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16 PFU Tech. Rev., 23, 1,pp.16-24 (05,2012) エンベデッド製品のカスタマイズ事例 Case Study of Embedded Product Customization PFU は顧客要求の開発期間短縮,省スペース化,設置互換を図るために,システム オン モジュール(小型 CPU モジュール)を搭載したカスタム(特注生産)製品を開発してきた.ここでは PFU が顧客装置をカスタム 化するために提供しているエンベデッド製品とシステム オン モジュールを紹介し,システム オン モジュールを 使用したカスタマイズ事例について解説する. We develop customized products (custom-ordered products) in which a System-On-Module (small CPU module) is installed to meet our customer's requests to shorten development time, save space, and ensure installation compatibility for their desired products. This report introduces our embedded products that are used to customize products for customers and our System-On-Module. This report also provides a customization case study on using a System- On-Module. 1 まえがき PFU は顧客装置のカスタマイズ生産に対応するため 2001 年に開発,製造から保守まで一貫したサービスと して提供する ProDeS サービスを立ち上げ,それ以降 手のひらサイズの携帯端末からラック搭載の大型ネット ワーク装置に至る様々な顧客要件に沿った装置を開発し てきた.BIOS,OS についても顧客要望の機能組込み のサービスを提供し,ソフトウェア面からも ProDeS サービスを提供してきた 参1) それと平行して顧客装置への組込みに向けた幅広い分 野に合ったシステム オン モジュールの開発も,自主ビ ジネスとして進めてきた. 今回は ProDeS サービスとシステム オン モジュー ル開発で培ってきた技術を融合して開発したエンベデッ ド(組込みコンピュータ)製品のカスタマイズ事例につ いて紹介する. 2 エンベデッド製品の概要と特長 2.1 エンベデッド製品の概要 今日,工作機械,半導体製造装置,医療機器,通信機 器など,様々な装置の制御にコンピュータが使われてい る.このような用途で使用されるコンピュータは,性能, 機能,形状,供給などの面で,それぞれ要件が異なり, 汎用の PC では対応できないものが大半を占める. PFU ではこれらの用途に対応して,表-1の各種エ ンベデッド製品を提供している. PFU は 50 年を超えるコンピュータの開発経験と最 先端技術を融合して,顧客の要望に対応したエンベデッ ド製品を提供している. 性能・品質・信頼性において高いクオリティを誇る PFU エンベデッド製品は,様々な分野で導入されてお り,工作機械や半導体製造装置を始め,プラント監視機 器や通信装置など止まらないことを要求されるミッショ ンクリティカルな分野にも多数の採用実績がある. 主な適用分野は工作機械,半導体製造装置,マシンビ 青木 弘 * Hiroshi Aoki 笹田泰嘉 ** Yasuyoshi Shinoda 中村洋次郎 * Youjirou Nakamura 花本英二 * Eiji Hanamoto 首藤直樹 * Naoki Syutou 番井昭彦 *** Akihiko Ban-i 宇都宮 智 *** Satoshi Utsunomiya 北 晋一 *** Shin-ichi Kita * ProDeS グループ システムプロダクト事業部 第三技術部 ** ProDeS グループ システムプロダクト事業部 第一技術部 *** ProDeS グループ 開発技術統括部 第一開発部
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エンベデッド製品のカスタマイズ事例 - Fujitsu · 2012-05-18 · 16 PFU Tech. Rev., 23, 1,pp.16-24 (05,2012) エンベデッド製品のカスタマイズ事例 Case

Aug 14, 2020

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16 PFU Tech. Rev., 23, 1,pp.16-24 (05,2012)

エンベデッド製品のカスタマイズ事例Case Study of Embedded Product Customization

PFU は顧客要求の開発期間短縮,省スペース化,設置互換を図るために,システム オン モジュール(小型

CPU モジュール)を搭載したカスタム(特注生産)製品を開発してきた.ここでは PFU が顧客装置をカスタム

化するために提供しているエンベデッド製品とシステム オン モジュールを紹介し,システム オン モジュールを

使用したカスタマイズ事例について解説する.

We develop customized products (custom-ordered products) in which a System-On-Module

(small CPU module) is installed to meet our customer's requests to shorten development

time, save space, and ensure installation compatibility for their desired products. This report

introduces our embedded products that are used to customize products for customers and our

System-On-Module. This report also provides a customization case study on using a System-

On-Module.

1 まえがきPFU は顧客装置のカスタマイズ生産に対応するため

2001 年に開発,製造から保守まで一貫したサービスと

して提供する ProDeS サービスを立ち上げ,それ以降

手のひらサイズの携帯端末からラック搭載の大型ネット

ワーク装置に至る様々な顧客要件に沿った装置を開発し

てきた.BIOS,OS についても顧客要望の機能組込み

のサービスを提供し,ソフトウェア面からも ProDeS

サービスを提供してきた参1).

それと平行して顧客装置への組込みに向けた幅広い分

野に合ったシステム オン モジュールの開発も,自主ビ

ジネスとして進めてきた.

今回は ProDeS サービスとシステム オン モジュー

ル開発で培ってきた技術を融合して開発したエンベデッ

ド(組込みコンピュータ)製品のカスタマイズ事例につ

いて紹介する.

2 エンベデッド製品の概要と特長2.1 エンベデッド製品の概要

今日,工作機械,半導体製造装置,医療機器,通信機

器など,様々な装置の制御にコンピュータが使われてい

る.このような用途で使用されるコンピュータは,性能,

機能,形状,供給などの面で,それぞれ要件が異なり,

汎用の PC では対応できないものが大半を占める.

PFU ではこれらの用途に対応して,表-1の各種エ

ンベデッド製品を提供している.

PFU は 50 年を超えるコンピュータの開発経験と最

先端技術を融合して,顧客の要望に対応したエンベデッ

ド製品を提供している.

性能・品質・信頼性において高いクオリティを誇る

PFU エンベデッド製品は,様々な分野で導入されてお

り,工作機械や半導体製造装置を始め,プラント監視機

器や通信装置など止まらないことを要求されるミッショ

ンクリティカルな分野にも多数の採用実績がある.

主な適用分野は工作機械,半導体製造装置,マシンビ

青木 弘 *Hiroshi Aoki

笹田泰嘉 **Yasuyoshi Shinoda

中村洋次郎 *Youjirou Nakamura

花本英二 *Eiji Hanamoto

首藤直樹 *Naoki Syutou

番井昭彦 ***Akihiko Ban-i

宇都宮 智 ***Satoshi Utsunomiya

北 晋一 ***Shin-ichi Kita

* ProDeSグループ システムプロダクト事業部 第三技術部** ProDeSグループ システムプロダクト事業部 第一技術部*** ProDeSグループ 開発技術統括部 第一開発部

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エンベデッド製品のカスタマイズ事例

ジョン,医療機器,プラント監視機器,通信機器,セキュ

リティ装置,店舗システム,自動販売機がある.

以降,エンベデッド製品の一つのシステム オン モ

ジュールを取上げ,その概要,採用によるメリット,シ

ステム オン モジュールを採用に合せて開発が必要とな

るキャリアボード開発に対するサポートや開発サービ

ス,並びに最新製品ラインナップの概要を説明する.

また,カスタム製品での顧客要望対応範囲の概略も説

明する.

2.2 システムオンモジュールとカスタマイズ製品2.2.1 システムオンモジュールAM100シリーズ

システム オン モジュールとは,CPU,チップセッ

トなどの主要なコンポーネントを小型パッケージに凝

縮した小型モジュール製品(125mm × 95mm)であ

り,PICMG が制定した組込み向け CPU モジュール規

格 COM Express に準拠している.

顧客の仕様に合わせて,必要なインターフェース,デ

バイスを搭載したキャリアボードと組み合わせることに

より,マザーボードの機能を実現している(図-1参照).

(1) システム オン モジュール採用によるメリット

顧客がカスタムボードを開発する際にシステム オン

モジュールを採用することにより,以降のメリットがあ

る.

1) 開発期間,費用やリスクの低減

CPU やチップセット,メモリ等,高速で設計難易

度の高い部分の開発が不要となるため,開発期間,費

用,リスクの低減が図られ,差別化となるコア技術の

開発にリソースを集中することができる.

CPU だけでなくチップセットが変わった場合でも

モジュールを交換するだけで容易にアップグレードが

可能(デバイスドライバの変更は必要).

2) 小型で省電力のシステム構築

小型モジュールを使用することにより小型のシステ

ムが構築できるとともに,低消費電力設計により省電

力システムの構築が可能.

3) 業界標準規格 COM Express に準拠

システム オン モジュールは,組込み向け CPU

モジュール規格 COM Express に準拠している.

COM Express に準拠した製品は,多数のベンダー

から提供されている.

顧客は標準規格製品として,将来にわたって安心し

て使用することができる.

(2) キャリアボード開発における手厚いサポートや開

発サービス

システム オン モジュールを使用する場合,顧客の仕

様に合わせたキャリアボードの開発が必要となる.

PFU では,キャリアボードを開発される顧客に以下

の手厚いサポートを提供している.

また,PFU が顧客仕様のキャリアボードを開発,製

造するサービスも提供している.

1) エンジニアの直接サポート

顧客のキャリアボード開発における,様々な問題

点や疑問点について,経験豊富な PFU のエンジニア

が迅速に答え,顧客のキャリアボード開発を強力にサ

ポート.

2) 評価ボードの提供

顧客によるモジュールの評価やアプリケーションを

◆表 -1 PFUのエンベデッド製品ラインナップ◆

区分 概要

システムオンモジュールAM100シリーズ

PICMG※1標準規格 COMExpress※1

に対応した組込み用小型モジュール

ボードコンピュータAM500シリーズ

産業機器,通信機器向け標準規格CompactPCI 準拠の産業用途向けボードコンピュータ

組込みコンピュータARシリーズ

設置場所を選ばないコンパクトなAR2000 シリーズ,豊富な拡張性とスケーラビリティを持つ AR8000 シリーズ

カスタム製品 顧客の要望を高次元で実現するカスタム製品

※1 PICMG(PCI Industrial ComputerManufacturersGroup)は,高性能テレコミュニケーションと産業コンピュータの利用のために,オープンな標準規格を開発することを目的に,450 を超える企業が参画する団体である.これまでに,CompactPCI,AdvancedTCA,COMExpress などを標準規格化した実績がある.

  COMExpress は,PICMGが制定した組込み向けCPUモジュール規格で,I/O 部を持ったキャリアボードと組み合わせることで,マザーボード機能を実現可能である.PCIExpress,シリアルATA等高速インターフェースに対応している.

◆図 -1 システムオンモジュールコンセプト◆

(Fig.1-System-On-Moduleconcept)

システム オン モジュール(COM Express 対応)をご提供※CPU,チップセット,メモリ搭載済み

キャリアボードのみの開発※必要なインターフェース,デバイスを搭載

顧客

PFU

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エンベデッド製品のカスタマイズ事例

PFU Tech. Rev., 23, 1, (05,2012)

先行開発するための評価ボードを提供.

3) 充実したマニュアル

充実した内容のマニュアル,およびキャリアボード

設計において重要な参考回路図や熱設計の指針を記載

したデザインガイドを提供して,顧客の短期開発を支

援.

4) 安心のソフトウェアサポート

OS(Windows®注1),Linux)及び BIOS カスタ

マイズによる柔軟な対応に加え,PFU 製の監視ソフ

トウェア EmbedWare/SysMon®注2)により,リモー

トシステム監視・電源制御機能を提供.

(3) システム オン モジュールの製品ラインナップ

PFU では 10 年以上にわたってシステム オン モ

ジュール製品の提供を行っており,累計出荷台数は 33

万台を超える.COM Express に準拠した製品では国

内シェア No.1注3)を誇る.

充実した製品ラインナップを取りそろえ,顧客の要望

に幅広く対応している.表-2に主な製品を示す.

(4) システム オン モジュールの今後の計画

昨年,COM Express の新規格“Revision 2.0”

が制定された.この中で定義された COM Express

Type6 は,デジタル・ディスプレイ・インターフェー

ス,USB3.0 などの最新テクノロジーに対応しており,

今後 CPU モジュールの標準規格として主流になると予

想される.

PFU は昨年いち早く Type6 対応製品である

AM120 モデル 210G を出荷しており,今後も Type6

対応製品のバリエーションを増やしていく計画である.

また,PFU では業界トップベンダーであるインテル

社が提供する最新テクノロジーを安定的に提供し,最新

プラットホームをいち早く市場へ投入すべく,同社と密

接なアライアンス関係を構築している.

今後はインテル最新プラットホームの採用による性

能,機能の向上はもちろん,より信頼性を向上したモデ

ル,より消費電力を低減したモデルを追加して,システ

ム オン モジュールの適用範囲を拡大していく計画であ

る.

2.2.2 カスタマイズ製品PFU は AM100 シリーズ,AM500 シリーズ,AR

注1) Windows は,米国 Microsoft Corporation の,米国,日本お よびその他の国における登録商標または商標である.

注2) EmbedWare および EmbedWare/SysMon は,株式会社 PFU の日本国内における登録商標である.

注3) 出典:( 株 ) 富士経済「エンベデッドシステムマーケット 2009」

シリーズ等のスタンダード製品だけでなく,顧客の要望

を受けて,顧客専用のカスタム製品も提供している.

PFU のカスタマイズ開発は,マザーボードの開発か

ら I/O,筐体,BIOS や OS に至るまでシステム全体を

顧客の要望に応じて開発,製造してきた.カスタム製品

では以下の設計・評価・認証含めた開発サービスを提供

している.

(1) ボード開発

インテル製品を中心とした各種プロセッサを搭載し

◆表 -2 システムオンモジュールの主な製品◆

モデル名 特長と外観

AM120 モ デ ル210G

•デジタル・ディスプレイ・インターフェースなどの最新テクノロジーに対応したCOMExpressType6に準拠.•第 2世代インテル ®※1Core™※1プロセッサを搭載して高いシステム性能を提供.•COMExpressBasic フォームファクタ(サイズ:125mm×95mm).

AM160 モ デ ル150G

•第 2世代インテルCore プロセッサを搭載して高いシステム性能を提供.•ECCメモリに対応して高い信頼性を要求されるアプリケーションにも対応可能.•COMExpressExtended フォームファクタ(サイズ:155mm×110mm).

AM105 モ デ ル110B

•インテルAtomプロセッサ搭載.•高い処理性能と超低消費電力を両立.•COMExpressBasic フォームファクタ(サイズ:125mm×95mm).

※1 インテル,インテルCore は,米国およびその他の国におけるIntelCorporation の商標である.

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PFU Tech. Rev., 23, 1, (05,2012) 19

エンベデッド製品のカスタマイズ事例

て,PCI Express,USB3.0 など高速インターフェー

スに対応した,高機能,高品質のボードを提供.

また,当社システム オン モジュールを採用する顧客

には,システム オン モジュールの販売だけではなく,

システム オン モジュールを搭載するためのキャリア

ボード開発,製造も行っている.

(2) システム開発

操作性,保守性を考慮した筐体設計.顧客の要求する

設置環境,設置サイズをクリアする筐体を提供.

UL/CSA などの各種海外安全規格,RoHS など有害

物質の非含有証明などにも対応.

(3) ソフトウェア開発

クイックブートや顧客専用カード搭載に対応するため

の BIOS カスタマイズ,Windows Embedded のカ

スタマイズ,Linux ドライバの開発,HDD レス運用を

行うための OS カスタマイズなどにも多数の対応実績

がある.

3 システムオンモジュールを使ったカスタマイズ事例

ここではシステム オン モジュールを実際に使用した

カスタム事例について紹介する.

3.1 4CPUコントローラー3.1.1 装置仕様

本装置は大型製造装置の各制御部の状態を監視する組

み込みコントローラーであり,1 台の装置に 4 台分の

PC 機能を集約している.その装置の仕様は表-3,主

要パーツの構成は図-2の通りである.

3.1.2 本装置の特長(1) 4 台分の PC を 1 台の筐体に格納

本装置は,4 台分の PC 本体の機能を 1 台の筐体に

コンパクトに集約していることが最大の特長である.そ

の実現にあたり,自社製システム オン モジュールを採

用すると共に,CPU 周辺部品を高密度実装し搭載する

キャリアボードも小型化(μ ATX サイズボードに対し

て面積比 54.2%)していることが一つの特長である.

また,本装置の電源部は 4 スロット分の電源を一つ

の ATX 電源及び UPS で共用している. 通常 4 台分

のPCが同時に電源投入もしくはHDDスピンアップす

ると,一時的に大きな起動電流が発生する.この装置で

は当初 12V 電源に約 32A の起動電流が発生し,これ

を許容するため 800W クラスの大容量電源が必要な状

況で,装置小型化の障壁となった.

この一時的に必要な電流容量を抑えるため,キャリア

ボードへ供給する電源と HDD へ供給する電源の供給順

序を制御する回路を自社開発し,スロット間の電源供給

順序を調整することにより,装置全体のピーク電流を分

散させ(12V 電源最大電流 22A),450W(ピーク時)

容量の電源を選定することで装置の小型化と電源部のコ

スト低減を実現している.

(2) 信頼性向上

本装置は信頼性向上のために次の機能を備えている.

1) ストレージ部の信頼性

本装置のストレージ部は信頼性向上のため1スロッ

トごとに 2 台の HDD を搭載しており,ソフトウェ

アRAIDと組み合わせて使用することで,RAID1 (ミ

ラー)による二重化を行うことができる.

2) 電源部の信頼性

本装置は無停電電源装置 UPS を内蔵しており,瞬

断,停電発生時には即時に電源状態がOSに通知され,

OS 機能で自動的にシャットダウンすることで,OS

データの破壊を防ぐことができる.

3) システムファンとシステム オン モジュールの冷

却用ファンの監視

本装置には装置全体を冷却するシステムファンと

システム オン モジュールの冷却用ファンが実装され

ており,各々のファン回転状態はキャリアボード上の

ハードウェアモニタを通して監視すること可能であ

る.

(3) 保守性向上

本装置は顧客装置へ組み込んだ場合の保守性向上を考

慮し,保守部品の約 90% のパーツを装置前面からの取

り出しで交換保守できるよう構造的に考慮された設計と

している.キャリアボード,HDD 及び電源部は装置前

面にスライドして引き出すことができる.

3.1.3 採用したシステムオンモジュール本装置は大型の製造装置に組み込まれるコントロー

ラーであるが,スロットごとにその役割は異なり,必

要とされる CPU 性能やストレージデバイスが違ってい

た.システム オン モジュールと共通キャリアボードの

構成とすることでスロットにより異なる仕様を実現し

ている.比較的 CPU 性能を必要としないスロット #1

には AM100 モデル 110 (CPU:Celeron M 373)

を採用し,CPU 性能が必要とされるスロット #2 ~

#4 には AM120 モデル 110 (CPU:Intel Core2

Duo T7500)を採用して,システム オン モジュール

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エンベデッド製品のカスタマイズ事例

PFU Tech. Rev., 23, 1, (05,2012)

◆表 -3 4CPUコントローラーの仕様◆

機能 スロット#1 スロット#2~ #4

筐体タイプ カスタムフロントオペレーション筐体

システムオンモジュール AM100モデル110 AM120モデル110

CPU Intel®※1Celeron®※1M373(1.0GHz) IntelCore2DuoT7500(2.2GHz)

キャッシュメモリ L2512KB L24MB

システムバス(FSB) 400MHz 800MHz

チップセット Intel915GME+ICH6-M IntelGME965+ICH8M-E

メインメモリ 1GB(DDR2unbufferedDIMM×1)ECCなし

1GB/2GB(DDR2unbufferedDIMM×1)ECCなし

表示制御 グラフィックコントローラ

915GME内蔵グラフィックコントローラ GME965内蔵グラフィックコントローラ

CRT最大解像度及び表示色

QXGA(2,048× 1,536):1,677万色 QXGA(2,048× 1,536):1,677万色

HDD 内蔵HDD なし 250GB(SATA,7,200rpm)×2-RAID1(ミラー)対応,ホットスワップ対応- ソフトウェアRAID使用

CF 内蔵CF 1GB× 2 なし

インターフェース LAN 3ポート10/100/1000Base-T × 110/100Base-TX× 2

3ポート10/100/1000Base-T × 210/100Base-TX× 1

USB 4ポート(Ver2.0) ←

ビデオ 1ポート(DVI-I) ←

動作周囲温度/湿度 温度:5℃~40℃ 湿度:20%~80%(結露なきこと)

騒音 音圧レベル 55dB以下

外形寸法[W×D×H(mm)] 440× 290× 330

重量 29.0Kg

電源 入力電圧(周波数) AC100~ 240V(50/60Hz)/2極接地形

消費電力 最大350W(4.8-1.9A)

UPS 使用バッテリ:1.2V2,000mA× 20直列

※1 Intel,Celeron は,米国およびその他の国における IntelCorporation の商標である.

を使い分けている.このように使用用途に応じ CPU を

自由に選択できることも大きなメリットとなっている.

また,CPU やチップセットが生産終息となった場合

でも,それ以外の主要部品が継続使用可能であれば,後

継のシステム オン モジュールに切り替えることで製品

を長期供給できるメリットがある.

3.1.4 実装面での課題と実現技術4CPU コントローラーは顧客の設置面積から 4CPU

モジュールを 1 台の筐体にまとめて実装することが必

要で,高密度実装(図-3)を実現することが課題であっ

た.

本装置は,システム オン モジュール複数枚,DISK

複数台,電源,UPS,HUB,その他基板等が搭載され

ており,高密度な実装形態となっている.設計段階にお

いての課題は,これら部品の配置と,複雑に流れる風の

効率の良い冷却であった.

重要な課題として,以下 3 点がある.

1) システム オン モジュールの配置及び,個別の

ファンモジュールの必要性.

2) DISK の配置,間隔を最適にし,冷却必要面への

効率の良い風の流れ.

3) 低い位置に配置する UPS の使用環境温度のため

の電源と UPS のベストな位置関係の見極め.

これらの課題をクリアするため,熱解析シミュレー

ションを駆使して,ファンのサイズ・回転スピード・個

数や配置,DISK の配置や間隔,UPS の最適配置等を

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エンベデッド製品のカスタマイズ事例

数次に渡って検証を実施した.

特に課題となった点は,以下の構造要件によりバック

パネルが風の流れを阻害する要因となっていたことであ

る.

システム オン モジュールを取り付けたキャリアボー

ドと DISK UNIT は,ワンタッチで着脱が可能なプラ

グイン方式を採用したことで,風の流れを妨げるように

バックパネルが立ち塞がっていた.

そこで,図-4に示したように装置内の風の流路を確

保するため, (a)キャリアボードのプラグイン接続ス

ペースを必要最小限にし,かつ,(b)接続コネクター

を下段に配置して,(c)バックパネルの上部を空間とす

ることで,装置の動作温度仕様に対して,素子,DISK

中でマージンが一番少ない物でも,10℃のマージンを

確保した.

解析例として,図-5に装置内部に流れる風で,装置

中央部の風速分布(垂直面)と,システム オン モジュー

ル CPU 部分の風速分布(水平面)の解析結果を示す.

3.1.5 ソフトウェア面での課題と解決手法(1) 課題

本装置は,Intel 社製チップセット内蔵の RAID(以

◆図 -3 本装置の構造◆

(Fig.3-4CPUcontrollerstructure)

◆図 -4 本装置の風の流れ◆

(Fig.4-4CPUcontrollerairflow)

◆図 -2 4CPUコントローラーの主要パーツの構成◆

(Fig.2-Configurationofthemainpartsfora4CPU

controller)

電源 VGA

DVI

LANPCI

SATA

PCI

IDE

×3

SATA HDD ×6

電源制御ボード

操作パネル

LAN

LAN

LANPCI

UPS

バックパネル

キャリボード(SLOT#2-#4)

AM120Core2 Duo2.2GHz SATA ×2

SDVO SDVO-DVI

DVI-I

DVI-I

10/100LAN

10/100LAN ×2

GigaLAN ×2

USB2.0×4GPI ×2GPO ×2

USB2.0×4GPI ×2GPO ×2

電源 VGA

DVISDVO SDVO-DVI

キャリボード(SLOT#1)

AM100Celeron M1.0GHz

SATAto IDE

CF×1

CF×1

GigaLAN ×1

ATX 電源

各ユニット

システム オン モジュール+キャリアボード

Raidカード

電源ユニット

UPS

HUB

HDD

#2#3

#4

#1

システムファン

(a)キャリアボード

(b)コネクター

(c)バック パネル

前面

仕切り板

背面

位置を下げる

風の流れる空間を確保

Air Flow

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エンベデッド製品のカスタマイズ事例

PFU Tech. Rev., 23, 1, (05,2012)

降,チップセット RAID)機能を使用しているが,チッ

プセット RAID を,本装置に採用するにあたっては,

ソフトウェアで以下の二点の課題をクリアする必要が

あった.

1) HDD 故障,リビルド注4)実施中の HDD LED 点

灯機能の実現

2) HDD 交換時の自動リビルド機能の実現

(2) 解決手法

前記課題を解決する仕組みを図-6に示す.

前記1)項の課題に対しては, PFU の標準製品

向けに準備しているハードウェア監視ソフトウェア

(EmbedWare®/SysMon Entry Ver3.2)をカスタ

マイズすることで対応した.

EmbedWare/SysMon Entry は,システム オン

モジュール AM シリーズ,およびエンベデッドコン

ピュータ AR シリーズの標準監視ソフトウェアであり,

主要な機能として,温度,電圧,ファンや HDD の異常

監視機能を持っている.

EmbedWare/SysMon Entry に,Intel 社製 RAID

監視ユーティリティ,及び Windows イベントログから

の情報取得機能を追加し,GPIO(General Purpose

Input/Output の略.汎用入出力の意味)制御機構と連

携させることにより,LED 制御を実現した.

2)項の課題に対しては,Intel 社製 RAID 管理ユー

ティリティの仕様上はオペレーターによる操作が必要と

されているリビルド開始操作を,不要とする必要があっ

た.この課題は,Windows イベントログより HDD 交

換を検知し,RAID 管理ユーティリティの操作を自動化

注4) 不良ディスク交換後に,新しいディスクにデータを保存し,RAID を復旧する作業

する常駐プログラムを新規に開発することにより,自動

リビルドの機能を実現している.

本件は,チップセット RAID では提供していない機

能に対して,当社の高いソフトウェア開発技術力によっ

て, 既存ソフトウェアの,ステータス監視フレームワー

ク,ハードウェア制御部のカプセル化の活用により,ソー

スコード修正を最小限にし,品質確保と開発効率を向上

させると共に,顧客要求を満たす機能を実現した.

3.2 1CPUコントローラー3.2.1 本装置の概要

3.1 節で大型製造装置の事例を紹介したが,この開

発素材を使って 1CPU コントローラー装置を開発した

事例について紹介する.本装置の仕様は表-4の通り

である.4CPU コントローラーの 1 スロットを独立さ

せた装置で,4CPU コントローラーのキャリアボード

等の素材を流用し小型筐体(197mm × 205mm ×

250mm)に収納したことが特長となっている.

3.2.2 実装面での課題と解決手法1CPU コントローラーは,開発期間の短縮,品質確

保と低コスト開発を図るため,4CPU コントローラー

で開発したキャリアボードユニットを流用することを前

提に開発を進めた.

本装置は顧客が既に使用している装置の置換えとし

て使用されるため,装置外形寸法・内部ユニット取出し

方向・コネクター配置面など,装置構造に対して詳細な

顧客要求事項が設定されていた.それらを実現するため

に総合的に判断した結果,バックパネルを装置前面側に

配置し,システム オン モジュールを搭載したキャリア

ボードユニットは装置後面側からの実装とした.

ただし,USB コネクターを装置前面右下へ設けなけ

ればならない必須要求があり,キャリアボード前面部に

ある USB コネクターから,どのように引き回すかが最

◆図 -5 装置中央部の風速分布(垂直面),システムオンモジュー

ルCPU部分の風速分布(水平面)の解析結果◆

(Fig.5-Analysisofairflowspeeddistribution

(vertical)inthecentralpartofa4CPU

controllerandairflowspeeddistribution

(horizontal)inaSystem-On-ModuleCPU)

◆図 -6 チップセットRAID採用の際の課題を解決する仕組み◆

(Fig.6-SolutionforchipsetRAIDapplication)

RAIDユーティリティ

RAIDドライバEmbedWare/SysMon Entry

新規開発常駐プログラム

HDD GPIOGPIO制御

LED

ステータス監視

イベント監視

リビルド開始操作

Speed高速

中速

低速

Speed高速

中速

低速

①装置中央断面の 風速分布(垂直) ②CPU部断面の

 風速分布(水平)

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PFU Tech. Rev., 23, 1, (05,2012) 23

エンベデッド製品のカスタマイズ事例

大の課題となった.様々な角度から構造検討をした結果,

最もシンプルな形で実現できる,USB 延長ケーブルを

使う方式とした(図-7,図-8参照).

具体的には, USB 延長ケーブルを装置後面に実装し

たキャリアボードの USB コネクターに接続し,更に筐

体内部を通して装置前面へ引き回して,USBコネクター

を配置した.その際,次の問題が発生したが,コネクター

の FG 接続を強化して解決した.

装置外部に面する USB インターフェースを延長ケー

ブルで装置内部に引き込んだため,延長ケーブルの

USB コネクター部と筐体との FG 接続が弱く,当初,

耐静電気(ESD)規格をクリアできなかった.コネク

ター部と筐体を多接点接続することで FG 接続を強化

し,耐静電気(ESD)及び電磁波妨害(電波)規格を

クリアした.

また,バックパネルが装置前面側にあることで開口部

が減り,内部ユニットの取出し方向に制約が生じたが,

交換頻度が高い HDD 及び UPS を装置前面側,電源・

ファン等は装置側面側から交換できるように配置するこ

とで対応した(図-9参照).

3.2.3 ソフトウェア面での課題と解決手法本装置では,EmbedWare/SysMon Entry Ver4.1

をプレインストール提供している.

カスタム装置で EmbedWare/SysMon Entry を

動作させる場合,ハードウェア(モニタチップ種別,

◆表 -4 1CPUコントローラーの仕様◆

機能 仕様

筐体タイプ 小型筐体

システムオンモジュール AM120モデル110E

CPU IntelCore2Duoプロセッサ(2.53GHz)

キャッシュメモリ

L26MB

システムバス(FSB) 1,066MHz

チップセット MobileIntelGM45Express チップセット+ICH9M-E

メインメモリ 1GB(DDR3unbufferedDIMM×1)ECCなし

表示制御 グラフィックコントローラ

GM45内蔵グラフィックコントローラ

CRT最大解像度及び表示色

QXGA(2,048× 1,536):1,677万色

HDD 内蔵HDD 250GB(SATA,7,200rpm)

インターフェース

LAN 1ポート10/100/1000Base-T

USB 2ポート(Ver2.0)

ビデオ 1ポート(DVI-I)

動作周囲温度/湿度 温度:5℃~40℃湿度:20%~80%(結露なきこと)

外形寸法[W×D×H(mm)]

197(W)×205(H)×250(D)

重量 8.5Kg

電源 入力電圧(周波数)

AC100~ 240V(50/60Hz)

消費電力 最大90W

UPS 使用バッテリ:1.2V2,000mA×8直列公称バッテリ電圧:DC24.0V定格容量:2,000mAh

◆図 -7 1CPUコントローラー構造概略図◆

(Fig.7-1CPUcontrollerstructuraloverview)

装置前面側

キャリアボード(流用品)

SOM

USBコネクター

◆図 -8 1CPUコントローラー内部配線図◆

(Fig.8-1CPUcontrollerinternalwiring)

装置前面側

余長部分

キャリアボード

USBコネクター(FG強化)

USB延長ケーブル

バックパネル

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エンベデッド製品のカスタマイズ事例

PFU Tech. Rev., 23, 1, (05,2012)

FAN 構成等),ソフトウェア(運用条件の相違に伴う

エラー通知閾値の相違),両面から,EmbedWare/

SysMon Entry 自身のカスタマイズが必須となる.

本ソフトウェアは,ハードウェア構成情報を独立させ

ることで,カスタマイズ案件に対しては,構成情報ファ

イルのみを変更することで,容易に監視パラメーターを

カスタマイズできるような構成としている.

3.2.4 回路設計面での課題と解決方法(1) 課題

回路設計においても実装構造設計と同様に,前記

4CPU コントローラーの回路設計素材を極力活かすこ

とを前提に開発を進めた.回路素材の流用により以下の

課題が生じた.

キャリアボードの他に基板としては,キャリアボード

に電源供給する電源基板と各デバイスを接続するバック

パネル,電源投入・状態表示のためのオペレーションパ

ネルが必要となったが,装置サイズに制限があったため

3 基板を個々に実装するスペースが取れなかった.

(2)解決方法

上記課題は以下の工夫により解決した.

基板の開発では図-10に示す通り,基板を L 字形

状とし,オペレーション部分を装置左下部に集中配置す

ることにより電源回路とバックパネル及びオペレーショ

ンパネルを一枚化して基板枚数と部品点数を削減し,

164mm × 125mm のサイズに縮小して,小型筐体に

実装できた.

 

4 むすびProDeS は製品開発から評価・試験,製造,保守ま

でを一貫した体制で提供するサービスである.以下を目

指して顧客の要望にベストフィットした,信頼性の高い,

高品質のコンピュータを提供してきた.

1) スピーディな市場参入を実現

2) 信頼性の高い製品開発を実現

3) トータルコストの削減を支援

4) 長期供給,長期保守に対応

システム オン モジュールを自主開発しつつ,顧客製

品のカスタム化も手がけてきたことで顧客製品の小型

化,設置要求に柔軟に対応でき,効率良い製品開発がで

きる体制を維持している.

今後も顧客が要求する機能,条件を満たした装置の開

発,サービスの提供を通して,顧客満足度の向上に努め

ていきたい.

参考文献参1)番井,宇都宮:組み込み製品における BIOS,OS カスタマイ

ズ・サービス,PFU Tech.Rev.,17,2,pp.26-30(2006).

◆図 -9 1CPUコントローラー内部ユニット取り出し方向◆

(Fig.9-Directiontoremove1CPUcontroller

components)

装置前面側

UPSHDD

電源

ファン

バックパネル

◆図 -10 基板レイアウト◆

(Fig.10-Boardlayout)

オペレーション部 L字形状基板