数値シミュレーションによる脳動脈瘤破裂予測 東京慈恵会医科大学 脳神経外科 高尾洋之 脳動脈瘤が破裂するとくも膜下出血という病態になり,その約3分の1がその場で亡くなってしまうという怖い病気 である.毎年人口1万人あたり1.5~2人が脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血になっている.現在のところ,脳動脈 瘤の破裂機序は未だに解明されていない.現在,画像診断学が進歩し,破裂する前の未破裂脳動脈瘤という状 態で発見される患者数が増加している.未破裂脳動脈瘤は破裂の予測ができず,治療の適応を決めることが難 しい.現在,もっともその指標に用いられている数値が脳動脈瘤の大きさである.破裂の機序の一つの要因として 血流による力学的因子が深く影響しているという報告が多い.そこで,我々は,この動脈瘤破裂予測を行い治療 適応を決めるためにコンピューターシミュレーションを用いて数値解析を行っている.経過観察中に破裂した脳動 脈瘤と現在のところ破裂していない未破裂脳動脈瘤の血行動態をコンピューターシミュレーションで比較すること で,破裂に関係する要素の検討を行っている. 診断された画像の医療用DICOMデータから三次元血管形状を構築し,病変部を抽出することで解析モデルを作 成する(RealIntageを用いて).解析条件は,定常条件(時間平均272mL/min,)で数値流体解析(CFD解析)を 行った.解析ソフトとしてANSYS CFX ver10.0を用いた.解析はstream line(SL),Wall shear stress(WSS), Energy loss(EL)の項目に関して検討した.ELとは,動脈瘤における圧力損失を瘤の単位体積で割ったものと定 義した. 10例の動脈瘤解析結果として, WSSは破裂症例と未破裂症例の間に大きな差は認められなかった.しかし,脳 動脈瘤で発生するELを調べたところ,破裂症例において未破裂症例の約4.5倍の大きな圧力損失を生じる結果と なった.この数値結果は,統計学的にも有意差を認めた.ELの高値は流れの複雑さを示しており,瘤内の血流が 破裂症例の方が未破裂症例に比べて,複雑であると考えられる. 解析結果よりELは破裂予測の一つの要素である可能性がある.破裂危険性として,瘤内に複雑な流れが生じ, 高いエネルギー損失を示すためELが高くなると考えられた. 我々の研究結果により血流の流れが破裂の機序に大きく関与している可能性が示唆された.そこで,我々はこれ らの流れを評価したものを視覚的に確認するために,EnSightソフトウェアを用いた流れの視覚的評価も行い,今 後患者様に対する説明も含めて活用を検討している.