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ユネスコ世界寺子屋運動 ネパール・ルンビニ寺子屋プロジェクト 中間評価報告書 2010 年 10 月
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ネパール・ルンビニ寺子屋プロジェクト 中間評価報 …...- 1 - 成人女性のための識字クラス テヌハワ寺子屋の外観 学んだ魚の養殖で収入向上

Mar 14, 2020

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ユネスコ世界寺子屋運動

ネパール・ルンビニ寺子屋プロジェクト

中間評価報告書

2010 年 10 月

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成人女性のための識字クラス テヌハワ寺子屋の外観

学んだ魚の養殖で収入向上 養蜂を実践する CLC学習者

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1.基礎情報

(1)事業の背景

ネパールでは、学校に行っていない子どもの数が 84.6万人(2000年)にのぼる。また、EFA グローバルモニタリングレポート 2003/4 によれば、初等教育の留年率は平均 24.0%(2000年)、5年生までの残存率は 62.2%(1999年)であり、2008年 11月時点での世界銀行の発表では、ネパールの 5年間の初等教育の修了率は 76%に留まっている。 同じく EFAグローバルモニタリングレポート 2003/4によると、2000年時点でのネパー

ルの成人識字率は 41.7%(男性:59.4%、女性:24.0%)であり、792 万人強が非識字者である(うち 63.9%が女性)。子どもだけでなく成人の非識字も、ネパールが今後発展していく上での大きな課題となっている。 ネパールで識字プログラムが行われるようになったのは 1956 年からで、1960 年代初期には成人向けの教育が強化され、識字教育と機能的識字教育1を併設することとなった。そ

の後数度成人向けの教育が強化されていったが、いつの時代も掲げられる教育政策が長続

きせず、新たなコンセプトで成人教育の取り組みが始まったかと思うと、半年くらいで途

切れてしまうことが繰り返されてきた。 また、住民のニーズに基づいて識字教育やノンフォーマル教育を実際に構築・実施する

にはそのための現地組織が必要であるが、ネパールにおける識字教育やノンフォーマル教

育には、この現地組織の欠如という深刻な課題がある。 さらに、住民のニーズを満たすには、職業や生活の質の改善と結びついた識字教育やノ

ンフォーマル教育が提供されること、成人非識字者だけでなく学校に通っていない子ども

たちにも有意味な教育が提供されることが必要である。 1996年以降、当協会連盟の現地カウンターパートである、ノンフォーマル教育ナショナルリソースセンター(NRC-NFE)はネパールにおける寺子屋(CLC:Community Learning Center)の発展に重要な役割を果たしてきた。NRC-NFEは、非識字を撲滅するために学校に通っていない子どもたちや成人に教育を提供し、村人のための収入向上プログラムや生活の質向上

プログラムと組み合わせた生涯学習を提供する上でCLCが効果的なメカニズムであることを示し、ネパール政府に対しても強く働きかけてきた。2009年現在、ネパール政府は 900の CLCを創設することを決め、最終的には1つの村落開発委員会につき1つの CLCを設置予定である。近年、ネパール政府は国から非識字をなくすための国家識字キャンペーンを宣言した。 日本ユネスコ協会連盟と NRC-NFEは 2002年4月、新たにルパンデヒ郡とカピルバストゥ郡

で、CLCプロジェクト(R&Kプロジェクト)を立ち上げ、識字と収入向上プログラムを組み合わ

1 単純なアルファベットや自分の名前が書けるだけでなく、家庭、コミュニティー、あるいは仕事場での、ある特定の目的のために理解をもって読み書きができること

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せたプロジェクトを通じて人びとの生活の質を改善してきた。日本ユネスコ協会連盟はプロジェ

クトに対し技術的・資金的支援を継続的に提供している。プロジェクトは、ルパンデヒ郡とカピ

ルバストゥ郡において、とくに女性や女児のための収入向上プログラムを、そして非識字の子

どもたちや青年、成人に識字教育と継続的な教育を提供することを目的に、計画立案し、実施

している。2005年の CLCプロジェクトの評価で、CLCを自立発展させるためにプロジェクトは次年度も継続すべきであることが明らかになったため、プロジェクトの第1フェーズ(2002年~2005年)は「ルンビニ CLCプロジェクト」の名で1年間延長された。プロジェクトの4年間の経験とルンビニ CLCプロジェクトにおける経験の共有ワークショップ(2006年 6月 25~27日)を基にして、プロジェクトの第2フェーズ「ルンビニ CLCプロジェクト」(2006~2009年)を 2006年8月から実施した。 事業実施地であるルパンデヒ郡にあるルンビニは釈迦の生誕地であり、世界中の仏教徒

や仏教文化にとって特別な地である。その重要性から 1970年代半ば以降、国際的機関によりこの地域の開発に多くの努力が注がれている。また、1997年には「仏陀の生誕地ルンビニ」として世界遺産リストにも登録された。しかし、大半が農民である住民の生活は依然

として非常に貧しく、その大部分が非識字者である。ルンビニの仏教的遺産や地域の歴史

的重要性を認識している人もごく少数に限られていると言わざるをえない。 一方、カピルバストゥも釈迦や仏教文化と縁深い地域であり、数々の歴史的に重要な遺

産を擁する地域である。しかし、ここもルンビニと同様、教育を含め生活水準の非常に低

い地域である。価値ある遺産を維持していくためには、これらの地域の住民を支援し、将

来的に住民自身が遺産の保護・保全を行えるようにしなければならない。 本プロジェクトは、これまでの我々の経験を基にして、カピルバストゥ郡とルパンデ

ヒ郡の住民を対象に、CLC を設置して識字教育や識字後教育の機会を提供しようとするものである。非識字者や学校に通っていない子どもたちが、知識を獲得しスキルを伸ばすこ

とを通じて、貧困緩和や生活の質の向上、そして地域住民(とくに女性や女児)のエンパ

ワーメントを図る。 CLCは学習の場であり、収入向上の技術を取得する場であり、日々の生活を組み合わせ、人びとが協働して生活の質を改善する、住民のニーズに応えた教育を計画し実施する上で

非常に有効なメカニズムとして、ネパール政府も認め、CLC の普及を国策の一つに掲げている。したがって本プロジェクトでは、全国の CLCに対するキャパシティ・ビルディング支援も行い、全土に CLCを普及させる国策に資することも目指している。

(2)事業の目的・概要

本事業は、「ネパール・ルンビニプロジェクト」としてルパンデヒ郡およびカピルバスト

ゥ郡で実施され、2002 年4月から 2006 年4月の第1フェーズ、およびそれを受け継いで実施された 2006年7月から 2009年8月までの第2フェーズから構成されている。両事業の目的や概要を以下の表1にまとめる。

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【表1-1 第1フェーズ概要】

(ⅰ) 対象国 ネパール連邦民主共和国

(ⅱ) 実施地 ルパンデヒ郡およびカピルバストゥ郡 (ⅲ) 実施期間 2002年 4月~2006年 4月(フェーズⅠ) (ⅳ) 事業目標 事業目標:CLC(コミュニティラーニングセンター)を設置し、識字教育および識字後教

育を推進する。 上位目標:住民自身が自分たちの貧困や低開発の原因に気づく。 自分たちで貧困をするためのプランやプロジェクトを計画・実施できる。 (ⅴ) 事業活動

1) ルパンデヒ郡とカピルバストゥ郡にそれぞれ 6CLC、計 12CLCの建設・設置 2) 識字教育および識字後教育の提供 3) 保健・衛生・栄養管理・家族計画・参加型意思決定・民主主義に関する、知識とスキルの提供

4) 農学・園芸・野菜栽培・畜産・漁業・家内工業に関する、生産的知識やスキルの提供

5) 貯蓄・融資グループの形成 6) 女性グループや社会的弱者グループの形成 7) 12CLCそれぞれにリソースルームや図書館の設置 8) 12の青年ボランティアセンターの設置

(ⅵ) プロジェクト実施機関 ‐ノンフォーマル教育ナショナル・リソースセンター(NRC-NFE) ‐社団法人日本ユネスコ協会連盟

【表1-2 第2フェーズ概要】

(ⅰ) 対象国 ネパール連邦民主共和国 (ⅱ) 実施地 ルパンデヒ郡およびカピルバストゥ郡 (ⅲ) 実施期間 2006年 7月 17日~2009年 7月 (ⅳ) 事業目標 事業目標:対象地域にモデルとなる CLCを設置し、担当行政官のキャパシティ・ビルディングを支援し、政策提言を行うことで、CLCの国内普及を図る。 上位目標:農村地域の貧困削減に貢献し、地域住民の生活の質を改善する。 (ⅴ) 事業活動

1) 新たな 6CLCの建設・運営 2) 国家 CLCプログラムの推進に対する支援 3) 既存の CLCに対する技術的支援

(ⅵ) プロジェクト実施機関 ‐ノンフォーマル教育ナショナル・リソースセンター(NRC-NFE) ‐社団法人日本ユネスコ協会連盟

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2.評価結果

(1) 妥当性

(a) 受益者のニーズとの一致

本事業の実施地であるカピルバストゥとルパンデヒはルンビニ県の中にあり、ネパール

の南端に位置している。テライと呼ばれるこの平原地帯は、ネパールの中で最も農業が盛

んな場所となっており、それに関連した工業も発達している。他方で、本事業の対象者は、

80%が小規模の農業2が主要な収入源であり、16%は小規模の商業や労働者として生計を立てており、ルンビニの社会では最下層に属している人びとである。 カピルバストゥの教育の状態をみると、初等教育学齢期である 6~10 歳のうち、23%は

学校に行く機会がなく、その 6 割を女児が占めている。また、同じ年齢期の退学率は 12%である。全国平均の就学率は 21%であり、また退学率は 21%となっている。 識字率(6歳以上)は、カピルバストゥが 66%(女性識字率は 29.3%)、ルパンデヒが 66.0%(女性識字率は 55.7%)であり、その中でも本事業の対象地区は、事業開始前の識字率が平均で 40%、女性の識字率は 22%と非常に低い状態にあった。 上記の状態に照らしてみると、本事業は受益者のニーズに合致していたといえる。 他方、両地区の事業対象の 8 割が少数民族であることを考慮すると、教授言語がネパール語であることの妥当性を検討する必要がある。プロジェクト実施地で話されている言語

は、ボジプリ語・タル語・アワディ語などであり、ネパールを母語とする人口は全体の 4割程度である。もちろんネパール語は公用語であるため、学習には最もふさわしいが、今

後世界の識字学習の流れを見つつ、母語による学習への支援も検討に値すると考えられる。

3

(b) 政府の施策との合致と NGOの役割 ネパールの貧困削減ペーパー(2003 年)および第 10 次国家計画(2002~2007 年)では、農村部における貧困削減と生活の質の改善は必要不可欠であり、教育はとくに重要な要素で

あると述べている。その上でネパールの教育政策は、①貧困層の利益に適うものを目指す、

②より現実的で信用の置けるものとなることを目指す、という性格を持つべきことである

と述べている。 とくに識字教育については、 • 恵まれない人びと(とくに女児、不可触民、障害児)の生活を改善するために識字プ

ログラムを拡張する。 2 プロジェクト対象村において農業に従事する人のうち、自営農が 43%から 70%、小作農が 4%から 15%、限られた土地しかなく、追加で土地を借りている農民が 26%から 38%である。 3 NRC-NFEは、UNESC バンコク事務所の支援により、試験的に母語による識字の教授を既に実施している。

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• CBO(Community Based Organization)や NGO(Non-governmental Organization)、現地組織とより一層協力して CLCを設置することにより、成人の識字率を上げることを謳っている。

ネパールには、政府機関を含め、NGOである NRC-NFE以外にノンフォーマル教育を専門とする人材と技術の蓄積を持った地元の組織はない。したがって、本事業の実施団体で

ある NRC-NFE が中心となって、ネパールにおけるノンフォーマル教育普及を目指し、ネパールのノンフォーマル教育政策をも牽引していると言っても過言ではない。

(2) 事業進捗とその効率性

本事業のフェーズⅠは 2002 年から開始し 2006 年に終了した。またフェーズⅡは 2006年に開始し 2009年7月に終了した。 ネパールでは 1996 年にネパール共産党が王政打破を唱えて武力を交えた闘争に入り、2001年からはその状況が激化した。また政府内部でも当時の国王による弾圧政治と政変が続き、混乱が生じていた。 その真っ只中で始まった本事業ではあるが、幸い紛争に巻き込まれることもなく進捗し

た。 (a) CLC の運営組織

CLCを運営する CLC運営委員会は 9人から 11人のメンバーから成り、3年に一度交替する。委員は地域の長老や指導者層、地方政府の代表、女性、学校教員、ソーシャルワー

カーなどで構成されている。CLC 運営委員会メンバーへのトレーニングも設置された 12の CLC全てで実施した。 CLC の運営規則(定款)は、CLC がおのおの作成したものを使用している。CLC の会議は月ごとの定例ミーティングに加え、必要に応じた内容のミーティングを別途開いてい

るが、ボランティアであるが故にミーティングに定期的に出席できない運営委員もいるよ

うである。 CLC運営委員会は、CLCの計画策定や委員会の下部組織の活動、その他の CLCの活動に関わっているが、このような参加は、CLC がなかった以前には村では見られなかったものであり、村にさまざまな変化を引き起こしている(p9-11)。 CLCの運営委員会は、2007年に始まった組織化がすでに終了し、CLCと VDC(Village Development Committee)のほかの組織との協議も毎年開催されている。実質的な活動を続けており、CLCのマネジメントは十分なレベルに達しているといえる。 (b) 教員の雇用とトレーニング

CLCでの授業にあたる教員の雇用と選定には、CLCと本事業実施組織である NRC-NFEの地域事務所のスタッフがあたっており、一部の教員は政府から派遣されている。 教員のトレーニングはすべて NRC-NFE が行っている。職業訓練と退学した子どものた

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めのクラスを受け持つ教員の訓練は、NRC-NFE が直轄で行っている。また識字クラスの教員は政府があたることとなっているが、結局は人材不足の為、NRC-NFE が請け負う形で実施している。 CLCの教員に必要な資格は8学年(日本で言えば中学2年生)卒業であるが、NRC-NFEがこの資格を満たす教員を雇用するのは困難ではない。 (c) 寺子屋の建設

2002年からの 2008年までに 8軒の寺子屋(CLC)がルンビニのカピルバストゥおよびルパンデヒ群で完成した(2009 年 8 月にはさらに4軒が完成し、合計 12 軒の寺子屋が運営されている)。

(3) 有効性

(a) 識字状況改善への貢献

本事業は 2002年度の開始時期から 2008年度末までに、識字クラスを 207クラス、識字後クラスを 153クラス、成人女性のための識字クラスを 106クラス、成人女性のための識字後クラスを 33クラス、計 593クラス開講している。識字クラスの学習者数は、4,751人(うち女性が 3,869人)、識字後クラスの学習者数は、3,369人(うち女性 2,930人)、成人女性のための識字クラスの学習者数は 2,166 人、成人女性のための識字後クラスの学習者数は 625人となっている。

2007/08年度では、識字教育(基礎コース)を受講して最後まで学習を終えた 1,652人のうち、1,644 人が卒業テストに合格し、識字者となった人の率は 99.52%という高い数字になっている。またドロップアウトしたのは 28人で、ドロップアウトの率は 1.67%と非常に低い。 本事業の実施村 12村で、どれだけの識字者が生まれたかについて、表 1(p9)に取りまとめた。全体では、男性の非識字率は 43%から 40%に減少し、女性の非識字率も 78%から 40%に減少している。とくに減少率が大きいのは、マドバニ、クダバガール、テヌハワ、パタリヤの各村で、65-67ポイントも非識字率が改善している。 以上のように、本事業は対象村の非識字の状況を、女性を中心に大きく改善したこと

がわかる(表1および表3参照)。

(b) 学校を退学した子どもへの貢献

本事業では、初等教育段階での退学が非識字者を再生産していることを問題視し、小

学校を退学してしまった子どもたち対象のクラスも開講している。事業開始から 2007/08年度末までに、行われたクラスの数は 210クラス、5,552人が学習し、うち 3,105人が女性であった。 学校を退学した子どもの数については毎年調査されているわけではないため、各村へ

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の貢献を測るのは難しい点もあるが、本コースを開始した 2002年の実績を見ると、対象地域で総計 3,046 人の学校を退学した子どもがいたが、これに対して 742 人(24%)の子どもたちが、CLCにおいて「学校を退学した子どものためのクラス」に参加している。 またこれまでの累計で、1,397人の子どもたちが小学校に編入することが可能となった。以上の数字から、本事業が対象村の学校へ行っていない子どもの学習状況の改善に寄与

していると言えよう。

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【表1】 各村における識字率の改善

ルパンデヒ郡

村名 Madhubani Khudabagar Tenuhawa Ekala Bhagwanpur L. Adarsha 男/女 男 女 男 女 男 女 男 女 男 女 男 女

事業開始時の各村の 15 歳以上人口 1,725 1,603 1,410 1,197 1,625 2,391 3,046 2,703 3,329 2,957 3,068 2,797

事業開始時の各村の 15 歳以上非識字人口 644 1,250 535 1,019 1,165 1,971 1,041 2,064 1,446 2,320 1,096 2,048 事業開始時の各村の 15 歳以上非識字率 37% 78% 38% 85% 72% 82% 34% 76% 43% 78% 36% 73% 2007/08 年度末の各村識字クラス卒業者数 53 1,075 71 787 35 1,544 142 447 25 624 73 496 本事業により改善された各村非識字率* 34% 11% 33% 19% 70% 18% 30% 60% 43% 57% 33% 55% * 経年による人口変化や初・中等教育修了者数の変化などは除外して計算したもの。

カピルバストゥ郡

村名 Patariya Rajpur Fulika Labani Pakadi Tilaurakot 男/女 男 女 男 女 男 女 男 女 男 女 男 女

事業開始時の各村の 15 歳以上人口 1,977 1,786 1,226 1,112 1,923 1,759 2,074 1,961 1,964 1,649 2,565 2,438 事業開始時の各村の 15 歳以上非識字人口 900 1,443 680 917 1,034 1,546 1,044 1,554 682 1,188 892 1,585 事業開始時の各村の 15 歳以上非識字率 46% 81% 55% 82% 54% 88% 50% 79% 35% 72% 35% 65% 2007/08 年度末の各村識字クラス卒業者数 21 1,188 250 627 138 787 30 955 49 287 25 466 本事業により改善された各村非識字率* 44% 14% 35% 26% 47% 43% 49% 31% 32% 55% 34% 46% * 経年による人口変化や初・中等教育修了者数の変化などは除外して計算したもの。

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【表2】 8 歳~14 歳までの学校を退学した子どもクラス

ルパンデヒ郡

村名 Madhubani Khudabagar Tenuhawa Ekala Bhagwanpur L. Adarsha

各村での学校を退学した子ども数 2002/03 ベースライン調査時) 302 368 836 N.A. N.A. N.A. 各村で寺子屋で学んだ退学した子どもの数 2002/03 107 120 120 - - -

各村で寺子屋で学んだ退学した子どもの数 2003/04 108 119 104 - - - 各村で寺子屋で学んだ退学した子どもの数 2004/05 103 115 110 - - - 各村で寺子屋で学んだ退学した子どもの数 2005/06 48 51 53 - - - 各村で寺子屋で学んだ退学した子どもの数 2006/07 - - - 75 87 77

各村で寺子屋で学んだ退学した子どもの数 2007/08 - - - 84 75 75 退学した子どもクラス開始以来小学校に編入できた子どもの数 170 567 131 5 26 14 カピルバストゥ郡

Patariya Rajpur Fulika Labani Pakadi Tilaurakot 各村での学校を退学した子ども数 2002/03 ベースライン調査時 529 354 657 N.A. N.A. N.A. 各村で寺子屋で学んだ退学した子どもの数 2002/03 169 114 112 - - - 各村で寺子屋で学んだ退学した子どもの数 2003/04 171 211 145 - - - 各村で寺子屋で学んだ退学した子どもの数 2004/05 162 109 104 - - -

各村で寺子屋で学んだ退学した子どもの数 2005/06 52 46 50 - - - 各村での学校を退学した子ども数 2006/07ベースライン調査時 N.A. N.A. N.A. 554 322 317 各村で寺子屋で学んだ退学した子どもの数 2006/07 - - - 84 75 82 各村で寺子屋で学んだ退学した子どもの数 2007/08 - - - 64 75 85 退学した子どもクラス開始以来小学校に編入できた子どもの数 201 127 N.A. 63 45 48

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【表3】 プロジェクト対象村における非識字率の変化

非識字率の変化(2002-2008)

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

100

マドバニ

男性

マドバニ 

女性

クダバガール 

男性

クダバガール 

女性

テヌハワ 

男性

テヌハワ 

女性

エカラ 

男性

エカラ 

女性

バグワンプール 

男性

バグワンプール 

女性

L

・アダルシャ 

男性

L

・アダルシャ 

女性

パタリヤ 

男性

パタリヤ 

女性

ラジプール 

男性

ラジプール 

女性

フリカ 

男性

フリカ 

女性

ラバニ 

男性

ラバニ 

女性

パカディ 

男性

パカディ 

女性

ティラウラコット 

男性

ティラウラコット 

女性

プロジェクト前

2008年

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(c) その他のクラス

本事業では、農業や畜産に特化したクラスも行っており、例えば 2007/08 年度には、12の野菜栽培と山羊の飼育のクラスが開かれ、231人(うち女性が 152人)が学習した。 (d) 学習者の意識の変化

本事業が学習者にどのように意識の変化をもたらしたかについて、インタビューを行っ

た。このなかでは、 ・ 学習者は、他の食物に加えて野菜を食べるようになり、子どもたちにも与えるようにな

った。 ・ 卒業生は子どもたちの教育により関心を払うようになり、子どもたちを学校や退学児童

プログラム(OSP :Out of School Program)クラスに通わせるようになった。 ・ 学習者が彼ら自身の衛生や家や家の周辺の清潔さを意識するようになった。 ・ 学習者はよりエンパワーされ、家族の前で自分の意見を述べたり意思決定のプロセスに

参加できるようになった。これらのことから、家族内での彼女らの地位が向上した。 ・ 学習者が社会的活動により積極的になり、コミュニティ開発活動に参加するようになっ

たことで、彼らの社会的地位が確立されるようになった。 などの点が挙げられている。

これらは、学習者全体にアンケートを行ったわけではなく、学習者の一部の声を限定的

にピックアップしたものであるが、本事業が学習者の意識をポジティブなものに変えつつ

あるという傾向はうかがえる。 2009 年9月に来日したシャンティ・シャヒ氏(ラージプール CLC の活動や運営を担当するソーシャル・モビライザー・女性)は、結婚を機に移り住んだラージプール村の CLC開始以前の様子について次のように述べている。「村の深刻な非識字の状況、村の貧困、そ

して村人の生活に失望した」具体的には、

‒ 多くの女の子や女性は字の読み書きができない ‒ 約 75%の人びとが自分の名前さえ書けない ‒ 女の子や女性が自由に外出できない ‒ 女の子や女性には男性のようには成功できない ‒ 女性には個人としてのアイデンティティがない ‒ 大部分の女性は布で自分たちの顔を隠す必要があった ‒ 病気の時でさえ、医療サービスを受けられない ‒ 電気や道路がない

これが 2009年になると、次のような変化が見られるようになったという。

‒ 村の人びとが発展のために教育が重要であると気づくようになった ‒ 非識字者が識字クラスを通じて字の読み書きを習得した ‒ 学校に行けない子どもたちが寺子屋で学べるようになった ‒ 多くの女性が収入向上プログラムに参加した ‒ 女性が自分たちの権利に気づくようになった ‒ CLCのプログラムに参加する女性の数が増加した ‒ 女の子や女性が社会活動に参加するようになった ‒ 女性のリーダーが増加し、自分たちのアイデンティティを確立した

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‒ 村人が診療所に行くようになった ‒ 自分たちの衛生、健康法などに気をつけるようになった ‒ トイレを使う村人の数が増加した ‒ 安全な飲み水が利用するようになった ‒ 電気がとおり、村人により道を舗装し、利用できるようになった?

(e) 収入向上グループの形成

本事業では、学習者および学習者の家族の収入を改善するために、各種収入向上グルー

プを形成した。表3に各年でのグループの形成状況を一覧にした。 2002/03年度では、グループ総数が 38、参加人数は 606人(うち女性が 307人)であったものが、2007/08年度になると、グループ総数は 122、参加人数も 1,919人(うち女性が 1,167人)と、3倍に増加している。 またグループの種類は、当初が 6種類であったものが、2007/08年には 11種類に増加しており、順調に成長していることが伺える。

【表4】 収入向上グループおよびグループ参加者数の推移(人) 2002~2008

0

20

40

60

80

100

120

140

2002-2003

2003-2004

2004-2005

2005-2006

2006-2007

2007-2008

0

500

1000

1500

2000

2500

収入向上グループ数

グループ参加者数

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【表5】 収入向上グループ

2002/2003 2003/2004 2004/2005

グループ種別 グループ数 男 女 計 グループ数 男 女 計 グループ数 男 女 計

女性貯蓄信用 9 - 211 211 9 - 235 235 10 - 250 250

蔬菜栽培 19 221 75 296 24 316 122 438 25 340 126 466

養鶏 1 11 6 17 3 20 27 47 3 20 27 47

鳩 - - - - 1 7 - 7 1 7 - 7

収入向上 - - - - - - - - - - - -

山羊 - - - - - - - - 5 1 93 94

魚 3 21 - 21 5 35 35 5 36 - 36

水牛 4 35 8 43 4 34 7 41 4 34 7 41

養蜂 2 11 7 18 2 11 7 18 2 17 9 26

バナナ栽培 - - - - - - - - 1 13 2 15

養豚

計 38 299 307 606 48 423 398 821 56 468 514 982

2005/2006 2006/2007 2007/2008

グループ種別 グループ数 男 女 計 グループ数 男 女 計 グループ数 男 女 計

女性貯蓄信用 11 - 259 259 25 - 464 464 21 - 394 394

蔬菜栽培 25 340 126 466 38 499 212 711 42 414 292 706

養鶏 3 20 27 47 4 33 29 62 3 32 7 39

鳩 1 7 - 7 1 7 - 7 1 7 - 7

収入向上 - - - - - - - - 9 96 125 221

山羊 7 36 93 129 18 71 196 267 29 69 286 355

魚 5 36 - 36 5 36 - 36 6 44 9 53

水牛 4 34 7 41 5 36 25 61 5 41 29 70

養蜂 3 33 9 31 3 22 9 31 3 15 13 28

バナナ栽培 2 23 2 25 2 23 2 25 2 24 2 26

養豚 - - - - 1 10 10 20 1 10 10 20

計 61 518 523 1041 102 737 945 1684 122 752 1167 1919

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3.効率性 事業内容が確定しているフォーマル教育と比べて、ノンフォーマル教育の事業内容は非

定型であり、フォーマル教育のように事業の効率性を示すことが困難な場合や不適当な場

合もある。ここでは参考までに学習者1人当たりにかかった経費を算出した。本プロジェ

クトでの学習者一人にかかる年間の経費は、平均で 2,113ルピー、日本円で約 3,169円4で

ある5。 【表6】 受益者 1 人当たりのコスト 2002-03 年度から 2007-08 年度

2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 2007年度 支出 11,821,500 14,159,600 11,263,600 6,049,736 9,868,220 12,395,580受益者数 2,416 5,575 4,709 2,923 6,036 6,791受益者あた

り コ ス ト

(ルピー)

4,893 2,540 2,392 2,070 1,635 1,825

受益者あた

り コ ス ト

(円)

7,340 3,810 3,588 3,105 2,452 2,738

4 1ルピー=1.5円で計算 5 2002年度から 2007年度までの平均値

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4.インパクト 本事業では、教育プロジェクトを通じて事業実施地域の人びとの生活を向上させるとと

もに、CLCを政府の教育政策のなかに位置づけ、発展させることを目的としている。 (a) 学習者の生活の変化

ネパールのケースでは、各種の収入向上グループの活動が学習者の生活の変化にインパ

クトを及ぼしている。以下、代表的なグループの活動を紹介したい。 - 野菜栽培グループ 野菜栽培を始める以前は、野菜を食べる習慣もあまりなく、あったとしても家庭内で

の消費にほぼ限られていた。そのため商品として野菜が市場に出回ることがほとんどな

かった。 現在は 40の野菜栽培グループが形成され、660人(うち 274人は女性)が所属している。主要な作物は、玉ねぎ、カリフラワー、キャベツ、ニガウリ、トウガラシ、ナス、

豆類、キュウリ、ニンニク、トマトなど、以前と比べてはるかに多様な野菜を栽培する

に至っている。 識字クラスなどで野菜を食すことの重要性を訴えてきたこともあり、家庭で食べる機

会も多くなってきている。また、家庭内の消費だけでなく、栽培した野菜を市場に供給

できるようになりつつある。 販売用野菜については、今回の調査で一家庭につき平均 3,000ルピーのコストに対し、17,000ルピーを売り上げるようになったことが明らかになった。

- 山羊飼育グループ 山羊の飼育グループがつくられる前は、労働力として水牛や牛を飼っている人はいて

も、山羊を飼育している人はほとんどいなかった。たとえ山羊を飼育していても、研修

の機会がなく、効率的な飼育はできなかった。 現在 29の山羊飼育グループが形成され、354人(うち女性 285人)がメンバーとなっている。CLC が市価の半額で雌山羊を提供するほか、種山羊を巡回で貸し出し、子山羊が生まれたら(18 カ月でだいたい4匹の子山羊が生まれる)、CLC に一匹を戻すという方法を採っている。 平均してコスト 2,500ルピーに対し、11,500ルピーの売り上げを得ている。

- 貯蓄・信用グループ 収入向上グループでは、それぞれのメンバー間で毎月 10 ルピーから 80 ルピーを貯蓄し、貸付に当てている。貯蓄と貸付を専用に行うグループもあり、現在 122グループに、1,919人(うち女性 1,167人)が所属している。 貯蓄・貸付グループの貸付の対象は、収入向上グループ、もしくは小規模の収入向上

を目指すグループのメンバー個人のいずれかである。野菜栽培、山羊飼育、水牛飼育、

バナナ栽培、魚の養殖、養蜂、小規模の商売などに対して 5,000~10,000 ルピーを貸付け、諸費用を除いた 30~35%の利潤をグループとして得ている。 貯蓄・貸付については統計がないので、正確な数字は出せないが、この貯蓄・貸付を

利用した人の追加収入は 10,000~20,000ルピー程度と思われる。 各種収入向上事業で村人の収入が増加した結果、 ・ 子どもを学校に通わせる家庭が増えた。

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・ 保健、衛生、環境、犯罪、市民の権利などへの意識が向上した。 ・ 識字によって自信を得ると同時に社会にも目を向けるようになり、村の問題を話し合

えるようになった。 などの変化が現れているという。ただし、包括的なアンケートやインタビューによった

情報ではないので、村全体としてのインパクトを判断するには、より広範囲な調査が必要

である。 (b) 政府の政策へのインパクト

この事業では、カピルバストゥとルパンデヒにノンフォーマル教育のモデルとして CLCを設置し、その後政府がこの事業のノウハウを活かした形で CLCを全国に広げていくという目的がある。 これまで、政府が識字・ノンフォーマル教育についての継続的な政策や施策を打ち出せ

ず、例え新しい企画に着手しても数カ月で頓挫してしまうような状況が繰り返されてきた

なかで、本事業が 2002年~現在まで7年間、識字とノンフォーマル教育のデリバリーメカニズムのモデルとしての実績を積んできたことが、ようやく政府にも認識されつつある。

とくに長年の政治的混乱から脱し、ネパール政府が国家発展に再着手しようとしているな

かで、ネパール教育省では、ネパールの識字問題を解決する為に、CLC モデルを施策として採用し、これまでに 850の CLCを設置している。全ての人にノンフォーマル教育への公正なアクセスを保障するために、教育活動の拠点として CLCを発展させることが政府の教育政策にも明記されている6。 今後政府はネパール全土に約 4,000 ある VDC(村落開発コミティ=村に相当する)に一つずつ CLCを設置することを計画している。 このように本プロジェクトは、他にノンフォーマル教育に専門性をもった組織が存在し

ないなか、ネパール政府のノンフォーマル教育施策にモデルを提供するための中核的な役

割を果たしている。

6 Government of Nepal, Ministry of Education and Sports Non-Formal Education Centre(2006) Non-Formal Education Policy 2063 (2006 AD)

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5.継続性・自立発展性 ネパールのCLC事業がどのように継続性と自立発展性を確保しようとしているかについてみてみたい。 CLCは基本的にノンフォーマル教育局に登録していくという方式をとっているが、CLCが登録されると、1年間に 50,000ルピーが交付され、政府実施の識字クラスの場合には政府から識字教員が派遣される。現在 12ある CLCのうち 6つの CLCが政府に登録されており、残りも今後登録に向けて活動中である。その他、各 CLC では会員を募り会費を徴収、CLCの部屋やイス・テーブル・楽器などの貸出し、といった方法で資金調達を行っている。 これらの資金調達方法でどの程度の CLC の支出入をバランスさせているかについて、NRC-NFEは試算を行っておらず、今後この面の強化が必要である。 事業実施団体としての NRC-NFE は、財務状態がきわめて脆弱であるといわざるをえない。会計報告書によると、2007年度は全収入の約 96.3%(2008年度では約 98.4%)を日本ユネスコ協会連盟からの資金に依存している。そのため、支援を終了後、当団体自体が

自立していけるように、今から資金獲得を計画していく必要があろう。

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6.総括 以上、プロジェクトレベルの評価の諸点をまとめ、本事業については以下のように総括

する。 (a) 識字教育面での有効性

CLC(寺子屋)は、学校に行けない子どもや成人女性に識字をはじめとした教育の機会を提供し、とくに成人女性の識字率向上には大きく寄与をしている。また、野菜栽培や

山羊の飼育などの職業訓練を通じてプロジェクト地域の人びとの収入向上にも寄与し

ている。 (b) 政府の教育政策への反映

NRC-NFE の活動はネパール政府の刊行物に取り上げられるなど7、その経験や専門

性は行政サイドからも高く評価されており、政府による CLC 拡大政策に大きな影響を及ぼしたと言える。政府からは今後の展開についても助言や人材育成を担うよう求めら

れるなど、CLCの全国的な普及への期待は今後も高まると想定される。 (c) 自立発展性

第3フェーズ(2009年 7月~2012年7月)の支援以降は基本的には現地の人びとの自主的、かつ独自の資金で寺子屋が運営されることを目標としている。 そのため、寺子屋運営委員の能力開発を定期的に行っているが、運営委員自身の自立

に向けた意識や取り組みは十分とはいえない。 何よりも寺子屋事業を実施する NRC-NFEの財務基盤の強化が、今後のプロジェク

トの継続にとって不可欠である。ネパール政府からの資金援助や他の NGOからの資金調達、プロジェクト地における CLC の活動によって生み出された資金(山羊の飼育や野菜栽培、ローン・グループの利子などの収入)の一部を寺子屋運営資金に充当するこ

と、さらなる会員の獲得など包括的な計画・実施が必要である。

7 Non Formal Education Centre, Community Learning Center in Nepal An overview

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7.教訓・提言 (1) 教訓

モデル CLCの設立と教育政策への反映

当プロジェクトの意義と成果が政府の教育政策に反映されるようになった背景には、

パートナー団体であるNRC-NFEのノンフォーマル教育の実践およびCLCの経験や専門性がある。さらに、NRC-NFE代表である T.M.サキヤ氏や、ディレクターである D.シュレスタ氏はこれまでの職歴から、教育行政へのネットワークや影響力を持つことも理由

として考えられる。 今後とも、これまで以上にモデル CLCの設立をはじめ、ノンフォーマル教育の重要性をネパール政府の政策に反映させるためには、現場での経験や専門性にとどまらない政

府レベルとの一定のパイプが必要である。このことは、今後新規事業を現地NGOと協

働する場合においても同様である。 (2) 提言

プロジェクトの持続性のために (ユネスコ世界寺子屋運動に関して)

ネパール政府は、全国展開していながら停滞状態にあった CLC の再活性化を計画しており、そのモデルとして本事業の成果を活用したいと考えている。しかし、CLC が全国的に普及したとしても、それら CLC が実質的に活動できるか否かが明確でないケースもある。 実効ある活動を根付かせるためにも、今後は、教育省が他の地域で CLC 活性化を試

みる際に、参加型の CLC が成立しているか、資金や運営のためのリソースが適正に配分されているかなど、CLC 運営の鍵となるコンセプトを適宜技術支援していくような仕組みを整えていくことが望ましい。

以上