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日皮会誌:no (11), 1693―1697, 2000 (平12) 抗セントロメア抗体陽性のlimited cutaneous systemic sclerosis (lSSc)患者における呼吸機能異常について 小寺 雅也* 佐藤 伸一 欧米では全身性強皮症(systemic sclerosis;SSc) , 特にlimited cutaneous SSc (lSSc)患者において肺活量 の低下を伴わず,%DLcoが単独に低下する症例が存 在し,そのような症例では高頻度に肺高血圧症を合併 すると報告されている.しかしながら本邦では多数の 症例で検討した報告はなされていない.今回著者らは, 当科を受診した58例のSSc患者において%DLcoの 単独低下の頻度及び肺高血圧症や他の臨床症状との関 連について検討した.結果は, lSSc患者において欧米 での報告よりも2倍以上の頻度で%DLco単独低下が みられた.さらに,欧米例とは異なり重篤な肺高血圧 症に進展する症例は認められなかった.また, lSSc 患者においては%DLcoと腎糸球体血流量には有意な 相関が認められた.従って, lSSc患者では肺,腎など の内臓諸臓器に循環不全が存在する可能性が示唆され た.またlSSc患者の肺病変には人種差が存在すること が示された. 背景及び目的 以前より欧米では,全身性強皮症(systemic sclero- sis;SSc) ,特にlimited cutaneous SSc (1SScり忽者に おいて肺活量の低下を伴わず,肺拡散能の指標である %DLcoが単独低下する症例が多く存在し,そのよう な症例では比較的高頻度に肺高血圧症を合併すると報 告されている1)~5).Steenらは, 815例のSSc患者にお いて%DLco単独低下が152例(19%)に見られ,その 152例で17例(11%)に肺高血圧症が認められたと報 告している.また,肺高血圧症が認められた症例はす べてlSSc患者であったと報告している犬また, Ja- cobsenらは176例のSSc患者において%DLco単独 低下が82例(47%)に見られたと報告している2). 金沢大学医学部皮膚科 平成12年3月2日受付,平成12年5月11日掲載決定 別刷請求先:(〒92(ト8641)金沢市宝町13-1 金沢大 学医学部皮膚科 小寺 雅也 *現)社会保険中京病院皮膚科 竹原 和彦 SScにおいて強皮症腎の頻度は欧米では約20%で あるのに対し,本邦では5%以下であることが報告さ れている6)~10)このようにSScをはじめ膠原病におけ る臨床症状の発現頻度には人種差が存在することが知 られている.また,本邦においてSSc患者の呼吸機能 異常について多数の症例で検討した報告は少ない叫 今回著者らは,当科を受診したSSc患者58例におい て%DLcoの低下の頻度及び肺高血圧症や他の臨床症 状との相関について検討した. 金沢大学皮膚科膠原病外来を受診したSSc患者58 例を対象とした. SSc患者はLeRoy & Medsgerの分 類にてlSSc 40 例とdiffuse cutaneous SSc (dSSc) 18 例に分類された. dSSc患者は全例American College of Rheumatology (ACR)の診断基準に合致し, lSSc 患者は2例を除いた38例でACRの基準を満足した. ACRの基準を満たさなかった2例は強指症のみ認め る症例であった.従ってこの2例はLeRoy & Medsger らによるlSScの概念に一致すると考えられたため lSScに分類した.また,今回の検討では,より均一化 した集団で検討するためにlSScは全例抗セントロメ ア抗体陽性例を対象とし,またdSScは全例抗topoi- somerase l (topo l)抗体陽性例を対象とした.抗セン トロメア抗体陽性のlSSc患者40例では男性2例,女 性38例であり,年齢は34~77歳(平均57.3歳)であ る.抗topo l抗体陽性のdSSc患者18例では男性1 例,女性17例であり,年齢は10~73歳(平均畝6 歳)であった. 呼吸機能検査については,ローリングシール型ドラ イスパイロメータ3HzオッシレーションChest社 Chestac 55Uを使用した.%VCは,He閉鎖回路法に よりBaldwinの予測式 男性:VC(ml) =127.63-(0.112)×年齢tx身長(cm) 女性:VC(ml) ={21.78-(0.101)×年齢tx身長(cm) で算出し,%VC 80%未満を異常値とした.%DLco は単一呼吸法で施行し,その予測値は,
5

抗セントロメア抗体陽性のlimited cutaneous systemic sclerosis (lSSc…drmtl.org/data/110111693.pdf · 2011-03-23 · lSScに分類した.また,今回の検討では,より均一化

Aug 14, 2020

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日皮会誌:no (11), 1693―1697, 2000 (平12)

抗セントロメア抗体陽性のlimited cutaneous systemic sclerosis

     (lSSc)患者における呼吸機能異常について

小寺 雅也* 佐藤 伸一

          要  旨

 欧米では全身性強皮症(systemic sclerosis;SSc) ,

特にlimited cutaneous SSc (lSSc)患者において肺活量

の低下を伴わず,%DLcoが単独に低下する症例が存

在し,そのような症例では高頻度に肺高血圧症を合併

すると報告されている.しかしながら本邦では多数の

症例で検討した報告はなされていない.今回著者らは,

当科を受診した58例のSSc患者において%DLcoの

単独低下の頻度及び肺高血圧症や他の臨床症状との関

連について検討した.結果は, lSSc患者において欧米

での報告よりも2倍以上の頻度で%DLco単独低下が

みられた.さらに,欧米例とは異なり重篤な肺高血圧

症に進展する症例は認められなかった.また, lSSc

患者においては%DLcoと腎糸球体血流量には有意な

相関が認められた.従って, lSSc患者では肺,腎など

の内臓諸臓器に循環不全が存在する可能性が示唆され

た.またlSSc患者の肺病変には人種差が存在すること

が示された.

         背景及び目的

 以前より欧米では,全身性強皮症(systemic sclero-

sis;SSc) ,特にlimited cutaneous SSc (1SScり忽者に

おいて肺活量の低下を伴わず,肺拡散能の指標である

%DLcoが単独低下する症例が多く存在し,そのよう

な症例では比較的高頻度に肺高血圧症を合併すると報

告されている1)~5).Steenらは,815例のSSc患者にお

いて%DLco単独低下が152例(19%)に見られ,その

152例で17例(11%)に肺高血圧症が認められたと報

告している.また,肺高血圧症が認められた症例はす

べてlSSc患者であったと報告している犬また, Ja-

cobsenらは176例のSSc患者において%DLco単独

低下が82例(47%)に見られたと報告している2).

金沢大学医学部皮膚科

平成12年3月2日受付,平成12年5月11日掲載決定

別刷請求先:(〒92(ト8641)金沢市宝町13-1 金沢大

 学医学部皮膚科 小寺 雅也

*現)社会保険中京病院皮膚科

竹原 和彦

 SScにおいて強皮症腎の頻度は欧米では約20%で

あるのに対し,本邦では5%以下であることが報告さ

れている6)~10)このようにSScをはじめ膠原病におけ

る臨床症状の発現頻度には人種差が存在することが知

られている.また,本邦においてSSc患者の呼吸機能

異常について多数の症例で検討した報告は少ない叫

今回著者らは,当科を受診したSSc患者58例におい

て%DLcoの低下の頻度及び肺高血圧症や他の臨床症

状との相関について検討した.

          対  象

 金沢大学皮膚科膠原病外来を受診したSSc患者58

例を対象とした. SSc患者はLeRoy & Medsgerの分

類にてlSSc 40 例とdiffuse cutaneous SSc (dSSc) 18

例に分類された. dSSc患者は全例American College

of Rheumatology (ACR)の診断基準に合致し, lSSc

患者は2例を除いた38例でACRの基準を満足した.

ACRの基準を満たさなかった2例は強指症のみ認め

る症例であった.従ってこの2例はLeRoy & Medsger

らによるlSScの概念に一致すると考えられたため

lSScに分類した.また,今回の検討では,より均一化

した集団で検討するためにlSScは全例抗セントロメ

ア抗体陽性例を対象とし,またdSScは全例抗topoi-

somerase l (topo l)抗体陽性例を対象とした.抗セン

トロメア抗体陽性のlSSc患者40例では男性2例,女

性38例であり,年齢は34~77歳(平均57.3歳)であ

る.抗topo l抗体陽性のdSSc患者18例では男性1

例,女性17例であり,年齢は10~73歳(平均畝6

歳)であった.

          方  法

 呼吸機能検査については,ローリングシール型ドラ

イスパイロメータ3HzオッシレーションChest社

Chestac 55U を使用した.%VCは,He閉鎖回路法に

よりBaldwinの予測式

 男性:VC(ml) =127.63-(0.112)×年齢tx身長(cm)

 女性:VC(ml) ={21.78-(0.101)×年齢tx身長(cm)

で算出し,%VC 80%未満を異常値とした.%DLco

は単一呼吸法で施行し,その予測値は,

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1694 小寺 雅也ほか

Table 1 Findings of pulmonary function tests.pulmonary fibrosis and pulmonary hypertension in 58 patients with SSc

%DLCo reduction %VC reduction Pulmonary fibrosis Pulmonary hypertension

limittedcutaneous SScwith anti-centromere antibody

(n = 40)

23(57.5%) 0(0.0%) 1(2.5%) 2(5.0%)

diffusecutaneous SSc

with anti-topoisomerase I

antibody(n = 18)

17(94.4%) 11(61.1%) 13(72.2%) 3(16.6%)

 男性:DLco (ml/min/mmHg) = 32.59×身長(m)-

  0.20×年齢-17.61

 女性:DLco (ml/min/mmHg) =21.22×身長(m)-

  0.16×年齢-2.66

で算出し,%DLco72%未満を異常値とした.

 肺動脈圧の評価については,非侵襲的な検査法であ

るドプラー心エコー法により簡易Bernoulli式:肺動

脈収縮期圧=右室収縮期圧(mmHg)=4×ド尖弁逆

流血流速度(m/sec)2+右房圧}を用いて算出した.心

エコーは,東芝製超音波診断装置SSH 160 A を使用し

た.推定収縮期右室圧は35 mmHg以上を異常高値と

した.腎糸球体血流量については,腎レノグラムによ

り算出した.核種はTc99°-DTPAを300メガペクレル

使用し, Scanningは,東芝製GCA-901 A/W2 を使用

した.

 なお,統計処理はMann-Whitney検定, Fisherの直

接確立計算法, Spearmanの順位相関係数を用いた.

          結  果

 抗セントロメア抗体陽性のlSSc患者40例と抗

topol 抗体陽性のdSSc患者18例の%VC,%DLco,肺

線維症の有無,肺高血圧症の有無の結果をTable l に

示す.抗セントロメア抗体陽性のlSSc群では%DLco

単独低下が23例(57.5%)に認められた. %vcの低下

した症例は1例もなかった.肺線維症は1例(2.5%),

肺高血圧症は2例(5.0%)に認められた.肺高血圧の

認められた2例では肺線維症はなく,原発性肺高血圧

症と考えられた.この2症例の肺動脈圧は38, 41

mmHgであった.また,この2症例は2~4年経過を観

察しているが肺動脈圧の上昇や自覚症状の出現は認め

られなかった.一方,抗topo l抗体陽性のdSSc群で

は, %vc低下は11例(61.1%),%DLco低下は17

例(94.9%)に認められた.また,肺線維症は13例

(72.7%) ,肺高血圧症は3例(16.6%)に認められた.

この3例の中で2例は肺線維症を伴っており,肺線維

DLco : diffusingcapacity for carbon monoxidevc : vitalcapacity

Table 2 Demographic and clinicalcharacterisitics of

40 ISSc patients, according to %DLCoreduction

Isolated%DLco

  reduction  (n=23)

Norma1%DLco  (n = 17)

Female

Mean age (years)

Mean disease uration

(years)

Esophagial dysfunction

Muscle involvement

Arythlagia

Scleroderma renal crisis

%VC(%)

%DLco(%)*

Plasma renin activity

(ng/m1)

ESR(mm/l hour)

CRP(mg/d1)

IgG(mg/dl)

IgM(mg/dl)

  21:2

 粧O土17.3

 13.4士13.1

 11(48%)

  3(13%)

  6(26%)

   0

 110.4±15.5

 58.6士10.4

  2.2土2.6

 21.5土18.9

 0.21士0.20

1617.7士301.4

244.5土106.4

  17:0

 47.8士10.0

  7.4士6.6

  9(53%)

  1 (5%)

  5(29%)

   0

 115.9士12.3

 79.8士5.2

  2.7 ±3.8

 19.6土10.9

 0.24士0.26

1509.2士331.4

 190.6士72.6

ESR : erythroccyte sedimentation rate *:pく0.0001

症に伴う二次性肺高血圧症と考えられ,残る1例は原

発性肺高血圧症と考えられた.

 上述のごとく,抗セントロメア抗体陽性のlSSc患者

群では半数以上に%DLcoの単独低下が認められた.

この%DLco低下群の臨床的特徴を明らかにする目的

でlSSc患者を%DLco正常群と低下群に分類し,各種

臨床症状及び検査所見について検討した(Table 2).男

女比は両群とも圧倒的に女性が多かった,罹病期間は

%DLco単独低下群で長い傾向はあったものの,年齢

とともに有意差は認められなかった.食道機能検査,

筋炎,強皮症腎,関節痛の有無は,両群で一定の傾向

は認められなかった.肺動脈圧については両群間に有

意差は認められなかった.血漿レニン活性,血沈,

CRP, igG, IgMなど各種血液検査成績については,

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(mmHg)  0  6  2  8  4  0

  4  3  3  2  2  2

9jnss3jd jlia^jB AiBuouimd

normal %DLco

   n=6

lSSc患者の呼吸機能異常

        (ml/min)

120

100

0  0

8  6

 MO

40

20

decreased%DLco

   n=9

L

p=026

Fig. 1a Pulmonary artery pressure in lSSc patients

 with normal % DLco and those with decreased %

 DLco

(mmHg)

  0  6  2  8  4  0

  4  3  3  2  2  2

9jnss9jci jUapB iumioiinnd

    50  55  60  65  70  75  80   85

               %DLco

Fig. 1 b Correlation coefficient between pulmonary

 artery pressure and %DLcoin patients with lSSc

両群間で有意差を認めなかった.

 lSSc患者における肺動脈圧と%DLcoとの相関を

Fig.lに示す. %DLco単独低下群では,正常群と比較

して肺動脈圧が高値となる傾向があるものの有意差は

認められなかった(Fig. la八また,肺動脈圧と%DLco

との間にも相関は認められなかった(Fig.lb).

 lSSc患者における腎レノグラムによる腎糸球体血

流量と%DLcoとの相関をFig. 2に示す.%DLco単独

低下群では,正常群と比較して腎糸球体血流量が有意

に低下していた(Fig. 2a).また,腎糸球体血流量と%

y・

normal %DLco

   n=12

し 

p<O・05

●●や●ふ●

IIi――

---一一-’一-

1695

decreased %DLco

 」

Fig. 2a Glomerular filtrationrate (GFR) in lSSc pa-

 tients with normal % DLco and those with de-

 creased % DLco

(ml/min)

120

100

0  0

8  6

が固)

0   0

4   2

    3()  40   50   60   70   80   90

               %DLco

Fig. 2 b Correlation coefficient between GFR and %

 DLco in patients with lSSc

DLcoには有意な正の相関関係が認められた(Fig. 2

b).

          考  察

 Steenらの報告1)では815例のSSc患者において

152例(19%)の%DLco単独低下が認められたのに対

して,今回著者らの検討では58例のSSc患者で28

例(48%)の%DLco単独低下が認められた.また,抗

セントロメア抗体陽性のISSc患者40例では23例(58

%)に%DLco単独低下が認められ,いずれにおいても

Steenらの報告と比較して2倍以上の高頻度であっ

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1696 小寺 雅也ほか

た.さらに, Steenらの報告では,%DLco単独低下症

例の11%では予後を左右する重篤な肺高血圧症に進

展しているのに対して,著者らの検討では肺高血圧を

有する%DLco単独低下症例では2~4年間の経過観

察後も肺動脈圧の上昇や自覚症状の出現など重篤な肺

高血圧症への進展をみていない.%DLcoの低下と肺

高血圧は,両者ともpulmonary vasospasm を共通の基

盤にしていると推定されているため,欧米では%DLco

が低下しているSSc患者では肺高血圧症の合併頻度

が高いと考えられている4).しかしながら我々の検討

では,抗セントロメア抗体陽性のlSSc患者では高頻度

に%DLco低下がみられたものの肺高血圧症の合併頻

度は低かった.この理由については不明といわざるを

得ないが,これらの結果は%DLcoの単独低下症例の

頻度や重篤な肺高血圧症の合併頻度には本邦と欧米の

間で人種差が存在することを示唆している.

 SSc患者における人種差に関しては, Kuwanaらが

詳細な検討をしている12)13)抗Ul RNP 抗体の出現頻

度は欧米と比較し本邦で高く,一方抗RNA polym-

erase (RNAP)抗体の出現頻度は本邦に比べ欧米で高

い.しかしながら,1SSc患者における抗セントロメア

抗体陽性率が欧米で44%,本邦で37%であり,両者に

差は認められていない. SSc患者におけるdSSc患者

の比率は本邦では26%,欧米では51%と明らかな差

があり,本邦では抗topo l 抗体,欧米では抗RNAP

抗体の陽性例が多い.さらに強皮症腎クリーゼの発症

頻度の人種差に関しては,欧米の代表的報告ではCan-

non14)で7.1%, Pittsburgh大学11)で10.1%であるのに

対して北里大学における検討では5%以下と報告して

いる9).このようにSScでは,抗核抗体,皮膚硬化の範

囲,内臓病変の合併頻度に人種差が存在することが知

                         文

  1) Steen VD, Graham G, Conte C, Owens G, Medsger

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   systemic sclerosis, ArthritisRheum, 35 "・765-770,

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   puted tomography, Art旨itis Rheum,40 : 1229-

   1236,1997.

  4) Silver RM : CLINICAL PROBLEMS the lung,

られている.今回の我々の解析では肺病変についても

人種差のあることが示唆され,肺病変に関して欧米の

文献を参照する際には注意が必要と考えられた.

 lSSc患者において%DLco単独低下群では腎レノグ

ラムによる腎糸球体血流量が正常群と比較して有意に

低下していた.また,腎糸球体血流量と%DLcoには相

関関係が認められた.しかし%DLco単独低下症例に

おいて,腎糸球体血流量が高度に低下している症例で

血清クレアチニンの上昇や血圧上昇など強皮症腎を示

唆する症例は一例も認められなかった. SScの腎病変

の最初の変化は,腎の葉間動脈や弓状動脈における血

管内皮細胞の障害である.その結果,血管内皮細胞の

増殖・肥厚が生じ,これが高度になると強皮症腎ク

リーゼに進展すると考えられている15)このような腎

の病理学的な変化は強皮症腎クリーゼの患者のみなら

ず,程度は低いものの強皮症腎を有さないlSSc患者で

も認められることが報告されている7)16)1≒このよう

な構造的な変化に加えて腎のレイノー現象と呼ばれる

vasospasmが腎の血管に生じ,さらに血管内皮細胞の

障害を増強させていることが明らかにされている18)

同様に,レイノー現象を有するSSc患者では,夏に比

べて冬では%DLcoがより低下することが知られてい

る19)それ故に肺血管にも肺のレイノー現象と呼ばれ

るvasospasmが生じ,これが血管内皮細胞の障害を増

強させ,%DLcoの低下,さらには肺高血圧症への進展

に関与している可能性が示唆されている4).以上より,

今回の検討で認められた%DLcoの低下と腎糸球体血

流量低下との相関の原因として抗セントロメア抗体陽

性lSSc患者では,手指のレイノー現象にみられるよう

な循環不全が腎や肺をはじめとする内臓諸臓器にも存

在する可能性が考えられた.

   Rheum DisClin NorthAm,22 : 825-840,1996.

  5) Black CM, Du Bois RM : Organ Involment ; Pul-

   monary, Clements PJ, Furst DE (eds):Sy吏面c

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lSSc患者の呼吸機能異常

  Development of renal involvement in progressive

  systemic sclerosis. AmハAed,76 : 779-786, 1984・

 9)近藤啓文,遠藤平仁:強皮症腎クリーゼ,診断と治

  療,85:212-216,1997.

10)菊池かな子,五十嵐敦之,石橋康正,猪熊茂子,竹

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  吸機能検査一一胸部X線所見との相関についてー,

  日皮会誌, 100 : 695-700, 1990.

11) Steen VD : Organ Involment ; Renal, Clements

  PJ, Furst DE (eds):S!iiste↑nicsclerosis,1 st Ed,

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  dsger TA Jr : Racial differences in the distribu-

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13) Kuwana M, Kaburaki J, Arnett FC, Howard RF,

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18) Cannon PI, Hassar M, Case DB, et a1 : The rela-

   tionship of hypertension and renal failure in

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   nal cortical circulation, A4�加加e,53 : 1-46, 1974.

19) Emmanuel G, Saroja D,Gopinathan K, et al ■.En-

   viromental factors and the diffusing capacity of

   the lung in progressive systemic sclerosis, Chest,

   69 : 304-307,1976.

Pulmonary Dysfunction in Limited Cutaneous Systemic

  SclerosisPatientswith Anticentromere Antibody

             Masanari Kodera, Shinichi Sato and Kazuhiko Takehara

           Department of Dermatology, Kanazawa University School of Medicine

            (Received March 2, 2000 ;accepted for publication May 1 1, 2000)

  Patients with limited cutaneous systemic sclerosis (lSSc) with decreased %DLco and normal %VC have

been observed in the Caucasian population and have been reported to frequently develop primary pulmonary

hypertension. However, the prevalence of such cases among systemic sclerosis patients has not been deter-

mined in Japan. In the present study, the prevalence of isolated decreases in %DLco and their correlation

with pulmonary hypertension and other clinical symptoms were examined in 58 systemic sclerosis patients

who visited our department. The frequency of isolated decreases in %DLco was twice as high in Japanese pa-

tients with lSSc than in Caucasian patients. Unlike the Caucasian population, however, our patients did not de-

velop severe pulmonary hypertension. In addition, we observed a significant correlation between%DLcoand

glomerular blood flow in Japanese patients with lSSc. These results suggest that vascular damage in internal

organs, such as the lung and kidney, exists in Japanese patients with lSSc and that there are racial differences

in pulmonary involvement of lSSc.

  (JpnJDermatol 110 : 1693~1697, 2000)

Key words : isolated diffusing capacity reduction, limited cutaneous systemic sclerosis, pulmonary

       hypertension, glomerular filtration rate