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62 富士ゼロックス テクニカルレポート No.18 2008 プラスチック高速金型一貫システムの技術 -熟練ノウハウと先端 IT 技術の融合- Digital Innovation Process and Technologies for Molding & Parts 『開発生産力/効率』を目指す上での生産準備領域 に於ける課題は、如何に TTM 短縮へ寄与出来るかで ある。そこで、開発期間短縮の Key を、試作及び量産 の金型部品(特に高難度部品)リードタイムと出来映 え品質と捉え、高速金型一貫システム構築を戦略的に 実施した。 このシステムは、生産設計から金型設計 CAM、加 工、型組、測定といった金型製作プロセスを 3D シス テムで一貫化することで、高品質・短期金型製作を実 現するものである。また、金型製作に必要な、知見/ 経験/勘といった熟練技術者のノウハウを徹底的に数 値化/標準化し、先端 IT 技術と融合させている。 これにより、熟練技術者の思考プロセスに基づく判 断の自動化、不具合の未然検知、定形作業の自動化を 図ることが出来た。本稿では高速金型一貫システムを 従える標準化/IT 化の技術について紹介する。 Abstract 執筆者 萩原 正明(Masaaki Hagiwara) 波多江 正明(Masaaki Hatae) 田中 晃樹(Kouki Tanaka) 沼内 寿浩(Toshihiro Numauchi) 中里 博昭(Hiroaki Nakazato) 山川 泰明(Yasuaki Yamakawa) モノ作り技術本部 金型部品技術部 (Tooling&Parts Technology, Production Technology) One issue of production preparation that can improve development productivity and efficiency is to shorten TTM. we have strategically implemented mold internalization and are developing a Rapid Unified System for Mold Designing and Manufacturing. The system allows us to realize short-term mold manufacturing with processes ranging from mold design to CAM, to assembly, and to measurement combined into the use of a 3-D system. We have thoroughly standardized the information gained from our expert engineers' knowledge, experience, and intuition.. The system allows us to fuse the engineers’ knowledge with cutting-edge IT technology. Using this fusion, our tools can automatically detect malfunctions and perform routine operations based on our expert engineers' thinking processes. In this document, we will introduce the technology of standardization and IT that accompany the Rapid Unified System for Mold Designing and Manufacturing.
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プラスチック高速金型一貫システムの技術 -熟練ノ …...特集 プラスチック高速金型一貫システムの技術 富士ゼロックス テクニカルレポート

Apr 11, 2020

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62 富士ゼロックス テクニカルレポート No.18 2008

プラスチック高速金型一貫システムの技術 -熟練ノウハウと先端 IT技術の融合- Digital Innovation Process and Technologies for Molding & Parts

要 旨 『開発生産力/効率』を目指す上での生産準備領域

に於ける課題は、如何に TTM 短縮へ寄与出来るかである。そこで、開発期間短縮のKey を、試作及び量産の金型部品(特に高難度部品)リードタイムと出来映え品質と捉え、高速金型一貫システム構築を戦略的に実施した。 このシステムは、生産設計から金型設計 CAM、加工、型組、測定といった金型製作プロセスを 3Dシステムで一貫化することで、高品質・短期金型製作を実現するものである。また、金型製作に必要な、知見/経験/勘といった熟練技術者のノウハウを徹底的に数値化/標準化し、先端 IT技術と融合させている。 これにより、熟練技術者の思考プロセスに基づく判断の自動化、不具合の未然検知、定形作業の自動化を図ることが出来た。本稿では高速金型一貫システムを従える標準化/IT 化の技術について紹介する。

Abstract 執筆者 萩原 正明(Masaaki Hagiwara) 波多江 正明(Masaaki Hatae) 田中 晃樹(Kouki Tanaka) 沼内 寿浩(Toshihiro Numauchi) 中里 博昭(Hiroaki Nakazato) 山川 泰明(Yasuaki Yamakawa) モノ作り技術本部 金型部品技術部 (Tooling&Parts Technology, Production Technology)

One issue of production preparation that can improve development productivity and efficiency is to shorten TTM. we have strategically implemented mold internalization and are developing a Rapid Unified System for Mold Designing and Manufacturing.

The system allows us to realize short-term mold manufacturing with processes ranging from mold design to CAM, to assembly, and to measurement combined into the use of a 3-D system.

We have thoroughly standardized the information gained from our expert engineers' knowledge, experience, and intuition.. The system allows us to fuse the engineers’ knowledge with cutting-edge IT technology. Using this fusion, our tools can automatically detect malfunctions and perform routine operations based on our expert engineers' thinking processes.

In this document, we will introduce the technology of standardization and IT that accompany the Rapid Unified System for Mold Designing and Manufacturing.

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特集

プラスチック高速金型一貫システムの技術

富士ゼロックス テクニカルレポート No.18 2008 63

1. 緒言

金型とは、部品を安価に大量生産するためのマザーツールである。製品は部品の精度を超えることが出来ず、部品は金型の精度を超えることが出来ない。すなわち金型は製品品質に大きな影響を与える。もし金型が生産できないような部品を設計したとすれば、それは市場向けに大量生産できない。 一般的に金型は、100%受注生産という受身の側面があり、製品設計完了後、金型製作を開始する。しかしこれでは近年の短期製品開発に対応できない。 今まで富士ゼロックスは金型製造/部品製作のほとんどを仕入先に依頼していた。しかしながら、高品質部品を早く安く作り上げるためには、従来の仕入先依存の金型製作から脱却し、「内製金型技術力復権」が必要であった。

2. 金型製作工程の改革

2.1 金型製作における課題 富士ゼロックスでは製品設計を行ったのち図面のチェックを行い出図する。その後は仕入先で、図面あるいは 3D モデルをもとに金型構造検討/金型設計/CAM/加工/型組/成形/測定を実施していた。しかしながら現行プロセスでは金型が作れない、複雑になるといった金型構造上の不具合や、成形不良などの品質問題が発生し、設計変更につながる手戻りとなっていた。これは、金型製作期間を長くする一つの大きな要因である。 この手戻りを無くし、短期間で金型を製作するためには、従来仕入先が行っていた金型構造検討、抜き勾配付加や均肉化処理などの生産設計を、出図前に完了させる必要があった。 また、金型設計以降の各工程においても、技術者のスキルに依存していたため、品質や納期にバラツキが生じていた。これも、金型製作期間を長くする一つの要因であった(図1)。

2.2 新金型製作プロセスへの取り組み そこで、熟練技術者のノウハウ(知見/経験/勘)や過去のトラブルなどを徹底的に分析し標準化した。この標準を、CAD/CAM/CAE などの先端 IT 技術と融合させ、高品質の金型を短納期で製作するための、「高速金型一貫システム」を構築した。このシステムでは ①出図前に生産設計を完成させるフロントローディングプロセスの確立、②金型製作の高速化を狙っている。これを実現させるための技術獲得への取り組みを行った(図2)。

3. 高速金型一貫システムを支える技術

高速金型一貫システムで取り組んだ主な技術について述べる(図3)。

図 1. 金型製作プロセスと課題 Mold Designing and Manufacturing Process and Issues

出図 製品設計

完成

CAM 成形 量産金型設計

仕入先(主に中国)

図面チェック

富士ゼロックス

金型製作期間長期化

繰り返し

金型 加工

金型 組立

不具合修正依頼

型構造検討

測定

図 2. 高速金型一貫システム Rapid Unified System for MoldDesigning and Manufacturing

製品設計

生産設計金型要件

出図

CAM

型設

成形

量産

金型製作の高速化 出図前に生産設計を完了フロントローディング

測定

加工

型組

3Dシステム一貫化

完成

短納期内製金型製作

富士ゼロックス

図 3. 高速金型一貫システムを支える技術 Technologies to support Rapid unifiedSystem for Mold Designing andManufacturing

金型設計 CAM/加工 生産設計 仕上げ/成形/測定

⑤金型自動設計

①金型構造の標準化

④生産設計支援ツール

②金型要件チェックツール

③樹脂流動解析

⑥加工テンプレート

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特集

プラスチック高速金型一貫システムの技術

64 富士ゼロックス テクニカルレポート No.18 2008

1.金型構造の標準化 2.金型要件チェックツール 3.樹脂流動解析 4.生産設計支援ツール 5.金型自動設計 6.加工テンプレート 3.1 金型構造の標準化 3.1.1 標準化の特徴 我々の業務においての標準化は、二つの分野に大別することが出来る。 1 つは金型構造そのものについての標準化である。例えば金型に使用する部品のサイズや種類を統一したり、過去に発生したトラブルの再発防止の為に決められた構造にしたり、使用する市販部品の種類を統一したりといった類のものであり、外部の金型メーカーも多かれ少なかれ実施している標準化である。 2つ目は、金型設計製作のリードタイム(以下 L/T)短縮を目的とした標準化である。部品ごとに金型の仕様を予め決定する事で、設計データの使いまわしが可能になる。例えば現像器のハウジング専用に図 4のモールドベース(以下MB)やアンダーカット(※1)を形成するスライドユニットの形状を決定し、標準部品とし

て準備しておく。実際の設計作業の際には、これらのデータは単に配置するだけで、新たな設計行為は発生しない。製品形状に左右される部分、例えば入れ子分割やエジェクタピン(※2)の配置だけに専念する。 ここで重要なことは部品ごとに標準化した金型の仕様を開発部門と金型部門で共有し遵守していくことであり、これにより金型設計製作のL/T 短縮が可能になる。この取り組みは同じ企業内に開発部門と金型部門が存在することで可能となり、外部の金型メーカーでは取り組めない、内製ならではの標準化である。 (※1) アンダーカット:成形品を金型から取

り出すとき、そのままの状態では離型できない凸形状や凹形状のこと

(※2) エジェクタピン:成形品を金型から取り出す際に、突き出すためのピン

3.1.2 標準化の手法 金型仕様を標準化する為に、過去の製品における部品の調査から実施した。この活動は製品設計部門のメンバーと共同で実施した。ここでは現像ハウジングの例を紹介する。図 5は過去10 年間に市場導入した商品で使用されたハウジングの一覧である。これらの最大外形は、70%が長手 400mm 幅 100mm 厚み 80mm に収まることが分かった(図 5/6)。これを現像ハウジングの最大外形寸法規格とした。 図 5. 調査した現像ハウジング

Studied products of Deve. Housing

図 4. M/B、スライドユニットの標準 3D モデル Standard 3D-Model of mold base and slide unit

標準スライドユニット

標準 M/B

ユニーク部品 (製品形状に左右され

る部分)

製品

標準スライドユニット

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プラスチック高速金型一貫システムの技術

富士ゼロックス テクニカルレポート No.18 2008 65

残りの 30%については部分的な突起形状が影響しているものであり、これら突起形状は今後、新規設計の際は別部品化し、規格内に収める様に製品設計部門と合意が取れた。また、同様の手法で両端面のアンダーカット量、およびセンサー取付け部角度もそれぞれ規格化した。これらの規格に適合したものが、前述したM/Bとスライドユニットである。 さらに、より L/T を短縮するためには、加工工程での合理化も必要になる。 時間のかかる放電加工(※3)を取り除き、切削加工のみにする必要がある。現像器ハウジングの補強リブなど従来放電加工対応していた入れ子への堀り込みが必要となる形状は、その80%が高さ 8mm 以下であり、困難であった小径工具による高速切削の技術獲得にて切削加工を可能とした。残り 20%も孫入れ子への分割で、すべての形状で切削加工が可能であるという見通しがついた。これらの結果に基づき、リブ形状はハウジング以外の部品にも適用する共通規格(図 7)として定め、これを製品設計部門へ展開した。 (※3) 切削加工が困難なリブやスミの角出し

加工に使用される電極設計、製作の前段取りを要し、加工工数がかかる。

3.1.3 標準のフレキシブル化 (テンプレート化)

展開した標準項目を製品設計仕様に盛り込むことにより、高品質、低コスト、短納期の金型製作が可能になる。しかし製品設計の多様化、高機能化が進むことにより、項目によっては、守れないケースもある。この場合、標準化された金型設計データをそのまま流用することができず、修正に時間が掛かり、設計ミスの発生にもつながる。 そこで新しい設計ツールの導入を機に規格に幅を持たせ、パラメータを指定することで、その幅の中でMBやスライドユニットの 3D モデルを瞬時に作成する仕組みを構築した。 これを我々はテンプレートと呼ぶ。もちろんテンプレートのパラメータは無制限に設定するのではなく、部品形状に譲歩しつつコストの最適化や、バランスの取れた型構造にすべく、パラメータの数、ピッチには細心の注意を払って規格化した。 3.2 生産設計 生産設計とは、製品設計部門が作成した部品形状に対して、パーティングライン(以下 PL)を決定し、PLに従って抜き勾配の作成や、厚肉部分の肉抜き、加工性を考慮した角Rの追加などの生産要件を付加する行為である(図8)。更にエジェクタピンの配置と冷却回路の取り回しなど金型構想の検討も同時に実施する。 これらを確実に行うため、部品形状に金型製作上の不都合がないかを漏れなく検出し、問題があれば、製品設計部門に対して部品形状の変更を依頼する必要がある。そこで、金型要件チェックや、樹脂流動解析を実施している。 上記のように生産設計は、金型や部品の品質/コスト/納期を左右する一番重要なプロセスである。

図 6. 現像ハウジングの最大外形調査結果 The result a study of Deve. Housing parts’Maximum size

図 7. リブ形状規格 Standard of rib forms

生産設計前 生産設計後

図 8. 生産設計の例 An example of Manufacturing Design

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プラスチック高速金型一貫システムの技術

66 富士ゼロックス テクニカルレポート No.18 2008

3.2.1 金型要件チェックツール 金型要件チェックツール(以降、チェックツール)とは、製品設計 3D モデルを量産性の視点でチェックするためのもので、「金型技術標準」や「製品設計規格書」、「保有するノウハウ(製品形状と成形性、過去のトラブル情報や仕入先情報から得られた知見など)」を数値化した判断基準を CAD 上に盛り込んでおり、不適合箇所があれば即座に見つけ出すことが出来る。製品設計の段階で金型が成立しないなどのキーとなる生産要件を事前にチェックし、それ以降の手戻りを防止している。チェックツールを利用することにより、従来の人による判定基準のばらつきやチェック漏れも最小限に抑えることが可能となる(図 9)。 チェックツールは市販の CAD をベースに、上記規格や自社製品の形状特徴(後述)にあわせて全プラスチック部品共通のチェックツール(数十項目)および現像ハウジングなどのユニー

クなチェックツール(数十項目)の開発を行った(図 10)。 以下にチェックツールの一例を示す。 (1) アンダーカット形状チェック 市販 CAD の中にはアンダーカットを検出する機能が含まれているが、面の向きだけを見て判定を行っているため、立体障害など形状によっては正確にアンダーカットが検出出来なかった(図 11)。 この課題を解決するために、マシン構成部品のアンダーカット形状を調査し、面内アンダー、凹エッジ、点投影、立壁の 4つのアルゴリズムを開発した。それを組み合わせることにより、アンダーカット形状を検出できる。 例えば、面内アンダーでは、抜き方向と面の任意点の法線ベクトルで抜き方向と逆になるものが 1つでもある場合にアンダーカットと認識している(図 12)。 アンダーカット形状チェックツールでは、型抜き方向を指示するだけでアンダーカットを検出することが出来る(図 13)。

図 11. 立体障害の例 An example of spatially-relatedhindrance

+ +

++

+ +

+抜き方向

法線ベクトル

V方向

U方向

図 12. 面内アンダー Undercut within a face

図 10. チェックツールの開発例 An example of check tool development

リリブブチチェェッックク

厚厚肉肉チチェェッックク 微微小小要要素素チチェェッックク

図 9. 金型要件チェックツールの概念図 Concept of Mold Requirement Check Tool

要要件件チチェェッックク

・・製製品品デデーータタチチェェッックク

・・モモデデルル内内容容チチェェッックク

・・製製品品形形状状

・・直直彫彫りり不不可可形形状状

・・SSuubbユユニニーークク仕仕様様確確認認

・・製製品品仕仕様様確確認認

製製品品設設計計 生生産産設設計計 金金型型詳詳細細設設計計

金型要件チェック ツール

金金型型構構想想設設計計

型型割割

駒駒割割

型型設設計計デデーータタ作作成成

要要件件チチェェッックク

・・PPLL面面//喰喰いい切切りり面面

・・アアンンダダーーカカッットト

・・製製品品レレイイアアウウトト

PPLL検検討討

仮仮割割

製製品品レレイイアアウウトト

ススラライイドド検検討討

アアンンダダーーカカッットト検検討討

型型構構想想検検討討

PPLL情情報報

NNGG

OOKK

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特集

プラスチック高速金型一貫システムの技術

富士ゼロックス テクニカルレポート No.18 2008 67

平面(Pln面)

型抜き方向

円筒面(Cyl面)

平面(Pln面)

円筒面(Cyl面)

図 18.穴付きボス Boss with a hole

・・・

・・・

ボス形状の特徴分類・層別

特徴なし 穴有り 外Cカット

平面:PLN

円筒面:CYL

円錐面:CONE

BOSS

CYL, PLN CYL, PLN, CYL, PLN

BOSS_HOLE

CYL, PLN, CONE, CYL, PLN

BOSS_CHAMFER_HOLE

・・・

3Dモデル

図 15. ボス分類・層別例 The example of classified characteristicsof boss forms

図 16. 入力 UI と結果 Input user interface and result

図 17. フローチャート

Flowchart

ボスタイプの認識

対象ボス選択

測定項目の決定

必要箇所の自動寸法測定

規格との照合

結果出力

終了

(2) ボスチェック ボスには、金型強度不足や成形不良を防止するため、8 項目の規格を設けており、ボス形状に合わせてチェックを行っている(図 14)。 前述のアンダーカット形状チェック同様にツールを開発するにあたり、まずツールがボスを認識できるようにマシン構成部品の形状特徴調査を行った。結果、ボスに関してはいろいろなタイプがあり、これらを分類/層別した(図 15)。この結果を元にボスの規格をチェックするツールを開発した。このツールは、オペレータが、型抜き方向と外側面を選択するだけで、前記 8項目を自動チェックしその結果を外部ファイル、およびCAD画面に表示する(図 16)。 以下フローチャートに沿ってチェックの流れを示す(図 17)。

まず抜き方向と外側面から隣接面を認識し、面属性(平面、円筒面、円錐面など)を読み取る。例えば穴付きボスの場合、外側面から型抜き方向に隣接した面は平面、次に隣接するのは円筒面、次に穴底となる平面にたどり着き、この次は、今まで認識した面に戻るため、次の隣接面を探すことをやめる。分類/層別したタイプから円筒面→平面→円筒面→平面と続くものは、「穴付きボス」であると特定する(図 18)。 次に穴付きボスはどの項目をチェックすれば

図 13. アンダーカットチェック結果(着色面がアンダーカット)

The result of undercut check (Colored planes are recognized as undercut)

⑤補強リブ幅

④ボス穴底形状(エッジになっていないこと)

③ボス下端肉厚

⑦ボス/リブ上端クリアランス

①ボス高さ

⑥補強リブ角度

②ボス径肉厚

基準肉厚

⑧ボス抜き勾配

図 14. ボス規格 Standard of boss

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プラスチック高速金型一貫システムの技術

68 富士ゼロックス テクニカルレポート No.18 2008

図 20. 流動解析による成形不良予測 The prediction of defective moldingby Mold Flow simulation

ウェルドライン ヒケ ショートショット

流動解析で予測できる成形不良の例

金型内の流動挙動をシミュレーション

良いのかを判断する。穴付きボスの場合、ボスの高さや肉厚など 5項目のチェックが必要であり、ツール内で自動的に測定を行う。 例えば高さの測定は、単に選択した外側円筒面の高さを測るだけでは、図19のような段付きボスの高さを取ることは出来ず、Rや面取りがしてある場合は取りこぼしてしまう。これを回避するために下記のような方法で高さを認識している。 ・ 面が持つエッジをすべて集め、任意の点からそれぞれの点に向かうベクトルを定義し、型抜き方向の単位ベクトルとの内積値を計算する。

・ これをもとに最高点と最低点の型抜き方向における差がボスの高さとする(図 19)。

測定結果は、あらかじめ定められた規格値と照合し、合否(OK/NG)が判定される。最後に、OK/NG の結果、測定値、規格値をフォームで表示し、同時に外部ファイルへの自動書き出しも行う。 金型要件チェックツールを出図前の設計3Dモデルに適用し、金型要件の盛り込まれた3Dモデルにすることで、金型製作工程での手戻りを未然防止に貢献している。 3.2.2 樹脂流動解析技術 (1) 樹脂流動解析 樹脂流動解析(以下流動解析と略)とは、射出成形(※)における金型内の溶融樹脂の流動挙動およびヒケ・ソリ等の成形不良をシミュレーションし、成形品の品質を事前に予測する技術である。射出成形プロセスで発生する成形不具合は、設計変更や金型の作り直しなどの手戻りを引き起こし、L/T やコストに影響するため、製品・金型設計の初期段階で事前に対策しておくことが必要である(図 20)。

流動解析ソフトウェアは、国内でも数多く市販されているが、使い勝手やロバスト性が不十分であり、ユーザーによる活用法の開発なしには実用化が難しい。そこで、自社製品で使われる部品に合わせた活用技術を施し、実用化を図っている。

※射出成形:熱で溶融させた樹脂を金型内に射出し、冷却固化して「製品・部品を作る」方法である。

(2) 流動解析の自前化 今までに取り組んできた流動解析技術について紹介する。 ① 解析モデル改善(モデル簡略化ルールの策定) 流動解析で用いる有限要素法では、メッシュ作成方法やメッシュ精度が解析精度に影響を及ぼす。富士ゼロックスの機能部品は形状が複雑で、そのままでは解析できないモデルが多い。そこでメッシュ精度を悪化させないために、微小段差、微小角/隅 R、ボスの口元面取り形状など、解析結果に影響を与えないものを削除する基準を見極め、モデル簡略化ルールを策定した。これにより常にメッシュ精度の高い解析モデルの作成が可能となった。現在は、メッシュの種類や作成方法によって解析結果が異なって来ることに着目し、解析精度の向上を目指して製品の形状や樹脂の特性に適合したメッシュ作成方法の研究に取り組んでいる。

点P

(x1,y1,z1)

(x2,y2,z2) 抜き方向単位

ベクトル

A・B=(x1・x2+y1・y2+z1・z2)

図 19. 高さの計算 An equation of height

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特集

プラスチック高速金型一貫システムの技術

富士ゼロックス テクニカルレポート No.18 2008 69

図 21. ソリ解析による改善事例 A case of improvement by Warp simulation

Z 軸

X 軸

改善前 ソリ解析結果 (変位量 10倍表示)

改善前 Z軸方向ソリ変形

-1.8

-1.5

-1.2

-0.9

-0.6

-0.3

0

0100200300400

Y軸位置(データムからの距離)

Z軸

変位

変位量差 1.67mm

改善後 Z軸方向ソリ変形

-1.8

-1.5

-1.2

-0.9

-0.6

-0.3

0

0100200300400

Y軸位置(データムからの距離)Z軸

変位

変位量差 0.51mm

Z 軸

X 軸Y 軸

改善後 ソリ解析結果 (変位量 10倍表示)

変位量プロット点

Y 軸

変位量プロット点

② 成形実験による樹脂実流動挙動分析 流動解析の計算においては、樹脂固有の物性や成形特性などを数値で表した樹脂データというものが非常に重要である。しかし、新規開発樹脂の流動解析については、代替データや概算値を使用せざるを得ない場合が多い。樹脂データは、解析精度に大きな影響を及ぼすことから、事前に検証することを目的として、樹脂実流動挙動分析装置というものを開発した。樹脂実流動挙動分析装置は、解析データと実際の成形における樹脂の流動挙動を比較検証することができる装置である。その検証結果を補正値として解析データに導入することにより、信頼性の高い解析結果を出すことが可能になった。

③解析データの評価技術 流動解析によって、成形品の流動パターン、圧力分布、温度分布、収縮分布などのデータが得られるが、それらのデータから成形品の品質を読み取らなければならない。そこで、過去の解析データおよび実成形データの蓄積から、不具合が発生する条件(樹脂の到達温度が一定以下になった場合はショートショットが発生するなど)を材料毎に定量化し、標準書に落とし込んだ。これにより、比較的経験の浅い技術者でも、成形不良の予測が可能になった。 (3) 解析事例 流動解析の目的は、最終的に成形不良を発生させないことにある。このため、不具合を事前に予測した上で、その改善策を提案することが必要である。これを、設計初期段階で行うことにより、成形品質の早期作りこみが可能になった。 以下に解析による対策提案を金型製作前に盛り込むことで、成形不具合を未然に防止できた一例を紹介する。図 21 は、現像ハウジングにおける改善前後のソリ解析結果を示す。最初の解析結果では、1.67mmのソリ変形が発生していた。そこで、ソリ変形原因を追及し、リブを含む各部の形状や肉厚、ゲート位置などを変更して再度解析を実施した結果、ソリ変形量を1/3 に改善できることがわかった。当結果と対策を事前に設計に盛り込むことによって、実際

の成形においても全体のソリ変形量を公差内に抑えることができた。

3.2.3 生産設計支援ツール 生産設計工程には、PL決定などの思考プロセスや、モデルへの抜き勾配付加などの作業プロセスがある。この中で後者は、時間が掛かる反面、標準化/自動化が進められる領域である。ここに着目し、効率化すべき工程を分析して、各種の生産設計支援ツールを開発してきた。以下に代表的なツールを紹介する。 (1) 並行設計支援ツール 生産設計で作成するモデルは、製品設計モデルを元に作成するが、出図を待ってから開始したのでは L/T を短縮することができない。そのため、生産設計と製品設計は並行して進める必要がある。しかし製品設計モデルは日々変更されるため、この方法ではやり直しが発生してしまう。そこで、この問題を解決するために、並行設計支援ツールを開発した。 本ツールはまず、製品設計モデルを取り込み、形状要素(面、エッジなど)に、あらかじめ固有の IDを割り振る(Ver.1)。その後、製品設計で形状変更が発生した場合、このモデルを取り

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特集

プラスチック高速金型一貫システムの技術

70 富士ゼロックス テクニカルレポート No.18 2008

図 26. アンダーカット処理

ツールのユーザー

インターフェース The User Interface for dispose of undercut tool

図 25. アンダーカット処理の計算式

An equation for dispose ofundercut

図 24. アンダーカット処理 Dispose of under cut

アンダー処理前

アンダー処理後

図 23. オーガー部品形状 The shape of Auger

込み、Ver.1 と比較照合し、変更がない形状要素には、同じ IDを割り当てる(Ver.2)。 これにより、生産設計側で Ver.1 に対して抜き勾配などの生産要件の付加を行っていても、ベースフィーチャを Ver.2 と置換することが可能となった。変更が無い箇所には、Ver.1 で付加した生産要件が追従するため、変更箇所のみ再度生産要件の付加を行えばよい。その結果、製品設計出図後 1日で生産設計を完了することができるようになった。 なお、ID の同一性判断は、形状要素の位相情報を読み取っているため、中間フォーマットを介して形状データの読み込みができれば、製品設計側と生産設計側の CAD システムが異なっていても問題は生じ無い(図 22)。 (2) アンダーカット処理ツール 複写機内でトナーを搬送する「オーガー」と呼ばれる螺旋形状の部品がある(図 23)。このような形状は型抜き 4方向(キャビ/コア+スライド 2方向)の金型構造となるが、本形状の特徴により、パーティング付近のアンダーカットは避けられない。このため、中央部の断面を維持し、アンダーカット部では断面幅を最小限で広げ、これを滑らかに連続させる複雑なモデリングが必要となる(図 24)。また断面の広げ幅は、断面寸法、ピッチ、軸径などの形状条件により異なるため、思考錯誤による決定が必要で、このモデリングだけで、数日間を要していた。 そこで、まず製品設計形状条件により必要な断面の広げ幅を算出する計算式を導き出した(図25)。さらに、この計算結果を元に、上記の複雑なモデリングを自動で行うツールを開発した(図26)。

本ツールは、径やピッチなどの諸条件を入力するだけで、アンダーカット回避モデルを簡単に作成することが出来る。これにより生産設計モデリングが1時間程度にまで大幅に短縮された。 上記のほか、ゲート作成支援、自動肉抜きなどすべての生産設計支援ツールはアイコンを選択するだけで起動が可能である(図 27)。これらのツールや運用の仕組みで効率的な生産設計を実現させている。 3.3 金型設計 3.3.1 金型自動設計(テンプレート設計) 生産設計が完了すると金型設計に入るが、入れ子部やエジェクタピン配置など、製品形状に依存する部分以外は、「テンプレートモデル」を活用している(図 28)。

製品設計

製品設計モデル1

取り込み

生産設計

生産要件の

付加

取り込み

生産設計完了

出図後 1 日

ID 割り振り ID 比較照合 再割り当て

Ver.1

製品設計モデル2

Ver.2

形状変更

図 22. 並行設計支援ツールのプロセス The Process of support tool for parallel design

図 27. 生産設計支援ツールのアイコン群

The icons for support tools of Manufacturing Design

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プラスチック高速金型一貫システムの技術

富士ゼロックス テクニカルレポート No.18 2008 71

構築にあたって、まず標準化された規格を元にして、変更可能なパラメータを決め、このパラメータにより部品の形状や位置がどのように追従しなければならないのかを定義した、テンプレート仕様書を作成した(図 29)。 テンプレートモデルは、この仕様書に基づいて作成されたものであり、入力されたパラメータによって部品自動設計、複数部品で構成されるユニット単位で自動配置が出来る。 実際の操作では、図 30 のようなユーザーインターフェース上で、変更が必要なパラメータの入力を行う(このとき、規格外の値は入力で

きない)。システムは入力パラメータに従い寸法や構成の変更、部品配置を自動で行う。これにより、標準規格内のモデルが瞬時に作成される。 3.3.2 テンプレートに仕込んである仕掛け テンプレートモデルには、上記以外にも、後工程での活用を踏まえた、以下のような仕掛けを埋め込んである。 (1) 穴形状データ(取付け穴の自動作成) テンプレートモデルの部品には、部品そのものの形状データに加えて、相手部品への取付け穴形状データを付加している(図 31)。 これにより、部品が適切な位置に配置された後、別途取付け穴をモデリングする必要が無い。具体的には、あらかじめ穴ソリッドモデルに固有の属性を付加しておき、加工対象となる部品から穴を引き算する図形演算を、総当りで行う。実際の操作は 1クリックのみで、取付け用穴の自動作成が完了する(図 32)。 (2) 加工用属性(加工精度の自動選択) 前記した穴形状データには、面単位で加工用属性を付加してある(図 33)。加工用属性は、穴用途(例:ガイドピン穴)と穴タイプ(例:精度穴)があり、これらの組み合わせによって

図 28. テンプレートモデル

Template Model

図 29. テンプレート仕様書 Specifications of template

図 30. パラメータ入力による自動設計 Design Automation by template modelwith parameter input

図 32. 穴ソリッドの図形演算 Boolean by hole solid model

図 31. 部品モデルと穴ソリッドモデル Part model and hole solid model

穴ソリッドモデル(水色)

部品モデル(黄色)

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72 富士ゼロックス テクニカルレポート No.18 2008

加工精度が決まるよう、属性定義表を整備した(図 34)。これを金型加工側と共有することにより金型設計者は公差を意識することなく設計が完了するうえ、加工側のシステムもモデル面に付加されている属性情報を読み取り、適切なNCプログラムを自動で作成できる。 (3) 図面テンプレート (検査計測用 図面テンプレート) 金型加工までは 3D モデルのみで情報伝達が可能である。しかし、加工の出来栄えを評価する測定工程では、測定箇所や公差値を的確に読み取り、測定結果を記録するという作業を考慮しなければならない。そこで、2次元図面が必要となる。このため、検査用の図面テンプレートを埋め込ん

だ(図35)。この図面テンプレートは、入力パラメータによって、図面内のビューや寸法が連動して変更されるのはもちろん、寸法により変化する公差は、内部の判断式により自動配置されるため、図面作成作業を一切必要としない。 (4) 部品表(構成部品表出力ツール) テンプレートモデル内に構成されている部品には、属性として、市販部品の発注番号、部品名称、メーカー、材質などを埋め込んであり、「部品表出力ツール」で自動的に作成できる(図36)。 以上の通り、金型設計を支援する各種ツールを準備しており、最終的に金型設計工程からは、後工程となる金型加工に直結する 3D モデルが提供される。 3.4 CAM/加工 3.4.1 CAM/加工技術 金型部品 3D モデルは、加工工程を経て金型部品として実体化される。 加工工程は、金型製造 L/T の大半を占める事から、NCプログラムを作成するCAMでは「加工テンプレート」、加工では「高速切削技術」を駆使して、加工工程 L/Tを大幅に短縮するためのシステムを構築した。 以下に、デジタル技術で加工工程を効率化する「加工テンプレート」について説明する。 3.4.2 加工テンプレート 「熟練技能者の加工ノウハウ」を徹底的に分析し作業レベルまで分解し、最適な加工工程を定義したものが「加工テンプレート」である。 加工テンプレートを組み込んだ CAM に、3Dモデルをインプットし、原点合わせをするだけで、使用する工具や切削条件、等高線/走査線などの

図 33. 加工用属性 Attribution for manufacturing

図 34. 属性定義表 Table list of attribution for manufacturing

図 35. 図面テンプレート Drawing template

図 36. 部品表 Parts list

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プラスチック高速金型一貫システムの技術

富士ゼロックス テクニカルレポート No.18 2008 73

図 37. 高速 CAM/加工システム Rapid CAM/Manufacturing System

金型部品 3D モデル

「加工テンプレート」

金型部品

熟練技能者ノウハウ

加工方法/使用工具/ 切削条件/仕上精度・・・

NC プログラム

最適 加工工程

経路パターン、仕上げ順序などを、作業者が判断・設定する事無しに、高効率で高精度なNCプログラムを自動で作成する事が出来る(図37)。 3.4.3 熟練技能者ノウハウのテンプレート化 金型部品の加工には数十種類の工具が使われ、加工形状や材質、仕上げ精度により適正な切削条件と経路パターンの選択が必要となるため、CAM には技能者の経験や知識が重要であり、その技能レベルによりムダな加工時間が生じる。また、技能者が都度、検討や判断を行うにも時間がかかるため、この判断工数も効率化の対象となる。 熟練技能者は、加工面の水平面/縦壁/斜面/緩斜面/曲面の違い、仕上げ精度の高精度/一般/ラフの違い、前加工での削り残り具合、部品材質の違いなどから、工具、経路パターンを選択して加工工程を組み立て、加工パスを作成して行く。 これらの判断要素の組み合わせから最適な加工工程を組立て、CAMに登録したものが、「加工テンプレート」であり、我々が加工する全ての金型部品に適用できる(図 38)。 ただし、これだけでは、各工程がどの面を加工対象とするのかの判断は、人が行わなければならない。それを解決するのが「CAD/CAM属性連携」である。

3.4.4 CAD/CAM属性連携 金型設計から受け取る金型部品 3D モデルの各面には、精度面/-公差精度面/逃がし面/精度穴/キリ穴などの属性が付加されている。 ±0.01 などの数値精度としていないのは、対象部品の種類や大きさにより数値精度は異なる為で、数値精度自体は、属性定義表という規格書の中で定義している。 さらに加工方向が決まった段階で、縦壁面や水平面などの属性付加が必要である。これらの属性は、「属性付加ツール」と呼ぶ自社作成のCAD/CAM 支援ツールを使用して自動で付加する。 「加工テンプレート」の各加工工程には、対象領域とする属性が定義してあり、上記属性を元に自動的に対象領域を割り出す事が出来る。加工担当者が対象領域を判断する必要は無い(図 39)。 以上のように、属性付き金型 3D モデルと加工テンプレートの連携により、NC プログラム作成の自動化が可能となり、短納期金型製作を実現している。

図 38. 熟練ノウハウを加工テンプレート化 Make Experts’ know-how into templates

最適加工工程

○判断要素(例:ピンク色面)加工面 ⇒水平面 仕上精度⇒±0.01 高精度削り残り ⇒First 切削 材質 ⇒プリハードン鋼

○加工パス作成 経路パタン⇒水平面加工使用工具 ⇒φ8.0 ラジアス回転数 ⇒15000min-1 送り速度 ⇒3000mm/minAp/St ⇒0.1mm/4.0mm・・・・

切削条件

・・・全ての金型部品

に適用可能

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プラスチック高速金型一貫システムの技術

74 富士ゼロックス テクニカルレポート No.18 2008

4. 高速金型一貫システムの成果

高速金型一貫システムの構成は、これまで紹介してきた①金型構造の標準化、②金型要件チェックツール、③流動解析ツールの自前化、④生産設計支援ツール、⑤金型自動設計(テンプレート化)、⑥加工プロセスの自動化(テンプレート化)技術を、製品設計者がデザインする 3Dモデルを起点に金型設計・製造プロセスをそれぞれ連携させ成立している。 この結果、製品設計者のデザインとコンカレントに生産設計をし、手戻りを極小化したかたちで金型設計・製造を行い、金型と部品製作の納期短縮/品質向上を実現できている。 具体的成果としては、内製対象部品に対し金型リードタイムが2004年に比べ1/3と大幅な改善が出来た。

5. 結び、課題と展望

富士ゼロックスの『開発生産力/効率』改革活動の重点施策を受け『生産技術プロセス改革』の狙いを生産準備スピードと品質向上と掲げ、高速金型一貫システムを構築・展開し成果へ結びつけることが出来た。 今後はさらに 3D モデルの適用範囲を拡大・拡充すると共に、測定の自動化(CAT)分野への展開も図る予定である。更には、構築したシステムをパートナー仕入先へ展開し一気通貫の

加速を行い、高品質な商品をタイムリーに、お客様へお届けすることに貢献していきたい。

参考文献

1) 日経ものづくり:2005 年 4 月号「富士ゼロックスが着手した金型製造改革」P135-140:日経BP社

2) 金型製作ノウハウのシステム化 (2005年 10月 21日 金型設計・製造における図面レス・自動化への挑戦 発表)

3) NX ナレッジ機能活用による金型要件のシステム化 (2006年 6月 30日 ものづくり IT革新セミナー2006 発表/ 2006年10 月 27日 UGS CONNECTION JAPAN 2006 発表)

4) 金型設計のナレッジを活用した金型チェックツール開発(2007 年 3月 13日 新三次元設計セミナー2007 発表)

5) FUJI XEROX NEWS Vol.8 (2006 年 5月号) 「ものづくり改革」P4-5:富士ゼロックスHP

6) 日本経済新聞:2005 年 2 月 17 日「金型内製」記事

7) 中里博昭ら、特願 2007-296120 8) 沼内寿浩ら、特願 2007-301912 9) 萩原正明ら、特願 2007-308142 10) 中里博昭ら、特願 2007-296350 11) 中里博昭ら、特願 2008-120638 筆者紹介

萩原 正明 専門分野:CAD/CAM技術 波多江 正明 専門分野:金型設計/CAD技術 田中 晃樹 専門分野:金型加工/CAM技術 沼内 寿浩 専門分野:CAD/CAM技術 中里 博昭 専門分野:CAD/CAM技術 山川 泰明 専門分野:成形/CAE技術

図 39. CAD/CAM 属性連携 CAD/CAM attribution linkage

「加工テンプレート」

CAM で付加した 属性

金型設計で付加した属性

精度面 水平面

自動的に加工対象領域を割り出す

加工パスを作成