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シミュレーション・解析手法とアンテナ・伝搬技術論文特集 レイトレーシング による移 シミュレーション Mobile Radio Propagation Simulation Based on Ray-Tracing Method Tetsuro IMAI あらまし レイトレーシング から するレイを にトレースするだけ をシミュレート き,移 システム エリア を一 きる ある.しかし, るために )に する データを する.また, 囲にわたる多く を対 多いレイをトレー スし けれ らず,演 に多く する. らが した マクロセル対 レイ トレーシングシステム る. システムに するために らが 案してい されている.また, データ 較するこ により システム し, システムが する あるこ らかにする. キーワード レイトレーシング ,移 シミュレーション, システム,システム 1. まえがき 囲に が多 する移 シス テム において った アンテナに する. ,移 大きく異 り, ,偏 いった がりが じる [1].移 よりシステム びエリア じて これら にモデル してきた [2], [3].しか し, ,システム い,これら にシミュレート きるモデルが められるよう ってきた.そこ ,チャネルサ ンディン グによる データに づく アプローチ [4][7] レイトレーシング による アプローチ [8][28] から んに められている. お, に, いシミュレーションを した アプローチが られ, したシミュレーションを した アプローチが られる. におけるレイトレーシング (株)NTT ドコモ, NTT DOCOMO, INC., 3–5 Hikarinooka, Yokosuka-shi, 239–8536 Japan 1 すように から される をレイ Rayし, いった するレイを にトレース(Trace)するこ により シミュレートする ある. にコンピュータグラ フィックス レイトレーシング 扱いが異 をシミュレートする らず, からシステム エリア するこ にある. お, シミュレーション めて する. レイトレーシング に,モデル するモデル レイ トレース する づいて する 延スプレッド,角 スプレッド にて される.ここ ,対 する において による すれ ,レイ トレーシング モデル にて される. るた めに する データを い, 囲にわたる多く を対 いレイから多いレイま ころ くト レースする がある.そ 電子情報通信学会論文誌 B Vol. J92–B No. 9 pp. 1333–1347 c (社)電子情報通信学会 2009 1333
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レイトレーシング法による移動伝搬シミュレーション招待論文/レイトレーシング法による移動伝搬シミュレーション 図2 3D-PRISM の処理の流れ

Mar 12, 2020

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Page 1: レイトレーシング法による移動伝搬シミュレーション招待論文/レイトレーシング法による移動伝搬シミュレーション 図2 3D-PRISM の処理の流れ

招待論文 シミュレーション・解析手法とアンテナ・伝搬技術論文特集

レイトレーシング法による移動伝搬シミュレーション

今井 哲朗†

Mobile Radio Propagation Simulation Based on Ray-Tracing Method

Tetsuro IMAI†

あらまし レイトレーシング法は送信点から受信点に到達するレイを幾何学的にトレースするだけで電波伝搬をシミュレートでき,移動通信のシステム設計やエリア設計に必要な伝搬諸特性を一元的に推定できる魅力的な方法である.しかし,高精度な結果を得るためには形状と材質(電気的特性)に関する詳細な構造物データを必要とする.また,広範囲にわたる多くの構造物を対象に相互作用回数(反射,回折,透過)の多いレイをトレースしなければならず,演算に多くの時間を要する.本論文では,筆者らが開発した市街地マクロセル対応のレイトレーシングシステムの概要を述べる.本システムには演算処理の高速化を実現するために筆者らが提案している様々な高速化技術が適用されている.また,本論文では市街地の実測データと比較することにより本システムの演算時間と推定精度を評価し,本システムが実用に資するものであることを明らかにする.

キーワード レイトレーシング法,移動伝搬シミュレーション,伝搬推定システム,システム性能

1. ま え が き

周囲に建物等の構造物が多数存在する移動通信シス

テムの通信環境では,構造物において反射・透過・回

折・散乱を伴った複数の波が受信アンテナに到来する.

その結果,移動伝搬では自由空間伝搬と大きく異なり,

受信電力,遅延時間,出射及び到来角度,偏波の方向

といった特性に広がりが生じる [1].移動伝搬研究では,

以前よりシステム設計及びエリア設計の要求に応じて

これらの特性を個別にモデル化してきた [2], [3].しか

し,近年,システムの高度化に伴い,これら諸特性を

一元的にシミュレートできるモデルが求められるよう

になってきた.そこで,現在,チャネルサウンディン

グによる実測データに基づく統計的アプローチ [4]~[7]

とレイトレーシング法による決定論的アプローチ [8]~

[28] の両面から検討が盛んに進められている.なお,

一般的に,場所を特定しないシミュレーションを目的

とした検討には統計的アプローチがとられ,場所を特

定したシミュレーションを目的とした検討には決定論

的アプローチがとられる.

電波伝搬研究の分野におけるレイトレーシング法は,

†(株)NTT ドコモ,横須賀市NTT DOCOMO, INC., 3–5 Hikarinooka, Yokosuka-shi,

239–8536 Japan

図 1 に示すように送信点から放射される電波をレイ

(Ray)とみなし,周辺構造物との反射,透過,回折

といった相互作用を経て受信点に到達するレイを幾何

学的にトレース(Trace)することにより電波伝搬を

シミュレートする技術である.特にコンピュータグラ

フィックス分野のレイトレーシング法と扱いが異なる

点は,電波伝搬の様子をシミュレートするのみならず,

その結果からシステム設計やエリア設計に必要な伝搬

諸特性を推定することにある.なお,本論文では伝搬

シミュレーションも含めて伝搬推定と呼ぶこととする.

レイトレーシング法は一般的に,“構造物のモデル化

を実施するモデル生成部”,“レイのトレース処理を実

施する幾何演算部”,“幾何光学理論と幾何光学的回折

理論に基づいて電界を計算する電界演算部” 及び “受

信電力,遅延スプレッド,角度スプレッド等を計算す

る伝搬特性評価部”にて構成される.ここで,対象と

する伝搬環境において幾何光学理論と幾何光学的回折

理論による高周波近似が成り立つものとすれば,レイ

トレーシング法の推定精度はモデル生成部と幾何演算

部の演算精度にて決定される.高精度な結果を得るた

めには,構造物の形状と材質に関する詳細なデータを

用い,広範囲にわたる多くの構造物を対象に相互作用

回数の少ないレイから多いレイまで余すところなくト

レースする必要がある.その演算量は一般的に膨大で

電子情報通信学会論文誌 B Vol. J92–B No. 9 pp. 1333–1347 c©(社)電子情報通信学会 2009 1333

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電子情報通信学会論文誌 2009/9 Vol. J92–B No. 9

図 1 レイトレーシング法Fig. 1 Ray-tracing method.

ある.そこで当初,レイトレーシング法は,考慮する

構造物の数を少なく抑えることができるという理由か

ら,ストリートマイクロセル環境や屋内セル環境の伝

搬推定に用いられてきた [8], [9].一方,マクロセル環

境への適用においては,構造物のモデル化や幾何演算

処理の高速化技術が長年検討されてきた.その成果と

計算機能力の向上とがあいまって,現在はマクロセル

環境においてもシステム設計やエリア設計に資するレ

ベルになってきている [10]~[24].

これまで提案されている幾何演算処理の高速化技術

を整理すると,“演算の効率化”,“演算の高速化”,“演

算の分散化”の三つのアプローチに分類できる.演算

を効率化するアプローチは,“演算で考慮する構造物”

と “設定する相互作用回数の上限値” に制限を加える

ものである.例えば,市街地マクロセル環境の移動伝

搬推定において効率良く 3次元レイトレーシングを行

うための Vertical Plane Launch (VPL) model はこ

のアプローチに該当する [11], [18].演算を高速化する

アプローチは,イメージング法やレイランチング法に

よる幾何演算のアルゴリズム [2] を高速化するもので

ある.このアプローチの例としては,Visibility Graph

によるイメージング法 [15]や三角グリッドによるレイ

ランチング法 [13]等が挙げられる.演算を分散化する

アプローチは,幾何演算をネットワークで接続した複

数の計算機に分散させて並列処理するものである.筆

者らはレイトレーシング法による市街地マクロセル対

応の伝搬推定システムを実現するために,上記三つの

アプローチをすべて考慮して幾何演算処理の高速化を

検討してきた [19].

本論文では筆者らが改良を重ねて開発・実用化した市

街地マクロセル対応のレイトレーシング法による電波

伝搬推定システム:3D-PRISM(Three-Dimensional

Propagation prediction with Ray-tracing Intelligent

web-Shared system for Mobile radio)[19], [23], [24]

について,その機能と伝搬推定精度について明らか

にする.まず,2. において 3D-PRISM の伝搬推定

の流れと演算機能について述べる.次に 3. において

3D-PRISM のパフォーマンスを演算速度と推定精度

の観点から評価する.4.ではこれらのパフォーマンス

を向上させるための将来技術について考察し,最後に

5.にてまとめる.なお,本論文では特に断らない限り,

幾何演算と電界演算を併せてレイトレーシング演算と

呼ぶこととする.

2. 3D-PRISMによる伝搬推定

3D-PRISMは実用性の観点から各ユーザが webア

クセスするサーバ型のシステムとなっており,各種処

理負荷を分散させるために,• webサーバ:webサービス,DBサービス及び

ファイル共有サービスを実行.• アプリケーションサーバ:ユーザが登録したジョ

ブのキュー管理サービス,分散サーバの演算制御サー

ビスを実行.• 分散サーバ:アプリケーションサーバから与え

られるプロセス単位でのレイトレーシング演算を実行.

の 3種類のサーバにて構成されている [23], [24].本章

では,アプリケーションサーバ及び分散サーバにて実

行される処理の中から,特に伝搬推定の基本となる演

算処理について述べる.

2. 1 処理の流れ

3D-PRISM による伝搬推定処理の流れを図 2 に示

す.なお,本処理の流れは一般的なレイトレースシミュ

レータにおいても同様である.

市街地の伝搬推定を前提とする場合,レイをトレー

スするためには地形・地物のデータが必要となる.

3D-PRISM では低コスト化を図るために市販の地形

データと電子住宅地図を用いている.まず,モデルDB

作成部では伝搬推定エリア内の地形と建物をレイト

レーシング演算に適した形式に変換し,モデルデータ

としてデータベース(DB:Data base)化する.次に

ユーザが基地局(BS:Base Station)と移動局(MS:

Mobile Station)に関する位置・高さ・アンテナ種別・

周波数・送信電力などの条件を設定し,それらを一つ

の計算ジョブとして登録する.なお,以降ではシミュ

レーションの過程においてMSを計算ポイントと呼ぶ

こととする.登録されたジョブは処理の順番が回って

くると複数のプロセスに分割され,レイトレース条件

1334

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招待論文/レイトレーシング法による移動伝搬シミュレーション

図 2 3D-PRISM の処理の流れFig. 2 Process flow in 3D-PRISM.

及びモデルデータとともに複数の分散サーバに渡され

る.なお,3D-PRISMにおいて,必要となる分散サー

バの数はジョブの規模をパラメータとする経験式に基

づいて自動的に設定される.

分散サーバでは,後述する見通し建物探索に基づく

高速な幾何演算を実行し,その結果をトレース情報,

見通し建物情報として保持する.次に,トレース情報

をもとに各レイに対する電界を計算し,その結果をレ

イ情報として保持する.与えられたプロセスに対する

すべての演算処理が終了となった場合には,分散サー

バは得られた見通し建物情報,トレース情報及びレイ

情報をアプリケーションサーバに送る.

アプリケーションサーバでは各分散サーバで演算さ

れた結果をマージして保存する.また,伝搬特性評価

のための処理として,受信電力,遅延スプレッド,角

度スプレッドを計算ポイントごとに計算し,その結果

を保存する.

2. 2 演 算 機 能

2. 2. 1 モデル DB作成部

電子住宅地図の中で 3D-PRISMの幾何演算に有用

な情報は,ポリゴンで定義した建物の水平面内 2次元

図 3 地形データのモデル化Fig. 3 Modeling of topographic data.

形状と階数である.そこで,まず,システムでは建物

の 2次元形状を自動認識するとともに,データの欠損

を補うデータ・クリーニング処理,例えばオープンポ

リゴンとなっている場合にはユーザ設定のしきい値を

参照してクローズドポリゴンに変換する処理を行う.

なお,幾何演算部の処理負荷を考えるとポリゴンを構

成するエレメント数は極力少ない方が良いことから,

3D-PRISM では二つのエレメントがしきい値以下の

浅い角度で交わっている場合には一つのエレメントに

変換する直線化処理の機能も有している.ただし,こ

の直線化処理は伝搬推定の誤差要因にもなることから,

3.で述べるパフォーマンス評価では直線化処理を実施

していないモデル DBを使用している.

次に,ユーザが設定した階高と階数情報から 3次元

建物データを作成する.なお,ここでも幾何演算部の処

理負荷を軽減するため,本来同一と考えられる二つの建

物,すなわち同一のエレメントを共有する高さが等しい

二つの建物に対してはマージ処理により一つの建物と

する.最後に材質情報としてユーザが設定する電気的特

性(比誘電率 εr,導電率 σ,比透磁率 μr)を各々の建

物に与えて DB化する.以上が建物モデルの作成機能

である.ここで得られている建物は厳密には実際の 3次

元形状を表していない.そこで,本論文では上述の過程

を経て得られる建物を 2.5次元建物と呼ぶこととする.

一方の地形に対しては,後述する見通し建物探索を

高速に実施するために,伝搬推定エリアを図 3に示す

ように探索ブロックと基本メッシュで分割し,それら

を探索ブロック情報(ブロック ID,ブロックの高さ,

地表高,内包する建物 ID,等),メッシュ情報(メッ

シュID,属する探索ブロックの ID,メッシュの高さ,

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電子情報通信学会論文誌 2009/9 Vol. J92–B No. 9

図 4 イメージング法における伝搬経路の設定Fig. 4 Ray-path configuration in imaging method.

地表高,メッシュの属性:建物の有無,等)とともに

DB化する.なお,探索ブロックのデフォルトサイズ

は 100 m × 100 m であり,基本メッシュのサイズは

10 m × 10 m としている.

2. 2. 2 幾何演算部

3D-PRISM では基本的にイメージング法による幾

何演算アルゴリズムを採用している.また,構造物と

の相互作用として考慮する要素は反射と回折である.

なお,MSが屋外にある場合,建物を透過するレイは

伝搬特性に大きく寄与しないことから,市街地マクロ

セル環境では一般的に透過を考慮しない.

イメージング法では,まず,図 4に示すようにレイ

が伝搬する経路を送信点と受信点及び対象エリア内

の構造物の壁面とエッジの組合せから設定する.ここ

で,壁面とエッジの数を M,考慮する反射と回折の

回数を N とすると,経路として設定する組合せの数

は M(M − 1)N−1 となる.次に,各経路に対して反

射点及び回折点を幾何学的に探索することによりレイ

をトレースする [2], [29], [30].イメージング法の主な

特徴は,•受信点に到達するレイを厳密にトレース可能.•実際にレイをトレースできず最終的に棄却される

経路が多数,すなわち演算効率が悪い.•演算処理量がはじめに設定する経路の数にほぼ

比例.•演算は基本的に計算ポイントに対して独立.

であることが挙げられる.特に,一つ目と二つ目の特

徴はそれぞれイメージング法の利点,欠点として挙げ

られる.

( 1 ) 演算の効率化

イメージング法の演算効率を上げるには,これまで

に得られている経験や知識により伝搬路のモデルを構

図 5 SORT 法によるレイトレーシングFig. 5 Ray-tracing based on SORT method.

築して,“考慮する構造物”と “設定する相互作用回数

の上限値”に制限を加える必要がある.前提とする伝

搬路モデルが適切であれば,最終的に棄却される経路

や伝搬特性にほとんど寄与しない経路に対してレイの

トレース処理をせずに済むことから演算効率の大幅な

向上が図れる.この考えに基づいて筆者らは図 5に示

す SORT(Sighted Objects-based Ray-Tracing)法

を提案している [19].

従来の伝搬モデルより考察すると,伝搬損失特性に

はWalfish-池上モデル [2] より “送受信点を含む鉛直

面内の建物屋上で多重回折する伝搬路”,伝搬遅延特

性には竹内らが提案する遅延プロファイル推定法 [31]

より “BS から見通しとなる建物を経由する伝搬路”,

到来角度特性には筆者らが提案している楕円散乱体モ

デル [6] より図 5 に示す “MS を中心とし道路方向を

長軸とする散乱楕円内の建物を経由する伝搬路”が大

きな影響を与えるといえる.そこで,SORT 法では,

図 5に示すように BS及びMSより見通しとなる建物

を対象にレイをトレースする.その手順は,

(Step1) BS及びMSから見通しとなる建物をそれぞ

れ探索する.

(Step2) 見通し建物を対象に図 4 の伝搬経路を設定

する.

(Step3) 各伝搬経路に対してイメージング法により

レイをトレースする.

(Step4) トレースしたレイに沿って存在する建物を

抽出する.

(Step5) 抽出した建物の屋上による多重回折を考慮

してレイを再トレースする(図 6を参照).

である.SORT法ではイメージング法の対象建物をBS

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招待論文/レイトレーシング法による移動伝搬シミュレーション

図 6 屋上多重回折を考慮したレイの再トレースFig. 6 Re-tracing of rays taking rooftop multiple

diffractions into consideration.

図 7 見通し建物探索法Fig. 7 Search method for buildings in LOS.

見通し建物とMS見通し建物に制限し,かつレイの伝

搬路を “BS → BS見通し建物 → MS見通し建物 →MS” に限定することから大幅な演算処理の削減が図

れる.また,トレースされるレイはすべて前述の “伝

搬特性に大きな影響を与える伝搬路”を通って受信点

に至ることから推定精度が大きく劣化することはない.

( 2 ) 演算の高速化

SORT法を前提とする場合,幾何演算の前に BS及

び MS から見通しとなる建物を探索する必要があり,

その処理量は考慮する建物数が多くなると無視できな

い.従来からコンピュータグラフィックス分野のレイ

トレーシング法では物体との見通し判定の高速化が大

きな課題であり,その解決策の一つとして物体を複数

個のまとまり “Bounding-Volume”として扱う手法が

提案されている [32].筆者らの提案する見通し建物探

索法も同様の考えに基づいている.

図 7 に示す提案の見通し建物探索法ではモデル

DB作成部で述べた図 3の探索ブロックを Bounding-

Volumeとして使用する.ここで,探索ブロックの高

さ ΔHb はブロック内で最も高い建物の高さで定義す

る.見通し建物は次の手順により探索する.

(Step1) 地表高も考慮して視点からの見込み角(仰

角方向)が最も大きい探索ブロックを検出する.

(Step2) 検出した探索ブロック内で最も高い建物を

選択し,水平面内及び垂直面内の見通し補助線を作成

する.

(Step3) 見通し補助線を用いて,(Step2)にて選択し

た建物により完全に見通し外となる探索ブロックを以

降の探索候補から削除する.

(Step4) (Step2)にて選択した建物により一部が見通

し外となる探索ブロックはその内包する建物を再構築

し,見通し外となる建物を探索候補から削除する.必

要に応じてこの探索ブロックの高さ ΔHb を修正.

(Step5) (Step2)にて選択した建物を見通し建物とし

て DBに保存し,以降の探索候補より削除.この建物

を内包していた探索ブロックの高さ ΔHb を修正.

(Step1)~(Step5)の処理を見通し建物の候補がなく

なるまで繰り返せば,最終的に視点から見通しとなる

全建物を得ることができる.本方法を用いると,一度

に複数の見通し外建物を削除できることから処理の高

速化が図れる.なお,基本的に高速化に際して演算の

近似を行わないことから,本方法の適用により演算精

度の劣化は生じない.

( 3 ) 演算の分散化

イメージング法は前述したように,演算が基本的に

計算ポイントに対して独立である.したがって,レイ

トレーシング演算を複数の計算機にて容易に分散処理

することが可能である.3D-PRISMでは計算ポイント

を最小単位としてレイトレーシング演算の分散を行っ

ている.ただし,アプリケーションサーバと分散サー

バの間で通信頻度が増えるとネットワークの伝送速度

が高速化のボトルネックとなりやすい.そこで,実際

には複数の計算ポイントをまとめて “プロセス” と定

義し,プロセス単位の分散を実行している.なお,演

算の分散化により演算精度が劣化することはなく,ま

た,ネットワークの伝送速度や制御遅延がボトルネッ

クにならない範囲であればトータルの演算速度は接続

される分散サーバ並びに CPUの数に比例する.した

がって,環境を整えるためにコストはかかるが,本方

法は最も堅実な高速化法といえる.

ところで,分散サーバとして使用できる計算機の演

算性能がすべて一律であるとは限らない.用意する計

算機の間で演算性能に差がある場合,能力の劣る分

散サーバの演算速度がボトルネックとなる.そこで,

図 8に示すように演算性能に合わせて 1回に分散させ

るプロセスのサイズ,すなわちプロセス当りの計算ポ

1337

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電子情報通信学会論文誌 2009/9 Vol. J92–B No. 9

図 8 計算プロセスの分散とその制御Fig. 8 Distribution and control of calculation

processes.

イントの数を変更することが考えられるが,その最適

化は一般的に困難である.この問題を解決するために,

3D-PRISM では文献 [26] にて提案するプロセス分散

法を採用している [24].提案法は,“プロセスの演算

が終了するごとに,分散サーバに渡すプロセスのサイ

ズを徐々に大きくしていく”ことを特徴とする.具体

的には,初回のプロセスサイズを α0,増加率を r と

すれば,n 回目の処理には αn = α0 · rn−1 となるサ

イズのプロセスが分散サーバに渡される.なお,n は

分散サーバごとにカウントする値である.この処理を

行うことにより,演算能力の低い分散サーバが小さな

プロセスの演算に時間を費やす間に演算能力の高い分

散サーバがより大きなプロセスを次々に演算していく

とこになることから,演算処理量が自動的に最適化さ

れることとなる.筆者らは提案法が有効であることを

計算機シミュレーションより確認している(詳細は文

献 [24], [26]を参照).なお提案法は,接続するネット

ワーク環境により伝送速度が各分散サーバで異なる場

合においても有効である.

2. 2. 3 電界演算部

電界演算部では幾何演算部にて得られたレイのト

レース情報をもとに,各レイの電界を幾何光学理論及

び幾何光学的回折理論より求める.一般的に,送信点

から反射と回折をそれぞれ Nr 回及び Nd 回伴って受

信点に i 番目として到達するレイの電界 Ei は

Ei = E0R · D

dexp

(−jk

Nd+1∑l=1

sl

)

⎧⎪⎪⎪⎪⎪⎨⎪⎪⎪⎪⎪⎩

R =

Nr∏m=1

Rm, D =

Nd∏l=1

Dl

1

d=

1

s1

Nd∏l=1

√s1 + · · · + sl

(s1 + · · · + sl+1)sl+1(1)

で与えられる.ただし,Rm はレイが m 番目の反射

面にて反射した際の反射係数であり,Dl はレイが l 番

目の回折エッジで回折した際の回折係数である.また,

s1 は送信点から最初の回折点までの延べ距離,sl は

l − 1 番目の回折点から l 番目の回折点までの延べ距

離,sNd+1 は Nd 番目となる最後の回折点から受信点

までの延べ距離である.なお,E0 は送信点近傍の電

界であり,k は波数である.また,式 (1)では明示し

ていないが,R と D の演算では偏波を考慮してベク

トル的に行う [33].

3D-PRISMにおいて,反射係数 Rm はサイズが無

限の平面(ただし,2層媒質を仮定)に電波が斜め入

射した場合のフレネル反射係数より求め,回折係数 Dl

はサイズが無限のくさび(ウェッジ)に電波が斜め入

射した場合の UTD(Uniform geometrical theory of

diffraction)より求めている(詳細は文献 [2], [33] を

参照).なお,実際の反射や回折がこれらの規範モデ

ルから大きく外れる場合,その影響は推定誤差として

現れることとなる.

2. 2. 4 伝搬特性評価部

移動伝搬における伝搬特性の評価指標は,受信電

力,遅延スプレッド,角度スプレッドが基本であり,

3D-PRISMにおいてもこれらをアプリケーションサー

バにて求めている.具体的な計算方法を簡単に述べる.

受信電力は受信される電波の総電力で定義される.

したがって,受信点に Nray 本のレイが到達する場合

の受信電力 Pr は,式 (1) より得られる各レイの電

界 Ei と送信電力 Pt,波長 λ を用いて,

Pr = Pt(λ/4π · |E/E0|)2 (2a)

E =

Nray∑i

√G

(i)t G

(i)r Ei (2b)

で与えられる.ただし,G(i)t と G

(i)r はそれぞれ送信

アンテナと受信アンテナにおけるレイの出射方向と

入射方向に対する利得である.式 (2)より得られる受

信電力は各レイの干渉による影響を伴う,いわゆる瞬

時値である.移動通信の各種設計では複数の瞬時値を

平均した電力,すなわち平均電力が求められることが

1338

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招待論文/レイトレーシング法による移動伝搬シミュレーション

多々ある.そこで,平均電力の近似として,レイの干

渉による影響を除外した,

Pr =

Nray∑i

P (i)r (3a)

P (i)r = PtG

(i)t G(i)

r (λ/4π · |Ei/E0|)2 (3b)

が用いられる.なお,P(i)r は各レイの受信電力を表し

ている.また,式 (2)と式 (3)はそれぞれ “複素振幅

加算”及び “電力加算”と呼ばれる.本論文では,後述

する実測データが平均受信電力であることから電力加

算による値を用いる.

遅延スプレッドは,受信点において得られる電力遅

延プロファイルを確率分布と見立てた場合の標準偏差

で定義される.したがって,到来時間を τi とすれば,

遅延スプレッド Sτ は,

Sτ =

√√√√Nray∑i

P(i)r (τi − τm)2

/Pr (4a)

τm =

Nray∑i

P (i)r · τi

/Pr (4b)

で与えられる.ただし,τm は平均遅延時間を表す.

角度スプレッドは,遅延スプレッドと同様に受信点

において得られる電力角度プロファイルを確率分布と

見立てた場合の標準偏差で定義される.したがって,

到来角度を θi とすれば,角度スプレッド Sθ は,

表 1 シミュレーション条件Table 1 Calculation conditions.

Sθ =

√√√√Nray∑i

P(i)r (θi − θm)2

/Pr (5a)

θm =

Nray∑i

P (i)r · θi

/Pr (5b)

で与えられる.ただし,θm は平均到来角度を表す.な

お,出射角度のスプレッドを求める場合も同様である.

3. 3D-PRISMのパフォーマンス評価

3. 1 伝搬推定と演算速度

3D-PRISMの計算条件をデフォルト値とともに表 1

に示す.モデル DB作成部において作成する建物モデ

ルは,階高を 3 m とし,材質をすべてコンクリート

(εr = 6.76,σ = 0.0023 S/m,μr = 1)とする 2.5次

元建物である.幾何演算部において,BS側とMS側

で見通しとなる建物を探索する範囲はともに 500 m以

内である.ただし,実際の幾何演算で対象とする見通

し建物は,BS側では BSアンテナ高以上の建物とし,

MS側ではすべての建物とする.また,考慮する最大

反射回数と最大回折回数はともに 1回である.ただし,

建物屋上における回折回数は ∞ とし,MS周辺での

大地反射は上記とは別に考慮している.

都内の青山エリアにて受信電力を推定した結果例

を図 9に示す.ただし,周波数:2.2 GHz,送信電力:

42 dBm,BS アンテナ高:58.3 m,MS アンテナ高:

1.5 mとしている.アンテナ種別は BSとMSともに

1339

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電子情報通信学会論文誌 2009/9 Vol. J92–B No. 9

図 9 計算結果例(受信電力図)Fig. 9 Example of calculation results. (Received

power map)

図 10 3 次元計算結果例(受信電力図)Fig. 10 Example of 3-dimensional calculation

results. (Received power map)

スリーブアンテナである.また,伝搬推定エリアは

1.3 km × 1.25 km であり,計算ポイントは建物の配

置されていない 10 m メッシュの中心に設定した.計

算ポイント数は 16880 ポイントである.分散処理は

25 台のブレードマシン(クロック周波数:2.6 GHz,

CPU:デュアルコア 2 基)で行っており,図 9 の結

果を得るのに要した時間は約 15 分である.このよう

に 3D-PRISMでは面的な伝搬推定が現実的な演算時

間内で終了するよう処理の高速化が図れていること

から,計算ポイントを建物の壁面や屋上面に自動配置

した図 10に示す 3次元受信電力マップも作成可能と

している.なお,図 10 において,計算ポイントは大

地面:10 mメッシュ間隔,建物上:5 mメッシュ間隔

で総 14776 ポイント配置しており,演算時間は約 25

分であった.計算ジョブのサイズを表す計算ポイント

図 11 分散サーバの台数と演算速度の関係Fig. 11 Relationship between the number of distributed

servers and calculation speed.

数 Np をパラメータとして,分散サーバの台数と演算

速度との関係を評価した結果を図 11 に示す.横軸は

分散サーバとして使用する前述のブレードマシンの数,

縦軸は分散サーバ数を 2台としたときに得られた演算

時間を基準とする相対演算速度である.なお,ここで

は分散サーバ数の自動設定機能は止めてある.演算の

分散化が有効に機能した場合,ジョブ当りの演算速度

は接続された分散サーバの数に比例する.図 11より,

ジョブサイズが大きいほど,演算速度は分散サーバ数

にほぼ比例して上がっていることが分かる.すなわち,

ジョブサイズが十分に大きい場合には期待どおりの分

散効果が得られているといえる.

3. 2 建物モデルが推定精度に与える影響

3D-PRISM で用いる建物モデルは,建物の 2 次元

形状と階数の情報にユーザが階高を一律に設定して作

成する 2.5次元建物である.また,建物の材質もユー

ザが一律に与えている.そこで,ここでは実測データ

との比較より,ユーザが設定すべき適当な階高と材質

について評価する.

比較に用いる実測データの測定諸元を表 2 に示す.

本測定は図 9に示す都内の青山エリアで実施した.BS

の位置も図 9 と同じである.BS からはビルのプラッ

トホーム上に設置した 4 周波数分のスリーブアンテ

ナよりそれぞれの周波数の無変調波を垂直偏波にて送

信し,MS側では測定車上に設置した 4周波数分のス

リーブアンテナより受信電力を移動測定した.なお,

サンプリング間隔は 10 cmである.移動測定は BSか

ら 1.7 km以内の範囲である.青山エリアは平均建物高

1340

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招待論文/レイトレーシング法による移動伝搬シミュレーション

表 2 狭帯域伝搬測定条件Table 2 Measurement conditions for narrowband transmission.

図 12 推定誤差の累積分布Fig. 12 Cumulative probability of prediction error.

が約 20 mであり,典型的な市街地といえる.ここでは

得られた 10 cmサンプル値を走行コースに沿った 10 m

区間で中央値処理した値を評価に用いる.3D-PRISM

では,送受信条件を測定条件と合わせ,他の条件は特

に断らない限り表 1の値を用いて演算を実施した.た

だし,計算ポイントは中央値処理した 10 m区間の中

心とした.評価において,推定誤差は “実測値と推定

値の dB差分の絶対値”で定義する.

まず,階高について評価する.階高 ΔH をパラ

メータとして,周波数 f = 2.20 GHz の推定誤差を

累積分布で評価した結果を図 12 に示す.図 12 より,

ΔH = 3 mの場合が最も推定誤差が小さくなっている

ことが分かる.これは,ΔH < 3 mでは建物の高さが

一律に低くなり受信電力の推定値が全体的に大きくな

るためであり,また,ΔH > 3 mでは建物の高さが一

図 13 階高と推定誤差の関係Fig. 13 Relationship between floor height and

prediction error.

律に高くなり受信電力の推定値が全体的に小さくなる

ためである.階高 ΔH と推定誤差の関係を各周波数

について更に詳しく評価した結果を図 13 に示す.た

だし,縦軸は推定誤差の累積 50%値である.図より,

推定誤差は 4周波数すべてにおいて ΔH = 3~4 mで

最小となっていることが分かる.この値は階高として

の常識的な値と一致している.

ところで,建物の材質は一様ではなく,また主な材

質もコンクリート,ガラス,木など建物ごとに異なる.

更には,コンクリートの電気的特性は含水量によって

も異なる.したがって,レイトレーシング法を用いて

伝搬特性を推定する場合には,どのような材質を建物

モデルに設定すべきか悩むところである.そこで,次

に材質として設定する電気的特性が推定誤差に与える

影響について評価する.

1341

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電子情報通信学会論文誌 2009/9 Vol. J92–B No. 9

材質としてコンクリート(εr=6.76,σ=0.0023 S/m,

μr =1),ガラス(εr =2.4,σ =0.0 S/m,μr =1),金

属(εr = 1,σ = 5.8× 107 S/m,μr = 1)をそれぞれ

建物モデルに設定した場合の推定誤差(累積 50%値)

を図 14に示す.ただし,階高は ΔH = 3 mとしてい

る.図 14 より,コンクリートとガラスでは推定誤差

に大きな違いがないことが分かる.なお,金属による

誤差が大きいのは推定値が全体的に大きくなるためで

ある.ただし,その誤差は周波数が高くなるほど小さ

い.これは,周波数が高くなるほど受信電力の推定に

は回折の影響がドミナントになるためと考える.図 15

は特に比誘電率 εr が推定誤差(累積 50%値)に与え

る影響を評価した結果である.ただし,導電率 σ は 0,

図 14 材質と推定誤差の関係Fig. 14 Relationship between material quality and

prediction error.

表 3 広帯域伝搬測定条件Table 3 Measurement conditions for wideband transmission.

比透磁率 μr は 1 とした.図 15 より,f = 485 MHz

の場合を除けば,比誘電率 εr を 2~10に変えても推

定誤差の変化は 1 dB 以下であることが分かる.言い

換えれば,3D-PRISM による推定誤差は電気的特性

以外によるところが大きいといえる.

以上,建物モデルが推定精度に与える影響である.

ここで得られた結果より,表 1に示す建物モデル作成

時のデフォルト値を用いれば 400 MHz帯から 3 GHz

帯まで受信電力推定の誤差は累積 50%値で約 8 dB程

度であるといえる.

3. 3 様々な伝搬特性の推定精度

ここでは実測データとの比較により受信電力特性,

遅延特性,BS 側到来角度特性の推定精度について評

価する.

図 15 誘電率と推定誤差の関係Fig. 15 Relationship between relative permittivity

and prediction error.

1342

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招待論文/レイトレーシング法による移動伝搬シミュレーション

(a)

(b)

(c)

図 16 受信電力距離特性Fig. 16 Received power characteristics based on

distance.

比較に用いる実測データの測定諸元を表 3 に示す.

本測定は,BSアンテナ高による違いを評価するために,

都内の代々木と青山,及び横浜にて実施した.ただし,

表 4 実測と推定の比較結果Table 4 Comparison results between measurement

and prediction.

送信側をMS,受信側をBSとする上り測定であり,ま

た,移動測定は行わず代々木:92,青山:117,横浜:30

の送信ポイントによる定点測定である.なお,送信ポイ

ントはすべてBSから見通し外である.MSでは測定車

上の回転台に設置したスリーブアンテナより 30 Mbit/s

の拡散信号を送信し,BS側ではビルのプラットホーム

上に設置した 16素子–水平リニアアレーアンテナより

信号を受信した.なお,瞬時変動による影響を取り除

くため,測定時は送信ポイントごとに送信アンテナを 1

回転させた.この 1回転当りに受信側で取得できる複素

インパルス応答のサンプル数はアンテナ 1素子当り 100

サンプルである.なお,青山エリアにおいてBSを設置

した場所とMSを配置した範囲は図 9と同じである.ま

た,青山と同様に,代々木と横浜のエリアも平均建物高

が約 20 mであり,典型的な市街地といえる.ここでは,

得られた実測データを解析して求めた時空間パスプロ

ファイルの受信電力,遅延スプレッド,BS側の角度スプ

レッドの値を評価に用いる.なお,データ解析の詳細は

文献 [6]を参照のこと.3D-PRISMでは,送受信条件を

測定条件と合わせ,他の条件は表 1の値を用いて演算を

実施した.したがって,建物モデルは階高:ΔH = 3 m,

材質:コンクリートとする 2.5次元建物である.

図 16に受信電力の距離特性を比較した結果を示す.

ただし,横軸は水平面内の送受信間距離である.いず

れのエリアにおいても実測と推定の特性がよく一致し

ていることが分かる.実測値と推定値の平均値,及び

推定誤差の累積 50%値を表 4に示す.推定誤差の累積

50%値は 5~7 dBであり,3. 2 の狭帯域測定時の誤差

より少し小さい.これは,実測データとの比較が定点

1343

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電子情報通信学会論文誌 2009/9 Vol. J92–B No. 9

であることによると考える.

図 17に遅延スプレッドの距離特性を比較した結果を

示す.ただし,横軸は水平面内の送受信間距離である.

一般的に遅延スプレッドは送受信間距離が長いほど,

また,BS アンテナ高が低いほど大きくなる [5], [6].

図 17においても同様の傾向が得られており,また,推

定は実測とよく一致している.実測値と推定値の平均

値,及び推定誤差の累積 50%値を表 4に示す.ただし,

推定誤差は “実測値と推定値の差分の絶対値” で定義

している.表 4より,推定誤差の累積 50%値は実測値

及び推定値の平均値と相関があることが分かる.すな

わち,推定する遅延スプレッドが大きいほど誤差も大

きい.ここで,実測平均値に対する推定誤差 50%値の

比を誤差率として定義すると,すべてのエリアにおい

て誤差率は 5割程度となる.

図 18 に角度スプレッドの道路角特性を比較した結

果を示す.ここで,道路角は,図 5に示す “MSが位

置する道路とMSが BSを見込む方向とのなす角”で

ある.一般的に BS側の角度スプレッドは道路角が大

きいほど,また,BS アンテナ高が低いほど大きくな

る [5], [6].図 18 においても同様の傾向が得られてお

り,また,推定は実測とよく一致している.実測値と

推定値の平均値,及び推定誤差の累積 50%値を表 4に

示す.ただし,推定誤差は “実測値と推定値の差分の

絶対値”で定義している.表 4より,遅延スプレッド

の場合と同様に推定誤差の累積 50%値は実測値及び推

定値の平均値と相関があることが分かる.すなわち,

推定する角度スプレッドが大きいほど誤差も大きい.

ここで,角度スプレッドにおいても実測平均値に対す

る推定誤差 50%値の比を誤差率として定義すると,す

べてのエリアにおいて誤差率は 5割程度となる.

4. パフォーマンス向上のための将来技術

4. 1 不完全モデルに起因する誤差の補償

3D-PRISMでは建物モデルとして 2.5次元建物を用

いている.したがって,その不完全性により誤差が生

じることは避けられない.そこで,筆者らは実測デー

タを用いた推定値の補正法を検討している [27].具体

的には,実測値と推定値の差分を教師データとしてト

レーニングされたニューラルネットワークを用いて推

定値を補正する.ここで,ニューラルネットワークに

入力するパラメータは,周波数や送受信アンテナ高な

どの送受信条件,2.5次元建物データに基づく伝搬推定

エリア内の建物高と建物密度,などである.文献 [27]

(a)

(b)

(c)

図 17 遅延スプレッド距離特性Fig. 17 Delay spread characteristics based on

distance.

では,図 13の階高 ΔH = 2~5 mに対する推定誤差

(累積 50%値)を “階高によらない一律の値(約 8 dB,

ただし,ΔH = 5 mの場合は約 10 dB)”にできること

1344

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招待論文/レイトレーシング法による移動伝搬シミュレーション

(a)

(b)

(c)

図 18 角度スプレッド道路角特性Fig. 18 Angle spread characteristics based on street

angle.

を明らかにしている.ただし,提案法の検証はまだ十

分ではない.ニューラルネットワークの入力パラメー

タの最適化などの課題が残されている.

ところで,J. Beneatらはレイトレーシング法にお

ける屋内伝搬推定の精度を上げるために,屋内を構成

する構造物の比誘電率 εr を遅延プロファイルの実測

値との比較により最適化する方法を提案している [34].

本論文では 3. 1 において 3D-PRISMの推定誤差は電

気的特性以外によるところが大きいと述べた.しかし,

これは電気的特性を伝搬推定エリア内の建物に対して

一律に設定した場合であり,各建物の電気的特性を個

別に最適化した場合の効果については興味のあるとこ

ろである.今後の更なる検討に期待する.

4. 2 幾何演算の効率化に起因する誤差の改善

“幾何演算の効率化”はレイトレーシング演算の高速

化を図る上で最も効果的なアプローチである.ただし,

本アプローチは推定誤差をある程度許容しなければな

らない.この誤差をできるだけ小さくするためには,

SORT 法の改良若しくは SORT 法に代わる伝搬路モ

デルが必要である.ただし,新たに伝搬路モデルを構

築するには多くの時間とコストが必要である.そこで,

筆者らが提案しているのが遺伝的アルゴリズムを用い

た幾何演算の効率化である [28].イメージング法にお

いて,レイの伝搬路は図 4に示すように構造物の組合

せとして設定される.提案法は伝搬特性に大きな影響

を与える組合せを遺伝的アルゴリズムにより適応的に

選択するものである.これは,電波伝搬をシミュレー

トしながら伝搬路モデルを自己組織化しているといえ

る.文献 [28]では計算機シミュレーションにより,平

均 1 dB の推定誤差を許容すれば,演算速度を従来の

約 17倍にすることができることを明らかにしている.

ただし,評価には簡単な計算モデルを用いている.提

案法の 3D-PRISMへの実装は既に完了しており,現

在は現実的なモデルに対する効果を検証しているとこ

ろである.

4. 3 電界演算の精度不足に起因する誤差の改善

3D-PRISM で扱う反射は,サイズが波長に比べて

十分に大きく,表面が滑らかな平面での鏡面反射であ

る.言い換えれば,サイズが波長に比べて十分に大

きくなく,表面が粗い平面での反射,すなわち散乱に

ついては考慮していない.K. Ng らは文献 [35] にて,

“Radiance Based Scattering Mode を用いて粗面で

の散乱を演算の考慮に入れると推定精度が向上する”

と報告している.また,ストリートマイクロセル環境

での検討ではあるが,Y. Kishiki らは文献 [36] にて,

“幾何光学近似と物理光学近似をハイブリッドに用い

て反射面のサイズを考慮した演算をすることにより推

1345

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電子情報通信学会論文誌 2009/9 Vol. J92–B No. 9

定精度が向上する”と報告している.これらの技術に

ついては,今後,3D-PRISM への適用に向けて検討

する考えである.

5. む す び

本論文ではレイトレーシング法により移動伝搬をシ

ミュレートし,システム設計・エリア設計に必要な各

種伝搬特性を実用的な時間内で推定可能とするシステ

ム;3D-PRISMについて述べた.3D-PRISMは,“構

造物のモデル化を実施するモデル生成部”,“レイのト

レース処理を実施する幾何演算部”,“幾何光学理論と

幾何光学的回折理論に基づいて電界を計算する電界演

算部”及び “受信電力,遅延スプレッド,角度スプレッ

ド等を計算する伝搬特性評価部”にて構成され,主な

特徴として,•モデル生成部:低コスト化を図るために市販の住

宅地図を使用.建物は水平面内 2次元形状と高さから

なる 2.5次元建物モデル.•幾何演算部:提案する SORT法により演算の効率

化を,提案する見通し建物探索法により演算の高速化

を,複数の計算機にて演算の分散化を実現.

が挙げられる.また,3D-PRISM のパフォーマンス

を評価し,•伝搬推定のための演算速度:1.3 km× 1.25 km の

エリア(計算ポイント数:16880)を推定するのに約

15分.•建物モデルが推定精度に与える影響:0.4~3 GHz

帯による実測との誤差評価により,2.5次元建物におい

て設定する階高は 3~4 mが最適,また設定する比誘

電率が 2~10 の範囲内であれば誤差の変化量は 1 dB

以下(ただし,0.8~3 GHz帯の場合).•各種伝搬特性の推定精度:2.2 GHz帯による実測

との比較より,推定される受信電力距離特性,遅延ス

プレッド距離特性,BS 側角度スプレッド道路角特性

は実測とよく一致.特に,受信電力の推定誤差は累積

50%値で 6 dB程度.

であることを明らかにした.これらのパフォーマンス

は移動通信のシステム設計・エリア設計に耐え得るレ

ベルにあると考える.更に本論文では,3D-PRISMの

推定誤差を,“建物モデルの不完全性に起因している

誤差”,“幾何演算の効率化に起因する誤差”,“電界演

算の精度不足に起因する誤差”に分類し,各々の誤差

を解消するための将来技術について,今後の課題とと

もに考察した.

3D-PRISM に見るように,レイトレーシング法に

よる移動伝搬のシミュレーションは実用のスタートラ

インに立ったばかりである.一方,移動通信において,

現在,システムに適用される要素技術は更に高度化し,

また,現場では周波数利用効率をあげるためにより詳

細なエリア設計が求められるようになってきている.

レイトレーシング法による移動伝搬シミュレーション

は,今後,実用面で広く展開されることになると考

える.

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(平成 21 年 1 月 13 日受付,3 月 4 日再受付)

今井 哲朗 (正員)

平 3東北大・工・電気卒.同年 NTT(株)入社.以来,陸上移動通信に関する電波伝搬,アンテナ及び回線設計法の研究開発に従事.平 4 NTT ドコモに転籍.平 14 年9 月東北大大学院工学研究科電気・通信工学専攻博士課程了.現在,(株)NTT ドコ

モ無線アクセス開発部担当課長.平 10 年度本会学術奨励賞受賞.平 18 年度本会論文賞受賞.IEEE 会員.

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