『アフリカNOW』90号(特集「アフリカ子ども学の試み」)の巻

頭言として執筆されました(2011年1月31日発行,3ページに掲載)。本誌に採録するにあたり、アフリカ日本

協議会の許諾をいただきました。

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