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メディア利用実態を測定した複数の世論調査の結果から,現在の20 代にとってのテレビの存在感や距離感を探った。20 代では,週に1度もリアルタイムでテレビを見ない人が約3割である。リアルタイムでテレビを視聴している人についても,1週間のうち毎日視聴したり,1日のうち長時間視聴したりする人の割合が減少している。一方で,タイムシフト(録画)視聴する人や,インターネットで放送局の提供するコンテンツ・サービスに接触する人は増えておらず,20 代がテレビコンテンツそのものから離れていることがわかる。
20 代は,リアルタイム視聴率が減少した夜の時間帯に,スマートフォンを使って「SNS」「動画」「ゲーム」など,さかんにメディア行動をしている。
インターネットでテレビ番組の動画を視聴している20 代へのアンケートでは,「見たい番組をテレビで見逃した場合」「放送後に見たいと思った場合」「テレビでは放送していないコンテンツを見たい場合」などにインターネットを活用している様子もうかがえた。
メディア多様化時代の20代とテレビ
世論調査部 斉藤孝信
はじめに
1953年のテレビの放送開始から65年以上が経ち,人々のテレビコンテンツの視聴の仕方は,いま,かつてないほど多様化している。特にここ10年ほどの変化は大きく,2012年にアナログ放送が終了してデジタル放送へ完全移行すると,機能が進歩したデジタル録画機によってタイムシフト(録画再生)視聴が以前よりも手軽になった。さらにインターネットでもテレビ番組の動画を見られるようになった。
こうした変化によって,人々は,放送時間にテレビ受像機で番組を見るという時間と場所の制約から解き放たれた。
デジタル放送に完全に切り替わった2012年
にNHK放送文化研究所(以下,文研)が実施した放送意向調査「テレビ60年」の時点ですでに,日常的に(週に1日以上)テレビ番組をタイムシフト視聴する人が国民の40%,日常的にインターネットでテレビ番組動画を見る人も12%と少なからず存在していたことが確認されている1)。
テレビコンテンツの視聴の仕方だけでもこのような変化があるが,さらにメディア環境全体でいえば,インターネットを通じてテレビ以外のさまざまなコンテンツも手軽に見られるようになり,人々は多くの選択肢の中から自分に合ったコンテンツや視聴の仕方を選び取れるようになったのである。
5年ごとに実施している放送意向調査「日本
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図1 テレビ総計 週間接触者率(年層別)
0
20
40
60
80
1002009 年(07 ~ 09 年平均)(全体 94.7%)
2014 年(12 ~ 14 年平均)(全体 92.9%)
2019 年(17 ~ 19 年平均)(全体 89.5%)
70 歳以上60 代50 代40 代30 代20 代13-19 歳7-12 歳
(%)100
80
60
40
20
0
88
96
96
80
89
92
73
83
89
84
90
93
87
91
96
929696
97
96
9796
95
96
95
7-12歳
13-19歳
20代
30代
40代
50代
60代
70 歳以上
2009年(07~09年平均)(全体 94.7%)
2009年から減少2014年から減少
2014年(12~14年平均)(全体 92.9%)
2019年(17~19年平均)(全体 89.5%)
人とテレビ」では,1番欠かせないメディアとして「テレビ」を挙げた人が2010年から2015年の間に減少(55%→50%)し,インターネットを挙げた人が増加(14%→23%)した。特に20 代は「テレビ」が25%だったのに対し,「インターネット」が1番欠かせないと答えた人が54%と半数を超えた 2)。
こうしたメディア環 境の変化を,1990 ~1999年に生まれた現在の20 代の,当時の年齢と照らし合わせてみると以下のとおりである。
● 2008年(9 ~ 18歳) スマートフォン(iPhone)日本での販売開始● 2012年(13 ~ 22歳) テレビがデジタル放送へ完全移行● 2015年(16 ~ 25歳) スマホやタブレット端末などでテレビ番組の
動画を配信する「TVer」がサービスを開始
つまり,現在の20 代はテレビ視聴の多様性・自在性が高まる中で育った世代であるといえるのではないか。だとすれば,彼らの視聴行動についてのデータを丁寧にみていくことで,現代の若者にとってのテレビそのものやテレビ番組(コンテンツ)の存在感や距離感がみえてくるのではないか。また,それは,これまでの20 代とは違っているのではないかと考えた。
そのような課題意識から,今回は,20 代に的を絞って,テレビ視聴に関する文研のさまざまな調査結果を横断的にみながら,論考を進めてみたい。
なお,今回用いる各調査の概要については,末尾にまとめて紹介する。
Ⅰ 20 代の「テレビ離れ」と 接触の「希薄化」
(1)約3割がリアルタイムのテレビを 見ない
まずは,毎年6月に,無作為抽出した全国の7歳以上3,600人に対して実施している「全国個人視聴率調査」の結果から,20 代のリアルタイム(放送と同時)視聴の実態を分析する。図1では,1週間に5分以上,リアルタイム
で,テレビ(NHK,民放,地上波,衛星を問わず)を見た人の割合(週間接触者率)を年層別に示した。
・ サンプル数 :(全体)n1,(一部)n2
割合(%):(全体)p1,(一部)p2
・ z =「1.960」以上なら「有意水準(危険率)5%で」有意差あり
p1-p2
-n1n2
1 1p1(100 - p1) ( )
z
全国個人視聴率調査
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0
20
40
60
80
10020 代
全体
19 年18 年17 年16 年15 年14 年13 年12 年11 年10 年09 年08 年07 年06 年05 年04 年03 年02 年01 年2000 年99 年98 年97 年96 年95 年94 年
(%)100
80
60
40
20
0
96.0
96
97.0
97
96.9
95
95.9
94
96.8
95
96.1
92
95.7
91
94.9
91
96.3
95
94.4
89
96.4
95
94.6
88
95.1
90
94.8
91
95.0
92
94.2
84
94.3
88
94.5
89
93.6
84
93.0
85
92.2
80
92.3
79
90.9
81
91.0
80
89.4
67
88.1
73
19(年)181716151413121110090807060504030201200099989796951994
20 代全体
最新データとなる2019年の20 代の接触者率は73%である。裏を返せば,いまの20 代では,1週間に5分すらリアルタイムでテレビを見ない人が約3割いることになる。
20 代の接触者率は,全体(89.5%)よりも低く,80%を割り込んでいるのは全年層で唯一,20 代のみである。
10年前の2009年,5年前の2014年と比べると,20 代が全体より低いことには変わりがないが,接触者率自体が2009年の89%,2014年の83%から減少している。
ただし,20 代が昔からテレビを見ない年代なのかといえば,そうではない。もう少しさかのぼって,25年前の1994年以降の20 代の接触者率の推移をみてみると(図2),94年は96 %( 全 体96.0 %),95年 は97 %( 全 体97.0%)で,全体と同程度であった。現在の40 代後半から50 代前半の人が20 代だったころには,ほとんどの人が1週間のうち少なくとも5分以上はテレビを見ていたのである。
96年以降は,ほとんどの年で全体よりも低く
なったが,それでも,現在のように全体との差が瞭然となったのは,ここ10年ほどの話である。
(2)“ヘビー・ユーザー”が減少した20代
まずは,現在の20 代で,リアルタイムでテレビを見ない人が増えたことが確認できた。
一方で,リアルタイムでテレビを見ている人についても,「どのように視聴したのか」という点で変化が出ている。図3は,20 代が1週間のうち何日,リアル
タイムでテレビを視聴したのかを示したものである。2019年は「7日」(毎日)視聴した人が39%,以下,「6日」12%,「5日」9%,「4日」3%,「3日」6%,「2日」3%,「1日」3%,「なし」
(週に1日も視聴しなかった人)が27%である。これを10年前,5年前と比較すると,グラ
フ左端の「7日」と,右端の「なし」で変化があった。「なし」は,前述の週間接触者率を100%から差し引いたデータ(つまりは,1週間に5分すら視聴しない人の率)なので,2019年
図2 テレビ総計 週間接触者率の長期推移(全体と20代)
全国個人視聴率調査
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は27%で,当然,10年前(11%),5年前(17%)よりも増えている。
一方,注目したいのは,接触日数「7日」,つまり毎日視聴した,いわばヘビー・ユーザーの減少である。2009年には52%,2014年も49%と約半 数だったが,2019年には約4割となった。一方で「6日」~「1日」は,いずれも10年前,5年前と同程度である。
次に,テレビを見る時間の長さについてみてみる。図4は,1日あたりの視聴時間を「3時間以上」
「2時間以上3時間未満」「1時間以上2時間未満」「1時間未満」「視聴なし」に分け,その分布を示したものである。
2019年の20代は,「3時 ない。
接触日数と同様に,1日あたりの視聴時間という面でも,ヘビー・ユーザーが少なくなったことがわかる。
このように20 代では,そもそもリアルタイムでテレビを見ない人が約3割と「テレビ離れ」が進んでおり,視聴している人でも,1週間のうち毎日視聴したり,1日あたりの視聴時間が長かったりする人の割合が減り,テレビ接触の
「希薄化」も進んでいるのである。
間以上」が17%,以下,「2時間以上3時間未満」11%,「1時間以上2時間未満」18%,「1時間未満」28%,「視聴なし」が27%である。5分以上視聴した人の中では,最も短い「1時間未満」が28%で多い。
10 年前,5 年前と比較すると,最も長い「3時間以上」視聴した人は,2019 年は17%で,2009 年(30%),2014 年(25%)から減少している。「2 時間以上3 時間未満」「1時間以上2 時間未満」「1時間未満」の割合には変化が
図3 20代 テレビ総計 接触日数
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100
なし
1日
2日
3日
4日
5日
6日
7日
2009 年(07 ~ 09 年平均)
2014 年(12 ~ 14 年平均)
2019 年(17 ~ 19 年平均)
(%)
39 12 9 3 6 3 3 27
49 10 8 4 6 3 3 17
52 12 7 5 6 4 4 112009 年
(07~ 09年平均)
2014 年(12~ 14年平均)
2019 年(17~ 19年平均)
2009年から減少
2014年から減少
2009年から増加
2014年から増加
なし1日2日3日4日5日6日7日
全国個人視聴率調査
図4 20代 テレビ総計 視聴時間分布
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100
視聴なし
1時間未満
1時間以上 2時間未満
2時間以上 3時間未満
3時間以上
2009 年
2014 年
2019 年
(%)
17 11 18 28 27
25 12 19 26 17
30 15 21 23 112009 年(07~ 09年平均)
2014 年(12~ 14年平均)
2019 年(17~ 19年平均)
視聴なし1時間未満1時間以上2時間未満
2時間以上3時間未満
3時間以上
2009年から減少
2014年から減少
2009年から増加
2014年から増加
全国個人視聴率調査
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(3)夜間の視聴率が大きく 減少
20 代のリアルタイムでのテレビ視聴について,さらに詳しくみていく。図5は, 男20 代 の 平日の30
分ごとの平均視聴率を,2019年,2014年,2009年で比較したものである。縦軸が時間軸で,上が早朝5時台,下が深夜 24時台である。
男20 代は,朝と夜に視聴率が高い時間帯があり,つまり2つの
「山」がある。ところが,2019年は,夜の山が10年前に比べて低くなっていることがわかる。
21時台前半から22時台後半は,2009年には25%以上だったが,2019年には12 ~ 13%程度に減少した。23時台後半も,2009年の17%から2019年は6%に減っている。また,10年前には20時 台から22時 台,5年前には21時台に,視聴率が20%超となっていたが,2019年は,1日を通して1度も20%に届かなくなっている。
一方で,朝の山には変化がない。ピークである7時台前半は2009年,2014年,2019年 とも15%前後である。
次に,女20 代の平日30 分ごとの平均視聴率をみると(図6), 男性と比べて,全体的に視聴率が 高めで,特に,2019年は
図5 男20代 テレビ総計 平日30分ごとの平均視聴率
0 10 20 30 40 50
09 年
0 10 20 30 40 50
14 年
0 10 20 30 40 50
19 年
0 10 20 30 40 50%
2009年2014年2019年
2009年から減少
視聴率 20%以上の時間帯
2009年 2014年 2019年
1 1 2 5
3 1 3 時
6 8 8 6
10 13 10
16 15 13 7
13 10 9
10 7 6 8
6 5 3
4 3 2 9
2 3 2
2 3 2 10
2 2 3
3 2 3 11
4 3 3
10 7 6 12
9 6 4
5 4 3 13
3 2 2
2 2 2 14
2 2 2
2 2 1 15
2 2 2
2 2 2 16
3 2 2
4 3 3 17
5 4 3
8 6 6 18
8 7 7
17 15 12 19
17 16 11
23 17 13 20
23 18 14
26 21 13 21
25 21 13
26 19 13 22
25 18 12
18 12 9 23
17 10 6
13 8 4 24
9 6 3
全国個人視聴率調査
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19時台後半から22時台前半は20%以上である。
しかし,22時台後半(30%→ 17%),23時台前半(21%→11%) と,男性と同様,夜間に10年前より視聴率が低くなった時間帯がある。一方で,朝の視聴率には変化はみられない。
20 代のリアルタイムテレビの視聴率の減少は,男女とも,夜間で顕著であることがわかる。
(4)タイムシフトで見る人が 増えたわけではない
ここまで述べてきたのは,20代のリアルタイムのテレビ視聴が減少してきたという点である。あえてそう書くのは,仮に,テレビ番組をリアルタイムで見る人が減ったとしても,その代わりにハードディスクなどに録画しておいて,あとから再生(タイムシフト)視聴する人が増えたのであれば,それは「テレビを見なくなった」というよりも,「テレビの見方が変わった」とみるべきだと考えるからである。
そこで,リアルタイムとタイムシフト視聴との関係をみるために,文研が毎年,全国個人視聴率調査と同じ6月に,全国3,600人に対して行っている「全国放送サービス接触動向調査」の,20代のデータをみてみる。図7は,NHKと民 放の 提 供
図6 女20代 テレビ総計 平日30分ごとの平均視聴率
0 10 20 30 40 50
09 年
0 10 20 30 40 50
14 年
0 10 20 30 40 50
19 年
0 10 20 30 40 50%
2009年2014年2019年
2009年から減少
視聴率 20%以上の時間帯
2009年 2014年 2019年
1 0 1 5
3 2 1 時
8 6 8 6
19 12 14
21 18 19 7
18 16 19
15 13 13 8
12 10 8
9 7 6 9
8 7 5
8 5 3 10
7 3 3
4 3 3 11
5 3 3
12 8 6 12
12 9 6
7 5 5 13
6 5 4
4 4 3 14
3 3 2
3 3 2 15
2 3 2
5 5 4 16
5 6 5
4 5 5 17
5 6 7
8 9 11 18
10 10 12
21 18 18 19
22 18 20
28 19 22 20
29 19 22
34 21 24 21
34 20 24
31 17 20 22
30 17 17
21 10 11 23
15 8 9
8 4 5 24
6 3 3
全国個人視聴率調査
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8 FEBRUARY 2020
するサービスについて,テレビの「リアルタイム」と「タイムシフト」,それに「インターネット」のリーチ(全国個人視聴率調査でいうところの週間接触者率と同義。ただしインターネットについては,分数を問わず1日でも接触した人の割合)について,最近5年間の推移を示したものである。なお,ここでいう「インターネット」は,放送関連のコンテンツやサービスのことで,具体的には,番組動画のほか,放送局や番組のホームページや,公式SNS,インターネットの番組表や番組情報などが含まれる。
まず20 代の「リアルタイム」のリーチは,この調査でも,2014 ~ 2016年の80%台から,2019年は70%に減少していることが確認できる。
次に「タイムシフト」のリーチの推移をみると,2016年の57%から,2019年は46%に減少している。つまり,上記の「リアルタイム視聴が減ったぶん,タイムシフト視聴が増えたの
ではないか」という仮説は否定され,20 代は,リアルタイム・タイムシフトを問わず,テレビ視聴から離れているといえる。
一方で,放送局の提供する「インターネット」のリーチはこの5年間,約4割で推移し,変化がない。
この結果,「リアルタイム」「タイムシフト」「インターネット」のいずれかで放送局の提供するコンテンツ・サービスに接触した人の割合(トータル・リーチ)は,2016年の89%から2019年は82%に,やや減少している。つまり,リアルタイム視聴だけではなく,タイムシフト視聴やインターネットを含めて考えても,20 代がテレビコンテンツそのものから離れているのである。
Ⅱ 多彩な夜間のメディア行動
なぜ20 代はテレビ視聴から離れてしまったのか。ここからは,文研が2018年12月,関東の10 ~ 69歳2,400人に対して行った「 メ ディア利用の生活時間調査2018」で,スマートフォン(以下,スマホ)やパソコン(以下,PC)など,テレビ以外の機器を用いたメディア行動にも視野を広げてみたい。
なお,前章で取り上げた「全国個人視聴率調査」の平日30 分ごとの平均視聴率とみくらべるために,「メディア利用の生活時間調査2018」は,平日(月曜)のデータを用いる。
ただし,サンプル数が少ないため(月曜は男20 代56人,女20 代71人),大まかな傾向をみるにとどめる。
(1)男20代 22時台に「スマホ・携帯」利用がさかん
男20 代について,まずは,どんな機器を使っ
図7 20代 放送局のコンテンツ・サービスの「リアルタイム」「タイムシフト」「ネット」のリーチ
0
20
40
60
80
100トータルリーチ
インターネット計
タイムシフト計
リアルタイム計
2019 年2018 年2017 年2016 年2015 年2014 年
(%)100
80
60
40
20
0
81
55
39
81
50
41
84
57
46
75
54
42
72
46
47
70
46
43
インターネット計
タイムシフト計
リアルタイム計
2014 2015 2016 2017 2018 2019(年)
全国放送サービス接触動向調査
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9FEBRUARY 2020
てメディア行動をしているのかを,リアルタイム視聴率が減少した夜間に絞ってみてみる。図8は,「テレビ画面」「スマホ・携帯」「PC・タブ レット」の3つの分類で,18時以降,その機器を使ってメディア行動をした人の割合(行為者率)を示している。なお,「テレビ画面」には,リアルタイム視聴,録画視聴のほか,DVD・ブルーレイディスクや,インターネットの動画をテレビ画面で見ることも含める。「テレビ画面」は21時から23時ごろにかけ
てやや高くなっているが,夜間を通じて1度も20%を超えることがなく,利用の「ピーク」と呼べるほどの時間帯が見当たらない。
それに対して,「ピーク」が存在するのが「スマホ・携帯」である。20時以降は増加傾向で,中でも21時台は20%超,22時台は40%台となっている。
なお,この調査は,自分の行ったメディア行動を,日記式の調査票に15分刻みで記録してもらう方式である。「テレビ画面」や「スマホ・
図8 男20代 月曜・夜間30分ごとの平均行為者率(機器別)
0
20
40
60
80
100PC・タブレット
スマホ・携帯
テレビ画面
23 時22 時21 時20 時19 時18 時
7
14
5
6
12
4
11
13
2
13
18
37
12
5
9
17
5
13
23
5
15
28
7
16
41
6
13
44
5
11
25
4
7
14
3
(%)100
80
60
40
20
018 19 20 21 22 23 (時)
PC・タブレット
スマホ・携帯
テレビ画面
携帯」「PC・タブレット」のうち,複数の機器を同時に使った場合には,すべて記入してもらうため,それぞれの機器の行為者率としてカウントする。
この場合は,中には,「テレビを見ながら,スマホを利用している」という人もいるかもしれないが,前述のように男20 代のリアルタイムテレビの視聴率が10年前より減少した21・22時台に「スマホ・携帯」によるメディア行動がさかんに行われていることがわかる。
(2)男20代 22時台にスマホで多彩なメディア行動
では,男20 代は「スマホ・携帯」を使って,具体的に何をしているのだろうか。図9は,テレビ(リアルタイムと録画)とスマホについて,どんなメディア行動をしているのか,15分ごとの行為者率を積み上げたグラフである。
分析の前提となる情報として,この調査でわかった男20 代の平均的な生活パターンを紹介しておくと,仕事や学校を終えて帰宅し,家にいる人が半数を超えるのは20時である。食事をしている人が最も多く(16%)なるのは20時15~30 分,着替えや風呂など身のまわりの用事をする人は20時と21時ごろに14%程度と多くなり,23時30 分には半数以上が就寝する。
リアルタイムと録画を合わせた「テレビ」は,21・22時台に10%以上となるが,20%を超えることはない。
グラフで,テレビの行為者率の上に積み上げたのが,スマホを使ったメディア行動である。
「SNS」「動画」「ゲーム」「ウェブ」「ニュース」 「音楽」「雑誌・マンガ・本」「メール」に分けて,行為者率を表示している。複数の行動を同時にしている場合には,それぞれの行動の行為
メディア利用の生活時間調査2018
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10 FEBRUARY 2020
(3)女20代 21・22時台に「スマホ・携帯」利用が さかん
次に,女性についてみていく。なお,女性の平均的な生活パターンは,20
時になると家にいる人が半数以上になり,食事のピーク(28%)は20時15分である。身のまわりの用事のピーク(21%)は男性よりも遅い23時15分,半数以上が就寝する時刻は男性より30 分遅い0時である。
女20 代の,夜間の機器別の行為者率をみると(図10),「テレビ画面」は,19時台後半から21時台後半にかけて20%以上となり,特に20 時30 分から21時30 分は30%前後とピークを迎える。「テレビ画面」の行為者率が1度も20%を超えなかった男性とは,異なる傾向である。「スマホ・携帯」は男性と同様に,18時以降,
者率としてカウントされるが,単純に積み上げると,これら,スマホを使ったメディア行動の行為者率は高く,しかも用途が多岐にわたっていることがわかる。機器としての「スマホ・携 帯」の利用がピークを迎える22時台に注目すると,スマホを使って「ゲーム」をしている人が16~ 18%,「SNS」「動画」も10%前後と多く,単純に積み上げてみると,この3つだけでテレビの行為者率を上回る。さらに22時台には,スマホを使った「ウェブ」「音楽」「雑誌・漫画・本」
「メール」もそれぞれ 5%以上となる時間帯があり,これらを足し上げると70 ~ 80%となる。
全国個人視聴率調査でリアルタイムテレビの視聴率が減少した21・22時台のうち,22時台は,男20 代はスマホを使ってゲームをしたり,SNSをチェックしたり,YouTubeなどで動画を見たり,音楽を聴いたりと,多彩なメディア行動をしているのである。
0
20
40
60
80
100メール(スマホ)
雑誌・マンガ・本(スマホ)
音楽(スマホ)
ニュース(スマホ)
ウェブ(スマホ)
ゲーム(スマホ)
動画(スマホ)
SNS(スマホ )
テレビ(リアルタイム・録画)
0:0023:0022:0021:0020:0019:00
(%)100
80
60
40
20
0
メール(スマホ)
雑誌・マンガ・本(スマホ)
音楽(スマホ)
ニュース(スマホ)
ウェブ(スマホ)
ゲーム(スマホ)
動画(スマホ)
SNS(スマホ)
テレビ(リアルタイム・録画)
19 20 21 22 23 24(時)
図9 男20代 月曜・夜間のメディア行動(15分ごとの行為者率の積み上げ)
メディア利用の生活時間調査2018
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11FEBRUARY 2020
1度も10%を下回らず,21時30 分から22時30分は30%を超える。
10年前よりもリアルタイムテレビの視聴率が
減少していた22時台は,「テレビ画面」のピークが終わり,「スマホ・携帯」のピークに入れ替わった時間帯に重なる。
(4)女20代 夜間は主に「テレビ」と, スマホで「SNS」「動画」
テレビとスマホを使ったメディア行動を詳しくみると(図11),「テレビ(リアルタイム・録 画)」は,19時30 分から21時45分まで20%台と高い。
スマホでは,「SNS」が19時30 分から23時15分まで10%以上で推移し,中でも21時から22時30 分は約20%となる。「動画」も21時30分から22時台は約10%の利用がある。男性は22時台に「ゲーム」が15%超と高かったが,女性は「ゲーム」が10%を超えることはない。
0
20
40
60
80
100メール(スマホ)
雑誌・マンガ・本(スマホ)
音楽(スマホ)
ニュース(スマホ)
ウェブ(スマホ)
ゲーム(スマホ)
動画(スマホ)
SNS(スマホ )
テレビ(リアルタイム・録画)
0:0023:0022:0021:0020:0019:00
(%)100
80
60
40
20
019 20 21 22 23 24(時)
メール(スマホ)
雑誌・マンガ・本(スマホ)
音楽(スマホ)
ニュース(スマホ)
ウェブ(スマホ)
ゲーム(スマホ)
動画(スマホ)
SNS(スマホ)
テレビ(リアルタイム・録画)
図11 女20代 月曜・夜間のメディア行動(15分ごとの行為者率の積み上げ)
メディア利用の生活時間調査2018
図10 女20代 月曜・夜間30分ごとの平均行為者率(機器別)
0
20
40
60
80
100PC・タブレット
スマホ・携帯
テレビ画面
23 時22 時21 時20 時19 時18 時
11
06
11
19
152
1620
1
20 20
2
23
15
3
29
25
3
34 35
4
28
35
9
17
31
9
1620
6
4
13
36
(%)100
80
60
40
20
018 19 20 21 22 23 (時)
PC・タブレット
スマホ・携帯
テレビ画面
メディア利用の生活時間調査2018
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男性はスマホを使って非常に多彩なメディア行動をしていたが,それに比べると,女性の夜間のメディア行動は,主に「テレビ」「SNS」
「動画」という3つが占めているようだ。
まとめにかえて ~今後の研究への課題意識とともに~
ここまで,文研の複数の世論調査結果をもとに,現在の20 代のメディア視聴を分析してきた。
ポイントを整理してみる。
① 週に1度もリアルタイムでテレビに 接触しない人が約3割② 毎日視聴したり,長時間視聴したりする ヘビー・ユーザーが減少③ リアルタイムの代わりにタイムシフト視聴が 増えたわけではない④ 夜間,リアルタイム視聴率が減少している⑤ 夜間,スマホを使って,活発にメディア行動 をしている
リアルタイムテレビの視聴率が減少した夜間,20 代が,さかんにスマホを使っている様子がうかがえた。
スマホを使ったメディア行動は多岐にわたり,「SNS」「メール」「ウェブ」などはもちろん,かつては別のゲーム機で楽しまれていた「ゲーム」,紙の書籍だった「雑誌・マンガ・本」などもスマホに 収
しゅう
斂れん
されているようだ。つまり,「やりたいことは,ほとんどスマホで事足りる」のかもしれない。
さらに,テレビ番組についても,テレビ受像機ではなく,スマホで視聴している可能性があ
る。「メディア利用の生活時間調査2018」でいう「動画」には,YouTubeに一般の人が投稿した動画など放送局のコンテンツではないものも含まれているので,そのすべてがテレビ番組というわけではないが,一方で,前述したとおり,
「全国放送サービス接触動向調査」では,20代の約4割が,インターネットで,放送局のコンテンツ・サービスに接触していることが確認されているからである。
インターネットでどんな番組動画を視聴しているのか,なぜテレビ受像機ではなくインターネットで視聴する人がいるのか,といった,より具体的な疑問については,メディア利用実態を測定する世論調査の横断的な分析だけでは解明できない部分もあることがわかった。
今後,さらに研究を深める必要がある20 代のインターネット動画視聴に関する仮説を整理するために,インターネットで月に数回以上テレビ番組の動画を視聴した関東の20 代320人
(調査会社のモニター)に対して行ったウェブアンケートの結果を,参考までに紹介したい。具体的には,2019年7 ~ 9月の夜間にNHKと民放が放送した主なドラマを30本挙げて,1クール(各ドラマとも10回程度)のうち1度でもインターネットで見たことのあるものを答えてもらった。日本テレビ『あなたの番です』『偽装不倫』,TBS『凪のお暇』『ノーサイドゲーム』などが多く挙げられた。
このうち『あなたの番です』をインターネットで視聴したという93人に,インターネットとテレビのどちらで多く視聴したのかを尋ねたところ,以下の結果になった。
● インターネットでしか見なかった ……… 11人 ● インターネットのほうが多かった ……… 25人
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● 同じくらいだった ……………………… 15人 ● テレビのほうが多かった ……………… 16人 ● テレビがほとんどだった ……………… 26人
インターネットで視聴した人だけを対象に尋ねたにもかかわらず,インターネットのみで視聴したという人は少数派であった。多くの人がテレビとインターネットを取り交ぜる形で視聴し,どちらかといえばテレビでの視聴がメインだった人のほうが多かった。
同番組をインターネットで視聴した放送回について,なぜリアルタイムのテレビや録画再生で見なかったのか,16の選択肢を用意して,あてはまるものをすべて選んでもらったところ,以下の結果になった。
● 放送時間に家にいなかった ………… 42人 ● 家にいたがテレビを見られなかった … 19人 ● 放送時間に見るのを忘れた …………… 18人 ● 録画し忘れた …………………………… 16人 ● 同じ時間帯に,
別に見たい番組があった ……………… 10人 ● 放送時間には
見たい気分ではなかった ……………… 8人 ● 放送時点では興味がなかった ………… 7人 ● 放送時間には
他の人がテレビを使っていた …………… 5人 ● 放送時間がわからなかった …………… 5人 ● 放送時点では,
この番組を知らなかった ……………… 4人 ● テレビがない …………………………… 4人 ● 録画機がない …………………………… 4人 ● 録画するのが面倒だった ……………… 3人 ● 録画機の容量がいっぱいだった ……… 2人 ● 放送している局がわからなかった …… 2人
● 録画機の使い方がわからなかった …… 1人
「放送時間に家にいなかった」「家にいたがテレビを見られなかった」などの時間的な事情については,仕事や外出,家事などで忙しい中で,放送時間に合わせてテレビの前に来て番組を見るという,リアルタイムテレビならではの時間と場所の制約が,いまの20 代にとってはハードルになっているのかもしれない。
一方,リアルタイム視聴や録画ができなかったのではなく,「忘れてしまった」,さらには,放送の時点ではその番組に「興味がなかった」
「知らなかった」という,番組の放送に対する意識の薄さを感じさせる項目を理由に挙げた人もいた。今回のアンケートで,選択肢として提示したドラマ30本の中では最もよく見られていた番組についての回答であるにもかかわらず,テレビでの放送の時点では,番組自体に関心がなく,放送時間も認知していなかった人が少なからずいたのである。
そこで,同番組を視聴した動機を尋ねてみると,「初回を見て面白そうだったから」「テレビで番組の宣伝を見て興味を持ったから」「好きな俳優が出演したから」といった,自分自身の内発的な動機を挙げる人が多かったが,それと同じくらいのボリュームで,「インターネットやSNSなどで多くの人が盛り上がっていたから」
「職場や学校で,同僚や友人が話題にしていたから」など,他者からの影響を受けて視聴を思い立ったという意見も多かった。
また,インターネットで見た理由として,9つの選択肢を挙げて,複数回答で尋ねた結果は以下のとおりである。
● 自分が見たいときに見たかった ……… 47人
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● 見たい回の放送が終わっていた ……… 27人 ● 誰にも邪魔されずに楽しみたかった … 25人 ● 数回分をまとめて見たかった ………… 14人 ● 何度も繰り返し見たかった …………… 11人 ● 早送り機能などを使って
効率的に見たかった …………………… 10人 ● インターネットを見ていたら,
たまたま見つけた ……………………… 8人 ● スマホやタブレット端末,
PCで見たかった ……………………… 5人 ● 他の人と一緒に見るのが
気まずかった …………………………… 4人
このうち,「自分が見たいときに」「誰にも邪魔されず」などは,あるいは自分で録画してタイムシフト視聴することでも満たすことのできる欲求かもしれないが,「見たい回の放送が終わっていた」というのは,インターネットでの視聴ならではの回答である。
例えていえば,放送の翌日に職場の同僚たちが「昨夜のドラマは面白かったね」と盛り上がっているのを聞いて,自分も見てみたいと思い立ったところで,「見たい回の放送が終わって」しまっているし,「放送時点では興味がなかった」から録画予約をしていたわけもない。そこで,放送後の番組を一定期間,見ることができるインターネットで視聴することにしたという,かつては存在しなかった視聴シーンが想像されるのである。
このように,インターネットは,放送時間と生活時間のミスマッチを解消して,「見たいのに,見られない」場合のタイムシフト視聴的な役割を果たしているのに加えて,必ずしも事前の視聴意欲が強くない人たちであっても,周囲の人 と々の関わりの中で「放送終了後になって,
見たくなった」場合に,同回に追いつくための受け皿にもなっているのではないだろうか。実際,今回のアンケートで「放送時点では興味がなかった」と答えた人たちの中には,もしもインターネットで動画を見られなかったら,そのコンテンツに出会う機会すら得られなかった人もいたかもしれないわけで,その点では,インターネットは必ずしもテレビと背反・対抗関係にあるわけではなく,「テレビコンテンツ」への接触の機会を広げる役割を果たしているのではないだろうか。
また,今回のアンケートで,ふだんインターネットでよく見る動画は何かを自由回答で尋ねたところ,「プロ野球」と答えた人が少なからずおり,「応援しているチームの試合が,テレビで放送されないから」などと理由を述べていた。大阪の民放番組『相席食堂』も複数の人が挙げ,理由は「自分の住んでいる地域では放送されていないから」であった。いまの20 代は,見たいコンテンツがテレビで放送されない場合,視聴をあきらめるのではなく,インターネットで視聴している様子がうかがえる。つまり,インターネットは,テレビで見逃した場合の受け皿的な役割以外にも,自分の趣味嗜好を満足させるための貴重な機会を提供してくれる場になっているのである。
これまでのメディア接触に関する分析では,ともすれば,テレビが「主」,インターネットが
「従」であるという視点で,インターネットでのメディア行動の隆盛を,テレビへの接触の減少の原因としてだけ捉えがちであったが,今後は,インターネットの世界で人々が楽しんでいるコンテンツやその視聴の仕方を丁寧に分析することで,「テレビ離れ」を食い止めるヒントになるのかもしれないといった視点も持ちたいと
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思っている。そのためには今回のように,生活時間や,他
メディアとの関係などさまざまな切り口での分析を続けると同時に,コンテンツそのものをいまの20 代がどう捉えているのかといった問題意識も重要であると感じる。
まもなく誕生から70年を迎えるテレビが,この先,人々にとってどんなメディアになっていくのか。メディア多様化時代を生きる若者たちの動向を今後も注視していきたい。
(さいとう たかのぶ)
注:引用した過去の調査結果の詳細については,以下の
『放送研究と調査』を参照。 1) 平田明裕/執行文子 『放送研究と調査』63(6);18-45,2013 2) 木村義子/ 関根智江/ 行木麻衣 『放送研究と調査』65(8);18-47,2015
今回の分析に用いた文研の世論調査の概要調査名 実施期間 調査相手 調査方法 有効数(率) 男20代 女20代
全国個人視聴率調査* 2019年6月3日(月)~ 6月9日(日)
全国7歳以上の男女3,600人
配付回収法(日記式調査票に5分単位で記入)
2,294人(63.7%) 76人 89人
全国放送サービス接触動向調査* 2019年6月3日(月)~ 6月9日(日)
全国7歳以上の男女3,600人
配付回収法(日記式調査票に1日単位で記入)
2,265人(62.9%) 86人 90人
メディア利用の生活時間調査2018 2018年12月2日(日)・3日(月)
関東10~69歳の男女2,400人
配付回収法(日記式調査票に15分単位で記入)
1,265人(52.7%) 59人 72人
*時系列調査のうち,最新のもの